M/Tと森もりのフシギの物語ものがたり

『M/Tと森もりのフシギの物語ものがたり』（エムティーともりのフシギのものがたり）は大江おおえ健三郎けんざぶろうの長編ちょうへん小説しょうせつである。『へるめす』に連載れんさいされたのち、岩波書店いわなみしょてんより1986年ねん刊行かんこうされた（のち同どう時代じだいライブラリー、講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ、岩波いわなみ文庫ぶんこ）。

概要がいよう

• 1979年ねんに発表はっぴょうされた『同どう時代じだいゲーム』の世界せかいを平易へいいな叙述じょじゅつ方法ほうほうと文体ぶんたいで「少年しょうねんたちにも読よめるものに」書かき直なおしたものである。
• MはMatriarch（女おんな族長ぞくちょう）、TはTrickster（トリックスター）を意味いみする。
• 1989年ねん、ガリマール社しゃより仏ふつ訳やくがM/T et l'histoire des merveilles de la forêtのタイトルで出版しゅっぱんされている。
• ノーベル文学ぶんがく賞しょう対象たいしょう作さくの一ひとつであり、海外かいがいで一番いちばん読よまれている大江おおえの作品さくひんである。
• 大江おおえ自身じしんがき及きおよぶところによると、本ほん作さくと『万延まんえん元年がんねんのフットボール』の二に作さくが、ノーベル賞しょうの選考せんこう委員いいん会かいでもっとも重視じゅうしされたという。

あらすじ

四国しこくの森もりの谷間たにまの村むらにおいて、小しょう国家こっかが、徳川とくがわ時代ときよに脱藩だっぱん者しゃの「壊こわす人ひと」によって建国けんこくされ、その後ご、女おんな族長ぞくちょう「オシコメ」の復古ふっこ運動うんどうがあり、幕末ばくまつに「亀井かめい銘めい助すけ」に指導しどうされた一揆いっきがあり…etc.

という物語ものがたりの語かたり手ての故郷こきょうである四国しこくの森もりの谷間たにまの村むらの神話しんわ・歴史れきしが語かたられる。

これらの物語ものがたり内容ないようは『同どう時代じだいゲーム』とは基本きほん的てきには同一どういつであるが、叙述じょじゅつ方法ほうほうや文体ぶんたいが違ちがい、内容ないようとしても、語かたり手てが『同どう時代じだいゲーム』のような完全かんぜんに架空かくうの語かたり手てではなく、作者さくしゃ大江おおえ自身じしんを思おもわせる人物じんぶつであり、それと関係かんけいして、物語ものがたりの終おわりが、大江おおえを思おもわせる人物じんぶつの息子むすこである光ひかりの話はなしに落着らくちゃくする、という違ちがいがある。最終さいしゅう章しょうの「「森もりのフシギ」の音楽おんがく」を中心ちゅうしんに語かたられる語かたり手てに関係かんけいする本ほん作さくオリジナルの物語ものがたり内容ないようは以下いかである。

語かたり手て「僕ぼく」は子供こどもの頃ころ、故郷こきょうの森もりの谷間たにまの村むらを流ながれる川かわの「ウグイの巣す」を覗のぞきに行いって、岩いわ棚だなに挟はさまれ溺おぼれかける。「僕ぼく」は救出きゅうしゅつされるときに頭あたまに傷きずを負おう。この際さいに「僕ぼく」は神秘しんぴ的てきなヴィジョンを見みて谷間たにまの村むらのい伝いつたえの伝承でんしょう者しゃとしての自覚じかくを持もつようになり、すすんで祖母そぼや老人ろうじんたちの話はなす昔話むかしばなしを聞きくようになった。

大人おとなになり東京とうきょうで作家さっかとなった「僕ぼく」の子供こども・光ひかりは後頭部こうとうぶに大おおきな瘤こぶを持もって生うまれる。瘤こぶは手術しゅじゅつで取とり除のぞかれるが傷きずが残のこる。「僕ぼく」の妻つまと電話でんわで話はなした「僕ぼく」の母ははは、その傷きずが、亀井かめい銘めい助すけ、銘めい助すけさんの生うまれ変かわりの「童子どうじ」、「僕ぼく」と共通きょうつうのものであると指摘してきする。

光ひかりには知的ちてきな障害しょうがいが残のこり、養護ようご学校がっこうに通かようようになるが、成長せいちょうするにつれ音楽おんがくの才能さいのうを持もつことがわかる。光ひかりが養護ようご学校がっこうをでて、福祉ふくし就労しゅうろうをする前まえの一時いちじの期間きかん、彼かれは谷間たにまの村むらで「僕ぼく」の母ははと過すごす。その経験けいけんから光ひかりはある曲きょくを作曲さっきょくする。

「僕ぼく」の母ははが入院にゅういんして、遺言ゆいごんのテープが残のこされる。テープでは森もりの谷間たにまの村むらにおける魂たましいのあり方かたの母親ははおやによる解釈かいしゃくが語かたられている。谷間たにまの村むらに暮くらす者ものらの魂たましいはおおもとの「森もりのフシギ」から分わかれて個々ここの魂たましいとなる。魂たましいは死しと再生さいせいを繰くり返かえしてみがかれて、最終さいしゅう的てきにはおおもとの「懐なつかしい」「森もりのフシギ」に戻もどる。母親ははおやは光ひかりの作つくった曲きょくに「森もりのフシギ」の「懐なつかしさ」があると述のべる。