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日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん

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日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん
作者さくしゃ 大江おおえ健三郎けんざぶろう
くに 日本の旗 日本にっぽん
言語げんご 日本語にほんご
ジャンル 長編ちょうへん小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい 雑誌ざっし連載れんさい
初出しょしゅつ情報じょうほう
初出しょしゅつ文學ぶんがくかい
1963ねん2がつごう - 1964ねん2がつごう
刊本かんぽん情報じょうほう
出版しゅっぱんもと 文芸春秋ぶんげいしゅんじゅうしんしゃ
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ 1964ねん
ウィキポータル 文学ぶんがく ポータル 書物しょもつ
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日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん』(にちじょうせいかつのぼうけん)は大江おおえ健三郎けんざぶろう長編ちょうへん小説しょうせつ。『文學ぶんがくかい1963ねん昭和しょうわ38ねん)2がつごうから1964ねん昭和しょうわ39ねん)2がつごうにかけて連載れんさいされ[1]ぜん13かい)、1964ねん文藝春秋ぶんげいしゅんじゅうより単行本たんこうぼん出版しゅっぱんされた。現在げんざいでは新潮しんちょう文庫ぶんこから文庫ぶんこばん出版しゅっぱんされている。

概要がいよう[編集へんしゅう]

メインキャラクターのとき木犀もくせいきち伊丹いたみ十三じゅうざをモデル人物じんぶつとしている。ほんさくには多様たよう飲食いんしょくぶつくるま名前なまえ登場とうじょうするが、伊丹いたみ仕込しこみであり、小谷野こやのあつしほんさくどう時期じきかれた伊丹いたみのエッセイ『ヨーロッパ退屈たいくつ日記にっき』を「もとネタ」としている[2]。『大江おおえ健三郎けんざぶろうぜん小説しょうせつ14』の解題かいだいにおいて尾崎おざき真理子まりこは「『日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん』は『ヨーロッパ退屈たいくつ日記にっき』とたい成立せいりつした作品さくひんだといたくなる」[3]べている。

作家さっか笠井かさいきよしほんさくについて「都市としてきスノビズムのあれこれを思想しそうとしてではなくディテールとして、ジャガーシトロエンからサルトルミラーにいたる固有名詞こゆうめいしとして、はじめて日本にっぽん近代きんだい文学ぶんがく空間くうかん方法ほうほうてき導入どうにゅうした」とひょうしている[4]

かた「ぼく」にも大江おおえ実際じっさい体験たいけん反映はんえいされており、作中さくちゅうの「ぼくがいた政治せいじてき残酷ざんこく物語ものがたり様々さまざま他人たにんたちのあたまに、いかりのキノコを繁殖はんしょくさせ」、「ぼく」がヒポコンデリアにおちいっている状況じょうきょうは「政治せいじ少年しょうねんす(「セヴンティーン」だい)」発表はっぴょう大江おおえ窮地きゅうち連想れんそうさせる[3]。また「ぼく」が「バルカン半島ばるかんはんとう社会しゃかい主義しゅぎこく」から招待しょうたいされ、そこを経由けいゆしてパリ、ロンドンにとき木犀もくせいきちいにいくくだりは、1961ねん2がつ大江おおえブルガリア政府せいふポーランド政府せいふまねきで、両国りょうこくとギリシャ、イタリア、ソ連それん、フランス、イギリスを訪問ほうもんしている伝記でんきてき事実じじつ[5]符合ふごうする。

大江おおえ自身じしんほんさくを「『日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん』など、愛好あいこうしてくださる読者どくしゃはいまもあるようなのですが、技法ぎほう人物じんぶつのとらえかたなど、小説しょうせつ基本きほんレヴェルをたしていない。」[6]評価ひょうかしておらず、1990年代ねんだいにまとめられた選集せんしゅう大江おおえ健三郎けんざぶろう小説しょうせつ』にはほんさく収録しゅうろくされていない。

あらすじ[編集へんしゅう]

わか作家さっかであるかた「ぼく」のもとに、きたアフリカから手紙てがみとどく。手紙てがみは「ぼく」の友人ゆうじんとき木犀もくせいきち情人じょうにんのイタリアじん夫人ふじんM・Mからのもので、手紙てがみによるとさいきち現地げんちのホテルで自殺じさつしたという。そのほうけて「ぼく」はさいきちとのおも回想かいそうしていく。

さいきち独特どくとく人格じんかくぬしで「人間にんげんはなぜきるのか、とか、性欲せいよく勇気ゆうき誠実せいじつ憐憫れんびんなどという言葉ことば本当ほんとう意味いみはなにか」という根本こんぽんてきなモラルについて瞑想めいそうする哲学てつがくてきなモラリストであり、同時どうじに「犯罪はんざいしゃてき素質そしつ」もった「常習じょうしゅうてき裏切うらぎもの病的びょうてきうそつき」でもあった。

かれおおくの人間にんげんが「およそ冒険ぼうけんてきでない日常にちじょう生活せいかつをいとなんでいるこの日々ひび現実げんじつ世界せかいのなかで、いかにも自由じゆう冒険ぼうけんすることのできた青年せいねん」であり、あげくに「日常にちじょう生活せいかつ圏外けんがい、まさに冒険ぼうけんてき世界せかいでのかれ独自どくじ冒険ぼうけんをもとめて」ついきたアフリカまでたどりいたのだった。

「ぼく」の日常にちじょう生活せいかつ折々おりおりさいきち闖入ちんにゅうし、かれさそわれて「ぼくが体験たいけんした日常にちじょう生活せいかつのリアリスチックな冒険ぼうけんと、かれがその瞑想めいそうてき調子ちょうしはなしてくれた、かれのファンタスティクな冒険ぼうけん」が回想かいそうされてかたられていく。

さいきち最初さいしょ、スエズ戦争せんそう義勇ぎゆうへい志願しがん高校生こうこうせいとして登場とうじょうし、その新進しんしん映画えいが俳優はいゆう夜警やけい、バンタムきゅうボクサーのパトロン、演劇えんげき集団しゅうだんげを目指めざ人物じんぶつ、など次々つぎつぎ職業しょくぎょう立場たちばえてあらわれる。しかしなにをやっても完遂かんすいできず「おれはまったくなにひとつやりとげなかったなあ。おれにはなにひとつやれなかったなあ。」との慨嘆がいたんをし、てには自殺じさつする。

かたの「ぼく」は自殺じさつほうけても完全かんぜんにはそれをしんじられず、さいきち狂言きょうげんなのではないかとも想像そうぞうする。物語ものがたりさいきちがベイルートから「ぼく」にむけておくられた手紙てがみ引用いんようしてわる。

元気げんきだ、ギリシアの難破なんぱせん船長せんちょうはなしをきいたんだが、かれは航海こうかい日誌にっし最後さいごにこうはしきしてんでいた。イマ自分じぶん自分じぶんヲマッタク信頼しんらいシテイル、コウイウ気分きぶんあらしせんウノハ愉快ゆかいダ。そこできみはオーデンのこういうをおぼえているかい?いまおれはそのことをかんがえている。

危険きけん感覚かんかくせてはならない/みちはたしかにみじかい、またけわしい/ここからるとだらだらさかみたいだが。

それじゃ、さよなら、ともかく全力ぜんりょく疾走しっそう、そしてジャンプだ、おもりのような恐怖きょうふしんからのがれて!》

物語ものがたりにおいては、さい吉本よしもとじんくわえて、かれ周囲しゅういの、最初さいしょつま盗癖とうへきのある卑弥呼ひみこ輸入ゆにゅう洋品ようひんてん店員てんいんの雉子彦、在日ざいにち韓国かんこくじんのボクサーきむやすし二人ふたりつまじゃく電機でんきメーカー社長しゃちょうむすめ***鷹子たかのこ原爆げんばくしょう青年せいねんあかつき怪奇かいき映画えいが監督かんとくロイともとバレエダンサー・テリイ、などカラフルな登場とうじょう人物じんぶつたちがえがかれていく。

書誌しょし情報じょうほう[編集へんしゅう]

  • 日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん』(1964ねん文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう
  • 大江おおえ健三郎けんざぶろうぜん作品さくひん5』(1967ねん新潮社しんちょうしゃ
  • 武者小路むしゃのこうじ実篤さねあつへん日本にっぽん文学ぶんがく全集ぜんしゅう50』(1971ねん河出かわで書房しょぼう
  • 日常にちじょう生活せいかつ冒険ぼうけん』〈新潮しんちょう文庫ぶんこ〉(1971ねん新潮社しんちょうしゃ
  • 大江おおえ健三郎けんざぶろうぜん小説しょうせつ14』(2019ねん講談社こうだんしゃ

翻訳ほんやく[編集へんしゅう]

中国ちゅうごく

  • 谢宜鹏訳『日常にちじょう生活せいかつてきおかせ险』〈大江おおえ健三郎けんざぶろう作品さくひんしゅう〉(1996ねん作家さっか出版しゅっぱんしゃ

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 藤田ふじた敏明としあき大江おおえ健三郎けんざぶろう種類しゅるい軍隊ぐんたい : 否定ひていがた肯定こうていがた」『文学ぶんがく研究けんきゅう論集ろんしゅうだい2かん筑波大学つくばだいがく比較ひかく理論りろん文学ぶんがくかい、1987ねん7がつ、52-64ぺーじhdl:2241/14107ISSN 0915-8944 
  2. ^ だいしょう出発しゅっぱつ長男ちょうなんこう誕生たんじょう江藤えとうあつし大江おおえ健三郎けんざぶろう
  3. ^ a b 永遠えいえんのモラリスト、伊丹いたみ十三じゅうざ大江おおえ健三郎けんざぶろうぜん小説しょうせつ14』
  4. ^ 物語ものがたりのウロボロス』筑摩書房ちくましょぼう
  5. ^ 大江おおえ健三郎けんざぶろう年譜ねんぷ大江おおえ健三郎けんざぶろうぜん小説しょうせつ15』
  6. ^ 大江おおえ健三郎けんざぶろう作家さっか自身じしんかたる』