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μみゅー10 (イオンエンジン)

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

μみゅー10(ミューテン)は、日本にっぽん宇宙うちゅう科学かがく研究所けんきゅうじょ開発かいはつしたイオンエンジンである。

概要がいよう

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耐久たいきゅう試験しけんひん

イオンエンジンなかでも電極でんきょくプラズマ推進すいしん英語えいごばん分類ぶんるいされ、マイクロ放電ほうでんもちいるものとしてははじめて実用じつようされたものである[1]。イオンげん中和ちゅうわともにマイクロ放電ほうでんしき採用さいようしたことでプラズマ生成せいせい電極でんきょく不要ふようになり、方式ほうしき比較ひかくして単純たんじゅん軽量けいりょう高信頼こうしんらい長寿ちょうじゅいのちとなった。また、加速かそくグリッドに炭素たんそ繊維せんい強化きょうか炭素たんそふくあい材料ざいりょう採用さいようしたことでモリブデンせいの2〜3ばい寿命じゅみょう確保かくほし、耐久たいきゅう試験しけんでは20,000時間じかん以上いじょう稼働かどう時間じかんほこる。

名称めいしょう直径ちょっけい10 cmのマイクロ放電ほうでんしきもちいたミューロケットさい上段じょうだんだか推力すいりょくモーターであることをしめしている。

仕様しよう

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  • タイプ:イオンエンジン/電極でんきょくプラズマ推進すいしん英語えいごばん
  • 推進すいしんざいキセノン65 kg
  • 推力すいりょく:8.5 mN(改良かいりょう 10 mN)
  • 推力すいりょく:1,700 s〜3,400 s可変かへん
  • イオンビーム口径こうけい:100 mm
  • ビーム電圧でんあつ:1.5 kV
  • ビーム電流でんりゅう:140 mA
  • アクセル電圧でんあつ:-350 V
  • マイクロ電力でんりょく:32 W
  • イオン生成せいせいコスト:230 W/A
  • 推力すいりょく電力でんりょく:22 mN/kW
  • 推力すいりょく発生はっせい消費しょうひ電力でんりょく:250 W / 500 W / 750 W / 1 kW(4段階だんかい切替きりかえ
  • 推進すいしんざい利用りよう効率こうりつ:0.85
  • 乾燥かんそう重量じゅうりょう:36 kg
  • 設計せっけい寿命じゅみょう:14,000時間じかん稼働かどう20,000あいだ実証じっしょうずみ

採用さいよう宇宙うちゅう

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  • はやぶさ」 - 2003ねん平成へいせい15ねんげ。2010ねん平成へいせい22ねん)の6月13にち2251ふん帰還きかん従来じゅうらい宇宙うちゅうようエンジンにはない特徴とくちょうによって、惑星わくせい重力じゅうりょく圏外けんがい探査たんさ「はやぶさ」よう推進すいしん機関きかんとしてμみゅー10エンジンが採用さいようされた。
  • はやぶさ2」 - 改良かいりょうによって推力すいりょく10 mNとなったものを採用さいよう[2]
  • DESTINY+」 - 推力すいりょく10 mNのエンジンを4同時どうじ運用うんよう

その小型こがた人工じんこう衛星えいせい宇宙うちゅう探査たんさ採用さいようされることを目標もくひょうとし、日本電気にほんでんきエアロジェットしゃ開発かいはつおよ販売はんばいにおいて協業きょうぎょうすることを発表はっぴょうした[3]。2010ねん以降いこうアメリカ市場いちばでの提案ていあん活動かつどうおこない、2011ねんから販売はんばい開始かいしする予定よていである。

はやぶさでの運用うんよう

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運転うんてん開始かいし当初とうしょは、探査たんさ周囲しゅういのこっている大気たいき影響えいきょう放電ほうでん現象げんしょう多発たはつしたため、探査たんさ全体ぜんたいあたためてだつガスをおこなうベーキングを2かいおこなった結果けっか安定あんていして運転うんてんおこなえるようになった[4]試験しけん運転うんてんつづけるなかでスラスタAを予備よびとし、のこりの3だい(スラスタB〜D)を使用しようすることになった。

連続れんぞく加速かそくつづけるなか毎日まいにち追跡ついせき作業さぎょうおこない、位置いち速度そくど確認かくにんおこなう。そして一定いってい期間きかん連続れんぞく運転うんてんをするとμみゅー10は一時いちじその運転うんてん停止ていしし、連続れんぞく運転うんてん動作どうさ履歴りれき高速こうそく通信つうしんする。それらの結果けっかまえてはやぶさの軌道きどう計画けいかく決定けっていし、μみゅー10の運転うんてん計画けいかく作成さくせいされる[5]当初とうしょ予定よていでは、μみゅー10の運転うんてんつづけながら軌道きどう決定けっていおこなうことになっていたが、エンジンの推力すいりょく想定そうてい以上いじょう変動へんどうおおきく、運転うんてんつづけながらの軌道きどう決定けってい困難こんなんであったために、軌道きどう決定けっていμみゅー10は一時いちじ停止ていしする運用うんようがなされることになった[6]

またμみゅー10の運転うんてんかせない電力でんりょくは、探査たんさ太陽たいようからの距離きょりによって太陽たいよう電池でんち出力しゅつりょくおおきく変化へんかするため、μみゅー10は出力しゅつりょく調整ちょうせい、そして運転うんてん台数だいすう調整ちょうせいして運用うんようおこなった[7]

予定よていがい運用うんよう

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はやぶさの運用うんようにおいて姿勢しせい制御せいぎょようのX・Yじくリアクションホイールおよヒドラジンスラスタ2系統けいとう故障こしょうしたさい中和ちゅうわからキセノンガスを噴射ふんしゃすることで姿勢しせい制御せいぎょおこなった[8]イトカワ着陸ちゃくりく前後ぜんこう相次あいついだトラブルの影響えいきょうで、当初とうしょ予定よていよりおくれて地球ちきゅう帰還きかんのための軌道きどう変換へんかん開始かいし設計せっけい寿命じゅみょう以上いじょう長時間ちょうじかん運用うんようおこなうことになった。

2007ねん4がつにイオンエンジンBの、2009ねん11月にはイオンエンジンDの中和ちゅうわが、劣化れっか原因げんいんおもわれる機能きのう極端きょくたん低下ていかこした。のこるイオンエンジンCだけでは2010ねん地球ちきゅう帰還きかん困難こんなんであったが、「イオンエンジンB」と「イオンエンジンAの中和ちゅうわ」という変則へんそく(クロス)運転うんてん成功せいこうし、いくらかの効率こうりつ低下ていかはあったもののイオンエンジン1相当そうとう推力すいりょく確保かくほ軌道きどう変換へんかんつづけることができた[9][10][ちゅう 1]本来ほんらいであればイオンげんからのせい電荷でんかつプラズマジェットにたいし、てい電流でんりゅう制御せいぎょされた電源でんげんによって中和ちゅうわから放出ほうしゅつされた電子でんし機外きがいし、プラズマジェットのせい電荷でんか中和ちゅうわすることで宇宙うちゅう筐体きょうたい電位でんい中立ちゅうりつたもつシステムであるのだが、かくエンジンのプラズマ生成せいせい中和ちゅうわにそれぞれ独立どくりつした電源でんげん用意よういしたことと、きびしい重量じゅうりょう制限せいげんゆえに中和ちゅうわ回路かいろ洗練せんれんされた回路かいろめず、やむなく中和ちゅうわ電源でんげん並列へいれつにバイパスダイオードけたことでイオンげん中和ちゅうわ独立どくりつして運転うんてん論文ろんぶんちゅうでは『クロス運転うんてん』と記述きじゅつ)を可能かのうにした[12]。クロス運転うんてん、このダイオードにより宇宙うちゅう筐体きょうたいまけ帯電たいでんやく50ボルト)し、正常せいじょう中和ちゅうわから空間くうかんけて電子でんしすことに成功せいこうした。このような運転うんてんでは宇宙うちゅう電位でんいることが不可能ふかのううえに、宇宙うちゅう筐体きょうたい電位でんいまけしずんだぶんだけイオンの加速かそく電圧でんあつがるため、推力すいりょくがテレメトリーによる観測かんそくからの期待きたいよりがる問題もんだいがある(そのぶん針路しんろ予測よそく誤差ごさる)[13]受動じゅどうてき制御せいぎょによるそのような運転うんてんモードが可能かのうなようにしておいたものがこうそうしたものである[14]原理げんりじょう探査たんさ全体ぜんたい電位でんい本来ほんらいとはずれた状態じょうたいになることもあり、地上ちじょうでの試験しけんおこなっていなかったためぶっつけ本番ほんばん運用うんようであった。予定よていされたミッションに必要ひつようりょう以上いじょう推進すいしんざい搭載とうさいしていたことも、直接ちょくせつ噴射ふんしゃによる姿勢しせい制御せいぎょやエンジンの変則へんそくてき運転うんてん推力すいりょく発生はっせいしていないがわ推進すいしんざい供給きょうきゅうはカットできないため、そちらがわは「ながし」とせざるをえなかった)といった予定よていがい運用うんようおこな余裕よゆうんだ。

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 國中くになかひとし中山なかやまむべてん西山にしやま和孝かずたか『イオンエンジンによる動力どうりょく航行こうこう』、コロナしゃ、2006ねん ISBN 4-339-01228-9
  • 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、282-293ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ イオンげん故障こしょうによりイオンエンジンAは早々そうそう運用うんようあきらめており、その結果けっかとして中和ちゅうわはほぼ新品しんぴんのまま温存おんぞんできた[11]

出典しゅってん

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  1. ^ 希望きぼう現実げんじつにしたはやぶさのエンジン”. JAXA (2003ねん). 2023ねん1がつ8にち閲覧えつらん
  2. ^ Robot Watch JAXA相模原さがみはらキャンパス一般いっぱん公開こうかいレポート 〜 はやぶさ後継こうけい次期じき固体こたいロケットなどに注目ちゅうもく 2008ねん8がつ22にち 17:04
  3. ^ Robot Watch 小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」のイオンエンジンが海外かいがい展開てんかいへ 〜 NECとべいAerojet-Generalが協業きょうぎょう、NASAの探査たんさ搭載とうさいされる可能かのうせい 2009ねん8がつ4にち 13:49
  4. ^ くにちゅう中山なかやま西山にしやま(2006)p.242
  5. ^ くにちゅう中山なかやま西山にしやま(2006)pp.240-241
  6. ^ 吉川よしかわしんISASコラムだい56かい「はやぶさ」生還せいかんせよ
  7. ^ くにちゅう中山なかやま西山にしやま(2006)pp.244-245
  8. ^ 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、283-286ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 
  9. ^ JAXA 小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう再開さいかいについて 2009ねん11月19にち
  10. ^ 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、286ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 
  11. ^ 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、286ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 
  12. ^ 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、291ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 
  13. ^ 細田ほそだ聡史さとし國中くになか ひとし「イオンエンジンによる小惑星しょうわくせい探査たんさ「はやぶさ」の帰還きかん運用うんよう」(pdf)『プラズマ・かく融合ゆうごう学会がっかいだい86かんだい5ごう、2010ねん5がつ、291-292ぺーじNDLJP:104578132019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 
  14. ^ いくわがわたいせん 「はやぶさ」プロジェクトをかたる。 2011ねん3がつ15にち (2012ねん04がつ17にち 閲覧えつらん)

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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