ひじりはい

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ひじりはい(せいはい)とは下記かき事物じぶつす。

  1. キリスト教きりすときょう儀式ぎしきである聖餐せいさんもちいられるはいカリス:Calix えいen:Chalice)。
  2. キリスト教きりすときょうせい遺物いぶつのひとつで、最後さいご晩餐ばんさん使つかわれたとされるはい(えい:Holy Chalice)。
  3. 中世ちゅうせい西にしヨーロッパひじりはい伝説でんせつ登場とうじょうするはいふつ:Graal えいen:Holy Grail)。

以下いか聖餐せいさんせい遺物いぶつきよしはい伝説でんせつじゅん解説かいせつする。

聖餐せいさん[編集へんしゅう]

晩餐ばんさんのキリスト(16世紀せいき)

西方せいほう教会きょうかいではひじりはいカリスチャリスなどとも表記ひょうきされる。これにたい正教会せいきょうかいではせいばれる。

ともかん福音ふくいんしょによれば、最後さいご晩餐ばんさんイエスはパンをき「わたしからだである」とって弟子でしたちにあたえ、はいって「わたしである」と、弟子でしたちにそのはいから(ワインを)ませる[1]。『ヨハネによる福音ふくいんしょ』にはこの場面ばめんはない。

ルカによる福音ふくいんしょ』(22:19)に「わたしの記念きねんとしてこのようにおこないなさい」とある。キリスト教きりすときょうではこれに由来ゆらいして聖体せいたい拝領はいりょう儀式ぎしきおこなう。教派きょうはにより多少たしょうことなるが、たとえばカトリック教会きょうかいではカリス(きよしはい)にみずうすめたワインをれ、パンとしてホスチア(発酵はっこうパン。うすいウェハース)をもちいる。

せい遺物いぶつ[編集へんしゅう]

イエス弟子でしたちの最後さいご晩餐ばんさん使つかわれたものとしんじられているひじりはいはいくつか存在そんざいする。

  1. エルサレムちかくの教会きょうかいにあったとされるもの
    • 7世紀せいきガリアそう(Arculf)が聖地せいち巡礼じゅんれいのさいに、エルサレムちかくの教会きょうかいでそれをて、れたと証言しょうげんしている。ぎんでできており、が2つ対向たいこうしていていたという。現在げんざい所在しょざい不明ふめい
  2. ジェノヴァだい聖堂せいどうにあるもの (sacro catino)
  3. バレンシアだい聖堂せいどうにあるもの (santo cáliz)
    • イエスの弟子でしペトロローマ持込もちこむが、弾圧だんあつ危険きけんひじりはいはいったんピレネーなんのがれる。そのスペインうち転々てんてんとしたのちバレンシアにまれたとつたえられる。直径ちょっけい9cmの半球はんきゅうじょうたかさ17cm。くら赤色あかいろメノウでできている[2]1960ねんにスペインの考古学こうこがくしゃ(Antonio Beltrán) は、紀元前きげんぜん4世紀せいきから1世紀せいきエジプトパレスチナつくられたもので、時代じだいてきうと主張しゅちょうした。
  4. メトロポリタン美術館びじゅつかんにあるもの (Antioch Chalice)

ひじりはい伝説でんせつ[編集へんしゅう]

ひじりはい

イギリスフランスドイツなどを中心ちゅうしんに、きよしはいさがもとめる騎士きし物語ものがたり、あるいはそれをモチーフにした奇跡きせきたん数多かずおおかたられた。これをひじりはい伝説でんせつという。

その最初さいしょのものは、1180年代ねんだいにフランスの詩人しじんクレティアン・ド・トロワによる未完みかん騎士きしどう物語ものがたりペルスヴァル、あるいはひじりはい物語ものがたり』(原題げんだい:Perceval, le Conte du Graal)である。主人公しゅじんこうペルスヴァルが漁夫ぎょふおうしろ招待しょうたいされたせきで、その食事しょくじのコースの合間あいまごとにいろんな人物じんぶつやりせいやり?)や燭台しょくだいってあらわれる。最後さいごあらわれた乙女おとめささつものが、かざてられたきよしはい(graal)である。この作品さくひんもとにドイツの詩人しじんヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ大作たいさく『パルチヴァール』によって、アーサーおう宮廷きゅうてい騎士きし物語ものがたりきよしはい物語ものがたり融合ゆうごうげた。

これをキリスト教きりすときょうむすびつけたのは、フランス詩人しじんロベール・ド・ボロン(Robert de Boron)による1190年代ねんだい作品さくひんであろう[3]。それによれば、アリマタヤのヨセフキリストの磔刑たっけいのさいのイエスのひじりはいけたとし、ヨセフはそのひじりはいとともにアヴァロンしま[4]わたった。また、アリマタヤのヨセフはイギリス最初さいしょキリスト教会きょうかいつくったとしんじられていて、その場所ばしょ現在げんざいグラストンベリー修道院しゅうどういんGlastonbury Abbey)とされている。

12世紀せいきピレネーカタリ教会きょうかいに、聖母せいぼマリアはちからほのおのようなものがている壁画へきが[5]があり、これが graal ではないかというせつもある。

Graalの語源ごげん[編集へんしゅう]

日本語にほんごでは「きよしはい」とやくしているが、これがはいかどうかはさだかではない。 Graal は、古代こだいフランス語ふらんすごあるいはプロヴァンスであって、(中世ちゅうせいラテン語らてんごで「さら」あるいは「食事しょくじのコースの一区切ひとくぎり」を意味いみする gradalis に由来ゆらいするのではないかというせつがある一方いっぽうで、ラテン語らてんご gradalis は英語えいごの gradual、「だん」または「だん」の意味いみではないかとの異論いろんもある。作者さくしゃトロワは、フランドルはくフィリップ・ダルザス (Philippe d'Alsace)から作詞さくし依頼いらいされたときに、はなしのネタの提供ていきょうけていたというから、graal は(当時とうじの)フラマンである可能かのうせいつよい。また、ギリシアクラテール(krater)「うつわ」に由来ゆらいするというせつもある。

1982ねんにヘンリー・リンカーンらにより英国えいこく出版しゅっぱんされたフィクション "Holy Blood, Holy Grail"(邦題ほうだいレンヌ=ル=シャトーのなぞ』)は、 フランス語ふらんすごで「王家おうけ血脈けちみゃく」を意味いみする sang réal に由来ゆらいするとかんがえた。

Sang Réal → Sangreal → San Greal → Graal

しかし、文献ぶんけん登場とうじょうする年代ねんだいじゅんぎゃくのようである。

Graal[6] → Saint Graal[7] → Sangreal[8]

リンカーンらは、「きよしはい=キリストの血脈けちみゃく」であるとの立場たちばから、みなみフランスを舞台ぶたいにした宝探たからさがしを、これにむすびつけた。

ひじりはい行方ゆくえ[編集へんしゅう]

バロック時代じだいフランス画家がかニコラ・プッサン代表だいひょうさくアルカディアの牧人ぼくじんたち』では、墓石はかいしラテン語らてんごで "Et In Arcadia Ego"(アルカディアにもある)とかれているのを牧人ぼくじんたちがのぞんでおもいにふける様子ようすえがいている。"Et In Arcadia Ego"(はアルカディアにもある)は、ならえると"I Tego Arcana Dai"(れ!わたしかみ秘密ひみつかくした!)となるとして、リンカーンらは、これをイエス・キリストの血脈けちみゃくかんする秘密ひみつ解釈かいしゃくした。 リチャード・アンドルーズらはこれをけ、問題もんだいはイエスのはか位置いちしめしているとして、みなみフランスの山中さんちゅうにその位置いち推定すいていした(→キリストのはか)。

テンプル騎士きしだんスコットランドのがれて100ねんに、テンプル騎士きしだん子孫しそん『ヘンリー・シンクレア』が大西おおにしひろし西にしかってなぞの航海こうかいをしたという記録きろくがある。サン・ベルナールの調査ちょうさによるとテンプル騎士きしだん財産ざいさんカナダ東海岸ひがしかいがん大西洋たいせいようがわ)に位置いちするノバスコシアなどにかくしたとされ、一部いちぶアメリカにもわたったともされている。また、『きよしはいはヘラクレスのはしらこうにねむっている』という記述きじゅつもあり、カナダせつ裏付うらづけているとされるが、『ヘラクレスのはしら』の位置いち問題もんだいアトランティス研究けんきゅう過程かていでも問題もんだいとなっている。

スコットランドミドロシアンしゅうロズリンの『ロズリン・チャペル』の螺旋らせんばしらなかにあると、トレヴァ・レヴンズクロフトは1962ねんに20ねん研究けんきゅうすえ発表はっぴょうした。しかしはしらというはしら建物たてものないのすべてが金属きんぞく探知たんち調しらべられたが、結果けっかられなかった。つまり、その情報じょうほうあやまっていたか、『ロズリン・チャペル』に一時いちじてき保管ほかんされ、そのに『ロズリン・チャペル以外いがい場所ばしょ移動いどうされた可能かのうせいもある

イングランドスタンフォードシアにあるリッチフィールド庭園ていえんにあった記念きねん石碑せきひにも、そのかぎがあるという。ニコラ・プッサンの『アルカディアの牧人ぼくじんたち』をもとにしたかがみぞうである。また、この石碑せきひには"D. O.U.O.S.V.A.V.V. M."と、きざまれている。イギリスのプレッチリーパークの暗号あんごう研究所けんきゅうじょもと解読かいどくはんいんであり、ナチスドイツだい世界せかい大戦たいせんなか開発かいはつした暗号あんごうエニグマやぶったおとこ、オリヴァー・ローンが、2004ねんこの暗号あんごう解読かいどくこころみ、「Jesus (As Deity) Defy」(イエスの神性しんせいれない)という異端いたん立場たちばしめしたものと発表はっぴょうした[9]

登場とうじょう作品さくひん[編集へんしゅう]

映画えいが[編集へんしゅう]

ひじりはいんだみずには不思議ふしぎ効力こうりょくあたえられるとされる。映画えいが終盤しゅうばん、たくさんの偽物にせものはいなかから本物ほんものひじりはいえらし、えらんだはいみずみずか試練しれんあたえられる。
にせひじりはいんだみずにはいのちうばちからがあり、んだものがすぐにててしまった。
本物ほんものひじりはいんだみず瀕死ひんし重傷じゅうしょうをもいやし、ある程度ていど長寿ちょうじゅ効果こうかもある(不老ふろう長寿ちょうじゅになるわけではない)。これらの効力こうりょくによって重傷じゅうしょうった登場とうじょう人物じんぶつきずいやしたほか、きよしはい守護しゅごする騎士きし永遠えいえんちか長寿ちょうじゅあたえていた。
げきちゅう登場とうじょうする「本物ほんものひじりはい」は、内側うちがわ金箔きんぱくほどこされた簡素かんそ木製もくせいはいとして表現ひょうげんされている。
本物ほんものひじりはいには「きよしはい宮殿きゅうでんからされ、くちゆかきざまれた十字架じゅうじかえるとほろぶ」というのろいがかかっている。
いくつもの試練しれんえたさきでたどりける、アアアアのしろ安置あんちされた秘宝ひほうとして登場とうじょうする。
アーサーおうひじりはい探索たんさく題材だいざいにしたコメディ作品さくひんではあるが、歴史れきし学者がくしゃテリー・ジョーンズによってアーサーおう伝説でんせつ成立せいりつした14世紀せいき時代じだい考証こうしょう正確せいかくおこなわれている。

音楽おんがく[編集へんしゅう]

フランスのシンガーソングライターノルウェン・ルロワは、2005 ねんのアルバム 『Histoires Naturelles』 でリリースされた彼女かのじょきょく 『Mystère』 の ひじりはい触発しょくはつされました。

漫画まんが[編集へんしゅう]

原作げんさくたかしげちゅう作画さくが皆川みなかわ亮二りょうじによる漫画まんが
血液けつえきたすことにより、そのものたましい保存ほぞんする。

ゲーム・アニメ[編集へんしゅう]

ひじりはいうばあらそいがえがかれている。
また、後発こうはつ外伝がいでん作品さくひんでも、かたちことなれどひじりはいめぐあらそいがえがかれている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ マタイによる福音ふくいんしょ』26:26-28など
  2. ^ ダニエル・スミス『絶対ぜったいられない世界せかい秘宝ひほう99』日経にっけいナショナルジオグラフィックしゃ、2015ねん、38ぺーじISBN 978-4-86313-324-2 
  3. ^ Robert de Boron, Joseph d’Arimathie, 1191-1202ねん
  4. ^ ケルトでリンゴを意味いみするアヴァロンの場所ばしょ不明ふめいだが、ブリテン諸島しょとうのどこかとされる。
  5. ^ 現在げんざいカタルニア美術館びじゅつかんバルセロナ所蔵しょぞう
  6. ^ クレティアン・ド・トロワ『きよしはい物語ものがたり、またはペルスヴァルの物語ものがたりPerceval, le Conte du Graal, 1180年代ねんだい ISBN 4475015774
  7. ^ 作者さくしゃしょう、『きよしはい探索たんさくLa Queste del Saint Graal, 1220ねんごろ ISBN 4409130188
  8. ^ トマス・マロリーアーサーおうLe Morte d'Arthur, 1485ねん
  9. ^ X51.ORGエニグマ解読かいどくしゃが「うしなわれたきよしはい」の暗号あんごうつい解読かいどく

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • フィリップ・ヴァルテール『アーサーおう神話しんわだい事典じてん』〔Philippe Walter, Dictionnaire de mythologie arthurienne Paris: Imago 2014〕(渡邉わたなべ浩司こうじ渡邉わたなべ裕美子ゆみこやくはら書房しょぼう 2018 ISBN 978-4-562-05446-6
  • ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ『パルチヴァール』(加倉井かくらい粛之、伊東いとう泰治やすじ馬場ばば勝弥かつや小栗おぐり友一ともかず やく) いくぶんどう 1974ねん ISBN 4-261-07118-5改訂かいていだい5さつ 1998ねん

関連かんれん書籍しょせき[編集へんしゅう]

  • きよしはい伝説でんせつ-その起源きげん展開てんかい再考さいこうする」、日本にっぽんケルト学会がっかい『ケルティック・フォーラム』だい8ごう、2005ねん8がつ渡邉わたなべ浩司こうじ中世ちゅうせいフランスにおけるきよしはい物語ものがたりぐん展開てんかい」、中野なかの節子せつこ「ウェールズの<きよしはい伝説でんせつ>」、辺見へんみ葉子ようこきよしはい起源きげん再考さいこう―アイルランド・スキタイ」、古澤ふるさわゆう「ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハにおけるグラール」、福井ふくい千春ちはるきよしはい物語ものがたり展開てんかい」)

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]