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バスク

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
バスク
Euskara
発音はつおん IPA: [ews̺kaɾa]
はなされるくに スペインの旗 スペイン
フランスの旗 フランスなど
地域ちいき バスク地方ちほう
民族みんぞく バスクじん
話者わしゃすう 66まん5800にん
言語げんご系統けいとう
標準ひょうじゅん
方言ほうげん
表記ひょうき体系たいけい ラテン文字もじバスクアルファベット
公的こうてき地位ちい
公用こうよう バスク州の旗 バスクしゅう
ナバラ州の旗 ナバラしゅう一部いちぶ
統制とうせい機関きかん スペインの旗 エウスカルツァインディア
言語げんごコード
ISO 639-1 eu
ISO 639-2 baq (B)
eus (T)
ISO 639-3 eus
消滅しょうめつ危険きけん評価ひょうか
Vulnerable (Moseley 2010)
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バスク(バスクご、euskara)は、スペインフランスにまたがるバスク地方ちほう中心ちゅうしん分布ぶんぷする孤立こりつした言語げんごで、おもにバスクじんによってはなされている。スペインのバスクしゅう全域ぜんいきナバラしゅう一部いちぶではスペインとともに公用こうようとされている。2006ねん現在げんざいやく66まん5800にん話者わしゃがバスク地方ちほう居住きょじゅうし、すべてスペインまたはフランス語ふらんすごとのバイリンガルである[1]

特徴とくちょう

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文章ぶんしょう一般いっぱんラテン文字もじ表記ひょうきされる。音韻おんいんろんてき特徴とくちょうとしては舌端ぜったんおん舌尖ぜっせんおん区別くべつがあり、文法ぶんぽうてき特徴とくちょうとしてはのうかく絶対ぜったいかく使用しようするかく体系たいけいであることがげられる(のう格言かくげん)。語彙ごいにはラテン語らてんごスペイン起源きげんのものがおおられる。

言語げんごめい

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「バスク」の英語えいごあるいはフランス語ふらんすごbasque音訳おんやくであり、もともとはマ帝国まていこく現在げんざいのスペインナバラしゅうアラゴンしゅうにいたヴァスコンじん (Vascones) の由来ゆらいする。ヴァスコンじんとバスク話者わしゃ完全かんぜんには一致いっちしていなかったとかんがえられているが、中世ちゅうせいには Vascones という名称めいしょうはバスクはな人々ひとびとすために使つかわれるようになった。スペインにおける伝統でんとうてき呼称こしょう vascuence も「ヴァスコンじんの」を意味いみするラテン語らてんごvasconice由来ゆらいする。

バスクでは euskara といい、方言ほうげんてき変異へんいとして euskera, eskuara, üskara, auskera などがある。このかたり対比たいひさせてもちいられるかたりerdara(あるいは erdera )というものがある。「外国がいこく」という意味いみで、かつてはとくにスペインまたはフランス語ふらんすごしてもちいられたものだが、これは語源ごげんてきerdi半分はんぶん」と era「やりかた」にけられ、「舌足したたらずなはなかた不完全ふかんぜん言葉ことば」という意味いみであったとかんがえられている。euskaraeusk-ほう意味いみははっきりしていないが、マ帝国まていこく時代じだいアキテーヌにいたアウスキじん:Ausci)に由来ゆらいするというせつや、「はなす」という意味いみ動詞どうし再建さいけんがた *enau(t)s-関係かんけいするというせつがある。

方言ほうげん標準ひょうじゅんバスク

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バスク方言ほうげん
  ビスカヤ方言ほうげん
  ギプスコア方言ほうげん
  こうナファロア方言ほうげん
  ていナファロア方言ほうげん
  ラプルディ方言ほうげん
  スベロア方言ほうげん
  エロンカリ方言ほうげん
いろうすくなっているところは19世紀せいき使用しよういき
コルド・スアソによる現代げんだいバスクしょ方言ほうげん分類ぶんるい
  西部せいぶ方言ほうげん
  中央ちゅうおう方言ほうげん
  ナファロア方言ほうげん
  ナファロア=ラプルディ方言ほうげん
  スベロア方言ほうげん
  19世紀せいきのバスク使用しよういき

方言ほうげん音韻おんいん形態けいたい語彙ごい地域ちいきてき変異へんい比較的ひかくてきおおきく「むらごとにことなる」ともいわれる[2]伝統でんとうてきにはむっつからここのつに分類ぶんるいされてきた。

1998ねんにはバスク学者がくしゃコルド・スアソによってさい分類ぶんるいされた。かれはいくつかの方言ほうげん呼称こしょうあらためたほか、ていナファロア方言ほうげんとラプルディ方言ほうげんひとつのグループにまとめ、エロンカリ方言ほうげんと†サライツ方言ほうげん死語しご)を東部とうぶナファロア方言ほうげんとして区別くべつした。かれ分類ぶんるいによれば現在げんざいはなされている方言ほうげんは5方言ほうげんけられる。

ビスカヤ方言ほうげん
ビスカヤけんなか東部とうぶアラバけん北部ほくぶギプスコアけん南西なんせいはなされている。スアソは西部せいぶ方言ほうげんび、4変種へんしゅ区別くべつしている。
ギプスコア方言ほうげん
ギプスコアけんナバラしゅうバサブルア周辺しゅうへんはなされている。スアソは中央ちゅうおう方言ほうげんび、4変種へんしゅ区別くべつしている。
こうナファロア方言ほうげん
ナバラしゅう中北なかきたどうしゅうサカナ周辺しゅうへんはなされている。スアソはナファロア方言ほうげんび、7変種へんしゅ区別くべつしている。
ていナファロア方言ほうげん
バス=ナヴァールはなされている。スアソはラプルディ方言ほうげんとともにナファロア=ラプルディ方言ほうげんんで5変種へんしゅ区別くべつしている。そのうちふたつがていナファロア方言ほうげん該当がいとうする。アミクセ方言ほうげんガスコーニュつよ影響えいきょうけており[3]、マルコム・ロス(Malcolm Ross)がメタティピーれいとしてりあげている[4]
ラプルディ方言ほうげん
ラブールはなされている。スアソのナファロア=ラプルディ方言ほうげんのうち3変種へんしゅがこれに該当がいとうする。
スベロア方言ほうげん
スールはなされている。ベアルン影響えいきょうけている。

標準ひょうじゅんバスク

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20世紀せいきになってバスクアカデミーによって標準ひょうじゅんとして制定せいていされた標準ひょうじゅんバスク(Standard Basque)が、ひろ定着ていちゃくしている。

歴史れきし

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イベリア半島はんとう周辺しゅうへん言語げんご分布ぶんぷ変遷へんせん
  バスク

バスク現存げんそんするどの言語げんごとも系統けいとう関係かんけい立証りっしょうされていない孤立こりつした言語げんごであり、西にしヨーロッパで唯一ゆいいつのこったインド=ヨーロッパ語族ごぞく以前いぜん言語げんごさき印欧語いんおうご)である[5]

紀元前きげんぜん58ねんはじまるガリア戦争せんそう以前いぜんから、現在げんざいのフランスアキテーヌ地域ちいきけん南部なんぶ当時とうじのアクイタニア)にはアクイタニアじん英語えいごばんんでいた。かれらのはなしていたアクイタニアはバスク祖先そせんかそのきんえん言語げんごである。どう時代じだいのイベリア半島はんとうはなされていた言語げんごにはバスク祖先そせんたるものは発見はっけんされていないが、ヴァスコンじんなど現在げんざいのバスク地方ちほう南部なんぶんでいた民族みんぞく一部いちぶがアクイタニアはなしていた可能かのうせいがある[6]。アクイタニア南限なんげんについては議論ぎろんがあり、現在げんざいラ・リオハしゅうカラオラあたりとするせつアラゴンしゅう一帯いったいとするせつがある[7]

アクイタニアはおそらくアクイタニアのおおくの地域ちいきはや時期じきはなされなくなったが、南西なんせいでは使つかわれつづけた。ピレネー南部なんぶではバスク地方ちほう全域ぜんいきひろがり、4世紀せいき以降いこうにはラ・リオハやブルゴスけん付近ふきんにまで分布ぶんぷしていたことが当時とうじ地名ちめいから確認かくにんできる[8]

アクイタニアのぞけば、バスク使用しようしめ最古さいこ文献ぶんけん中世ちゅうせい初期しょき碑文ひぶん写本しゃほんである。バスクしゅうビスカヤけんエロリオにあるアルギニェタ墓地ぼち墓石はかいしにはバスク名前なまえきざまれている。この碑文ひぶん883ねんのものとされている。また、ラ・リオハのサン・ミジャン修道院しゅうどういん見付みつかったラテン語らてんご写本しゃほんされた注釈ちゅうしゃくにはバスクもちいられている。これはエミリアヌス注釈ちゅうしゃくばれ、普通ふつう950ねんごろのものとかんがえられている[9]

10世紀せいき以降いこう、バスク人名じんめい地名ちめいしるした文献ぶんけんおおられるようになる。おもに相続そうぞく寄付きふ納税のうぜいなどにかんするラテン語らてんご文書ぶんしょで、初期しょきのものはアラバけん、ラ・リオハ、ブルゴスけん発見はっけんされたものがおおい。また、ギプスコアけんのオジャサバル修道院しゅうどういん遺贈いぞうかんする文書ぶんしょ1055ねんのもので、遺産いさん範囲はんいかんする重要じゅうよう語句ごくがバスクかれている。このような文書ぶんしょはとてもめずらしいものである[10]

系統けいとう

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バスク系統けいとう関係かんけいのあることが幅広はばひろ支持しじされている言語げんごは、消滅しょうめつしたアクイタニアだけである[11]

長期ちょうきにわたって真剣しんけん検討けんとうされた仮説かせつには以下いかのものがあるが、いずれもバスク学者がくしゃ支持しじることはなく、反駁はんばくされている[12]

  1. アフリカの言語げんごとくアフロ・アジア語族ごぞくベルベルなど)と同系どうけいである。
  2. ヨーロッパしょ言語げんご基層きそうがバスクである。
  3. インド=ヨーロッパ語族ごぞくである。
  4. イベリアがバスク祖先そせんである。
  5. コーカサス諸語しょご同系どうけいである。

アフリカの言語げんご

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アフリカの言語げんごのうち、ベルベルなどきたアフリカではなされているものとバスク系統けいとう関係かんけい提案ていあんするせつは19世紀せいき後半こうはんからられる。ガーベレンツ[13]シューハルト[14]はじまり、オーストリアの言語げんご学者がくしゃムカロフスキー[15]同系どうけい確定かくていするこころみをすうてん出版しゅっぱんした。しかし、借用しゃくよう新語しんご存在そんざいしないかたり幼児ようじ擬音ぎおんや、ベルベル一部いちぶでしか使つかわれていないかたり比較ひかくもちいるかれ手法しゅほう批判ひはんされており、この仮説かせつ支持しじしていないバスク学者がくしゃおお[16]:361ff.

ヨーロッパの基層きそう

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バスクをヨーロッパしょ言語げんご基層きそう言語げんご関連かんれんづけるかんがかたはフープシュミート[17]られる。かれ印欧語いんおうごぞく以前いぜんのヨーロッパの言語げんごとしてヨーロッパ=アフリカ語族ごぞくとヒスパニア=コーカサス語族ごぞく想定そうていし、バスクはその名残なごりであるとしたが、内的ないてき再建さいけんによってあきらかになったバスクおと変化へんか整合せいごうしない部分ぶぶんがあり、問題もんだいがある[18]。また近年きんねんではフェネマン[19]がヨーロッパの河川かせんめいもとづいてバスクをヨーロッパしょ言語げんご基層きそう言語げんごとして提案ていあんした。(バスコン基層きそうせつ参照さんしょう。)これもフープシュミートにたいする批判ひはん同様どうよう観点かんてんから退しりぞけるバスク学者がくしゃおおい。

イベリア

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フンボルト

イベリアは、イベリア半島はんとう東部とうぶ南東なんとう中心ちゅうしんとした地域ちいき使つかわれていた言語げんごで、紀元前きげんぜん6世紀せいきからぜん1世紀せいきにかけての金石かねいしあや記録きろくのこっている。そのだい部分ぶぶん独自どくじイベリア文字もじかれており、20世紀せいきなかば、マヌエル・ゴメス=モレノ (Manuel Gómez-Moreno) によってはじめて完全かんぜん解読かいどくされた[16]:378, 380

イベリアとバスク系統けいとう関係かんけい最初さいしょ明確めいかく提案ていあんしたのは、マヌエル・ララメンディ (Manuel Larramendi) である。かれは、1728ねんLa antigüedad y universalidad del Bascuenze en España で、イベリアはバスク祖先そせんであると主張しゅちょうした。この提案ていあんパブロ・ペドロ・アスタルロア (Pablo Pedro Astarloa)、いでヴィルヘルム・フォン・フンボルトがれた(Prüfung der Untersuchungen über die Urbewohner Hispaniens vermittelst der Vaskischen Sprache, 1821ねん[16]:379

この時点じてんでは、イベリア解読かいどくはほとんどすすんでいなかったので、バスクとイベリア系統けいとう関係かんけい具体ぐたいてき検討けんとうされることはなかった。1893ねんエミール・ヒュブナー (Emil Hübner) が既知きちのイベリア文献ぶんけん公刊こうかんしたことで解読かいどくすこしずつすすはじめた。フーゴ・シューハルト1908ねんDie iberische Deklination でイベリアかく変化へんかさい構成こうせいし、バスクかく変化へんか比較ひかくし、対応たいおう関係かんけい見出みいだした。しかし、このシューハルトの主張しゅちょうはいくつかの理由りゆうから否定ひていされている[16]:379f.

20世紀せいき前半ぜんはんにはゲルハルト・ベーア (Gerhard Bähr) がバスクとイベリア系統けいとう関係かんけい支持しじする証拠しょうこはほとんどいという否定ひていてき見解けんかいしめ一方いっぽう、イベリア解読かいどく精力せいりょくてきんだピオ・ベルトラン (Pío Beltrán) はこの仮説かせつ支持しじした。

コーカサス諸語しょご

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イベリア半島はんとうからとおはなれたカフカス山脈さんみゃく付近ふきんカフカス諸語しょごとバスクどう語族ごぞく構成こうせいするというせつがある[20]ふるくコーカサスはギリシャローマじんより「イベリア」とばれており、ここからスペイン移住いじゅうした民族みんぞくバスクじんとなり、イベリア半島はんとう呼称こしょうもそこからているというせつである。

さらにだい規模きぼには、シナ・チベット語族ごぞくブルシャスキーデネ・エニセイ語族ごぞくひとしふくめたデネ・コーカサスだい語族ごぞく仮説かせつ存在そんざいする。

音素おんそ

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母音ぼいん / a i u e o / と、重母音じゅうぼいん / ai ei oi ui au eu /おおくの方言ほうげん存在そんざいする。これらの重母音じゅうぼいんは、音声おんせいじょう母音ぼいん連続れんぞく区別くべつされないが、音韻おんいんじょうつねひとつの音節おんせつとしてう。消滅しょうめつしたエロンカリ方言ほうげんには対応たいおうするいつつのはな母音ぼいんがあった。またスベロア方言ほうげんにはこのほかえんくちびるぜんしたせま母音ぼいん /y/対応たいおうするむっつのはな母音ぼいんがある。はな母音ぼいん重母音じゅうぼいん/ ãu ẽi ãi õi / がエロンカリ方言ほうげんられたが、スベロア方言ほうげんにはい。

無声むせい破裂はれつおん / p t k /すべての方言ほうげんにある。これにくわえて無声むせいかた口蓋こうがい破裂はれつおん [c] が、西部せいぶでは /t/おと東部とうぶでは独立どくりつ音素おんそとして存在そんざいする。北部ほくぶにはゆう無声むせい破裂はれつおん / pʰ tʰ kʰ / もある。

ゆうごえ破裂はれつおん / b d g /すべての方言ほうげんにある。音声おんせいじょう対応たいおうするゆうごえ摩擦音まさつおん接近せっきんおんとなることがおおい。ゆうこえかた口蓋こうがい破裂はれつおん /ɟ/方言ほうげんすこしだけある。鼻音びおん / m n ɲ /すべての方言ほうげんにある。

歴史れきしてきにはすべての方言ほうげんに3種類しゅるい無声むせい摩擦音まさつおん存在そんざいする。無声むせい舌端ぜったん歯茎はぐき摩擦音まさつおん /s̻/無声むせい舌尖ぜっせん歯茎はぐき摩擦音まさつおん /s̺/無声むせい歯茎はぐきかた口蓋こうがい摩擦音まさつおん /ɕ/ である。また、これらに対応たいおうするやぶおと /ts̻ ts̺ tɕ/ もある。フランス方言ほうげんでは /s̺ ts̺/無声むせい舌尖ぜっせん後部こうぶ歯茎はぐきおん [ʃ̺ tʃ̺]発音はつおんされる。/ɕ tɕ/ はしばしば /ʃ tʃ/ ともかれる。西部せいぶでは近年きんねん舌尖ぜっせん舌端ぜったん区別くべつうしなわれている。このほか/f/おおくの方言ほうげんられる。ビスカヤ方言ほうげんにはゆうごえ舌端ぜったん破裂はれつおんが、スベロア方言ほうげんにはゆうごえ舌尖ぜっせん破裂はれつおん存在そんざいする。北部ほくぶには /h/ もある。

ギプスコア方言ほうげんやナファロア方言ほうげんにはつぎのような音素おんそられる[21]

音素おんそ一覧いちらん(ギプスコア方言ほうげん・ナファロア方言ほうげん
子音しいん 唇音しんおん 舌尖ぜっせんおん 舌端ぜったんおん 前部ぜんぶしたおん 後部こうぶしたおん
閉鎖へいさおん p t c k
b d ɟ g
鼻音びおん m n ɲ
摩擦音まさつおん f ʃ x
やぶおと ts̺ ts̻
側面そくめん接近せっきんおん l ʎ
はじきおん ɾ
ふるえおん r
母音ぼいん
i u
e o
a

このほかに、スベロア方言ほうげんにはゆう閉鎖へいさおんゆうごえ摩擦音まさつおん声門せいもん摩擦音まさつおんぜんしたえんくちびる母音ぼいんがある[22]

音素おんそ一覧いちらん(スベロア方言ほうげん
子音しいん 唇音しんおん 舌尖ぜっせんおん 舌端ぜったんおん 前部ぜんぶしたおん 後部こうぶしたおん 声門せいもんおん
閉鎖へいさおん p t c k
b d ɟ g
鼻音びおん m n ɲ
摩擦音まさつおん f ʃ h
ʒ
やぶおと ts̺ ts̻
側面そくめん接近せっきんおん l ʎ
ふるえおん r
母音ぼいん
i y u
e o
a

おも音韻おんいん交替こうたい

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母音ぼいん

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てい母音ぼいん /a/同化どうか (a→e / V[+high]C0__)
てい母音ぼいん /a/こう母音ぼいん /i, u/ふく音節おんせつのち/e/交替こうたいする。ビスカヤではなされているすべての方言ほうげんと、ギプスコア方言ほうげん・ナファロア方言ほうげんおおくにられる[23]
  • gizon=aおとこ単数たんすう)」→lagun=e仲間なかま単数たんすう)」
  • gizon bat「あるおとこ」→lagun bet「ある仲間なかま
  • joan daおこなった」→etorri deた」
  • dute-laかれらがそれをっている(ぶん)」→dugu-leわたしたちがそれをっている(ぶん)」
ちゅう母音ぼいん /e, o/上昇じょうしょう ([−low]→[+high] / __V)
ちゅう母音ぼいん /e, o/母音ぼいんまえこう母音ぼいん /i, u/交替こうたいする。共通きょうつうバスクのぞくほとんどすべての方言ほうげん観察かんさつできる。ゲルニカ方言ほうげんやナファロア方言ほうげん・ラプルディ方言ほうげん一部いちぶでは /e/ だけがこう母音ぼいんし、/o/ はしない。/o/ だけがこう母音ぼいんする方言ほうげんつかっていない[24]
  • etxeいえ」→etxi-ak「いえ複数ふくすう)」、etxi=en「いえ複数ふくすう)の」、etxi=on「このいえ複数ふくすう)の」
  • kaleまち」→kali-ak「まち複数ふくすう)」、kali=en「まち複数ふくすう)の」、kali=on「このまち複数ふくすう)の」
  • basoもり」→basu-ak「もり複数ふくすう)」、basu=en「もり複数ふくすう)の」、basu=on「このもり複数ふくすう)の」
  • itasoうみ」→itsasu-ak「うみ複数ふくすう)」、itsasu=en「うみ複数ふくすう)の」、itsasu=on「このうみ複数ふくすう)の」
子音しいん半母音はんぼいん挿入そうにゅう
こう母音ぼいんのち半母音はんぼいん子音しいん挿入そうにゅうされる。
語幹ごかんまつてい母音ぼいん /a/削除さくじょ上昇じょうしょう
語幹ごかんまつ/a/母音ぼいんはじまりの接辞せつじまえ削除さくじょされる。または /i, e/交替こうたいする。

表記ひょうき

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文字もじ

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バスク普通ふつうラテン文字もじ表記ひょうきされる。共通きょうつうバスク正書法せいしょほうでは、スペインアルファベットおなじく、基本きほん26文字もじÑくわえた27文字もじもちいられる。このうち C, Q, V, W, Y の5文字もじ外来がいらい表記ひょうきにのみもちいられる。このほか Ç外来がいらい表記ひょうきのために、Üスベロア方言ほうげん表記ひょうきのためにもちいられる。

つづりと発音はつおん

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バスクつづほう原則げんそくとして表音ひょうおん主義しゅぎてきであり、つづりと発音はつおん対応たいおう関係かんけい比較的ひかくてきかりやすいものである。統一とういつバスクつづとその一般いっぱんてき発音はつおんひょうしめす。

つづ 発音はつおん (IPA) 発音はつおん仕方しかた かたりれい
a [a] 日本語にほんごのアよりややぜん ama [ama]はは
母音ぼいんあいだの b [βべーた] labe [laβべーたe]「オーブン」
それ以外いがいの b [b] 日本語にほんごのバぎょう子音しいん enbor [embor]丸太まるた
母音ぼいんあいだの d [ð] ゆうこえ摩擦音まさつおん
舌尖ぜっせんうらによるゆうごえ摩擦音まさつおん
idi [iði]うし
それ以外いがいの d [d] 日本語にほんごのダ、デ、ドの子音しいん dike [dike]堤防ていぼう
dd [ʝ]~[ɟ] ゆうこえかた口蓋こうがい摩擦音まさつおんまたは破裂はれつおん onddo [onʝo]~[onɟo]「きのこ」
e [e] 日本語にほんごのエよりややぜん eme [eme]めす
f [f] 英語えいごの /f/ kafe [kafe]「コーヒー」
母音ぼいんあいだの g [ɣ] ゆうごえ軟口蓋なんこうがい摩擦音まさつおん
日本語にほんごのガぎょう子音しいんおな位置いちゆうごえ摩擦音まさつおん
lege [leɣe]法律ほうりつ
それ以外いがいの g [g] 日本語にほんごのガぎょう子音しいん gamelu [gamelu]「ラクダ」
h [ ] 発音はつおんしない aho [ao]くち
[h] 北東ほくとう方言ほうげん話者わしゃ英語えいごの /h/ aho [aho]同上どうじょう
たん母音ぼいんの i [i] 日本語にほんごのイ mami [mami]「パンの
重母音じゅうぼいんの i [j] 日本語にほんごのヤぎょう子音しいん amai [amaj]わり」
j [x] 西部せいぶ方言ほうげん話者わしゃおくりの無声むせい軟口蓋なんこうがい摩擦音まさつおん jaboi [xaβべーたoj]石鹸せっけん
[j̝]~[ʝ]~[ɟ] jaboi [j̝aβべーたoj]~[ʝaβべーたoj]~[ɟaβべーたoj]同上どうじょう
k [k] 日本語にほんごのカぎょう子音しいん kamino [kamino]道路どうろ
l [l] 英語えいごの /l/ よりぜん lagun [laɣun]友人ゆうじん
i のうしろの l [l]~[ʎ] うえまたはしたのどちらかで発音はつおんされる mutil [mutil]~[mutiʎ]少年しょうねん
ll [ʎ] かた口蓋こうがい側面そくめん接近せっきんおん galleta [gaʎeta]「ビスケット」
m [m] 日本語にほんごのマぎょう子音しいん mendi [mendi]やま
母音ぼいんまえの n [n] 日本語にほんごのナぎょう子音しいん nini [nini]ひとみ
子音しいんまえの n どう器官きかん鼻音びおん 日本語にほんごのン kanpo [kampo]野外やがい
banku [baŋku]銀行ぎんこう
ñ [ɲ] かた口蓋こうがい鼻音びおん
舌先したさきしたうらにつけて n の発音はつおんをする
ニャぎょう子音しいんちか
andereño [andeɾeɲo]小学校しょうがっこうおんな先生せんせい
o [o] 日本語にほんごのオよりややまるめがつよ oro [oɾo]すべての」
p [p] 日本語にほんごのパぎょう子音しいん pago [paɣo]「ブナノキ」
母音ぼいんあいだの r [ɾ] 日本語にほんごかたりちゅうのラぎょう子音しいん aro [aɾo]時代じだい
それ以外いがいの r [r] じたの r erdi [erdi]半分はんぶん
rr errege [ereɣe]おう
s [s̺] 舌尖ぜっせんおんの s
舌尖ぜっせん歯茎はぐきけて s を発音はつおんする
soka [s̺oka]「ロープ」
ゆうごえ子音しいんまえの s [z̺] うえおと有声音ゆうせいおん esne [ez̺ne]牛乳ぎゅうにゅう
t [t] 日本語にほんごのタ、テ、トの子音しいん tabako [taβべーたako]「タバコ」
ts [ʦ̺] 舌尖ぜっせんおん無声むせい歯茎はぐきやぶおと
舌尖ぜっせん歯茎はぐきけて発音はつおんする日本語にほんごのツの子音しいん
atso [aʦ̺o]老女ろうじょ
tt [c] 無声むせいかた口蓋こうがい破裂はれつおん ttipi [cipi]ちいさな」
tx [tɕ] 日本語にほんごのチの子音しいん etxe [etɕe]いえ
tz [ts] 日本語にほんごのツの子音しいん atzo [aʦo]昨日きのう
たん母音ぼいんの u [u] 英語えいごの /u/ よりややひろ ume [ume]あかぼう
重母音じゅうぼいんの u [w] 英語えいごの /w/ lau [law]よん
x [ɕ] 日本語にほんごのシの子音しいん xanpu [ɕampu]「シャンプー」
z [s] 日本語にほんごのサ、ス、セ、ソの子音しいん zopa [sopa]「スープ」
ゆうごえ子音しいんまえの z [z] 日本語にほんごかたりちゅうのザ、ズ、ゼ、ゾの子音しいん elizgizon [elizgison]神父しんぷ

文法ぶんぽう

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名詞めいし

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名詞めいし構造こうぞうつぎのようになっている。

修飾しゅうしょく + 限定げんてい1 + 名詞めいし + 形容詞けいようし + 限定げんてい2 + かく標識ひょうしき
名詞めいしれい
atzo ikusi nituen bi neska polit =e =i
昨日きのうわたし 2 少女しょうじょ 可愛かわい =PL =DAT
修飾しゅうしょく関係かんけいぶし 限定げんてい数詞すうし 名詞めいし 形容詞けいようし 限定げんてい冠詞かんし かく標識ひょうしき
昨日きのうわたし2人ふたり可愛かわい少女しょうじょに」

名詞めいしにはかならずしも名詞めいしふくまれなくてもよい。しかし限定げんてい極少きょくしょうすう例外れいがいをのぞき必須ひっすである。修飾しゅうしょく形容詞けいようしふくすうかいもちいることができる。

限定げんてい

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限定げんていにはつぎのようなかたりふくまれる。

限定げんてい1
  • batいち以外いがい数詞すうし
  • りょう一部いちぶhanitzおおくの」、zenbat「どのくらいの」など)
  • 不定ふてい限定げんてい一部いちぶzenbait「いくつかの」、zein「どの」など)
限定げんてい2
  • 定冠詞ていかんし定冠詞ていかんし
  • 指示しじ
  • 数詞すうしbatいち
  • りょう一部いちぶaskoおおくの」など)
  • 不定ふてい限定げんてい一部いちぶbatzu「いくつかの」など)
  • 部分ぶぶん冠詞かんし

定冠詞ていかんし指示しじにのみかず単数たんすう複数ふくすう)の区別くべつがある。

名詞めいしにおけるかず区別くべつれい
a. gizon hau
おとこ これ(SG)
「このおとこ単数たんすう)」
b. gizon hau-ek
おとこ これ-PL
「このおとこたち(複数ふくすう)」
c. zein gizon
どれ おとこ
「どのおとこ単数たんすう)/
どのおとこたち(複数ふくすう)」

限定げんていは「数詞すうし定冠詞ていかんし」の場合ばあいのみふたもちいることが可能かのうである。

ふたつの限定げんてい名詞めいしれい
lau zaldi =ak
4 うま =PL
限定げんてい1(数詞すうし 名詞めいし 限定げんてい2(定冠詞ていかんし
「その4とううま
  • かく名詞めいし接尾せつびをつけることで標示ひょうじされる。
  • のうかく - 絶対ぜったいかくかた体系たいけいである。
  • 文法ぶんぽう関係かんけいしめ絶対ぜったいかくのうかく与格よかくのほか、前置詞ぜんちしてきかく位置いちあらわかくなど14あまりのかく存在そんざいする。

人称にんしょう

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  • 二人称ににんしょうには普通ふつうがた zu(単数たんすう)/ zuek(複数ふくすう)とおやしょうがた hi の区別くべつがあり、動詞どうし活用かつようにおいてことなるいをする。おやしょうには単数たんすうがたしかい。
  • おやしょう使つかわれる範囲はんいがきわめてかぎられている。おも兄弟きょうだい姉妹しまいたいしてか、同性どうせい同年代どうねんだいしたしい友人ゆうじんたいしてもちいられる。
  • 一部いちぶ方言ほうげんのぞいて三人称さんにんしょう代名詞だいめいしいている。

動詞どうし

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  • 動詞どうし絶対ぜったいかくこうのうかくこう与格よかくこう人称にんしょうかずなどによって活用かつようする。
  • きてしんしょうの hi かどうかを動詞どうし標示ひょうじする「ききて活用かつよう」とばれる語形ごけい変化へんかがある。
  • 動詞どうしいちからなる単純たんじゅんがた活用かつようと、分詞ぶんし助動詞じょどうしからなるふくごうがた活用かつようがある。
  • 単純たんじゅんがた活用かつようができる動詞どうし十指じっしたない。ほとんどの動詞どうしには分詞ぶんししかなく、ふくごうがた活用かつようをする。
  • 単純たんじゅんがたでは現在げんざいがた過去かこがた仮定かていがた命令めいれいがたがある。
  • 分詞ぶんしには完了かんりょう分詞ぶんし完了かんりょう分詞ぶんしぜんもち分詞ぶんし語根ごこんがある。

例文れいぶん

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のうかくれい:Mendiak mendia behar ez du, baina gizonak gizona bai. やまやまもとめないが、ひとひともとめる。(ことわざ)

mendiak, gizonakのように-kのついたものがのうかくであり、つかないものが絶対ぜったいかくである。

バスク学習がくしゅう神話しんわ

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バスクは、欧米おうべい言語げんごとの共通きょうつうてんすくなさゆえにしるしおうけい言語げんご話者わしゃには習得しゅうとくむずかしいとされる。

司馬しばりょう太郎たろうは、紀行きこう文集ぶんしゅう街道かいどうをゆく』のなかで「ローマの神学しんがくせいのあいだでつくられたバスク学習がくしゅうにちなむ“神話しんわ”」として、かみからどんなばっあたえられてもまったくひるまなかった悪魔あくまでさえ、3年間ねんかんがんろうにこもってバスク勉強べんきょうするばちされるとかみゆるしをうた、というはなし紹介しょうかいしている[25]

ナバラしゅう小咄こばなしとして「悪魔あくまが7年間ねんかんバスクに滞在たいざいしたが、7ねんかかっておぼえたのは『Bai(はい)』と『Ez(いいえ)』だけだった。それすらもバイヨンヌはしわたったらわすれてしまった」[26]、この変形へんけいとして「バスクじんけっして悪魔あくま誘惑ゆうわくけて地獄じごくにはちない。なぜなら、悪魔あくまはバスクはなせないからだ。」といったものがある。

フランスのバイヨンヌにあるバスク民族みんぞく博物館はくぶつかんでは、「かつて悪魔あくまサタンは日本にっぽんにいた。それがバスクの土地とちにやってきたのである」と挿絵さしえりの歴史れきしえがかれているものがかざられている。おなじくしるしおうけい言語げんご話者わしゃからみて習得しゅうとくむずかしい日本語にほんごかさわせている[27]

関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ Eusko Jaularitza 2008: 202.
  2. ^ GB: 3
  3. ^ Haase 1992.
  4. ^ Ross 2007.
  5. ^ Trask 1997: 35.
  6. ^ Trask 1997: 36.
  7. ^ Trask 1997: 38.
  8. ^ Trask 1997: 39.
  9. ^ Trask 1997: 41f.
  10. ^ Trask 1997: 42f.
  11. ^ Trask 1997: 398.
  12. ^ Trask 1997: 358ff.
  13. ^ Gabelentz 1894.
  14. ^ Schuchardt 1913, 1914-1917.
  15. ^ Mukarovsky 1963-1964, 1969, 1981.
  16. ^ a b c d e Trask, R. L. (1997) The history of Basque. London: Routledge.
  17. ^ Hubschmid 1953, 1955
  18. ^ Trask 1997: 365.
  19. ^ Vennemann 1994.
  20. ^ イベリア・カフカス語族ごぞく - Yahoo!百科ひゃっか事典じてん
  21. ^ GB: 15.
  22. ^ GB: 18.
  23. ^ GB: 46.
  24. ^ GB: 47f.
  25. ^ 司馬しば 1999: 83-84.
  26. ^ 下宮したみや 1979, p. 158-159.
  27. ^ 城生じょうのう松崎まつざき 1995: 28-29

文献ぶんけん

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  • 下宮したみや, 忠雄ただお『バスク入門にゅうもん : 言語げんご民族みんぞく文化ぶんか-られざるバスクの全貌ぜんぼう大修館書店たいしゅうかんしょてん、1979ねんdoi:10.11501/12576470 
  • 司馬しばりょう太郎たろう (1999)「バスクとそのひとびと」『街道かいどうをゆく 8:南蛮なんばんのみち』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう
  • 城生じょうのう佰太ろう松崎まつざきひろし (1995)『日本語にほんご「らしさ」の言語げんごがく講談社こうだんしゃ
  • ホセ・アスルメンディ: "Die Bedeutung der Sprache in Renaissance und Reformation und die Entstehung der baskischen Literatur im religiösen und politischen Konfliktgebiet zwischen Spanien und Frankreich" In: Wolfgang W. Moelleken (出版しゅっぱんしゃ), Peter J. Weber (出版しゅっぱんしゃ): Neue Forschungsarbeiten zur Kontaktlinguistik, ボン: Dümmler, 1997. ISBN 978-3537864192
  • GB = Hualde & Ortiz de Urbina (eds.) 2003.
  • Hualde, José Ignacio & Jon Ortiz de Urbina (eds.) (2003) A grammar of Basque. Berlin/New York: Mouton de Gruyter.
  • Rijk, Rudolf P. G. de (2008) Standard Basque: a progressive grammar. Cambridge, MA. The MIT Press.
  • SB = Rijk 2008.
  • Trask, R. L. (1997) The history of Basque. London/New York: Routledge.

外部がいぶリンク

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