たて

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たて
Scutum
Scutum
ぞくかくかたち Scuti
りゃく Sct
発音はつおん [ˈskjuːtəm]ぞくかく:/ˈskjuːtaɪ/
象徴しょうちょう たて[1]
概略がいりゃく位置いちあかけい  18h 21m 35.8s -  18h 59m 10.5s[1]
概略がいりゃく位置いちあかぬき −3.83° - −15.94°[1]
ひろ 109平方へいほう[2]84
バイエル符号ふごう/
フラムスティード番号ばんごう
恒星こうせいすう
7
3.0とうよりあかるい恒星こうせいすう 0
さいてるぼし αあるふぁ Sct(3.83ひとし
メシエ天体てんたいかず 2
隣接りんせつする星座せいざ わし
いて
へび

19世紀せいきイギリスの星座せいざカードしゅうウラニアのかがみ』にえがかれたたて左下ひだりした)。
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たて(たてざ、Scutum)は現代げんだいの88星座せいざの1つ。17世紀せいきすえ考案こうあんされたあたらしい星座せいざで、たてがモチーフとされている。ぜんてんで5番目ばんめちいさい星座せいざで、あかるいほしはないがメシエカタログ登録とうろくされた2つの散開さんかい星団せいだんがある。

おも天体てんたい[編集へんしゅう]

4とうぼしよりあかるいほしはないが、変光星へんこうせいメシエカタログにリストアップされた2つの散開さんかい星団せいだんはアマチュア天文てんもん観測かんそく対象たいしょうとされる。

恒星こうせい[編集へんしゅう]

2022ねん4がつ現在げんざい国際こくさい天文学てんもんがく連合れんごう (IAU) が認証にんしょうした固有こゆうめい恒星こうせいは1つもない[3]

星団せいだん星雲せいうん銀河ぎんが[編集へんしゅう]

由来ゆらい歴史れきし[編集へんしゅう]

たては、ポーランド天文学てんもんがくしゃヨハネス・ヘヴェリウスが、1684ねん8がつ刊行かんこう学術がくじゅつ『ライプツィヒ学術がくじゅつ論叢ろんそう (Acta Eruditorum)』に「ソビエスキのたて」という意味いみScutum Sobiescianum として星図せいずとその説明せつめい掲載けいさいしたことにはじまる[14]。この「ソビエスキ」は、ときのポーランドおうヤン3せいソビエスキ (ポーランド: Jan III Sobieski) のことである[14]。ヤン3せいは、前年ぜんねん1683ねんきたオスマン帝国ていこくによるだいウィーン包囲ほういさい、「フサリア」とばれる騎兵きへいひきいてウィーン包囲ほういちゅうのオスマンぐん強襲きょうしゅうし、これを潰走かいそうさせるという戦史せんしのこ武勲ぶくんてたばかりで、Scutum Sobiescianum はその栄誉えいよとなえたものとされる[15]。また、1679ねんにヘヴェリウスが観測かんそく施設しせつ焼失しょうしつしたさい、その再建さいけんをヤン3せい支援しえんしてくれたことへの個人こじんてき恩義おんぎ動機どうきになったとられる[14]。ヘヴェリウスは、『ライプツィヒ学術がくじゅつ論叢ろんそう』にせた説明せつめいぶんで1678ねんエドモンド・ハリー考案こうあんした星座せいざ Robur Carolinum(チャールズのかし)をいにし、ヤン3せい威光いこう自身じしん正当せいとうせい強調きょうちょうした[14][16]。また、かれ死後しごの1690ねん出版しゅっぱんされた『Prodromus Astronomiae』では、かれ考案こうあんしたほか星座せいざよりもおおくの紙幅しふくいてヤン3せい偉業いぎょうとそれをたたえて星座せいざとする意義いぎ説明せつめいしている[17]

『ライプツィヒ学術がくじゅつ論叢ろんそう』の誌上しじょうで Scutum Sobiescianumは、キルヒがザクセンせんみかどこうヨハン・ゲオルク3せい顕彰けんしょうするために考案こうあんした Gladii Electorales Saxonici(ザクセンせんみかどこうそうけん)とならべて掲載けいさいされた[16]。ともに封建ほうけん領主りょうしゅ威徳いとくたたえるために考案こうあんされた2つの星座せいざであったが、Scutum Sobiescianum が名前なまええながらも「たて (Scutum)」として88星座せいざの1つとしてながらえているのにたいして、Gladii Electorales Saxonici はこれを採用さいようするものもなくすたれてしまった[18]

Scutum Sobiescianum も後世こうせい天文学てんもんがくしゃたちすべてにれられたわけではなく、この多分たぶん政治せいじてき動機どうきもうけられた星座せいざ忌避きひするうごきもられた。たとえば、イギリス初代しょだい王室おうしつ天文てんもんかんとなったジョン・フラムスティード編纂へんさんし、死後しご1725ねん出版しゅっぱんされたほしひょうだいえい恒星こうせい目録もくろく (Catalogus Britannicus)』や1729ねん出版しゅっぱんされた星図せいず天球てんきゅう図譜ずふ (Atlas Coelestis)』では、ヘヴェリウス考案こうあんほか星座せいざ掲載けいさいされる一方いっぽうで、Scutum Sobiescianum の存在そんざい完全かんぜん無視むしされた[14][19][20]。しかし、ジャン・ニコラ・フォルタン英語えいごばんらが1776ねんにフランスで刊行かんこうした『天球てんきゅう図譜ずふ』の改訂かいていばんでは l'Ecu de Sobieski として復活ふっかつしている[21][ちゅう 1]。また、1801ねんにドイツの天文学てんもんがくしゃヨハン・ボーデ刊行かんこうした星図せいず『ウラノグラフィア (Uranographia)』では Scutum Sobiesii名称めいしょう[14]1822ねんにイギリスの教育きょういくしゃアレクサンダー・ジェイミソン出版しゅっぱんした『A Celestial Atlas』[ちゅう 2]では Scutum Sobieski という名称めいしょう[22]それぞれえがかれており、18世紀せいきから19世紀せいきにかけて星座せいざの1つとして受容じゅようされていたことがうかがえる。

しかし、イギリスの天文学てんもんがくしゃフランシス・ベイリーは、かれった翌年よくねん1845ねん刊行かんこうされたほしひょう『British Association Catalogue』で現在げんざい使つかわれている星座せいざとほぼおなじ87の星座せいざをリストアップしながら、Scutum Sobiescianum を除外じょがいしていた[23]。このベイリーの姿勢しせいは、後年こうねんアメリカ天文学てんもんがくしゃベンジャミン・グールドから「天文学てんもんがくしゃたちによってあまねく採用さいようされているヘヴェリウスのScutumを抑圧よくあつすることに一体いったいどんな利益りえきがあるのかわからない」と批判ひはんされている[24]結局けっきょく1879ねんにグールドが刊行かんこうした著書ちょしょ『Uranographia Argentina』で、星座せいざめいScutum短縮たんしゅくしたうえ採用さいようされ、バイエル符号ふごうふうギリシア文字もじ符号ふごうαあるふぁからηいーたまでされた[25]ことにより、Scutum の星座せいざとしての地位ちいかくたるものとなった[14]

1922ねん5月にローマ開催かいさいされたIAUの設立せつりつ総会そうかい現行げんこうの88星座せいざさだめられたさいにそのうちの1つとして選定せんていされ、星座せいざめいScutum略称りゃくしょうSct正式せいしきさだめられた[26]あたらしい星座せいざのため星座せいざにまつわる神話しんわ伝承でんしょうはない。

中国ちゅうごく[編集へんしゅう]

古今ここん図書としょ集成しゅうせいえがかれた宿やど。たてほしみぎじょうてんべんはいされていた。

18世紀せいきなかばにドイツじん宣教師せんきょうしケーグラー(中国ちゅうごくめい戴進けん)らが編纂へんさんしたほしひょう欽定きんていぞうこうなり』では、たてほし々は二十八宿にじゅうはっしゅく北方ほっぽう玄武げんぶなな宿しゅくだいいち宿しゅく宿やど」にはいされた。たてαあるふぁδでるたεいぷしろんβべーたηいーたの5ほしが、わしの4ほしとともに天子てんしのかぶるかんむりあらわほしかんてんべん」をすとされた[27]

呼称こしょう方言ほうげん[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは、明治めいじ末期まっきには「だて」という訳語やくごてられていたことが、1910ねん明治めいじ43ねん)2がつ刊行かんこう日本にっぽん天文てんもん学会がっかい会報かいほう天文てんもん月報げっぽうだい2かん11ごう掲載けいさいされた「星座せいざめい」という記事きじでうかがいることができる[28]。この訳名やくめいは、1925ねん大正たいしょう14ねん)に初版しょはん刊行かんこうされた『理科りか年表ねんぴょう』にも「だて(たて)」としてがれた[29]戦後せんご1952ねん昭和しょうわ27ねん)7がつ日本にっぽん天文てんもん学会がっかいが「星座せいざめいはひらがなまたはカタカナで表記ひょうきする」[30]としたさいに、Scutum の日本語にほんご学名がくめいは「たて」とさだめられ[31]、これ以降いこうは「たて」という学名がくめい継続けいぞくしてもちいられている。

天文てんもん同好どうこうかい[ちゅう 3]山本やまもと一清かずきよらは、すでにIAUが学名がくめいを Scutum とさだめたのちの1931ねん昭和しょうわ6ねん)3がつ刊行かんこうした『天文てんもん年鑑ねんかんだい4ごうで、星座せいざめいを Scutum Sobiescianum、訳名やくめいを「ソビエスキのだて」と紹介しょうかい[32]以降いこうごうでもこの星座せいざめい訳名やくめい継続けいぞくしてもちいていた[33]

現代げんだい中国ちゅうごくではたてぱいばれている[34]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ フォルタンらによる『天球てんきゅう図譜ずふ』のだい10には2つのはん存在そんざいすることがられているが、いずれのはんでも l'Ecu de Sobieskiえがかれている[21]
  2. ^ いわゆる『ジェミーソン星図せいず』。
  3. ^ 現在げんざい東亜とうあ天文てんもん学会がっかい

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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  34. ^ 大崎おおさき正次まさつぐからし革命かくめい以後いご星座せいざ」『中国ちゅうごく星座せいざ歴史れきし雄山閣ゆうざんかく出版しゅっぱん、1987ねん5がつ5にち、115-118ぺーじISBN 4-639-00647-0 

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

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