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エントロピー - Wikipedia

エントロピー

状態じょうたいりょうひと

エントロピーえい: entropy)は、ねつ力学りきがくおよび統計とうけい力学りきがくにおいて定義ていぎされるしめせりょうせい状態じょうたいりょうである。ねつ力学りきがくにおいて断熱だんねつ条件下じょうけんかでの可逆かぎゃくせいあらわ指標しひょうとして導入どうにゅうされ、統計とうけい力学りきがくにおいてけい微視的びしてきな「乱雑らんざつさ」[ちゅう 1]あらわ物理ぶつりりょうという意味いみけがなされた。統計とうけい力学りきがくでの結果けっかから、けいからられる情報じょうほう関係かんけいがあることが指摘してきされ、情報じょうほう理論りろんにも応用おうようされるようになった。物理ぶつり学者がくしゃエドウィン・ジェインズ英語えいごばんのようにむしろ物理ぶつりがくにおけるエントロピーを情報じょうほう理論りろんいち応用おうようとみなすべきだと主張しゅちょうするもの[だれ?]もいる。

エントロピー
entropy
りょう記号きごう S
次元じげん T−2 L2 M Θしーた−1
種類しゅるい スカラー
SI単位たんい ジュールまいケルビン (J/K)
CGS単位たんい エルグまいケルビン (erg/K)
プランク単位たんい ボルツマン定数ていすう (k)
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統計とうけい力学りきがく


ねつ力学りきがく · 気体きたい分子ぶんし運動うんどうろん

エントロピーはエネルギー温度おんどった次元じげんち、SIにおける単位たんいジュールまいケルビン記号きごう: J/K)である。エントロピーとおな次元じげんりょうとして熱容量ねつようりょうがある。エントロピーはサディ・カルノーにちなんで一般いっぱん記号きごう Sもちいてあらわされる。

語源ごげん 編集へんしゅう

エントロピーは、ルドルフ・クラウジウス造語ぞうごである。ギリシャ由来ゆらいであり、"εいぷしろんκかっぱ"("en")と、英語えいごの"transformation"に相当そうとうする"τροπή"という語根ごこんから[1]

和製わせい漢語かんごでは「うちてん勢力せいりょく[2]などとやくされる。現代げんだい中国ちゅうごくでは「熵 shāng」という表現ひょうげんされる

物理ぶつり学者がくしゃレオン・クーパーは、造語ぞうご「エントロピー」にたいして、「かれ(クラジウス)はだれにとってもおなじもの、つまり『なに意味いみしない言葉ことば』の造語ぞうご成功せいこうした」[3]とコメントしている[4]

概要がいよう 編集へんしゅう

エントロピーは、ねつ力学りきがく統計とうけい力学りきがく情報じょうほう理論りろんなど様々さまざま分野ぶんや使つかわれている。しかし分野ぶんやによって、その定義ていぎ意味いみけはことなる。よってエントロピーを一言ひとこと説明せつめいすることはむずかしいが、おおまかに「なにをすることができて、なにをすることができないかを、その大小だいしょうあらわすようなりょう」であるとえる[5]

エントロピーにかかわる有名ゆうめい性質せいしつとして、ねつ力学りきがくにおけるエントロピー増大ぞうだいそくがある。エントロピー増大ぞうだいそくは、断熱だんねつ条件じょうけんしたけいがある平衡へいこう状態じょうたいからべつ平衡へいこう状態じょうたいうつるとき、遷移せんいぜんうしろけいのエントロピーが減少げんしょうせず、ほとんかなら増加ぞうかすることを主張しゅちょうする。断熱だんねつ条件じょうけんしたけい平衡へいこう状態じょうたいA から B への遷移せんい可能かのう場合ばあいけいのそれぞれの平衡へいこう状態じょうたいにおけるエントロピーのあいだには

 

関係かんけいつ。等号とうごうち、状態じょうたいうつ前後ぜんごでエントロピーが変化へんかしない場合ばあいには、ぎゃくきの B から A への遷移せんい可能かのうである。ぎゃくきの遷移せんい可能かのうなのはじゅん静的せいてき断熱だんねつ過程かていだけである。ぎゃくきの断熱だんねつ過程かてい存在そんざいしないならば、状態じょうたい遷移せんいともなってエントロピーがかなら増加ぞうかする。 エントロピー増大ぞうだいそくねつ力学りきがく特徴とくちょうである可逆かぎゃくせい可逆かぎゃくせい特徴付とくちょうづける法則ほうそくであり、エントロピーはねつ力学りきがくにおけるもっと基本きほんてきりょうである。

固体こたいしき 液体えきたい気体きたいしき
   
こおりのような結晶けっしょうせい固体こたいは、結晶けっしょう構造こうぞうしたがって分子ぶんし配列はいれつされる。

一方いっぽうみずのような液体えきたい水蒸気すいじょうきのような気体きたいは、自由じゆう分子ぶんし配置はいちをとれる。 このため、液体えきたい気体きたい状態じょうたいかず固体こたいくらべておおきく、エントロピーもおおきい。

エントロピーにかんする法則ほうそくとしてもうひとつよくられるものに、統計とうけい力学りきがくにおけるボルツマンの原理げんりがある。ボルツマンの原理げんりは、ある巨視的きょしてきけいのエントロピーを、そのけい微視的びしてき状態じょうたいかず関係かんけいづける。微視的びしてき状態じょうたいすうW のときのエントロピーは

 

あらわされる。比例ひれい係数けいすう kボルツマン定数ていすうばれる[6]けい巨視的きょしてき状態じょうたいは、けいエネルギー体積たいせき物質ぶっしつりょうなどの巨視的きょしてき物理ぶつりりょうくみによってさだめられるが、それらの巨視的きょしてき物理ぶつりりょうさだめたとしてもけい微視的びしてき状態じょうたい完全かんぜんにはさだまらず、いくつかの状態じょうたいる。状態じょうたいすうとは巨視的きょしてき拘束こうそく条件じょうけんした可能かのう微視的びしてき状態じょうたいかず見積みつもったものである。ボルツマンの原理げんりから、可能かのう微視的びしてき状態じょうたいかずえるほどにエントロピーがおおきいことがほどける(対数たいすう狭義きょうぎ単調たんちょう増加ぞうか関数かんすうである)。ぎゃくに、微視的びしてき状態じょうたい確定かくていする[ちゅう 2] W = 1状況じょうきょうではエントロピーが S = 0 となる。可能かのう微視的びしてき状態じょうたいかずえるということは、巨視的きょしてき情報じょうほうしかないとすれば、それだけ微視的びしてき世界せかいかんする情報じょうほう欠如けつじょしているととらえることができ、この意味いみでボルツマンの原理げんりはエントロピーの微視的びしてき乱雑らんざつさをあらわ指標しひょうとしての性格せいかくしめしている。

歴史れきし 編集へんしゅう

 
ルドルフ・クラウジウス

エントロピーは、ドイツの物理ぶつり学者がくしゃルドルフ・クラウジウスが、カルノーサイクル研究けんきゅうをするなかで、移動いどうするねつ温度おんどったQ/Tというかたち導入どうにゅうされ、当初とうしょねつ力学りきがくにおける可逆かぎゃくせい可逆かぎゃくせい研究けんきゅうするための概念がいねんであった。のち原子げんし実在じつざいせいつよ確信かくしんしたオーストリアの物理ぶつり学者がくしゃルートヴィッヒ・ボルツマンによって、エントロピーが原子げんし分子ぶんしの「乱雑らんざつさの尺度しゃくど」であることが論証ろんしょうされた。

クラウジウスは1854ねんにクラウジウスの不等式ふとうしきとしてねつ力学りきがくだい法則ほうそく表現ひょうげんしていたが、かれ自身じしんによって「エントロピー」の概念がいねん明確めいかくされるまでにはそれから11ねんようした。不可ふかぎゃくサイクルでゼロとならないこのりょうをクラウジウスは仕事しごとねつあいだの「変換へんかん」で補償ほしょうされないりょうとして、1865ねん論文ろんぶんにおいてエントロピーと名付なづけた。エントロピーという言葉ことばは「変換へんかん」を意味いみするギリシア: τροπή(トロペー)に由来ゆらいしている。

そのボルツマンやギブスによって統計とうけい力学りきがくてきあつかいがはじまった。情報じょうほう理論りろん直接的ちょくせつてきには通信つうしん理論りろん)における情報じょうほうりょう定式ていしきおこなわれたのは、クロード・シャノン1948ねん通信つうしん数学すうがくてき理論りろん』である。シャノンはねつ統計とうけい力学りきがくとは独立どくりつ定式ていしきにたどりき、エントロピーという命名めいめいフォン・ノイマンすすめによる、とわれることがあるが、シャノンはフォン・ノイマンの関与かんよ否定ひていしている[7]

ねつ力学りきがくにおけるエントロピー 編集へんしゅう

 
ねつエントロピーの説明せつめいよう

エントロピーは、ねつ力学りきがくにおける断熱だんねつ過程かてい可逆かぎゃくせい特徴付とくちょうづけるりょうとして位置付いちづけられる。ねつ力学りきがくでは、けいのすべてのねつ力学りきがくてき性質せいしつが、ひとつの関数かんすうによってまとめて表現ひょうげんされる。そのような関数かんすう完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすうばれる。エントロピーは完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすうひとつでもある。

エントロピーの定義ていぎ 編集へんしゅう

エントロピーの定義ていぎ方法ほうほうには、いくつかのスタイルがある。

以下いかのエントロピーの説明せつめいは、クラウジウスが1865ねん論文ろんぶん[12]なかおこなったものをもとにしている[13]。クラウジウスはねつもちいてエントロピーを定義ていぎした。この方法ほうほうによる説明せつめいおおくの文献ぶんけん採用さいようされている[14]

簡単かんたん状況じょうきょうでの説明せつめい 編集へんしゅう

温度おんど T1 の吸熱げんから Q1ねつて、温度おんど T2はい熱源ねつげんQ2ねつてるねつ機関きかん(サイクル)をかんがえる。このねつ機関きかん外部がいぶおこな仕事しごとエネルギー保存ほぞんそくから W = Q1Q2 であり、ねつ機関きかんねつ効率こうりつ ηいーた

 

あたえられる。 カルノーの定理ていりによれば、ねつ機関きかんねつ効率こうりつにはふたつの熱源ねつげん温度おんどによってまる上限じょうげん存在そんざいみちびかれ、その上限じょうげん

 

あらわされる[ちゅう 3]。 これら2ほんしき整理せいりすることで、

 

(* )

成立せいりつすることがかる。

可逆かぎゃくねつ機関きかんねつ効率こうりつηいーたmaxひとしく、このため可逆かぎゃくねつ機関きかんでは(*) しき等号とうごう

 

( )

つ。すなわち、可逆かぎゃく過程かてい高熱こうねつげんせっしている状態じょうたいからてい熱源ねつげんせっしている状態じょうたい変化へんかさせたとしても Q/T というりょう不変ふへんとなる。クラウジウスはこの変量へんりょうエントロピーんだ。

可逆かぎゃくでないねつ機関きかんねつ効率こうりつηいーたmax よりもわるいことがられており、このため可逆かぎゃくでないねつ機関きかんでは(*) しき等号とうごうではなく不等式ふとうしき

 

つ。すなわち、可逆かぎゃくでない過程かてい高熱こうねつげんねつのちてい熱源ねつげんでそのねつてるとエントロピーは増大ぞうだいする(エントロピー増大ぞうだいそく)。

一般いっぱん場合ばあい 編集へんしゅう

うえでははなし簡単かんたんにするため、高熱こうねつげんてい熱源ねつげんの2つしか熱源ねつげんがない場合ばあいかんがえたが、より一般いっぱんn熱源ねつげんがある状況じょうきょうかんがえると(*) しき

 

となる(クラウジウスの不等式ふとうしき)。ただしじょう不等式ふとうしきでは(*) しきちがQiすべ温度おんどTi熱源ねつげんからねつであり、ねつてる場合ばあいまけとしている。

可逆かぎゃくなサイクルでは等号とうごう

 

ち、このしきn→∞とすると、

 

となる[ちゅう 4]状態じょうたいAから状態じょうたいBへとうつ任意にんい可逆かぎゃく過程かていC,C'かんがえ、CCぎゃく過程かていとする。このとき、C'C連結れんけつさせた過程かていC'C可逆かぎゃくなサイクルとなり

 

 

(** )

つ。つまり、この積分せきぶんはじめ状態じょうたいおわり状態じょうたいおなじならば可逆かぎゃく過程かていえらかたによらない。

そこで、適当てきとう基準きじゅんとなる状態じょうたいOと、そのときの基準きじゅんS0めると、状態じょうたいAにおけるエントロピーS(A)

 

定義ていぎすることができる。ここでΓがんま(A)基準きじゅん状態じょうたいOから状態じょうたいAへと変化へんかする可逆かぎゃく過程かていである。(**) しきからエントロピーの定義ていぎ可逆かぎゃく過程かていΓがんま(A)えらかたによらない。

基準きじゅん状態じょうたいOから状態じょうたいAへとうつ可逆かぎゃく過程かていΓがんま(A)と、状態じょうたいAから状態じょうたいBへとうつるある可逆かぎゃく過程かていC連結れんけつさせた過程かていΓがんま(A)+C基準きじゅん状態じょうたいOから状態じょうたいBへとうつ可逆かぎゃく過程かていである。したがって、

 

あるいは

 

となる。

エントロピー増大ぞうだいそく 編集へんしゅう

状態じょうたいAから状態じょうたいBへとうつ任意にんい過程かていXと、おなじく状態じょうたいAから状態じょうたいBへとうつ可逆かぎゃく過程かていCかんがえ、CCぎゃく過程かていとする。このときXC連結れんけつさせた過程かていXCはサイクルとなる。

このサイクルについて、導出どうしゅつ同様どうようにクラウジウスの不等式ふとうしきから

 

 

みちびかれる。ここでTex熱源ねつげん温度おんどであり、一般いっぱんにはけい温度おんどTとは一致いっちしない。しかし、可逆かぎゃく過程かていCあいだにおいては、けいつね平衡へいこう状態じょうたいにあるとみなされるから、熱源ねつげん温度おんどTexけい温度おんどT一致いっちする。したがって

 

となる。

とく断熱だんねつけいそとから仕事しごとくわえられてもい)においてはd'Q = 0なので、

 

という結果けっかられる。これがエントロピー増大ぞうだいそくである。ねつ力学りきがくだい法則ほうそく同値どうちなクラウジウスの不等式ふとうしきからこれがもとめられたことにより、ねつ力学りきがくだいいち法則ほうそくエネルギー保存ほぞんそく対応たいおうするのになぞらえてねつ力学りきがくだい法則ほうそくとエントロピー増大ぞうだいそく対応たいおうさせることもある。なお、この導出どうしゅつからあきらかなように、ねつ出入でいりがあるけいではエントロピーが減少げんしょうすることも当然とうぜんこりる。

エントロピーが増加ぞうかするために、ねつエネルギーのすべてをのエネルギーに変換へんかんすることはできない。したがって、ねつエネルギーはてい品質ひんしつのエネルギーともばれる。

完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすう 編集へんしゅう

ねつ力学りきがくだいいち法則ほうそくから、あるねつ力学りきがく過程かていあいだけい外部がいぶからねつQは、その過程かてい前後ぜんごでのけい内部ないぶエネルギーU変化へんかΔでるたUと、その過程かていあいだけい外部がいぶになす仕事しごとWにより

 

あらわすことができる。無限むげんしょう変化へんかかんがえると

 

となる[ちゅう 4]。クラウジウスの不等式ふとうしきとエントロピーの定義ていぎしきから無限むげんしょう変化へんかたいして

 

となる。けい体積たいせきV変化へんかdVとおしてのみ外部がいぶ仕事しごとをなす場合ばあいには、外部がいぶ圧力あつりょくpexとして

 

となる。これらをまとめると

 

つことがわかる。可逆かぎゃく過程かていでは等号とうごう

 

ち、さらにじゅん静的せいてき過程かていではけい外部がいぶねつ平衡へいこうおよび力学りきがくてき平衡へいこうにあるので、外部がいぶ温度おんどTexけい温度おんどTひとしく、外部がいぶ圧力あつりょくpexけい圧力あつりょくpひとしい。すなわち、(U,V)あらわされる平衡へいこう状態じょうたいから(U+dU,V+dV)あらわされる平衡へいこう状態じょうたいへのじゅん静的せいてき無限むげんしょう変化へんかでは

 

となる。

けい外部がいぶあいだ物質ぶっしつ出入でいりがなく、そとじょう作用さようけていないときには、平衡へいこう状態じょうたいにあるけい温度おんど圧力あつりょくは、(U,V)関数かんすうとして一意いちいさだまることが経験けいけんてきられている。けい温度おんど圧力あつりょくがそれぞれT(U,V)p(U,V)あらわされるとき、不可ふかぎゃく過程かていにおいても、(U,V)あらわされる平衡へいこう状態じょうたいから(U+dU,V+dV)あらわされる平衡へいこう状態じょうたいへの無限むげんしょう変化へんかで、じゅん静的せいてき過程かていおなしき

 

つ。なぜなら、左辺さへんdS状態じょうたいりょうS変化へんかりょうなので、右辺うへんもまた途中とちゅう過程かていらないからである。このしきS(U,V)ぜん微分びぶんdSくらべると、ただちにへん微分びぶん

 

られる。 とく前者ぜんしゃは、統計とうけい力学りきがくにおいてねつ力学りきがく温度おんどT導入どうにゅうするさいもちいられる関係かんけいしきである(エントロピーの存在そんざい公理こうりてきあたえる論理ろんり展開てんかい場合ばあいは、ねつ力学りきがくにおいてもこのしきねつ力学りきがく温度おんど定義ていぎしきである)。

けい外部がいぶあいだ物質ぶっしつ出入でいりがなく、そとじょう作用さようけていないとき、T(U,V)p(U,V)両方りょうほう関数かんすうがたられていれば、これらふたつの関数かんすうから、熱容量ねつようりょうやエントロピーなどの、けいすべての状態じょうたいりょう計算けいさんすることができる。しかし、どちらか一方いっぽう関数かんすうがた不明ふめい場合ばあいは、これが不可能ふかのうになる。たとえば、p(U,V)だけからけい熱容量ねつようりょう計算けいさんすることは不可能ふかのうである。また、T(U,V)だけからでは、体積たいせき変化へんかともなうエントロピー変化へんかもとめることはできない。一方いっぽうS(U,V)られていれば、この関数かんすうひとつだけから、けいすべての状態じょうたいりょう計算けいさんすることができる。すなわち、けい外部がいぶあいだ物質ぶっしつ出入でいりがなく、そとじょう作用さようけていないとき、S(U,V)完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすうとなる。

エントロピーは内部ないぶエネルギーや体積たいせきなどのしめせりょうせい状態じょうたいりょう変数へんすうつとき、完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすうとなる。けい化学かがく反応はんのうなど物質ぶっしつ増減ぞうげんによってエネルギーの移動いどうしょうじるときは

 

となる。 ここで、N物質ぶっしつりょうμみゅー化学かがくポテンシャルである。さらにしめせりょうせい状態じょうたいりょう変化へんかdXによるエネルギーの移動いどうがあるときは、それに対応たいおうするしめせきょうせい状態じょうたいりょうxとして

 

となる。 Xxくみとしては

などがある。

温度おんどによる表示ひょうじ 編集へんしゅう

エントロピーを完全かんぜんねつ力学りきがく関数かんすうとしてもちいる場合ばあいけい平衡へいこう状態じょうたいあらわ変数へんすう内部ないぶエネルギーと体積たいせきなどのしめせりょうせい変数へんすうである。しかし、温度おんど測定そくてい容易よういなため、けい平衡へいこう状態じょうたいあらわ変数へんすうとして温度おんどえら場合ばあいがある。 閉鎖へいさけい物質ぶっしつりょう変化へんかかんがえない場合ばあいに、温度おんど T体積たいせき V関数かんすうとしてのエントロピー S(T,V)温度おんど T によるへん微分びぶん

 

あたえられる。ここで CV ていせき熱容量ねつようりょうである。 また、エントロピー S(T,V)体積たいせき V によるへん微分びぶんはMaxwellの関係かんけいしきより

 

あたえられる。これはねつ膨張ぼうちょう係数けいすう αあるふぁ等温とうおん圧縮あっしゅくりつ κかっぱTあらわせば

 

となる。

したがって、T-V 表示ひょうじによるエントロピーのぜん微分びぶん

 

となる。

さらに体積たいせきえて圧力あつりょく p変数へんすうもちいれば、体積たいせき V(T,p)ぜん微分びぶん

 

であることをもちいれば、T-p 表示ひょうじによるエントロピーのぜん微分びぶん

 

となる。

気体きたいのエントロピー 編集へんしゅう

低圧ていあつ領域りょういきにおいて実在じつざい気体きたい状態じょうたい方程式ほうていしきビリアル展開てんかい

 

かたちくと、モルエントロピー Sm圧力あつりょくによるへん微分びぶんは、マクスウェルの関係かんけいしきより

 

となる。したがって、低圧ていあつ領域りょういきにおいてモルエントロピーは

 

あらわされる。ここで

 

定義ていぎされる S°m(T) は、温度おんど T における標準ひょうじゅんモルエントロピーであり、この実在じつざい気体きたい理想りそう気体きたい状態じょうたい方程式ほうていしきしたがうと仮定かていしたときの、圧力あつりょく p°におけるモルエントロピーに相当そうとうする。

リーブとイングヴァソンによるさい構築こうちく 編集へんしゅう

1999ねんエリオット・リーブヤコブ・イングヴァソンは、「断熱だんねつてき到達とうたつ可能かのうせい」という概念がいねん導入どうにゅうしてねつ力学りきがくさい構築こうちくした[15][16]。「状態じょうたいY状態じょうたいXから断熱だんねつ操作そうさ到達とうたつ可能かのうである」ことを  表記ひょうきし、この  性質せいしつからエントロピーの存在そんざい一意いちいせいしめした。 この公理こうりてき基礎きそけされたねつ力学りきがくによって、クラウジウスの方法ほうほうもちいられていた「あつい・つめたい」「ねつ」のような直感ちょっかんてき定義ていぎ概念がいねん基礎きそから排除はいじょした。温度おんど定義ていぎりょうではなくエントロピーから導出どうしゅつされる。このリーブとイングヴァソンによるさい構築こうちく以来いらいほかにもねつ力学りきがくさい構築こうちくするこころみがいくつかおこなわれている[17]

統計とうけい力学りきがくにおけるエントロピー 編集へんしゅう

ある巨視的きょしてき状態じょうたいたとえば、圧力あつりょく体積たいせき指定していした状態じょうたい)にたいして、それをあたえる微視的びしてき状態じょうたいたとえば、かく分子ぶんし位置いちおよび運動うんどうりょう)は多数たすう存在そんざいするとかんがえられる。そこで仮想かそうてきにアンサンブルをかんがえる。つまり、ある巨視的きょしてき状態じょうたい対応たいおうする微視的びしてき状態じょうたい集合しゅうごうかんがえ、その各々おのおのもとあたえられた巨視的きょしてき状態じょうたいした実現じつげんするかくりつ分布ぶんぷあたえることにする。

けい微視的びしてき状態じょうたいたとえば量子りょうしけいであればエネルギー固有こゆう状態じょうたいωおめがかんがえ、微視的びしてき状態じょうたいωおめが実現じつげんされるかくりつ分布ぶんぷp(ωおめが)あたえられているとき、ボルツマン定数ていすうkとして、エントロピーS

 

により定義ていぎする[ちゅう 5]。これはギブズエントロピーえい: Gibbs entropy)ともばれる。

すなわち、統計とうけい力学りきがくにおけるエントロピーは情報じょうほう理論りろんにおけるエントロピー次元じげんりょう)と定数ていすうばいのぞいて一致いっちする[ちゅう 6]

小正おばさじゅん集団しゅうだん 編集へんしゅう

たとえば、エネルギーE状態じょうたいにある孤立こりつけい対応たいおうして、小正おばさじゅん集団しゅうだんもちいるとする。すなわち、微視的びしてき状態じょうたいωおめがにあるときのエネルギーをE(ωおめが)としたときに、けいのエネルギーEにある微視的びしてき状態じょうたいのみに有限ゆうげんかくりつひとしく

 

としてあたえる[ちゅう 7]とうじゅうりつ原理げんり)。ここで、規格きかく定数ていすうΩおめが(E)状態じょうたいすうばれ、けいがエネルギーEにあるときに実現じつげんしうる微視的びしてき状態じょうたいかず意味いみする。このとき、エントロピーはボルツマンの公式こうしきとしてよくられる

 

あたえられる。

ねつ力学りきがくとの整合せいごうせい 編集へんしゅう

このように小正おばさじゅん集団しゅうだんによりあたえられたエントロピーが、さきねつ力学りきがくのエントロピーと整合せいごうしていることを確認かくにんする。エネルギーE小正おばさじゅん集団しゅうだんによるエントロピーSけいを、とおるねつかべれることにより 2 つの部分ぶぶんけい分離ぶんりする。それぞれのけいにエネルギーがE1, E2分配ぶんぱいされるとしよう。この場合ばあいけい全体ぜんたい状態じょうたいすうか、あるいはその対数たいすうであるエントロピーが最大さいだいになるように部分ぶぶんけいのエネルギーが決定けっていされるとかんがえるのは自然しぜんであろう。けい全体ぜんたい状態じょうたいすうは 2 つの部分ぶぶんけい状態じょうたいすうせきであり、すなわちけい全体ぜんたいのエントロピーSは 2 つの部分ぶぶんけいのエントロピーS1, S2やわである。条件じょうけんE2 = EE1した全体ぜんたいのエントロピーを最大さいだいとする条件じょうけんかんがえると、

 

すなわち

 

となる。ここで、このエントロピーをねつ力学りきがくのものと同一どういつすると、dS/dE = 1/T成立せいりつするのであった(部分ぶぶんけい体積たいせき固定こていしておくことにする)。とおるねつかべもちいて 2 つのけい接触せっしょくさせた場合ばあい平衡へいこう状態じょうたいでは当然とうぜん 2 つのけい温度おんどひとしくなることと、ここで確認かくにんした事実じじつたしかに整合せいごうしている。

ねつ力学りきがく整合せいごうするアンサンブルは、ここで例示れいじした小正おばさじゅん集団しゅうだんほかにも、せいじゅん分布ぶんぷ大正たいしょうじゅん分布ぶんぷがある。

情報じょうほう理論りろんにおけるエントロピーとの関係かんけい 編集へんしゅう

情報じょうほう理論りろんにおいてエントロピーかくりつ変数へんすう情報じょうほうりょうあらわ尺度しゃくどで、それゆえ情報じょうほうりょうともばれる。 かくりつ変数へんすうXたいし、XのエントロピーH(X)

  (ここでPiX = iとなるかくりつ)

定義ていぎされており、これは統計とうけい力学りきがくにおけるエントロピーと定数ていすうばいのぞいて一致いっちする。この定式ていしきおこなったのはクロード・シャノンである。

これはたんなる数式すうしきじょう一致いっちではなく、統計とうけい力学りきがくてき現象げんしょうたいして情報じょうほう理論りろんてき意味いみづけをあたえることができることを示唆しさする。情報じょうほうりょうかくりつ変数へんすうXすうおおくのをとればとるほどおおきくなる傾向けいこうがあり、したがって情報じょうほうりょうXの「乱雑らんざつさ」をあらわ尺度しゃくどであるとさい解釈かいしゃくできる。よって情報じょうほうりょう概念がいねんは、原子げんし分子ぶんしの「乱雑らんざつさの尺度しゃくど」をあらわ統計とうけい力学りきがくのエントロピーと概念的がいねんてきにも一致いっちする。

しかし、情報じょうほうのエントロピーと物理ぶつり現象げんしょうむすびつきは、シャノンによる研究けんきゅう時点じてんではつまびらかではなかった。このむすびつきは、マクスウェルの悪魔あくま問題もんだい解決かいけつされるさい決定的けっていてき役割やくわりたした。シラードは、悪魔あくま分子ぶんしについて情報じょうほうことねつ力学りきがくてきエントロピーの増大ぞうだいまねくとかんがえたが、これはベネットにより可逆かぎゃくな(エントロピーの変化へんかない)観測かんそく可能かのうである、と反例はんれいしめされた。最終さいしゅうてき決着けっちゃくは1980年代ねんだいにまでされた。ランダウアーがランダウアーの原理げんりとしてしめしていたことであったのだが、悪魔あくまかえはたらさい必要ひつようとなる、分子ぶんしについての以前いぜん情報じょうほうわすれることねつ力学りきがくてきエントロピーの増大ぞうだいまねく、として、ベネットによりマクスウェルの悪魔あくま問題もんだい解決かいけつされた。

この原理げんりによれば、コンピュータがデータを消去しょうきょするときにねつ力学りきがくてきなエントロピーが発生はっせいするので、通常つうじょうの(可逆かぎゃくでない=可逆かぎゃくな)コンピュータが計算けいさんともなって消費しょうひするエネルギーには下限かげんがあることがられている(ランダウアーの原理げんり。ただし現実げんじつ一般いっぱんてきなコンピュータの発熱はつねつとはくらべるべくもない規模きぼである)。また理論りろんてきには可逆かぎゃく計算けいさんはいくらでもすくない消費しょうひエネルギーでおこなうことができる。

さらにエドウィン・ジェインズ英語えいごばん統計とうけい力学りきがくにおけるギブズ手法しゅほう抽象ちゅうしょうすることで、統計とうけいがく情報じょうほう理論りろんにおける最大さいだいエントロピー原理げんりてた。この結果けっか、ギブズの手法しゅほう統計とうけいがく情報じょうほう理論りろん統計とうけい力学りきがくへの一応いちおう用例ようれいとしてさい解釈かいしゃくされることになった。

統計とうけい力学りきがく情報じょうほう理論りろん関係かんけい量子力学りょうしりきがくにおいても成立せいりつしており、量子りょうし統計とうけい力学りきがくにおけるフォン・ノイマンエントロピー量子りょうし情報じょうほう情報じょうほうりょうあらわしているとさい解釈かいしゃくされたうえで、量子りょうし情報じょうほう量子りょうし計算けいさん研究けんきゅう使つかわれている。

ブラックホールのエントロピー 編集へんしゅう

ブラックホールのエントロピーは表面積ひょうめんせき比例ひれいする。

 

ここでSはエントロピー、Aはブラックホールの事象じしょう地平ちへいめん面積めんせきディラック定数ていすう換算かんさんプランク定数ていすう)、kボルツマン定数ていすうG重力じゅうりょく定数ていすうcひかり速度そくどである。

生物せいぶつがくにおけるエントロピー 編集へんしゅう

エルヴィン・シュレーディンガーは、生命せいめいネゲントロピーまけのエントロピー)をれエントロピーの増大ぞうだい相殺そうさいすることで定常ていじょう状態じょうたい保持ほじしている開放かいほう定常ていじょうけいとした。まけのエントロピー自体じたいのち否定ひていされたが、平衡へいこうけい学問がくもん発展はってん寄与きよした。

脚注きゃくちゅう 編集へんしゅう

出典しゅってん 編集へんしゅう

  1. ^ Λεξικό της κοινής νεοελληνικής”. www.greek-language.gr. 2024ねん5がつ25にち閲覧えつらん
  2. ^ 斎藤さいとう秀三郎ひでさぶろうしん増補ぞうほばん 英和えいわちゅう辞典じてん東京とうきょう岩波書店いわなみしょてん 1936ねん 391ぺーじ
  3. ^ 原文げんぶん "he succeeded in coining a word that meant the same thing to everybody: nothing".
  4. ^ Cooper, Leon N. (1968). An Introduction to the Meaning and Structure of Physics. Harper. 331ぺーじ
  5. ^ 田崎たさき & 田崎たさき 2010, 『RikaTan』10-12月ごう.
  6. ^ IUPAC Gold Book
  7. ^ 出典しゅってん情報じょうほうりょう#歴史れきし参照さんしょう
  8. ^ フェルミ 1973.
  9. ^ 佐々ささ 2000.
  10. ^ 田崎たさき 2000.
  11. ^ 清水しみず 2007.
  12. ^ Clausius 1865.
  13. ^ 田崎たさき 2000, pp. 16, 107–110, 1-3 本書ほんしょ内容ないようについて; 6-4 エントロピーとねつ.
  14. ^ 田崎たさき 2000, p. 16, 1-3 本書ほんしょ内容ないようについて.
  15. ^ Lieb & Yngvason1999.
  16. ^ リーブ & イングヴァソン 2001, pp. 4–12, 『パリティ』Vol. 16, No. 08.
  17. ^ 佐々ささ 2000田崎たさき 2000清水しみず 2007などを参照さんしょう

注釈ちゅうしゃく 編集へんしゅう

  1. ^ 「でたらめさ」と表現ひょうげんされることもある。ここでいう「でたらめ」とは、矛盾むじゅんあやまりをふくんでいたり、的外まとはずれであるという意味いみではなく、相関そうかんがなくランダムであるという意味いみである。
  2. ^ ここでいう「微視的びしてき状態じょうたい確定かくていする」ということは、あらゆる物理ぶつりりょう確定かくていするという意味いみではなく、なんらかの固有こゆう状態じょうたいさだまるという意味いみである。したがって量子力学りょうしりきがくてき確定かくていせいのこる。
  3. ^ カルノーの定理ていりにおいては一般いっぱんにはねつ効率こうりつ上限じょうげんηいーたmax = f(T1, T2)かたち証明しょうめいされている。このひょうしきつように、ねつ力学りきがく温度おんど絶対温度ぜったいおんどT定義ていぎする。たとえば、セルシウスファーレンハイト使つかった場合ばあいには、ねつ効率こうりつしきはやや複雑ふくざつかたちになる。
  4. ^ a b d'状態じょうたいりょうでないりょう微小びしょうりょうないし微小びしょう変化へんかりょうあらわす。文献ぶんけんによってしばしば同様どうよう意味いみδでるたもちいられる。
  5. ^ 古典こてんけい場合ばあい状態じょうたい可算かさんとしてあつかえない。したがって、たとえば自由じゆうf古典こてんけいであれば、位相いそう空間くうかんうえいちてんΓがんま = (Q1, Q2, …, Qf, P1, P2, …, Pf)あらわし、ここに一様いちようかくりつ測度そくどdΓがんま/hf導入どうにゅうする(ここでP, Qせいじゅん変数へんすうhプランク定数ていすう)。こうすることにより、積分せきぶん

     

    でエントロピーを定義ていぎできる。

  6. ^ ボルツマン定数ていすうを1とする単位たんいけいれば、エントロピーは情報じょうほう理論りろんにおけるエントロピー(自然しぜん対数たいすうもちいたもの)と完全かんぜん一致いっちし、次元じげんりょうとなる。簡便かんべんなので、理論りろん計算けいさんなどではこの単位たんいけいもちいられることもおおい。なお、この単位たんいけいでは温度おんど独立どくりつ次元じげんたず、エネルギーとおな次元じげんとなる。
  7. ^ 量子りょうしけいでは厳密げんみつには、エネルギーが量子りょうしされているため、ほとんどいたるところEにおいてE = Eiたされない。そのため、そのあいだじゅうふんおおくのエネルギー固有こゆう状態じょうたいはいるエネルギー間隔かんかくΔでるたE定義ていぎし、条件じょうけん|EEi|< ΔでるたEゆるめることにする。

参考さんこう文献ぶんけん 編集へんしゅう

論文ろんぶん
書籍しょせき
  • エンリコ・フェルミ『フェルミねつ力学りきがく三省堂さんせいどう、1973ねんISBN 978-4385306599 
  • 佐々ささ真一しんいちねつ力学りきがく入門にゅうもん共立きょうりつ出版しゅっぱん、2000ねんISBN 978-4320033474 
  • 田崎たさきはれあきらねつ力学りきがく現代げんだいてき視点してんから』培風館ばいふうかんしん物理ぶつりがくシリーズ〉、2000ねんISBN 978-4-563-02432-1 
  • 清水しみずあきらねつ力学りきがく基礎きそ東大出版会とうだいしゅっぱんかい、2007ねんISBN 978-4-13-062609-5 
  • 田崎たさきはれあきら統計とうけい力学りきがく I』培風館ばいふうかんしん物理ぶつりがくシリーズ〉、2008ねんISBN 978-4-563-02437-6 
  • 田崎たさきはれあきら田崎たさき真理子まりこ「リカ先生せんせいの10ふんサイエンス エントロピーってなに?」『RikaTan』10, 11, 12月ごう、2010ねん 
  • エリオット・リーブ、ヤコブ・イングヴァソン「エントロピー再考さいこう」『パリティだい16かんNo. 08、丸善まるぜん、2001ねん、4-12ぺーじ 

関連かんれん項目こうもく 編集へんしゅう

外部がいぶリンク 編集へんしゅう