聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
曖昧さ回避 この項目こうもくでは、正教会せいきょうかいの聖体せいたい礼儀れいぎについて説明せつめいしています。
聖せい金口きんぐちイオアン。アギア・ソフィア大だい聖堂せいどう内うちのイコン（モザイクによる）

聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎ（せいきんこうイオアンせいたいれいぎ、ギリシア語ご: Ηいーた Θεία Λειτουργία τたうοおみくろんυうぷしろん Χρυσοστόμου, ロシア語ご: Литургия Иоанна Златоуста, 英語えいご: The Divine Liturgy of St. John Chrysostom）は、正教会せいきょうかいにおける聖体せいたい礼儀れいぎの種類しゅるいのひとつ。日本にっぽん正教会せいきょうかいによる訳語やくご。金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎ・金口きんぐちイオアンの聖体せいたい礼儀れいぎ・金口きんぐち聖体せいたい礼儀れいぎ等ひとしとも表記ひょうきされる。

なお、一般いっぱんに見受みうけられる『聖ひじりヨハネ・クリュソストモスの典礼てんれい』『聖せいヨハネス・クリソストムスの典礼てんれい』等とうといった表記ひょうきは誤訳ごやくである[1]（後述こうじゅつ）。

4世紀せいきのキリスト教きりすときょうの聖人せいじん、金口きんぐちイオアン（Ιωάννης οおみくろん Χρυσόστομος：イオアンニス　オ　フリソストモス[2]）によって編纂へんさんされた聖体せいたい礼儀れいぎであるためにこの名ながある。

概要がいよう[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「聖体せいたい礼儀れいぎ」を参照さんしょう

聖体せいたい礼儀れいぎは、機密きみつ（秘蹟ひせき）の一ひとつである、聖体せいたい機密きみつを中心ちゅうしんにする儀礼ぎれい・礼儀れいぎである。この礼儀れいぎにおいて、正教会せいきょうかいの信徒しんとはハリストス（キリストのギリシャ語ご読よみ）の聖体せいたい・尊みこと血ち（そんけつ）に聖せい変化へんかしたパンと葡萄酒ぶどうしゅを、感謝かんしゃのうちに領りょう食しょく（りょうしょく）する。

[3]長ちょう司祭しさいゲオルギイ・フロロフスキイは「ハリストス教きょう（キリスト教きょうのギリシャ語ご転写てんしゃ）とは聖体せいたい礼儀れいぎの宗教しゅうきょうである。また教会きょうかいとは第だい一いちに奉たてまつ神かみ礼あやを行おこなう集たかりである。奉たてまつ神かみ礼れいを第だい一いちとし、教きょうえと要理ようりを第だい二にとする。」と述のべている。またパーヴェル・フロレンスキイは、「真しんの正教せいきょう教理きょうり学がくは奉たてまつ神かみ礼あやの教理きょうり上じょうの考かんがえを系統けいとう化かしたものでなければならない」との見解けんかいを示しめしている。このように、正教会せいきょうかいにおいて奉たてまつ神かみ礼あやと教理きょうりとは密接みっせつな繋つながりがあるものと捉とらえられており、聖体せいたい礼儀れいぎは正教会せいきょうかいの根幹こんかんを成なす奉たてまつ神かみ礼あやと捉とらえられている。

この聖体せいたい礼儀れいぎの一ひとつの形式けいしき種別しゅべつが、聖せい金口きんぐちイオアン（聖ひじりヨハネ・クリュソストモス）によって編纂へんさんされた聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎである。ただし、聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎも歴史れきし的てきに発展はってんの歴史れきしを有ゆうしており、金口きんぐちイオアンが生いきていた4世紀せいき末すえから5世紀せいき初頭しょとうにかけての形式けいしきを全すべてそのまま保存ほぞんしてきた訳わけでは無ない[4]。

聖体せいたい礼儀れいぎの形式けいしきの種類しゅるいとしては他たに聖きよし大だいワシリイ聖体せいたい礼儀れいぎ、先さき備聖体せいたい礼儀れいぎなどがある。

構造こうぞう[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「聖体せいたい礼儀れいぎ#構造こうぞう」を参照さんしょう

「金口きんぐちイオアンの聖体せいたい礼儀れいぎ」の式次第しきしだいは次つぎの通とおり。[5]

    司祭しさい高こう声こえ………………至いたり聖ひじり三さん者しゃ（父ちち・子こ・聖せい神かみ）の神かみを讃たたえ美び
    大連たいれん祷いのり…………………「主おも、憐あわれめよ」を繰くり返かえし唱となえる
    第だい一いちアンティフォン…通常つうじょうは102聖ひじり詠えいを「我わが霊れいよ、主あるじを讃たたえめ揚あげよ」と歌うたう
    小しょう連れん祷いのり…………………大連たいれん祷いのりの縮小しゅくしょう形がた
    第だい二にアンティフォン…ハリストス（キリスト）の藉身についての聖歌せいか
    小しょう連れん祷いのり…………………大連たいれん祷いのりの縮小しゅくしょう形がた
    第だい三さんアンティフォン…真ま福ぶく九きゅう端はし（マトフェイ（マタイ）5章しょう）を歌うたう
    小しょう聖せい入いれ…………………福音ふくいん経けいによって主おもの公おおやけ生涯しょうがいの開始かいしを象ぞう(かたど)る
    トロパリ………………その日ひのテーマを歌うたう
    聖せい三さんの歌うた………………至いたり聖ひじり三さん者しゃへの祈いのり
    ポロキメン……………聖ひじり詠えい（詩編しへん）の数すう節せつを歌うたい交かわす
    使徒しと経けい…………………暦こよみに従したがって指定していされた箇所かしょを読よむ
    アリルイヤ……………神かみを讃たたえ美びする歌うた
    福音ふくいん経けい…………………暦こよみに従したがって指定していされた箇所かしょを読よむ
    重じゅう連れん祷いのり…………………「主おも憐あわれめよ」を三さん回かい繰くり返かえす連れん祷いのり
    啓蒙けいもう者しゃの為ための連れん祷いのり……洗礼せんれいを受うける前まえの人ひと(啓蒙けいもう者しゃ)の為ための祈いのり
    信者しんじゃの為ための連れん祷いのり………洗礼せんれいを受うけた人ひと（信者しんじゃ）の為ための祈いのり
    大聖たいせい入いれ…………………パンとぶどう酒しゅを宝たから座ざに移うつす
    増ぞう連れん祷いのり…………………「主おも、賜たまえよ」と繰くり返かえして祈いのる
    信しん経けい……………………「信しん経けい」を歌うたう
    機密きみつの執行しっこう……………パンとぶどう酒しゅが聖せい神かみによって変化へんか
    生神うるかみ女おんなへの讃さん美び………通常つうじょうは「常つねに福ぶくい」という聖歌せいかを歌うたう
    増ぞう連れん祷いのり…………………「主おも、賜たまえよ」と繰くり返かえして祈いのる
    天主てんしゅ経けい…………………「天てんにいます我が等とうの父ちちや」と祈いのる
    領りょう聖きよし……………………信者しんじゃが御ご聖体せいたいをいただく
    感謝かんしゃの祈いのり……………領りょう聖ひじりしたことを感謝かんしゃする連れん祷いのりや祝しゅく文ぶん
    発はつ放ひ詞し…………………司祭しさいによる最後さいごの祝福しゅくふく

聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎが行おこなわれる日ひ[編集へんしゅう]

聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎは、聖体せいたい礼儀れいぎのひとつの種類しゅるいとしては年間ねんかんを通とおして最もっとも頻繁ひんぱんに行おこなわれる形式けいしきである。大だい斎ときの5つの主おも日び（日曜日にちようび）を除のぞく主おも日び、および他たの殆ほとんどの祭日さいじつに用もちいられる。

むしろ聖きよし大だいワシリイ聖体せいたい礼儀れいぎが行おこなわれる日ひ以外いがいの全すべての聖体せいたい礼儀れいぎを行おこなう日ひには、聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎが行おこなわれることから、聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎが行おこなわれる日ひについて言及げんきゅうするよりは、聖きよし大だいワシリイ聖体せいたい礼儀れいぎが行おこなわれる日ひと、聖体せいたい礼儀れいぎを行おこなう事ことが出来できない日ひについて言及げんきゅうし、それらの日ひを除のぞく事ことで聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎを示しめすのが一般いっぱん的てきである。

なお、先さき備聖体せいたい礼儀れいぎは狭義きょうぎの聖体せいたい礼儀れいぎに含ふくめない。

「先さき備聖体せいたい礼儀れいぎ」も参照さんしょう

聖歌せいか作曲さっきょく作品さくひんとしての金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎと作曲さっきょく家か[編集へんしゅう]

正教会せいきょうかい聖歌せいかは無む伴奏ばんそう声楽せいがくが基本きほん原則げんそくである[6]。

近世きんせい以前いぜんの正教会せいきょうかい聖歌せいかには作曲さっきょく家名かめいが付つけられていない事ことが多おおい。ビザンティン聖歌せいか（ギリシャ正教会せいきょうかいの聖歌せいか）・ズナメニ聖歌せいか（ロシア正教会せいきょうかいで18世紀せいき以前いぜんまで発展はってんした聖歌せいか）・ヴァラーム聖歌せいか（ロシア正教会せいきょうかいのカレリア地方ちほうの修道院しゅうどういんに伝つたわる聖歌せいか）などはこうした伝統でんとうに属ぞくする。また、19世紀せいき以降いこうに西欧せいおう的てき和声わせい法ほうを導入どうにゅうした上うえで確立かくりつされたオビホードと呼よばれる聖歌せいか集しゅうにも、作曲さっきょく家名かめいは特とくに付つけられていない。

しかし（17世紀せいきにもウクライナを中心ちゅうしんに僅わずかな事例じれいが存在そんざいするが）18世紀せいき以降いこう、ロシア正教会せいきょうかいでも作曲さっきょく家かが明あきらかにされた上うえでの聖歌せいか作曲さっきょくが盛さかんに行おこなわれていくようになる。19世紀せいきにはロシア正教会せいきょうかいの聖歌せいか作曲さっきょくは隆盛りゅうせいを極きわめ、著名ちょめいな作曲さっきょく家かの多おおくが聖歌せいか作曲さっきょくを手てがけた。こうした伝統でんとうは、無む神かみ論ろんを標榜ひょうぼうしたボリシェビキによるロシア革命かくめいが勃発ぼっぱつし、ソ連それん政府せいふによって正教会せいきょうかいが弾圧だんあつされ、多おおくの作曲さっきょく家かが国外こくがいに亡命ぼうめいするか聖歌せいか作曲さっきょくを断念だんねんせざるを得えなくなる20世紀せいき初頭しょとうまで続つづいた。

ソビエト連邦れんぽうの崩壊ほうかい後ごの昨今さっこん、旧きゅうソ連それんおよびその衛星えいせい国家こっかとなっていた地域ちいきで再ふたたび正教会せいきょうかいの聖歌せいか作曲さっきょくが行おこなわれるようになっている。

金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎの全曲ぜんきょくを作曲さっきょくした著名ちょめいな作曲さっきょく家か[編集へんしゅう]

※《》内ないは活躍かつやくした（している）正教会せいきょうかい。並ならび順じゅんは永眠えいみん年とし順じゅん。存命ぞんめいの人物じんぶつについては生年せいねん順じゅん。

正教会せいきょうかい聖歌せいかを作曲さっきょくした著名ちょめいな作曲さっきょく家か[編集へんしゅう]

※《》内ないは活躍かつやくした正教会せいきょうかい

語義ごぎ・よくみられる誤訳ごやく：「聖ひじりヨハネ・クリュソストモスの典礼てんれい」「ミサ」[編集へんしゅう]

英語えいごの"Liturgy"には「奉たてまつ神かみ礼あや」（「典礼てんれい」に相当そうとうする正教会せいきょうかいの訳語やくご）・「礼拝れいはい」の意味いみがある事ことから、金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎ（The Divine Liturgy of St. John Chrysostom）のことを「聖せいヨハネス・クリュソストモスの典礼てんれい」「聖ひじりヨハネ・クリュソストムの典礼てんれい」等とうと訳出やくしゅつするケースが一般いっぱんに散見さんけんされるが、これらは誤訳ごやくである。

たしかに、正教会せいきょうかいにおいても"Liturgy"（英語えいご）は、狭義きょうぎでは「聖体せいたい礼儀れいぎ」の語義ごぎがある一方いっぽうで、広義こうぎには「奉たてまつ神かみ礼あや」という語義ごぎがある。

しかし英語えいごの"Divine Liturgy"は正教会せいきょうかいにあってはこれ以上いじょうの修飾しゅうしょく語ごを伴ともなわずとも聖体せいたい礼儀れいぎを指さす語かたりである。また、各国かっこく語ごで"τたうοおみくろんυうぷしろん Χρυσοστόμου"（ギリシャ語ご）・"Иоанна Златоуста"（ロシア語ご）・"of St. John Chrysostom"（英語えいご）という修飾しゅうしょく語ごがついている場合ばあい、金口きんぐちイオアンの名なの修飾しゅうしょくを伴ともなう奉たてまつ神かみ礼あやは他たに存在そんざいしない以上いじょう、"Liturgy"に聖体せいたい礼儀れいぎ以外いがいの意味いみは有あり得えない。

つまり「聖ひじりヨハネ・クリュソストモスの典礼てんれい」との訳わけについては

  • カトリック教会きょうかいの用語ようごである「典礼てんれい」を、正教会せいきょうかいの奉たてまつ神かみ礼あやに適用てきようしている。
  • 「典礼てんれい」という広義こうぎに過すぎる用語ようごを用もちい、"Divine Liturgy"が意味いみするものが聖体せいたい礼儀れいぎ以外いがいには有あり得えない事ことを認識にんしきしていない。

という、二に重じゅうの誤あやまりが存在そんざいする。

なお、聖体せいたい礼儀れいぎを「正教会せいきょうかいのミサ」と呼よぶケースも稀まれにみられるが、正教会せいきょうかいの聖体せいたい礼儀れいぎをミサと呼よぶ事ことは英語えいご圏けんでも少数しょうすう例れいにとどまり、世界せかい各国かっこくの多おおくの正教会せいきょうかいで「ミサ」と呼よぶ事ことは無ないか極きわめて稀まれである。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 出典しゅってん：「聖体せいたい礼儀れいぎ」「奉たてまつ神かみ礼あや」等とうの正教会せいきょうかいの語彙ごいII＆誤訳ごやく例れい
  2. ^ 現代げんだいのギリシャ正教会せいきょうかいにも関連かんれんするものであるため、現代げんだいギリシャ語ご転写てんしゃを本ほん項こうでは採用さいよう。古典こてん再建さいけん音おんではイオーアンネース・ホ・クリュソストモス。フリソストモスとは「金かねの口くちを持もった」の意いであり、これを日本にっぽん正教会せいきょうかいでは「金口きんぐち」と訳やくす。
  3. ^ 参考さんこう文献ぶんけん・引用いんよう元もと：イラリオン・アルフェエフ著しる、ニコライ高松たかまつ光一ぴかいち訳やく『信仰しんこうの機密きみつ』東京とうきょう復活ふっかつ大だい聖堂せいどう教会きょうかい（ニコライ堂どう） 2004年ねん、135頁ぺーじ～137頁ぺーじ
  4. ^ 参照さんしょう：聖体せいたい礼儀れいぎの歴史れきし的てき発展はってん
  5. ^ 聖体せいたい礼儀れいぎ（日本にっぽん正教会せいきょうかい）
  6. ^ 米国べいこくや韓国かんこくではオルガンを伴奏ばんそうに用もちいる所ところもあり、アフリカでは打楽器だがっきの使用しようが祝福しゅくふくされている教会きょうかいもある。また、アレクサンドル・グレチャニノフは器楽きがく伴奏ばんそう付つきの正教会せいきょうかい聖歌せいかを作曲さっきょくした。しかしこうした事例じれいは、正教会せいきょうかい全体ぜんたいからみれば極きわめて稀まれな部類ぶるいに属ぞくする。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

祈祷きとう文ぶん・構成こうせい[編集へんしゅう]

聖歌せいか[編集へんしゅう]

その他た[編集へんしゅう]

「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=聖せい金口きんぐちイオアン聖体せいたい礼儀れいぎ&oldid=100284065」から取得しゅとく