吉田よしだ神道しんとう

吉田よしだ神社じんじゃ　斎場さいじょう所しょ大だい元宮もとみや（京都きょうと市し左京さきょう区く）

吉田よしだ神道しんとう（よしだしんとう）とは、室町むろまち時代ときよ京都きょうと吉田よしだ神社じんじゃの神職しんしょく吉田よしだ兼倶かねともによって大成たいせいされた神道しんとうの一いち流派りゅうは。唯一ゆいいつ神道しんとう、卜部うらべ神道しんとう、元本がんぽん宗そう源はじめ神道しんとう、唯一ゆいいつ宗そう源はじめ神道しんとうとも。

概要がいよう

吉田よしだ神道しんとうは、室町むろまち時代じだい、京都きょうとの神道しんとう家か・吉田よしだ兼倶かねともに始はじまる吉田よしだ家かが唱となえた神道しんとうの一流いちりゅう派はであるが、実際じっさいは吉田よしだ兼倶かねともがほとんど一人ひとりで集成しゅうせいしたと見みられている。元本がんぽん宗そう源はじめ神道しんとう、唯一ゆいいつ宗そう源はじめ神道しんとうなどを自称じしょうしている。本地垂迹ほんじすいじゃく説せつである両部神道りょうぶしんとうや山王さんのう神道しんとうに対たいし、反はん本地垂迹ほんじすいじゃく説せつ（神かみ本ほん仏ふつ迹説）を唱となえ、本地ほんじで唯一ゆいいつなるものを神かみとして森羅万象しんらばんしょうを体系たいけいづけ、汎ひろし神かみ教きょう的てき世界せかい観かんを構築こうちくしたとされる。

『唯ただ一いち神道しんとう名めい法要ほうよう集しゅう』によれば、神道しんとうは本ほん迹縁起えんぎ神道しんとう、または社しゃ例れい伝記でんき神道しんとう、両部りょうぶ習合しゅうごう神道しんとう、元本がんぽん宗そう源はじめ神道しんとうの三種さんしゅに分わけられ、このうち第だい三さんの元本がんぽん宗そう源はじめ神道しんとうは吉田よしだ家かの祖先そせん神しんであるアメノコヤネノミコトによって伝つたえられた正統せいとう的てき神道しんとうであるとする。同書どうしょによれば元本がんぽん宗そう源はじめ神道しんとうとは「元もととは陰陽いんよう不測ふそくの元元もともとを明あかりす。本ほんとは一念いちねん未生みしょうの本ほん本ほんを明あかりす。（中略ちゅうりゃく）宗しゅうとは一気いっき未ひつじ分ぶんの元もと神かみを明あかりす。源みなもととは和光同塵わこうどうじんの神化しんかを明あかりす。」ものであり、即すなわち「吾われ国こく開闢かいびゃく以来いらい唯一ゆいいつ神道しんとう是也これや」とする。

吉田よしだ神道しんとうは、中世ちゅうせい神道しんとう思想しそうを集大成しゅうたいせいし、様々さまざまな宗教しゅうきょうの諸しょ言説げんせつを越境えっきょう的てきに統合とうごうしつつ、仏教ぶっきょうから独立どくりつした独自どくじの教義きょうぎ・経典きょうてん・祭祀さいしを持もつはじめての神道しんとう説せつとなり、神道しんとう史しにおける大おおきな画が期きとなった。

思想しそうと儀礼ぎれい

吉田よしだ神道しんとうは、仏教ぶっきょう・道教どうきょう・儒教じゅきょうの思想しそうを取とり入いれた、総合そうごう的てきな神道しんとう説せつとされる。吉田よしだ神道しんとうは、仏教ぶっきょうを「花実はなみ」、儒教じゅきょうを「枝葉えだは」、神道しんとうを「根ね」と位置いちづけた。

吉田よしだ神道しんとうは、顕あらわ隠かくれ二に教きょうを以って一体いったいとなすのが特徴とくちょうで、顕あきら露ろ教きょうの教きょう説せつを語かたるものとしては『古事記こじき』『日本書紀にほんしょき』『先代せんだい旧きゅう事こと記き』（三さん部ぶ本書ほんしょ）、隠かくれ幽かそけ教きょうの教きょう説せつは『天元てんげん神変しんぺん神妙しんみょう経けい』『地元じもと神通じんずう神妙しんみょう経けい』『人ひと元もと神力しんりき神妙しんみょう経けい』（三さん部ぶ神経しんけい）に基もとづくとする。

三さん部ぶ神経しんけいの教きょう説せつでは、神道しんとうには本質ほんしつである「体からだ」、現あらわれ出でた姿すがたである「相そう」、はたらきである「用よう」の三さん側面そくめんがあると主張しゅちょうし、「体からだ」は「天元てんげん」「地元じもと」「人ひと元もと」の三みっつを有ゆうしているとした。そして「相そう」には「天てん五ご行ぎょう」「地ち五ご行ぎょう」「人ひと五ご行ぎょう」があり、天てん五ご行ぎょうは五ご行ぎょう相克そうこくを司つかさどり五ご星ほしなどを化かし、地ち五ご行ぎょうは五ご行ぎょう相生あいおいを司つかさどり五ご竜王りゅうおうなどを化かし、人ひと五ご行ぎょうは五大ごだいを司つかさどり五臓ごぞうなどに化かすと主張しゅちょうした。さらに、「用よう」には天てん妙みょう・地ち妙みょう・人にん妙みょうの三さん妙みょうがあり、三みっつの「妙みょう」がそれぞれ神変しんぺん・神通じんずう・神力しんりきの三みっつの力ちからを具ぐしており、この九ここのつの作用さようが、日月じつげつや寒かん暑あつ、自然しぜんなどのあらゆる現象げんしょうを司つかさどっているとし、これを総称そうしょうして三さん才さい九きゅう部ぶ妙みょう壇だんと呼称こしょうした。総そうじて言いえば、森羅万象しんらばんしょう全すべてが神道しんとうの顕現けんげんなることを説とくもので、天上てんじょう・地上ちじょう・人体じんたいのそれぞれの内部ないぶに神かみが存在そんざいし、神かみが宇宙うちゅう全体ぜんたいに遍満へんまんするという一種いっしゅの汎神論はんしんろんが、兼倶かねともの構想こうそうした神道しんとう説せつであった。

また、儀礼ぎれいにおいては、八角はっかく形がたの壇だんの中なかで火ひを焚たいて祈祷きとうを行おこなう護摩ごま行事ぎょうじを発案はつあんし、「十じゅう八はち神道しんとう行事ぎょうじ」「宗そう源はじめ神道しんとう行事ぎょうじ」と並ならぶ三さん壇だん行事ぎょうじを形成けいせいした。

これらの思想しそうや儀礼ぎれいは、上述じょうじゅつのとおり、仏教ぶっきょう・道教どうきょう・儒教じゅきょうのほか、陰陽いんよう道どう、密教みっきょうの加持かじ祈祷きとうなどを取とり入いれたものである。

歴史れきし

室町むろまち時代ときよ、吉田よしだ神道しんとうと同様どうように反はん本地垂迹ほんじすいじゃく説せつの立場たちばをとっていた伊勢いせ神道しんとう（度会わたらい神道しんとう）が南朝なんちょうと結むすびつくことで勢力せいりょくを失うしなっていたため、吉田よしだ神道しんとうが反はん本地垂迹ほんじすいじゃく説せつを受うけ継つぐこととなった。吉田よしだ神道しんとうによって、反はん本地垂迹ほんじすいじゃく説せつは完成かんせいに導みちびかれ、より強固きょうこなものとなった。

兼倶かねともは祓はらいの秘宝ひほう伝授でんじゅを行おこない『日本書紀にほんしょき』を後こう土御門天皇つちみかどてんのうから比叡山ひえいざんの僧侶そうりょに至いたるまで講釈こうしゃくし、『神道しんとう大意たいい』などが自身じしんの家いえに伝つたえられたと捏造ねつぞうし、さらに伊勢いせ信仰しんこうを吸収きゅうしゅうするために川かわの上流じょうりゅうに塩しおをまき、「伊勢いせの神器じんぎが吉田山よしだやまに降臨こうりんした」と偽いつわったので神宮じんぐう側がわから激はげしい反発はんぱつが起おこった。

しかし活発かっぱつな宣教せんきょう運動うんどうにより、日野ひの富子とみこらの寄付きふによって虚無きょむ太ふと元もと尊みこと神しん（そらなきおおもとみことかみ）を祭神さいじんとする神道しんとうの総本山そうほんざんを自称じしょうする斎場さいじょう所しょ太ふとし元宮もとみやを完成かんせいさせ、朝廷ちょうていや幕府ばくふに取とり入いって支持しじを取とり付つけつつ、従来じゅうらいの白川しらかわ家かをしのいで神職しんしょくの任免にんめん権けんを得え、権勢けんせいに乗じょうじた兼倶かねともはさらに神祇じんぎ管領かんりょう長上ちょうじょうという称しょうを用もちいて、「宗そう源はじめ宣旨せんじ」を以って地方ちほうの神社じんじゃに神位しんいを授さづけ、また神職しんしょくの位階いかいを授さづける権限けんげんを与あたえられて、吉田よしだ家かをほぼ全国ぜんこくの神社じんじゃ・神職しんしょくをその勢力せいりょく下かに収おさめた神道しんとうの家元いえもと的てきな立場たちばに押おし上あげていった。

このように神道しんとうを日本にっぽんの宗教しゅうきょうの根本こんぽんと言いいながらも、それまでの儒教じゅきょう、仏教ぶっきょう、道教どうきょう、陰陽いんよう道どうなどを習合しゅうごうにおける矛盾むじゅんを巧妙こうみょうに解釈かいしゃく・混用こんようした、きわめて作為さくい的てきな宗教しゅうきょうであったが、一方いっぽうでその融合ゆうごう性せいに富とむところから近世きんせいに広ひろく長期ちょうきに渡わたって浸透しんとうし続つづけた。兼倶かねともによる他たから独立どくりつした思想しそう的てきな発展はってんの可能かのう性せいを指摘してきするものもある。戦国せんごく末期まっきには神かみ龍りゅう院いん梵舜が著名ちょめい。

本来ほんらいの神道しんとうは皇室こうしつが主家しゅかであり、長ながく白川しらかわ家かが実務じつむ担当たんとうの役やくにあったが、以後いご、大だい部分ぶぶんの権限けんげんを吉田よしだ家かが持もつこととなった。一時いちじ衰退すいたいした時期じきもあったが、江戸えど期きには、徳川とくがわ幕府ばくふが寛文ひろふみ5年ねん（1665年ねん）に制定せいていした諸しょ社しゃ禰宜ねぎ神主かんぬし法度はっとで、神道しんとう本所ほんじょとして全国ぜんこくの神社じんじゃ・神職しんしょくをその支配しはい下かに置おいた。

やがて平田ひらた篤胤あつたねらによる復古ふっこ神道しんとう、いわゆる平田ひらた神道しんとうが隆盛りゅうせいとなり、明治めいじの神仏しんぶつ分離ぶんりにより吉田よしだ神道しんとうと対立たいりつする本地垂迹ほんじすいじゃく説せつはほぼ完全かんぜんに衰退すいたいするものの、明治めいじ政府せいふにより古代こだいの官制かんせいに基もとづく神祇官じんぎかんが復古ふっこされて、かつての権勢けんせいは失うしなわれている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 井上いのうえ智勝ともかつ『吉田よしだ神道しんとうの四よん百ひゃく年ねん 神しんと葵あおいの近世きんせい史し』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ選書せんしょメチエ〉、2013年ねん。ISBN 978-4-06-258545-3。 
• 出村いでむら勝明かつあき『吉田よしだ神道しんとうの基礎きそ的てき研究けんきゅう』神道しんとう史し学会がっかい〈神道しんとう史し研究けんきゅう叢書そうしょ〉、1997年ねん。ISBN 4-653-03303-X。 
• 『卜部うらべ神道しんとう（上下じょうげ）』神道しんとう大系たいけい論説ろんせつ編へん8,9
• 『吉田よしだ叢書そうしょ（1〜5編へん)』内外ないがい書籍しょせき他た (参考さんこう:吉田よしだ家か伝来でんらい資料しりょうと國學院大學こくがくいんだいがく【学問がくもんの道みち】 - 國學院大學こくがくいんだいがくメディア、編纂へんさん過程かていの説明せつめいがある)
• 『神道しんとう行法ぎょうほうの本ほん―日本にっぽんの霊れい統みつるを貫つらぬく神かみ祇奉祭さいの秘事ひめごと』学研がっけん〈BooksEsoterica〉、2005年ねん。ISBN 4-05-603775-2。 
• 全国ぜんこく歴史れきし教育きょういく研究けんきゅう協議きょうぎ会かい『日本にっぽん史しB用語ようご集しゅう―A併記へいき』（改訂かいてい版ばん）山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ、2009年ねん。ISBN 978-4-634-01302-5。 
• 日本にっぽん史し用語ようご研究けんきゅう会かい『必携ひっけい日本にっぽん史し用語ようご』（四よん訂てい版ばん）実教出版じつきょうしゅっぱん、2009年ねん。ISBN 978-4-407-31659-9。 

関連かんれん項目こうもく

• 三さん十じゅう番ばん神しん
• 吉田よしだ神社じんじゃ
• 平野ひらの神社じんじゃ
• 吉田よしだ家か
• 卜部うらべ氏し
• 国之くにゆき常つね立神たてがみ
• 吉川よしかわ神道しんとう

外部がいぶリンク

• 吉田よしだ文庫ぶんこ神道しんとう書しょ目録もくろく - 天理てんり図書館としょかん
• 吉田よしだ神道しんとう関係かんけい近世きんせい文書ぶんしょ　<貴き2157> - 國學院こくがくいん図書館としょかん
• 吉田よしだ家か文書ぶんしょ　　<吉きち1-127> - 國學院こくがくいん図書館としょかん
• 中ちゅう臣しん祓はらい記き解かい梵舜筆ひつ 慶長けいちょう12(1607)年ねん写うつし (解説かいせつ) - 國學院こくがくいん図書館としょかん