ヤシ

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パームかくから転送てんそう
られたココナッツからえる胚乳はいにゅう、そしてボトルにめられたヤシ
てん日干ひぼしされたココナッツ
乾燥かんそうさせたココナッツ胚乳はいにゅうであるコプラを破砕はさいする工程こうてい

ヤシ椰子やし ヤシゆ)とはココヤシからつくられる油脂ゆし、すなわちココナッツオイル (coconut oil) のことをす。ココヤシの果実かじつであるココナッツ巨大きょだい種子しゅし内部ないぶ胚乳はいにゅうから抽出ちゅうしゅつ精製せいせいされる。

ほんこうではココヤシ油脂ゆしのほか、アブラヤシ(パームヤシ)の「種子しゅし」から採取さいしゅされ性質せいしつ類似るいじするパームかくPalm kernel oil)についても記述きじゅつする。また、どう果肉かにく」からつくられるパーム(palm oil)も「ヤシ」とばれることがあり、これについてはべつ記述きじゅつする。

製造せいぞう[編集へんしゅう]

ヤシは、ウェットプロセスとドライプロセスのしゅ方法ほうほうから製造せいぞうされる[1]。 パームかくは、アブラヤシ胚乳はいにゅう乾燥かんそうしたもの(パームカーネルとばれる)を同様どうよう精製せいせいしたもの。

ドライプロセス
ココヤシ果実かじつ種子しゅしにあたる核果かっかなか胚乳はいにゅう日光にっこうねつなどにより乾燥かんそうさせたコプラつく[2]。コプラを圧搾あっさくまたは溶剤ようざい抽出ちゅうしゅつすることにより原油げんゆられる。さらに精製せいせい工程こうてい製品せいひんされる。
また、この工程こうていしぼりかすである mash が副産物ふくさんぶつとしてられる。この副産物ふくさんぶつは、たんぱくしつ植物しょくぶつせい繊維せんい豊富ほうふふくまれるが人間にんげんべるのにはいておらず、家畜かちくえさとして利用りようされる。
ウェットプロセス
コプラからではなく、固形こけい胚乳はいにゅうをすりつぶしてココナッツミルクからつくられる。このココナッツミルクはあぶらみずざった状態じょうたいである乳化にゅうかをしており、なにかしらの方法ほうほうみず除去じょきょする必要ひつようがある。古典こてんてき方法ほうほうでは、長時間ちょうじかん煮沸しゃふつして水分すいぶんばしていたが、経済けいざいてきではない変色へんしょくしたあぶら出来できる。その、いくつかの方法ほうほうられるようになった。その方法ほうほうは、遠心分離機えんしんぶんりき水蒸気すいじょうき蒸留じょうりゅうねつさんしお電気でんき分解ぶんかいなど、様々さまざま方法ほうほうわせて抽出ちゅうしゅつするが、腐敗ふはいむしいて損失そんしつ可能かのうせいがあるドライプロセスよりおさむりつわるい。そのにも、だい規模きぼ工場こうじょうてる必要ひつようがあり、コストがたか[3]

性質せいしつ[編集へんしゅう]

脂肪酸しぼうさん組成そせいはヤシ・パームかくあぶらともラウリンさんが50%じゃくミリスチンさんが15%~20%、パルミチンさんが10%じゃく飽和ほうわ脂肪酸しぼうさんおおい。ラウリンさん含有がんゆうりつたかいため、ヤシ・パームかくをラウリンけい油脂ゆし総称そうしょうされる。けんはいずれも250前後ぜんこうヨウもとはヤシ7〜11、パームかく14〜22であり、乾性かんせい性質せいしつしめす。なお、アブラヤシの果肉かにく原料げんりょうとするパームとは性質せいしつおおきくことなるてん注意ちゅういようする。

ココナッツオイルは、比較的ひかくてきたか温度おんどかたまりやすく、室温しつおんが20以下いかだとかたまってしまう。なお、20~25ではクリームじょうに、25以上いじょう透明とうめい液体えきたい状態じょうたいとなる。

ヤシ(100gなか)のおも脂肪酸しぼうさん種類しゅるい[4]
項目こうもく 分量ぶんりょう(g)
脂肪しぼう 100
飽和ほうわ脂肪酸しぼうさん 86.5
8:0(カプリルさん 7.5
10:0(カプリンさん 6.0
12:0(ラウリンさん 44.6
14:0(ミリスチンさん 16.8
16:0(パルミチンさん 8.2
18:0(ステアリンさん 2.8
一価いっか飽和ほうわ脂肪酸しぼうさん 5.8
18:1(オレインさん 5.8
あたい飽和ほうわ脂肪酸しぼうさん 1.8
18:2(リノールさん 1.8
ヤシ
100 gあたりの栄養えいよう
エネルギー 3,607 kJ (862 kcal)
0 g
糖類とうるい 0 g
食物しょくもつ繊維せんい 0 g
100 g
飽和ほうわ脂肪酸しぼうさん 86.5 g
一価いっか飽和ほうわ 5.8 g
あたい飽和ほうわ 1.8 g
0 g
ビタミン
ビタミンA相当そうとうりょう
(0%)
0 µg
(0%)
0 µg
0 µg
チアミン (B1)
(0%)
0 mg
リボフラビン (B2)
(0%)
0 mg
ナイアシン (B3)
(0%)
0 mg
パントテンさん (B5)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸ようさん (B9)
(0%)
0 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
コリン
(0%)
0.3 mg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンD
(0%)
0 IU
ビタミンE
(1%)
0.09 mg
ビタミンK
(0%)
0.5 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
0 mg
カリウム
(0%)
0 mg
カルシウム
(0%)
0 mg
マグネシウム
(0%)
0 mg
リン
(0%)
0 mg
鉄分てつぶん
(0%)
0.04 mg
亜鉛あえん
(0%)
0 mg
マンガン
(0%)
0 mg
セレン
(0%)
0 µg
成分せいぶん
水分すいぶん 0 g
%はアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおける
成人せいじん栄養えいよう摂取せっしゅ目標もくひょう (RDI割合わりあい
出典しゅってん: USDA栄養えいようデータベース英語えいご

用途ようと[編集へんしゅう]

パームかくには、石鹸せっけん製造せいぞうや、モーターのような機械きかいよう潤滑油じゅんかつゆてきした物質ぶっしつてき性質せいしつがある[5]

日本にっぽんではヤシ・パームかくあわせて年間ねんかんやく10まんトンが消費しょうひされており、そのうちやく6わり洗剤せんざい石鹸せっけんなどの工業こうぎょう原料げんりょうとして、4わり食用しょくようとしてもちいられる。水素すいそ添加てんかによりココアバター代用だいよう、またちち脂肪しぼう性質せいしつちかいため、ホイップクリームコーヒーフレッシュラクトアイス原料げんりょうなどにも使つかわれている。ちゅうくさり脂肪酸しぼうさん含有がんゆうりつたか消化しょうか代謝たいしゃされやすいため、乳幼児にゅうようじしょく病人びょうにんしょくとしてもてきしている。

苦手にがてとするひとおお独特どくとくにおいおさえたこうタイプも製造せいぞう販売はんばいされている[6]

2004ねんには国民こくみん生活せいかつセンターが、また2008ねん日本にっぽん即席そくせき食品しょくひん工業こうぎょう協会きょうかいスチロールせい容器ようき使用しようするカップめんれた場合ばあい容器ようきけることがあるとして注意ちゅういびかけている[7][8]

パームかく経験けいけんてき保湿ほしつざいとして使つかわれており、皮膚ひふ水分すいぶん蒸発じょうはつふせ水分すいぶん損失そんしつ減少げんしょうさせる閉塞へいそく作用さようち、新生児しんせいじ皮膚ひふ剥離はくり鱗屑りんせつ減少げんしょうさせ、よわ抗菌こうきん作用さようもある[5]脂質ししつは、角質かくしつ細胞さいぼうあいだ脂質ししつともなるため、水分すいぶん保持ほじする保水ほすい作用さようもある[5]。このため安価あんか入手にゅうしゅしやすいため、東西とうざいアフリカでの新生児しんせいじ保湿ほしつざいとして推奨すいしょうできるが、保湿ほしつざい使用しようによってブドウ球菌きゅうきん感染かんせんなど新生児しんせいじ院内いんない感染かんせんのリスクがたかまることには注意ちゅうい必要ひつようである[5]

名称めいしょうについて[編集へんしゅう]

ヤシはヤシぞくする植物しょくぶつ総称そうしょうであり、多種たしゅで、それぞれがてきした利用りようのされかたをしている。ヤシにたいする日本人にっぽんじんのイメージはココヤシが圧倒的あっとうてきつよいため、日本にっぽんではココナッツオイルのことをヤシんでいる。しかし、ヤシからつくられる油脂ゆし生産せいさんりょうはアブラヤシ由来ゆらいのもののほうおおく、また「ヤシ」という表現ひょうげんでは混同こんどうされやすい。区別くべつをつけるため「ココナッツ/ココナッツオイル」「パーム/パームオイル」といった表記ひょうき使つかほうこのましい[9]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Wet and dry extraction of coconut oil: impact on lipid metabolic and antioxidant status in cholesterol coadministered rats PubMed ちょ:K Govindan Nevin Thankappan Rajamohan doi:10.1139/y09-045
  2. ^ Grimwood, BE; Ashman F; Dendy DAV; Jarman CG; Little ECS; Timmins WH (1975). Coconut Palm Products – Their processing in developing countries. Rome: FAO. pp. 49–56. ISBN 978-92-5-100853-9. https://www.google.com/books/edition/Coconut_Palm_Products/fY5hLeJ-WW4C?gbpv=1 
  3. ^ Grimwood et al., 1975, pp. 193–210.
  4. ^ https://data.nal.usda.gov/dataset/usda-national-nutrient-database-standard-reference-legacy-release
  5. ^ a b c d Chiabi, Andreas; Kenmogne, Maguerite Hortence; Nguefack, Seraphin; et al (2011). “The empiric use of palm kernel oil in neonatal skin care: Justifiable or not?”. Chinese Journal of Integrative Medicine 17 (12): 950–954. doi:10.1007/s11655-011-0938-1. PMID 22139548. 
  6. ^ ちかごろ流行はやるもの】こうココナツオイル 認知にんちしょう予防よぼうにも効果こうか…ブーム再燃さいねん産経新聞さんけいしんぶん朝刊ちょうかん2018ねん6がつ18にち東京とうきょうめん
  7. ^ 農林のうりん水産すいさん消費しょうひ安全あんぜん技術ぎじゅつセンター (2004ねん5がつ)
  8. ^ ニュース|インスタントラーメン ナビ_一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん 日本にっぽん即席そくせき食品しょくひん工業こうぎょう協会きょうかい (2008ねん10がつ)
  9. ^ 日本にっぽんの「ヤシ(椰子やし)」の語源ごげん中国ちゅうごくであり「椰子やし」はおな意味いみであるが、「ヤシ」は「棕櫚しゅろ中国語ちゅうごくごばん」、「アブラヤシ」は「あぶら」と表記ひょうきされる。「椰」はココヤシほかごく一部いちぶたねにしか使つかわれないので中国ちゅうごくでは区別くべつされている。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 食用しょくよう油脂ゆし - その利用りよう油脂ゆし食品しょくひん藤田ふじたあきらちょ 2000ねん こう書房しょぼう ISBN 9784782101735

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]