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(ほぶ、えいcomplement)は、統語とうごろんにおいて、主要しゅよう密接みっせつ関係かんけいにあり[1]主要しゅようおぎなって完成かんせいさせる構成こうせいもと[2]学校がっこう文法ぶんぽう補語ほごcomplement訳語やくごだが、ことなる概念がいねんである。英語えいごけんにおいても、言語げんごがく学校がっこう文法ぶんぽうあいだで、定義ていぎ適応てきおう範囲はんいことなる[3]両者りょうしゃ共通きょうつうするのは、 complementべつ語句ごく意味いみおぎなう(完成かんせいさせる)ために必要ひつよう語句ごくだということである[4][5]ほんこうではおもに、言語げんごがくにおける complement 、すなわちについてべる。

とは、こうのうち、主要しゅようおな内側うちがわにあるものを[1]Xバーしきがたにおいては、主要しゅよう姉妹しまい関係かんけいにあり、ともにX’を[1][2]主要しゅようによって選択せんたくされ[1][2][6]、その種類しゅるいかず主要しゅよう性格せいかくによって決定けっていする[1]

一方いっぽう付加ふかadjunct)は、主要しゅよう選択せんたくする語句ごくではなく、随意ずいいてき要素ようそである[1][2]。Xバーしきがたにおいては、上記じょうきのX’と姉妹しまい関係かんけいにあり、ともに上位じょうい階層かいそうのX’を[1][2]

伝統でんとう文法ぶんぽうにおける補語ほご[編集へんしゅう]

伝統でんとうてき学校がっこう文法ぶんぽうにおいては、英語えいご基本きほん文型ぶんけいのうち、だい2文型ぶんけい(S+V+C)のCが主格しゅかく補語ほごsubject complement)、だい5文型ぶんけい(S+V+O+C)のCが目的もくてきかく補語ほごobject complement)とばれる[5][7]

主格しゅかく補語ほごれい
  • Ryan is upset.
  • Rachelle is the boss.
  • Marie is the treasurer.
目的もくてきかく補語ほごれい
  • That made Michael lazy.
  • We call Rachelle the boss.
  • The class appointed Marie treasurer.

この定義ていぎにおける”補語ほご”は、学校がっこう文法ぶんぽうでは広範囲こうはんいにわたってもちいられているが、現代げんだい言語げんごがくにおける””とはことなる用語ようごである。

言語げんごがくにおける[編集へんしゅう]

なま成文法せいぶんほうXバー理論りろんなど)では、主要しゅようおぎない、完成かんせいさせる語句ごくという。主要しゅよう動詞どうしなら、その目的もくてきとして機能きのうしている名詞めいしれいとしてげられる。なお、主語しゅご名詞めいし目的もくてき名詞めいしは、ともに主要しゅよう動詞どうし選択せんたくするこうであるが、主語しゅご通常つうじょうとはみなされない[1][8]。また、名詞めいし以外いがいになれる。

”*”=ぶん

目的もくてきれい
  • He wiped the counter.
  • *He wiped.
  • She scoured the tub.
  • *She scoured.

名詞めいし the counter動詞どうし wiped意味いみ完成かんせいさせるために必要ひつようであり、 the tubscoured意味いみ完成かんせいさせるために必要ひつようである。よって、 the counterthe tub はそれぞれである。

かず種類しゅるい[編集へんしゅう]

Xバー理論りろんでは、あらゆる種類しゅるいはいるべき位置いち存在そんざいする。主要しゅよう性格せいかくにより、ゼロ、1つ、あるいは複数ふくすうる。また、名詞めいし形容詞けいようしせっおけなど、さまざまなかたちる。そのものもであり[6]、その内部ないぶにも主要しゅよう構造こうぞう存在そんざいする。 thatwhether などでみちびかれるふしや、to不定ふていぶしかたちになっているは、ぶんcomplementizer clause または complementizer phraseりゃくして CP)ともばれる。その場合ばあいthatwhetherぶん主要しゅようであり、ぶん標識ひょうしきまたはぶんマーカーcomplementizer)とばれる。日本語にほんごでは、たとえば「ぼくは、ジョンがメアリーをあいしているおもう」の「と」がぶんマーカーで、「ジョンがメアリーをあいしていると」がぶんである。

なお、伝統でんとう文法ぶんぽうにおいて動詞どうし他動詞たどうし自動詞じどうし分類ぶんるいする方法ほうほうは、あくまでも目的もくてきるかどうかのちがいだけであり、ゼロ自動詞じどうしというわけではない。

1つのれい

つぎかくれいではそれぞれ、[ ]という(VP=動詞どうし、NP=名詞めいし、AP=形容詞けいようし、PP=前置詞ぜんちし)において、はす主要しゅよう太字ふとじである。内部ないぶ主要しゅようという多重たじゅう構造こうぞうになっているものもあるが、ここでは1階層かいそうぶんのみしめす。

  • John [VP loves Mary very much ].
  • Mary [VP hit John with a stick ].
  • I [VP want a drink ].
  • I [VP want to go home ].
  • I [VP want my son to study harder ].
  • We [VP really think that linguistics is interesting ].
  • They [VP doubted whether Linda was telling the truth ].
  • I [VP believe that Peter is a liar ].
  • I [VP believe Peter to be a liar ].
  • She [VP strongly believes in his innocence ].
  • This problem [VP seems difficult ].
  • John is [AP very interested in linguistics ].
  • Mike is [AP afraid of ghosts ].
  • Diane is [AP fond of movies ].
  • Does Mary understand [NP our need for secrecy ]?
  • Jane [VP studies physics ].
  • Jane is [NP a student of physics ].
  • Jane bought [NP a book on physics ].
  • [NP Paul's desire for justice ]
  • [PP on the desk ]
  • [PP after the game ]

wantbelieve などのように、ことなる種類しゅるいになることもあるが、すうそのものはわらない。

      VP
    /  |
 spec  V'
       |  \
       V  comp

[VP studies physics ] と [NP a student of physics ] を、Xバーしきがた比較ひかくすると、節点せってんのラベルはことなるものの、基本きほんてきおなじツリー構造こうぞうっている[2]

      VP                       NP
    /  |                     /  |
 spec  V'                 spec  N'
  |    |  \                |    | \
  Ø    V   NP (comp)      Det   N   PP (comp)
       |     |             |    |    |
    studies physics        a student P'    
                                     | \
                                     P  NP
                                     |   |
                                    of physics
複数ふくすう動詞どうしれい

つぎかくれいでは、はす主要しゅよう、 < > がである。

  • John [VP gave < Mary > < a book > ].
  • The children [VP put < their toys > < on the table > ].
  • Tom [VP sent < a package > < to his mother > ].
  • William [VP sold < a computer > < to Lucy > < for $500 > ].

付加ふか[編集へんしゅう]

付加ふかadjunct)、いわゆる修飾しゅうしょくは、随意ずいいてきおこりせいする語句ごくであり[1][2]ではない。かたちそのものからは、付加ふかかが判断はんだんしにくいこともあるが、省略しょうりゃく可能かのうかどうかということが1つの目安めやすになる[2][6]

以下いかはそれぞれ、 a. のはす部分ぶぶん付加ふかである。それをのぞいた b. もぶんではないため、ぶん完成かんせいさせるためには不要ふようであることがわかる。

  • a. right after the game
  • b. after the game
  • a. fix the bike tomorrow
  • b. fix the bike
  • a. the old house
  • b. the house
  • a. Stop immediately!
  • b. Stop!
  • a. Jill likes Jack.
  • b. Jill really likes Jack.
  • b. Jill likes Jack most of the time.
  • b. Jill likes Jack when the sun shines.
  • b. Jill likes Jack because he's friendly.

前置詞ぜんちしはしばしば、付加ふかとしてもちいられることがあるが、になることもある。以下いかはす付加ふか太字ふとじである。後者こうしゃのぞくとぶんになる[2][6]

  • Sam put the pen on the chair.
  • *Sam put the pen.
  • Mary gave it to me.
  • *Mary gave it.
  • Children are playing baseball in the park.
  • Children are playing baseball.

によっては(ニュアンスはわるものの)省略しょうりゃく可能かのうである。しかし、その場合ばあいでも、付加ふかくらべて主要しゅようとの密接みっせつせいたかいという特徴とくちょうがある[1][9]。それはXバーしきがたにおいて、付加ふかよりも内側うちがわにあるという解析かいせき合致がっちする[2][9]以下いかれいでは、2つの前置詞ぜんちしのうち、「of biology」が名詞めいし「student」の本質ほんしつてき要素ようそあらわしており、「with blond hair」は付随ふずいてき要素ようそである。すなわち、前者ぜんしゃほう主要しゅよう名詞めいしとの密接みっせつせいたかく、Xバー構造こうぞうでもちか位置いちにある。そのため、2つの前置詞ぜんちし順番じゅんばんえるとぶんになる[9]

  • a student
  • a student of biology
  • a student with blond hair
  • a student of biology with blond hair
  • *a student with blond hair of biology

また、付加ふかXバーしきがたことなる階層かいそうにある構成こうせいもとなので、等位とうい接続せつぞくすることはできない[2]

  • a student of physics and of biology
  • a student with blond hair and with blue eyes
  • *a student of physics and with blond hair

広義こうぎ[編集へんしゅう]

主語しゅごこうをもとみなす立場たちばもある[10]。その場合ばあいこう同義どうぎになる。つぎれいにおける HeShesubject complement主語しゅご)、 the counterthe tubobject complement目的もくてき)として区別くべつされるが、それぞれ、主格しゅかく補語ほご目的もくてきかく補語ほごとは意味いみことなることに注意ちゅうい

  • He wiped the counter.
  • She scoured the tub.

さらに広義こうぎでは、べつ表現ひょうげんを”完成かんせい”させるために必要ひつよう表現ひょうげんすべとみなす立場たちばもある[11]。この解釈かいしゃくによるは、こうである必要ひつようさえない。

  • with the class
  • Jim will help.
  • Chris gave up.
  • as a friend

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g h i j 吉田よしだ光演こうえんXバー理論りろん語順ごじゅん : 英語えいごドイツ日本語にほんご基本きほん語順ごじゅん比較ひかく」『広島大学ひろしまだいがく総合科学部そうごうかがくぶ紀要きよう. V言語げんご文化ぶんか研究けんきゅうだい20かん広島大学ひろしまだいがく総合科学部そうごうかがくぶ、1994ねん12月、143-161ぺーじCRID 1390853649782182272doi:10.15027/25716ISSN 03851494NAID 120001065393 
  2. ^ a b c d e f g h i j k ぎゅうこう一裕かずひろ構成こうせい素性すじょう構造こうぞう(1)構成こうせいもと構造こうぞうのテストとXバー理論りろん : 統語とうご構造こうぞう確定かくていせいかんする研究けんきゅう」『科学かがく研究けんきゅう補助ほじょきん(基盤きばん研究けんきゅうC(2))研究けんきゅう成果せいか報告ほうこくしょ . 統語とうご構造こうぞう確定かくていせいかんする研究けんきゅう 平成へいせい10年度ねんど平成へいせい12年度ねんど課題かだい番号ばんごう: 10610458、埼玉大学さいたまだいがく教育きょういく学部がくぶ、2001ねん、19-38ぺーじ2023ねん8がつ4にち閲覧えつらん 
  3. ^ 英語えいごけんにおける complement定義ていぎ適応てきおう範囲はんいちがいについては、 Matthews (1981:142f.) および Huddleston (1988:note 2) を参照さんしょう
  4. ^ Crystal (1997:75).
  5. ^ a b Nordquist, Richard. “Complement”. About.com. 2013ねん3がつ13にち閲覧えつらん
  6. ^ a b c d What is a complement?”. LinguaLinks Library 5.0 Plus. 2013ねん3がつ13にち閲覧えつらん
  7. ^ Matthews (1981:3ff.), Downing and Locke (1992:64f.), Thomas (1993:46, 49), Brinton (2000:183f.).
  8. ^ Lester (1971:83), Horrocks (1987:63), Borsley (1991:60ff.), Cowper (1992:67), Burton-Roberts (1997:41), Fromkin et al. (2000:119).
  9. ^ a b c Linguistics 522 Introduction to Syntax - Background Lecture”. ROHAN Academic Computing - San Diego State University, Department of Linguistics and Oriental Languages. 2013ねん3がつ13にち閲覧えつらん
  10. ^ Matthews (1981:101), Pollard and Sag (1994:23), Miller (2011:56).
  11. ^ Radford (2004:329).

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Borsley, R. 1991. Syntactic theory: A unified approach. Cambridge, MA: Blackwell Publishers.
  • Brinton, L. 2000. The structure of modern English. Amsterdam: John Benjamins Publishing Company.
  • Burton-Roberts, N. 1997. Analysing sentences: An introduction to English grammar. London: Longman.
  • Cowper, E. 1992. A concise introduction to syntactic theory: The government-binding approach. Chicago: The University of Chicago Press.
  • Crystal, D. 1997. A dictionary of linguistics and phonetics, 4th edition, Oxford, UK: Blackwell.
  • Downing, A. and P. Locke. 1992. English grammar: A university course, second edition. London: Routledge.
  • Fromkin, V. et al. 2000. Linguistics: An introduction to linguistic theory. Malden, MA: Blackwell Publishers.
  • Horrocks, G. 1986. Generative Grammar. Longman: London.
  • Huddleston, R. 1988. English grammar: An outline. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
  • Lester, M. 1971. Introductory transformational grammar of English. New York: Holt, Rinehart and Winston, Inc.
  • Matthews, P. 1981. Syntax. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
  • Miller, J. 2011. A critical introduction to syntax. London: continuum.
  • Pollard, C. and I. Sag. 1994. Head-Driven Phrase Structure Grammar. Chicago: The University Press of Chicago.
  • Radford, A. 2004. English syntax: An introduction. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
  • Thomas, L. 1993. Beginning syntax. Oxford, UK: Blackwell.
  • Geeraerts, Dirk; Cuyckens, Hubert (2007). The Oxford Handbook of Cognitive Linguistics. Oxford University Press US. ISBN 0-19-514378-7 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]