トルコ学がく

チュルク語族ごぞくの分布ぶんぷ

トルコ学がく（英えい: Turkology、土ど: Türkoloji）は、トルコ人じん（英えい: Turks）を扱あつかう科学かがくの一いち分野ぶんやである。最もっとも広ひろい意味いみでは、トルコ人じんと関係かんけいするあらゆる事柄ことがらを扱あつかうが、通常つうじょうはより狭せまい意味いみで、トルコ人じんの言語げんごや歴史れきしや文学ぶんがくその他たの文化ぶんか的てき活動かつどうを扱あつかう。

トルコ学がくの対象たいしょう

通常つうじょう、トルコ人じん（英えい: Turk）という言葉ことばには二ふたつの意味いみがある。狭せまい意味いみではトルコ共和きょうわ国こくのトルコ語ご話者わしゃのことである（便宜上べんぎじょう、英えい: Turkishなどと表記ひょうきされる）。広ひろい意味いみではチュルク語族ごぞくに属ぞくする言語げんごを話はなすすべての人ひとを指さす（テュルク系けい民族みんぞく、英えい: Turkicなどと表記ひょうきされる）。ただしこれは過去かこ数すう十じゅう年ねんといった単位たんいでの比較的ひかくてき新あたらしい考かんがえ方かたであり、かつてはTurkishに相当そうとうする語かたりでチュルク諸語しょごもしくはテュルク諸しょ民族みんぞくをも指さしていた。トルコ学がくが実際じっさいには広ひろくテュルク系けい民族みんぞくを対象たいしょうとしているにもかかわらず、テュルク学がく（TurkicologyもしくはTurkic studies）と呼よばれていないのはこの名残なごりである。

テュルク系けい民族みんぞくの地理ちり的てき範囲はんいは、移住いじゅうによってここ数すう十じゅう年ねんで大幅おおはばに拡大かくだいしたが、それ以前いぜんでも東ひがしは中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくから西にしは東南とうなんヨーロッパ、北きたはロシア（シベリア）から南みなみは中東ちゅうとうの国々くにぐににまで及およんでいた。

トルコ語ご圏けんのすべての国くに、民族みんぞくグループ、少数しょうすう民族みんぞくの人口じんこうは現在げんざい、少すくなくとも3億おく人にんに達たっする。 1980年代ねんだい、ユネスコは、第だい2言語げんごまたは第だい3言語げんごとしてチュルク語族ごぞくを話はなす人々ひとびとの数かずを加味かみすればチュルク語ご話者わしゃは約やく2億おく人にんと推定すいていした。今日きょう、人口じんこうの増加ぞうかにより、より多おおくの数かずを推定すいていできる。が、トルコ語ご話者わしゃとトルコ民族みんぞくとは必かならずしも一致いっちしない（テュルク系けい民族みんぞくを参照さんしょう）。最古さいこの文献ぶんけんは西暦せいれき600年ねんから800年ねんごろの物ものである。

さまざまなテュルク系けいの人々ひとびとがさまざまな宗教しゅうきょうに属ぞくしている。最もっとも重要じゅうような宗教しゅうきょうには、イスラム教いすらむきょう、キリスト教きりすときょう、仏教ぶっきょう、ユダヤ教きょう、先住民せんじゅうみんの宗教しゅうきょうなどがある。マニ教きょうも歴史れきし的てきに大おおきな役割やくわりを果はたした。

現在げんざいのテュルク系けいの人々ひとびとの大だい多数たすうはイスラム教徒きょうと、特とくにスンニ派はである。仏教徒ぶっきょうとの集団しゅうだんとしてはユグル族ぞくとトゥバ人じんがある。チュヴァシ人じんとガガウズ人じんはキリスト教きりすときょうを主しゅたる信仰しんこうとしている。クリミア・カライム人じんはカライ派はユダヤ教徒きょうとである。

トルコ学がくの主おもな研究けんきゅう対象たいしょうは、トルコ共和きょうわ国こく、オスマン帝国ていこく、テュルク諸国しょこく、中央ちゅうおうアジアである。

歴史れきし

古代こだいから、旅行りょこう家かや地理ちり学者がくしゃ、外交がいこう使節しせつなどは、西にしアジアや中央ちゅうおうアジアなどを訪問ほうもんした際さい、トルコ諸もろ族ぞくの独特どくとくな風俗ふうぞくや習慣しゅうかんについて、ヨーロッパの世界せかいに報告ほうこくし紹介しょうかいしようとした。その著名ちょめいな例れいとしては、マルコ・ポーロによる旅行りょこう記き「東方とうほう見聞けんぶん録ろく」がある。このような慣例かんれいによって、欧米おうべいにおいて「トルコ学がく」が生うまれたとされる。

オスマン帝国ていこくとヨーロッパ諸国しょこくとの外交がいこう・貿易ぼうえきによる関係かんけいは、15世紀せいき～16世紀せいき以降いこうにより密接みっせつなものとなったが、旅行りょこう家かや外交がいこう使節しせつなどによる前述ぜんじゅつの報告ほうこくも、学問がくもん的てき、体系たいけい的てきなものとなっていった。風俗ふうぞくや習慣しゅうかんについてはもちろんのこと、オスマン帝国ていこくにおける宮廷きゅうてい制度せいどや国家こっか機構きこう、法ほう制度せいどや社会しゃかい・経済けいざい機構きこうなどについても報告ほうこくされるようになった。

フランスにおけるトルコ学がく

トルコ学者がくしゃで歴史れきし家かのジル・ヴェンステイ によれば、フランスのトルコ学がくの起源きげんは16世紀せいきに遡さかのぼる。当時とうじのトルコは最強さいきょうの軍事ぐんじ力りょくを有ゆうしていた。1538年ねん、学識がくしきに優すぐれ多言たげん語ごをマスターしたギョーム・ポステルは「王おうの教授きょうじゅ(後ごのコレージュ・ド・フランス)」で最初さいしょの東洋とうよう言語げんごの教授きょうじゅとなった（ギリシャ語ご、ヘブライ語ご、アラビア語ごをマスター）。彼かれはトルコにも興味きょうみを持もっていた。彼かれは2回かい、オスマン帝国ていこくを訪おとずれた。一いち度目どめは1535年ねんで、このときはフランソワ1世せいの派遣はけんした大使たいし、ジャン・デ・ラ・フォーレに同行どうこうした。その後ご1549年ねんにも訪問ほうもんし、その後ご、彼かれはトルコで目めにしたことをまとめてDe la République des Turcs（1560年ねん）と題だいした本ほんを書かいた。言語げんごへの情熱じょうねつから彼かれはトルコ語ごを学まなび、本ほんの1575年版ねんばんには、11ページ分ぶんのトルコ語ご-フランス語ふらんすご-ラテン語らてんごの辞書じしょと、9ページ分ぶんの文法ぶんぽうに関かんする覚おぼえ書がきを追加ついかした。この種たねの物ものとしては、16世紀せいきにフランス語ふらんすごで書かかれた物ものとしては唯一ゆいいつだった 。

西にしヨーロッパの国々くにぐにでは17世紀せいき半なかばからトルコ語ごの文書ぶんしょが蓄積ちくせきされはじめた。理由りゆうは主おもに実践じっせん的てきなもの（外交がいこうだったり、キリスト教きょう世界せかいを守まもるためだったり、18世紀せいきに南みなみフランスのマルセイユを経由けいゆする東ひがし地中海ちちゅうかい貿易ぼうえきが繁栄はんえいしていた）だった。特とくにフランス、ヴェネツィア、ハプスブルク帝国ていこく、ポーランドなどでは、トリセマ（仏ふつ: truchements）またはドラゴマンと呼よばれるトルコ語ごの通訳つうやくが養成ようせいされていた。これらの翻訳ほんやく者しゃは、理想りそう的てきにはトルコ語ごだけでなく、アラビア語ごとペルシア語ごも理解りかいする必要ひつようがあった。これらはすべてオスマン帝国ていこくの影響えいきょう下かにある地域ちいきで話はなされていた。

1551年ねん、イスタンブールに伊い: Scuola dei Giovani di Linguaという学校がっこうが設立せつりつされた。直訳ちょくやくすれば「若者わかものの言語げんご学校がっこう」であり、通訳つうやく見習みならいを養成ようせいするものだった（学校がっこう名めいはトルコ語ご: dil oğlanıをイタリア語ご: giovani di linguaに直訳ちょくやくしたものだった）。1669年ねん、コルベールはイスタンブールにフランス学校がっこうを設立せつりつし、1700年ねんからフランス王国おうこくは若手わかての東洋とうよう学者がくしゃをパリ（リセ・ルイ＝ル＝グラン）に招まねくようになった。

日本にっぽんにおけるトルコ学がく

三沢みさわ 伸生のぶおによれば、日本にっぽんにおけるトルコ学がくは地域ちいき及および典拠てんきょから大おおきく2つのグループに分わかれている。中国ちゅうごく（漢文かんぶん）資料しりょうに基もとづく周辺しゅうへん地域ちいきのチュルク系けい民族みんぞくに対たいする研究けんきゅうが比較的ひかくてき古ふるくからある一方いっぽうで、欧米おうべいのトルコ学がくで枢要すうようを占しめる、アナトリア半島はんとう周辺しゅうへんのトルコを対象たいしょうとした研究けんきゅうは新規しんき分野ぶんやである。

関連かんれん項目こうもく 

• マフムード・カーシュガリー
• 回教かいきょう圏けん研究所けんきゅうじょ
• 東洋とうよう学がく
• オスマン学まなぶ
• 汎ひろしテュルク主義しゅぎ

外部がいぶリンク 

• 言語げんご百科ひゃっか事典じてん(ソヴィエト)のトルコ学がくの項こう。ロシア語ご
• 学術がくじゅつ誌し(Türkiye Araştırmaları Literatür Dergisi)のトルコ学がくの号ごうの記事きじPDF集しゅう。トルコ語ごまたは英語えいご