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西にしなつ

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西にしなつ
𗼇𗟲 ()
西にしなつ仏典ぶってん
はなされるくに 西にしなつ
民族みんぞく タングート
話者わしゃすう
言語げんご系統けいとう
表記ひょうき体系たいけい 西にしなつ文字もじ
公的こうてき地位ちい
公用こうよう  西にしなつ
統制とうせい機関きかん 統制とうせいなし
言語げんごコード
ISO 639-3 txg
Linguist List txg
Glottolog tang1334[1]
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西にしなつ(せいかご、英語えいご: Tangut)は、西にしなつ王朝おうちょうにおいてかつてはなされていたシナ・チベット語族ごぞく言語げんごである。チベットビルマとはとおおやえん関係かんけいにあり、中国ちゅうごくとはさらにとおおやえん関係かんけいにある。

西にしなつは11世紀せいきはじめにタングートひとによっててられた西にしなつ王朝おうちょう(チベットでミニャクとばれ、漢字かんじで「わたるやく」と音訳おんやくされる)の公用こうようであった。西にしなつは1226ねんチンギス・ハーン侵略しんりゃくによって滅亡めつぼうした[2]

西にしなつ専用せんよう書記しょき体系たいけいである西にしなつ文字もじっていた。

西にしなつかれた現存げんそんするもっとも年代ねんだいあたらしい文献ぶんけんは1502ねん紀年きねんのあるいし幢であり、このことは西にしなつ滅亡めつぼう300ねんちかくたってもまだ西にしなつ使つかわれていたことを示唆しさする。

系統けいとう

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西にしなつシナ・チベット語族ごぞくぞくすることは解読かいどく初期しょきから認識にんしきされており、とくロロ・ビルマぐんチアンぐんちか関係かんけいにあることもはやくから指摘してきされていた。よりふか詳細しょうさい関係かんけいについては、そののチアンぐんギャロンぐん英語えいごばんそのものにたいする研究けんきゅう発展はってん並行へいこうしている[3]

Laufer (1916)は、西にしなつ言語げんご本格ほんかくてき比較ひかく研究けんきゅうはじめておこない、ロロナシ英語えいごばん西にしなつわせてひとつのグループとすることを提案ていあんした。このころはまだ資料しりょう歴史れきし言語げんごがく自体じたい知見ちけんとぼしかったため、この論文ろんぶんしめされたデータはいまとなってはあまり有用ゆうようではないが[4]、シナ・チベット語族ごぞくにおいてロロ・ビルマ諸語しょご西にしなつが(中国ちゅうごくチベットなどとの関係かんけいくらべれば)ちか関係かんけいにあるというかんが自体じたい今日きょうではより強固きょうこになっている(ビルマ・チアンぐん英語えいごばん[5]。そのたとえばおうしず如 (1933)西にしなつムニャ英語えいごばんチアンとの関係かんけい指摘してきし、Nishida (1976)西にしなつトス英語えいごばんアルスぐん英語えいごばん)の関連かんれん指摘してきした。

まごひろしひらくがチアンぐんたいして継続けいぞくてき研究けんきゅうおこな[6][7][8][9]、その過程かてい西にしなつがチアンぐんふくまれることを提案ていあんして以降いこう、そのことはおおむねコンセンサスとなっている。まごひろしひらけ (2001)Jacques & Michaud (2011)とで見解けんかいがおおよそ一致いっちしている部分ぶぶん系図けいず以下いかしめす(どちらも西にしなつをチアンぐんないのやや曖昧あいまい箇所かしょ配置はいちしているが、後者こうしゃプリンミ英語えいごばん西にしなつもっとているともべている)。

  • ビルマ・チアンぐん
    • ロロ・ビルマぐん
      • ロロ諸語しょご
      • ビルマ諸語しょご
    • チアンぐん
      • みなみチアンぐん
        • アルス諸語しょご(アルス、トスなど)
      • きたチアンぐん
        • ギャロン諸語しょご
        • チアン諸語しょご(チアン、プリンミ、ムニャなど)
        • 西にしなつ

ギャロンとの関係かんけい

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ギャロンぐんは、中国ちゅうごく四川しせんしょう西部せいぶ山岳さんがく地帯ちたい分布ぶんぷするしょ言語げんごからなるグループである。

西にしなつとギャロンきんえんせいはじめて提案ていあんしたのはWolfenden (1931)である。かれは、西にしなつチベット文字もじによる転写てんしゃとギャロン(より具体ぐたいてきにはスートゥ英語えいごばんぞくするであろう方言ほうげん)およびチベット文語ぶんご語彙ごい比較ひかくし、チベット文字もじしめあたま子音しいんクラスターがギャロンかたちとよくていることを指摘してきし、西にしなつ話者わしゃ南方なんぽうのがれた末裔まつえいがギャロン話者わしゃである可能かのうせい提示ていじした。しかし、この論文ろんぶんしめされた類似るいじのほとんどは実際じっさいには偶然ぐうぜん産物さんぶつであり、現在げんざいでは西にしなつ系統けいとう証拠しょうことはなされていない(具体ぐたいてきえば、引用いんようされているチベット文字もじ転写てんしゃれいのほとんどはg/dではじまるものだが、今日きょうではこのg/dは西にしなつ存在そんざいするあたま子音しいんクラスターを表現ひょうげんしたものではないかんがえられている[10])。

21世紀せいきはいってからギャロン諸語しょごたいする多数たすうフィールドワークおこなわれたことで、よりおおくの証拠しょうこもとづいて西にしなつとギャロンとの関係かんけい研究けんきゅうすることが可能かのうとなった。Jacques (2014)は、Jacques & Michaud (2011)による西にしなつはプリンミちかいというかんがえを保持ほじしつつも、西にしなつジャプクとのだい規模きぼ語彙ごい比較ひかくおこない、とく西にしなつつうてき音韻おんいんろん考察こうさつしている。

Jacques et al. (2017, pp. 609–611)、Lai (2017, p. 10)、Gong (2018, p. 21)などは、トスキャプ英語えいごばんホルパ英語えいごばんのギャロン諸語しょごとはことなるグループとして分離ぶんりしており、そのうちJacques et al. (2017, p. 611)は西にしなつがホルパ共通きょうつう特徴とくちょうつことにもれている。そのLai et al. (2020)は、このグループを西にしギャロンぐん英語えいごばん対照たいしょうてきにジャプクやスートゥなどがぞくするグループはひがしギャロンぐん)とび、共通きょうつうするおと変化へんか語彙ごい形態けいたいろん統語とうごろん複数ふくすう提示ていじすることで、西にしなつ西にしギャロンぐんぞくすることをつよ主張しゅちょうした。さらにBeaudouin (2023a)Beaudouin (2023b)は、最新さいしんのホルパのフィールドワークのデータ(Honkasalo (2019)Sun (2019)Gates (2021)ひとし)を利用りようし、語彙ごい以外いがいにも動詞どうし複雑ふくざつ接辞せつじパターンや名詞めいししょかく形態素けいたいそかんする借用しゃくようでは説明せつめい困難こんなん特徴とくちょう一致いっちしていることから、西にしなつ西にしギャロンなかでもホルパぐんぞくするとしている。

西にしなつ西にしギャロンおよびホルパ共有きょうゆう語彙ごいれい[11][12][13][注釈ちゅうしゃく 1]
西にしなつ 西にしギャロンぐん ひがしギャロンぐん 備考びこう
ホルパぐん トスキャプ ジャプク
スタウ ゲシツァ
けむり 𗜐𗿉 mə̱¹ɣju¹ mkʰə mkʰə mkʰə́ tɤ-kʰɯ 西にしギャロンのみ m-
いぬ 𗃞𗗿 kə¹ta¹ kʰətæ kəta kətɑ́ kʰɯna 西にしギャロンのみ -ta
友人ゆうじん 𗑟𘎆 .wjɨ̣¹dźjwɨ¹ vdʑə vdʑæ vdʑə́ (tɤ-rɣa) 西にしギャロン特有とくゆう語彙ごい
𗺍𗩳 dźiwə¹dźiwe¹ ndʑədʑə ɳʂʈʰæʈʂʰæ dʑə̂dʑə (nɤkʰɯkʰrɯt) 西にしギャロン特有とくゆう畳語じょうご
1 𘈩 lew¹ ro rəu rɑ̂ɣ tɤɣ ホルパのみ末尾まつび-w弱化じゃっか
𘄏 dźju² dʑə dʑə (rdû) (atɯɣ) ホルパ特有とくゆう語彙ごい
うま 𘆝 rjijr¹ rji rji (bró) (mbro)

こうした研究けんきゅうもとづけば、西にしなつつぎのように位置いちづけられる[14]

  • ギャロンぐん
    • ひがしギャロンぐん(ジャプク、スートゥなど)
    • 西にしギャロンぐん
      • トスキャプ
      • ホルパぐん
        • ゲシツァ
        • スタウ
        • 西にしなつ

さい発見はっけん

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現代げんだいにおいて西にしなつ研究けんきゅうがはじまったのは20世紀せいきのはじめにジョルジュ・モリスが西にしなつぶん法華経ほけきょう入手にゅうしゅしたときにはじまる。そのテクストにはだれによるものかは不明ふめいだが漢文かんぶん注釈ちゅうしゃくがつけられていた。現存げんそんする西にしなつテクストのだい部分ぶぶんカラ・ホトにおいて1909ねんピョートル・コズロフ発掘はっくつしたもので、その文書ぶんしょ西にしなつ王国おうこくのものと判断はんだんされた。アレクセイ・イワノヴィチ・イワノフ英語えいごばん石濱いしはまじゅん太郎たろうベルトルト・ラウファーぶく中国語ちゅうごくごばん福成ふくなり中国語ちゅうごくごばんおうしず中国語ちゅうごくごばんらが西にしなつ研究けんきゅう貢献こうけんしたが、もっともおおきな貢献こうけんをしたのはロシアじん学者がくしゃニコライ・ネフスキー (1892-1937) であった。ネフスキーは最初さいしょ西にしなつ辞典じてん編纂へんさんし、すうおおくの西にしなつ助辞じょじ意味いみさい構し、西にしなつ文書ぶんしょんで理解りかいすることを可能かのうにした。ネフスキーの学術がくじゅつてき功績こうせき没後ぼつごの1960ねんになって「タングーツカヤ・フィロローギヤ」(西にしなつ文献ぶんけんがく)のだい出版しゅっぱんされた。この著作ちょさくにはソ連それんレーニンしょうあたえられ、没後ぼつごにようやく評価ひょうかされた。西にしなつ理解りかいいま完全かんぜんというには程遠ほどとおい。クセニヤ・ケピング英語えいごばんによる『西にしなつ形態けいたいろん』( Тангутский язык: Морфология, モスクワ, ナウカ 1985)や、西田にしだ龍雄たつおによる『西にしなつ研究けんきゅうによって文法ぶんぽう判明はんめいしているものの、西にしなつ統辞とうじ構造こうぞういまもほとんど研究けんきゅうされていない。

カラ・ホト文書ぶんしょ現在げんざいサンクト・ペテルブルクロシア科学かがくアカデミー東洋とうよう文献ぶんけん研究所けんきゅうじょ保存ほぞんされている。さいわいにもレニングラード包囲ほういせんでもうしなわれなかった。ネフスキーが1937ねん内務ないむ人民じんみん委員いいん逮捕たいほされたときにっていたおおくの西にしなつ文書ぶんしょはいったんうしなわれたが、よくわからない経緯けいいによって、1991ねんもどってきた[15]東洋とうよう文献ぶんけん研究所けんきゅうじょやく1まんかん文書ぶんしょ所有しょゆうし、だい部分ぶぶんは11世紀せいき中頃なかごろから13世紀せいきはじめまでの仏典ぶってん法律ほうりつ法的ほうてき文書ぶんしょである。仏典ぶってんのなかにはかんやくやチベットやく存在そんざいしないものが最近さいきんになって多数たすう発見はっけんされた。ほかに儒教じゅきょう古典こてんおおくの西にしなつ独自どくじのテクストが保存ほぞんされている。

かずすくないものの、だいえい図書館としょかん北京ぺきん中国ちゅうごく国家こっか図書館としょかん北京ぺきん大学だいがく図書館としょかんにも西にしなつ文書ぶんしょのコレクションがある。

さい

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西にしなつ文字もじ西にしなつ発音はつおん関係かんけいは、漢字かんじ現代げんだい中国語ちゅうごくごよりもさらにとぼしい。漢字かんじの9わりこえっているが、ソフロノフによると西にしなつ文字もじ場合ばあい全体ぜんたいの1わりしかこえをもっていない。西にしなつ発音はつおんさい構するためには文字もじ以外いがいたすけが必要ひつようになる。

ばんかんあい掌中しょうちゅうたま』より

西にしなつ中国ちゅうごく言語げんご語彙ごいしゅうである『ばんかんあい掌中しょうちゅうたま英語えいごばん』の発見はっけんにより、イワノフ(1909)とラウファー(1916)は西にしなつ音節おんせつあたま子音しいんさい構し、比較ひかく研究けんきゅうおこなった。『ばんかんあい掌中しょうちゅうたま』は西にしなつ文字もじそれぞれに漢字かんじ1または複数ふくすう発音はつおんしめし、ぎゃく漢字かんじ発音はつおんを1または複数ふくすう西にしなつ文字もじしめしている。もうひとつの資料しりょう西にしなつをチベット文字もじ転写てんしゃしたもので、ネフスキー(1925)によってはじめて研究けんきゅうされた。

しかしながら、この2種類しゅるい資料しりょうでは西にしなつ体系たいけいてきさい構には不足ふそくである。これらの転写てんしゃ西にしなつ発音はつおん正確せいかく表現ひょうげんする目的もくてきおこなわれたわけではなく、母語ぼごでない言語げんご単語たんごを、理解りかいできるべつ言語げんご利用りようして発音はつおん記憶きおくするのをたすけるためにかれたものであった。

現代げんだいさい構の基本きほんをなしている3番目ばんめ資料しりょうは、西にしなつだけでかれた辞典じてんである。これには『文海ぶんかい』、2種類しゅるいの『同音どうおん』、『文海ぶんかいざつへん』およびだいのついていない辞書じしょがある。これらの辞書じしょ発音はつおん中国ちゅうごく辞典じてん伝統でんとうからりた反切はんせつ使つかって記録きろくされている。これらの辞典じてん細部さいぶではちがいをせるものの(たとえば『同音どうおん』は文字もじ音節おんせつあたま子音しいんいんはは分類ぶんるいし、声調せいちょう無視むしする)、どれも105いん体系たいけい使用しようしている。これらのいんのいくつかは音節おんせつあたま子音しいん調音ちょうおん位置いちによって相補そうほ分布ぶんぷをなしており(れいだい10いんだい11いんだい36いんだい37いん)、これらの辞書じしょ作成さくせいした学者がくしゃ自分じぶん言語げんご非常ひじょう正確せいかく音韻おんいん分析ぶんせきしていることをしめす。

言語げんご転写てんしゃにおいて、西にしなつ反切はんせついんかんして体系たいけいてき非常ひじょう正確せいかく区別くべつをおこなっている。反切はんせつ使つかえば西にしなつ音韻おんいん範疇はんちゅうをよく理解りかいすることができる。しかし、それぞれの範疇はんちゅうおとさだめるためには、辞書じしょからられる音韻おんいんてき体系たいけい資料しりょう比較ひかくしなければならない。

ニコライ・ネフスキーは西にしなつ文法ぶんぽうさい構し、最初さいしょ西にしなつ英語えいご・ロシア辞典じてん編纂へんさんした。この辞典じてんはネフスキーの論文ろんぶんとともに没後ぼつごの1960ねんに『西にしなつ文献ぶんけんがく』のだい出版しゅっぱんされた。ネフスキー以後いごおも西田にしだ龍雄たつお、クセニヤ・ケピング、龔煌じょう、М・ソフロノフ、はんぶん英語えいごばんらによってさい構がおこなわれた。マーク・ミヤケ西にしなつ音韻おんいんろんつう時論じろんかんする書物しょもつ出版しゅっぱんした[16]西にしなつ辞典じてんは4種類しゅるい利用りよう可能かのうである(ネフスキーのもの、西田にしだ龍雄たつおのもの(1966)、はんぶんのもの(1997、2008改訂かいてい)、エヴゲーニイ・クィチャノフ英語えいごばんのもの(2006))。

中国ちゅうごくでは西にしなつがく発展はってんしつつある。おも学者がくしゃには大陸たいりくではふみ金波きんぱ英語えいごばんはんぶん、聶鴻おん白浜しらはまらがあり、台湾たいわんでは龔煌じょうはやしえいがある。中国ちゅうごく以外いがいではロシアではクィチャノフとそのおしであるキリル・ソローニン、日本にっぽんでは西田にしだ龍雄たつお荒川あらかわ慎太郎しんたろう米国べいこくではルース・W・ダンネルがある。

音韻おんいん

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西にしなつ音節おんせつは CV 構造こうぞうをもっており、2種類しゅるい声調せいちょう平声ひょうしょう上声じょうせい)のいずれかにぞくする。中国ちゅうごく音韻おんいんがくしたがって、音節おんせつこえはは音節おんせつあたま子音しいん)といんはは(それ以外いがい)にける。

子音しいん

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子音しいん以下いか範疇はんちゅうけられる。

中国語ちゅうごくごめい 現代げんだい 荒川あらかわ ミヤケ
じゅう唇音しんおんるい りょう唇音しんおん p, ph, b, m p, ph, b, m p, ph, b, m
けい唇音しんおんるい くちびる歯音しおん f, v, w v
舌頭ぜっとうおんるい 歯音しおん t, th, d, n t, th, d, n t, th, d, n
したじょうおとるい 歯茎はぐきおん ty', thy', dy', ny' tʂ tʂh dʐ ʂ
きばおんるい 軟口蓋なんこうがいおん k, kh, g, ng k, kh, g, ŋ k, kh, g, ŋ
あたまおんるい 歯音しおんやぶおと摩擦音まさつおん ts, tsh, dz, s ts, tsh, dz, s ts, tsh, dz, s
せい歯音しおんるい かた口蓋こうがいやぶおと摩擦音まさつおん c, ch, j, sh tɕ, tɕh, dʑ, ɕ
のどおんるい 喉頭こうとうおん ', h ., x, ɣ ʔ, x, ɣ
流風るかおとるい 共鳴きょうめいおん l, lh, ld, z, r, zz l, lh, z, r, ʑ ɫ, ɬ, z, ʐ, r

韻書いんしょでは105のいんるい区別くべつし、かくいんひとしたまきによって分類ぶんるいされる。

西にしなついんさん種類しゅるいたまきをもち、それぞれは西田にしだによって(荒川あらかわ・龔もおなじ)「普通ふつう母音ぼいん・緊喉母音ぼいんめくした母音ぼいん」とばれている。龔の表記ひょうきでは普通ふつう母音ぼいん表記ひょうき、緊喉母音ぼいんしたてんき、めくした母音ぼいんうしろに -r を附加ふかする。荒川あらかわも龔とほぼおなじだが、緊喉母音ぼいんは -q を附加ふかするところのみことなる。

韻書いんしょでは4つのとう区別くべつする。初期しょきさい構ではこれらがことなるおとあらわすとかんがえていたが、さんとうよんとう区別くべつこえははによる相補そうほ分布ぶんぷをなすことが見出みいだされ、荒川あらかわや龔のさい構では両者りょうしゃ区別くべつしない。龔のさい構では3つのとうを V、iV、jV としている。荒川あらかわは V、iV、V: としている。

おなぬし母音ぼいんをもつすべてのいん集合しゅうごう相当そうとうする。

龔はさらに母音ぼいんながさに音韻おんいんろんてき意味いみがあったとする。龔のしめした証拠しょうこ西にしなつ中国語ちゅうごくごにはない区別くべつがあったことをしめすが、それが母音ぼいんながさのちがいであることをしめ積極せっきょくてき証拠しょうこ存在そんざいしない。このため学者がくしゃは龔のせつ疑問ぎもんとしている。

母音ぼいん

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普通ふつう母音ぼいん 緊喉母音ぼいん めくした母音ぼいん
せま母音ぼいん i I u iq eq uq ir Ir ur
中央ちゅうおう母音ぼいん e o eq2 oq er or
こう母音ぼいん a aq ar

ミヤケはことなるさい構をおこなっている。ミヤケによると、西にしなつの95いんははさき西にしなつの6母音ぼいん体系たいけいから子音しいん連結れんけつ最初さいしょ子音しいん脱落だつらくすることによって発生はっせいしたものである(かっこでしめした2つのいんはは中国語ちゅうごくごからの借用しゃくようにのみあらわれる。さんとうよんとうおおくが相補そうほ分布ぶんぷしめす)

さき西にしなつ 一等いっとう とう さんとう よんとう
*u əu o ɨu iu
əəu oo ɨuu iuu
(əũ)
əụ ɨụ iụ
əuʳ iuʳ
*i əi ɪ ɨi i
əəi ɪɪ ɨii ii
əĩ ɨĩ ĩ
əị ɨị
əiʳ ɪʳ ɨiʳ
əəiʳ ɪɪʳ ɨiiʳ iiʳ
*a a æ ɨa ia
aa ææ ɨaa iaa
ã æ̃ ɨã
ɨạ iạ
æʳ ɨaʳ iaʳ
aaʳ ɨaaʳ iaaʳ
(ya)
ə ʌ ɨə
əə ɨəə iəə
ə̣ ɨə̣ iə̣
əʳ ʌʳ ɨəʳ iəʳ
ɨəəʳ iəəʳ
*e e ɛ ɨe ie
ee ɛ ɨee iee
ɛ̃ ɨẽ iẽ
ɛ̣̃ ɨẹ̃ iẹ̃
ɛ̣ ɨẹ iẹ
ɛʳ ɨeʳ ieʳ
*ik
*ek
*uk
ew ɛw ɨew iew
ɨiw iw
eʳw i(e)ʳw
*o o ɔ ɨo io
wɨo
oo ɔɔ ɨoo ioo
õ ɔ̃ ɨõ
ɔ̃ɔ̃ ɨõõ iõõ
ɔ̣ ɨọ iọ
ɔʳ ɨoʳ ioʳ
ooʳ iooʳ
õʳ iõʳ

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 西にしなつのアルファベット表記ひょうき龔煌じょうによるさい構形に声調せいちょうえたもの。スタウGates (2021)によるマズル方言ほうげんかたち。ゲシツァHonkasalo (2019)によるバロン方言ほうげんかたち。トスキャプLai (2017)によるウォブジ方言ほうげんかたち。ジャプクはギヨーム・ジャック(複数ふくすう著作ちょさく)によるかたち

出典しゅってん

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  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Tangut”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/tang1334 
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  5. ^ Jacques & Michaud 2011.
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  7. ^ まごひろしひらけ 1982.
  8. ^ まごひろしひらけ 1983.
  9. ^ まごひろしひらけ 1991.
  10. ^ 戴忠沛 2008.
  11. ^ Lai et al. 2020.
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  13. ^ Beaudouin 2023b.
  14. ^ Beaudouin 2023b, p. 94.
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参考さんこう文献ぶんけん

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