クロダイ

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キチヌから転送てんそう
クロダイ
分類ぶんるい
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : じょうひれつな Actinopterygii
: スズキ Perciformes
: タイ Sparidae
: ヘダイ Sparinae
ぞく : クロダイぞく Acanthopagrus
たね : クロダイ A. schlegelii
学名がくめい
Acanthopagrus schlegelii (Bleeker1854)
和名わみょう
クロダイ
チヌ
英名えいめい
Japanese black porgy
sea bream
Japanese black seabream
Japanese black bream

クロダイ黒鯛くろだいがらすほおぎょ[1]学名がくめい Acanthopagrus schlegelii)は、タイ分類ぶんるいされるさかなの1しゅひがしアジア沿岸えんがんいき分布ぶんぷする大型おおがたぎょで、食用しょくよう対象たいしょうとして人気にんきがある。

日本にっぽんではチヌちがや渟、うみ鯽)という別名べつめいもよくもちいられる。学名がくめいぞくめい Acanthopagrus は「とげのあるたい」ので、たね小名しょうみょう schlegelii日本にっぽん脊椎動物せきついどうぶつ多数たすう記載きさいしたヘルマン・シュレーゲルたいするけんじめいである。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

全長ぜんちょう最大さいだい70 cmえるが、よく漁獲ぎょかくされる個体こたいは30 cmまえまでである。

クロダイ 2018ねん9がつ4にち 鹿島かしまこう

がわひれまく和名わみょうどおくろ、ないし灰色はいいろで、はらがわしろい。体側たいそく銀色ぎんいろひか灰色はいいろだが、不明瞭ふめいりょう縦縞たてじまがあるものもおおい。えらぶた上端じょうたん後方こうほうややうえに、どう程度ていどくろまだらが1つある。体型たいけい左右さゆうからしつぶされたようにひらたい楕円だえんがたで、典型てんけいてきたい体型たいけいだが、マダイくらべるとくちまえす。あご前方ぜんぽうには3つい犬歯けんし側面そくめんには3れつ以上いじょう臼歯きゅうしがあり、ヘダイ特徴とくちょうしめす。きんえんしゅのキチヌは、はらビレ、しりビレ、尾美おみビレ黄色きいろいが、クロダイも幼魚ようぎょはヒレが黄色きいろいことがある。キチヌのほうががとがることがおおい。さらに、キチヌのほうがうろこおおきい[2]

背鰭せびれは11とげじょう・11軟条、しりひれは3とげじょう・8軟条からなり、クロダイぞくラテン語らてんごめい Acanthopagrus発達はったつしたとげじょう由来ゆらいする。とくしりひれだい2とげじょう強大きょうだい発達はったつする。側線そくせんうろこ(そくせんりん)すうは48–56まい背鰭せびれ側線そくせんあいだうろこは6–7れつで、このてんきんえんしゅ区別くべつできる。

生態せいたい[編集へんしゅう]

きた北海道ほっかいどう南部なんぶ日本にっぽん列島れっとう朝鮮半島ちょうせんはんとうから台湾たいわんまでのひがしアジア沿岸えんがんいき分布ぶんぷする。ただし奄美あまみ大島おおしま以南いなん南西諸島なんせいしょとうには分布ぶんぷせず、ミナミクロダイナンヨウチヌヘダイといったきんえんしゅ分布ぶんぷする。

タイ大型おおがたぎょとしてはめずらしく水深すいしん50 m以浅の沿岸えんがんいき生息せいそくし、河口かこう水域すいいきにもよく進入しんにゅうする。さらに河川かせん淡水たんすいいきまで遡上そじょうすることもあるため、能登のと地方ちほうではかわたいともばれる。環境かんきょうへの適応てきおうりょくたかく、岩礁がんしょうからすなどろそこまでられ、汚染おせんにも比較的ひかくてきつよいため東京とうきょうわん大阪おおさかわんなど、工業こうぎょう地帯ちたい港湾こうわんにもおお生息せいそくする。ふゆふかみに移動いどうするが、なつ水深すいしん1-2mの浅場あさば大型おおがた個体こたいがやってることもある。

産卵さんらんはる海域かいいきおこなわれ、直径ちょっけい0.8 - 0.9 mmほどの分離ぶんり浮性たまご産卵さんらんし、水温すいおん20 ではやく30時間じかん孵化ふかする。孵化ふか直後ちょくごぎょ体長たいちょう2 mmほどで卵黄らんおう嚢をもつ。体長たいちょう8 mmほどから砂浜すなはま海岸かいがん波打なみうぎわ干潟ひかたいき河口かこういきなどの浅所あさどころあつまり、プランクトン捕食ほしょくして成長せいちょうする。生後せいご1ねん体長たいちょう12 cm、5ねんで26 cm、9ねんで40 cmほどに成長せいちょうするが、マダイとくらべると成長せいちょうおそい。なつからあきには海岸かいがんいき全長ぜんちょう10cmらずのわかさかなることができる。わかさかなはスーッとおよいではピタッととままるのをかえしながらえささがす。水中すいちゅうすなそこ砂煙すなけむりげるとこれらのわかさかな近寄ちかよってきて、多毛たもうるいスナモグリなどのえさあさよう観察かんさつできる。成魚せいぎょ悪食あくじきしょうさかな甲殻こうかくるい貝類かいるい海藻かいそうるいてはスイカや蜜柑みかんなど様々さまざまなものを捕食ほしょくする。

成長せいちょうによってせい転換てんかんするさかなとしてもられる。せい転換てんかんするさかなメスオス一般いっぱんてき(マダイなど)だが、クロダイをふくめたヘダイゆうせいさきじゅくおこない、オス→メスにせい転換てんかんする。2 - 3さいまでは精巣せいそう発達はったつしたオスだが、4 - 5さいになると卵巣らんそう発達はったつしてメスになる。ただしすべてがメスになるわけではなく、めすせいホルモン(エストラジオール-17βべーた=E2)が不足ふそくしたオスはせい転換てんかんしない。

夜行やこうせい日没にちぼつ以降いこう食料しょくりょうもとめて活動かつどうする。

人間にんげんとのかかわり[編集へんしゅう]

漁獲ぎょかく[編集へんしゅう]

身近みぢか海域かいいき生息せいそくする大型おおがたぎょだけに、むかしから食用しょくようとして漁獲ぎょかくされてきた。定置網ていちあみもうスピアフィッシング)など各種かくしゅ沿岸えんがん漁法ぎょほう漁獲ぎょかくされる。

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げるにはたか技術ぎじゅつ必要ひつようとされる[3]大都市だいとしけんうみにもおおく、手近てぢかながらおくふかりの対象たいしょうとして人気にんきがあり、様々さまざま技法ぎほう発達はったつしている。うえからちてくる物体ぶったいいつく性質せいしつ利用りようしたヘチしたしまれている。ほかにも、たとえばエビぬかつつむ「紀州きしゅうり」など、複数ふくすう素材そざいわせるえさ技法ぎほうもある。いそにおいてなつ黒鯛くろだいは、ふゆメジナなら人気にんきさかなしゅである。また、近年きんねんポッパーペンシルベイト使つかったトップウォーターゲームや、ワームひとしルアーり(チニング)も発達はったつしつつある。

えさ悪食あくじきしょくせい対応たいおうしてゴカイるい甲殻こうかくるいはじまり、海藻かいそうるいしょうさかな貝類かいるいカイコさなぎトウモロコシつぶスイカ小片しょうへんミカンひとしいたるまで、様々さまざまなものがもちいられている。トウモロコシやスイカとった本来ほんらいであれば海中かいちゅう存在そんざいしないエサはさかなけないため、エサりになやまされたときの有効ゆうこう手段しゅだんとされる。夜行やこうせい性質せいしつからよるりの対象たいしょうぎょである。

食材しょくざい[編集へんしゅう]

はタイらしくごたえがある白身しろみで、とくしゅんむかえた冬期とうきのものはあぶらがのってマダイにもおとらない美味びみである。しかしぶし棲息せいそく場所ばしょによっては磯臭いそくさ個体こたいにあたることもある。 刺身さしみあら塩焼しおや煮付につなど和風わふう料理りょうりほかムニエルアクアパッツアひとし洋風ようふう料理りょうりでもべられる。

先述せんじゅつとお環境かんきょう適応てきおうりょくたかく、一時いちじてきであれば真水まみずでもかしておけることから、冷蔵れいぞう技術ぎじゅつかった時代じだい重宝ちょうほうされ、高値たかね取引とりひきされた。そのため、一時いちじ稚魚ちぎょ放流ほうりゅう養殖ようしょくなどもされていたが、マダイの養殖ようしょく技術ぎじゅつ確立かくりつしたため現在げんざい安値やすね流通りゅうつうしている。21世紀せいきにおいては価格かかくがマダイのやく4ぶんの1にとどまることから、漁業ぎょぎょうしゃからはこのまれず、あじ淡白たんぱくであるため、食材しょくざいとしての人気にんきたかくはない[3]

漁業ぎょぎょう被害ひがい[編集へんしゅう]

21世紀せいきはいって以降いこう、クロダイが養殖ようしょく海苔のりアサリカキなどを食害しょくがいする被害ひがいほうじられている[4][3][5][6]。クロダイの漁獲ぎょかくりょう日本にっぽんもっとおお広島ひろしまわんでは、1980年代ねんだい以降いこう実施じっしされていた放流ほうりゅう事業じぎょうによってクロダイの個体こたいすう増加ぞうかし、養殖ようしょくカキへの漁業ぎょぎょう被害ひがいるようになったとされている[7]。また浜名湖はまなこでは、クロダイのえさとなる生物せいぶつ豊富ほうふ生息せいそくしていたアマモじょう減少げんしょうしたことが漁業ぎょぎょう被害ひがい増加ぞうか原因げんいんとして指摘してきされている[6]

別名べつめい[編集へんしゅう]

成長せいちょうによってわる出世魚しゅっせうおでもある。関東かんとうではチンチン-カイズ-クロダイとわり、関西かんさいではババタレ-チヌ-オオスケとなる。 瀬戸内海せとないかいとく広島ひろしまわんでのさかなかげくこの海域かいいきのみで日本にっぽんの2わりちかくが水揚みずあげされる。関西かんさい地方ちほう中心ちゅうしんに「チヌ」という別名べつめいがよくもちいられるが、ほかにもクロ(東北とうほく地方ちほう)、ケイズ(東京とうきょう)、カワダイ(かわたい北陸ほくりく地方ちほう)、チンダイ(山陰さんいん地方ちほう)、チン(九州きゅうしゅう)、クロチヌなど、様々さまざま地方ちほうめいがある。ただし「クロ」など一部いちぶ呼称こしょうメジナるいとの重複じゅうふくられるので注意ちゅういようする。

じんあいだでは、大物おおものとしてのとして、50 cm以上いじょうを「としし」、60 cm以上いじょうを「ロクマル」としょうされている。高知こうちけん宿毛湾すくもわん生息せいそくするものはそのきのつよさからマッスルチヌとばれ、人気にんきはくしている。

930年代ねんだい編纂へんさんされた『和名わみょうしょう』には、ひさりょたい(くろたい)とのこされている。

きんえんしゅ[編集へんしゅう]

キチヌ

クロダイはほかにもおおくのきんえんしゅがあるが、おおきさや習性しゅうせいなどにおおきなちがいはなく、漁獲ぎょかくにはいちくくりにされることもおおい。きんえんしゅ見分みわけるにはびれと側線そくせんあいだにあるうろこれつがポイントとなる。

キチヌ (yellowfin seabream) Acanthopagrus latus (Houttuyn1782)
西日本にしにほんからオーストラリアアフリカ東岸とうがんまで、西にし太平洋たいへいようインド洋いんどようひろ分布ぶんぷするが、南西諸島なんせいしょとうには分布ぶんぷしない。クロダイよりも内湾ないわんこのみ、河口かこういきおお生息せいそくする。和名わみょうどおり、はらびれ・しりびれ・びれが黄色おうしょくいので、「キビレ」「キビレチヌ」などとんでクロダイと区別くべつする。側線そくせんうろこすうは43–48まい背鰭せびれから側線そくせんまでのうろこは4れつで、クロダイよりもうろこかずすくない。クロダイがはる産卵さんらんおこなうのにたいし、ほんしゅあき産卵さんらんおこなう。
ミナミクロダイ (Okinawa seabream) Acanthopagrus sivicolus Akazaki, 1962
南西諸島なんせいしょとうだけに分布ぶんぷする固有こゆうしゅ側線そくせんうろこすうは46–52まい背鰭せびれから側線そくせんまでのうろこは5れつで、うろこかずわずかにすくない以外いがいはクロダイによくている。内湾ないわん河口かこういきほかサンゴ礁さんごしょうでもられる。
ナンヨウチヌ (picnic seabream) Acanthopagrus berda (Forsskål1775)
石垣島いしがきじまから台湾たいわん、オーストラリア、インド洋いんどよう沿岸えんがんいきまでひろ分布ぶんぷする。側線そくせんうろこすう43-52まい背鰭せびれから側線そくせんまでのうろこは4れつ。クロダイより体高たいこうたかく、背中せなかがっているようにえる。マングローブうちなどに多数たすう生息せいそくする。
オキナワキチヌ Acanthopagrus chinshira Kume & Yoshino, 2008
琉球りゅうきゅう列島れっとう分布ぶんぷする。からだ下面かめんひれ黄色おうしょくびるのでキチヌにるが、キチヌとは分布ぶんぷいきことなる。オーストラリアさんオーストラリアキチヌ (yellowfin bream, Acanthopagrus australis) にる。また、体側たいそくしろっぽいことから、沖縄おきなわでは「チンシラー」(しろいチヌの)とばれ、ミナミクロダイとも区別くべつされる。
ヘダイ (tarwhine) Rhabdosargus sarba (Forsskål1775)
西日本にしにほんふく西太平洋にしたいへいようインド洋いんどようひろ分布ぶんぷする。クロダイにるがべつぞくで、口先くちさきないこと、体側たいそくうろこれつ縦縞たてじま目立めだつこと、背鰭せびれ軟条13・しりひれ軟条11でクロダイよりおおいことなどが特徴とくちょうである。クロダイより沖合おきあいに生息せいそくし、磯臭いそくささがない。
Acanthopagrus butcheri (Munro, 1949) southern black bream
キチヌ (yellowfin seabream) やオーストラリアキチヌ (yellowfin bream) やヘダイ (Tarwhine) にる。
ヨーロッパへダイ Sparus aurata

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ がらすほおぎょ (クロダイ) - コトバンク 2020ねん8がつ11にち閲覧えつらん
  2. ^ 写真しゃしん検索けんさく釣魚ちょうぎょ1400しゅ図鑑ずかん株式会社かぶしきがいしゃKADOKAWA、11/30 だい8さつ、168ぺーじ 
  3. ^ a b c 山路やまじすすむひょうご経済けいざい+ > 養殖ようしょくノリにチヌの食害しょくがい 兵庫ひょうご県内けんない確認かくにん うみ栄養えいよう不足ふそく影響えいきょう」『神戸こうべ新聞しんぶんNEXT神戸新聞社こうべしんぶんしゃ、2021ねん10がつ19にち2022ねん12月7にち閲覧えつらんオリジナルの2022ねん12月7にち時点じてんにおけるアーカイブ。
  4. ^ つかむら慶子けいこ倉本くらもとめぐみ佐々木ささき憲吾けんご馬場ばばさちひろし13 広島ひろしまかき養殖ようしょくにおける魚類ぎょるい食害しょくがい実態じったい調査ちょうさ」(PDF)『西部せいぶ工業こうぎょう技術ぎじゅつセンター研究けんきゅう報告ほうこくだい52ごう広島ひろしま県立けんりつ総合そうごう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ、2009ねん6がつ、48-51ぺーじ 
  5. ^ 潜水せんすい取材しゅざいはん千葉ちばきょく/カメラマン 高橋たかはし大輔だいすけ首都しゅとけんきょく/カメラマン 浅石あさいし啓介けいすけ不作ふさくつづくのり らす東京とうきょうわんのクロダイをとらえた!」『NHKニュースNHK千葉放送局ちばほうそうきょく、2022ねん3がつ18にち2022ねん12月7にち閲覧えつらんオリジナルの2022ねん12月7にち時点じてんにおけるアーカイブ。
  6. ^ a b みずうみ(うみ)は、いま だいカキ漁師りょうし証言しょうげん食害しょくがい」『中日新聞ちゅうにちしんぶん中日新聞ちゅうにちしんぶん東海とうかい本社ほんしゃ、2021ねん1がつ6にち2022ねん12月7にち閲覧えつらんオリジナルの2022ねん12月7にち時点じてんにおけるアーカイブ。
  7. ^ 斉藤さいとう英俊ひでとし中西なかにし夕佳ゆかさと重田しげたとしひらけ海野うみの徹也てつや広島ひろしまわんにおけるマガキ種苗しゅびょうおよぼす魚類ぎょるい捕食ほしょく影響えいきょう」『日本水産にっぽんすいさん学会がっかいだい74かんだい5ごう公益社こうえきしゃだん法人ほうじん 日本水産にっぽんすいさん学会がっかい、2008ねん、809-815ぺーじdoi:10.2331/suisan.74.809 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]