松平まつだいら精きよし

松平まつだいら 精きよし（まつだいら ただし、1910年ねん1月がつ15日にち - 2000年ねん8月がつ4日にち）は、鉄道てつどう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ（現げん：鉄道てつどう総合そうごう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ）の技術ぎじゅつ者しゃ。

人物じんぶつ

1910年ねん、東京とうきょう市し浅草あさくさ区くに旧きゅう杵築きつき藩はん主あるじ能見のうみ松平まつへい家かの子爵ししゃく・松平まつだいら親ちかし信しんの三男さんなんとして生うまれる。

学習がくしゅう院いん高等こうとう科かを経へて、東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく（現げん：東京大学とうきょうだいがく）工学部こうがくぶ船舶せんぱく工学科こうがっかに進学しんがく。造船ぞうせん所しょの実習じっしゅうでは肉体にくたい労働ろうどうが多おおく、知識ちしきを使つかうところが少すくなく感かんじたが、三菱みつびし航空機こうくうきの工場こうじょうを見学けんがくすると学問がくもん的てきであるため、航空機こうくうきの道みちを選択せんたくする。

1934年ねんに大学だいがく卒業そつぎょう後ご、同年どうねん設立せつりつされた海軍かいぐん航空こうくう技術ぎじゅつ廠しょうへ「有識ゆうしき工員こういん」として入はいる。飛行機ひこうき部ぶ研究けんきゅう科かに配属はいぞくされたが、1年間ねんかんの現場げんば実習じっしゅうの後のち、陸軍りくぐん飛行ひこう連隊れんたいで1年間ねんかんの兵役へいえきに就ついた。

本格ほんかく的てきな研究けんきゅう生活せいかつが始はじまったのは1936年ねんのことで、当時とうじ海軍かいぐんでは1人ひとりも専門せんもん家かがいなかった飛行機ひこうきの振動しんどう問題もんだいを手掛てがけるよう命めいじられた。機械きかい振動しんどう学がくを一いちから勉強べんきょうして第一人者だいいちにんしゃとなり、九きゅう六ろく式しき艦上かんじょう攻撃こうげき機きを皮切かわきりに、飛行機ひこうきの高速こうそく化かとともに発生はっせいするフラッター（風速ふうそくにより旗はためく現象げんしょう）への対策たいさくに追おわれる日々ひびを第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん終結しゅうけつまで送おくる。松平まつだいららの研究けんきゅうの蓄積ちくせきの結果けっか、終戦しゅうせん時じの日本にっぽんの理論りろん計算けいさんはコンピューターなしでフラッターの限界げんかい速度そくどを高度こうどに推定すいていすることができる水準すいじゅんにまで達たっしていた。

戦後せんごは鉄道てつどう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょにおいて、その当時とうじ多おおかった車両しゃりょうの脱線だっせん事故じこは台車だいしゃの蛇へび行動こうどうであるという持論じろんを展開てんかいした。飛行機ひこうきと同様どうように鉄道てつどうも高速こうそく状態じょうたいになると自みずから振動しんどうする性質せいしつがあると考かんがえ、模型もけい実験じっけんで実証じっしょうして蛇へび行動こうどうを広ひろく知しらしめた。また、昭和しょうわ20年代ねんだいに自動車じどうしゃ業界ぎょうかいに技術ぎじゅつ提供ていきょうし、国産こくさん初はつのダンパーを完成かんせい。

一時期いちじき、公職こうしょく追放ついほうの危機ききにあった。新幹線しんかんせんの開発かいはつプロジェクトにおいて、「高速こうそく車両しゃりょうの運動うんどう班はん」の班長はんちょうを担当たんとうし、新幹線しんかんせん用よう台車だいしゃの設計せっけい・実用じつよう化かに貢献こうけん。新幹線しんかんせんの空気くうきばねの主要しゅよう開発かいはつを行おこなったことで有名ゆうめいである。新幹線しんかんせん0系けい電車でんしゃの先端せんたんのデザインを設計せっけいした三木みき忠直ただなお、自動じどう列車れっしゃ制御せいぎょ装置そうち （ATC） を作つくった河邊かわべ一はじめとは鉄道てつどう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょで知しり合あった。

家族かぞく

• 父ちち・松平まつだいら親ちかし信しん ‐ 子爵ししゃく
• 妻つま・方子のりこ ‐ 渋谷しぶや隆たかし教きょうの娘むすめ
• 長男ちょうなん・松平まつだいら健けん（たけし） ‐ ソニー技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ所員しょいん。岳父がくふは内村うちむら祐之ひろゆき（内村うちむら鑑三かんぞう長男ちょうなん）

略歴りゃくれき

• 1910年ねん - 東京とうきょう・浅草あさくさで生誕せいたん
• 1934年ねん - 東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく工学部こうがくぶ船舶せんぱく工学科こうがっか卒そつ
• 1934年ねん - 海軍かいぐん航空こうくう技術ぎじゅつ廠しょう飛行機ひこうき部ぶに入部にゅうぶ
• 1935年ねん - 陸軍りくぐんに徴兵ちょうへいされ、幹部かんぶ候補こうほ生せいとして東京とうきょう・立川たちかわの飛行ひこう連隊れんたいに入営にゅうえい（在ざい営10ヵ月かげつ、再さい入営にゅうえい2ヵ月かげつ）
• 1936年ねん - 海軍かいぐん航空こうくう技術ぎじゅつ廠しょう飛行機ひこうき部ぶに復帰ふっき
• 1945年ねん - 国鉄こくてつ鉄道てつどう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ
• 1953年ねん - 「2軸じく鉄道てつどう車輛しゃりょうのだ行動こうどうとその防止ぼうし法ほうについて」の論文ろんぶんを書かき、東京とうきょう大学だいがくで工学こうがく博士はかせ号ごうを取得しゅとく。
• 1969年ねん - 石川島播磨重工業いしかわじまはりまじゅうこうぎょう株式会社かぶしきがいしゃ常務じょうむ　同社どうしゃ技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ長ちょう、宇宙うちゅう開発かいはつ事業じぎょう部長ぶちょう、技術ぎじゅつ本部ほんぶ長ちょう、常務じょうむ取締役とりしまりやくを歴任れきにん
• 1978年ねん - 同社どうしゃ顧問こもん
• 1989年ねん - 日本にっぽん機械きかい学会がっかい名誉めいよ員いん
• 1990年ねん - テクノ・コンサルタンツ取締役とりしまりやく会長かいちょう

零れい戦せんとの関かかわり

→「零れい式しき艦上かんじょう戦闘せんとう機き § 構造こうぞう」も参照さんしょう

海軍かいぐん航空こうくう技術ぎじゅつ廠しょうに在籍ざいせき中ちゅうの松平まつだいらが携たずさわった著名ちょめいな例れいとしては、当時とうじ最さい新鋭しんえいであった零れい式しき艦上かんじょう戦闘せんとう機き（零れい戦せん）の事故じこ調査ちょうさがあげられる。

1940年ねん3月がつ11日にち、零れい戦せんの試作しさく機きである十じゅう二に試ためし艦上かんじょう戦闘せんとう機き二に号機ごうきが横須賀よこすか上空じょうくうでテスト飛行ひこう中ちゅうに突如とつじょ分解ぶんかい。事故じこ機きに搭乗とうじょうしていた航空こうくう技術ぎじゅつ廠しょう所属しょぞくのテストパイロット奥山おくやま益美ますみは、パラシュート装着そうちゃくの不備ふびにより墜落ついらく死しした。松平まつだいらは山名やまな正夫まさおとともに原因げんいん調査ちょうさのリーダーシップを取とり、マスバランスが先さきに疲労ひろう破壊はかいし、その状態じょうたいで急降下きゅうこうか試験しけんをしたためにフラッターが発生はっせいしたと結論けつろん付づけ、マスバランス腕うでの補強ほきょうを施ほどこした。

1941年ねん4月がつ17日にち、零れい戦せんが試験しけん飛行ひこう中ちゅうに再ふたたび空中くうちゅう分解ぶんかいを起おこした。この事故じこで零れい戦せんの育そだての親おやと称しょうされる横須賀よこすか航空こうくう隊たい分隊ぶんたい長ちょうの下川しもかわ万よろず兵衛ひょうえ大尉たいいが殉職じゅんしょくし、関係かんけい者しゃに大おおきな衝撃しょうげきを与あたえた。前日ぜんじつの16日にちにも、航空こうくう母艦ぼかん『加賀かが』所属しょぞくの零れい戦せんが木更津きさらづ上空じょうくうを訓練くんれん飛行ひこう中ちゅう、訓練くんれん急降下きゅうこうかからの引ひき起おこしをかけた際さいに激はげしい振動しんどうを生しょうじ、二階堂にかいどう易えき中尉ちゅういの操縦そうじゅうにより辛かろうじて着陸ちゃくりくした機体きたいは左右さゆう補助ほじょ翼つばさを喪失そうしつしていた。下川しもかわ大尉たいいの試験しけん飛行ひこうは、原因げんいん解明かいめいのためこの現象げんしょうの再現さいげんを企図きとしたものであった。当初とうしょの松平まつだいらの考かんがえでは、上述じょうじゅつのマスバランスなどの対策たいさくが施ほどこされた零れい戦せんでは時速じそく500ノット（約やく925キロ）以下いかであれば主翼しゅよくのフラッターは起おこらないというものであったが、自みずからが指揮しきした主翼しゅよく模型もけいで風洞ふうどう実験じっけんの結果けっか、事故じこが起おきた速度そくど域いきで主翼しゅよくのねじれ振動しんどうを生しょうじることを2ヶ月かげつで突つき止とめた。

主おもな著書ちょしょ、主要しゅよう論文ろんぶん

• 『基礎きそ振動しんどう学がく』共立きょうりつ出版しゅっぱん、1950年ねん、ASIN B000JBG50O
• 『飛行機ひこうきの振動しんどう』ニッセイエブロ、1991年ねん6月がつ、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:000002135228
• 「日本にっぽん海軍かいぐんにおける飛行機ひこうき振動しんどう研究けんきゅうの回顧かいこ-1-フラッタ関係かんけい」『日本にっぽん機械きかい学会がっかい誌し』82(733)　日本にっぽん機械きかい学会がっかい
• 「日本にっぽん海軍かいぐんにおける飛行機ひこうき振動しんどう研究けんきゅうの回顧かいこ-2-動力どうりょく装置そうちによる振動しんどう」『日本にっぽん機械きかい学会がっかい誌し』83(736)　日本にっぽん機械きかい学会がっかい

参考さんこう文献ぶんけん

• 小野田おのだ, 滋しげる「鐡道人物じんぶつ伝でん No.8 蛇へび行動こうどう現象げんしょうに取とり組くんだ技術ぎじゅつ者しゃ 松平まつだいら精きよし」『RRR』第だい74巻かん第だい11号ごう、鉄道てつどう総合そうごう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ、2017年ねん11月、34-35頁ぺーじ。 
• 松平まつだいら精きよし「零れい戦せんから新幹線しんかんせんまで(機械きかい振動しんどう小しょう特集とくしゅう号ごう)」『日本にっぽん機械きかい学会がっかい誌し』第だい77巻かん、第だい667号ごう、624–627頁ぺーじ、1974年ねん。doi:10.1299/jsmemag.77.667_624。https://doi.org/10.1299/jsmemag.77.667_624。 

関連かんれん項目こうもく

• プロジェクトX〜挑戦ちょうせん者しゃたち〜
• 未来みらい創造そうぞう堂どう