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キリル文字もじ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
キリル文字もじ
キリル文字もじによる「おもいの」(ルーマニア)。1850年代ねんだい
類型るいけい: アルファベット
言語げんご: 使用しようこく
ベラルーシの旗 ベラルーシ
ボスニア・ヘルツェゴビナの旗 ボスニア・ヘルツェゴビナおも国内こくないのセルビアじん居住きょじゅう地域ちいき
ブルガリアの旗 ブルガリア
キルギスの旗 キルギス
北マケドニアの旗 きたマケドニア
ロシアの旗 ロシア
ウクライナの旗 ウクライナ
モンテネグロの旗 モンテネグロ (ラテン文字もじ使用しよう
セルビアの旗 セルビア (ラテン文字もじ使用しよう
タジキスタンの旗 タジキスタン (ラテン文字もじ使用しよう
モンゴル国の旗 モンゴル (モンゴル文字もじ使用しよう
カザフスタンの旗 カザフスタン (2031ねんまで)
時期じき: 初期しょきキリル文字もじ初出しょしゅつ940ねんごろ
姉妹しまい文字もじ体系たいけい: ラテン文字もじ
コプト文字もじ
Unicode範囲はんい: U+0400-U+04FF
U+0500-U+052F
U+2DE0-U+2DFF
U+A640-U+A69F
U+1C80-U+1C8F
U+1E030-U+1E08F
ISO 15924 コード: Cyrl
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メロエ ぜん3世紀せいき
カナダ先住民せんじゅうみん 1840ねん
ちゅうおと 1913ねん

キリル文字もじ(キリルもじ、ブルガリア: Кирилица: Кириллицаえい: Cyrillic)は、スラヴなどを表記ひょうきするのにもちいられる表音ひょうおん文字もじである。

ギリシア文字もじもとづいてギリシアじんキュリロス(Kyrillos)(ロシアしきかたでは「キリル」)が9世紀せいきつくったグラゴル文字もじをもとに、(その弟子でしたちが)10世紀せいきブルガリアつくった文字もじである。(→#歴史れきし

キリル文字もじロシアベラルーシウクライナブルガリアセルビアカザフキルギスなどおおくの言語げんご使用しようされており、文字もじ集合しゅうごうはそれぞれ微妙びみょうことなる。

ひがしアジア諸国しょこく伝統でんとうてき文字もじコードにおいてはCJK文字もじおなマルチバイトコードポイントち、CJK文字もじ同様どうよう全角ぜんかく文字もじとしてあつかわれていたが、Unicode制定せいていさいラテン文字もじことなり、ひがしヨーロッパ諸国しょこく文字もじコードにおいて1バイトで表現ひょうげんされるキリル文字もじ同一どういつ文字もじとされたため、Unicodeの仕様しようじょう全角ぜんかく半角はんかく区別くべつたずにフォントによって文字もじはばおおきくことなっている。この事情じじょうギリシア文字もじ同様どうようである。

歴史れきし[編集へんしゅう]

前史ぜんし・グラゴル文字もじ発明はつめい[編集へんしゅう]

グラゴル文字もじは、スラヴじん布教ふきょうおこなったキリスト教きりすときょう東方とうほう教会きょうかい総本山そうほんざん正教会せいきょうかい宣教師せんきょうしであるキュリロス(キリル)とメトディオス(メフォディ)が発明はつめいした文字もじである。

862ねん西にしスラヴじん王国おうこくであるモラヴィア王国おうこくラスチスラフおうひがしマ帝国まていこくキリスト教きりすときょう伝道でんどう派遣はけん要請ようせいし、ひがしローマ皇帝こうていはキリルとメフォディの兄弟きょうだいをモラビア王国おうこく派遣はけんした。このときキリルとメフォディ兄弟きょうだいスラヴじん正教せいきょう布教ふきょうするため、スラブ表記ひょうきするための文字もじ考案こうあんした。これがグラゴル文字もじで、このグラゴル文字もじがのちにキリル文字もじ発展はってんした。

862ねんから863ねんごろに考案こうあんされたグラゴル文字もじ史上しじょうはつのスラヴ表記ひょうき文字もじであり、スラブ世界せかいひろ使用しようされるようになった。しかし、キリルとメフォディ兄弟きょうだい布教ふきょうキリスト教きりすときょう西方せいほう教会きょうかいであるローマ教会きょうかいから妨害ぼうがいされ、885ねんのメフォディの死後しご、キリルとメフォディ兄弟きょうだい弟子でしであるオフリドのクリメントらは弾圧だんあつからのがれてブルガリア帝国ていこくうつり、ボリス1せい庇護ひごされながら布教ふきょう活動かつどうつづけた[1]

キリル文字もじ誕生たんじょう[編集へんしゅう]

グラゴル文字もじはスラヴ特徴とくちょうをよくとらえたものであったが、いくつかの問題もんだい存在そんざいした。かたち複雑ふくざつすぎて使用しようしにくかったことと、当時とうじブルガリアではすでにギリシア使つかそう一定いっていすうおり、ブルガリアをギリシア文字もじあらわすこともおこなわれていたことである[2]。そこでブルガリアにうつった弟子でしたちはグラゴル文字もじ改良かいりょうし、900ねん前後ぜんごよりギリシア文字もじちかかたちあたらしい文字もじ開発かいはつした。キリル文字もじ開発かいはつにあたっては、基本きほんてきにはギリシア文字もじ採用さいようし、ギリシア文字もじでは表現ひょうげんできないものはグラゴル文字もじからの借用しゃくようしん文字もじによって表現ひょうげんした[3]。しかしかれらはキュリロスをしのび、あたらしい文字もじをキュリロスの文字もじんだ[4]。これがキリル文字もじである。この名称めいしょうのため、後世こうせいにはキリルがつくったのがキリル文字もじしんじられるようになった。上記じょうきのように弾圧だんあつけたこともあって文字もじ成立せいりつ資料しりょうがほとんど発見はっけんされていなかったため、19世紀せいき前半ぜんはんまではグラゴル文字もじとキリル文字もじのどちらがふるいかはなぞとなっていたが、19世紀せいきちゅうごろにふる音韻おんいんのこしたグラゴル文字もじ資料しりょうがいくつか発見はっけんされ、グラゴル文字もじほうはや成立せいりつしたことがあきらかとなった[5]

キリル文字もじ使用しようはじまった時期じき明確めいかくではないが、シメオン1せい統治とうち893ねん - 927ねん)とかんがえられている[3]開発かいはつ当初とうしょ、キリル文字もじとグラゴル文字もじはブルガリア国内こくない併存へいそんしており、首都しゅとプレスラフを中心ちゅうしんとする北東ほくとうではキリル文字もじが、きゅう首都しゅとオフリド中心ちゅうしんとする西部せいぶにおいてはグラゴル文字もじ使用しようされていた[6]

伝播でんぱ変遷へんせん[編集へんしゅう]

教会きょうかいでの典礼てんれいよう開発かいはつされたキリル文字もじは、グラゴル文字もじ同様どうようスラヴ正教会せいきょうかいけん普及ふきゅうしていき、徐々じょじょにグラゴル文字もじ後継こうけい言語げんごとなった[7]。シメオン時代じだいにブルガリア統治とうちにあったセルビアにもキリル文字もじ伝播でんぱし、さらに988ねんにはキエフ大公たいこうウラジーミル1せい正教会せいきょうかいれたため、ロシア全土ぜんどにキリル文字もじ伝播でんぱすることとなった。

各国かっこくつたわったキリル文字もじは、その各地かくち実情じつじょうおうじて修正しゅうせいくわえられていった。ロシアにおいては18世紀せいき初頭しょとうピョートル大帝たいてい文字もじ改革かいかくおこなっていくつかの文字もじ廃止はいしし、また字体じたいがラテン文字もじちかづけられた[8]。さらに20世紀せいきはいるとふたた改革かいかくおこなわれることになり、1912ねん改正かいせい改革かいかくあん発表はっぴょうされ、1917ねんにはロシア臨時りんじ政府せいふによってきゅう文字もじ体系たいけいから4つの文字もじ除去じょきょされた現行げんこうのロシア文字もじ体系たいけい施行しこうされた[9]。セルビアにおいても19世紀せいきなかばにヴーク・カラジッチによって言文げんぶん一致いっちむねとした改革かいかく遂行すいこうされ、不要ふよう文字もじ除去じょきょとラテン文字もじJ導入どうにゅうなどがおこなわれ、セルビアキリル・アルファベット成立せいりつした[10]1945ねんにはブルガリアにおいても文字もじ改革かいかく実施じっしされた[10]

使用しよう言語げんご[編集へんしゅう]

ヨーロッパにおける使用しよう文字もじべつ地域ちいき地域ちいき使用しよう文字もじ対応たいおうつぎのとおり。みどり:ギリシア文字もじあおみどり:ギリシア文字もじとラテン文字もじあお:ラテン文字もじむらさき:ラテン文字もじとキリル文字もじあか:キリル文字もじだいだい:グルジア文字もじ黄色おうしょく:アルメニア文字もじ

ふるくからキリル文字もじ使つかわれ、現在げんざい使つかわれている言語げんごは、スラヴ正教会せいきょうかいかさなる範囲はんいにほぼ一致いっちする。つまり、ひがしスラヴぐんロシアウクライナベラルーシみなみスラヴぐんのうちブルガリアマケドニアセルビア[注釈ちゅうしゃく 1]モンテネグロ[注釈ちゅうしゃく 1]である。スラヴ語族ごぞくでも、カトリックけんポーランドチェコスロヴァキアスロヴェニアクロアチアラテン文字もじであり、イスラム教いすらむきょうぞくするボスニアもラテン文字もじ使つか場合ばあいおお[注釈ちゅうしゃく 2]。また、スラヴとはまった関係かんけいのないモンゴル語族ごぞくぞくするモンゴルジョージアではみなみオセチア自治じちしゅうオセットイランぞくする)もキリル文字もじ使用しようしている。

また、正教会せいきょうかいであってもスラヴでない場合ばあい、キリル文字もじはかつては使用しようされていたところおおいものの現代げんだいにおいては使つかわれていない。ルーマニア正教会せいきょうかいであるためキリル文字もじ使用しようしていたが、18世紀せいき以降いこう民族みんぞく主義しゅぎたかまりによりラテン文字もじ運動うんどうひろがっていき、1859ねんから1860ねんにかけて、正式せいしきにラテン文字もじ採用さいようされることとなった[11]ギリシアはギリシア文字もじグルジアグルジア文字もじアルメニアアルメニア文字もじである[注釈ちゅうしゃく 3]

ソ連それん時代じだいのキリル文字もじ進展しんてん[編集へんしゅう]

ソビエト連邦れんぽう時代じだいには、ソ連それんないでこれまで文字もじたなかったシベリアなどの言語げんごや、アラビア文字もじ使つかっていた中央ちゅうおうアジアなどの言語げんごに、ラテン文字もじでの正書法せいしょほう制定せいていされた。しかし1940ねん以後いご言語げんご政策せいさく変化へんかによりキリル文字もじでの正書法せいしょほうあらためて制定せいていされ、すでにラテン文字もじ正書法せいしょほう制定せいていされた言語げんごについてはキリル文字もじへのがなされた[12]

ソ連それんあるいは帝政ていせいロシアによる併合へいごう以前いぜんからアラビア文字もじ以外いがい文字もじもちいていたバルトさんこくエストニアラトビアリトアニア(いずれもラテン文字もじ)、アルメニア(アルメニア文字もじ)、グルジア(グルジア文字もじ)はキリル文字もじされなかったが、ルーマニアから政治せいじてき分離ぶんりされたモルドバはラテン文字もじからキリル文字もじあらためられた。

使用しよう地域ちいき現在げんざいロシアりょうである言語げんごでは、アルタイウィルタエヴェンキオセットカルムイククリミア・タタールサハショルタタールチュヴァシチュクチトゥバドンガンナナイニヴフハカスブリヤートなどがキリル文字もじ使用しようしている。ソ連それん崩壊ほうかい独立どくりつしたくに言語げんごでは、カザフキルギスタジクなどがある。ソ連それんつよ影響えいきょうにあったモンゴルでも、1937ねんモンゴルモンゴル文字もじからキリル文字もじされた[13]

ソ連それん崩壊ほうかいのキリル文字もじ使用しよう言語げんご減少げんしょう[編集へんしゅう]

1991ねんのソビエト連邦れんぽう崩壊ほうかい、キリル文字もじ使用しようしていた諸国しょこくのうちいくつかは使用しよう文字もじをラテン文字もじへと変更へんこうする傾向けいこう顕著けんちょになった。こうした移行いこう背景はいけいには、ソビエト連邦れんぽう、およびその主流しゅりゅうとなってきたロシアてきなものへの嫌悪けんおかんがあり、キリル文字もじから文字もじ変更へんこうすることによって過去かこからの決別けつべつおこなうことを目的もくてきとしていた[14]。また、世界せかいもっと使用しようされる文字もじであるラテン文字もじ使用しようすることで世界せかいとよりふかむすびつくことも目的もくてきとされた[15]

ソ連それん時代じだいにアラビア文字もじからラテン文字もじされ、さらにキリル文字もじされたアゼルバイジャンウズベクカラカルパクトルクメンでは、独立どくりつラテン文字もじふたた採用さいようされ徐々じょじょわりつつあり[12]にいくつかの言語げんごで、これにつづこうとするうごきがある。モルドバにおいても1989ねんには再度さいど表記ひょうきをラテン文字もじあらためることが決定けっていされ、ふたたびラテン文字もじ使用しようこくとなった[11]上記じょうきのようにウズベキスタントルクメニスタンアゼルバイジャンは1990年代ねんだいにラテン文字もじ表記ひょうき移行いこうした[16]。キリル文字もじ使用しようこくとしてのこっているキルギスやタジキスタンにおいても、ラテン文字もじ移行いこうやアラビア文字もじ回帰かいき議論ぎろんは2000年代ねんだい後半こうはんからさかんになってきている[17]

カザフスタンにおいてはソ連それん崩壊ほうかいもキリル文字もじ使用しようつづいてきたが、2006ねんにラテン文字もじへの構想こうそう浮上ふじょう2017ねん4がつ同国どうこくヌルスルタン・ナザルバエフ大統領だいとうりょうカザフ表記ひょうきをラテン文字もじあらため、2018ねんには学校がっこう教育きょういくにおいてラテン文字もじ使用しよう開始かいし[18]2025ねんには完全かんぜんにカザフ表記ひょうきをラテン文字もじ移行いこうすることを表明ひょうめいした[19]。2017ねん時点じてんすでおおくの企業きぎょう銀行ぎんこう劇場げきじょうにある看板かんばんくるまナンバープレート郵便ゆうびん番号ばんごうなどがラテン文字もじになっており、若者わかものあいだではラテン文字もじ使つかうことが流行りゅうこうになっている。移行いこう完了かんりょうまでのそう費用ひようやく3おくドルと予想よそうされている。また2003ねん以降いこう紙幣しへい硬貨こうかにはカザフとロシア併用へいようみとめられてきたが、2019ねん2がつにはカザフのみの使用しようとし、記念きねん貨幣かへいには外国がいこく使用しようみとめるという大統領だいとうりょうれい発布はっぷされた[20]

ナザルバエフ大統領だいとうりょうは「ロシアとロシア文化ぶんかわすれることはない」と言明げんめいしているが、カザフスタン国内こくないではラテン文字もじ政策せいさく世界せかいひらかれたくにづくりの一環いっかんとみなされている[16]。しかしながら、ウズベキスタンではラテン文字もじえて20ねん以上いじょうたったものの、依然いぜんとしてキリル文字もじ幅広はばひろ使用しようされており、とくちゅう高齢こうれいそうではキリル文字もじ一般いっぱんてきなままである。また、文字もじ表記ひょうき移行いこうには莫大ばくだい予算よさんがかかるという欠点けってん露呈ろていしている。さらに、民族みんぞく問題もんだい複雑ふくざつさもからんでおり、とくにカザフスタンのようなロシアけい住民じゅうみん割合わりあいたかくにでは問題もんだいとなりかねない。

モンゴルにおいてはソビエト崩壊ほうかい1994ねんにモンゴル文字もじへとふたた文字もじえるうごきがたものの、モンゴル文字もじ自由じゆう使つかいこなせる人間にんげんすくないことや、モンゴル文字もじ横書よこがきができないこと、文字もじえたのち言語げんご変化へんかきており、モンゴル文字もじではキリル文字もじにくらべてあたらしい語彙ごいへの対応たいおうができていないことなどからこの運動うんどう失敗しっぱいし、つづきキリル文字もじおも使用しようする状況じょうきょうつづいている[21]が、モンゴル国会こっかいは2020ねん3がつ18にち、2025ねんまでにモンゴル文字もじ表記ひょうき併用へいよう推進すいしんし、最終さいしゅうてきにモンゴル文字もじへの移行いこう目指めざ方針ほうしんめた[22]

きゅうユーゴスラビアとキリル文字もじ[編集へんしゅう]

バルカン半島ばるかんはんとう北西ほくせい居住きょじゅうするみなみスラヴぐんぞくするいくつかの民族みんぞく言語げんごてきにはほとんど差異さいがなく、セルビア・クロアチアばれる方言ほうげん連続れんぞくたい形成けいせいしていたが、地域ちいきによって使用しようする文字もじことなっていた。西部せいぶ居住きょじゅうするクロアチアじんはカトリック教会きょうかいぞくしており、おなじくカトリックにぞくするハンガリーとの関係かんけいふかかったこともあってラテン文字もじ使用しようしているのにたいし、東部とうぶセルビアじん正教会せいきょうかいほうじており、キリル文字もじなが使用しようしていた。1943ねんにこの地域ちいき成立せいりつしたユーゴスラビア社会しゃかい主義しゅぎ連邦れんぽう共和きょうわこくは「7つの国境こっきょう、6つの共和きょうわこく、5つの民族みんぞく、4つの言語げんご、3つの宗教しゅうきょう、2つの文字もじ、1つの連邦れんぽう国家こっか」という言葉ことば象徴しょうちょうされるようにかなり広範こうはん地方ちほう自治じちみとめており、文字もじかんしても統一とういつおこなうことはなくふたつの文字もじ並立へいりつする体制たいせいつづいていた。この時期じきのユーゴスラビア国内こくないにおいては、西にしスロベニア社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくおよびクロアチア社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくにおいてはおもにラテン文字もじが、ひがしボスニア・ヘルツェゴビナ社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくセルビア社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくモンテネグロ社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくマケドニア社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこくにおいてはおもにキリル文字もじ使用しようされていた。ただし、おたがいの文字もじけんにおいてべつ文字もじ使用しようされることはめずらしいことではなかった。クロアチア成立せいりつしたガイしきラテン・アルファベットとセルビアキリル・アルファベットが完全かんぜんに1たい1で対応たいおうしており(ただしキリル1文字もじをラテン2文字もじ表記ひょうきする場合ばあいがある)、併用へいようしやすかったこともこの傾向けいこう促進そくしんしていた。

こうした状況じょうきょうは、1991ねんのユーゴスラビア崩壊ほうかいによって変化へんかした。統一とういつ言語げんごとしてあつかわれていたセルビア・クロアチア崩壊ほうかいし、それぞれクロアチア・ボスニア・セルビアとして別個べっこ言語げんごとしてあつかわれるようになった。これにともない、ボスニアうちにおいてもクロアチアじんはラテン文字もじ使用しようし、ボシュニャクじんもキリル文字もじ使用しようすることはあるもののラテン文字もじおも使用しようするようになり、セルビアじんぎゃくにキリル文字もじ使用しようする頻度ひんどたかくなった[23]

  キリル文字もじ使用しよう
  キリル文字もじ文字もじ併用へいよう

キリル文字もじれい[編集へんしゅう]

詳細しょうさいについてはかく言語げんご参照さんしょうのこと。

キリル文字もじかく言語げんごにおいて文字もじやそのかずことなっている。ロシアのキリル文字もじは33文字もじ、セルビアのキリル文字もじは30文字もじ構成こうせいされている。またセルビアおよびマケドニアにおいては、ラテン文字もじよりJの導入どうにゅうされ使用しようされている[24]。キリル文字もじ発明はつめいされた当初とうしょは45文字もじであったと推定すいていされており[3]、その各地かくち不要ふよう文字もじ廃棄はいきされて現在げんざい文字数もじすういた。またキリル文字もじをそのまま数字すうじとして使用しようするキリル数字すうじという記数きすうほうもキリル文字もじ成立せいりつ当初とうしょから存在そんざいする。

字体じたい[編集へんしゅう]

ラテン文字もじおなじように立体りったいイタリックたい活字かつじがある。一部いちぶ文字もじ立体りったいとイタリックたいかたちがかなりことなり、たとえばロシアでは、イタリックたいの「т」はラテン文字もじ小文字こもじのmに字形じけいとなる。以下いかにロシアのキリル小文字こもじ立体りったいとイタリックたいしめす。とくかたちことなる強調きょうちょう太字ふとじしめす。

うえひょうまさしく(上記じょうき「т」の字形じけいかんする記述きじゅつ参考さんこうとせよ)表示ひょうじされていない場合ばあい画像がぞうばん参照さんしょうのこと。
а б в г д е ё ж з и й к л м н о п р с т у ф х ц ч ш щ ъ ы ь э ю я
а б в г д е ё ж з и й к л м н о п р с т у ф х ц ч ш щ ъ ы ь э ю я
かく言語げんごб, г, д, п, т比較ひかく上段じょうだんがロシア中段ちゅうだんがセルビアとマケドニア下段げだんがブルガリア

また一部いちぶ文字もじでは、言語げんごによってイタリックたい字形じけいことなる。たとえばセルビアでは、ロシアなどとちがい、イタリックたいの「т」はラテン文字もじ小文字こもじのmを上下じょうげぎゃくにしてうえせんしたような字形じけいとなる。

小文字こもじ筆記ひっきたいはロシアのイタリックたい字形じけいとほぼおなじだが、「б」と「д」の筆記ひっきたいはセルビアのイタリックたい字形じけいおなじである。ただし、識別しきべつたかくするや個人こじん習慣しゅうかんなどの理由りゆうにより、あえて「г」「п」「т」をセルビアのイタリックたい字形じけいおなじようにくこともある。

おなじくギリシア文字もじもとつくられたラテン文字もじとはかたち文字もじおおいが、かたちていてもおと対応たいおう関係かんけいにない、あるいはおと対応たいおうしていてもかたち対応たいおう関係かんけい場合ばあいおおいので注意ちゅういようする。たとえばラテン文字もじP, Rているキリル文字もじとして Р, Я があるが、前者ぜんしゃはギリシア文字もじΡろー から、後者こうしゃふる時代じだいѦ から派生はせいした文字もじであり、発音はつおん起源きげんまった関連かんれんい。また、たとえば [v]おと相当そうとうする文字もじは、ラテン文字もじではギリシア文字もじΥうぷしろん([u]) から派生はせいした V だが、キリル文字もじでは Βべーた[b]現代げんだいギリシアでは[v])から派生はせいした В である。

コンピュータ[編集へんしゅう]

Unicode 収録しゅうろく位置いち[編集へんしゅう]

Unicode では以下いか位置いちつぎ文字もじ収録しゅうろくされている。

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
0400 Ѐ Ё Ђ Ѓ Є Ѕ І Ї Ј Љ Њ Ћ Ќ Ѝ Ў Џ
0410 А Б В Г Д Е Ж З И Й К Л М Н О П
0420 Р С Т У Ф Х Ц Ч Ш Щ Ъ Ы Ь Э Ю Я
0430 а б в г д е ж з и й к л м н о п
0440 р с т у ф х ц ч ш щ ъ ы ь э ю я
0450 ѐ ё ђ ѓ є ѕ і ї ј љ њ ћ ќ ѝ ў џ
0460 Ѡ ѡ Ѣ ѣ Ѥ ѥ Ѧ ѧ Ѩ ѩ Ѫ ѫ Ѭ ѭ Ѯ ѯ
0470 Ѱ ѱ Ѳ ѳ Ѵ ѵ Ѷ ѷ Ѹ ѹ Ѻ ѻ Ѽ ѽ Ѿ ѿ
0480 Ҁ ҁ ҂  ҃  ҄  ҅  ҆  ҇  ҈  ҉ Ҋ ҋ Ҍ ҍ Ҏ ҏ
0490 Ґ ґ Ғ ғ Ҕ ҕ Җ җ Ҙ ҙ Қ қ Ҝ ҝ Ҟ ҟ
04A0 Ҡ ҡ Ң ң Ҥ ҥ Ҧ ҧ Ҩ ҩ Ҫ ҫ Ҭ ҭ Ү ү
04B0 Ұ ұ Ҳ ҳ Ҵ ҵ Ҷ ҷ Ҹ ҹ Һ һ Ҽ ҽ Ҿ ҿ
04C0 Ӏ Ӂ ӂ Ӄ ӄ Ӆ ӆ Ӈ ӈ Ӊ ӊ Ӌ ӌ Ӎ ӎ ӏ
04D0 Ӑ ӑ Ӓ ӓ Ӕ ӕ Ӗ ӗ Ә ә Ӛ ӛ Ӝ ӝ Ӟ ӟ
04E0 Ӡ ӡ Ӣ ӣ Ӥ ӥ Ӧ ӧ Ө ө Ӫ ӫ Ӭ ӭ Ӯ ӯ
04F0 Ӱ ӱ Ӳ ӳ Ӵ ӵ Ӷ ӷ Ӹ ӹ Ӻ ӻ Ӽ ӽ Ӿ ӿ
0500 Ԁ ԁ Ԃ ԃ Ԅ ԅ Ԇ ԇ Ԉ ԉ Ԋ ԋ Ԍ ԍ Ԏ ԏ
0510 Ԑ ԑ Ԓ ԓ Ԕ ԕ Ԗ ԗ Ԙ ԙ Ԛ ԛ Ԝ ԝ Ԟ ԟ
0520 Ԡ ԡ Ԣ ԣ Ԥ ԥ Ԧ ԧ Ԩ ԩ Ԫ ԫ Ԭ ԭ Ԯ ԯ
1C80
1D20
1D70
2DE0
2DF0 ⷿ
A640
A650
A660
A670  ꙰  ꙱  ꙲
A680
A690
1E030 𞀰 𞀱 𞀲 𞀳 𞀴 𞀵 𞀶 𞀷 𞀸 𞀹 𞀺 𞀻 𞀼 𞀽 𞀾 𞀿
1E040 𞁀 𞁁 𞁂 𞁃 𞁄 𞁅 𞁆 𞁇 𞁈 𞁉 𞁊 𞁋 𞁌 𞁍 𞁎 𞁏
1E050 𞁐 𞁑 𞁒 𞁓 𞁔 𞁕 𞁖 𞁗 𞁘 𞁙 𞁚 𞁛 𞁜 𞁝 𞁞 𞁟
1E060 𞁠 𞁡 𞁢 𞁣 𞁤 𞁥 𞁦 𞁧 𞁨 𞁩 𞁪 𞁫 𞁬 𞁭
1E070
1E080  𞂏

キーボード[編集へんしゅう]

キリル文字もじ使用しようするおも言語げんごのWindowsにおけるキーボードの配列はいれつ以下いかとおり。きゅうロシア帝国ていこく支配しはい国々くにぐにバルカン半島ばるかんはんとう諸国しょこく言語げんご配列はいれつおおきなちがいがある。これはタイプライター導入どうにゅうされた時期じきからのちがいである。

ロシア
ベラルーシ
ウクライナ
ブルガリア
セルビア
マケドニア
モンゴル
キルギス
タジク

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ a b ラテン文字もじ通常つうじょう使用しようされている。
  2. ^ ボスニアではキリル文字もじもちいられる。
  3. ^ ギリシア文字もじ、グルジア文字もじ、アルメニア文字もじはいずれもキリル文字もじより歴史れきしふるい。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 「キリール文字もじ誕生たんじょう スラヴ文化ぶんかいしずえきずいたひとたち」p218 はらもとむさく 上智大学じょうちだいがく出版しゅっぱん 2014ねん3がつ10日とおかだい1はんだい1さつ
  2. ^ 「キリール文字もじ誕生たんじょう スラヴ文化ぶんかいしずえきずいたひとたち」p248 はらもとむさく 上智大学じょうちだいがく出版しゅっぱん 2014ねん3がつ10日とおかだい1はんだい1さつ
  3. ^ a b c 「ロシア・ちゅうおう・バルカン世界せかいのことばと文化ぶんか」(世界せかいのことばと文化ぶんかシリーズ)p45 桑野くわのたかし長與ながよすすむ編著へんちょ 早稲田大学わせだだいがく国際こくさい言語げんご文化ぶんか研究所けんきゅうじょ 成文せいぶんどう 2010ねん6がつ10日とおか初版しょはんだい1さつ
  4. ^ 「ロシア・ちゅうおう・バルカン世界せかいのことばと文化ぶんか」(世界せかいのことばと文化ぶんかシリーズ)p41 桑野くわのたかし長與ながよすすむ編著へんちょ 早稲田大学わせだだいがく国際こくさい言語げんご文化ぶんか研究所けんきゅうじょ 成文せいぶんどう 2010ねん6がつ10日とおか初版しょはんだい1さつ
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  9. ^ 「ロシア・ちゅうおう・バルカン世界せかいのことばと文化ぶんか」(世界せかいのことばと文化ぶんかシリーズ)p51-52 桑野くわのたかし長與ながよすすむ編著へんちょ 早稲田大学わせだだいがく国際こくさい言語げんご文化ぶんか研究所けんきゅうじょ 成文せいぶんどう 2010ねん6がつ10日とおか初版しょはんだい1さつ
  10. ^ a b 「ビジュアルばん 世界せかい文字もじ歴史れきし文化ぶんか図鑑ずかん ヒエログリフからマルチメディアまで」p278 アンヌ=マリー・クリスタンへん ひいらぎふうしゃ 2012ねん4がつ15にちだい1さつ
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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 服部はっとり文昭ふみあき古代こだいスラヴ世界せかい白水しろみずしゃ、2020ねん 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]