燕つばめ太子たいし丹に

燕つばめ太子たいし丹に（えん の たいし たん、? - 紀元前きげんぜん226年ねん）は、古代こだい中国ちゅうごくの戦国せんごく時代じだい末期まっきの燕つばめの王族おうぞく。姓せいは姫ひめまたは姞、諱いみなは丹に。燕つばめ王おう喜きの子こ。

生涯しょうがい

少年しょうねん時代じだいは、趙ちょうに人質ひとじちとして送おくられ、同おなじく人質ひとじちだった秦はたの王族おうぞくだった政せいと親したしくしていたことがある。後のちに本国ほんごくに帰国きこくして、燕つばめの太子たいしとなった。

後年こうねん、丹には燕つばめの使節しせつとして、かつて昔むかしなじみの秦はたの秦はた王政おうせいに挨拶あいさつをしたが、秦はた王政おうせいから冷つめたく対応たいおうされた。丹にはこれに衝撃しょうげきを受うけて、秦はたは燕つばめにとって災わざわいをおよぼす国くにだと判断はんだんして、帰国きこくした。

帰国きこくして秦はたの強大きょうだい化かを危惧きぐした丹には、重臣じゅうしんである鞠きく武たけしへ如何いかにすべきか相談そうだんしたところ、鞠きく武ぶは「秦はたは三さん晋すすむ（趙ちょう・魏たかし・韓かん）を脅おどかし、北きたに甘あま泉いずみ・谷口たにぐちが天然てんねんの要害ようがいとなり、南みなみに涇水・渭水に沿そった肥沃ひよくな大地だいちを有ゆうする。肥沃ひよくな巴ともえや漢かん中ちゅうを独占どくせんし、右みぎは隴・蜀しょくの山脈さんみゃく、左さは函はこ谷たに関せき・崤山に守まもられている。人口じんこうは多おおく、また兵士へいしも勇猛ゆうもうで、武器ぶき防具ぼうぐも満みたされている」と評ひょうして秦はたと争あらそうことの愚ぐを献策けんさくしたものの、丹にはそれをき入きいれなかった。

秦はたの軍勢ぐんぜいの少数しょうすう精鋭せいえい化かにより解雇かいこされた兵士へいしたちを哀あわれに思おもって、それに反対はんたいした秦はたの元もと将軍しょうぐんである樊於期きが、秦はた王政おうせいに疎うとまれて燕つばめに亡命ぼうめいしてきた。丹にがこれを匿かくまう様子ようすを見みせたのに対たいして、鞠きく武ぶは「樊於期きを庇かばうことは『飢うえた虎とら（秦はた）の目めの前まえに肉にくを置おく』ようなもの。樊於期きを匈奴きょうどへと追放ついほうした上うえで、三さん晋すすむ及および斉ひとし・楚すわえ、匈奴きょうどと同盟どうめいを結むすんで対抗たいこうすべき」と再ふたたび献策けんさくしたものの、丹には政せいの非情ひじょうな政策せいさくにより命いのちを狙ねらわれ、家族かぞくまでも殺ころされて、行いく宛あてもなく秦はたに追おわれながら逃にげ続つづけていた樊於期きの窮状きゅうじょうに哀あわれみを感かんじ、この策さくを退しりぞけた。

鞠きく武ぶから紹介しょうかいを受うけた田光たこうに、丹には秦しんへの対応たいおう策さくを相談そうだんしたところ、田光たこうより荊軻を頼たよるように助言じょげんを受うけた。丹には帰かえり際ぎわ、田光たこうへ「今いままで話はなした内容ないようは他言たごん無用むよう」と語かたったことに対たいし、荊軻へ丹にからの用向ようむきを伝つたえた田光たこうは「田光たこうは自害じがいしたので、もはや漏もれることはない」と荊軻にい残いのこして自みずから命いのちを絶たった。これを荊軻より聞きいた丹には深ふかく悲かなしんだ。

紀元前きげんぜん227年ねん、丹には秦はた王政おうせいを暗殺あんさつするため荊軻を刺客しかくとして秦はた舞まい陽ひを供きょうに付つけ、荊軻の説得せっとくで自殺じさつした樊於期きの首くびと、秦はたに割譲かつじょうすると偽いつわった督とく亢の地図ちずを持もたせ、白しろい衣装いしょうと冠かんむりを着きて易えき水すいの畔ほとりまで見送みおくった上うえで、秦しんへと派遣はけんした。しかし、荊軻は暗殺あんさつに失敗しっぱいして、その場ばで殺ころされた。

同年どうねん、秦はたは事件じけんの首謀しゅぼう者しゃである丹にを追討ついとうするために燕つばめへと侵攻しんこう、燕つばめは代だいと連合れんごうして戦たたかうも易えき水すいで敗やぶれ、紀元前きげんぜん226年ねんには国くに都との薊あざみが陥落かんらくし、丹にと燕つばめ王おう喜きは遼東りゃおとんに逃のがれた。丹には秦はた将すすむ李り信しんに追おわれ、衍水に身みを潜ひそめた。その後ご、燕つばめ王おう喜きは代だい王おう嘉よしみからの勧すすめもあり、衍水にいた丹にに使者ししゃを送おくって殺害さつがいし、その首くびを秦はたに差さし出だすことで許ゆるされた。一方いっぽう、『史記しき』白しろ起おこり・王おう翦列伝でんでは衍水にいた丹には李り信しんにより捕虜ほりょにされたと記しるされており、『史記しき』秦はた始はじめ皇すめらぎ本紀ほんぎでは燕つばめの首都しゅと薊あざみが陥落かんらくした時ときに討うたれたと記しるされている。

死後しご

その後ごも燕つばめは、遼東りゃおとんの亡命ぼうめい政権せいけんの下したで延命えんめいするものの、丹にの死しから4年ねん後ごの紀元前きげんぜん222年ねんに燕つばめ王おう喜きが捕とらえられ、滅亡めつぼうした。

参考さんこう文献ぶんけん

• 司馬しば遷『史記しき』「刺客しかく列伝れつでん」