おんなしょ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
おんなしょ
おんなしょれいうえからそれぞれ「おんな」「しょ」の文字もじあらわす。
類型るいけい: 音節おんせつ文字もじ
言語げんご: しろせきばなし (中国ちゅうごくばなし)
時期じき: 19世紀せいきなかごろ (異説いせつあり) -現在げんざい
おや文字もじ体系たいけい:
漢字かんじ
  • おんなしょ
Unicode範囲はんい:
ISO 15924 コード: Nshu
注意ちゅうい: このページはUnicodeかれた国際こくさい音声おんせい記号きごう (IPA) をふく場合ばあいがあります。
テンプレートを表示ひょうじ

おんなしょ(にょしょ、にゅうしゅ[1]簡体字かんたいじおんな繁體字はんたいじおんなしょ漢語かんごピンインnǚshū)は、中国ちゅうごく南部なんぶ湖南こなんしょう江永えながけんなどの地域ちいきにおいて、もっぱ女性じょせいによりもちいられた文字もじ絶滅ぜつめつ危機ききひんしている[2]

特徴とくちょう[ソースを編集へんしゅう]

おんなしょ文字もじはこれまでにやく1000-1500文字もじ収集しゅうしゅうされている。かく文字もじは「てん」「たてぼう」「斜線しゃせん」「せん」の4種類しゅるい筆画ひっかくからなっており、これら筆画ひっかくほそくことがしとされる。文字もじ形状けいじょうたてなが菱形ひしがたである。伝統でんとうてき中国ちゅうごく日本語にほんごかたおなじく、みぎたてかれる。

おんなしょ音節おんせつ文字もじである。すなわち、ひとつの文字もじおな音節おんせつあらわされる複数ふくすう意味いみ区別くべつせずに、ひとつの文字もじあらわす。おおくの文字もじ漢字かんじ故意こい変形へんけいしてつくられたが、一方いっぽう伝統でんとうてき刺繍ししゅう模様もようから派生はせいしたとみられるもある。

近年きんねん使用しよう範囲はんいとして、湖南こなんしょう江永えながけん道県どうけんこうはなヤオぞく自治じちけんられている。江永えながけんけんじょう土語どご発音はつおんわせてつくられており、周辺しゅうへん地域ちいきでは土語どご発音はつおんことなるが、けん城土しろつち発音はつおんによってまれるため、けんじょうからひろまったものとかんがえられる。

基本きほんてきけん城土しろつち音節おんせつわせていち音節おんせついちおんなしょ用意よういされているが、例外れいがいてきに、音節おんせつがあっても文字もじがないれい異体いたいがあるれいいち複数ふくすうかたがあるれい見出みいだされる。

おんなしょ日常にちじょうてき筆記ひっき用途ようともちいられるほか、「三朝みささしょ」とばれる新婦しんぷへのしるしたおくものにされることがおおく、また、文字もじ自体じたい刺繍ししゅうとしてもしばしばもちいられた。

女性じょせい差別さべつからまれた文字もじという側面そくめん[3]

歴史れきし[ソースを編集へんしゅう]

近年きんねんまで、江永えながけんふく地域ちいきでは女性じょせい漢字かんじ(=おとこしょ)を学習がくしゅうすることはしとされてこなかった。おんなしょはこのような状況じょうきょうされ、姉妹しまい兄弟きょうだいつまなど、おも女性じょせい親族しんぞくあいだ秘密裏ひみつりもちいられてきた。また、男性だんせいおんなしょ学習がくしゅうすることは厳禁げんきんとされた。また、工芸こうげいひんなどの模様もようのようにして文字もじ偽装ぎそうすることもおこなわれた。おおくの文書ぶんしょいちぎょうにつき5文字もじまたは7文字もじ構成こうせいされたかたちをとった。おんなしょ元々もともとは、たけ木片もくへんけずってふでとし、鍋底なべぞこのすすを墨汁ぼくじゅうにすることによってかれてきたものである[4]

おんなしょすうひゃくねんにわたり存在そんざいしてきたものであるが、最近さいきんまでその存在そんざいはほとんど外部がいぶられていなかった。1982ねん武漢ぶかん大学だいがくみやあきらへい教授きょうじゅにより「さい発見はっけん」され、学術がくじゅつてき研究けんきゅう開始かいしされた。

現在げんざいまでにられている文献ぶんけんおんなしょ存在そんざい言及げんきゅうしている最古さいこのものは、みんこく年間ねんかんの1931ねん出版しゅっぱんされた『湖南こなんかくけん調査ちょうさ筆記ひっき』である[5]。これは湖南こなん地方ちほう地勢ちせい風俗ふうぞく調査ちょうさして記録きろくした文書ぶんしょで、えいあきらけん (江永えながけん旧称きゅうしょう) 花山はなやまじょうつぎ記述きじゅつえる。

〔…〕いいつたえでは、あきら時代じだいたんという姉妹しまいが〔…〕薬草やくそうりにやまはいったが、ともにすわったままくなっていた。人々ひとびと山頂さんちょうびょうつくってまつった (いま花山はなやまびょうぶ)。〔…〕毎年まいとし5がつには、かくさと女性じょせいこう礼拝れいはいし、うたおうぎ持参じさんしてこえわせて歌唱かしょうしていたむ。そのうたおうぎかれる文字もじはとてもこまかく、こうむふる文字もじている。県内けんない男性だんせいでこの文字もじめるものはいないようだ。

花山はなやまびょう文革ぶんかく破壊はかいされたが、びょうたん姉妹しまいへの信仰しんこうはそのつづいている[6]

太平洋戦争たいへいようせんそうなかには日本にっぽんぐんによりおんなしょ使用しよう抑制よくせいされた。中国人ちゅうごくじんによる暗号あんごう文書ぶんしょとしての使用しよう懸念けねんしたためであった。

文化ぶんかだい革命かくめい以前いぜんにおいては、おんなしょによる文書ぶんしょ著者ちょしゃ死去しきょともな殉葬ひんとして焼却しょうきゃくする習慣しゅうかんがあった。また文革ぶんかくにはおおくのおんなしょによる作品さくひん破棄はきされた。このため、おんなしょによる作品さくひん現存げんそんするものはきわめてすくない。文革ぶんかく女性じょせい文化ぶんか水準すいじゅん向上こうじょうともない、女性じょせいおんなしょによらずともたがいの交流こうりゅう可能かのうになり、おんなしょ使用しよう価値かち減少げんしょうした。その結果けっかおんなしょ学習がくしゅうしゃ激減げきげんし、おんなしょ絶滅ぜつめつ危機ききひんはじめることとなる。

1983ねん中南なかみなみ民族みんぞく大学だいがく講師こうしだったみやあきらへい民族みんぞく調査ちょうさ江永えながけん訪問ほうもんしたさいけん役人やくにんから出身しゅっしんである白水しらみむら女性じょせいだけが使つか文字もじがあるとおしえられて調査ちょうさはいり、なに西にしせいいた報告ほうこくされたことで「発見はっけん」された[3]当時とうじきが出来できこうぎんせんねんはな健在けんざいであり、2人ふたりはリクエストにこたえておおくの文字もじいた[3]

1993ねん南京なんきん骨董こっとう市場いちばで、古銭こせん愛好あいこうおんなしょきざまれた太平たいへい天国てんごくのものとしょうする銅貨どうか入手にゅうしゅした。この銅貨どうか背面はいめんにはおんなしょで「天下てんか婦女ふじょ 姉妹しまい一家いっか」としるされていたため、最古さいこおんなしょ文字もじ資料しりょうではないかと注目ちゅうもくされた[7]。しかし、歴史れきし学者がくしゃちょうてつたから (太平たいへい天国てんごく) の鑑定かんていによれば、太平たいへい天国てんごく貨幣かへい規格きかくわないこと、当時とうじ技術ぎじゅつ水準すいじゅんでは製造せいぞう困難こんなんであること、鋳造ちゅうぞうされたものではなくどうざいられたものでははぜに (鋳型いがた母型ぼけい) としても使用しようえないことなどから、はやくともみんこく年間ねんかん以降いこうに、贈答ぞうとう娯楽ごらく目的もくてき貨幣かへいせて製作せいさくされたものであろうという[8]

2005ねん9月、りょ芳文よしふみ (湖南こなみしょう社会しゃかい科学かがくいん歴史れきし研究所けんきゅうじょ) とかくあきらひがし (湖南こなみしょう経済けいざい研究けんきゅう情報じょうほうセンター) は、湖南こなんしょうひがしやすけんあしひろし鎮のりゅうきょうおんなしょきざんだ石碑せきひ発見はっけんした。文献ぶんけんによれば、りゅうきょうそうだいにはすでに存在そんざいしたことがわかっている。石碑せきひはし同年代どうねんだいのものであれば、おんなしょ文字もじ資料しりょう年代ねんだい最大さいだいそうだいまでさかのぼることになる。また、これまでられているよりひろ範囲はんい使用しようされていた可能かのうせいてくる[9][10]

現状げんじょう[ソースを編集へんしゅう]

2004ねん9月30にちおんなしょ最後さいご自然しぜん伝承でんしょうしゃである煥宜が98さい死去しきょした。

幼少ようしょうならったなにつやしんは、1993ねん調査ちょうさのためにおとずれた遠藤えんどうえだらにうながされて訓練くんれん再開さいかいけるようになった[1]。このためなんつやしん最後さいご伝承でんしょうしゃともされる[11]。2006ねん調査ちょうさ研究けんきゅうのために習得しゅうとくし、もっと理解りかいたかいとされるしゅうせき沂が死去しきょした[2]

遠藤えんどうえだによる2007ねん報告ほうこくではなにつやしんほかに、幼少ようしょう祖母そぼからすこならって中断ちゅうだんしたが保存ほぞんのため再度さいど学習がくしゅうしたえびす美月みづき研究けんきゅうしゃ調査ちょうさをきっかけに習得しゅうとくしたなに静華しずか男性だんせいなにさちろくからこう暐)、なに静華しずかむすめであるかばうらら娟が習得しゅうとくしているが、自分じぶんおもいをくなど自由じゆう使つかいこなせるのはなにつやしんのみで、おぼえているわせるか綺麗きれいくだけであるため、コミュニケーションの手段しゅだんとしては終焉しゅうえんむかえたとされる[2]

2003ねん中国ちゅうごく政府せいふおんなしょ研究けんきゅう拠点きょてん観光かんこうねた「中国ちゅうごくおんなしょむら」を湖北こほくしょうむべあきら開設かいせつしたが、政府せいふ観光かんこう資源しげんとして利用りようするようになり見栄みばえのおおきな文字もじもの優遇ゆうぐうする一方いっぽうで、なにつやしんのような本来ほんらいかたにこだわるもの冷遇れいぐうされている[11]

2005ねんにフォード財団ざいだんから20まんドルの資金しきん援助えんじょ現地げんち調査ちょうさおこなわれ、ヤオぞく文字もじではいなどの知見ちけんられたが、計画けいかく杜撰ずさんなため費用ひようわりには成果せいかすくなく、遠藤えんどうえだ追加ついか調査ちょうさつかった貴重きちょう資料しりょう収集しゅうしゅう出来できていないなど不備ふび指摘してきされている[2]

2007ねんにすでにUnicodeおんなしょくわえることが提案ていあんされていたが[12]作業さぎょう難航なんこうし、2017ねんのUnicode 10.0 で追加ついか多言たげんめんのU+1B170-1B2FFに収録しゅうろくされた[13][14]。コードては画数かくすうすくないじゅん配列はいれつされている。

おんなしょによる作品さくひん[ソースを編集へんしゅう]

おんなしょによる作品さくひんおおくは「三朝みささしょ」(三朝みささ拼音: sānzhāoshū)という形式けいしきである。これはぬのじて製作せいさくしたしょう冊子さっしであり、義姉ぎしいもうと结拜姊妹拼音: jiébàijiěmèi)またはははにより、女性じょせい結婚けっこんおくられるものであった。「三朝みささしょ」にはかれており、結婚けっこんしてさんにち女性じょせいのもとにとどけられるならわしであった。これらの結婚けっこんした女性じょせい幸福こうふくねがい、またむらはなれて結婚けっこんする女性じょせいへのかなしみのねんあらわすものであった[1]

その歌詞かしなどをおびひも衣服いふくなどの用品ようひんむこともあった。

ちゅう[ソースを編集へんしゅう]

  1. ^ a b c 中国ちゅうごく女文字おんなもじ―2015ねん実際じっさい
  2. ^ a b c d 2007ねんおんなしょ”. nushu.world.coocan.jp. 2023ねん12月5にち閲覧えつらん
  3. ^ a b c おんなしょ世界せかい ― 女文字おんなもじについて”. nushu.world.coocan.jp. 2023ねん12月5にち閲覧えつらん
  4. ^ 中国ちゅうごく湖南こなみしょうつたわる「女性じょせいだけの文字もじ Yahoo!ニュース 2023/10/28(土) 12:02配信はいしん
  5. ^ みやあきらへい (1995). “おんなしょ時代じだいこう”. In 金波きんぱへん. 奇特きとくてきおんなしょ: 全国ぜんこくおんなしょ学術がくじゅつ考察こうさつ検討けんとうかい文集ぶんしゅう. 北京ぺきんげん学院がくいん出版しゅっぱんしゃ. pp. pp. 157ff 
  6. ^ 遠藤えんどうえだ中国ちゅうごく女文字おんなもじ: 伝承でんしょうする女性じょせいたち』さんいち書房しょぼう、1996ねん、pp.49ffぺーじISBN 4-380-96240-7 
  7. ^ ちょううららあきら (2000-3-2). “おんなしょ最早もはや資料しりょう——太平たいへい天国てんごくおんなしょどうぬさ”. 人民日報じんみんにっぽう (海外かいがいばん). 
  8. ^ ちょうてつたから太平たいへい天国てんごくおんなしょ貨幣かへいかんする問題もんだい」『えゆく文字もじ 中国ちゅうごく女文字おんなもじ世界せかい松本まつもとしげるわけさんげんしゃ、2009ねん原著げんちょ2005ねん)、pp. 137-147ぺーじISBN 978-4-88303-251-8 
  9. ^ 光明こうみょうにち报「湖南こなん东安发现ちん贵碑こくおんな2005ねん9がつ26にち中国ちゅうごく
  10. ^ 中南なかみなみ民族みんぞく大学だいがく組織そしきせん湖南こなんひさししゅう 考察こうさつひがしやす石刻せっこくおんなしょ黄田きだ舗遠古人こじんるいのこ. おんなしょ文化ぶんか研究けんきゅう簡報 (中南なかみなみ民族みんぞく大学だいがくおんなしょ文化ぶんか研究けんきゅう中心ちゅうしん) (だい26). (25 Oct. 2005). http://www.hdbaba.cn/nsyj/nsjb/26.htm. 
  11. ^ a b エッセイ > 中国ちゅうごく女文字おんなもじいま(やはりになることば・36) 遠藤えんどうえだ”. wan.or.jp. 2023ねん12月5にち閲覧えつらん
  12. ^ N3287 Proposal for encoding Nüshu in the SMP of the UCS, (2007-08-13), https://www.unicode.org/L2/L2007/07293-n3287-nushu.pdf 
  13. ^ Supported Scripts, Unicode, Inc., https://www.unicode.org/standard/supported.html 
  14. ^ Unicode 10.0.0, Unicode, Inc., (2017-06-20), https://www.unicode.org/versions/Unicode10.0.0/ 

関連かんれん項目こうもく[ソースを編集へんしゅう]

  • 方言ほうげん
  • 平仮名ひらがな - 平安へいあん時代じだい貴族きぞく社会しゃかいにおける平仮名ひらがなおも女性じょせいによってもちいられるものとされたので「女手おんなで」ともばれたが、実際じっさいには私的してきや、和歌わか消息しょうそくなどには性別せいべつわず平仮名ひらがなもちいていた。
  • ハングル - かつて漢字かんじたいして卑下ひげした名称めいしょうひとつとして、女性じょせい文字もじ意味いみの「アムクル(암글)」という呼称こしょうがあったが、これも実際じっさいには支配しはいそうでも私的してきむときなどでは性別せいべつわずもちいていた。

外部がいぶリンク[ソースを編集へんしゅう]