九月くがつ虐殺ぎゃくさつ

九月くがつ虐殺ぎゃくさつ（くがつぎゃくさつ、仏ふつ: Massacres de Septembre）は、フランス革命かくめいにおいて1792年ねん9月2日にちから数すう日間にちかんにわたって行おこなわれたパリの監獄かんごくでの虐殺ぎゃくさつ。殺害さつがいされた人数にんずうはパリで1300人にん、地方ちほうで150人にんといわれる。

虐殺ぎゃくさつ発生はっせいの遠因えんいん

1792年ねん8月がつ11日にち、立法りっぽう議会ぎかいがパリ市しのコミューンの圧あつ力りょくによりフランス国内こくない全土ぜんどの反はん革命かくめい容疑ようぎ者しゃの逮捕たいほを許可きょかし、8月がつ17日にちにはこれらの犯罪はんざい者しゃたちを裁さばく「特別とくべつ刑事けいじ裁判所さいばんしょ」の設置せっちを承認しょうにんした。こうしてパリの牢獄ろうごくは反はん革命かくめい主義しゅぎと看做みなされた囚人しゅうじんで満員まんいんになった。 8月がつ26日にちにロンウィがプロイセン軍ぐんにより攻略こうりゃくされ、パリ侵攻しんこうへの危機きき感かんが一挙いっきょに高たかまった。義勇ぎゆう兵へいの募集ぼしゅうが行おこなわれたが、その一方いっぽうで「牢獄ろうごくに収監しゅうかんされている反はん革命かくめい主義しゅぎ者しゃたちが義勇ぎゆう兵へいの出兵しゅっぺい後ごにパリに残のこった彼かれらの家族かぞくを虐殺ぎゃくさつする」という噂うわさも流ながれていた。

「国王こくおう派はの亡命ぼうめい者しゃと外国がいこく軍ぐんとが、革命かくめいの粉砕ふんさいと市民しみんの虐殺ぎゃくさつを狙ねらっている。内部ないぶから呼応こおうしかねない反はん革命かくめい容疑ようぎ者しゃを捕とらえよ」。こうして8月がつ30日にち、パリ市内しないで家宅かたく捜索そうさくが行おこなわれ、約やく3千せん人にんの容疑ようぎ者しゃが逮捕たいほされた。しかし、特別とくべつ重罪じゅうざい裁判所さいばんしょは機能きのうしていない。

勃発ぼっぱつ

きっかけは革命かくめい戦争せんそうにおいて、オーストリア軍ぐんがヴェルダン要塞ようさいを陥落かんらくさせ、その敗報はいほうがパリに衝撃しょうげきをもたらした際さいに行おこなわれた、ダントンの演説えんぜつである。彼かれは「全すべては興奮こうふんし、全すべては動どう顚し、全すべては掴つかみかからんばかりだ。やがて打うち鳴ならされる鐘かねは警戒けいかいの知しらせではない。それは祖国そこくの敵てきへの攻撃こうげきなのだ。敵てきに打うち勝かつためには、大胆だいたんさ、いっそうの大胆だいたんさ、常つねに大胆だいたんさが必要ひつようなのだ。そうすればフランスは救すくわれるだろう！」と呼よびかけた。これがテロリズムへの公然こうぜんたる誘導ゆうどうとなった。

9月2日にちの朝あさから反はん革命かくめい派は狩かりが始はじまり、パリ市しのコミューンの監視かんし委員いいん会かいは全すべての囚人しゅうじんを人民じんみんの名なにおいて裁判さいばんすることを命めいじた。コミューンは防衛ぼうえいを固かため、警鐘けいしょうが乱打らんだされ、市し門もんは閉とじられた。義勇軍ぎゆうぐんの編成へんせいが始はじまる。数日すうじつ前まえから、「殺ころし屋や」が集あつめられていた。三さん色しょくの記章きしょうをつけた赤あかい帽子ぼうしをかぶり、緋色ひいろの上着うわぎを着きた彼かれらは忠実ちゅうじつに任務にんむを果はたした。「外国がいこく軍ぐんとし合めしあわせるために、牢屋ろうやの中なかで陰謀いんぼうが企たくらまれている。『反はん革命かくめいの陰謀いんぼう』だ。やられる前まえに、やれ。」こうして、その日ひの午後ごごから、民衆みんしゅうによる牢獄ろうごくの襲撃しゅうげきが始はじまった。牢獄ろうごくは次々つぎつぎと襲おそわれ、囚人しゅうじんは手当てあてたり次第しだいに引ひきずり出だされた。問答もんどう無用むようの殺害さつがい、あるいは略式りゃくしき裁判さいばんのまねごとの後のち、虐殺ぎゃくさつ。一連いちれんの虐殺ぎゃくさつ行為こういは監獄かんごく内ないの「人民じんみん法廷ほうてい」での即決そっけつ裁判さいばんの結果けっかを受うけて有罪ゆうざいの判決はんけつが下くだされた囚人しゅうじんは殺害さつがいし、それ以外いがいの者ものは無罪むざい放免ほうめんするという極端きょくたんな形かたちで行おこなわれた。

犠牲ぎせい者しゃ

当時とうじアベイとカルム、その他たの牢獄ろうごくには反はん革命かくめい的てきとされた聖職せいしょく者しゃが収容しゅうようされていた。聖職せいしょく者しゃ民事みんじ基本きほん法ほうへの宣誓せんせいを拒否きょひして囚とらわれていた聖職せいしょく者しゃたちもいたが、政治せいじに関係かんけいしたと考かんがえられる者ものは多おおくなかった。興奮こうふんした民衆みんしゅうの一群いちぐんがまずアベイの牢獄ろうごくに押おしかけて収容しゅうようされていた23人にんの聖職せいしょく者しゃを殺害さつがいし、ついでカルムの牢獄ろうごくにおもむき、150人にんの聖職せいしょく者しゃの大だい部分ぶぶんを殺害さつがいした。

虐殺ぎゃくさつは数すう日間にちかん続つづいた。マリー・アントワネットと運命うんめいを共ともにするため帰国きこくし、逮捕たいほされていたランバル夫人ふじんも、無残むざんに殺ころされた。群集ぐんしゅうは彼女かのじょの遺骸いがいから衣装いしょうを剥はぎ取とり、身体しんたいを切断せつだんし、踏ふみにじった。ある一団いちだんは、その頭あたまを槍やりの先さきに刺さしてタンプル塔とう前まえで王妃おうひに見みせつけるという示威じい行為こういをとった。

この結果けっかパリ市内しないの牢獄ろうごくは空そらになった。数日すうじつ間あいだ吹ふき荒あれた暴力ぼうりょくで犠牲ぎせいになったものは、推計すいけい1100人にんから1400人にん。のちになって、犠牲ぎせい者しゃの4分ぶんの3はありふれた通常つうじょうの犯罪はんざい者しゃだったことが判明はんめい。犠牲ぎせい者しゃのうち本来ほんらい殺害さつがいの対象たいしょうとなる反はん革命かくめい主義しゅぎの政治せいじ犯はんは全体ぜんたいの4分ぶんの1にすぎなかった。

また、似にたような虐殺ぎゃくさつが、前後ぜんごして各地かくちの都市としでも起おこった。その犠牲ぎせい者しゃの総計そうけいは150人にんといわれている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『フランス史し2』山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ、1996年ねん。 ISBN 4-634-46100-5
• 福井ふくい憲彦のりひこ『世界せかいの歴史れきし21―アメリカとフランスの革命かくめい』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ
• 河野こうの健二けんじ、樋口ひぐち謹一きんいち『世界せかいの歴史れきし15―フランス革命かくめい』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ
• Frédéric Bluche, Septembre 1792 : logiques d'un massacre, Paris, Robert Laffont, coll. « Les Hommes et l'histoire », 1986, 286 p.

関連かんれん項目こうもく

• ウィリアム・ワーズワース：事件じけんの一いちヵ月かげつ後ごにパリを訪おとずれて惨状さんじょうを目まの当あたりにし、1805年ねん作さくの自叙伝じじょでん的てき詩し「序曲じょきょく　"The Prelude"」で描写びょうしゃしている。この事件じけんはワーズワースが傾倒けいとうしていたフランス革命かくめいに幻滅げんめつする一因いちいんとなった。
• スタニスラス＝マリー・マイヤール：各かく監獄かんごくで行おこなわれた「裁判さいばん」において裁判さいばん長ちょうを務つとめた人物じんぶつ。

外部がいぶリンク

• 『九月くがつ虐殺ぎゃくさつ』 - コトバンク