官軍かんぐん

官軍かんぐん（かんぐん/すめらみいくさ）は、君主くんしゅに属ぞくする正規せいきの軍ぐんのこと。日本にっぽんにおいては天皇てんのう及および朝廷ちょうていに属ぞくする軍ぐんを指さし「皇軍こうぐん」、「皇すめらぎ師し（みいくさ）」、「王師おうし」とも書かかれる^[1]。

概要がいよう

尊皇そんのう思想しそうが根ねざす日本にっぽん史し上うえにおいて「天皇てんのうの軍隊ぐんたいである」という意識いしきは、軍ぐん全体ぜんたいの士気しきにも大おおきく影響えいきょうした。

対たいする言葉ことばは「賊軍ぞくぐん」。しかし、官軍かんぐん・賊軍ぞくぐんの立場たちばはその状況じょうきょう次第しだいで変動へんどうが激はげしく、天皇てんのう（朝廷ちょうてい）の勅書ちょくしょや後継こうけいをめぐる戦略せんりゃくが繰くり返かえされる傾向けいこうにある。江戸えど時代じだいの民衆みんしゅうがこれを揶揄やゆした狂歌きょうか「勝かてば官軍かんぐん敗まければ賊ぞくよ命いのち惜むな國こくのため」があり、俗ぞくに「勝かてば官軍かんぐん、負まければ賊軍ぞくぐん」といった諺ことわざがあるが、承久じょうきゅうの乱らんなど、官軍かんぐんが負まけた例れいもある。どちらかと言いえば、敗軍はいぐん側がわが「負まけ惜おしみとして」に使つかう例れいが多おおい諺ことわざである^{[要よう出典しゅってん]}。戊辰戦争ぼしんせんそうに関かんしては歴史れきし的てき経緯けいいを見みれば、この言葉ことばのように、勝かった側がわが「官軍かんぐん」となり、負まけた側がわが「賊軍ぞくぐん」となった訳わけではなく「官軍かんぐん」が勝利しょうりし「賊軍ぞくぐん」が負まけた合戦かっせんであった（詳くわしくは後述こうじゅつ）。

沿革えんかく(歴史れきし伝承でんしょうを含ふくむ)

『日本書紀にほんしょき』の記しるす日本にっぽんの歴史れきしにおいては、神武じんむ天皇てんのうが即位そくい前まえに、現在げんざいの宮崎みやざき県けんから東征とうせいし各地かくちの豪族ごうぞくを鎮撫ちんぶ平定へいていし、あるいは戦地せんちを切きり抜ぬけて大和やまと国こくに入はいり、橿原かしはらに都とを定さだめて日本にっぽんを建国けんこくしたと説明せつめいされ、天皇てんのうが親したしく軍隊ぐんたいを指揮しきしたと記述きじゅつされている^[2]。その後ごも崇たかし神かみ天皇てんのうの時代じだいに四よん道みち将軍しょうぐんが遣つかわされた^[1]。

神武じんむ天皇てんのう

『日本書紀にほんしょき』の記述きじゅつによれば、神武じんむ東征とうせいのおり、長ちょう髄ずい彦軍ぐんと孔あな舎しゃ衛まもるにおいて戦たたかい（孔あな舎しゃ衛まもるの戦たたかい）、五ご瀬せ命いのちが流ながれ矢やで致命傷ちめいしょうを受うけたことが記しるされている。また神武じんむ東征とうせいの際さい、女性じょせい部隊ぶたいも存在そんざいし、戊つちのえ午うまの年とし9月5日にち条じょうに、「女おんな軍ぐん（めのいくさ）」を女坂おんなざかに置おき、11月7日にち条じょうでは、女おんな軍ぐんを進すすませ、敵てきは大兵だいひょうが来きたと思おもって、尽力じんりょくして迎むかえ討うったとある。官軍かんぐんが女おんな兵へいを用もちいた初はつ例れいとされる。

四よん道みち将軍しょうぐん

『日本書紀にほんしょき』によると、崇たかし神かみ天皇てんのう10年ねん（紀元前きげんぜん88年ねん?）にそれぞれ、北陸ほくりく、東海とうかい、西道さいどう、丹波たんばに派遣はけんされた。なお、この時期じきの「丹波たんば国こく」は、後ごの令れい制せい国こくのうち丹波たんば国こく、丹後たんご国こく、但馬たじま国こくを指さす。教おしえを受うけない者ものがあれば兵へいを挙あげて伐うつようにと将軍しょうぐんの印綬いんじゅを授さづけられ^[3]、翌よく崇たかし神かみ天皇てんのう11年ねん（紀元前きげんぜん87年ねん？）地方ちほうの敵てきを帰順きじゅんさせて凱旋がいせんしたとされている^[4]。なお、崇たかし神かみ天皇てんのうは3世紀せいきから4世紀せいきの人物じんぶつとされている^[5]。

北陸ほくりく鎮撫ちんぶ - 大だい彦命（おおびこのみこと）の軍隊ぐんたい
東海とうかい鎮撫ちんぶ - 武たけ渟川別命べつめい（たけぬなかわわけのみこと）の軍隊ぐんたい
西道さいどう鎮撫ちんぶ - 吉備津きびつ彦命（きびつひこのみこと）の軍隊ぐんたい
丹波たんば鎮撫ちんぶ - 丹波たんば道みち主命しゅうめい（たんばみちぬしのみこと）軍隊ぐんたい

日本にっぽん武たけ尊たかし

西にし征ただし -『日本書紀にほんしょき』の記載きさいによれば、日本にっぽん武たけ尊たかしの父ちちである景けい行ぎょう天皇てんのうが平定へいていした九州きゅうしゅう地方ちほうで再ふたたび叛乱はんらんが起おき、16歳さいの小碓おうす命いのちを討伐とうばつに遣つかわしたとある。古事記こじきと異ことなり倭やまと姫ひめの登場とうじょうがなく、従者じゅうしゃも与あたえられている。従者じゅうしゃには美濃みの国こくの弓ゆみの名手めいしゅである弟おとうと彦公が選えらばれる。弟おとうと彦公は石いし占うらない横よこ立りつ、尾張おわりの田子たご稲置いなおき、乳ちち近きん稲置いなおきを率ひきいて小碓おうす命いのちのお供ともをしたと記しるす。
東征とうせい -『日本書紀にほんしょき』の記載きさいによれば、東征とうせいの将軍しょうぐんに選えらばれた大だい碓うす命いのちは怖気おじけづいて逃にげてしまい、かわりに日本にっぽん武たけ尊たかし(小碓おうす命いのち)が立候補りっこうほする。天皇てんのうは斧鉞ふえつを授さづけ、「お前まえの人ひととなりを見みると、身丈みたけは高たかく、顔かおは整ととのい、大力だいりきである。猛もうきことは雷電らいでんの如ごとく、向むかうところ敵てきなく攻せめれば必かならず勝かつ。形かたちは我わが子こだが本当ほんとうは神人しんじん(かみ)である。この天下てんかはお前まえの天下てんかだ。この位くらい(＝天皇てんのう)はお前まえの位いだ」と話はなし、最大さいだいの賛辞さんじと皇位こうい継承けいしょうの約束やくそくを与あたえ、お伴ともに吉備きび武彦たけひこと大伴おおとも武たけし日び連れんを、料理りょうり係かかわりに七なな掬きく脛ずねを選えらぶ。出発しゅっぱつした日本にっぽん武たけ尊たかしは伊勢いせで倭やまと姫ひめ命いのちより草薙くさなぎ剣けんを賜たまわったと記しるされている。

承久じょうきゅうの乱らん

→詳細しょうさいは「承久じょうきゅうの乱らん」を参照さんしょう

後鳥羽上皇ごとばじょうこうは鎌倉かまくら幕府ばくふを倒たおすため、第だい2代だい執権しっけんの北条ほうじょう義よし時ときを朝敵ちょうてきとする『義ぎ時じ追討ついとうの院宣いんぜん』を全国ぜんこくに発布はっぷし、諸国しょこくの守護しゅご人じん・地頭じとうたちに、上皇じょうこうの元もとに馳はせ参さんじるよう命いのちが出だされた。しかし、義ぎ時じの嫡男ちゃくなんである北条ほうじょう泰やすし時ときを総そう大将たいしょうとする幕府ばくふ軍ぐんが京都きょうとを制圧せいあつし、官軍かんぐんが敗北はいぼくした（承久じょうきゅうの乱らん）。幕府ばくふは後鳥羽上皇ごとばじょうこうらを配流はいるし、荘園しょうえんを没収ぼっしゅうした^[6]。

承久じょうきゅうの乱らんにおける官軍かんぐん構成こうせい

後鳥羽上皇ごとばじょうこう：隠岐島おきのしまに配流はいる、上皇じょうこうの持もっていた荘園しょうえんはすべて没収ぼっしゅう。
順徳じゅんとく上皇じょうこう：佐渡さど島とうに配流はいる。
貴族きぞくで上皇じょうこう方かたについた６人にん：源実朝みなもとのさねともの妻つまの兄あに「坊門ぼうもん忠信ちゅうしん」一人ひとりが流罪るざいとなり，他たは処刑しょけい（死刑しけい）。
上皇じょうこう方かたについた武士ぶし：ほとんどが処刑しょけい（死刑しけい）、領地りょうちはすべて没収ぼっしゅう。
この他ほか、乱らんに関与かんよしていなかった土御門つちみかど上皇じょうこうが自みずから望のぞんで土佐とさ（のちに阿波あわ）に流ながされ、仲恭天皇ちゅうきょうてんのう（乱らん当時とうじ4歳さい）が廃位はいいされた。

建たて武たけしの乱らん

→詳細しょうさいは「建たて武たけしの乱らん」を参照さんしょう

1335年ねん（建たて武たけし2年ねん）、中ちゅう先代せんだいの乱らん鎮圧ちんあつのため鎌倉かまくらへと下くだった足利尊氏あしかがたかうじが建たて武たけし政権せいけんから離反りはんすると、後醍醐天皇ごだいごてんのうは新田にった義貞よしさだに尊氏たかうじ討伐とうばつの宣旨せんじを発はっした。義貞よしさだは節度せつど使しとして錦旗きんきと節ふし刀がたなを賜たまわり、朝敵ちょうてき・尊たかし氏しの討伐とうばつに向むかうが、箱根はこね・竹たけノ下したの戦たたかいに敗やぶれ、京きょうへ撤退てったいした。尊たかし氏しは義貞よしさだを追おって軍勢ぐんぜいを西にしに進すすめ、京都きょうと近郊きんこうで激戦げきせんを繰くり広ひろげるが、義貞よしさだ、北畠きたばたけ顕家あきいえ、楠木くすのき正成まさしげの反撃はんげきを受うけて九州きゅうしゅうへ追おいやられる。

ところが、尊たかし氏しは九州きゅうしゅうに落おちる途中とちゅうの備後びんご国こく鞆にて、後醍醐天皇ごだいごてんのうと反目はんもくしていた光ひかり厳げん上皇じょうこうから義貞よしさだ討伐とうばつの院宣いんぜんを与あたえられ、自身じしんの正当せいとう性せいを確保かくほした。これにより「後醍醐天皇ごだいごてんのうの綸旨りんじを受うけて尊たかし氏しを討うつ義貞よしさだ」と「光ひかり厳げん上皇じょうこうの院宣いんぜんを受うけて義貞よしさだを討うつ尊氏たかうじ」という2つの官軍かんぐんが並ならび立たつ状況じょうきょうが生うまれ、戦たたかいは大覚寺だいかくじ統みつる朝廷ちょうてい（南朝なんちょう）と持明院じみょういん統みつる朝廷ちょうてい（北朝ほくちょう）が対決たいけつする構図こうずへと移うつっていった（南北なんぼく朝あさ時代じだい）^[7]。

戊辰戦争ぼしんせんそう

→詳細しょうさいは「戊辰戦争ぼしんせんそう」を参照さんしょう

近代きんだいにおいて「官軍かんぐん」の呼称こしょうが用もちいられていた例れいとして著名ちょめいな例れいは、戊辰戦争ぼしんせんそうの際さい、官軍かんぐん（新しん政府せいふ軍ぐん）が旧きゅう江戸えど幕府ばくふ軍ぐんを賊軍ぞくぐんとして討伐とうばつした際さいのものである（戊辰戦争ぼしんせんそう）。

1868年ねん（慶応けいおう4年ねん）の鳥羽とば・伏見ふしみの戦たたかいの後のち、明治天皇めいじてんのうは、仁和寺にんなじ宮みや彰あきら仁じん親王しんのうを征討せいとう大将軍だいしょうぐん、有栖川宮熾仁親王ありすがわのみやたるひとしんのうを東征とうせい大だい総督そうとくに任にんじ錦旗きんきと節ふし刀がたなを授さづけた。朝廷ちょうていは諸道しょどう鎮撫ちんぶ使し・諸道しょどう総督そうとく府ふなどを各地かくちに派遣はけん。官軍かんぐん諸しょ隊たいは菊きく章あきら旗はた（「錦にしきの御ご旗はた」）を掲かかげ、隊たい士しの襟章えりしょうにも錦にしきの布ぬのが用もちいられた。鎮撫ちんぶ使しや総督そうとく府ふには薩摩さつま藩はん・長州ちょうしゅう藩はん・土佐とさ藩はんなどの雄藩ゆうはんの実力じつりょく者しゃが参謀さんぼうなどとして参加さんかしていた。

同どう2月がつ14日にち、隊伍たいごを整ととのえ板垣いたがき退助たいすけ率ひきいる、御ご親おや征せい東ひがし山道さんどう先鋒せんぽう総督そうとく軍ぐん(主力しゅりょく部隊ぶたいは土佐とさ藩はん迅衝隊たい)は禁裏きんりを拝はいし、京都きょうとより出陣しゅつじん。2月がつ15日にち、東征とうせい大だい総督そうとく・有栖川ありすがわ宮みやも京都きょうとより出陣しゅつじんした。御ご親おや征せい先鋒せんぽう総督そうとく軍ぐんは同年どうねん4月がつ、江戸えど開城かいじょうを成なし遂とげ、同年どうねん5月がつ、熾仁親王たるひとしんのうは江戸えど鎮台ちんだい及および会津あいづ征討せいとう大だい総督そうとくを兼任けんにんし、同年どうねん10月がつに東征とうせいの功こうを成なして大だい総督そうとくを免めんぜられた。

官軍かんぐんといっても実態じったいは新しん政府せいふ側がわについた諸しょ藩はんの軍ぐんと草莽そうもうの部隊ぶたいによって構成こうせいされ、大だい総督そうとく府ふがこれらの部隊ぶたいを統制とうせいした。また、各地かくちに民政みんせい局きょくを設置せっちして窮民きゅうみん保護ほごを掲かかげて民衆みんしゅうに宣伝せんでんを行おこなった。その一方いっぽうで、赤あか報ほう隊たいが喧伝けんでんした「年貢ねんぐ半減はんげん」を一時いちじ的てきに了承りょうしょうしながらも取とり消けしたり、世直よなおし一揆いっきを鎮圧ちんあつするなど宣伝せんでんと矛盾むじゅんする措置そちが行おこなわれたこともあった。混成こんせいであるがゆえに、赤あか報ほう隊たいの一部いちぶは新しん政府せいふの帰還きかん命令めいれいを無視むしして独断どくだんで行動こうどうした挙句あげく、各地かくちで略奪りゃくだつ行為こういを行おこなったため、「偽にせ官軍かんぐん」として処分しょぶんされている。

戊辰戦争ぼしんせんそうにおける官軍かんぐん構成こうせい

征討せいとう大将軍だいしょうぐん（慶応けいおう4年ねん1月がつ4日にち設置せっち・同年どうねん1月がつ28日にち廃止はいし）
東征とうせい大だい総督そうとく府ふ（慶応けいおう4年ねん2月がつ9日にち設置せっち）
- 御ご親おや征せい東海道とうかいどう先鋒せんぽう総督そうとく府ふ
  - 総督そうとく - 副ふく総督そうとく - 参謀さんぼう - 内うち参謀さんぼう - 軍ぐん監かん
- 御ご親おや征せい東ひがし山道さんどう先鋒せんぽう総督そうとく府ふ
  - 総督そうとく - 副ふく総督そうとく - 参謀さんぼう - 内うち参謀さんぼう - 軍ぐん監かん
- 御ご親おや征せい北陸ほくりく道どう先鋒せんぽう総督そうとく府ふ
  - 総督そうとく - 副ふく総督そうとく - 参謀さんぼう - 内うち参謀さんぼう - 軍ぐん監かん
- 御ご親おや征せい奥羽おうう先鋒せんぽう総督そうとく府ふ
  - 総督そうとく - 副ふく総督そうとく - 参謀さんぼう - 内うち参謀さんぼう - 軍ぐん監かん

参考さんこう文献ぶんけん

井上いのうえ勝まさる生せい「官軍かんぐん」（『日本にっぽん史し大だい事典じてん 2』（平凡社へいぼんしゃ、1993年ねん） ISBN 978-4-582-13102-4）

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b 『日本書紀にほんしょき』
^ 『日本書紀にほんしょき』神武じんむ天皇てんのう即位そくい前記ぜんき
^ 「以大彦命遣や北陸ほくりく。武たけ渟川別べつ遣や東海とうかい。吉備津きびつ彦遣西道さいどう。丹波たんば道どう主命しゅうめい遣や丹波たんば。因よし以詔之の曰。若わか有ゆう不ふ受教者しゃ。乃挙兵きょへい伐き之これ。既すんで而共授印綬為将軍しょうぐん。」日本書紀にほんしょき（朝日新聞社あさひしんぶんしゃ本ほん）
^ 「四道将軍以平戎夷之状奏焉。」日本書紀にほんしょき（朝日新聞社あさひしんぶんしゃ本ほん）
^ 『日本にっぽんの歴史れきし　第だい1巻かん　神話しんわから歴史れきしへ』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ,1964 文庫ぶんこ新版しんぱん,2005,ISBN 978-4122045477
^ http://www.tamagawa.ac.jp/sisetu/kyouken/kamakura/joukyu/
^ 田中たなか大喜だいぎ『足利あしかが氏しと新田にった氏し』吉川弘文館よしかわこうぶんかん,2021