ビタミンE

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
トコフェロールから転送てんそう
ビタミンE
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 1406-18-4
にち番号ばんごう J203.513H
KEGG D02331 (医薬品いやくひん)
C02477
(αあるふぁ-トコフェロール)
C14152
(βべーた-トコフェロール)
C02483
(γがんま-トコフェロール)
C14151
(δでるた-トコフェロール)
C14153
(αあるふぁ-トコトリエノール)
C14154
(βべーた-トコトリエノール)
C14155
(γがんま-トコトリエノール)
C14156
(δでるた-トコトリエノール)
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

ビタミンE(vitamin E)は、あぶら溶性ようせいビタミンの1しゅである。トコフェロール(tocopherol)ともばれ、とくD-αあるふぁ-トコフェロールは自然しぜんかいひろ普遍ふへんてき存在そんざいし、植物しょくぶつ藻類そうるいあいなどの光合成こうごうせい生物せいぶつにより合成ごうせいされる。医薬品いやくひん食品しょくひん飼料しりょうなどに疾病しっぺい治療ちりょう栄養えいよう補給ほきゅう食品しょくひん添加てんかぶつ酸化さんか防止ぼうしざいとしてひろ利用りようされている。

ビタミンEの構造こうぞうちゅう環状かんじょう部分ぶぶんは、慣用かんようめいクロマンばれる構造こうぞうである。このクロマンにメチルもと位置いち有無うむによって、ことなるかたのトコフェロールに分類ぶんるいされる。ヒトではD-αあるふぁ-トコフェロールがもっともつよ活性かっせいをもち、おもこう酸化さんか物質ぶっしつとしてはたらくとかんがえられている。こう酸化さんか物質ぶっしつとしての役割やくわりは、代謝たいしゃによってしょうじるフリーラジカルから細胞さいぼうまもることである。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1922ねんアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくハーバート・エバンス英語えいごばん(Herbert M. Evans)とキャサリン・ビショップ英語えいごばん(Katharine S. Bishop)によって発見はっけんされた。

構造こうぞう[編集へんしゅう]

脂質ししつ酸化さんか反応はんのうのメカニズム

トコフェロールはトコールのメチル誘導体ゆうどうたいである。構造こうぞうちゅう環状かんじょう部分ぶぶんは、慣用かんようめいクロマンばれる構造こうぞうであり、このクロマンにメチルもと位置いち有無うむによって、αあるふぁ, βべーた, γがんま, δでるた の4しゅがある。また、トコフェロールの炭化たんか水素すいそくさり部分ぶぶん多数たすうじゅう結合けつごう部分ぶぶんつトコトリエノールも、ビタミンEとしての活性かっせいつ。トコトリエノールはべいなどに豊富ほうふふくまれ、トコフェロールと比較ひかくしてin vitroでは同等どうとう程度ていどこう酸化さんかりょくしめすが、細胞さいぼうちゅうでは40-60ばいこう酸化さんかりょくしめ[1]。トコトリエノールの経口けいこう摂取せっしゅは、生体せいたいちゅうにおける脳卒中のうそっちゅう関連かんれんのう血管けっかん障害しょうがい予防よぼうするとかんがえられている[2]

以下いかにトコフェロールとトコトリエノールの構造こうぞうしめす。

トコフェロール
トコトリエノール

メチルもと置換ちかん位置いちとトコフェロールの活性かっせい以下いかとおりである。

誘導体ゆうどうたい R1 R2 R3 活性かっせい
αあるふぁ CH3 CH3 CH3 100
βべーた CH3 H CH3 40
γがんま H CH3 CH3 10
δでるた H H CH3 1

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

ビタミンEは、フリーラジカルを消失しょうしつさせることによりみずからがビタミンEラジカルとなり、フリーラジカルによる脂質ししつ連鎖れんさてき酸化さんか阻止そしする。発生はっせいしたビタミンEラジカルは、ビタミンCなどのこう酸化さんか物質ぶっしつによりビタミンEに再生さいせいされる[3]

フリーラジカルはDNAタンパク質たんぱくしつ攻撃こうげきすることでガン原因げんいんともなりうるし、また、脂質ししつ酸化さんか反応はんのうにより脂質ししつ連鎖れんさてき酸化さんかさせるとされている[4]

摂取せっしゅ基準きじゅん[編集へんしゅう]

かつてはαあるふぁ-トコフェロールとうりょう (mgαあるふぁ-TE) で所要しょようりょう表示ひょうじされていたが、厚生こうせい労働省ろうどうしょう策定さくていした2010年版ねんばん食事しょくじ摂取せっしゅ基準きじゅんにおいては、αあるふぁ-トコフェロールのみの目安めやすりょう(adequate intake, AI)およ耐用たいよう上限じょうげんりょう(tolerable upper intake level, UL)をさだめている。血液けつえきおよ組織そしきちゅう存在そんざいするビタミンE同族どうぞくたいだい部分ぶぶんαあるふぁ─トコフェロールであるため、αあるふぁ─トコフェロールのみを指標しひょうにビタミンEの食事しょくじ摂取せっしゅ基準きじゅん策定さくていしている[5]

  • 目安めやすりょう
    • 成人せいじん男子だんし(18-29さい) 7 mg/day
    • 成人せいじん女子じょし(18-29さい) 6.5 mg/day
  • 上限じょうげんりょう
    • 成人せいじん男子だんし(18-29さい) 800 mg/day
    • 成人せいじん女子じょし(18-29さい) 650 mg/day

※ビタミンE 1 mg = 1 IU (国際こくさい単位たんい) に換算かんさんされる。

おおふく食品しょくひん[編集へんしゅう]

ビタミンEをおおふく食品しょくひん以下いかのとおりである。

主要しゅよう植物しょくぶつ(100g)ちゅう各種かくしゅトコフェロールの含有がんゆうりょう(mg)[6]
食品しょくひんめい αあるふぁ-トコフェロール βべーた-トコフェロール γがんま-トコフェロール δでるた-トコフェロール
ひまわり
(ハイオレイック)
38.7 0.8 2.0 0.4
綿実油めんじつゆ 28.3 0.3 27.1 0.4
サフラワー
(ハイオレイック)
27.1 0.6 2.3 0.3
こめぬか 25.5 1.5 3.4 0.4
とうもろこし 17.1 0.3 70.3 3.4
なたねあぶら 15.2 0.3 31.8 1.0
だい豆油 10.4 2.0 80.9 20.8
パーム 8.6 0.4 1.3 0.2
オリおりブ油ぶゆ 7.4 0.2 1.2 0.1
えごまあぶら 2.4 0.6 58.6 4.6
アマニ 0.5 0 39.2 0.6
ごまあぶら 0.4 Tr 43.7 0.7

欠乏症けつぼうしょう[編集へんしゅう]

未熟みじゅくにおいて、溶血ようけつせい貧血ひんけつ深部しんぶ感覚かんかく異常いじょうおよ小脳しょうのう失調しっちょう原因げんいんとなることがられている。生体せいたいまく活性かっせい酸素さんそ存在そんざいすると脂質ししつ酸化さんか反応はんのうにより酸化さんか脂質ししつ連鎖れんさてき生成せいせいされ、まく損傷そんしょうし、赤血球せっけっきゅうでは溶血ようけつこるなど生体せいたいまく機能きのう障害しょうがい発生はっせいする[7][信頼しんらいせいよう検証けんしょう]。また、不妊症ふにんしょうすじ萎縮いしゅくしょう脳軟化症のうなんかしょう原因げんいんとなるといわれているが、植物しょくぶつ豊富ほうふふくまれているため通常つうじょう食生活しょくせいかつ欠乏けつぼうすることはないとわれている。

特発とくはつせいビタミンE欠乏症けつぼうしょう[編集へんしゅう]

ビタミンE欠乏症けつぼうしょう原因げんいんかかわらず臨床りんしょう症状しょうじょう比較的ひかくてき一定いっていである。神経症しんけいしょうじょうではフリードライヒ失調しっちょうしょうとほとんど区別くべつがつかないが一部いちぶれい網膜もうまく色素しきそ変性へんせいしょうともなてんことなっている。基本きほんてき神経症しんけいしょうじょう下肢かし高度こうど顕著けんちょ深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがいこうさくせい運動うんどう失調しっちょう構音障害しょうがい四肢ししけん反射はんしゃ消失しょうしつである。深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがい重度じゅうどで、振動しんどうさとし消失しょうしつし、四肢しし関節かんせつ位置いちさとし障害しょうがい高度こうどである。一部いちぶ患者かんじゃでは網膜もうまく色素しきそ変性へんせいしょうがわ彎症、凹足、バビンスキー徴候ちょうこうせんみとめる。知能ちのう障害しょうがい線維せんいたばせい攣縮、自律じりつ神経症しんけいしょうじょうみとめない。頭部とうぶMRIでは小脳しょうのう脳幹のうかん萎縮いしゅく異常いじょう信号しんごういきみとめられない。脊髄せきずいMRIでは脊髄せきずい異常いじょうみとめられることがある。電気でんき生理学せいりがくてき所見しょけんでは正中せいちゅう神経しんけいSEPではN13と皮質ひしつ電位でんい消失しょうしつみとめるが末梢まっしょう神経しんけい電位でんいみとめられる。治療ちりょうほう吸収きゅうしゅう不良ふりょうともな場合ばあいはビタミンEの筋肉きんにく注射ちゅうしゃであり、吸収きゅうしゅう不良ふりょうではない場合ばあい経口けいこう大量たいりょう投与とうよ神経症しんけいしょうじょう軽度けいど改善かいぜん進行しんこう停止ていし期待きたいできる。

過剰かじょうしょう[編集へんしゅう]

過剰かじょう摂取せっしゅした場合ばあいほねってもろくなる骨粗こつそしょうしょうになるおそれがたかまるとの動物どうぶつ実験じっけん結果けっか報告ほうこくされている。あぶら溶性ようせいのため体内たいない蓄積ちくせきしやすいことからも過剰かじょう摂取せっしゅはすすめられない[8]

効果こうか[編集へんしゅう]

  • 基礎きそ研究けんきゅう

放射線ほうしゃせん照射しょうしゃにより赤血球せっけっきゅう溶血ようけつ反応はんのう発生はっせいするが、これは放射線ほうしゃせんによる活性かっせい酸素さんそ生成せいせいにより脂質ししつ酸化さんか反応はんのうによるまく破壊はかいによるものである。ラットを使つかった研究けんきゅうでは、ビタミンEの投与とうよにより、放射線ほうしゃせんによる赤血球せっけっきゅう溶血ようけつ細胞さいぼうしょう器官きかんであるミトコンドリア、ミクロゾーム、リボゾーム脂質ししつ酸化さんか反応はんのう顕著けんちょ抑制よくせいされた。SOD同様どうよう効果こうかしめした[9]

相互そうご作用さよう[編集へんしゅう]

  • ビタミンEとビタミンK1(フィロキノン)のあいだには相互そうご作用さようがあり、ビタミンEは体内たいないのビタミンK1りょうまたは活性かっせい減少げんしょうさせる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 谷口たにぐち橋本はしもと細田ほそだほか 2012, pp. 301–318.
  2. ^ Khanna S, Roy S, Slivka A, et al 2005, pp. 2258–64.
  3. ^ 平原へいげん 1994.
  4. ^ 吉川よしかわ敏一としいち, 谷川たにがわとおる (1999). 活性かっせい酵素こうそ・フリーラジカルの化学かがく生物せいぶつ活性かっせい酸素さんそ・フリーラジカルと疾患しっかん. 化学かがく生物せいぶつ (日本にっぽん農芸のうげい学会がっかい) 37 (7): 475-481. doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.37.475. ISSN 0453-073X. NAID 130003439797. https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.37.475. 
  5. ^ 厚生こうせい労働省ろうどうしょう日本人にっぽんじん食事しょくじ摂取せっしゅ基準きじゅん(2020年版ねんばん」、策定さくてい検討けんとうかい報告ほうこくしょ#参考さんこう文献ぶんけんのとおり。
  6. ^ 七訂食品標準成分表 2015.
  7. ^ ビタミンの栄養えいよう 授業じゅぎょう資料しりょう2006ねん06がつ23にち追加ついか
  8. ^ 過剰かじょう摂取せっしゅ骨粗こつそしょうしょうおそ人気にんきサプリのビタミンE”. 47 NEWS. (2012ねん3がつ4にち). https://web.archive.org/web/20140725062212/http://www.47news.jp/medical/2012/03/post_20120305031204.php 2012ねん3がつ4にち閲覧えつらん 
  9. ^ 青野あおの山本やまもと飯田いいだほか 1978.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

発行はっこうねんじゅん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]