生理せいり的てき熱量ねつりょう

生理せいり的てき熱量ねつりょう（せいりてきねつりょう、英えい: Food energy、別名べつめい生理せいり的てきエネルギー値ち、生理せいり的てきエネルギー量りょう、代謝たいしゃ熱量ねつりょう、代謝たいしゃエネルギー量りょう）とは、生物せいぶつの活動かつどうに伴ともなって吸収きゅうしゅう消費しょうひされる熱量ねつりょう（エネルギー）のことを言いう。主おもに摂取せっしゅする食物しょくもつから得えられる栄養えいよう学がく的てき熱量ねつりょうや、運動うんどうや代謝たいしゃによって消費しょうひされるエネルギーについて用もちいられる。

生理せいり的てき熱量ねつりょうの計量けいりょう単位たんいは、国際こくさい単位たんい系けいおよび計量けいりょう法ほうでは、ジュール（単位たんい記号きごう：J）である。ただし、「人ひと若もしくは動物どうぶつが摂取せっしゅする物ものの熱量ねつりょう又または人ひと若もしくは動物どうぶつが代謝たいしゃにより消費しょうひする熱量ねつりょうの計量けいりょう」（つまり生理せいり的てき熱量ねつりょう）に限かぎってカロリー（単位たんい記号きごう：cal）を使用しようすることができる。

なお、日本にっぽんでは、本来ほんらいは計量けいりょう単位たんいである「カロリー」の語かたりが、生理せいり的てき熱量ねつりょうの代名詞だいめいしとして日常にちじょう的てきに使つかわれることがある（例れい・低ていカロリー食しょく、カロリー制限せいげんなど）。

生理せいり的てき熱量ねつりょうの発見はっけん

17世紀せいき後半こうはんから、生物せいぶつの呼気こきと吸気きゅうきの組成そせいの変化へんかが、物体ぶったいを燃焼ねんしょうさせた前後ぜんごの空気くうき組成そせいの変化へんかに似にているという観察かんさつ結果けっかから、呼吸こきゅうと燃焼ねんしょうの関係かんけいが論ろんじられるようになった。ただしこの時代じだいは空気くうきの成分せいぶんについて現代げんだい的てきな理解りかいとは異ことなっていたため、呼吸こきゅうについて、メイヨー（1674）はフック（1665）の「硝石しょうせきの空気くうき」が消費しょうひされると考かんがえ、プリーストリー（1775）はフロギストンの放出ほうしゅつであると考かんがえた。ラヴォアジエ（1777）はこれを酸素さんその消費しょうひと二酸化炭素にさんかたんその排出はいしゅつであるとし、さらに運動うんどう強度きょうどに比例ひれいして酸素さんそ消費しょうひ量りょうが増ふえることなどから、生物せいぶつによる酸素さんそ消費しょうひは燃焼ねんしょうによる酸素さんそ消費しょうひと同等どうとうであるとみなされるようになった。このことより、燃焼ねんしょうの量りょうの指標しひょうである熱量ねつりょうが体内たいないにおける「燃焼ねんしょう」（代謝たいしゃ）にも当あてはめられるという考かんがえが生うまれ、生理せいり的てき熱量ねつりょうの概念がいねんが確立かくりつした。

体内たいないで「燃焼ねんしょう」が起おこっている妥当だとう性せいは、人間にんげんの生命せいめいに体温たいおんの維持いじが必要ひつようであると認識にんしきされていたし、熱ねつを運動うんどうに変換へんかんできることは蒸気じょうき機関きかんからの類推るいすいで知しられていた。後のちにエネルギー保存ほぞんの法則ほうそくが確立かくりつされ、解かい糖とう系けいなど生体せいたい内ないにおけるエネルギー変換へんかんの分子ぶんし的まと機き序じょが明あきらかになって、生体せいたいが利用りようできるエネルギー、すなわち生理せいり的てき熱量ねつりょうの考かんがえは、現代げんだいでは確固かっこたる物ものとして認みとめられている。

また、糖とうや脂肪しぼうといった別々べつべつの栄養素えいようそはそれぞれ異ことなる栄養えいようを与あたえると考かんがえられていたが、同おなじ熱量ねつりょうの糖とうや脂肪しぼうは熱量ねつりょう上じょう等価とうかで交換こうかん可能かのうであり、生理せいり的てき熱量ねつりょうは独立どくりつの栄養えいよう概念がいねんであると考かんがえられている（ルブネルのエネルギー等とう値ちの法則ほうそく）。また生理せいり的てき熱量ねつりょうを与あたえる栄養素えいようそを熱量ねつりょう素もとと呼よぶ。

生理学せいりがく的てき熱量ねつりょうの定義ていぎと計測けいそく

• 酸素さんそ消費しょうひからの定義ていぎ。有機物ゆうきぶつが体内たいないで消費しょうひされた場合ばあいと体外たいがいで燃焼ねんしょうさせた場合ばあいで、酸素さんその消費しょうひが同どう量りょうであれば、熱量ねつりょうの発生はっせいも同等どうとうだと推定すいていする。厳密げんみつには気密きみつ容器ようきの中なかで測定そくていし、簡易かんい的てきには呼気こき中ちゅうの二酸化炭素にさんかたんそ濃度のうどから求もとめる（ペッテンコーファー,1862など）。現在げんざいでも基礎きそ代謝たいしゃや運動うんどうによって消費しょうひされる熱量ねつりょうはこの方法ほうほうで求もとめることが多おおい。
• 食物しょくもつを燃もやして得えられる熱量ねつりょうによる定義ていぎ。食物しょくもつを空気くうき中ちゅうで燃もやして得えられた熱量ねつりょうと、同どう量りょうの食物しょくもつを食たべて出でた排泄はいせつ物ものを燃もやして得えられた熱量ねつりょうの差さから、食物しょくもつから吸収きゅうしゅうした熱量ねつりょうを推定すいていする（ルブネル,1883など）。食物しょくもつの栄養えいよう学がく的てき熱量ねつりょうは主おもにこの方法ほうほうで測定そくていされ、消化しょうか吸収きゅうしゅう率りつなどを考慮こうりょして補正ほせいされる。日本にっぽんでは代表だいひょう的てきな食品しょくひん材料ざいりょうについて測定そくていされており、料理りょうりなどに表示ひょうじされる熱量ねつりょうは、一般いっぱん的てきに食品しょくひん材料ざいりょうの分量ぶんりょうと重量じゅうりょうあたり熱量ねつりょうから推定すいていする。
• 放出ほうしゅつ熱量ねつりょうからの定義ていぎ。生物せいぶつを断熱だんねつ気密きみつ室しつに入いれ、気温きおんの上昇じょうしょうを直接ちょくせつ測はかって放出ほうしゅつした熱量ねつりょうを推定すいていする（ルブネル,1894など）。酸素さんそ消費しょうひ量りょうからの測定そくてい法ほうの補助ほじょとして用もちいられることが多おおい。
• 分子ぶんし化学かがく的てき機き序じょからの定義ていぎ。現代げんだいでは解かい糖とう系けいなど栄養素えいようそのエネルギー変換へんかんの分子ぶんし的まと機き序じょが明あきらかになっているため、その過程かていから得えられる熱量ねつりょうを推定すいていできる。

食品しょくひんのエネルギー換算かんさん係数けいすう

食品しょくひんのカロリー（熱量ねつりょう）計算けいさんには米国べいこくのRubnerとAtwaterが19世紀せいき末まつから20世紀せいき初頭しょとうにかけて行いった実験じっけん結果けっかから求もとめた炭水化物たんすいかぶつ、脂質ししつ・脂肪しぼう、タンパク質たんぱくしつについてのアトウォーター係数けいすうが広ひろく用もちいられている。

アトウォーターの換算かんさん係数けいすうは各かく成分せいぶんの物理ぶつり的てき燃焼ねんしょう熱ねつ（kcal/g・kJ/g）から人体じんたいにおける消化しょうか吸収きゅうしゅう率りつ（100%は吸収きゅうしゅうされず一部いちぶは排泄はいせつされる）と排泄はいせつ熱量ねつりょう（吸収きゅうしゅうされるが利用りようされず排泄はいせつされる）を加味かみし求もとめたものである。タンパク質たんぱくしつでは吸収きゅうしゅうされた一部いちぶは尿素にょうそや尿にょう酸さんなどとして排泄はいせつされる。

Atwaterの換算かんさん係数けいすう

成分せいぶん	物理ぶつり的てき燃焼ねんしょう熱ねつ	消化しょうか吸収きゅうしゅう率りつ	排泄はいせつ熱量ねつりょう	換算かんさん係数けいすう
脂質ししつ	9.4kcal/g	95%		9kcal/g
タンパク質たんぱくしつ	5.7kcal/g	92%	1.25kcal/g	4kcal/g
炭水化物たんすいかぶつ	4.1kcal/g	97%

Atwater係数けいすうは脂質ししつ、タンパク質たんぱくしつおよび炭水化物たんすいかぶつにおける平均へいきん値ちであり、便宜べんぎ的てきな係数けいすうとして多用たようされているが食品しょくひんの成分せいぶんにより熱量ねつりょうは異ことなる。同おなじ炭水化物たんすいかぶつでも容易よういに利用りよう可能かのうなもの、植物しょくぶつ繊維せんい、糖とうアルコールなどの難なん消化しょうか性せいのものがあり、難なん消化しょうか性せいのものは小腸しょうちょうまででは消化しょうかされず大腸だいちょうにおいて菌きんなどにより分解ぶんかいされ吸収きゅうしゅうされるものがあるが分解ぶんかい・吸収きゅうしゅう率りつに差さがあり全まったく吸収きゅうしゅうされないものもある。日本にっぽんの栄養えいよう表示ひょうじ基準きじゅんでは炭水化物たんすいかぶつを数すう段階だんかいに区分くぶんしている。

日本にっぽんの栄養えいよう表示ひょうじ基準きじゅん

成分せいぶん		熱量ねつりょう換算かんさん係数けいすう	備考びこう
脂質ししつ・脂肪しぼう		9kcal/g
タンパク質たんぱくしつ		4kcal/g
炭水化物たんすいかぶつ	消化しょうか性せい		デンプン・砂糖さとうなど小腸しょうちょうまでで吸収きゅうしゅうされるもの
	難なん消化しょうか性せい糖とう質しつ	0 - 3kcal/g	糖とうアルコール、オリゴ糖とうなど
	食物しょくもつ繊維せんい	0 - 2kcal/g
	エタノール	7kcal/g	酒類しゅるい
	有機ゆうき酸さん	3kcal/g

以上いじょうは食品しょくひんの成分せいぶんごとの消化しょうか・吸収きゅうしゅう・排泄はいせつの数値すうちに基もとづいた集計しゅうけいであるが、この他ほかに食品しょくひんの成分せいぶんによる展開てんかいはせず、食品しょくひんのヒトによる消化しょうか吸収きゅうしゅう試験しけんの結果けっかからエネルギー換算かんさん係数けいすうを求もとめる場合ばあいもある。この手法しゅほうでは全ぜん食品しょくひんにおける人体じんたい実験じっけんが必要ひつようとなるが、現実げんじつには食品しょくひんをグループに分わけ代表だいひょう的てきな食品しょくひん（例たとえば米べい）で試験しけんをし、その値ねをグループ内ないの食品しょくひんに適用てきようしている。

その他た

栄養えいよう学がくにおける意味いみ

生理せいり的てき熱量ねつりょうを与あたえる熱量ねつりょう素もとは栄養えいよう学がくの中なかでも初期しょきに発見はっけんされ、かつ重要じゅうよう視しされており、熱量ねつりょう素もととなる炭水化物たんすいかぶつ、脂肪しぼう、タンパク質たんぱくしつは三さん大だい栄養素えいようそと呼よばれている。

ハーバード大学だいがく医学部いがくぶは、2020年ねん10月がつに生理せいり的てき熱量ねつりょうにおけるカロリー計算けいさんをやめるべきだと主張しゅちょうした。注意深ちゅういぶかいカロリー計算けいさんでも、必かならずしも均一きんいつな結果けっかが得えられるとは限かぎらない。体からだがどのようにカロリーを燃焼ねんしょうするかは、あなたが食たべる食物しょくもつの種類しゅるい、体からだの代謝たいしゃ、そして腸ちょうに住すむ生物せいぶつの種類しゅるいを含ふくむ多おおくの要因よういんに依存いぞんする。 代かわりに、未み加工かこうの食品しょくひんと健康けんこう的てきなライフスタイルの実践じっせんに焦点しょうてんを当あてるべきであると発表はっぴょうした。

一方いっぽうで、消化しょうか吸収きゅうしゅうされたものの消費しょうひされなかった熱量ねつりょう素もとは、主おもに脂肪しぼう組織そしきに蓄積ちくせきされ、肥満ひまんや成人病せいじんびょうを招まねく。このため、現代げんだいでは熱量ねつりょう素もとの摂取せっしゅを制限せいげんしたり、運動うんどうによって熱量ねつりょうの消費しょうひを増ふやすことで体からだ脂肪しぼう率りつを一定いっていに保たもつのがよい（痩身そうしん）と考かんがえられている。これは美容びようとも大おおきく関かかわるため、生理せいり熱量ねつりょうの摂取せっしゅ・消費しょうひは多おおくの国くにで国民こくみん的てき関心事かんしんじとなっている。なお、一いち日にちのエネルギー必要ひつよう量りょう（消費しょうひ量りょう）は、身体しんたい活動かつどうレベルに応おうじて基礎きそ代謝たいしゃ量りょうの1.5〜2倍ばい程度ていどとなる。詳細しょうさいは栄養えいよう#栄養えいよう学がくの観点かんてんからを参照さんしょうのこと。

名称めいしょうにまつわる問題もんだい

栄養えいよう学がくでは生理せいり的てき熱量ねつりょうは単たんに熱量ねつりょうと呼よばれることが多おおかったが、一般いっぱんにはその単位たんいであるカロリーが生理せいり的てき熱量ねつりょうをあらわす名詞めいしとして通用つうようしている。食品しょくひん表示ひょうじでの熱量ねつりょう単位たんいをカロリーからジュールに置おき換かえることもあり、生理せいり的てき熱量ねつりょうのほか、生理せいり的てきエネルギー値ち、生理せいり的てきエネルギー量りょう、代謝たいしゃ熱量ねつりょう、代謝たいしゃエネルギー量りょうなどの言葉ことばで置おき換かえようとする動うごきはあるものの、成果せいかはほとんど上あがっておらず、厚生こうせい労働省ろうどうしょうや農林水産省のうりんすいさんしょうの広報こうほうでもカロリーという言葉ことばが使つかわれていることは珍めずらしくない。また、伝統でんとう的てきに熱量ねつりょうという言葉ことばを用もちいているものの、エネルギーの様態ようたいとして熱ねつを介かいさない代謝たいしゃも多おおいことから、より一般いっぱん的てきなエネルギーという言葉ことばを用もちいたほうがいいという見方みかたもある。

関連かんれん項目こうもく

• エネルギー・カロリー
• ボンベ熱量ねつりょう計けい - 爆ばく発熱はつねつ量りょう計けいとも。密閉みっぺい容器ようきの中なかに高こう圧あつ酸素さんそと試料しりょうを入いれ燃焼ねんしょうさせ発熱はつねつ量りょうを測はかる装置そうち。
• 栄養えいよう - 栄養素えいようそ - 栄養えいよう学がく - 痩身そうしん・肥満ひまん（ダイエット）

外部がいぶリンク

• 財団ざいだん法人ほうじん 日本にっぽん食品しょくひん分析ぶんせきセンター FAQ