最高さいこう存在そんざいの祭典さいてん

最高さいこう存在そんざいの祭典さいてん

最高さいこう存在そんざいの祭典さいてん（さいこうそんざいのさいてん、La fête de l'Être suprême）とは、フランス革命かくめい期き、マクシミリアン・ロベスピエールの独裁どくさい政権せいけん下かのフランス共和きょうわ国こくで、1794年ねん5月7日にちの法令ほうれいに基もとづいて6月8日にちにテュイルリー宮殿きゅうでんおよびシャン・ド・マルス公園こうえんで行おこなわれた宗教しゅうきょう祭典さいてん。

背景はいけい

フランス革命かくめいが絶頂ぜっちょうに達たっしロベスピエールの独裁どくさいが確立かくりつした時期じきで、恐怖きょうふ政治せいじがフランス全土ぜんどを覆おおっていた。彼かれは人間にんげんの理性りせいを絶対ぜったい視しし、キリスト教きりすときょうを迫害はくがいしカトリック教会きょうかい制度せいどを破壊はかいした。同時どうじに恐怖きょうふ政治せいじは美徳びとくに基もとづくべきという理想りそうを持もっており、キリスト教きょうに代かわる道徳どうとくを求もとめていた。また、国内こくないは不安定ふあんていさを増まし革命かくめい政府せいふは祖国そこく愛あいに訴うったえて革命かくめいの危機ききを乗のり越こえる必要ひつようがあった。

これらの事情じじょうからキリスト教きょうに代かわる理性りせい崇拝すうはいのための祭典さいてんを開ひらく必要ひつように迫せまられていた。1793年ねん11月10日にち、パリのノートルダム大だい聖堂せいどうの内陣ないじん中央ちゅうおうに人工じんこうの山やまが設もうけられ、その頂上ちょうじょうにギリシャ風ふうの神殿しんでんが建たてられ、その四隅よすみにはヴォルテール、ジャン＝ジャック・ルソー、シャルル・ド・モンテスキューといった啓蒙けいもう思想しそう家いえたちの胸像きょうぞうが設置せっちされて神殿しんでんのなかから「自由じゆうと理性りせいの女神めがみ」に扮ふんしたオペラ座ざの女優じょゆうが現あらわれるといった趣向しゅこうで「理性りせいの祭典さいてん」が始はじまった。これはエベール派はの主導しゅどうでおこなわれ、きわめて無む神かみ論ろん的てき性格せいかくの強つよいものであった。

しかし、霊魂れいこんの不滅ふめつを信しんじる清廉せいれん潔白けっぱくなロベスピエールからすれば、革命かくめいの祭典さいてんはこのような無む神かみ論ろん的てき、無む政府せいふ主義しゅぎ的てきなものであってはならないのであった。ロベスピエールにとってそれは、カーニヴァルのような前ぜん近代きんだい的てき民俗みんぞくの再生さいせいであってはならず、「新あたらしい人間にんげん」すなわち共和きょうわ主義しゅぎ的てきな公民こうみんを創そう生せいするための公おおやけ教育きょういくの一環いっかんでなくてはならなかった。「単一たんいつにして不可分ふかぶん」であるはずのフランス共和きょうわ国こくの基盤きばんは道徳どうとく性せいを備そなえた民衆みんしゅうのなかにこそある。その道徳どうとく性せいなるものは信仰しんこう心しんなくして生うまれないと考かんがえるロベスピエールは、「もし神かみが存在そんざいしないなら、それを発明はつめいする必要ひつようがある」と語かたったといわれている。キリスト教きりすときょうの「神かみ」に代かわるもの、それが「最高さいこう存在そんざい」なのであった。こうして、1794年ねん5月7日にちの法令ほうれいに基もとづいて6月8日にちにテュイルリー宮殿きゅうでんやシャン・ド・マルス公園こうえんを中心ちゅうしんに「最高さいこう存在そんざいの祭典さいてん」が挙行きょこうされた。その中心ちゅうしんとなったのはロベスピエール派はであり、理り神かみ論ろん的てき性格せいかくの濃こいものであった。この祭典さいてんの思想しそう的てき背景はいけいとしては、ルソーの「市民しみん宗教しゅうきょう」の主張しゅちょうがあるとされる。

「理性りせいの崇拝すうはい」および「最高さいこう存在そんざいの崇拝すうはい」はまた、「革命かくめい的てき宗教しゅうきょう」ないし「革命かくめい的てき諸しょ宗教しゅうきょう」とも称しょうされている。

儀式ぎしき

最高さいこう存在そんざいの祭典さいてん

朝あさ8時じ、ポン・ヌフの大砲たいほうを号令ごうれいとして鳴なり響ひびき、人々ひとびとの参集さんしゅうを求もとめた。数かず十じゅう万まんの観衆かんしゅうが動員どういんされ、テュイルリー宮みやの正面しょうめんに向むかって、樫かしの枝えだを持もった男おとこと薔薇ばらの花はなを抱だいた女おんなたちの行列ぎょうれつが進すすんだ。国民こくみん衛兵えいへいを配はいして整然せいぜんと執とり行おこなわれた祭典さいてんではまず、「無む信仰しんこう」を象徴しょうちょうする怪物かいぶつの像ぞうが焼やかれると「叡智えいち（最高さいこう存在そんざい）」の像ぞうが姿すがたを現あらわし、その横よこには「美徳びとくの司祭しさい」としてロベスピエールが粛然しゅくぜんとして起立きりつし、ロベスピエールが「最高さいこう存在そんざい」に敬意けいいを表あらわし「明日あしたから、なお悪行あくぎょうと専制せんせい者しゃと戦たたかう」ことを誓ちかい、その後ごシャン・ド・マルスまで行進こうしんするという理り神かみ論ろん的てきな演出えんしゅつがなされた。演出えんしゅつは画家がかのジャック＝ルイ・ダヴィッドによってなされたが、ジャック・ルネ・エベールやジョルジュ・ダントンを粛清しゅくせいしたロベスピエールの指令しれいにもとづく周到しゅうとうに練ねられた、目的もくてき意識いしきな市民しみん宗教しゅうきょうの儀式ぎしきであった。これらはキリスト教きりすときょうの神かみを否定ひていしていながらも実際じっさいには完璧かんぺきな宗教しゅうきょう儀式ぎしきの外観がいかんを呈ていしていたとも評価ひょうかされている。

これは確たしかに新あたらしい政治せいじ文化ぶんかの創造そうぞうという点てんでは革命かくめい運動うんどうの頂点ちょうてんを示しめすものであり、ときに無秩序むちつじょに発散はっさんされる民衆みんしゅう運動うんどうのエネルギーを統制とうせいして公民こうみん道徳どうとくの秩序ちつじょに適合てきごうさせる意味合いみあいを有ゆうしていた。ロベスピエールはこの試こころみに成功せいこうしたが、しかし一方いっぽうでは、革命かくめい運動うんどうを支ささえていた下したからのエネルギーを抑おさえ込こむ結果けっかともなった。この祭典さいてんの開催かいさいされた約やく2か月げつ後ごのテルミドールのクーデターでロベスピエール自身じしんが失脚しっきゃくしてギロチン刑けいに処しょせられることとなるが、これとともに、一連いちれんの壮大そうだいな文化ぶんか革命かくめいも急速きゅうそくな退潮たいちょうを示しめすこととなった。

参考さんこう文献ぶんけん

• 工藤くどう庸子ようこ『宗教しゅうきょうvs.国家こっか-フランスの《政教せいきょう分離ぶんり》と市民しみんの誕生たんじょう』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ現代新書げんだいしんしょ〉、2007年ねん1月がつ。ISBN 978-4-06-149874-7。 
• 谷川たにがわ稔みのる、渡辺わたなべ和行かずゆき編著へんちょ 編へん『近代きんだいフランスの歴史れきし－国民こくみん国家こっか形成けいせいの彼方かなたに－』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2006年ねん2月がつ。ISBN 4-623-04495-5。 
  • 谷川たにがわ稔みのる「第だい二に章しょうフランス革命かくめいとナポレオン帝政ていせい 3.文化ぶんかと習俗しゅうぞくの革命かくめい」『近代きんだいフランスの歴史れきし－国民こくみん国家こっか形成けいせいの彼方かなたに－』2006年ねん。ISBN 4-623-04495-5。 
• F. フュレ、M. オズーフ 編へん、河野こうの健二けんじ・阪上さかうえ孝たかし・富永とみなが茂樹しげきら 訳やく『フランス革命かくめい事典じてん4 制度せいど』みすず書房しょぼう〈みすずライブラリー〉、1999年ねん8月がつ。ISBN 4-622-05044-7。 
  • モナ・オズーフ 著しる、阪上さかうえ孝たかし 訳やく「革命かくめい的てき宗教しゅうきょう」『フランス革命かくめい事典じてん4』1999年ねん。ISBN 4-622-05044-7。 
• ロジャー・プライス 著しる、河野こうの肇はじめ 訳わけ「フランス革命かくめいとナポレオン帝国ていこく」『フランスの歴史れきし』創そう土ど社しゃ〈ケンブリッジ版ばん世界せかい各国かっこく史し〉、2008年ねん8月がつ。ISBN 978-4-7893-0061-2。 

関連かんれん項目こうもく　

• 理性りせいの祭典さいてん
• 理り神かみ論ろん
• フランス革命かくめい期きにおける非ひキリスト教化きょうか運動うんどう
• ヨーロッパにおける政教せいきょう分離ぶんりの歴史れきし
• 聖母せいぼマリア - 薔薇ばらは聖母せいぼマリア（あるいは、アプロディーテー/ヴィーナス）のシンボルである。また、樫かしの木きも聖母せいぼマリア（あるいは、聖母子せいぼし、十字架じゅうじか＝救済きゅうさい）のシンボルである。樫かしの木きはゼウス/ユーピテルのシンボルでもある。

外部がいぶリンク

• The Supreme Being, by Maximilien Robespierre. Source: Internet Modern History Sourcebook, Fordham University, NY.
• Decree on Worship of the Supreme Being Source: Church and state in the modern age: a documentary history; J. F. Maclear, ed.; Oxford Univ. Press, 1999.
• ウィキメディア・コモンズには、最高さいこう存在そんざいの祭典さいてんに関かんするカテゴリがあります。