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ニヴフ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ニヴフ
ギリヤーク
нивх диф, нивх туғс
発音はつおん IPA: [mer ɲivx dif/tuɣs] (アムール方言ほうげん);
[ɲiɣvŋ duf] (南東なんとう樺太からふと方言ほうげん)
はなされるくに 極東きょくとうロシア南東なんとう歴史れきしてきには日本にっぽん[1][2]
地域ちいき 樺太からふと北部ほくぶアムールがわしも流域りゅういきアムール・リマン周辺しゅうへん以前いぜんシャンタル諸島しょとうでも
民族みんぞく ニヴフ6000にん
話者わしゃすう 200にん(2010ねん国勢調査こくせいちょうさ
言語げんご系統けいとう
孤立こりつ言語げんご、または世界せかい主要しゅよう語族ごぞくひと
初期しょき形式けいしき
方言ほうげん
Nivkh (Nivx)
Nighvng (Niɣvŋ)
表記ひょうき体系たいけい キリル文字もじラテン文字もじ
言語げんごコード
ISO 639-3 niv
Glottolog gily1242[3]
消滅しょうめつ危険きけん評価ひょうか
Severely endangered (Moseley 2010)
 
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ニヴフ(ニヴフご)またギリヤーク[4](ときNivkhic自称じしょう: Нивхгу диф Nivxgu Dif [ɲivxɡu dif])は、そとまんしゅうアムグンがわアムールがわ支流しりゅう流域りゅういきアムールがわ黒竜江こくりゅうこうしも流域りゅういき樺太からふと北部ほくぶニヴフ民族みんぞく固有こゆうの、たがいに理解りかいできない2つか3つの言語げんごからなるちいさな語族ごぞくで、しばしば孤立こりつした言語げんごとされる[5][6]アムール語族ごぞく (Amuric)[7]という呼称こしょうもある。便宜上べんぎじょうアジア諸語しょごふくまれる。ギリヤーク「Gilyak」とは、Tungusicの「Gileke」とManchu-Chineseの「Gilemi」(Gilyami)[よう出典しゅってん]から派生はせいした、アムールがわ黒竜江こくりゅうこう地域ちいき文化ぶんかてき類似るいじした人々ひとびとすロシア表現ひょうげんであり、おも西洋せいよう文学ぶんがくでニヴフをして使つかわれた[8]

過去かこいち世紀せいきあいだ、ニヴフの人口じんこう安定あんていしており、1897ねんには4549にん、1989ねんには4673にんだったが、ニヴフ母語ぼごとするひと割合わりあいどう時期じきに100%から23.3%に減少げんしょうし、1989ねんにはだいいち言語げんごとしてはなひとは1000にんきょうしかいなくなり、2010ねん人口じんこう調査ちょうさでは200にんしか記録きろくされていなかった。

国際こくさい連合れんごう教育きょういく科学かがく文化ぶんか機関きかんによって、黒竜江こくりゅうこう流域りゅういき方言ほうげんは「きわめて深刻しんこく樺太からふと方言ほうげんは「重大じゅうだい危険きけん」と分類ぶんるいされた危機ききひんする言語げんごである。

現代げんだい祖語そごのProto-Nivkh(ic)はFortescue(2016)によってさい構された[9]

言語げんごめい別称べっしょう[編集へんしゅう]

  • ギリヤーク - ギリヤークとばれたことがあるためニヴフもまたギリヤーク表現ひょうげんされた。
  • ニヴヒ

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

言語げんごがくでは言語げんごとの系統けいとう関係かんけいいだせない孤立こりつした語族ごぞくである。ニヴフおおくの単語たんごは、シベリア諸語しょごアイヌツングース朝鮮ちょうせん同様どうよう意味いみかたりとある程度ていど類似るいじしているが、これらの様々さまざま語族ごぞく語彙ごい体系たいけいてき説明せつめいする規則きそくてきおと一致いっち発見はっけんされていないので、語彙ごい類似るいじせい偶然ぐうぜんまたは借用しゃくようによるものとかんがえられる。

ニヴフは、ジョーゼフ・グリーンバーグユーラシアだい語族ごぞく仮説かせつ周縁しゅうえんふくまれている[10]

1998ねんマイケル・フォーテスキューはニヴフきたアメリカのモサン語族ごぞく関係かんけいがあるのではないかと示唆しさ[11]、その2011ねんにはチュクチ・カムチャツカ語族ごぞくとの関係かんけいせい指摘してきし、ニヴフふくめた「チュクチ・カムチャツカ・アムール語族ごぞく仮説かせつしたが[12]、その根拠こんきょGlottologに「不十分ふじゅうぶん」と判断はんだんされた[3]

より最近さいきんでは、セルゲイ・ニコラエフが2へん論文ろんぶんなかで、ニヴフ北米ほくべいアルギック語族ごぞくワカシャン語族ごぞくとの関係かんけい指摘してきする論文ろんぶんしている[13][14]

Hudson & Robbeets (2020)は、ニブフのような類型るいけいてき特徴とくちょう言語げんごがかつて朝鮮半島ちょうせんはんとう分布ぶんぷしており、朝鮮ちょうせん語族ごぞく基層きそうになったと想定そうていしている[15]

言語げんご[編集へんしゅう]

2002ねんのロシア国勢調査こくせいちょうさによる、ニヴフの集落しゅうらくハバロフスクポロナイスク(じきこうやつまち)、ユジノサハリンスク(豊原とよはら)をのぞく、すべて1%以下いか)。

ニヴフ方言ほうげん連続れんぞくたいである。むら氏族しぞく、さらには個々ここ話者わしゃによっても、ニヴフ語法ごほうにはかなりのばらつきがある。方言ほうげん伝統でんとうてきに4つの地理ちりてきクラスタに分類ぶんるいされる。これらは、黒竜江こくりゅうこう流域りゅういき方言ほうげんきた樺太からふと方言ほうげん本土ほんど樺太からふとふくアムール・リマン周辺しゅうへん海岸かいがんはなされる)、ひがし樺太からふと方言ほうげんトゥイミがわ周辺しゅうへんふくむ)、みなみ樺太からふと方言ほうげんポロナイ川ないがわ周辺しゅうへんはなされる)である。これらの方言ほうげんあいだ語彙ごいてきおよび音韻おんいんろんてき差異さいは、専門せんもんがそれらを2つまたは3つの言語げんご分類ぶんるいするのに十分じゅうぶんであるが、すでに分割ぶんかつされたしょう集団しゅうだんあいだ言語げんご復興ふっこうのために、ニヴフ一般いっぱんに、さらなる分割ぶんかつ結果けっかたいするおそれのために、単一たんいつ言語げんごとして提示ていじされる。Gruzdeva(1998)は、ひがし樺太からふととアムール川下かわしも流域りゅういき話者わしゃたがいに理解りかいできないと指摘してきし、方言ほうげんNivkh properていアムール、樺太からふと北部ほくぶ海峡かいきょう西にし樺太からふと方言ほうげんふくむ)とNighvngひがし樺太からふとみなみ樺太からふとの2方言ほうげん)にけている。Fortescue(2016)[16]では、アムール、ひがし樺太からふとみなみ樺太からふとかく方言ほうげんたがいに理解りかいひくく、それぞれが別々べつべつ言語げんご構成こうせいしているとかんがえている。

歴史れきし[編集へんしゅう]

ニヴフ人々ひとびとは、樺太からふとアムールがわ黒竜江こくりゅうこう流域りゅういきなんせんねんものあいだんでいる。17世紀せいきにロシアじん接触せっしょくするまで、近隣きんりんアイヌ日本人にっぽんじん中国人ちゅうごくじんとの交易こうえきつづけていた[17]。ニヴフのかずはじめて記録きろくてき減少げんしょうしたのは19世紀せいきで、公式こうしきには1856ねんから1889ねん推定すいていされているが、これは天然痘てんねんとう流行りゅうこうと、ロシアが1873ねん流刑りゅうけいしゅう樺太からふとへの集団しゅうだん移送いそう開始かいししたことによる樺太からふと囚人しゅうじんすう増加ぞうか一致いっちしている。この時点じてんでは、ニヴフがロシアはなすことはほとんどなかったとつたえられている[18]

革命かくめいちゅうおよび革命かくめいのロシアは、ニヴフおおきな変化へんかをもたらした。1920年代ねんだいには、ロシアはこの地域ちいき長年ながねんにわたるゲリラせん展開てんかいし、1925ねん樺太からふと北部ほくぶがソビエトに譲渡ゆずりわたされた。この地域ちいき資源しげん枯渇こかつし、病気びょうき蔓延まんえんし、暴力ぼうりょくはニヴフのにつながった。その、スターリンの集団しゅうだん政策せいさく先住民せんじゅうみんぞく経済けいざい強要きょうようされ[18]おおくの場合ばあい、ニヴフ個人こじん雇用こようするようにて、伝統でんとうてき自給自足じきゅうじそく生活せいかつ手段しゅだんからの脱却だっきゃくしめした[17]。ニヴフのおおくは、中央ちゅうおう集権しゅうけん過程かていで、広範囲こうはんいひろがった居住きょじゅうからしょう都市としノグリキへの強制きょうせい移住いじゅういられた。自給自足じきゅうじそく食生活しょくせいかつ住居じゅうきょ教育きょういく変化へんか結果けっかとして、伝統でんとうてきなニヴフの生活せいかつ様式ようしきは、徐々じょじょに、ときには強制きょうせいてきにソビエトの生活せいかつ様式ようしきえられた。

文法ぶんぽう[編集へんしゅう]

語順ごじゅんSOVがた膠着こうちゃくで、文法ぶんぽうには日本語にほんごてんもある。記録きろくされた方言ほうげん時代じだいによってことなるてんおおいが、およそつぎのような特徴とくちょうがある:

  • 閉音ぶしで、子音しいん頻度ひんど比較的ひかくてきたかい(たとえば民族みんぞく自称じしょうN'ivhgn)。
  • 名詞めいしかく表示ひょうじには助詞じょしのような接尾せつびもちい(主格しゅかく対格たいかく所有しょゆうかく語尾ごび)、動詞どうしおも語尾ごび変化へんかにより活用かつようする。規定きていするかたり規定きていされるかたり接続せつぞくする(たとえば名詞めいし接尾せつびやめ所有しょゆうしゃ所有しょゆうぶつ直接ちょくせつ目的もくてき動詞どうし)ときに、後続こうぞく規定きていされるかたり語頭ごとう子音しいん変化へんかすることがある(これを抱合ほうごうてき性質せいしつととらえるせつもある)。また自動詞じどうし他動詞たどうし対応たいおうにもおなじような語頭ごとう子音しいん交替こうたい使つかわれる。
  • せいはないが、数詞すうし多数たすう種類しゅるいがある(日本語にほんご助数詞じょすうし相当そうとう)。人称にんしょうかずによる動詞どうし語尾ごび変化へんか一部いちぶ(2・3人称にんしょう単数たんすう連用形れんようけいなど)にのみある。

ニヴフ膠着こうちゃく総合そうごうてき言語げんごである。文法ぶんぽうてき標識ひょうしき同様どうよう発達はったつしたかくシステムをっているが、文法ぶんぽうせいはない。ニヴフ基本きほんてき語順ごじゅんは、主語しゅご-目的もくてき-動詞どうしであり、主語しゅご口語こうごちゅうでしばしば省略しょうりゃくされる。ニヴフは、かたりあいだ高度こうど抱合ほうごうこるてん注目ちゅうもくあたいする。たとえば、空間くうかんてき関係かんけい表現ひょうげんする形態素けいたいそおおくの言語げんごにおける前置詞ぜんちしまたはのちおけ)は、関連かんれんする名詞めいし抱合ほうごうされている[19]かたり簡単かんたん定義ていぎ可能かのう語根ごこんと、そのほとんどは接尾せつびである生産せいさんてき文法ぶんぽうてき形態素けいたいそから構成こうせいされる。ニヴフには形容詞けいようしがなく、存在そんざい状態じょうたいあらわ動詞どうしがある。動詞どうし時制じせいには「未来みらい」と「未来みらい」の2つがある。未来みらいがたは、時間じかんわくしめすために、文脈ぶんみゃくだけでなく副詞ふくしともわせることができる[20]

ロシア生活せいかつのあらゆる分野ぶんや支配しはいてき言語げんごとなったため、ニヴフ文法ぶんぽうぜん世紀せいき変化へんかした。たとえば、ニヴフ最近さいきん名詞めいしとペアをかぞえるさい複数ふくすうがた標示ひょうじするようになったが、これはロシア文法ぶんぽう規則きそく由来ゆらいする変化へんかである。しかしながら、ふたつの言語げんご文法ぶんぽうてき構造こうぞうおおきくことなるため、文法ぶんぽうてき干渉かんしょうはそれほどおおきくないと仮定かていされてきた。しかし、ロシア構造こうぞうりて簡略かんりゃくしたものもある。言語げんご使用しよう文化ぶんか変化へんかのために、ニヴフ複雑ふくざつ形態けいたいろんてき側面そくめんおおくは単純たんじゅんされているか、使用しようされなくなっている[21]はいよう(obsolescence)とばれるプロセスでは、そりをかぞえるための形態素けいたいそあみかぞえるための形態素けいたいそ区別くべつなどがなくなり、話者わしゃはより一般いっぱんてきなカテゴリのかずやその記述きじゅつ使つかうようになった[22]

表記ひょうき[編集へんしゅう]

ソ連それん領内りょうないでは1930年代ねんだいマ字まじ表記ひょうきほう制定せいていされたが、まもなく政策せいさくによりキリル文字もじ変更へんこうされた。近年きんねん母語ぼご話者わしゃ急激きゅうげき減少げんしょうし(1989ねん時点じてんで23.3%とされる)危機ききひんしている。

ニヴフの一部いちぶは、太平洋戦争たいへいようせんそう樺太からふとから北海道ほっかいどうなどに日本人にっぽんじんとして移住いじゅうしてきたもの若干じゃっかん存在そんざいするが、現在げんざい日本にっぽん国内こくないで、ニヴフ話者わしゃコミュニティーは存在そんざいしないものとおもわれる。


現行げんこうのニヴフ正書法せいしょほう使用しようされる文字もじ一覧いちらん
А а Б б В в Г г Ӷ ӷ Ғ ғ Ӻ ӻ Д д
Е е Ё ё Ж ж З з И и Й й К к К’ к’
Ӄ ӄ Ӄ’ ӄ’ Л л М м Н н Ӈ ӈ О о П п
П’ п’ Р р Р̌ р̌ С с Т т Т’ т’ У у Ў ў
Ф ф Х х Ӽ ӽ Ӿ ӿ Ц ц Ч ч Ч’ ч’ Ш ш
Щ щ ъ Ы ы ь Э э Ю ю Я я

これらのうち Ӷ ӷ、Ў ў、Ч’ ч’ はアムール方言ほうげんのニヴフでは使用しようしない文字もじ

ニヴフ正書法せいしょほう[23]
文字もじ 音素おんそ
А а /æ/
б б /b/
В в /v/
Г г /ɡ/
Ӷ ӷ /ɢ/
Ғ ғ /ɣ/
Ӻ ӻ /ʁ/
Д д /d/
Е е /ɪe/
Ё ё /jo/[注釈ちゅうしゃく 1]
Ж ж /ɟ/
З з /z/
И и /i/
Й й /ɪ/
К к /k/
Кʼ кʼ /kʰ/
Ӄ ӄ /q/
Ӄʼ ӄʼ /qʰ/
Л л /l/
М м /m/
Н н /n/
Ӈ ӈ /ŋ/
О о /o/
П п /p/
Пʼ пʼ /pʰ/
Р р /r/
Р̌ р̌ /r̥/
С с /s/
Т т /t/
Тʼ тʼ /tʰ/
У у /u/
Ф ф /f/
Х х /x/
Ӽ ӽ /χかい/
Ӿ ӿ /h/
Ц ц /t͡s/
Ч ч /t͡ʃ/
Чʼ чʼ /t͡ʃʰ/
Ш ш /ʃ/
Щ щ /ʃt͡ʃ/[注釈ちゅうしゃく 1]
Ъ ъ /ʔ/
Ы ы /ə/
Ь ь /j/[注釈ちゅうしゃく 1]
Э э /ɤ/
Ю ю /ju/
Я я /jæ/
  1. ^ a b c ロシアからの借用しゃくようにのみあらわれる

音韻おんいん[編集へんしゅう]

子音しいん[編集へんしゅう]

唇音しんおん 歯茎はぐき かた口蓋こうがい 軟口蓋なんこうがい 口蓋垂こうがいすい 声門せいもん
鼻音びおん m n ɲ ŋ
破裂はれつおん p t c k q
ゆう
摩擦音まさつおん 無声むせい f s x χかい h
ゆうごえ v z ɣ ʁ
接近せっきんおん l j w
ふるえおん 無声むせい
ゆうごえ r

くちびる摩擦音まさつおんよわ明瞭めいりょう発音はつおんされ、りょう唇音しんおん[ɸ, βべーた]くちびる歯音しおん[f, v]両方りょうほうとして記述きじゅつされている。口蓋こうがい破裂はれつおん[tʃʰ, tʃ]のように、ある程度ていどやぶおとともなうことがある[24]鼻音びおんまたは/l/のち破裂はれつおんは、ゆうこえして[b, d, ɟ, ɡ, ɢ]発音はつおんされる。子音しいん交替こうたいとはことなり、これは形態素けいたいそないでもこる。アムール方言ほうげんでは、単語たんご最後さいごにある鼻音びおん一部いちぶ削除さくじょされるため、単語たんご最初さいしょでも無声むせいする。

ニヴフの軟口蓋なんこうがい摩擦音まさつおん口蓋垂こうがいすい摩擦音まさつおん音素おんそ区別くべつ[ɣ]たい[ʁ][x]たい[χかい])は、世界せかい言語げんごなかではまれである。これらのおとおおくの言語げんご発生はっせいするが、通常つうじょう交換こうかん可能かのうである[よう出典しゅってん]

ケルト諸語しょごとはことなり、ニヴフ子音しいん交替こうたい形態素けいたいそあたま破裂はれつおん閉鎖へいさおん)と摩擦音まさつおん・ふるえおんあいだこる[24]

ゆう無声むせい ゆうごえ
閉鎖へいさおん p t c k q
継続けいぞくおん f s x χかい v r z ɣ ʁ

これはおなうちで、ある形態素けいたいそまえべつ形態素けいたいそ接頭せっとう付加ふかなど)がある場合ばあいこる。ただし、まえ形態素けいたいそがそれ自体じたい摩擦音まさつおん、ふるえおん鼻音びおんや/l/でわっている場合ばあいのぞく。

  • /pəŋx/'スープ'
  • /pənraj‿vəŋx/'かものスープ'
  • /amsp‿vəŋx/'アザラシのスープのるい'
  • /cxəf‿pəŋx/'クマのスープ'

影響えいきょうけるのは形態素けいたいそ最初さいしょ位置いちのみで、破裂はれつおんわるほかのクラスタは形態素けいたいそないでも可能かのうである(れい/utku/"じん")。

いくつかの他動詞たどうしでは、この過程かていあきらかにぎゃく方向ほうこうすすむことがられている(おな分布ぶんぷで、破裂はれつおんとなる摩擦音まさつおん/ふるえおん)。これは、別個べっこのプロセスをとってきたが、基本きほんてきにはおなじであるとも説明せつめいされており、これらの動詞どうし引用いんよう形式けいしきには、以前いぜんはi-接頭せっとう(規則きそくてき子音しいん交替こうたいこすほか動詞どうし引用いんようされるかたちでまだのこっている)があったためにゆるされた破裂はれつおんふくまれている。名詞めいし最初さいしょ摩擦音まさつおん変化へんかしない[24]

母音ぼいん[編集へんしゅう]

ニヴフの母音ぼいん体系たいけいイアン・マディソンが「欠陥けっかんがある(defective)」と表現ひょうげんしたように特異とくいなもので、実際じっさいには母音ぼいん移動いどうさせて母音ぼいん空間くうかん前部ぜんぶ中央ちゅうおう領域りょういき間隙かんげき補償ほしょうする回転かいてんシステムである。中央ちゅうおう/ɤ/は、通常つうじょうぜんした中央ちゅうおう母音ぼいん欠如けつじょによってしょうじるギャップを補完ほかんするものとして、Maddieson(1984)によって記述きじゅつされている。

5母音ぼいん体系たいけい想定そうていされていたぜんした中央ちゅうおう母音ぼいんは、これまでは/ɪe/としてMaddiesonの言語げんご記述きじゅつあらわされていた、せまから中央ちゅうおうちかえんくちびるぜんした重母音じゅうぼいん発展はってんした可能かのうせいがある。

ぜんした こうした
えんくちびる えんくちびる
せま ɪ u
中央ちゅうおう ɪe ɤ o
ひろ æ

つよいきおい[編集へんしゅう]

つよぜいはどの音節おんせつにもこりうるが、最初さいしょ音節おんせつ集中しゅうちゅうする傾向けいこうがある。方言ほうげんてき変動へんどうがあり、つよぜいによって区別くべつされる最小さいしょうたいはまれであるようにおもわれる[25]

ニヴフから日本語にほんごはいったとされる単語たんご[編集へんしゅう]

  • カンカイ: さかな名前なまえ
  • クズリこごめたぬき): イタチ動物どうぶつ
  • たむろえききゅう国鉄こくてつ樺太からふとひがしせん駅名えきめい

文献ぶんけん案内あんない[編集へんしゅう]

  • Glottolog
  • 風間かざま伸次しんじろうニブフ近隣きんりんしょ言語げんごとの類型るいけいてき異同いどう言語げんご接触せっしょくについて」『サハリンの言語げんご世界せかい : 北大ほくだい文学ぶんがく研究けんきゅう公開こうかいシンポジウム報告ほうこくしょ』、北海道大学ほっかいどうだいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう、2009ねん3がつ、127-144ぺーじNAID 120006660466 

から作成さくせいした。

日本語にほんご[編集へんしゅう]

  • 服部はっとりけん (1955) 「ギリヤーク市河いちかわ三喜さんき服部はっとり四郎しろう(へん)『世界せかい言語げんご概説がいせつ』2: 751-775. 研究けんきゅうしゃ服部はっとり (2000)にさいろく].
  • 服部はっとりけん (1988) 「ギリヤーク亀井かめいたかし河野こうの六郎ろくろう千野ちの栄一えいいち(へん)『言語げんごがくだい辞典じてん』1: 1408-1414. 三省堂さんせいどう.
  • 高橋たかはしもりたかし (1942) 『樺太からふとギリヤーク朝日新聞社あさひしんぶんしゃ.
  • 服部はっとりけん (2000) 『服部はっとりけん著作ちょさくしゅう ― ギリヤーク研究けんきゅう論集ろんしゅう北海道ほっかいどう出版しゅっぱん企画きかくセンター
  • アウステルリッツ, ロバート (1990) 「類型るいけいからたギリヤーク崎山さきやまさとし(へん)『日本語にほんご形成けいせい』169-184. 三省堂さんせいどう.

日本語にほんご以外いがい言語げんご[編集へんしゅう]

音韻おんいん[編集へんしゅう]

  • Hidetoshi Shiraishi. 2006. Topics in Nivkh Phonology[ニヴフ音韻おんいんろんしょテーマ]. 61. [S.L.]: [s.n.]. (mit Zsfassung in niederländischer Sprache, University of Groningen; xviii+154pp.)

文法ぶんぽう[編集へんしゅう]

  • Panfilov, Vladimir Zinov'evic. 1962, 1965. Grammatika Nivxskogo Jazyka[ニヴフ文法ぶんぽう]. (Chast', 1.) Moscow: Akademia Nauk SSSR. 266+266pp. (2 vols.)
  • Vladimir P. Nedjalkov and Galina A. Otaina. 2013. A Syntax of the Nivkh Language: The Amur dialect[ニヴフ統語とうごろん:アムール方言ほうげん]. (Studies in Language Companion Series, 139.) In Gruzdeva, Ekaterina (ed.) Amsterdam/Philadelphia: Amsterdam: John Benjamins. xxx+396pp.
  • Gruzdeva, E.J. 1997. Nivxskij jazyk[ニヴフ]. In A.P. Volodin (ed.), Jazyki mira: paleoaziatskie jazyki, 139-154. Moscow: Indrik.

辞書じしょ[編集へんしゅう]

  • Savel’eva, V. and C. Taksami. (1965) Russko-nivkhskij slovar’ [ロシア・ニヴフ辞典じてん]. Moskva: Sovetskaja entsiklopedija.
  • V. N. Savelyeva and Taksami, Čuner M. 1970. Nivxsko-russkij Slovar'[ニヴフ・ロシア辞典じてん]. Moskva: Sovyetskaya Èntsiklopedia. 536pp.
  • Saveleva, Valentina N. and Taksami, Cuner M. 1970. Nivchsko-russkij slovar': svyse 13000 slov.[ニヴフ・ロシア辞典じてん:13000以上いじょう] Moskva: Izdat. Sovetskaja Enciklopedija. 536pp.
  • Saveleva, Valentina N. and Taksami, Cuner M. 1965. Russko-nivchskij slovar': 17300 slov[ロシア・ニヴフ辞典じてん:17300]. Moskva: Izdat. Sovetskaja Enciklopedija. 479pp.
  • Taksami, Čuner M. 1983. Slovar' Nivxsko-russkij i Russko-Nivxskij: Okolo 4000 slov[ニヴフ・ロシア辞典じてんとロシア・ニヴフ辞典じてんやく4000]. Leningrad: Leningrad Prosveščenie. 286pp.
  • Puchta, M. N. 2002. Nivchsko - russkij razgovornik i tematiceskij slovar[ニヴフ・ロシア会話かいわしゅうとテーマべつ語彙ごい]' Nivkh-Russian conversation and daily-life thesaurus. (Endangered Languages of the Pacific Rim Publications Series, A2-017.) Kyoto: ELPR. xi+116pp.

比較ひかく言語げんごがく[編集へんしゅう]

  • Michael Fortescue. 2016. Comparative Nivkh Dictionary[ニヴフ比較ひかく辞典じてん]. (Languages of the World/Dictionaries, 62.) München: LINCOM. 199pp.
  • Tailleur, Olivier Guy. 1960. La place du Ghiliak parmi les langes paléosibériennes[シベリア諸語しょごなかでのギリヤーク位置いち]. Lingua. 113-147.
  • Karl Bouda. 1960. Die Verwandtschaftsverhältnisse des Giljakischen[ギリヤーク系統けいとう関係かんけい]. Anthropos 55. 355-415.
  • Michael Fortescue. 2011. The relationship of Nivkh to Chukotko-Kamchatkan revisited[改訂かいていばんチュクチ・カムチャツカ語族ごぞくとニヴフ関係かんけい]. Lingua 121. 1359-1376.
  • Kortlandt, F.H.H. 2004. Nivkh as a Uralo-Siberian language[ウラル・シベリア語族ごぞくとしてのニヴフ]. In Per aspera ad asteriscos, 285-289. Innsbruck: Institut für Sprachwissenschaft.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 高橋たかはしもりたかし樺太からふとギリヤク朝日新聞社あさひしんぶんしゃだい東亜とうあ語学ごがく叢書そうしょ : 羽田はたとおる監修かんしゅう)1942ねん昭和しょうわ17ねん[26][27][28][29]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Austerlitz, R (1956). “Gilyak nursery words”. Word 12 (2): 260–279. 
  2. ^ 『ギリヤークの昔話むかしばなし中村なかむらチヨ (1992) 北海道ほっかいどう出版しゅっぱん企画きかくセンター
  3. ^ a b Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Nivkh”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/gily1242 
  4. ^ Laurie Bauer, 2007, The Linguistics Student’s Handbook, Edinburgh
  5. ^ Gruzdeva (1998)
  6. ^ Fortescue, Michael. 2016. Comparative Nivkh Dictionary. Languages of the World/Dictionaries (LW/D) 62. Munich: Lincom Europa. ISBN 9783862886876
  7. ^ Janhunen, Juha. 2010. Reconstructing the language map of prehistorical Northeast Asia. Studia Orientalia Electronica 108. 281–304.
  8. ^ Zgusta, Richard (2015). The peoples of northeast Asia through time: Precolonial ethnic and cultural processes along the coast between Hokkaido and the Bering Strait. Brill. pp. 71. ISBN 9789004300439. https://books.google.com.au/books?id=oToLCgAAQBAJ&pg=PA71&dq=Shantar+Nivkh&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwj7mv7wrMLhAhXOFTQIHVFiBfUQ6AEILzAB#v=onepage&q=Shantar%20Nivkh&f=false 
  9. ^ Fortescue, Michael. 2016. Comparative Nivkh Dictionary. Languages of the World/Dictionaries (LW/D) 62. Munich: Lincom Europa. ISBN 9783862886876
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  29. ^ 高橋たかはしもりたかし樺太からふとギリヤク朝日新聞社あさひしんぶんしゃだい東亜とうあ語学ごがく叢書そうしょ : 羽田はたとおる監修かんしゅう)1942ねん昭和しょうわ17ねん)Part3

関連かんれん資料しりょう[編集へんしゅう]

  • Gruzdeva, Ekaterina. 1998. Nivkh, Lincom Europa, Munich, ISBN 3-89586-039-5
  • Maddieson, Ian. 1984. Patterns of sounds, Cambridge University Press, ISBN 0-521-26536-3
  • Mattissen, Johanna. 2003. Dependent Head Synthesis in Nivkh: A Contribution to a Typology of Polysynthesis, John Benjamins, Amsterdam, Philadelphia, ISBN 1-58811-476-7
  • Nedialkov, Vladimir P., Otaina, Galina A. 2013. A Syntax of the Nivkh Language: the Amur dialect, Amsterdam ; Philadelphia : John Benjamins Pub. Company, [2013],
  • たんきく逸治いつじ. 2008. ニヴフサハリン方言ほうげん基礎きそ語彙ごいしゅう (ノグリキ周辺しゅうへん地域ちいき).(TUFS) / 東京外国語大学とうきょうがいこくごだいがくアジア・アフリカ言語げんご文化ぶんか研究所けんきゅうじょ.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]