治療ちりょう塔とう惑星わくせい

『治療ちりょう塔とう惑星わくせい』 (ちりょうとうわくせい) は大江おおえ健三郎けんざぶろうの長編ちょうへん小説しょうせつであり、『治療ちりょう塔とう』の続編ぞくへんである。 『治療ちりょう塔とう』とは異ことなり、宛先あてさきを特定とくていしない手紙てがみという形式けいしきで書かかれた。 月刊げっかん誌し「へるめす」1991年ねん1月がつ号ごうから1991年ねん9月がつ号ごうに連載れんさいされ、1991年ねんに岩波書店いわなみしょてんから出版しゅっぱんされた。 2008年ねんに講談社こうだんしゃ文庫ぶんこへ収録しゅうろくされた。

大江おおえは、『治療ちりょう塔とう』と本ほん作さくはイェーツを「主題しゅだいのイメージ化かの支ささえ」にしたと回想かいそうする。

あらすじ

前作ぜんさく『治療ちりょう塔とう』の続つづきの物語ものがたりである。

社会しゃかいでは「選えらばれた者もの」と「落おちこぼれ」との間あいだで和解わかいが進すすんでいく。リツコと朔ついたちの息子むすこ、タイくんが生うまれる。「治療ちりょう塔とう」を経験けいけんした者ものの血ちをひく子供こどもたちには特別とくべつな知的ちてきな優秀ゆうしゅうさがあることが判明はんめいする。タイくんら二に世せいには特別とくべつ教育きょういくプログラムが施ほどこされることになる。

朔ついたちは反はん・スターシップ公社こうしゃの地下ちか組織そしきに三さん年間ねんかん潜伏せんぷくしていたが、新あらたな宇宙うちゅう計画けいかくに参加さんかするためにスターシップ公社こうしゃに復帰ふっきする。朔ついたちは「治療ちりょう塔とう」の情報じょうほうを「新あたらしい地球ちきゅう」から伝達でんたつする通信つうしん基地きちを建設けんせつするために、土星どせいの衛星えいせいタイタンに旅立たびだつ。

「古ふるい地球ちきゅう」においては「アマゾン世界せかい大戦たいせん」が起おきる、核兵器かくへいきを保有ほゆうする「地球ちきゅう酸素さんそ1/4供給きょうきゅう機構きこう」が先進せんしん諸国しょこくに宣戦せんせん布告ふこくを行おこなう。指導しどう者しゃアナトリオ・キクチは先進せんしん諸国しょこくの富とみの貧まずしい国くにへの移譲いじょうを要求ようきゅうする。しかしこれは国連こくれん・スターシップ公社こうしゃの連合れんごう軍ぐんにより制圧せいあつされる。

「新あたらしい地球ちきゅう」においては「治療ちりょう塔とう」による肉体にくたい改造かいぞうを拒否きょひして「叛乱はんらん軍ぐん」となったものらは、指導しどう者しゃエリ・サンバルのもとでコロニーを形成けいせいし新あたらしい社会しゃかいを建設けんせつしていた。一方いっぽうで「選えらばれた者もの」らの帰還きかんの後のちに「治療ちりょう塔とう」に入はいることを目的もくてきに新あらたに「新あたらしい地球ちきゅう」へ移住いじゅうしたものらの生活せいかつは頽廃たいはいを極きわめていた。

朔ついたちはタイタンの通信つうしん基地きちの建設けんせつ後ご「治療ちりょう塔とう」の調査ちょうさのために「新あたらしい地球ちきゅう」へ向むかう。「治療ちりょう塔とう」のあるエンピレオ高原こうげんで、調査ちょうさ隊たいと新しん移住いじゅう者しゃの間あいだで発生はっせいした戦闘せんとうから小型こがた核兵器かくへいきが爆発ばくはつする事故じこが起おこると、新しん移住いじゅう者しゃの大半たいはんが命いのちを落おとし、治療ちりょう塔とうの多おおくも破壊はかいされる。

サンバルは「治療ちりょう塔とう」が何なんらかの知性ちせい体たいの言語げんご行為こういであるという。それを読よみ解とくための「宇宙うちゅう共通きょうつう感覚かんかく」を得えるため、朔ついたちは「宇宙うちゅうマーブル・サボテン」の麻薬まやく施術しじゅつを受うけてメッセージを受うけ取とる。「新あたらしい地球ちきゅう」からタイタンの通信つうしん基地きちに戻もどった朔ついたちは、スターシップ公社こうしゃに、タイくんら「治療ちりょう塔とう」を体験たいけんした者ものの子供こどもを「宇宙うちゅう少年しょうねん十字軍じゅうじぐん」として組織そしきし、「治療ちりょう塔とう」のソフトウェアの内容ないようを受信じゅしんする媒体ばいたいにして欲ほしいと伝つたえてきた。

「繭まゆカプセル」に入いれられ、溶液ようえきのプールに漂ただようタイくんら「宇宙うちゅう少年しょうねん十字軍じゅうじぐん」の姿すがたを見みながらリツコは祈いのる。「どうかこのように厖大ぼうだいな距離きょりをへだてて呼よびかわしあっている夫おっとと子供こどものために、そしてそれに立合たちあっている私わたしのために宇宙うちゅう的てきな恩寵おんちょうをおあたえ下ください……」通信つうしんは完了かんりょうするが、タイタンの通信つうしん基地きちは消滅しょうめつしてしまう。

「宇宙うちゅう少年しょうねん十字軍じゅうじぐん」の計画けいかくには社会しゃかい的てきな反対はんたいも大おおきく、抗議こうぎデモは拡大かくだいし、テロが発生はっせいしスターシップ公社こうしゃ代表だいひょうの隆たかしは殺害さつがいされる。この事件じけんをきっかけにスターシップ公社こうしゃの権威けんいはかげることになる。宇宙うちゅうへの人類じんるい的てきな情熱じょうねつも失うしなわれていく。社会しゃかいの「宇宙うちゅう少年しょうねん十字軍じゅうじぐん」への関心かんしんも失うしなわれる。

時じが流ながれ「宇宙うちゅう少年しょうねん十字軍じゅうじぐん」は成人せいじんし、タイくんは建築けんちく家かとなる。酸性さんせい雨うで危あやうくなった原爆げんばくドームを再生さいせいさせるプロジェクトの公開こうかいコンペにタイくんが入賞にゅうしょうし、原爆げんばくドームを覆おおう二に重じゅうの透明とうめいな伽藍がらんを築きずき、礼拝れいはい堂どうにすることがきまる。リツコは朔ついたちがタイタンに旅立たびだつ前まえに二人ふたりで行おこなった旅行りょこうでの、原爆げんばくドームこそが人類じんるいの「治療ちりょう塔とう」ではないかとの朔ついたちの言葉ことばを思おもい出だす。