ミヘ・ソケ語族ごぞく

ミヘ・ソケ語族ごぞく
話はなされる地域ちいき	メソアメリカ: メキシコのオアハカ州しゅう、チアパス州しゅう、タバスコ州しゅう、ベラクルス州しゅう
言語げんご系統けいとう	トトソケ語族ごぞく?
祖語そご	ミヘ・ソケ祖語そご
下位かい言語げんご	ミヘ ソケ
Glottolog	mixe1284
ミヘ・ソケ語族ごぞくが話はなされる地域ちいき。赤あかがミヘ、緑みどりがソケ

ミヘ・ソケ語族ごぞく（ミヘ・ソケごぞく、Mixe–Zoque、Mije–Soke）は、メキシコのテワンテペク地峡ちきょうとその周辺しゅうへんで現在げんざい話はなされている言語げんごからなる語族ごぞく。メキシコ政府せいふは3つのミヘ・ソケ語族ごぞくの言語げんごを公式こうしきに認みとめている。ミヘ語ごまたはAyook語ごは188,000人にんの話者わしゃが、ソケ語ごまたはO'de püt語ごは88,000人にんの話者わしゃが、ポポルカ族ぞくの言語げんご（一部いちぶがミヘ語ご、一部いちぶがソケ語ごに属ぞくする）は69,000人にんの話者わしゃがあるとする。しかしながら、各かくグループの内部ないぶ分岐ぶんきが甚はなはだしく、このためにエスノローグは17の異ことなる言語げんごに分わけ、ヴィクマン(1995)による現在げんざいのミヘ・ソケ語族ごぞくの分類ぶんるいは12の言語げんごと11の方言ほうげんを数かぞえる。ミヘ・ソケ語族ごぞくに属ぞくする消滅しょうめつした言語げんごには、チアパス州しゅう南東なんとう沿岸えんがんでかつて話はなされていたタパチュルテク語ごがある。

歴史れきし

ミヘ・ソケ語族ごぞくは歴史れきし的てきには現在げんざいよりもずっと広ひろい地域ちいきに分布ぶんぷし、グアテマラ太平洋たいへいよう岸がん（すなわちソコヌスコ地域ちいき）に達たっしていたと考かんがえられる。テレンス・カウフマンとライル・キャンベルは、他たのメソアメリカの言語げんごに広ひろく見みられる多数たすうの借用しゃくよう語ごにもとづいて、メソアメリカ最初さいしょの支配しはい的てきな文化ぶんかと一般いっぱん的てきに考かんがえられているオルメカ文明ぶんめいの人々ひとびとはおそらくミヘ・ソケ語族ごぞくの言語げんごを話はなしていたと論ろんじた。カウフマンとジョン・ジャステソンはまた、ラ・モハラ石碑せきひ1号ごうに見みられるラ・モハラの文字もじ（彼かれらおよび一部いちぶの他ほかの人々ひとびとは「エピ・オルメカ文字もじ」と称しょうする）で書かかれたテクストの主要しゅよう部分ぶぶんを、それが古代こだいのミヘ・ソケ語族ごぞくの言語げんごを表あらわしているものとして解読かいどくしたと主張しゅちょうした。

これらの主張しゅちょうはどちらも批判ひはんがなされている。マイケル・D・コウとデイヴィッド・ステュアートは現在げんざい知しられているラ・モハラの文字もじの実例じつれいが少すくなすぎて、いかなる解読かいどくも充分じゅうぶん確実かくじつに行おこなうことができないと論ろんじた。彼かれらはカウフマンとジャステソンの解読かいどくを他たの資料しりょうに適用てきようしようとしたが、意味いみのある解読かいどく結果けっかを得えることができなかった。借用しゃくよう語ごについては、ヴィクマン(1995)によれば他たのメソアメリカの言語げんごに借用しゃくようされた語かたりはミヘ語ごでなくソケ語ごのみであり、このことは借用しゃくよう時期じきがオルメカ文明ぶんめいがもっとも栄さかえたミヘ・ソケ祖語そごの時代じだいよりずっと遅おそいということを示しめすと批判ひはんしている。ただし、ミヘ・ソケ祖語そごの分岐ぶんきの時代じだいは後のちに改あらためられて、より早はやい時期じきに起おきたとされたため、この批判ひはんの論拠ろんきょは以前いぜんより弱よわくなった。

後のちにカウフマン(2001)は再ふたたびミヘ・ソケ語族ごぞくから他たのメソアメリカの言語げんごへの借用しゃくようにもとづき、テオティワカンでミヘ・ソケ語族ごぞくの言語げんごが使つかわれていたことを論ろんじた。カウフマンは、メソアメリカ言語げんご圏けんを定義ていぎするのに使つかわれる主要しゅような共通きょうつう点てんとなる言語げんご的てき特徴とくちょうの多おおくが伝播でんぱするのにミヘ・ソケ語族ごぞくが重要じゅうような役割やくわりを果はたしたと考かんがえた。

ミヘ・ソケ語族ごぞくは他たの語族ごぞくと関係かんけいがあるとは考かんがえられていないが、20世紀せいきはじめにエドワード・サピアはペヌーティ語族ごぞくの中なかにミヘ・ソケ語族ごぞくを含ふくめた。最近さいきんはトトナカ語族ごぞくとともにトトソケ語族ごぞくをなすという提案ていあんがなされている。

分類ぶんるい

ヴィクマン(1995)

以下いかのミヘ・ソケ語族ごぞくの内部ないぶ分類ぶんるいはセーレン・ヴィクマン(1995)による。

カウフマンとジャステソン (2000)

以下いかのミヘ・ソケ語族ごぞくの内部ないぶ分類ぶんるいはカウフマン&ジャステソン(2000)により、サバラ(2000)が引用いんようしている。個別こべつ言語げんごは太字ふとじで示しめす。

ミヘ・ソケ語族ごぞく

• ミヘ
  • タパチュルテク語ご
  • オルテク語ご
  • ミヘ語ご本体ほんたい
    • サユルテク語ご
    • （分岐ぶんき）
      • 低地ていちミヘ語ご
      • 高地たかちミヘ語ご
• ソケ
  • 湾岸わんがんソケ語ご
    • ソテパン・ソケ語ご(Sierra Popoluca)
    • （分岐ぶんき）
      • テシステペク・ソケ語ご
      • アヤパネク・ソケ語ご
  • ソケ
    • チアパス・ソケ語ご
    • オアハカ・ソケ語ご

音韻おんいん

ヴィクマン(1995)によって再さい構されたミヘ・ソケ祖語そごの音素おんそは比較的ひかくてき単純たんじゅんであるが、現代げんだいの言語げんごの多おおくは二に次じ的てき発展はってんを経へており、非常ひじょうに豊富ほうふな母音ぼいんを持もつものや、閉鎖へいさ音おんに硬かた音おとと軟音の対立たいりつを持もつものがある。側面そくめん音おん /l/ を含ふくむ単語たんごを少数しょうすう持もつ言語げんごもあるが、おそらく擬声語ぎせいごに由来ゆらいする。

	前ぜん舌した	中ちゅう舌した	奥おく舌した
狭せま母音ぼいん	[*i] [*iː]	[*ɨ] [*ɨː]	[*u] [*uː]
中央ちゅうおう母音ぼいん	[*e] [*eː]		[*o] [*oː]
広こう母音ぼいん		[*a] [*aː]

[*ɨ] [*ɨː] は [*ə] [*əː] とも再さい構された。

	両りょう唇音しんおん	歯茎はぐき音おん	歯茎はぐき硬かた口蓋こうがい音おん	軟口蓋なんこうがい音おん	声門せいもん音おん
破裂はれつ音おん	[*p]	[*t]	[*t͡s]	[*k]	[*ʔ]
摩擦音まさつおん		[*s]			[*h]
鼻音びおん	[*m]	[*n]
接近せっきん音おん	[*w]		[*j]

音節おんせつ

ミヘ・ソケ語族ごぞくは、祖語そごの母音ぼいんと声門せいもん閉鎖へいさ音おんや /h/ の組くみ合あわせによる複雑ふくざつな音節おんせつ核かくによって特徴とくちょうづけられる。複雑ふくざつな音節おんせつ末まつ子音しいん連結れんけつもまた娘むすめ言語げんごに典型てんけい的てきに見みられることから、祖語そごにも再さい構することができる。

ミヘ・ソケ祖語そごの音節おんせつ核かくは以下いかのいずれかである：

V - 短たん母音ぼいん

V' - 短たん母音ぼいんと声門せいもん閉鎖へいさ

VV - 長ちょう母音ぼいん

V'V - 長ちょう母音ぼいんの途中とちゅうに声門せいもん閉鎖へいさ

VV' - 長ちょう母音ぼいんの後のちに声門せいもん閉鎖へいさ

Vh - 短たん母音ぼいんとh

文法ぶんぽう的てき特徴とくちょう

ミヘ・ソケ語族ごぞくは主要しゅよう部ぶ標示ひょうじ言語げんごで、複ふく統合とうごう語ごに属ぞくする。形態けいたい論ろん的てきに動詞どうしは複雑ふくざつで、名詞めいしは単純たんじゅんになっている。文法ぶんぽう的てき主語しゅごと目的もくてき語ごはともに動詞どうしで標示ひょうじされる。能のう格かく型かたアラインメントが使つかわれ、有生ゆうせい性せいと主題しゅだい性せいによって順行じゅんこう・逆行ぎゃっこうが変化へんかする。ミヘ・ソケ語族ごぞくの動詞どうしでは、独立どくりつ節ぶしと従属じゅうぞく節ぶしの2種類しゅるいの基本きほん的てきな節ふしの種類しゅるいによって形態けいたい的てきな区別くべつがなされ、節ふしの種類しゅるいによって異ことなるアスペクト・人称にんしょう接辞せつじを取とる。アスペクト標示ひょうじには、従属じゅうぞく節ぶしで使つかわれるものと独立どくりつ節ぶしで使つかわれるものの2種類しゅるいがあり、不ふ完了かんりょう、完了かんりょう、非ひ現実げんじつの3種類しゅるいのアスペクトが区別くべつされる。

エスノローグの分類ぶんるいとSILのISOコード

エスノローグはヴィクマン以前いぜんの分類ぶんるいを使用しようしており、ウィリアム・ワンダリーによる相互そうご理解りかい可能かのう性せいと比較ひかく言語げんご学がく的てき調査ちょうさを基礎きそとしている。この分類ぶんるいを歴史れきし言語げんご学者がくしゃは採用さいようしておらず、ライル・キャンベルの1997年ねんの権威けんいある発表はっぴょうはヴィクマンの分類ぶんるいを使用しようしている。

1. ミヘ語ご派は - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 90,000
   • 東部とうぶミヘ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 72,000

   方言ほうげん：Coatlán (mco), Istmo (mir), Quetzaltepec (pxm), Juquila (mxq), Mazatlán (mzl)

   • ベラクルス・ミヘ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 4,000

   方言ほうげん： Oluta (plo)（ほぼ消滅しょうめつ、話者わしゃ数すう100）, Sayula (pos)

   • 西部せいぶミヘ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 10,000

   方言ほうげん： Totontepec (mto), Tlahuitoltepec (mxp)

2. ソケ語ご派は - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 60,000
   • チアパス・ソケ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 22,000

   方言ほうげん： Copainalá (zoc), Rayón (zor), Francisco León (zos)

   • オアハカ・ソケ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 4,500

   方言ほうげん： Chimalapa (zoh)

   • ベラクルス・ソケ語ご - 推定すいてい母語ぼご話者わしゃ数すう 30,000

   方言ほうげん： Highland (poi), Texistepec (poq)（ほぼ消滅しょうめつ、話者わしゃ数すう450）, Tabasco (zoq)（ほぼ消滅しょうめつ、話者わしゃ数すう40）

参考さんこう文献ぶんけん

• Campbell, L., and T. Kaufman (1976), "A Linguistic Look at the Olmecs", American Antiquity, 41 pp. 80–89.
• Justeson, John S., and Kaufman, Terrence, (1997),"A Newly Discovered Column in the Hieroglyphic Text on La Mojarra Stela 1: a Test of the Epi-Olmec Decipherment", Science, 07/11/97, Vol. 277 Issue 5323, p. 207.
• Justeson, John S., and Kaufman, Terrence (2001) Epi-Olmec Hieroglyphic Writing and Texts.
• Kaufman, Terrence, (2001) Nawa linguistic prehistory, published at website of the Mesoamerican Language Documentation Project
• Wichmann, Søren (1995). The Relationship Among the Mixe–Zoquean Languages of Mexico. Salt Lake City: University of Utah Press. ISBN 0-87480-487-6 
• Wichmann, Søren (1998). “A conservative look at diffusion involving Mixe–Zoquean languages”. In Roger Blench and Matthew Spriggs (eds.). Archaeology and Language, vol. II: Correlating archaeological and linguistic hypotheses. One World Archaeology series, no. 29. London and New York: Routledge. ISBN 0-415-11761-5. OCLC 35673530 
• Brigham Young University press release（ブリガム・ヤング大学だいがくの考古こうこ学者がくしゃスティーブン・ハウストンとイェール大学だいがく名誉めいよ教授きょうじゅマイケル・D・コウによるジャステソン&カウフマン批判ひはん）

外部がいぶリンク

• Mixe–Zoque language family, Native Languages of the Americas, http://www.native-languages.org/fammix.htm