カザフ語ご

カザフ語ご;
	Қазақ тілі, Qazaq tili, قازاق ٴتىلى
話はなされる国くに	カザフスタン; アフガニスタン; タジキスタン; トルコ; トルクメニスタン; ウクライナ; ウズベキスタン; 中国ちゅうごく; モンゴル; イラン; ロシア
地域ちいき	中央ちゅうおうアジア
話者わしゃ数すう	800万まん人にん
言語げんご系統けいとう	アルタイ諸語しょごテュルク諸語しょご北西ほくせい語ご群ぐんカザフ語ご; ; ;
表記ひょうき体系たいけい	キリル文字もじ; ラテン文字もじ; アラビア文字もじ
公的こうてき地位ちい
公用こうよう語ご	カザフスタン; アルタイ共和きょうわ国こく; イリ・カザフ自治じち州しゅうなど
少数しょうすう言語げんごとして; 承認しょうにん	モンゴル
統制とうせい機関きかん	カザフスタン共和きょうわ国こく文化ぶんか・スポーツ省しょう（カザフ語ご版ばん、ロシア語ご版ばん）
言語げんごコード
ISO 639-1	kk
ISO 639-2	kaz
ISO 639-3	kaz
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カザフ語ご（カザフご、Қазақ тілі, Qazaq tili, 英えい: Kazakh language）は、主おもに中央ちゅうおうアジアで使用しようされる言語げんごの1つであり、カザフスタン共和きょうわ国こくの国家こっか語ごに制定せいていされている。ISO 639による略語りゃくごは2字じが kk、3字じが kaz で表あらわされる。カザフスタンのほか、他たの中央ちゅうおうアジアの国家こっか、中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくの新疆しんきょうウイグル自治じち区くやモンゴル西部せいぶ、ロシアでも話はなされている^[1]。

カザフ語ごはテュルク諸語しょごの北西ほくせい語ご群ぐん（キプチャク語ご群ぐん）に分類ぶんるいされ、カラカルパク語ご、ノガイ語ご、キルギス語ごなどと近ちかい関係かんけいにある^[2]。方言ほうげんは北東ほくとう方言ほうげん、南部なんぶ方言ほうげん、西部せいぶ方言ほうげん（あるいは北東ほくとう方言ほうげん、南部なんぶ方言ほうげん、中央ちゅうおう北部ほくぶ方言ほうげん、東部とうぶ方言ほうげん）に分類ぶんるいされ、語彙ごいや発音はつおんに違ちがいが見みられるものの、それぞれの差異さいは大おおきくない^[3]。カザフ語ごの文語ぶんごは北東ほくとう方言ほうげんに基もとづいている^[3]。

音韻おんいん論ろん

母音ぼいん

カザフ語ごの母音ぼいん
	−RTR ("前ぜん舌した母音ぼいん")		+RTR ("後こう舌した母音ぼいん")
非ひ円えん唇くちびる狭せま母音ぼいん	/ɘ/あるいは/ɨ/, «і»		/ə/, «ы»
非ひ円えん唇くちびる広こう母音ぼいん	/e/, «е»（語頭ごとうでは[je]となることがある）	/æ/, «ә»		/a/, «а»
円えん唇くちびる狭せま母音ぼいん	/ʉ/, «ү»		/u/, «ұ»（基本きほん的てきに第だい一いち音節おんせつにしか表記ひょうきしない。йに先行せんこうする場合ばあい、中ちゅう舌した化かし«ү»に近ちかい発音はつおんとなる）
円えん唇くちびる広こう母音ぼいん	/ɵ/, «ө»（語頭ごとうでは[wɵ]となることがある）		/ɔ/, «о»（基本きほん的てきに語頭ごとうのみで、語頭ごとうでは[wɔ]となることがある）

子音しいん

カザフ語ごの子音しいん
	両りょう唇音しんおん		唇くちびる歯音しおん		歯音しおん/ 歯茎はぐき音おん		後部こうぶ歯茎はぐき音おん		歯茎はぐき硬かた口蓋こうがい音おん	軟口蓋なんこうがい音おん		口蓋垂こうがいすい音おん		声門せいもん音おん
鼻音びおん	[m] ‹м›				[n] ‹н›					[ŋ] ‹ң›
破裂はれつ音おん	[p] ‹п›	[b] ‹б›			[t] ‹т›	[d] ‹д›				[k] ‹к›	[ɡ] ‹г›	[q] ‹қ›	[ɢ]あるいは[ʁ] ‹ғ›
摩擦音まさつおん			[(f)] ‹ф›	[(v)] ‹в›	[s] ‹с›	[z] ‹з›	[ʃ] ‹ш›	[ʒ] ‹ж›	[(ɕ)] ‹щ›	[(x)] ‹х›				[h] ‹һ›
破やぶ擦ず音おと					[(ts)] ‹ц›				[(tɕ)] ‹ч›
はじき音おん					[ɾ] ‹р›
接近せっきん音おん					[l] ‹л›				[j] ‹й›	[w] ‹у›

なお、カザフ語ごの‹к›と‹қ›は狭せま母音ぼいん/広こう母音ぼいん間あいだの相補そうほ分布ぶんぷをなしており、これらの二に音おとは音節おんせつ末まつにおいてしばしば対応たいおうする有ゆう声ごえ子音しいんのごとく発音はつおんされる。この有声音ゆうせいおん化かはпにもみられる。また、хは外国がいこく語ごでしか用もちいられず、しばしば‹қ›のごとく発音はつおんされる。

文法ぶんぽう

母音ぼいん調和ちょうわ、接尾せつび辞じの膠着こうちゃく性せい、主語しゅご・目的もくてき語ご・述語じゅつごの語順ごじゅん、人称にんしょう語尾ごびと言いった文法ぶんぽう上じょうの特徴とくちょうは他たのテュルク系けいの言語げんごと共通きょうつうする^[3]。例たとえば、カザフ語ごでは基本きほん的てきに動詞どうしが最後さいごに置おかれ、SOV型がたの語順ごじゅんをとるが、カザフ語ご独自どくじの特徴とくちょうには語尾ごびのyがj（dj）、chがsh、shがsに変化へんかすることが挙あげられ、一部いちぶの方言ほうげんを除のぞいて他たのテュルク系けい言語げんごで使つかわれる未来みらい形がた（-ajak/ejek）が存在そんざいしない^[3]。また、日本語にほんごとの共通きょうつう性せいが指摘してきされている^[1]。

名詞めいしの格かく変化へんか^[4]
格かく	形態素けいたいそ	可能かのうな形態けいたい	кеме "船ふね"	ауа"空気くうき"	шелек"桶おけ"	сәбіз"人参にんじん"	бас"頭あたま"	тұз"塩しお"
主格しゅかく	—	—	кеме	ауа	шелек	сәбіз	бас	тұз
対格たいかく	-nı	-ні, -ны, -ді, -ды, -ті, -ты, -н	кемені	ауаны	шелекті	сәбізді	басты	тұзды
属ぞく格かく	-nıń	-нің, -ның, -дің, -дың, -тің, -тың	кеменің	ауаның	шелектің	сәбіздің	бастың	тұздың
与格よかく	-ga	-ге, -ға, -ке, -қа, -не, -на	кемеге	ауаға	шелекке	сәбізге	басқа	тұзға
処しょ格かく	-da	-де, -да, -те, -та	кемеде	ауадан	шелекте	сәбізде	баста	тұзда
奪だつ格かく	-dan	-ден, -дан, -тен, -тан, -нен, -нан	кемеден	ауадан	шелектен	сәбізден	бастан	тұздан
具ぐ格かく	-men	-мен(ен) -бен(ен) -пен(ен)	кемемен	ауамен	шелекпен	сәбізбен	баспен	тұзбен

代名詞だいめいし

カザフ語ごには6つの人称にんしょう代名詞だいめいしがある。

人称にんしょう代名詞だいめいし^[4]
単数たんすう		複数ふくすう
Kazakh (transliteration)	日本語にほんご	Kazakh (transliteration)	日本語にほんご
Мен (Men)	私わたし	Біз (Biz)	私わたしたち
Сен (Sen)	君きみ(親おや称しょう)	Сіз (Siz)	あなた(敬称けいしょう)、あなたたち
Ол (Ol)	彼かれ、彼女かのじょ、それ	Олар (Olar)	彼かれら、彼女かのじょら、それら

代名詞だいめいしの屈折くっせつは、次つぎの表ひょうで説明せつめいされている。単数たんすうの代名詞だいめいしのみが不規則ふきそく性せいを示しめす。不規則ふきそくなものは太字ふとじで強調きょうちょうされている。^[4]

Declension of pronouns^[4]
主格しゅかく	мен	сен	ол	біз	сіз	олар
対格たいかく	мені	сені	оны	бізді	сізді	оларды
属ぞく格かく	менің	сенің	оның	біздің	сіздің	олардың
与格よかく	маған	саған	оған	бізге	сізге	оларға
処しょ格かく	менде	сенде	онда	бізде	сізде	оларда
奪だつ格かく	менен	сенен	одан	бізден	сізден	олардан
具ぐ格かく	менімен	сенімен	онымен	бізбен	сізбен	олармен

代名詞だいめいしに加くわえて、人ひとを扱あつかう接尾せつび辞じがいくつか存在そんざいする。

人称にんしょうを示しめす形態素けいたいそ^[4]
	代名詞だいめいし	コピュラ	所有しょゆう	過去かこ/条件じょうけん
1人ひとり称しょう単数たんすう	мен	-mın	-(ı)m	-(ı)m
2人ふたり称しょう単数たんすう	сен	-sıń	-(ı)ń	-(ı)ń
3人称にんしょう単数たんすう	ол	-dır	—	—
1人ひとり称しょう複数ふくすう	біз	-mız	-(ı)mız	-(ı)k
2人ふたり称しょう単数たんすう(敬称けいしょう)、2人ふたり称しょう複数ふくすう	сіз	-sız	-(ı)ńız	-(ı)nız
3人称にんしょう複数ふくすう	олар	-dır	—	—

語彙ごい

歴史れきし的てきにカザフ語ごにはアラビア語ご、ペルシア語ご、モンゴル語ごの語彙ごいがしばしば借用しゃくようされていたが、アラビア語ご、ペルシア語ごはタタール語ご、ウズベク語ご、ペルシア語ごの一方いっぽう言げんであるタジク語ごなどの言語げんごを経由けいゆして導入どうにゅうされた^[2]。他たのテュルク系けいの言語げんごに比くらべてアラビア語ご、ペルシア語ごからの借用しゃくよう語ごは少すくなく、ロシア語ごからの借用しゃくよう語ごが多おおい^[3]。カザフスタンの独立どくりつ後ごはロシア語ごからの借用しゃくよう語ごをカザフ語ごに置おき換かえる（例たとえばロシア語ごに由来ゆらいする「飛行機ひこうき（Самолёт）」をカザフ語ごの「飛とぶもの（Ұшақ）」に代かえる）運動うんどうが行おこなわれているが、こうした新語しんごは一般いっぱんに普及ふきゅうしていない^[1]。

アラビア語ごからの借用しゃくよう語ご
カザフ語ご	日本語にほんご	アラビア語ご
tájrıbe (тәжірибе)	経験けいけん	تجربة
áýel (әуел)	最初さいしょ	أول
kitap (кітап)	本ほん	كتاب

ペルシア語ごからの借用しゃくよう語ご
カザフ語ご	日本語にほんご	ペルシア語ご
qaǵaz (қағаз)	紙かみ	کاغذ
ádebıet (әдебиет)	文学ぶんがく	ادبیات
áýen (әуен)	メロディー	اهنگ

ロシア語ごからの借用しゃくよう語ご
カザフ語ご	日本語にほんご	ロシア語ご
zaýyt (зауыт)	工場こうじょう	завод
oblys (облыс)	州しゅう	область
Japonıa (Жапония)	日本にっぽん	Япония

歴史れきし

近代きんだいまでカザフ人じんの間あいだで文字もじはほとんど使用しようされておらず、知識ちしきと情報じょうほうの伝達でんたつ・共有きょうゆうの手段しゅだんとして口承こうしょう文芸ぶんげいが発達はったつする^[3]。中央ちゅうおうアジアのテュルク系けい言語げんごの共通きょうつう語ごであるチャガタイ語ごがカザフ語ごの文語ぶんごとして使用しようされていたが、19世紀せいき後半こうはんからチャガタイ語ごの口語こうご化かが始はじまり、カザフ文語ぶんごと呼よばれるものが形作かたちづくられていく^[2]。19世紀せいき後半こうはんに刊行かんこうされた「トルキスタン地方ちほう新聞しんぶん」「ステップ地方ちほう新聞しんぶん」などの媒体ばいたいでカザフ語ごが使用しようされるにつれて、文章ぶんしょう語ごとしてのカザフ語ごも発達はったつしていく^[3]。また、アルトゥンサリン、アバイらの文学ぶんがく作品さくひんも文章ぶんしょう語ごの確立かくりつに貢献こうけんした^[3]。

20世紀せいき前半ぜんはんに改良かいりょうアラビア文字もじでの表記ひょうき、ラテン文字もじの採用さいようを経へて、1940年ねんから改良かいりょうキリル文字もじによるカザフ語ごの表記ひょうき法ほうが採用さいようされる。ソ連それん時代じだい末期まっきの1989年ねんにカザフ語ごはカザフ・ソビエト社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわ国こくの国家こっか語ごに制定せいていされる。

ソ連それんから独立どくりつした後のちもカザフスタンは他たの中央ちゅうおうアジア諸国しょこくに比くらべてロシア語ごが使用しようされることが多おおく、カザフ語ごは国家こっか語ご、ロシア語ごは実質じっしつ的てきな共通きょうつう語ごとしての地位ちいを確立かくりつし、都市とし部ぶではカザフ語ごよりもロシア語ごを得意とくいとするカザフ人じんは少すくなくない^[1]。こうした状況じょうきょう下かで、カザフスタン政府せいふはカザフ語ごの振興しんこうを掲かかげていて^[5]、カザフ語ごの急速きゅうそくな台頭たいとうとロシア語ごの重要じゅうよう性せいの低下ていかに対たいして抵抗ていこうを感かんじる人間にんげんがいる一方いっぽうで、マスメディアにおけるロシア語ごの支配しはい的てきな地位ちいを疑問ぎもん視しする意見いけんも投なげかけられている^[1]。

2016年ねんにはカザフスタンの大統領だいとうりょうであるヌルスルタン・ナザルバエフによってラテン文字もじ表記ひょうきへの移行いこうが宣言せんげんされた。2017年ねん9月がつ11日にちにはその草案そうあんが提出ていしゅつされた^[6]。その後ご数すう回かい草案そうあんを改定かいていした^[7]^[8]。

表記ひょうき

詳細しょうさいは「カザフ語ごアルファベット」を参照さんしょう

1910年代ねんだいにアフメド・バイトゥルスノフらによって改良かいりょうアラビア文字もじによる正書法せいしょほうが提起ていきされ、1917年ねんと1924年ねんに正書法せいしょほうは改正かいせいされる。ソビエト連邦れんぽう時代じだいの1929年ねんにラテン文字もじによる表記ひょうき法ほうが採用さいようされ、1940年ねんから改良かいりょうキリル文字もじによる表記ひょうきに切きり替かえられる。2012年ねんにカザフスタン政府せいふはキリル文字もじからラテン文字もじへの切きり替かえが発表はっぴょうされ、その背景はいけいにはカザフスタンの経済けいざい力りょくの成長せいちょう、トルコ、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタンといったラテン文字もじ表記ひょうきを推進すいしんする他ほかのテュルク系けい国家こっかとの関係かんけいの強化きょうか、これまでのロシアとの密接みっせつな関係かんけいの見直みなおし、国内こくないのカザフ人じんの比率ひりつの増加ぞうかなどが挙あげられている^[1]。

モンゴル国こくではカザフ語ごは改良かいりょうキリル文字もじによって表記ひょうきされている。中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくでは1965年ねんから1982年ねんまでの間あいだはラテン文字もじでの表記ひょうきも使用しようされていたが、改良かいりょうアラビア文字もじで表記ひょうきされることが多おおくなっている^[3]。

2006年ねんにカザフスタンの大統領だいとうりょうであるヌルスルタン・ナザルバエフはカザフ語ごを12年ねんから15年ねんのうちにラテン文字もじ表記ひょうきに変かえる案あんを発表はっぴょうした^[9]。2012年ねん12月には2025年ねんまでにキリル文字もじからラテン文字もじ表記ひょうきへの切きり替かえを行おこなうことが発表はっぴょうされた^[1]。2017年ねん4月がつにはあらためて2025年ねんまでにカザフ語ごの表記ひょうきをラテン文字もじに転換てんかんすると表明ひょうめいした^[10]。2021年ねん1月がつにはラテン文字もじ正書法せいしょほうの新あたらしい版はんが発表はっぴょうされ、移行いこうは2023年ねんから2031年ねんまでかけて段階だんかい的てきに行おこなうと改あらためられた^[11]。