シュウ酸さん

シュウ酸さん（シュウさん、蓚酸しゅうさん、英えい: oxalic acid）は、構造こうぞう式しき HOOC–COOH で表あらわされる、もっとも単純たんじゅんなジカルボン酸さん。二ふたつのカルボキシ基もとを背中合せなかあわせに結合けつごうした分子ぶんしである。IUPAC命名めいめい法ほうではエタン二に酸さん(「二に」はカタカナの「ニ」ではなく漢かん数字すうじの「二に」) (ethanedioic acid)。1776年ねん、カール・ヴィルヘルム・シェーレがカタバミ (oxalis) から初はじめて単たん離はなしたことから命名めいめいされた。

シュウ酸さん
IUPAC名めい エタン二に酸さん, ethanedioic acid（系統けいとう名めい） シュウ酸さん, oxalic acid（許容きょよう慣用かんよう名めい）
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう	144-62-7
J-GLOBAL ID	200907079185021489
KEGG	C00209
SMILES OC(=O)C(O)=O
特性とくせい
化学かがく式しき	H2C2O4 C2H2O4
モル質量しつりょう	90.03 g mol-1（無水むすい和物あえもの） 126.07 g mol-1（二水にすい和物あえもの）
示しめせ性せい式しき	(COOH)2
外観がいかん	無色むしょく結晶けっしょう
密度みつど	1.90 g cm-3
融点ゆうてん	189.5 ℃（無水むすい和物あえもの）（分解ぶんかい） 101.5 ℃（二水にすい和物あえもの）
水みずへの溶解ようかい度ど	10.2g / 100 cm3 (20 ℃)
酸さん解離かいり定数ていすう pKa	1.27, 4.27
構造こうぞう
分子ぶんしの形かたち	Planar
熱ねつ化学かがく
標準ひょうじゅん生成せいせい熱ねつ ΔでるたfHo	-821.7 kJ mol-1
標準ひょうじゅん燃焼ねんしょう熱ねつ ΔでるたcHo	-251.1 kJ mol-1
標準ひょうじゅんモルエントロピー So	115.6 J mol-1K-1
標準ひょうじゅん定圧ていあつモル比熱ひねつ, Cpo	117 J mol-1K-1
危険きけん性せい
安全あんぜんデータシート(外部がいぶリンク)	ICSC 0529 MSDS
NFPA 704	1 3 0
引火いんか点てん	166 ℃
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれんするカルボン酸さん	ギ酸ぎさん; マロン酸さん
関連かんれん物質ぶっしつ	グリオキサール; グリオキシル酸さん; グリコール酸さん; グリコールアルデヒド; エチレングリコール
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・常つね圧あつ (100 kPa) におけるものである。

植物しょくぶつに多おおく含ふくまれ、和名わみょうの由来ゆらいになっている。漢字かんじの「蓚」はタデ科かのスイバを意味いみし、また中国ちゅうごく語ごでも植物しょくぶつ由来ゆらいの「草くさ酸さん」と呼よぶ。

カルシウムイオンと強つよく結合けつごうする性質せいしつ（劇げき性せい）があり、体内たいないに入はいるとアシドーシスに傾かたむいた血液けつえき中ちゅうでカルシウムと結合けつごうして結石けっせきなどを生しょうじる。このため、毒物どくぶつ及および劇げき物ぶつ取締とりしまり法ほうによって劇げき物ぶつ（毒物どくぶつではない）に指定していされている。

還元かんげん性せいがあるため、滴しずく定じょうによく使つかわれる。また、染料せんりょう原料げんりょうや漂白ひょうはく剤ざいとしても用もちいられる。

製法せいほう

工業こうぎょう的てきには、木片もくへんをアルカリ処理しょりしたのち、抽出ちゅうしゅつすることで得えられる。実験じっけん的てきには、ギ酸ぎさんナトリウムを加熱かねつ分解ぶんかいして生成せいせいするシュウ酸さんナトリウムを、水酸化すいさんかカルシウムによってシュウ酸さんカルシウムとして単たん離はなし、これを硫酸りゅうさんで分解ぶんかいすることで得えられる。

${\ce {2 HCOONa ->[\Delta] (COO)2Na2 + H2}}$

${\ce {(COO)2Na2 + Ca(OH)2 -> (COO)2Ca + 2 NaOH}}$

${\ce {(COO)2Ca + H2SO4 -> (COOH)2 + CaSO4}}$

エチレングリコールおよびグリオキサールを二にクロム酸さんカリウムなどで酸化さんかしても生成せいせいする。それに関連かんれんしてこれらの化合かごう物ぶつは体からだ中ちゅうで代謝たいしゃによりシュウ酸さんを生成せいせいする。

化学かがく的てき性質せいしつ

無む水物みずものは常温じょうおん常つね圧あつで無色むしょくの固体こたいで、189.5 ℃ で分解ぶんかいし、ギ酸ぎさん、二酸化炭素にさんかたんそを生しょうじる。

${\ce {(COOH)2 -> HCOOH + CO2}}$

硫酸りゅうさんを混合こんごうするなど条件じょうけんを工夫くふうすると先程さきほどの二酸化炭素にさんかたんそに加くわえ、生しょうじたギ酸ぎさんが分解ぶんかいされ水みず及および一酸化いっさんか炭素たんそを放出ほうしゅつする。

${\ce {(COOH)2 -> H2O + CO + CO2}}$

吸湿きゅうしつ性せいを持もち、湿気しっけを含ふくんだ空気くうき中ちゅうに放置ほうちすると二水にすい和物あえものとなる。水溶液すいようえきからも二水にすい和物あえものが析出せきしゅつし、二水にすい和物あえものを五ご酸化さんか二にリンを入いれたデシケーター中なかに入いれるか、100 ℃ に加熱かねつすることにより結晶けっしょう水すいを失うしない無む水物みずものとなる。

酸さんとしての性質せいしつ

カルボキシ基もとを持もつため水溶液すいようえき中ちゅうでは電離でんりして2価かの酸さんとして作用さようを示しめす。弱酸じゃくさんとして分類ぶんるいされることが多おおいが、リン酸さんなどよりも強つよく酸さん解離かいり定数ていすうはスクアリン酸さんに近ちかい。第だい一いち段階だんかいの電離でんり度どは 0.1 mol dm^-3 の水溶液すいようえきでは 0.6 程度ていどとかなり大おおきい。

${\ce {{H2C2O4(aq)}+H2O(l)<=>{H3O^{+}(aq)}+{HC2O4^{-}}(aq)}}$,     ${\mbox{p}}K_{a1}=1.27\,$

${\ce {{HC2O4^{-}(aq)}+H2O(l)<=>{H3O^{+}(aq)}+C2O4^{2-}(aq)}}$,     ${\mbox{p}}K_{a2}=4.27\,$

純粋じゅんすいなものが得えやすく秤量ひょうりょうしやすい固体こたいであるため、分析ぶんせき化学かがくにおいてシュウ酸さんは中和ちゅうわ滴しずく定じょうの一いち次じ標準ひょうじゅん物質ぶっしつとして用もちいられる。

水溶液すいようえき中ちゅうにおける酸さん解離かいりに対たいする熱ねつ力学りきがく的てき諸もろ量りょうは以下いかの通とおりである。

	${\mathit {\Delta }}H^{\circ }$	${\mathit {\Delta }}G^{\circ }$	${\mathit {\Delta }}S^{\circ }$	${\mathit {\Delta }}Cp^{\circ }$
第だい一いち解離かいり	-4.27 kJ mol-1	7.24 kJ mol-1	-38.5 J mol-1K-1	-
第だい二に解離かいり	-6.57 kJ-1mol-1	24.35 kJ mol-1	-103.8 J mol-1K-1	-238 J mol-1K-1

還元かんげん剤ざいとしての性質せいしつ

シュウ酸さんは還元かんげん剤ざいとしてはたらき、分析ぶんせき化学かがくにおいて酸化さんか還元かんげん滴しずく定じょうにおける一いち次じ標準ひょうじゅん物質ぶっしつとしても用もちいられる。その標準ひょうじゅん酸化さんか還元かんげん電位でんいは以下いかの通とおりである。

${\ce {2CO2(g) + 2H^+(aq) + 2e^- = H2C2O4(aq)}}$,     $E^{\circ }=-0.475{\mbox{V}}$

酸性さんせい水溶液すいようえき中ちゅうにおける過かマンガン酸さんカリウムとの反応はんのうは以下いかのようになる。

${\ce {{5H2C2O4}+{2MnO4^{-}}+6H^{+}->{10CO2}+{2Mn^{2+}}+8H2O}}$

シュウ酸さんイオン

シュウ酸さんイオン

シュウ酸さんの第だい一いち段階だんかい解離かいりにより生成せいせいするシュウ酸さん水素すいそイオン (hydrogenoxalate, HC₂O−
4、H(COO)−
2) は1価かの陰かげイオンであり、第だい二に段階だんかい解離かいりにより生成せいせいするシュウ酸さんイオン (oxalate, C₂O2−
4、(COO)2−
2) は2価かの陰かげイオンである。シュウ酸さんイオンは平面へいめん型がたで炭素たんそ-炭素たんそ間あいだは単たん結合けつごう、炭素たんそ-酸素さんそ間あいだは共鳴きょうめいし単たん結合けつごうおよび二に重じゅう結合けつごうの中なか間あいだ的てきな性格せいかくを持もつ。

シュウ酸さん塩しお

シュウ酸さんイオンを含ふくむイオン結晶けっしょうである正せい塩しお、シュウ酸さん塩しお (oxalate) と、シュウ酸さん水素すいそイオンを含ふくむ酸性さんせい塩しおであるシュウ酸さん水素すいそ塩しお (hydrogenoxalate) が存在そんざいする。正せい塩しおはアルカリ金属きんぞく塩しおおよびアンモニウム塩しお、アルミニウム塩しおおよび鉄てつ(III)塩しおは水みずに可溶性かようせいであるが、アルカリ土ど類るい金属きんぞく塩しおを始はじめとする多おおくのものが難なん溶性ようせいである。鉄てつ(III)塩しおの水溶液すいようえきは徐々じょじょに分解ぶんかいしシュウ酸さん鉄てつ(II) FeC₂O₄ を析出せきしゅつし、銀ぎん塩しおは加熱かねつにより爆発ばくはつ的てきに分解ぶんかいする。

• シュウ酸さんアンモニウム (${\ce {(NH4)2C2O4}}$)
• シュウ酸さんナトリウム (${\ce {Na2C2O4}}$)
• シュウ酸さんカルシウム (${\ce {CaC2O4}}$)
• シュウ酸さん鉄てつ (${\ce {FeC2O4}}$, ${\ce {Fe2(C2O4)3}}$)

シュウ酸さんエステル

シュウ酸さんとアルコールが脱水だっすい縮ちぢみ合あいした構造こうぞうを持もつエステルをシュウ酸さんエステルと呼よび、(COOR)₂ の構造こうぞうを持もつ。シュウ酸さんジメチルは融点ゆうてん 54 ℃ の固体こたいで水みずに可溶性かようせいであるが、シュウ酸さんジエチルは融点ゆうてん -40.6 ℃ の液体えきたいで、水みずに難なん溶性ようせいである。シュウ酸さんとアルコールの混合こんごう物ぶつを濃こ硫酸りゅうさんと加熱かねつすることにより合成ごうせいする。

• シュウ酸さんジメチル
• シュウ酸さんジエチル
• シュウ酸さんジフェニル

オキサラト錯体さくたい

シュウ酸さんイオンは主おもに二に箇所かしょの酸素さんそ原子げんしで金属きんぞくイオンに配はい位い結合けつごうを形成けいせいし、オキサラト錯体さくたい (oxalato) を形成けいせいする。配はい位い子ことしてのシュウ酸さんイオン C₂O2−
4 は ox と略りゃくす。コバルト(III)に配はい位いしたものを始はじめとして多おおくの遷移せんい金属きんぞく錯体さくたいが存在そんざいする。

• オキサラトテトラアンミンコバルト(III)塩化えんか物ぶつ (${\ce {[Co(ox)(NH3)4]Cl}}$)
• トリスオキサラト鉄てつ(III)酸さんナトリウム (${\ce {Na3[Fe(ox)3]}}$)
• オキサリプラチン (${\ce {[Pt(ox)(C6H10(NH2)2)]}}$)

植物しょくぶつ中ちゅうのシュウ酸さん

シュウ酸さんは、植物しょくぶつに多おおく含ふくまれる。タデ科か（スイバ、ギシギシ、イタドリなど）、カタバミ科か、アカザ科か（アカザ、ホウレンソウなど）の植物しょくぶつには水溶すいよう性せいシュウ酸さん塩しお（シュウ酸さん水素すいそナトリウムなど）が含ふくまれ、サトイモ科か（サトイモ、ザゼンソウ、マムシグサなど）の植物しょくぶつには不溶性ふようせいシュウ酸さん塩しお（シュウ酸さんカルシウムなど）が含ふくまれる。

ヤマノイモ科かの植物しょくぶつの根菜こんさいから作つくるとろろが肌はだに付つくと痒かゆみを生しょうじるのは、シュウ酸さんカルシウムの針はり状じょう結晶けっしょうが肌はだに刺ささって刺激しげきを受うけるからである。

摂取せっしゅ

シュウ酸さんは一部いちぶの野菜やさいに含ふくまれている。100g中ちゅうの含有がんゆう量りょうは、ホウレンソウで1,339mg、ショウガ239mg、パセリ177mg、水みず煮にタケノコ174mgであった。ゴマ種子しゅし（多おおくは種皮しゅひ部分ぶぶんにシュウ酸さんカルシウムとして固定こてい）やココアなどは比較的ひかくてきシュウ酸さんが多おおい（洗あらいゴマ種子しゅし全ぜんC₂O₄1,750mg・遊離ゆうりC₂O₄350mg、ココア約やく700mg）。また、茶ちゃにもシュウ酸さんが含ふくまれており、乾燥かんそう茶ちゃ葉は100g中ちゅうの含有がんゆう量りょうは、玉露ぎょくろ（上級じょうきゅう）1,290mg、煎茶せんちゃ（上級じょうきゅう）820mg、番茶ばんちゃ740mg、ほうじ茶ちゃ770mgであった。一方いっぽう、コーヒーのシュウ酸さん含有がんゆう量りょうはコーヒー豆まめ100g中ちゅう10-15mg程度ていどである。

過剰かじょうなシュウ酸さん摂取せっしゅは一部いちぶの結石けっせきの原因げんいんになるとも考かんがえられている。水溶すいよう性せいのシュウ酸さんの除去じょきょには調理ちょうりで茹ゆでることで減少げんしょうさせることが可能かのう。また、カルシウムを同時どうじに摂取せっしゅするとシュウ酸さんがカルシウムと腸ちょう内ないで結合けつごうしシュウ酸さん塩しおとなり体内たいないに吸収きゅうしゅうされにくくなる。

血液けつえき中ちゅうではシュウ酸さんはカルシウムとシュウ酸さん塩しおを形成けいせいして生体せいたいが利用りよう可能かのうなカルシウムの量りょうを減へらすことから、クエン酸くえんさんと同おなじくカルシウムがないと反応はんのうが進すすまない血液けつえきの凝集ぎょうしゅう凝固ぎょうこ作用さようを阻害そがいする。

2015年ねんにはフィリピンのマニラでミルクティーにシュウ酸さんが盛もられ、店主てんしゅと客きゃく一いち人にんが死亡しぼうする事件じけんが発生はっせいした（2015 Sampaloc milk tea poisoningを参照さんしょう）。

シュウ酸さんは少量しょうりょうではあるが気化きか、エアロゾル化かをする性質せいしつがあるので、知しらないうちに呼吸こきゅう経由けいゆや肌はだ経由けいゆで体内たいないにシュウ酸さんを取とり込こんでいる場合ばあいがある事ことには注意ちゅういを要ようする。

分解ぶんかい

枯草かれくさ菌きん、エノキタケ、コウジカビ（アスペルギルス属ぞく）、シュードモナス属ぞく、ペニシリウム属ぞく、ストレプトコッカス・ミュータンス、などはシュウ酸さんデカルボキシラーゼを持もち、シュウ酸さんを分解ぶんかいして二酸化炭素にさんかたんそとギ酸ぎさんにする事ことが出来できる。

関連かんれん項目こうもく

• エチレングリコール
• グリコールアルデヒド
• グリオキサール
• グリオキシル酸さん
• グリコール酸さん

外部がいぶリンク

• 飲食いんしょく物ぶつ中ちゅうのシュウ酸さん含有がんゆう量りょうについて(2008/01/07) 医薬品いやくひん情報じょうほう21
• しゅう酸さん二水にすい和物あえもの (試薬しやく) JISK8519:2016