ルーシー・ブラックマン事件じけん

ルーシー・ブラックマン事件じけん（ルーシー・ブラックマンじけん）とは、2000年ねん7月がつに神奈川かながわ県けん三浦みうら市しでイギリス人じん女性じょせいルーシー・ブラックマン (Lucie Blackman) が強姦ごうかんされて死亡しぼうした事件じけん。

ルーシー・ブラックマン事件じけん
場所ばしょ	神奈川かながわ県けん三浦みうら市し
日付ひづけ	2000年ねん7月がつ
死亡しぼう者しゃ	1人ひとり
犯人はんにん	男おとこO
刑事けいじ訴訟そしょう	無期むき懲役ちょうえき
管轄かんかつ	警視庁けいしちょう刑事けいじ部ぶ捜査そうさ第だい一いち課か・麻布あざぶ警察けいさつ署しょ・東京とうきょう地方ちほう検察庁けんさつちょう

事件じけんの概要がいよう

経緯けいい

• 2000年ねん7月がつ1日にち - 元もと英国えいこく航空こうくう乗務じょうむ員いんで、ホステスとして六本木ろっぽんぎで働はたらいていたブラックマンが、友人ゆうじんに連絡れんらく後ごに行方ゆくえ不明ふめいになった。3日にちには、男おとこからブラックマンの友人ゆうじんに電話でんわがあり、不審ふしんに思おもった友人ゆうじんが警察けいさつに捜索そうさく願ねがいを出だした。ブラックマンが失跡しっせきした直後ちょくごの7月がつ5日にちごろ、被疑ひぎ者しゃがこのマンションを訪おとずれて管理人かんりにんとトラブルになっているところや、スコップを持もって海岸かいがんを歩あるいているのが目撃もくげきされていた。
• 2000年ねん8月がつ22日にち - ブラックマンの妹いもうとが記者きしゃ会見かいけんし、1万まんポンド（当時とうじ160万まん円えん）の懸賞けんしょう金きんをかけて有力ゆうりょく情報じょうほうの呼よびかけを行おこなった。9月下旬げじゅんには、警視庁けいしちょう刑事けいじ部ぶ捜査そうさ第だい一いち課かと麻布あざぶ警察けいさつ署しょが被害ひがい者しゃが勤つとめていたクラブの常連じょうれん客きゃくで不動産ふどうさん管理かんり会社かいしゃ社長しゃちょうの男おとこを捜査そうさしていることが明あきらかになった。また、ブラックマンの周辺しゅうへんで新あらたに外国がいこく人じん女性じょせい二に人にんが行方ゆくえ不明ふめいになっていることも発覚はっかくした。
• 2000年ねん10月がつ12日にち - 別件べっけんの準じゅん強制きょうせいわいせつ容疑ようぎで被疑ひぎ者しゃが逮捕たいほされた。後日ごじつ、神奈川かながわ県けん三浦みうら市内しないの所有しょゆうするマンションの一室いっしつやモーターボート付近ふきんの海岸かいがんなどを警察けいさつが捜索そうさくした。
• 2000年ねん11月17日にち - 被疑ひぎ者しゃが再さい逮捕たいほされた。東京とうきょう地方ちほう検察庁けんさつちょうは同日どうじつ、ブラックマンに対たいする準じゅん強姦ごうかん罪ざいで被疑ひぎ者しゃの男おとこを東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょに起訴きそした。警視庁けいしちょうはDNA鑑定かんていのため、ブラックマンの家族かぞくに毛髪もうはつの提供ていきょうを要請ようせいした。
• 2001年ねん1月がつ26日にち - オーストラリア人じん女性じょせいに対たいする強姦ごうかん致死ちし容疑ようぎで再さい逮捕たいほされた。
• 2001年ねん2月がつ - 被疑ひぎ者しゃのマンションから近ちかい三浦みうら市内しないの海岸かいがんにある洞窟どうくつ内ないで、地面じめんに埋うめられた浴槽よくそう内ないで遺体いたいがバラバラに切断せつだんされた状態じょうたいで発見はっけんされた。

裁判さいばん

その後ご、被疑ひぎ者しゃはブラックマンを含ふくめた10人にんの女性じょせい（日本人にっぽんじん4人にんと外国がいこく人じん6人にん）に準じゅん強姦ごうかんをし、そのうち2人ふたりの女性じょせい（ブラックマンとオーストラリア人じん女性じょせい）を死亡しぼうさせたとして東京とうきょう地検ちけんから東京とうきょう地裁ちさいに起訴きそされた。審理しんりは2000年ねん12月の初はつ公判こうはんから2007年ねん4月がつの判決はんけつまで61回かいに及およんだ。

被疑ひぎ者しゃは他た9事件じけんについては1人ひとりの致死ちし罪ざいを除のぞいておおむね認みとめた。しかしルーシー・ブラックマン事件じけんについては、検察けんさつ側がわが死亡しぼうしたとする時間じかんの直前ちょくぜんに自分じぶんのマンションの部屋へやでブラックマンと会あったことは認みとめたが、裁判さいばん時ときには死亡しぼうしていた知人ちじんが関与かんよした可能かのう性せいを示唆しさした上うえで無罪むざいを主張しゅちょうした。

犯人はんにんのプロフィール

犯人はんにんは1952年ねん、大阪おおさか府ふ生うまれで、在日ざいにち韓国かんこく人じんの親おやを持もつ貸かしビル会社かいしゃ社長しゃちょう。貧まずしい移民いみんから不動産ふどうさん会社かいしゃ・駐車ちゅうしゃ場じょう・タクシー会社かいしゃ・パチンコ屋やの経営けいえい者しゃとなった父ちちを持もち、裕福ゆうふくな環境かんきょうで育そだった。17歳さいのときに父ちちを亡なくし、2人ふたりの兄弟きょうだいとともに莫大ばくだいな遺産いさんを相続そうぞくした。リチャード・ロイド・パリーは、貧まずしい移民いみんから裕福ゆうふくになった家族かぞくのもとで甘あまやかされた経歴けいれきがこの犯罪はんざいに影響えいきょうを与あたえた可能かのう性せいを示唆しさするが、「同様どうようの経歴けいれきを持もつ人ひとは多おおい」("But there are many people with similar backgrounds") ためこれだけでは犯行はんこうの原因げんいんは説明せつめいできないとする。

慶應義塾けいおうぎじゅく高等こうとう学校がっこう入学にゅうがくとともに単身たんしん上京じょうきょうし、父親ちちおやから与あたえられた田園調布でんえんちょうふの家政かせい婦ふつきの一軒家いっけんやで生活せいかつしていた。高校こうこう在学ざいがく中ちゅう、1969年ねん頃ころからアルコールやクロロホルムや睡眠薬すいみんやくの使用しようによる昏睡こんすいレイプを始はじめ、1995年ねんまで209人にんの女性じょせいに対たいする性的せいてき暴行ぼうこうをノートに記録きろくしていた。1971年ねんに韓国かんこく籍せきから日本にっぽん国籍こくせきに変更へんこう。

高校こうこう卒業そつぎょう後ご、慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがくへの内部ないぶ推薦すいせんを辞退じたいし、駒澤大学こまざわだいがくへの在学ざいがくを経へて3年間ねんかんアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくやスウェーデンに遊学ゆうがくした。当時とうじ、カルロス・サンタナの知遇ちぐうを得えたと自称じしょうしている。1974年ねんごろに日本にっぽんへ帰国きこくし、慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく法学部ほうがくぶの法律ほうりつ学がく科かと政治せいじ学がく科かを卒業そつぎょうした。

30代だい以降いこうに家業かぎょうの駐車ちゅうしゃ場じょう経営けいえいや不動産ふどうさん業ぎょうで成功せいこうし、総そう資産しさんが40億おく円えんに達たっした時期じきもあるが、2000年ねんに本ほん事件じけんで逮捕たいほされる前まえにはすでに事業じぎょうで失敗しっぱいしていた。1999年ねんには自宅じたくを一時いちじ的てきに差さし押おさえられたほか、逮捕たいほされるまでの18ヶ月かげつ間あいだに複数ふくすうの所有しょゆう物件ぶっけんの差さし押おさえを受うけていた。この間あいだ、1983年ねんには前方ぜんぽうの自動車じどうしゃに追突ついとつする交通こうつう事故じこを起おこし、1998年ねんには和歌山わかやま県けん白浜しらはま海岸かいがんで女子じょしトイレの盗ぬすめ撮つまみ事件じけんを起おこしてそれぞれ罰金ばっきん刑けいを受うけていたほか、1998年ねん以前いぜんにも同様どうようの性せい犯罪はんざいによる逮捕たいほ歴れきがあった。

民族みんぞく的てき出自しゅつじ

犯人はんにんは21歳さいまで韓国かんこく籍せきだったが、21歳さいのときに日本にっぽん国籍こくせきを取得しゅとくした。有罪ゆうざい判決はんけつを受うけたのが民族みんぞく的てきな被ひ差別さべつマイノリティだったことについて、『黒くろい迷宮めいきゅう──ルーシー・ブラックマン事件じけん15年ねん目めの真実しんじつ』の著者ちょしゃリチャード・ロイド・パリーは不用意ふよういに出自しゅつじと犯罪はんざいを結むすびつけることは「人種じんしゅ差別さべつ主義しゅぎ者しゃと同おなじ」だと警告けいこくした上うえで、「日本にっぽんのニュース機関きかんというのは、どうも在日ざいにち外国がいこく人じんなどの出自しゅつじの問題もんだいになると、非常ひじょうに神経質しんけいしつになる部分ぶぶんもある」と指摘してきし、「在日ざいにち韓国かんこく人じんであったことと、事件じけんの犯人はんにんであるということは、すべて並列へいれつな事実じじつの中なかの一ひとつであって、その事実じじつを読者どくしゃに知しらせるために、それぞれ述のべることに関かんしては何なにの問題もんだいもありません」という考かんがえ方かたを示しめした。パリーは「ただ、彼かれが日本にっぽんという国くにで生うまれ育そだった人間にんげんであることを考かんがえると、その意味いみで日本にっぽんにも何なんらかの原因げんいんはあるのではないか」とも述のべ、該当がいとう事件じけんの捜査そうさに関かんする日本にっぽん警察けいさつの無能むのうさとともに、犯人はんにんの出自しゅつじに関かんする報道ほうどう状じょう況きょうに関かんして「日本にっぽん社会しゃかいにはタブーがあるとも気きがついた」とコメントした。日本にっぽんのＴＶてれび報道ほうどうでは家族かぞく構成こうせいも含ふくめて全すべてが謎なぞの大だい富豪ふごうと逮捕たいほ後ごも報道ほうどうされ続つづけ、民族みんぞく的てき出自しゅつじを初はじめて報ほうじたのは起訴きそ直前ちょくぜんになっての雑誌ざっし報道ほうどうだけであった。

『Salon.com』のLaura Millerによれば、犯人はんにんが逮捕たいほ後ごも写真しゃしん撮影さつえいを拒こばんだことなどについて、「民族みんぞく的てき出自しゅつじがコリアンだから反抗はんこう的てき行動こうどうをしているのだと日本人にっぽんじんは非難ひなんした」("The Japanese blamed ... recalcitrant behavior on his Korean ethnicity")。

被告人ひこくにんによる訴訟そしょう

2008年ねん1月がつ、まだ控訴こうそ審しんが始はじまる前まえには、受刑じゅけい者しゃ（当時とうじは被告人ひこくにん）が『マンガ 嫌いや韓かん流りゅう』の版元はんもとである晋すすむ遊ゆう舎しゃと作者さくしゃの山野やまの車輪しゃりんを提訴ていそしている。理由りゆうは、

1. 『嫌いや韓かん流りゅう』第だい3巻かん（2007年ねん8月がつ下旬げじゅん刊行かんこう）p.187に「1992年ねん2月がつから2000年ねん7月がつの間あいだに白人はくじん女性じょせいら10人にんをマンションに連つれ込こんで意識いしきを失うしなわせ強姦ごうかんし、そのうち2人ふたりを死亡しぼうさせたとして有罪ゆうざい判決はんけつを受うけた」とあるが、判決はんけつでは1人ひとりを死亡しぼうさせたとしか認定にんていされていない。
2. 「有罪ゆうざい判決はんけつ」が当時とうじまだ確定かくてい判決はんけつではなかったことを明記めいきしていない。
3. 「いや実じつは彼かれは…元もと在日ざいにちなんだ」ともあるが、反はん韓かんの文脈ぶんみゃくでこの情報じょうほうを記しるすことは原告げんこくへの名誉めいよ毀損きそんにあたる（のちプライバシー侵害しんがいの主張しゅちょうも追加ついか）。

というもので、損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう額がくは5000万まん円えん、さらに『嫌いや韓かん流りゅう』第だい3巻かんp.187の当該とうがい記述きじゅつを削除さくじょせよと求もとめていた。山野さんやは「2人ふたりを死亡しぼうさせた」との記述きじゅつについては「単純たんじゅんミス」と認みとめつつも、「当時とうじすでに彼かれの社会しゃかい的てき評価ひょうかは最悪さいあくだったので、この記述きじゅつによってさらに評価ひょうかが低下ていかしたとはいえない」と反論はんろん。また「有罪ゆうざい判決はんけつ」が当時とうじまだ一いち審しん判決はんけつに過すぎなかったことは広ひろく報ほうじられており、自明じめいであると述のべた。「元もと在日ざいにち」との記述きじゅつについては「ある人ひとの国籍こくせきを述のべることは名誉めいよ毀損きそんなんですか？ 彼かれは在日ざいにちだったことが恥はずかしいのですか？ 彼かれの考かんがえ方かたはおかしいですよ」と抗弁こうべんしている。

一いち審しんでは山野さんや側がわの代理人だいりにん弁護士べんごしが「バックに組織そしきがいるような気きがする」「事務所じむしょに集団しゅうだん抗議こうぎや嫌いやがらせが来こないとも限かぎらない」との理由りゆうで逃にげてしまい、山野さんや側がわは新あたらしい弁護士べんごしを立たてて争あらそった。

2008年ねん9月18日にち、東京とうきょう地裁ちさいで原告げんこくの主張しゅちょうが訴因そいん2を除のぞいて認みとめられ、山野さんやらは慰謝いしゃ料りょう80万まん円えんの支払しはらいを命めいじられた（ただし削除さくじょの要求ようきゅうについては却下きゃっか）。

2009年ねん3月5日にち、東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょは山野さんやらに20万まん円えんの支払しはらいを命めいじた。東京とうきょう高裁こうさいは、原告げんこくが元もと在日ざいにち韓国かんこく人じんだったとの事実じじつは2007年ねん8月がつ下旬げじゅん当時とうじ広ひろく知しれ渡わたっていたとはいえず、山野やまのの記述きじゅつはプライバシー侵害しんがいにあたると認みとめつつ、重大じゅうだい事件じけんで有罪ゆうざい判決はんけつを受うけた者ものに関かんしては民族みんぞく的てき出自しゅつじを公表こうひょうする利益りえきが公表こうひょうしない利益りえきを上回うわまわると判示はんじした。その後ご、原告げんこくは最高裁さいこうさいへの上告じょうこくを断念だんねんし、高裁こうさい判決はんけつが確定かくていした。この顛末てんまつは山野さんやの著書ちょしょ『マンガ嫌いや韓かん流りゅう4』に描えがかれたが、山野やまのは「印税いんぜいの半分はんぶんは○○○○（原文げんぶんは実名じつめい）との裁判さいばんでの費用ひように飛とび、アシスタント経費けいひなどと合あわせて、利益りえきは全まったく上あがっていません。ザル勘定かんじょうでプラスマイナスゼロ。ただしこの裁判さいばん費用ひようについては、版元はんもとの方ほうが多おおく負担ふたんしてくれたことは記しるしておきたい」と述のべている。

このほか、受刑じゅけい者しゃ（当時とうじは被告人ひこくにん）は『週刊しゅうかん新潮しんちょう』を名誉めいよ毀損きそんで提訴ていそしたり、「霞かすみっ子こクラブ」のブログの記述きじゅつに訂正ていせいを要求ようきゅうしたりしている。また『タイムズ』紙しのリチャード・ロイド・パリーも名誉めいよ毀損きそんで提訴ていそされている。訴うったえの内容ないようは「被告人ひこくにんが拘置こうち所しょで服ふくを脱ぬぎ、独房どくぼうの洗面せんめん台だいにしがみついて出廷しゅっていを拒否きょひしたとの報道ほうどうは事実無根じじつむこん」というもので、この時ときの損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう額がくは3000万まん円えんであった。パリーは勝訴しょうそしたものの、『タイムズ』紙しは約やく1200万まん円えんの弁護士べんごし費用ひようの負担ふたんを余儀よぎなくされた。被告人ひこくにん個人こじんは2004年ねんに238億おく円えんの負債ふさいを抱かかえて破産はさんしていたものの、タクシー会社かいしゃやパチンコ屋やを経営けいえいする家族かぞくが高額こうがくの裁判さいばん費用ひよう等とうを負担ふたんしていた。

被告人ひこくにんによる自作じさく自演じえんの「冤罪えんざい」キャンペーン

2006年ねん、「真実しんじつ究明きゅうめい班はん」名義めいぎで「ルーシー事件じけんの真実しんじつ」と称しょうするウェブサイトが開設かいせつされた。翌よく2007年ねん5月、「ルーシー事件じけん真実しんじつ究明きゅうめい班はん」名義めいぎで『ドキュメンタリー ルーシー事件じけんの真実しんじつ―近年きんねんこの事件じけんほど事実じじつと報道ほうどうが違ちがう事件じけんはない』（以下いか『ドキュメンタリー ルーシー事件じけんの真実しんじつ』と略記りゃっき）と題だいする本ほんが飛鳥新社あすかしんしゃから刊行かんこうされた。いずれも検察けんさつの立証りっしょうの疑うたがわしさを主張しゅちょうし、被告人ひこくにん（当時とうじ）の冤罪えんざいの可能かのう性せいを訴うったえる内容ないようであった。

『ドキュメンタリー ルーシー事件じけんの真実しんじつ』p.31には「真実しんじつ究明きゅうめい班はんは、ジャーナリスト、法科ほうか大学だいがく職員しょくいん、元もと検事けんじを含ふくむ法曹界ほうそうかい会員かいいんなどで構成こうせいされている」と記しるされていたが、この本ほんの実態じったいは被告人ひこくにんから委託いたくされた弁護士べんごしによる自費じひ出版しゅっぱん物ぶつであり、飛鳥新社あすかしんしゃとしては、被告人ひこくにんの命令めいれいと監督かんとくで作つくられた本ほんと認識にんしきしていた。

2010年ねん2月がつ、飛鳥新社あすかしんしゃが被告人ひこくにんとその弁護士べんごしに対たいして民事みんじ訴訟そしょうを起おこし、1314万まん6481円えんの未払金みはらいきんの支払しはらいを求もとめた。訴状そじょうには、『ドキュメンタリー ルーシー事件じけんの真実しんじつ』が被告人ひこくにんの刑事けいじ事件じけんを有利ゆうりにするためのキャンペーン活動かつどうの一環いっかんとして書籍しょせきの出版しゅっぱん、広告こうこく等とうの業務ぎょうむ委託いたくが行おこなわれたものであること、被告ひこくらは、上記じょうきキャンペーン活動かつどうを中立ちゅうりつ性せいある活動かつどうであるかのように装よそおうために、同どうキャンペーンの担にない手てが第三者だいさんしゃからなる特定とくていの団体だんたいであるかのように装よそおったこと、『真実しんじつ究明きゅうめい班はん』はもとより法人ほうじん格かくを有ゆうする法人ほうじんではなく、権利けんり能力のうりょくなき社団しゃだんに該当がいとうする程度ていどの社団しゃだん性せいもなく、その実体じったいは、被告ひこくら個人こじんに過すぎないことが書かかれていた。

ウェブサイト「ルーシー事件じけんの真相しんそう」には被害ひがい者しゃの日記にっきの一部いちぶや遺族いぞくの署名しょめいした書類しょるい、公判こうはん速記そっき録ろくなどが裁判所さいばんしょの許可きょかなく掲載けいさいされていた。このため警視庁けいしちょうは立件りっけんを検討けんとうしたが、ドメイン名めいがオーストラリア領りょうクリスマス島とうのものであったのをウェブサイトのサーバーが日本にっぽん国外こくがいと誤解ごかいしたため捜査そうさは行おこなわれなかった。（実際じっさいにはこのサイトをホストしているのは京都きょうとの株式会社かぶしきがいしゃメディアウォーズ（代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう三上みかみ出いずる）である。）

状況じょうきょう証拠しょうこ

以下いかの状況じょうきょう証拠しょうこをどう評価ひょうかするかが焦点しょうてんとなった。

• 髪かみの毛けなどから、被害ひがい者しゃが被疑ひぎ者しゃのマンションにいたこと
• 被害ひがい者しゃが死亡しぼうしたとされる時期じきの直後ちょくごに、遺体いたいの損壊そんかい・遺棄いきに使つかったとみられるチェーンソー・セメントなどを購入こうにゅうしていたこと
• 被疑ひぎ者しゃのパソコン記録きろくでは、被害ひがい者しゃが死亡しぼうしたとされる時期じきの直後ちょくごにインターネットで死体したいの処理しょり方法ほうほうが検索けんさくされていたこと
• 遺体いたいの損壊そんかいが激はげしかったため、睡眠薬すいみんやくの代謝たいしゃ物ぶつが検出けんしゅつされたものの死因しいんが特定とくていできず、薬物やくぶつや被疑ひぎ者しゃのDNAが検出けんしゅつされなかったこと
• 被疑ひぎ者しゃが起おこした他ほか9事件じけんに、ルーシー・ブラックマン事件じけんと類似るいじの犯罪はんざい性向せいこうがあること
• 他た9事件じけんでは存在そんざいした、薬物やくぶつを使つかって女性じょせいへの乱暴らんぼうを撮影さつえいしたビデオテープが、ルーシー・ブラックマン事件じけんでは発見はっけんされなかったこと
• 死亡しぼうしたとされる時期じきの後のちにブラックマンの生存せいぞんを偽装ぎそうする電話でんわをブラックマンの友人ゆうじんにかけたのは被疑ひぎ者しゃである可能かのう性せいが高たかいこと

直接ちょくせつ証拠しょうこに乏とぼしいこの事件じけんに対たいしては、2006年ねん9月がつに被疑ひぎ者しゃの無罪むざいを訴うったえる内容ないようのホームページが「真実しんじつ究明きゅうめい班はん」名義めいぎで開設かいせつされており、それらの主張しゅちょうは後のちに書籍しょせきとしてまとめられている。「真実しんじつ究明きゅうめい班はん」は、被疑ひぎ者しゃの行為こういは被害ひがい者しゃと金銭きんせんにおいて合意ごういの上うえで行おこなわれたものであるとしているが、そのホームページには、裁判さいばん関係かんけい者しゃでしか入手にゅうしゅし得えないはずの資料しりょうも使用しようされている。

刑事けいじ裁判さいばん

第だい一いち審しん・東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ

• 東京とうきょう地検ちけんは被告人ひこくにんが失踪しっそう前まえのブラックマンと行動こうどうしていた点てん・遺体いたいを固かためるのに使用しようされたものと同種どうしゅのセメントが被告人ひこくにんの部屋へやから発見はっけんされた点てんなどの状況じょうきょう証拠しょうこを積つみ重かさねて有罪ゆうざいを主張しゅちょうし、法定ほうてい刑けいの上限じょうげんの無期むき懲役ちょうえきを求刑きゅうけいした。
• 2007年ねん7月がつ24日にちに開ひらかれた判決はんけつ公判こうはんで東京とうきょう地裁ちさい（栃木とちぎ力りょく裁判さいばん長ちょう）は被告人ひこくにんに無期むき懲役ちょうえきをい渡いわたした。東京とうきょう地裁ちさいはブラックマン以外いがいの女性じょせい9人にんに対たいする準じゅん強姦ごうかん致死ちし罪ざいなどを事実じじつ認定にんていしたが、ブラックマンの件けんに関かんしては「合理ごうり的てき疑うたがいが残のこる」として無罪むざいをい渡いわたした。東京とうきょう地検ちけん・被告人ひこくにんともに判決はんけつを不服ふふくとして東京とうきょう高裁こうさいに控訴こうそした。

控訴こうそ審しん・東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょ

• 2008年ねん3月がつ25日にち - 控訴こうそ審しん初はつ公判こうはん。弁護べんご側がわは、当とう事件じけんの被害ひがい者しゃに関かんする全すべての罪つみとオーストラリア人じんの致死ちし罪ざいに関かんして無罪むざいを主張しゅちょうした。検察けんさつ側がわは、有罪ゆうざいを求もとめた。
• 2008年ねん7月がつ - 一いち審しんで致死ちし罪ざいが認定にんていされたオーストラリア人じん女性じょせいの遺族いぞくに、被告人ひこくにんが見舞みまい金きん1億おく円えんを支払しはらっていたことが明あきらかになった。被告人ひこくにんはこの見舞みまい金きんを「お悔くやみ金きん」としており、女性じょせいに対たいする殺害さつがいは関係かんけいないと主張しゅちょうしている。
• 2008年ねん12月16日にち - 控訴こうそ審しん判決はんけつ公判こうはんにて東京とうきょう高裁こうさい（門野もんの博ひろし裁判さいばん長ちょう）は第だい一いち審しん判決はんけつを破棄はきした上うえで被告人ひこくにんに改あらためて無期むき懲役ちょうえき判決はんけつをい渡いわたした。東京とうきょう高裁こうさいはブラックマン事件じけんについて準じゅん強姦ごうかん致死ちし罪ざいを認みとめなかったが、わいせつ目的もくてき誘拐ゆうかい・準じゅん強姦ごうかん未遂みすい・死体したい損壊そんかい・死体したい遺棄いきの各かく罪つみを有罪ゆうざいと認定にんていした。弁護人べんごにん側がわは判決はんけつを不服ふふくとして最高裁さいこうさいに上告じょうこくした。

上告じょうこく審しん・最高裁判所さいこうさいばんしょ第だい一いち小しょう法廷ほうてい

• 2010年ねん12月7日にち付づけで最高裁さいこうさい第だい一いち小しょう法廷ほうてい（桜井さくらい龍子りゅうこ裁判さいばん長ちょう）は控訴こうそ審しん・無期むき懲役ちょうえき判決はんけつを支持しじして被告人ひこくにんの上告じょうこくを棄却ききゃくする決定けっていをしたため無期むき懲役ちょうえきが確定かくていした。

メディア

2023年ねん - 『警視庁けいしちょう捜査そうさ一いち課か ルーシー・ブラックマン事件じけん』（ドキュメンタリー映画えいが）

関連かんれん書籍しょせき

• 松まつ垣かき透とおる『ルーシー事件じけん 闇やみを食くう人ひとびと』彩いろどり流りゅう社しゃ。ISBN 9784779112621
• ルーシー事件じけん真実しんじつ究明きゅうめい班はん『ドキュメンタリー ルーシー事件じけんの真実しんじつ 近年きんねんこの事件じけんほど事実じじつと報道ほうどうが違ちがう事件じけんはない』真実しんじつ究明きゅうめい班はん。ISBN 9784870317864

出典しゅってん

以下いかの出典しゅってんにおいて、記事きじ名めいに実名じつめいが使つかわれている場合ばあい、その箇所かしょを伏字ふせじとする

参考さんこう文献ぶんけん

• 高尾たかお昌司しょうじ『刑事けいじたちの挽歌ばんか―警視庁けいしちょう捜査そうさ一いち課か「ルーシー事件じけん」』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう〈文春ぶんしゅん文庫ぶんこ た-89-1〉、2013年ねん（原著げんちょ2010年ねん）。ISBN 978-4167838515。 
• リチャード・ロイド・パリー『黒くろい迷宮めいきゅう──ルーシー・ブラックマン事件じけん15年ねん目めの真実しんじつ』早川書房はやかわしょぼう、2015年ねん。ISBN 978-4-15-209534-3。 

関連かんれん項目こうもく

• リンゼイ・アン・ホーカー殺害さつがい事件じけん
• 間接かんせつ証拠しょうこ