武たけ王おう (秦はた)

武たけ王おう 嬴蕩
秦はた
第だい2代だい王おう
王朝おうちょう	秦はた
在位ざいい期間きかん	前ぜん310年ねん - 前ぜん307年ねん
都城みやこのじょう	咸陽
姓せい・諱いみな	嬴蕩（えいとう）
諡号しごう	武たけ王おう
生年せいねん	恵めぐみ文ぶん君くん9年ねん（前ぜん329年ねん）
没年ぼつねん	武たけ王おう4年ねん（前ぜん307年ねん）8月がつ
父ちち	恵めぐみ文ぶん王おう
母はは	恵めぐみ文ぶん后きさき
后妃こうひ	武たけ王おう后きさき
陵墓りょうぼ	永えい陵りょう

武たけ王おう（ぶおう）は、中国ちゅうごく戦国せんごく時代じだいの秦はたの第だい27代だい君主くんしゅ。第だい2代だいの王おう。姓せいは嬴（えい）、諱いみなは蕩とろけ（とう）。恵めぐみ文ぶん王おうの子こ。昭あきら襄じょう王おうの異母いぼ兄けい。史書ししょによって、悼武王おう（とうぶおう）・武たけ烈れつ王おう（ぶれつおう）・元もと武ぶ王おう（げんぶおう）、と書かかれ方かたが異ことなる。庶長兄けいに公子こうし壮たけし（季き君くん）、ほかの庶兄弟きょうだいとして公子こうし雍、公子こうし池ち、涇陽君くん（公子こうし巿）、高陵こうりょう君くん（公子こうし悝）らがいる。

生涯しょうがい

即位そくいと遺臣いしん

恵めぐみ文ぶん王おう14年ねん（紀元前きげんぜん311年ねん）、恵めぐみ文ぶん王おうが没ぼっすると太子たいしであった太子たいし蕩とろけが即位そくいした。恵めぐみ文ぶん王おうの臣しんをそのまま用もちい、司馬しば錯が楚すわえを討うち、商しょう・於の地ち（かつて商しょう鞅が封ふうぜられた土地とち）を奪うばって黔中郡ぐんを設置せっちする成果せいかを挙あげた。

しかし、武たけ王おうは太子たいしの頃ころより謀略ぼうりゃく家かである張ちょう儀ただしと不仲ふなかだったため、群臣ぐんしんは張ちょう儀ただしを讒言ざんげんするようになった。そのため諸侯しょこうは張ちょう儀ただしが武たけ王おうと仲なかが悪わるく隙すきがあるのを聞きくと、みな連衡れんこうに背そむいて再度さいど合従がっしょうするようになった。

武たけ王おう元年がんねん（紀元前きげんぜん310年ねん）、武たけ王おうは魏たかしの恵めぐみ王おうと臨晋で会合かいごうした。張ちょう儀ただしは武たけ王おうに誅されるのを恐おそれて、「斉ひとしは私わたしを恨うらんでおりますので、どうか私わたしを魏ぎに使つかわせて下ください。そうすれば必かならず斉ひとしは魏ぎを討うつでしょう。大王だいおうはその隙すきに魏ぎや韓かんをお討うち下ください」と武ぶ王おうに言いった。翌よく武ぶ王おう2年ねん（紀元前きげんぜん309年ねん）に張ちょう儀ただしは念願ねんがん叶かなって魏ぎに赴おもむいた。張ちょう儀ただしは秦はたに帰かえる事こと無なく、そのまま魏ぎで没ぼっした。

先王せんおうよりの蜀しょく経営けいえいは、紀元前きげんぜん310年ねんに成都せいとに大城おおしろを築きずくなどそのまま引ひき継つがれた。しかし、紀元前きげんぜん309年ねんに蜀しょくの国くに相しょう陳ちん壮たけしが謀反むほんを起おこし蜀しょく侯こう通どおりを殺ころした。武たけ王おうは庶長の甘あま茂しげるや司馬しば錯に命めいじてすぐに蜀しょくを討伐とうばつし陳ちん壮たけしを誅殺ちゅうさつして乱らんを収おさめた。

武たけ王おう3年ねん（紀元前きげんぜん308年ねん）に公子こうし惲（恵めぐみ文ぶん王おうの子こ）を封ふうじて蜀しょく侯こうとするなどし、ようやく蜀しょくの政情せいじょうはひとまず安定あんていを見みた。

この年とし、秦はたに初はじめて丞相じょうしょうを設置せっちし、樗ぶな里さと疾やまし（恵めぐみ文ぶん王おうの弟おとうと、樗ぶな里子さとごとも）と甘あま茂しげるをそれぞれ左右さゆうの丞相じょうしょうとした。

武たけ王おう2年ねん（紀元前きげんぜん309年ねん）11月、武たけ王おうは丞相じょうしょう甘あま茂しげらに命めいじて為田ためだ律ただしを定さだめさせた。これは詳細しょうさいに農のう田たと道路どうろの制度せいどを規定きていし、毎年まいとし指定していした時期じきに修復しゅうふくするものであった。

宜むべ陽ひの戦たたかい

武たけ王おう2年ねん（紀元前きげんぜん309年ねん）、武たけ王おうは韓かんの襄じょう王おうと臨晋の城しろ外がいで会あい、樗ぶな里さと疾やましを韓かんの宰相さいしょうとした。

武たけ王おうは甘あま茂しげるに、「兵へい車しゃを三川みかわ（伊い水すい・洛らく水すい・黄河こうがのある地ち）に入いれ、そこを通とおって、西にし周あまね室しつをおびやかして天下てんかに号令ごうれいできるなら、死しんでも悔くいはない」と言いった。

甘あま茂しげるはそれを聞きき、「どうか私わたしを魏ぎにやり、秦はたと一緒いっしょに韓かんを討うつ約束やくそくを決きめさせて下ください」と言いったので、 武たけ王おうは甘あま茂しげると向むかい寿ひさしを魏ぎへつかわせた。その後ご向むかい寿ひさしが先さきに帰国きこくし、「魏ぎは私わたしの言葉ことばを聴きき入いれました。王おうは韓かんを討うちませぬように」と甘あま茂しげるの伝言でんごんを伝つたえた。

武たけ王おうは甘あま茂しげるの魏ぎから帰国きこくを待まちきれず、魏ぎにほど近ちかい息いき壌の地ちまで出迎でむかえた。甘あま茂しげるは帰国きこくしその息いき壌で武たけ王おうに会あった。武たけ王おうはさっそく事情じじょうをたずねた。

甘あま茂しげるは、「韓かんの重要じゅうよう拠点きょてんである宜むべ陽ひは大だい邑です。落おとすのは容易よういではありません。いま私わたしは外そとに出でております。戦せんの途中とちゅうで、 ご一族いちぞくの樗ぶな里さと疾やましや公孫こうそん衍（客きゃく卿きょうの大臣だいじん、犀さい首くびとも）などが韓かんに好意こういを寄よせると、王おうはきっと魏ぎをあざむくでしょう。かつて曾子の母ははに、ある男おとこが『曾参が人ひとを殺ころしたぞ』と知しらせました。曾子の母ははは最初さいしょは信しんじませんでした。しかしそれから2人ふたりも同おなじように言いってきたので、曾子の母ははは信しんじて逃にげ去さってしまいました。曾子ほどの賢明けんめいさと、母ははの厚あつい信頼しんらいがあっても、信しんじられなくなります。臣しんの賢明けんめいさは曾子に及およびませんし、王おうの臣しんに対たいする信頼しんらいも曾子の母ははほどではないでしょう。しかも臣しんを疑うたがう者ものは3人にんだけではありません。臣しんは王おうが私わたしを見捨みすてられる事ことが心配しんぱいなのです」と言いい、王おうの覚悟かくごを確認かくにんした。

武たけ王おうはそこで「私わたしは樗ぶな里子さとごや公孫こうそん衍などの言葉ことばをき入きいれまい。誓ちかおう」と答こたえ、甘あま茂しげると息いき壌で堅かたく盟めいいを結むすんだ。

武たけ王おう3年ねん（紀元前きげんぜん308年ねん）秋あき、武たけ王おうは甘あま茂しげると庶長封ふうに宜むべ陽ひを討うたせた。しかし、それから5カ月かげつ経たち、翌よく武ぶ王おう4年ねん（紀元前きげんぜん307年ねん）になっても甘あま茂しげるは宜むべ陽ひを攻略こうりゃくできなかった。やはり樗ぶな里さと疾やましと公孫こうそん衍が甘あま茂しげるを非難ひなんし更迭こうてつを図はかろうとした。武たけ王おうは我慢がまんしきれず甘あま茂しげるを召めし戻もどそうとした。

甘あま茂しげるはそれを聞きき、「息いき壌はそこにあります」と言いった。

武たけ王おうは、「そうであった」と言いい、全ぜん軍ぐんを動員どういんして再度さいど甘あま茂しげるに宜むべ陽ひを攻撃こうげきさせた。

遂ついに甘あま茂しげるは宜むべ陽ひを抜ぬき、首級しゅきゅう6万まんを斬きる成果せいかを挙あげ、黄河こうがを渡わたって武たけ遂とげに城しろを築きずくまでに至いたった（宜むべ陽ひの戦たたかい）。この宜よろし陽ひの戦たたかいは大だい激戦げきせんであったため、韓かんだけでなく、陥落かんらくさせた秦はたも大おおきく疲弊ひへいする結果けっかになってしまった。

事故死じこしと陵りょう

武たけ王おうは力ちからがあり、普段ふだんより力試ちからだめしを好このんでいた。そのため、力ちからがあるだけの任にん鄙ひなや烏がらす獲えなどの武将ぶしょうがみな大官たいかんに任にんじられた。

武たけ王おう4年ねん（紀元前きげんぜん307年ねん）8月がつ、洛陽らくようを訪おとずれた武たけ王おうは孟はじめ賁という大力だいりきの持もち主ぬしと鼎かなえの挙あげ比くらべを行おこない、脛骨けいこつを折おって死去しきょした。享年きょうねん23。そのため、孟はじめ賁は罪つみされて、一族いちぞくは滅ほろぼされた。子こがないままの急逝きゅうせいだったために後継こうけい者しゃ争あらそいが起おこったが、燕つばめにいた異母弟いぼていの公子こうし稷きびが即位そくいした。これが昭あきら襄じょう王おうである。

永えい陵りょうに葬ほうむられた。『史記しき正義まさよし』は、『括くく地ち志こころざし』に曰いわくとして、その位置いちを雍州の咸陽県けん西北せいほく十じゅう里さとで誤あやまって「周あまね武たけ王おう陵りょう」と呼よばれているところだとする。陝西せんせい省しょう咸陽市し渭城区く周しゅう陵りょう街道かいどうには周しゅう文ぶん王おう陵りょう・周しゅう武たけし王おう陵りょうと伝つたえられる墳丘ふんきゅうがある。ボーリング調査ちょうさにより、この地下ちかに秦しん代だいの陵りょうと環たまき濠ほりの存在そんざいが確たしかめられており、永なが陵りょうの有力ゆうりょく候補こうほ地ちである。あるいはその東南とうなん3.8キロメートルにある2基きの墳丘ふんきゅうと墓はかをあてる説せつもある。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『史記しき』「秦はた本紀ほんぎ」
• 飯島いいじま武次たけつぐ「春秋しゅんじゅう戦国せんごく時代じだい秦しん王おう陵りょうの被葬ひそう者しゃと変遷へんせん」、『駒沢こまざわ史学しがく』第だい91号ごう、2018年ねん12月。