無む教会きょうかい主義しゅぎ

無む教会きょうかい主義しゅぎ（むきょうかいしゅぎ）とは、内村うちむら鑑三かんぞうによって提唱ていしょうされた日本にっぽんに独特どくとくのキリスト教きりすときょう信仰しんこうのあり方かたで、プロテスタントの精神せいしんを継承けいしょうしているとしている。英語えいごでは、Non-church Movementと表記ひょうきする。無む教会きょうかい運動うんどう、無む教会きょうかいキリスト教きりすときょう、無む教会きょうかい主義しゅぎキリスト教きりすときょうとも呼よばれる（信徒しんとのあいだでは「無む教会きょうかい」と呼称こしょうされることが多おおい）。聖せい礼典れいてんであるプロテスタントの洗礼せんれい・聖餐せいさんなどのサクラメントと教会きょうかい制度せいどの必要ひつよう性せいを認みとめないことから、通常つうじょうはカトリックはもちろんプロテスタントでさえないキリスト教きりすときょうとされる。

概要がいよう

内村うちむら鑑三かんぞうは、自身じしんの処女しょじょ作さく『基督きりすと信徒しんとのなぐさめ』において、初はじめて「無む教会きょうかい」という言葉ことばを用もちいた（なお、当該とうがいの記述きじゅつは、「余よは無む教会きょうかいとなりたり、人ひとの手てにて造つくられし教会きょうかい今いまは余よは有ゆうするなし、余よを慰なぐさむる讃さん美びの声こえなし、余よのために祝福しゅくふくを祈いのる牧師ぼくしなし」につづき、大だい自然しぜんの「無限むげん」と「交通こうつう」し、また、「失うせにし聖者せいじゃ」と「霊れい交」を「結むすぶ」ことによって、いわば天然てんねんそのものを教会きょうかいとする、というニュアンスを伴ともなっていた）。その後ご、彼かれは「無む教会きょうかい」という名称めいしょうの雑誌ざっしを創刊そうかんし、教会きょうかいに行いけない、所属しょぞくする教会きょうかいのない者もの同士どうしの交流こうりゅうの場ばを設もうけようとした。

無む教会きょうかい主義しゅぎの信者しんじゃは「イエス・キリストは無む教会きょうかいであった」「パウロは無む教会きょうかいであった」との理解りかいを共有きょうゆうすることが多おおい。また、無む教会きょうかい主義しゅぎは「教会きょうかい」よりも「キリストの十字架じゅうじか」を重おもんじると言いわれる。実際じっさい、内村うちむら鑑三かんぞうはキリスト教きりすときょうは十字架じゅうじか教きょうであると言いっている。無む教会きょうかい主義しゅぎは、教会きょうかい主義しゅぎ・教会きょうかい精神せいしんからの脱却だっきゃくを目指めざす主義しゅぎであって、キリスト教きょうの福音ふくいん信仰しんこうそのものを否定ひていする主義しゅぎではない。しかし、「（キリスト教きょうの）信仰しんこうは個人こじんの行為こういであると同時どうじに教会きょうかいの行為こうい」であり、「洗礼せんれいによってキリストと合体がったいされ、神かみの民みんの成員せいいんとして立たつ者もの」がキリスト教きりすときょうの信者しんじゃであるとされ、しかも「（キリストの体からだである）教会きょうかいの外そとに救すくいはない」との主張しゅちょうにも反はんすることから、通常つうじょうはカトリックでもプロテスタントでもないキリスト教きょうと見み做されている。

キリスト教きりすときょうの歴史れきしを通とおして教会きょうかいにいろいろ付随ふずいしてきた権威けんい・権力けんりょくを克服こくふくする、という理念りねんに立たった運動うんどうであり、理論りろん的てきには、マルティン・ルターの宗教しゅうきょう改革かいかくの二に大だい原理げんり（聖書せいしょのみ・万まん人にん祭司さいし）を極端きょくたんに現実げんじつ化かしたものである。また、按手礼れいを受うけた聖職せいしょく者しゃ（牧師ぼくし・正せい教師きょうし）を持もたないため、無む教会きょうかいの集会しゅうかいまたは礼拝れいはいは、儀礼ぎれい（サクラメント）や説教せっきょうを中心ちゅうしんとしたキリスト教きりすときょうの伝統でんとう的てき礼典れいてんから離はなれ、その結果けっかとして、聖書せいしょの研究けんきゅう・講義こうぎが中心ちゅうしんとなった。

また、内村うちむらの直接ちょくせつの弟子でしたちのなかには大学だいがくに在学ざいがく中ちゅうの学生がくせいが多おおかったこともあり、その門下もんかから多おおくの学者がくしゃ・著名ちょめい人じんがあらわれ、聖書せいしょ学がく・キリスト教きりすときょう思想しそう史し関係かんけいの学者がくしゃも多おおく輩出はいしゅつした。無む教会きょうかいは牧師ぼくし養成ようせい学校がっこうを持もたないこともあって、これら無む教会きょうかい系けいの学者がくしゃは、国公立こっこうりつもしくは他たのキリスト教きりすときょう系けい私立しりつ大学だいがくなど、宗教しゅうきょう・宗派しゅうはの枠わくを超こえたところで教鞭きょうべんをとる傾向けいこうが強つよく、比較的ひかくてき早はやい時期じきから批判ひはん的てきに高たかいレベルの研究けんきゅうが行おこなわれるようになった。そのためもあって、無む教会きょうかいでは知識ちしきに重おもきを置おく一方いっぽうで、霊的れいてきな側面そくめんを軽かるく見みる傾向けいこうがある、と見みられることがよくある。実際じっさいの無む教会きょうかいには、上記じょうきのような学者がくしゃ人脈じんみゃく（戦後せんごの東大とうだい総長そうちょうを務つとめた南原なんばら繁しげる、矢内やない原はら忠雄ただおなど）と並ならんで、在野ざいやでの伝道でんどうを行おこなっていった人々ひとびと（斎藤さいとう宗次郎そうじろう、政せい池いけ仁ひとしなど）がおり、いわば二ふたつの系統けいとうがあるのだが、新保しんぼ祐司ゆうじの指摘してきにもみられるように、「戦後せんご、内村うちむらの弟子でしが東大とうだい総長そうちょうになった、というような、非常ひじょうに安易あんいな内村うちむら鑑三かんぞうの再さい評価ひょうか」が行おこなわれた結果けっか、「エキセントリックにしか見みえない宗教しゅうきょう性せいは排除はいじょされてしまい、内村うちむら鑑三かんぞうの全集ぜんしゅうも、知識ちしき化かされた宗教しゅうきょうとして出だされるようになってしまった」という事情じじょうがある。

なお、内村うちむら鑑三かんぞうは、『万まん朝あさ報ほう』の英文えいぶん欄らん主筆しゅひつとなった1897（明治めいじ30）年ねん以降いこう、社会しゃかい問題もんだいに対たいする発言はつげんも積極せっきょく的てきに行いっていた。足尾あしお鉱毒こうどく問題もんだいについては田中たなか正造しょうぞうらと協力きょうりょくし、実質じっしつ的てきに鉱毒こうどく反対はんたい運動うんどうの第だい一線いっせんに立たっていたといえる。また、1901（明治めいじ34）年ねん7月がつには、朝ちょう報ほう社しゃの黒岩涙香くろいわるいこう、幸徳こうとく秋水しゅうすい、堺さかい枯川こせんらと社会しゃかい改良かいりょう団体だんたい理想りそう団だんを結成けっせいしている。当初とうしょ、日にち清しん戦争せんそうについては「義戦ぎせん」を主張しゅちょうしていた内村うちむらではあったが、その後ご、日本にっぽんの戦後せんご処理しょりの実情じつじょうに失望しつぼうするなかで「猛省もうせい」し、とくに日にち露ろ戦争せんそう以降いこう、彼かれの姿勢しせいは「非戦論ひせんろん」という言葉ことばによって知しられるがごとく、「戦争せんそう絶対ぜったい的てき廃止はいし論ろん者しゃ」としての姿勢しせいを打うち出だしていった。このような傾向けいこうを継承けいしょうするという一いち面めんにおいて、現在げんざい、一部いちぶの無む教会きょうかい系けいの団体だんたい及および関係かんけい者しゃにおいては、若者わかものに特定とくていの政治せいじ思想しそうにもとづく教育きょういくを行おこなう、あるいは、政治せいじ活動かつどうそのものに熱心ねっしんな傾向けいこうがあるとも指摘してきされており、無む教会きょうかい主義しゅぎの現状げんじょうについて、賛否さんぴ両論りょうろんがあることも事実じじつである。

無む教会きょうかい主義しゅぎの思想家しそうかによる書籍しょせきを中心ちゅうしんに刊行かんこうする出版しゅっぱん社しゃとしてキリスト教きりすときょう図書としょ出版しゅっぱん社しゃ（飯能はんのう市し）がある。

無む教会きょうかい主義しゅぎの集会しゅうかい

無む教会きょうかい主義しゅぎは、キリスト教徒きりすときょうとの集会しゅうかいを否定ひていするものではない。実際じっさいに、無む教会きょうかい主義しゅぎのキリスト教徒きりすときょうとは通常つうじょう、各地かくちで集会しゅうかいを形成けいせいし、毎週まいしゅうもしくは定期ていき的てきに聖書せいしょ研究けんきゅう会かいまたは礼拝れいはいを執とり行おこなう。集会しゅうかいは、基本きほん的てきに牧師ぼくし制度せいどは取とらず、教会堂きょうかいどうは持もたないが、独立どくりつ伝道でんどう者しゃと呼よばれる常任じょうにんの指導しどう者しゃ（先生せんせい）がいる場合ばあいもある。集会しゅうかいの場所ばしょは、ビルや公民館こうみんかんなどの会議かいぎ室しつを借かりたり、または私宅したくなどで礼拝れいはいを保たもつことが多おおいが、専用せんようの集会しゅうかい所しょを持もっている集会しゅうかいも存在そんざいする。なお、内村うちむらが生前せいぜん聖書せいしょ講義こうぎの拠点きょてんとしていた東京とうきょうの今井いまい館かん聖書せいしょ講堂こうどうが現在げんざいNPO法人ほうじんとして存続そんぞくし、講堂こうどうと資料しりょう館かんを運営うんえいしており、さまざまな集会しゅうかいの開催かいさい、および、無む教会きょうかい関係かんけいの資料しりょう・書籍しょせきの蒐集しゅうしゅうと一般いっぱん者しゃへの閲覧えつらんを行おこなっている。

礼拝れいはいの中心ちゅうしんを占しめるものは聖書せいしょ講義こうぎ、聖書せいしょ講話こうわと呼よばれており、前後ぜんごに讃さん美歌みかを歌うたい、祈いのりや黙祷もくとうをするなど、プロテスタントの礼拝れいはい形式けいしきを簡素かんそ化かした形かたちをとっていることが多おおい。洗礼せんれい（浸礼しんれい、バプテスマ）、聖餐せいさん式しき等とうの儀式ぎしきは通常つうじょう行おこなわない。ただし、かならずしも洗礼せんれい反対はんたい、聖餐せいさん反対はんたいという意味いみではない（内村うちむら鑑三かんぞうも自分じぶんの子供こどもに洗礼せんれいを自身じしんで施ほどこしている）。その意味いみでは、無む教会きょうかい主義しゅぎは「反はん教会きょうかい主義しゅぎ」ではない。

礼拝れいはい後ご、その日ひの聖書せいしょ講義こうぎの内容ないようについて話はなし合あったり、感想かんそうなどを語かたり合あう時間じかんを設もうけるところもある。お茶ちゃやお菓子かしなどを食たべながら歓談かんだんする場合ばあいもある。

無む教会きょうかいの集会しゅうかいは、聖書せいしょ集会しゅうかい・聖書せいしょ研究けんきゅう会かいとの名称めいしょうを持もつことが多おおい。その集会しゅうかいはそれぞれ独自どくじの運営うんえい方法ほうほうを採とっており、その集会しゅうかいを発足ほっそくした者ものが講義こうぎを担当たんとうする場合ばあいもあれば、平ひら信徒しんと同士どうしが交代こうたいで講義こうぎをする集会しゅうかいなど、さまざまである。無む教会きょうかいの集会しゅうかいは、組織そしき化か、形骸けいがい化かを避さける傾向けいこうがあるため、宗教しゅうきょう法人ほうじんではない集会しゅうかいが大だい多数たすうを占しめているが、一部いちぶに法人ほうじん化かしている集会しゅうかいも存在そんざいする。また、同様どうようの理由りゆうから、全国ぜんこくの集会しゅうかいを統率とうそつするような本部ほんぶを持もたず、全国ぜんこくに散ちらばる集会しゅうかいの数かずや教きょう勢ぜいを統計とうけいにまとめることもない。これには、個々人ここじんが制度せいど的てきな縛しばりから自由じゆうになれるという良よい点てんがある。しかし同時どうじに、外部がいぶからの接触せっしょくが困難こんなんであるという欠点けってんもある。後者こうしゃについては、現代げんだいの無む教会きょうかい主義しゅぎ集会しゅうかいの問題もんだいとなっているようである。

主おもな集会しゅうかいは『キリスト教きょう年鑑ねんかん』に掲載けいさいされているが、あくまでも便宜べんぎ的てきなもので網羅もうら的てきではない。最近さいきんでは各かく集会しゅうかい同士どうしの地域ちいき的てきな交まじわりを持もつため、普段ふだんの礼拝れいはいの他ほかに東北とうほく集会しゅうかい・四国しこく集会しゅうかいのような地域ちいき単位たんいの集会しゅうかいも定期ていき的てきに保たもたれている。また、講演こうえん会かいが定期ていき的てきに全国ぜんこく各地かくちで開催かいさいされている。年としに1回かい、「無む教会きょうかい全国ぜんこく集会しゅうかい」が各かく地域ちいき持もち回まわりで開催かいさいされており、近年きんねんは200名めい前後ぜんこうの参加さんか者しゃがあるようである。

日本にっぽん国外こくがいの無む教会きょうかい主義しゅぎ

内村うちむら鑑三かんぞうの集会しゅうかいに参加さんかしていた者ものの中なかに当時とうじ学生がくせいだった金きむ教きょう臣しんなどの朝鮮ちょうせん出身しゅっしんの者ものもいた。彼かれらは帰郷ききょう後ご、無む教会きょうかいの集会しゅうかいを立たち上あげ、また『聖書せいしょ朝鮮ちょうせん』という伝道でんどう雑誌ざっしを発刊はっかんした。韓国かんこく独立どくりつ後ごは『霊れい断だん』（宋そう斗と用よう）、『聖書せいしょ研究けんきゅう』（盧の平たいら久ひさ）が創刊そうかんされるなど、その後ごも無む教会きょうかいは日本にっぽんと切きり離はなし少数しょうすう派はとして存続そんぞくした。なお、朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく（北朝鮮きたちょうせん）については、公式こうしきには無む教会きょうかいの後継こうけい者しゃは残のこっていないとされる。

また台湾たいわんにも、断続だんぞく的てきにではあるが、日本にっぽんから無む教会きょうかいの信徒しんとが伝道でんどうを行おこなっている。

そして内村うちむらが発行はっこうしていた雑誌ざっし『聖書せいしょ之の研究けんきゅう』の購読こうどく者しゃはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにも存在そんざいしていた。特とくに、内村うちむらの協力きょうりょく者しゃであった井口いぐち喜き源治げんじが長野ながの県けん穂高ほたか町まち（現げん安曇あずみ野市のいち）に設立せつりつしたキリスト教きりすときょうに基もとづく私塾しじゅく「研けん成義なりよし塾じゅく」の出身しゅっしん者しゃが多おおく渡米とべいし、シアトル近郊きんこうに定住ていじゅうして集会しゅうかい「シアトル穂高ほたか倶楽部くらぶ」を持もっていたことはよく知しられている。

イギリスで発生はっせいした平ひら信徒しんと運動うんどうでブレズレンとよばれるキリスト教きりすときょうのグループや、ヨーロッパで起おこったメノナイトなどの再さい洗礼せんれい派は（アナバプテスト）運動うんどうなどが、その礼拝れいはいや理念りねん、信条しんじょうなど無む教会きょうかい主義しゅぎに近ちかいとの指摘してきがある。また、同おなじくイギリスで起おこったクエーカーと無む教会きょうかい主義しゅぎのキリスト教徒きりすときょうととの類似るいじ点てんを指摘してきする研究けんきゅう者しゃは多おおい。内村うちむら自身じしん、米国べいこく留学りゅうがく以来いらいクエーカーとの交際こうさいがあり、札幌さっぽろ農のう学校がっこう同期どうきの新渡戸にとべ稲造いなぞうをはじめ日本にっぽんのクエーカーとも親交しんこうが深ふかく、内村うちむらの弟子でしの中なかには後のちにクエーカーに入信にゅうしんした者ものも少すくなくない。内村うちむらと新渡戸にとべがフィラデルフィアのクエーカー婦人ふじん海外かいがい伝道でんどう会かいに、女子じょし教育きょういく機関きかんとして三田みたの普ひろし連れん土ど女学校じょがっこう設立せつりつの提言ていげんをしたことは有名ゆうめいである。内村うちむら自身じしんも著作ちょさくの中なかで、キルケゴールが「無む教会きょうかい主義しゅぎのキリスト教きりすときょうを世界せかいに唱うたえ」たと述のべているように、内村うちむら本人ほんにんも無む教会きょうかい主義しゅぎを提唱ていしょうするにあたって日本にっぽん国外こくがいの哲学てつがくや神学しんがく思想しそうとの類似るいじ点てんを認識にんしきしていたことは確たしかである。

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外部がいぶリンク

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• 無む教会きょうかいキリスト集会しゅうかい - ウェイバックマシン（2019年ねん3月がつ31日にちアーカイブ分ぶん）

• 無む教会きょうかい・駒込こまごみキリスト聖書せいしょ集会しゅうかい
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