マヤ語族 ごぞく (マヤごぞく)は、メソアメリカ に分布 ぶんぷ する語族 ごぞく であり、アメリカ・インディアン諸語 しょご のうち、マヤ人 じん によって過去 かこ および現在 げんざい 使 つか われている一 いち 群 ぐん の言語 げんご が属 ぞく する。ユカタン半島 はんとう を中心 ちゅうしん としたメキシコ 南東 なんとう 部 ぶ 、ベリーズ 、グアテマラ 、ホンジュラス 、エルサルバドル などに広 ひろ がり、この一帯 いったい をマヤ地域 ちいき と称 しょう する。ただしワステカ のみはマヤ地域 ちいき から遠 とお く離 はな れたメキシコ湾 わん 岸 きし 地方 ちほう に位置 いち する。現代 げんだい ではこの地域 ちいき はスペイン語 ご が公用 こうよう 語 ご (ベリーズは英語 えいご )になっているが、今 いま もマヤ諸語 しょご の話者 わしゃ は約 やく 300万 まん 人 にん ある。
マヤ語族 ごぞく には30あまりの言語 げんご が属 ぞく するが、うちチコムセルテコ語 ご とチョルティ(Ch'olti)語 ご は死語 しご である。ほかにもUNESCO によって危機 きき に瀕 ひん する言語 げんご とされている言語 げんご がいくつかある(イツァ語 ご 、モチョ語 ご など)。1996年 ねん のグアテマラ内戦 ないせん 終結 しゅうけつ 以降 いこう 、グアテマラ政府 せいふ は21のマヤ系 けい 言語 げんご を認 みと めた(2003年 ねん にチャルチテコ語 ご を加 くわ えて22になった[ 1] )。メキシコの国立 こくりつ 先住民 せんじゅうみん 言語 げんご 研究所 けんきゅうじょ (INALI)は11の語族 ごぞく に及 およ ぶ68の言語 げんご を認 みと めているが、うち20言語 げんご がマヤ語族 ごぞく に属 ぞく する[ 2] 。
他 た のさまざまな言語 げんご ・語族 ごぞく とマヤ語族 ごぞく との系統 けいとう 的 てき 関連 かんれん が提唱 ていしょう されたことがある。アラウコ語族 ごぞく 、アメリンド大 だい 語族 ごぞく 、アラワク語族 ごぞく 、ウル・チパヤ語族 ごぞく 、ホカ大 だい 語族 ごぞく 、ホカ=スー大 だい 語族 ごぞく 、ワベ語 ご 、レンカ語 ご 、ミヘ・ソケ語族 ごぞく 、パエス語族 ごぞく (英語 えいご 版 ばん ) 、ペヌーティ語族 ごぞく 、タラスコ語 ご 、トトナカ語族 ごぞく (英語 えいご 版 ばん ) 、モチカ語 ご (英語 えいご 版 ばん ) などが候補 こうほ としてあげられたことがあるが、今 いま のところ偶然 ぐうぜん の一致 いっち や借用 しゃくよう を越 こ える充分 じゅうぶん な立証 りっしょう のされたものはない[ 3] 。
マヤ語族 ごぞく の諸 しょ 言語 げんご の比較 ひかく から、共通 きょうつう の祖先 そせん であるマヤ祖語 そご が立 た てられる。テレンス・カウフマンとジョン・ジャステソンの『マヤ語 ご 語源 ごげん 辞典 じてん 』(PMED)[ 4] では、3,000を越 こ える語源 ごげん を再 さい 構築 こうちく している[ 5] 。カウフマンによるとマヤ祖語 そご は紀元前 きげんぜん 2200年 ねん 以前 いぜん の言語 げんご とされる[ 6] 。マヤ語族 ごぞく の原郷 はらごう はグアテマラ高地 こうち 北部 ほくぶ にあったが、紀元前 きげんぜん 2200年 ねん ごろにワステコ語 ご がまず分化 ぶんか した。また考古学 こうこがく 的 てき 証拠 しょうこ によれば、紀元前 きげんぜん 800年 ねん 以前 いぜん にマヤ人 じん は北部 ほくぶ の低地 ていち へ拡散 かくさん した[ 7] 。
スペイン人 じん の到来 とうらい 以前 いぜん 、マヤ語族 ごぞく の周辺 しゅうへん ではミヘ・ソケ語族 ごぞく 、ナワ語 ご 群 ぐん 、オト・マンゲ語族 ごぞく のサポテク語 ご 、トトナカ語族 ごぞく (英語 えいご 版 ばん ) 、シンカ語 ご 、レンカ語 ご などの言語 げんご が話 はな されていた。これらの言語 げんご には名詞 めいし の所有 しょゆう 構文 こうぶん 、関係 かんけい 名詞 めいし の使用 しよう 、二 に 十進法 じっしんほう 、動詞 どうし が最後 さいご にこない語順 ごじゅん という共通 きょうつう の特徴 とくちょう や、言語 げんご 間 あいだ の翻訳 ほんやく 借用 しゃくよう が広 ひろ く見 み られ、メソアメリカ言語 げんご 圏 けん をなすとされる。またミヘ・ソケ語族 ごぞく やナワ語 ご 群 ぐん にマヤ語族 ごぞく の言語 げんご が影響 えいきょう を受 う けたことが指摘 してき されている[ 8] 。
古典 こてん 期 き (250-900年 ねん 頃 ごろ )のマヤ文明 ぶんめい ではマヤ文字 もじ を石 いし に刻 きざ んだり、壁画 へきが や土器 どき に書 か いたりした。この文字 もじ で表 あらわ される言語 げんご を古典 こてん マヤ語 ご と称 しょう する[ 9] 。10世紀 せいき までに古代 こだい マヤの大 だい 部分 ぶぶん の都市 とし は放棄 ほうき されたが、その後 ご の後 こう 古典 こてん 期 き でもマヤ文字 もじ と古典 こてん マヤ語 ご は使 つか われ続 つづ けた。現在 げんざい マヤ文字 もじ で書 か かれた後 のち 古典 こてん 期 き の絵 え 文書 ぶんしょ が4種類 しゅるい 残 のこ されている。
スペイン人 じん による植民 しょくみん 地 ち 化 か 以降 いこう 、マヤ語 ご には大量 たいりょう のスペイン語 ご からの借用 しゃくよう 語 ご が加 くわ わった。ケクチ語 ご の語彙 ごい の1割 わり (ほとんどは名詞 めいし )がスペイン語 ご からの借用 しゃくよう 語 ご とする研究 けんきゅう がある。語彙 ごい 以外 いがい の借用 しゃくよう も見 み られるが、スペイン人 じん による長年 ながねん の圧制 あっせい の割 わり にはその影響 えいきょう は大 おお きくない[ 10] 。
話者 わしゃ 数 すう を言語 げんご 名 めい の大 おお きさで表 あらわ したマヤ語 ご の地理 ちり 的 てき 分布 ぶんぷ 。最大 さいだい 文字 もじ (50万 まん 人 にん 以上 いじょう )、大文字 おおもじ (10~50万 まん )、中 ちゅう 文字 もじ (1~10万 まん )、小文字 こもんじ (1万 まん 人 にん 未満 みまん )
言語 げんご の分類 ぶんるい はSIL による。
ワステコ語 ご 派 は
ユカテコ語 ご 派 は
チョル・ツェルタル語 ご 派 は (大 だい ツェルタル語 ご 群 ぐん とも)
カンホバル・チュフ語 ご 派 は (大 だい カンホバル語 ご 群 ぐん とも)
キチェ・マム語 ご 派 は
マム・イシル語 ご 群 ぐん (大 だい マム語 ご 群 ぐん とも)
イシル語 ご 群 ぐん
アワカテコ語 ご (Awakateko)- 2003年 ねん にチャルチテコ語 ご が独立 どくりつ した言語 げんご として認 みと められたが、言語 げんご 学的 がくてき には通常 つうじょう アワカテコ語 ご の方言 ほうげん と見 み なされる[ 11] 。
イシル語 ご (Ixil)
マム語 ご 群 ぐん
大 だい キチェ語 ご 群 ぐん
以下 いか の図 ず は、テレンス・カウフマンによる言語 げんご 年代 ねんだい 学 がく 的 てき な研究 けんきゅう にもとづいたマヤ語族 ごぞく の分岐 ぶんき とその年代 ねんだい である[ 12] 。
マヤ語族 ごぞく の系統 けいとう 樹 じゅ
マヤ語族 ごぞく がワステコ、ユカテコ、チョル・ツェルタル、カンホバル・チュフ、キチェ・マムの5つの語 かたり 群 ぐん に分 わ かれることについては学者 がくしゃ の意見 いけん が一致 いっち している[ 11] [ 13] 。ただしトホラバル語 ご はツェルタル語 ご 群 ぐん に含 ふく まれるとする説 せつ とチュフ語 ご に近 ちか いとする説 せつ が対立 たいりつ している[ 14] 。
5つの語 かたり 群 ぐん の関係 かんけい については必 かなら ずしも学者 がくしゃ の見解 けんかい が一致 いっち しない。一般 いっぱん にワステコが最初 さいしょ に分岐 ぶんき し、ついでユカテコが分 わ かれたと考 かんが えられる。一部 いちぶ の学者 がくしゃ はワステコを低地 ていち マヤ(ユカテコ、チョル・ツェルタル)に近 ちか いとするが、ライル・キャンベル らはワステコと両者 りょうしゃ の類似 るいじ を独立 どくりつ した発展 はってん あるいは分裂 ぶんれつ 後 ご の借用 しゃくよう によるものとする[ 15] 。ワステコ語 ご はほかの言語 げんご と語彙 ごい ・文法 ぶんぽう の両者 りょうしゃ にわたって非常 ひじょう に違 ちが いが大 おお きい[ 11] 。
ワステコ語 ご 群 ぐん を除 のぞ く4つの語 かたり 群 ぐん のうち、ユカテコ、チョル・ツェルタルを低地 ていち マヤ 、カンホバル・チュフ、キチェ・マムを高地 たかち マヤ とすることがよく行 おこな われる。低地 ていち マヤでは口蓋垂 こうがいすい 音 おん q qʼ が k kʼ に変化 へんか し、人称 にんしょう 接辞 せつじ の語順 ごじゅん が高地 たかち マヤと異 こと なるなどの共通 きょうつう 性 せい があるが[ 16] 、キャンベルらはこれを低地 ていち マヤ言語 げんご 圏 けん 内 うち における借用 しゃくよう の結果 けっか とする[ 17] 。
一方 いっぽう 、テレンス・カウフマンはチョル・ツェルタル語 ご 群 ぐん とカンホバル・チュフ語 ご 群 ぐん が同 おな じ祖先 そせん から分 わ かれたと考 かんが え、キチェ・マム語 ご 群 ぐん を東部 とうぶ マヤ語 ご 群 ぐん とするのに対 たい して西部 にしべ マヤ語 ご 群 ぐん と呼 よ んだが、このことは十分 じゅうぶん には立証 りっしょう されていない[ 18] 。
ユカテコ語 ご 群 ぐん は4つの言語 げんご からなる。ユカテコ語 ご (メキシコでは単 たん にマヤ語 ご と呼 よ ばれる)はユカタン半島 はんとう で約 やく 90万 まん 人 にん が用 もち いている。スペイン 統治 とうち 時代 じだい から文献 ぶんけん も多 おお く、この地域 ちいき ではスペイン系 けい でありながらこれを第 だい 一 いち 言語 げんご としている人 ひと もいる。そのほか、おもにベリーズで使 つか われているモパン語 ご 、グアテマラ・ペテン県 けん のイツァ語 ご (絶滅 ぜつめつ に瀕 ひん している)、メキシコ・チアパス州 しゅう の一部 いちぶ のラカンドン語 ご がある。
チョル語 ご は広 ひろ い範囲 はんい で使 つか われていたが、今日 きょう ではチアパス州 しゅう とグアテマラの一部 いちぶ に残 のこ るのみである。これに近 ちか いチョンタル語 ご はタバスコ州 しゅう で用 もち いられる。また近 ちか いものにホンジュラス・グアテマラ・エルサルバドル国境 こっきょう 付近 ふきん のチョルティ語 ご (Ch'orti')があるが、絶滅 ぜつめつ に瀕 ひん している。これらの言語 げんご は古典 こてん 期 き 中央 ちゅうおう 低地 ていち の碑文 ひぶん に見 み られるものに近 ちか い。
チョル語 ご 群 ぐん に最 もっと も近 ちか いのはツェルタル語 ご 群 ぐん で、ツォツィル語 ご とツェルタル語 ご をチアパス州 しゅう でそれぞれ20万 まん 人 にん 程度 ていど が話 はな している。ツォツィル語 ご とツェルタル話者 わしゃ はそれしか話 はな せない人 ひと が多 おお い。
トホラバル語 ご はチアパス州 しゅう 北東 ほくとう 部 ぶ で3万 まん 6千 せん 人 にん ほどが使 つか っている。
カンホバル語 ご はグアテマラ・ウェウェテナンゴ県 けん で約 やく 10万 まん 人 にん (2001年 ねん )[ 19] 、またアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく に移住 いじゅう した人々 ひとびと が話 はな している。
チュフ語 ご はチアパス州 しゅう の一部 いちぶ で9500人 にん が話 はな しているが、大 だい 部分 ぶぶん はグアテマラからの難民 なんみん である。グアテマラではウェウェテナンゴ県 けん で約 やく 4万 まん 人 にん [ 20] が話 はな している。ハカルテコ語 ご (ポプティ語 ご ともいう)はウェウェテナンゴ県 けん の一部 いちぶ で使 つか われている。
アカテコ語 ご はウェウェテナンゴ県 けん の一部 いちぶ で使 つか われている。
アワカテコ語 ご はウェウェテナンゴ県 けん のアグアカタン中央 ちゅうおう 部 ぶ で2万 まん 人 にん ほど[ 21] が話 はな している。またアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく オハイオ州 しゅう タスカラワス郡 ぐん に住 す むグアテマラ移民 いみん の一部 いちぶ も使 つか っている。
キチェ・マム語 ご 群 ぐん の諸 しょ 言語 げんご はグアテマラ高地 こうち で使 つか われている。
グアテマラ 高地 こうち で最 もっと も話者 わしゃ の多 おお いマヤ語 ご であるキチェ語 ご の話者 わしゃ 数 すう は92万 まん 人 にん (2001年 ねん )[ 22] 。マヤ神話 しんわ として有名 ゆうめい な『ポポル・ヴフ 』も古風 こふう なキチェ語 ご (古典 こてん キチェ語 ご )で書 か かれている。キチェ語 ご はチチカステナンゴ 、ケツァルテナンゴ の2つの町 まち とクチュマタン山地 さんち を中心 ちゅうしん に使 つか われている。キチェ文化 ぶんか はスペイン征服 せいふく 時 じ に最盛 さいせい 期 き にあった。
ケクチ語 ご はグアテマラではキチェ語 ご についで多 おお い約 やく 80万 まん 人 にん の人口 じんこう を持 も つ。本来 ほんらい アルタ・ベラパス県 けん の一部 いちぶ に住 す んでいたが、19世紀 せいき 以降 いこう に居住 きょじゅう 地域 ちいき を拡大 かくだい し、アルタ・ベラパス県 けん 全体 ぜんたい 、バハ・ベラパス県 けん の一部 いちぶ 、キチェ県 けん や低地 ていち のペテン県 けん 、イサバル県 けん 、およびベリーズ にまで広 ひろ がった。グアテマラのマヤ諸 しょ 言語 げんご のうちで話 はな される面積 めんせき は最大 さいだい である[ 23] 。
カクチケル語 ご はキチェ語 ご 地域 ちいき の南 みなみ で話 はな される。話者 わしゃ 人口 じんこう は48万 まん 人 にん (2001年 ねん )[ 24] 。かつてスペインと協力 きょうりょく してグアテマラを統治 とうち したカクチケル族 ぞく の言語 げんご であり、グアテマラの歴代 れきだい の首都 しゅと であるイシムチェ 、シウダー・ビエハ 、アンティグア・グアテマラ 、グアテマラシティ などで話 はな されている。『カクチケル年代 ねんだい 記 き 』は古典 こてん カクチケル語 ご で書 か かれている。
マム語 ご はキチェ語 ご 地域 ちいき の西 にし 、サン・マルコス県 けん 、ケツァルテナンゴ県 けん 、ウェウェテナンゴ県 けん に分布 ぶんぷ し、隣接 りんせつ するメキシコのチアパス州 しゅう でも話 はな される。グアテマラではキチェ語 ご とケクチ語 ご についで話者 わしゃ 人口 じんこう が多 おお く、約 やく 52万 まん 人 にん (2001年 ねん )[ 25] 。
ツトゥヒル語 ご は約 やく 4万 まん 7千 せん 人 にん (2001年 ねん )[ 26] がアティトラン湖 こ 付近 ふきん で話 はな されている。
ウスパンテコ語 ご はエル・キチェ県 けん のウスパンタン地方 ちほう 固有 こゆう の言語 げんご であるが、特 とく にノーベル平和 へいわ 賞 しょう を受賞 じゅしょう したリゴベルタ・メンチュウ の母語 ぼご として知 し られる[要 よう 出典 しゅってん ] 。
アチ語 ご はメキシコ・バハ・ベラパス県 けん の一部 いちぶ で使 つか われている。かつてキチェ語 ご の方言 ほうげん とみなされていたが、SIL の『エスノローグ 』(2005年 ねん 、Raymond G. Gordon, Jr.編 へん )で別 べつ の言語 げんご とされ、グアテマラも公式 こうしき に別 べつ の言語 げんご として認 みと めている。しかし現在 げんざい も言語 げんご 学者 がくしゃ の多 おお くはキチェ語 ご の方言 ほうげん と見 み なしている[ 11] [ 27] [ 28] 。
キチェ語 ご とアチ語 ご に近 ちか い他 ほか の2つの言語 げんご に、シパカペンセ語 ご (サン・マルコス県 けん シパカパ (英語 えいご 版 ばん ) )、サカプルテコ語 ご (キチェ県 けん サカプラス (英語 えいご 版 ばん ) の一部 いちぶ )があるが、いずれも使 つか われる範囲 はんい がごく狭 せま い。
ポコム語 ご 群 ぐん のポコムチ語 ご はアルタ・ベラパス県 けん 南部 なんぶ と、隣接 りんせつ するバハ・ベラパス県 けん のプルラ (英語 えいご 版 ばん ) で使 つか われている。近 ちか い関係 かんけい にあるポコマム語 ご の話 はな される地域 ちいき はグアテマラ東部 とうぶ に散在 さんざい し、かつてはエルサルバドルでも話 はな されていた。
ワステコ語 ご はメキシコのベラクルス州 しゅう とサン・ルイス・ポトシ州 しゅう で11万 まん 人 にん ほど(1990)が話 はな している。早 はや い時期 じき に南部 なんぶ 諸語 しょご から分 わか れたとされ、現在 げんざい はマヤ語族 ごぞく で最 もっと もかけ離 はな れた言語 げんご である。
メキシコのチアパス州 しゅう のグアテマラ国境 こっきょう 近 ちか くで話 はな されていたチコムセルテコ語 ご はワステコ語 ご に近 ちか い言語 げんご であるが、1982年 ねん までに絶滅 ぜつめつ した。明 あき らかに近 ちか い関係 かんけい にある言語 げんご がこれほど離 はな れた場所 ばしょ に存在 そんざい していた理由 りゆう は現在 げんざい も謎 なぞ として残 のこ っている[ 29] 。
マヤ祖語 そご には以下 いか の音 おと があったと考 かんが えられている。
母音 ぼいん には a, e, i, o, u の5つがあり、短 たん 母音 ぼいん (V)、長 ちょう 母音 ぼいん (Vː)の対立 たいりつ があった[ 30] 。
現代 げんだい でも一部 いちぶ の言語 げんご は長 ちょう 母音 ぼいん と短 たん 母音 ぼいん を区別 くべつ する。チョル語 ご 、ラカンドン語 ご などは6母音 ぼいん の組織 そしき を持 も つ[ 31] 。ユカテコ語 ご やウスパンテコ語 ご など一部 いちぶ の言語 げんご には声調 せいちょう が発達 はったつ している。
マヤ祖語 そご の子音 しいん は次 つぎ の通 とお りである[ 32] [ 33] 。
マヤ語族 ごぞく の特徴 とくちょう として破裂 はれつ 音 おん ・破 やぶ 擦 ず 音 おと ・摩擦音 まさつおん が基本 きほん 的 てき に無声音 むせいおん のみであり、その一方 いっぽう で破裂 はれつ 音 おん ・破 やぶ 擦 ず 音 おと には通常 つうじょう の子音 しいん と喉頭 こうとう 化 か 子音 しいん (放出 ほうしゅつ 音 おん )の対立 たいりつ があることがあげられる。唯一 ゆいいつ の有声音 ゆうせいおん として入 にゅう 破 やぶ 音 おと の bʼ [ɓ] がある。チョル・ツェルタル語 ご 群 ぐん とユカテコ語 ご 群 ぐん 、およびポコマム語 ご ・ポコムチ語 ご では両 りょう 唇音 しんおん に pʼ が加 くわ わって p pʼ bʼ の3項 こう 対立 たいりつ になっている[ 34] 。
マヤ祖語 そご の *ty, *tyʼ は現存 げんそん するマヤ諸 しょ 言語 げんご における歯茎 はぐき 音 おん および後部 こうぶ 歯茎 はぐき 音 おん の対応 たいおう 関係 かんけい を説明 せつめい するために立 た てられたもので、どのような音 おと だったかは明 あき らかでない[ 35] 。マム語 ご 群 ぐん ではマヤ祖語 そご の*ch, *chʼ がそり舌 した 音 おん に変化 へんか し、*tがchに、*rがtに推移 すいい した[ 36] 。ワステコ語 ご では歯 は 間 あいだ 摩擦音 まさつおん /θ しーた / や、円 えん 唇 くちびる 化 か した軟口蓋 なんこうがい 音 おん /kʷ kʷʼ/ が発達 はったつ している[ 31] 。
声門 せいもん 音 おん /ʔ h/ は通常 つうじょう の子音 しいん として使 つか われるほかに、母音 ぼいん の特徴 とくちょう としてふるまうこともある[ 37] 。マヤ語 ご の語根 ごこん は典型 てんけい 的 てき にはCVC型 がた の単音 たんおん 節 ぶし からなるが[ 38] 、カウフマンによると音節 おんせつ の形 かたち には CVC, CVːC, CVʔC, CVhC, CVSC(Sは摩擦音 まさつおん /s ʃ x/ )があった[ 33] [ 39] 。
マヤ語族 ごぞく は膠着 こうちゃく 語 ご であり、豊富 ほうふ な接辞 せつじ によって主語 しゅご と目的 もくてき 語 ご の人称 にんしょう と数 かず 、相 そう 、動詞 どうし の種類 しゅるい (自動詞 じどうし /他動詞 たどうし 、独立 どくりつ /依存 いぞん )、その他 た の機能 きのう が表 あらわ される。屈折 くっせつ 接辞 せつじ には接頭 せっとう 辞 じ と接尾 せつび 辞 じ があり、派生 はせい 接辞 せつじ はすべて接尾 せつび 辞 じ である[ 40] 。声門 せいもん 音 おん /ʔ h/ は接 せっ 中 ちゅう 辞 じ として使 つか われることがある[ 41] 。いくつかの言語 げんご では語源 ごげん 的 てき に動詞 どうし に由来 ゆらい する動作 どうさ の方向 ほうこう を表 あらわ す接辞 せつじ (directional)が加 くわ えられることがある[ 41] 。
マヤ語族 ごぞく の形態素 けいたいそ の大 だい 部分 ぶぶん は単音 たんおん 節 ぶし である[ 32] 。とくに動詞 どうし 語根 ごこん は主 おも にCVCの形 かたち を持 も ち、他動詞 たどうし と位置 いち 動詞 どうし の語根 ごこん はすべてCVCである。語幹 ごかん は語根 ごこん そのままか、語根 ごこん に派生 はせい 接辞 せつじ を加 くわ えることによって作 つく られる。語幹 ごかん にはさらに屈折 くっせつ 接辞 せつじ が加 くわ えられる[ 42] 。
マヤ語族 ごぞく は主要 しゅよう 部 ぶ 標示 ひょうじ (head-marking)言語 げんご である。たとえば日本語 にほんご では所有 しょゆう 構文 こうぶん 「男 おとこ の犬 いぬ 」において、従属 じゅうぞく 部 ぶ である「男 おとこ の」の方 ほう に格 かく 標示 ひょうじ 「の」が加 くわ えられるが、キチェ語 ご u-tzʼiʼ le achij 「その男 おとこ の犬 いぬ 」では、主要 しゅよう 部 ぶ であるtzʼiʼ 「犬 いぬ 」の方 ほう に三人称 さんにんしょう 単数 たんすう (A型 がた )の接頭 せっとう 辞 じ u- がつく。従属 じゅうぞく 部 ぶ の名詞 めいし はその後 うし ろに置 お かれる[ 40] 。直訳 ちょくやく すると「彼 かれ の-犬 いぬ その男 おとこ 」となる。ただし単 たん 音節 おんせつ の形容詞 けいようし が名詞 めいし を修飾 しゅうしょく する場合 ばあい のみ従属 じゅうぞく 語 ご に接尾 せつび 辞 じ が加 くわ えられる[ 43] 。
場所 ばしょ を表 あらわ す人体 じんたい 語 ご に由来 ゆらい する語 かたり (日本語 にほんご でいえば「入口 いりくち 」「出口 でぐち 」「川口 かわぐち 」の「口 くち 」のようなもの)が多 おお くあり、これを関係 かんけい 名詞 めいし と称 しょう する。マヤ語族 ごぞく の前置詞 ぜんちし は種類 しゅるい が少 すく ないが、関係 かんけい 名詞 めいし にA型 がた の人称 にんしょう 接辞 せつじ を加 くわ えることで位置 いち 関係 かんけい を表 あらわ すことができる[ 40] 。例 たと えば カクチケル語 ご のchi rupam 「中 なか 」は「口 くち -腹 はら 」という意味 いみ 、ツォツィル語 ご のtiʼ na 「扉 とびら 」は「家 いえ -口 くち 」の意味 いみ 、古典 こてん キチェ語 ご のu-wach ulew 「地面 じめん に」は「その顔 かお -大地 だいち 」の意味 いみ である。
マヤ語族 ごぞく は典型 てんけい 的 てき な能 のう 格言 かくげん 語 ご である。動詞 どうし につく人称 にんしょう 接辞 せつじ にはA型 がた とB型 がた の2種類 しゅるい があるが、前者 ぜんしゃ が能 のう 格 かく 、後者 こうしゃ が絶対 ぜったい 格 かく を表 あらわ す[ 44] 。多 おお くの言語 げんご では分裂 ぶんれつ 能 のう 格 かく の現象 げんしょう が見 み られる。低地 ていち マヤおよび低地 ていち と接触 せっしょく のあった言語 げんご においては相 そう によって分裂 ぶんれつ し、不完全 ふかんぜん 相 しょう では自動詞 じどうし の主語 しゅご がA型 がた の人称 にんしょう 接辞 せつじ を取 と る。マム語 ご 群 ぐん とカンホバル語 ご 群 ぐん では従属 じゅうぞく 節 ぶし において分裂 ぶんれつ する。ポコム語 ご 群 ぐん 以外 いがい のキチェ語 ご 群 ぐん とツェルタル語 ご 群 ぐん においては分裂 ぶんれつ 能 のう 格 かく 性 せい は見 み られない。なお動詞 どうし 以外 いがい ではA型 がた の人称 にんしょう 接辞 せつじ が所有 しょゆう 表現 ひょうげん に使 つか われ、B型 がた の人称 にんしょう 接辞 せつじ が非 ひ 動詞 どうし 述語 じゅつご 文 ぶん の主語 しゅご を表 あらわ すために使用 しよう される[ 41] 。
マヤ語族 ごぞく は接辞 せつじ によって不完全 ふかんぜん 相 しょう と完全 かんぜん 相 しょう の別 べつ を標示 ひょうじ するが、時制 じせい は存在 そんざい せず、時間 じかん は副詞 ふくし によって表現 ひょうげん される[ 45] 。
マヤ語族 ごぞく は態 たい が発達 はったつ しており、1つかそれ以上 いじょう の逆 ぎゃく 受動態 じゅどうたい と、通常 つうじょう 複数 ふくすう の受動態 じゅどうたい がある。言語 げんご によっては使役 しえき 態 たい を持 も つ[ 46] [ 47] 。
位置 いち 動詞 どうし (positional)と呼 よ ばれる自動詞 じどうし に似 に た一群 いちぐん の語 かたり が発達 はったつ しており[ 48] 、どのような所 ところ にどのように位置 いち しているかを表 あらわ す。位置 いち 動詞 どうし には言語 げんご によって特定 とくてい の接尾 せつび 辞 じ が加 くわ えられる。位置 いち 動詞 どうし は相 そう の接辞 せつじ を加 くわ えることができない点 てん で通常 つうじょう の動詞 どうし と異 こと なり、また言語 げんご によってはそのまま形容詞 けいようし のように名詞 めいし を修飾 しゅうしょく できる[ 49] 。
マヤ語族 ごぞく の多 おお くの言語 げんご には数 すう 分類 ぶんるい 詞 し (助数詞 じょすうし )があり、数詞 すうし -数 かず 分類 ぶんるい 詞 し -名詞 めいし の構文 こうぶん が使用 しよう される[ 50] 。たとえばツォツィル語 ご でkot は動物 どうぶつ を数 かぞ える数 すう 分類 ぶんるい 詞 し で、ox-kot tzʼiʼ で「3-匹 ひき 犬 いぬ 」を意味 いみ する。数 かず 分類 ぶんるい 詞 し は形状 けいじょう を示 しめ すことが多 おお く、位置 いち 動詞 どうし に接 せっ 中 ちゅう 辞 じ のhを加 くわ えることで作 つく られる[ 51] 。ただしマム語 ご やワステコ語 ご は数 すう 分類 ぶんるい 詞 し を持 も たず、数詞 すうし が直接 ちょくせつ 名詞 めいし を修飾 しゅうしょく する[ 51] 。
マヤ語族 ごぞく には感情 かんじょう 語 ご (affectまたはexpressive)と呼 よ ばれる語根 ごこん があり、音 おと を象徴 しょうちょう 的 てき に表 あらわ す。日本語 にほんご の擬態語 ぎたいご に近 ちか い[ 52] 。
マヤ語族 ごぞく は主要 しゅよう 部 ぶ 先導 せんどう 型 がた (head-initial)言語 げんご である。後 ご 置 おけ 詞 し ではなく前置詞 ぜんちし を持 も ち、所有 しょゆう 表現 ひょうげん では所有 しょゆう 者 しゃ が被 ひ 所有 しょゆう 者 しゃ に後 こう 置 おけ される[ 45] 。
語順 ごじゅん は言語 げんご によって異 こと なる。VOS型 がた が多 おお いが、VSO型 がた (マム語 ご など)、SVO型 がた (チョルティ語 ご など)もある。柔軟 じゅうなん にVOSとVSOの両方 りょうほう の構文 こうぶん をもつ言語 げんご もある[ 53] 。古典 こてん マヤ語 ご はVOS型 がた だった。マヤ祖語 そご の語順 ごじゅん は、主語 しゅご が目的 もくてき 語 ご より有生 ゆうせい 性 せい が高 たか い場合 ばあい にはVOS型 がた 、そうでない場合 ばあい にはVSO型 がた を取 と ったと推定 すいてい されている[ 54] [ 55] 。実際 じっさい には文頭 ぶんとう に主題 しゅだい 、動詞 どうし の前 まえ には焦点 しょうてん が置 お かれ得 え る[ 45] 。
マヤ地域 ちいき ではサン・バルトロ から紀元前 きげんぜん 300年 ねん ごろの壁画 へきが にすでに文字 もじ が記 しる されている[ 56] 。確実 かくじつ な年代 ねんだい のわかるマヤ文字 もじ の資料 しりょう は292年 ねん の紀年 きねん のあるティカル 石碑 せきひ 29であり、スペイン人 じん によって征服 せいふく された16世紀 せいき まで使用 しよう された。マヤ文字 もじ の解読 かいどく には長 なが い時間 じかん を要 よう したが、1950年代 ねんだい にユーリー・クノロゾフ によって表 ひょう 語 ご 文字 もじ と音節 おんせつ 文字 もじ の組 く み合 あ わせであることが明 あき らかにされ、1980年代 ねんだい 以降 いこう に急速 きゅうそく に解読 かいどく が進 すす んだ[ 57] 。マヤ文字 もじ で表 あらわ されている言語 げんご を古典 こてん マヤ語 ご と称 しょう し、チョル語 ご 群 ぐん 、とくに東部 とうぶ のチョルティ語 ご に近 ちか いとされる。興味深 きょうみぶか いことに、現在 げんざい のユカテコ語 ご 地域 ちいき であるユカタン半島 はんとう 北部 ほくぶ で書 か かれたものも同 おな じ言語 げんご で書 か かれている[ 58] 。
スペイン人 じん による植民 しょくみん 地 ち 支配 しはい 以降 いこう 、宣教師 せんきょうし によるラテン文字 もじ を使 つか った表記 ひょうき が発達 はったつ した。『ポポル・ヴフ 』、『カクチケル年代 ねんだい 記 き 』、『チラム・バラムの書 しょ 』などの文献 ぶんけん はいずれもラテン文字 もじ で記 しる されている。ラテン文字 もじ による表記 ひょうき にはさまざまな方式 ほうしき があり、たとえばユカタン半島 はんとう の宣教師 せんきょうし は軟口蓋 なんこうがい 破裂 はれつ 音 おん k kʼ を c k で書 か き分 わ け、歯茎 はぐき 破 やぶ 擦 ず 音 おと の放出 ほうしゅつ 音 おん tzʼ を ts または dz と書 か いた[ 59] 。グアテマラ・マヤ言語 げんご アカデミー (ALMG)によって1987年 ねん にマヤ語族 ごぞく のすべての言語 げんご で共通 きょうつう の正書法 せいしょほう が定 さだ められた。ただし方言 ほうげん 固有 こゆう の音 おと の表記 ひょうき 法 ほう までは定 さだ められていない[ 60] 。メキシコでは国立 こくりつ 先住民 せんじゅうみん 言語 げんご 研究所 けんきゅうじょ (INALI)のつづりが使用 しよう される。
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