流氷りゅうひょう

グリーンランド東岸とうがん沖おきで見みられる北極ほっきょく海かいの流氷りゅうひょう

概略がいりゃく図ず。Drift iceと示しめされた範囲はんいにある氷こおりが流氷りゅうひょう

東ひがしシベリア海かいに浮うかぶウランゲリ島とう（中央ちゅうおう右寄みぎより）とシベリア本土ほんど（下した）に押おし寄よせる北極ほっきょく海かいの流氷りゅうひょう
地球ちきゅう観測かんそく衛星えいせいのMODIS画像がぞう（2001年ねん6月がつ5日にち撮影さつえい）

北海道ほっかいどう北東ほくとう岸がんにあるサロマ湖さろまこ（中央ちゅうおう下か）近ちかくまで南下なんかしてきた流氷りゅうひょう
地球ちきゅう観測かんそく衛星えいせいテラのMODIS画像がぞう（2009年ねん2月がつ20日はつか撮影さつえい）

流氷りゅうひょう（りゅうひょう、英えい: drift-ice^[1]、driftice^[2]）とは、海うみに浮うかび漂流ひょうりゅうしている氷こおりのことである。海うみで見みられる氷こおり（海うみ氷ごおり）は、その運動うんどう形態けいたいから、海うみを漂ただよっている「流氷りゅうひょう」と、岸きしにへばりついている「定着ていちゃく氷ごおり（英語えいご版ばん）」とに分わけられ、定着ていちゃく氷ごおりは流氷りゅうひょうには含ふくまれない。組成そせいに注目ちゅうもくすると、いずれも海うみ氷ごおりが凍こおってできた氷こおりである。ただし、一般いっぱん用語ようごの「流氷りゅうひょう」は、河川かせんから流下りゅうかした氷こおりも、氷山ひょうざんや氷河ひょうがが崩くずれた氷こおりも、海うみを漂ただよう全すべての氷こおりの意いとして広義こうぎに用もちいられる（世界せかい気象きしょう機構きこう海うみ氷ごおり用語ようご集しゅうの「浮氷ふひょう」に相当そうとうする）。また、海面かいめん上じょうの氷こおりに限かぎらず、より広ひろく河川かせんや淡水たんすい湖みずうみの氷こおりが水面すいめんに漂ただよっているものも含ふくめて流氷りゅうひょうと呼よぶこともある。北極ほっきょく海かいや南氷洋なんぴょうよう（南極なんきょく海かい）などのほか、日本にっぽん近海きんかいではオホーツク海かいで見みられる^[3]。

北風きたかぜによって海岸かいがんに打うち上あげられた流氷りゅうひょうが重かさなり合あって、小ちいさな丘おかのような形かたちを作つくることがある。これを氷こおり丘おか（ひょうきゅう）と言いい、氷こおり丘おかが水辺みずべにあたかも山脈さんみゃくのごとく、高たかさ数すうメートル、長ながさは長ながいときには1キロメートル以上いじょうにもわたって造つくり出だされたものを流氷りゅうひょう山脈さんみゃくという。

オホーツク海かいの流氷りゅうひょう[編集へんしゅう]

自然しぜん[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは北海道ほっかいどうの北東ほくとうに位置いちするオホーツク海かいの流氷りゅうひょうが有名ゆうめいである。北海道ほっかいどう立りつオホーツク流氷りゅうひょう科学かがくセンター（紋別もんべつ市し）によると、オホーツク海かい北岸ほくがん付近ふきんで寒風かんぷうにより海水かいすいが凍こおっては流ながされを繰くり返かえし、東ひがし樺太からふと海流かいりゅうに乗のって北海道ほっかいどうへ南下なんかしてくる。オホーツク海かいは北半球きたはんきゅうにおける流氷りゅうひょうの南限なんげんである^[4]。

北海道ほっかいどう沿岸えんがんから流氷りゅうひょうが確認かくにんできたそのシーズンの最初さいしょの日ひを「流氷りゅうひょう初日しょにち」という。日本にっぽんでの流氷りゅうひょう初日しょにちは、平年へいねんでは北海道ほっかいどうのオホーツク海かい沿岸えんがんで1月がつ中旬ちゅうじゅんから下旬げじゅん頃ごろであり、その後ご1月がつ下旬げじゅんから2月がつ上旬じょうじゅん頃ごろにかけて接岸せつがんする。接岸せつがんした初日しょにちを「流氷りゅうひょう接岸せつがん初日しょにち」という。その前まえに、海上かいじょう自衛隊じえいたい八戸はちのへ航空こうくう基地きち（青森あおもり県けん）に所属しょぞくする哨戒しょうかい機きが空中くうちゅうから流氷りゅうひょうを発見はっけん・観測かんそくし、報道ほうどうされるのが1960年ねんから恒例こうれいとなっている^[5]。

風向かざむきによって流氷りゅうひょうはさらに南下なんかを続つづけ、太平洋たいへいよう側がわに位置いちする釧路くしろ市しに接岸せつがんすることもある。春はるが近ちかづき、沿岸えんがんから見渡みわたせる海域かいいきに占しめる流氷りゅうひょうの割合わりあいが5割わり以下いかとなり、かつ船舶せんぱくの航行こうこうが可能かのうになると「海うみ明あけ」が宣言せんげんされる。また、沿岸えんがんから最後さいごに流氷りゅうひょうが見みられた日ひを「流氷りゅうひょう終日しゅうじつ」という。

オホーツク海かいのアザラシの中なかには天敵てんてきの少すくない流氷りゅうひょうの上うえで子育こそだてをするものもいる。オジロワシなどの鳥類ちょうるい、キタキツネなども流氷りゅうひょうに乗のってシベリアから北海道ほっかいどう東部とうぶまでやってくる。

流氷りゅうひょうには植物しょくぶつプランクトンが付着ふちゃくしている。春はるになると植物しょくぶつプランクトンは一気いっきに増殖ぞうしょくし、これを餌えさに動物どうぶつ性せいプランクトンも増ふえオホーツク海かいの漁場ぎょじょうを豊ゆたかにする。なお、流氷りゅうひょうの下したにはハダカカメガイ（クリオネ）などのプランクトンを捕食ほしょくする生物せいぶつも多おおい。

道東どうとうの流氷りゅうひょうは観光かんこう資源しげんであると同時どうじに、接岸せつがんしている冬季とうきに巨大きょだい地震じしんなどによる津波つなみが押おし寄よせると建物たてものなどにぶつかって被害ひがいを増大ぞうだいさせるおそれがあり、十勝とかち沖おき地震じしん（1952年ねん）で実例じつれいがある^[6]。

観光かんこう[編集へんしゅう]

日本人にっぽんじんにとってオホーツク海かいといえば北きたの最果さいはての地ちという印象いんしょうが強つよい。しかし、例たとえば網走あばしり市しの位置いちする北緯ほくい44度どにはモナコやコートダジュールなどの地中海ちちゅうかい沿岸えんがんの温暖おんだんな保養ほよう地ちが位置いちするように、オホーツク海かい沿岸えんがんなどの北海道ほっかいどう周辺しゅうへんの海域かいいきは、世界せかいで最もっとも低てい緯度いどの流氷りゅうひょうが見みられる場所ばしょである。

流氷りゅうひょうは、日本にっぽんのオホーツク海かい沿岸えんがんの観光かんこう資源しげんともなっている。北海道ほっかいどう網走あばしり市しの流氷りゅうひょう観光かんこう砕氷さいひょう船せん（道東観光開発どうとうかんこうかいはつの「おーろら」）、北海道ほっかいどう紋別もんべつ市しの流氷りゅうひょう砕氷さいひょう船せん「ガリンコ号ごうII」が観光かんこう資源しげんとしての活用かつようで知しられる。運航うんこうは主おもに流氷りゅうひょうの来くる1月がつ半なかばから3月がつ末日まつじつまでで、天候てんこうにより流氷りゅうひょうが沿岸えんがんにいないときには、港内こうない運航うんこうとするか、流氷りゅうひょうのいる沖合おきあいまで足あしを延のばすなどしている。網走あばしりのおーろらは491トン、定員ていいん450名めい、おーろら2は489トン、定員ていいん450名めいで、流氷りゅうひょう観光かんこうを目的もくてきとするパッケージツアー客きゃくを中心ちゅうしんに観光かんこう時期じきはにぎわう。紋もん別べつのガリンコ号ごうは、2007年ねん時点じてんでは「ガリンコ号ごうII」が就航しゅうこうしており、網走あばしりよりも小こぶりながら、人気にんきを博はくしている。

JR北海道ほっかいどうの釧網本線せんもうほんせんでは、流氷りゅうひょうを眺ながめる列車れっしゃとして、網走あばしり - 知床しれとこ斜里しゃり間あいだに、流氷りゅうひょうノロッコ号ごうというトロッコ列車れっしゃを運行うんこうしていた。この列車れっしゃは、釧網本線せんもうほんせんのオホーツク沿岸えんがんの区間くかんで列車れっしゃからゆっくり流氷りゅうひょうを眺ながめ、酷寒こっかん体験たいけんも行おこなえるというもの。かつては吹ふきさらしの展望てんぼう車両しゃりょうを設置せっちしていた。2017年ねんからは後継こうけい列車れっしゃとして流氷りゅうひょう物語ものがたり号ごうが運行うんこうされており、オホーツク海かいを望のぞむ展望てんぼう台だいがある北浜きたはま駅えき (北海道ほっかいどう)と、道みちの駅えきが併設へいせつされた浜小清水はまこしみず駅えきで長時間ちょうじかん停車ていしゃするために降車こうしゃして観光かんこうを楽たのしめる^[7]。

アクティビティでは、北海道ほっかいどう斜里しゃり町まちをはじめとしたオホーツク海かい沿岸えんがんで、民間みんかん会社かいしゃ等とうにより流氷りゅうひょうの上うえを歩あるいたり、ドライスーツを着きて流氷りゅうひょうの海うみに浮うかんでみたりするツアーが企画きかくされている。

また流氷りゅうひょうの下したの海中かいちゅうに潜くぐるスクーバダイビングも実施じっしされている^[8]。

五大ごだい湖みずうみの流氷りゅうひょう[編集へんしゅう]

北米ほくべい大陸たいりくの五大ごだい湖みずうみと大西おおにし洋ひろしを結むすぶセントローレンス川がわも流氷りゅうひょうが流ながれ着つくことで知しられている^[9]。カナダのケベック市しで毎年まいとし冬ふゆに開催かいさいされるアイスカヌーレース（Ice Canoe Race）は、カヌーで流氷りゅうひょうをかき分わけて対岸たいがんを目指めざすレースで冬ふゆの風物詩ふうぶつしとなっている^[9]。