コブシ

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コブシ
コブシ(2005ねん4がつ
保全ほぜんじょうきょう評価ひょうか[1]
DATA DEFICIENT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
さかい : 植物しょくぶつかい Plantae
階級かいきゅうなし : 被子植物ひししょくぶつ angiosperms
階級かいきゅうなし : モクレンるい magnoliids
: モクレン Magnoliales
: モクレン Magnoliaceae
ぞく : モクレンぞく Magnolia
ふし : ハクモクレンぶし[2] Magnolia sect. Yulania[3]
たね : コブシ M. kobus
学名がくめい
Magnolia kobus DC.1817[4][5]
シノニム
和名わみょう
コブシ(辛夷こぶしこぶし[6][7]、ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラ、ヒキザクラ、ヤチザクラ、シキザクラ
英名えいめい
kobus magnolia[1], kobushi magnolia[1], northern Japanese magnolia[1]

コブシ辛夷こぶし[8]学名がくめい: Magnolia kobus)は、モクレンモクレンぞくぞくする落葉らくよう高木たかぎの1しゅである。早春そうしゅんに、展開てんかいするまえ木々きぎ先駆さきがけてしろおおきなはなをつける。はなは3まいがくへん、6まい花弁はなびら、らせんじょうについた多数たすうしべしべをもつ。多数たすう果実かじつ癒合ゆごうしてごつごつとした集合しゅうごうはて形成けいせいする。北海道ほっかいどう本州ほんしゅう九州きゅうしゅう済州さいしゅうとう分布ぶんぷするが、観賞かんしょうようとしてひろうえ栽されている。ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラなどの別名べつめいがある。

名称めいしょう[編集へんしゅう]

和名わみょうである「コブシ」の由来ゆらいについては、諸説しょせつある[9][10]つぼみかたちにぎりこぶしに見立みたてたとするせつ[8][7]、つぼみが開花かいかする様子ようすにぎりこぶしがひら様子ようす見立みたてたとするせつ[10][11]、でこぼこした果実かじつ集合しゅうごうはて)のかたちにぎりこぶしに見立みたてたとするせつ[12][11][7]などがある。和名わみょう「コブシ」が、そのまま英名えいめい(kobus magnolia)や学名がくめいたね小名しょうみょうkobus)のもととなった。

コブシにたいして漢字かんじでは「辛夷こぶし」をてるが、中国ちゅうごくでの「辛夷こぶししんい」はシモクレン(モクレン)のこと、またはそのつぼみを乾燥かんそうさせた生薬きぐすり意味いみする[6][9][13][14]。またこの名称めいしょう後述こうじゅつ生薬きぐすり名前なまえともなっている。中国ちゅうごくにおけるコブシのかんめい)は「日本にっぽん辛夷こぶし」である[13]

日本にっぽん国内こくないにおける異名いみょう[編集へんしゅう]

あか種子しゅし)にからみがあるため、「ヤマアララギ」(アララギはふつうイチイのこと)、「コブシハジカミ」(ハジカミはサンショウのこと)ともよばれる[9][8][13][7]地域ちいきによってはコブシのはな時期じきいね苗代なわしろたねまきをしたことから、コブシは「タウチザクラ(田打たうちさくら)」や「タネマキザクラ(たねまきさくら)」ともよばれた[9][7][15]北海道ほっかいどう松前まさき地方ちほうでは、遠見とおみだとさくらているが花期かきさくらよりはやいことから、「ヒキザクラ」、「ヤチザクラ」、「シキザクラ」などともばれる[16]。また同様どうようさくら先駆さきがけてくことと、はなきのよいとしには豊作ほうさくになるとされることから、「マンサク」(「く」、「満作まんさく」の)とのもある(標準ひょうじゅん和名わみょうマンサクとよばれる植物しょくぶつべつ植物しょくぶつである)[16][17]栃木とちぎけんではコブシのはなころ目安めやすサトイモえつけをおこなったため、「いもはな」とばれる[9]

アイヌでは「オマウクㇱニ(omawkusni)」、「オㇷ゚ケニ(opkeni)」とばれる。前者ぜんしゃ原義げんぎは「そこ・香気こうきとおる・」を意味いみする「オマウクㇱニ(o-maw-kus-ni)」からとされ、後者こうしゃはそのにおいにさそわれて病魔びょうまることをふせぐためのめいであり、「放屁ほうひする・」を意味いみする「オㇷ゚ケニ(opke-ni)」を原義げんぎとするとされる[18][17]。しかし、前者ぜんしゃについても同音どうおんで「しりふうとおる・」とも解釈かいしゃくできることから、当初とうしょはどちらもおな意味いみで、前者ぜんしゃについてだんだんと意味いみ変化へんかしていったのではないか、とかんがえられている[18]

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

落葉らくよう広葉樹こうようじゅしょう高木たかぎからだい高木たかぎ[19][20]だかは 5 - 20メートル (m) [8]みきは1ほんちで直立ちょくりつし、直径ちょっけいはおおむね 20 - 60センチメートル (cm) にたっする[21][22]下図したず1a, b)。生長せいちょう比較的ひかくてきはやく、えだ均整きんせいととのった円錐えんすいがたからたまごがたがたになるが[10][23]混生こんせいするものはえだぶりがみだれる[23]けいひろがりは半径はんけい 1 m 程度ていど支持しじりょくよわ[17]樹皮じゅひ灰白色かいはくしょく平滑へいかつだがかわがある[10][24][25]下図したず1c)。わか樹皮じゅひひかりたり具合ぐあいしろっぽくえる[23]いちねんえだむらさき緑色みどりいろえだ一周いっしゅうするしろっぽいたくこん目立めだ[23][24]

1a. がた花期かき
1b. がた
1c. 樹皮じゅひ

互生ごせい倒卵形とうらんけいからこう倒卵形とうらんけいながさ 5 - 15 cm、はば 3 - 8 cm、ぜんえんでやや波打なみうち、先端せんたんみじか突出とっしゅつし、基部きぶはくさびがた[7][8][20][19][10][24][22][25]下図したず1d, e)。表面ひょうめん緑色みどりいろ裏面りめんあわ緑色みどりいろ葉脈ようみゃくじょうがある[22][25]葉脈ようみゃくはねじょうがわみゃくは8–10たい[25]葉柄ようへいながさ1 - 1.5 cm[24][22][25]あきには黄葉こうようする[24]えだには精油せいゆふくまれ、んだりえだやすと芳香ほうこうしょうじる[15][14][24]えだふくまれる精油せいゆとして、d-リモネンシメンシネオールd-ネロリドールカンフルなどが報告ほうこくされている[26]ながさ 1 - 1.5 cm、灰色はいいろふくおおわれる[24][27]下図したず1f)。こんはV字形じけい、維管たばこんが8 - 12つく[23][24]花芽かがおおきくちょうたまごがたながさ 2 - 2.5 cm、しろながい軟毛でおおわれる[24][27][23]下図したず1f)。うろこたく2まい葉柄ようへい基部きぶ合着あいぎした帽子ぼうしじょう構造こうぞうである[23]下図したず1f)。

1d.
1e. 果実かじつ
1f. 花芽かが

花期かき早春そうしゅん(3 - 4がつ)、日本にっぽんさんモクレンるいなかでは早咲はやざきの部類ぶるいであり[8][15][28]展開てんかいさきだって、小枝さえ先端せんたん直径ちょっけい 6 - 10 cm のはな1個いっこずつつける[24][22][19][27]下図したず1g, h)。しばしばはな基部きぶ小型こがたが1まいつき[8][10][22]下図したず1g)、よくタムシバけないことで見分みわける[15]はなへんはふつう9まいで3まいずつ3りんにつき、さい外輪がいりんの3まいちいさくこう線形せんけいがくへんじょう下図したず1h)、内側うちがわの6まい花弁はなびらじょうながさ5 - 6 cmとおおきく、白色はくしょく基部きぶはしばしば淡紅あわべにしょくびる[10][19][15][24][22]下図したず1g, h)。開花かいか数日すうじつほどではなへんちてしまう[7]しべ多数たすうあわ黄色きいろ、らせんじょうにつく[10][24][22]下図したず1i)。しべ多数たすううす緑色みどりいろ花軸かじくにらせんじょうにつく[24][22][29]下図したず1i)。はなみつ分泌ぶんぴつせず、花粉かふん利用りようする甲虫かぶとむしハエハチなどによっておくこなされる[30][17]はなにはほのかな芳香ほうこうがあるが[19]においの成分せいぶんにはおおきな多様たようせいがあり、1) リナロールとリナロールオキシドるい、2) βべーた-オシメン、3) リモネン、4) ベンジルアルコールベンズアルデヒド、5) ベンジルシアニド、6) 2-アミノベンズアルデヒドをそれぞれ主成分しゅせいぶんとするものが報告ほうこくされている[31]。このような多様たようせい地理ちりてき分布ぶんぷとの相関そうかんはあまりない。コブシは早春そうしゅん目立めだはなをつけるため、においの種類しゅるい重要じゅうようせいひくく、このようなにおいの多様たようせいしょうじたとかんがえられている[31]

1g. はな
1h. はな左側ひだりがわはながくへんえる)
1i. しべぐんしべぐん
1j. 種子しゅし果実かじつ

果実かじつはやや扁平へんぺい球形きゅうけいふくろはてとなり、同一どういつ花軸かじくについた数個すうこからじゅうすうふくろはて癒合ゆごうしてながさ 5 - 15 cm、所々ところどころにこぶが隆起りゅうきした不整ふせいちょう楕円だえんがた集合しゅうごうはてとなる[8][12][10][32][24][22]うえ1e, j)。未熟みじゅくはて緑色みどりいろであるが、あき(9 - 10月ころ)に果実かじつあかじゅくし、きれひらけしてあか種皮しゅひつつまれた種子しゅしがこぼれし、たまがら由来ゆらいするしろいとがる[7][19][20][33][24]うえ1j)。種子しゅしじんがたからしんがた種皮しゅひ外層がいそうあかく、中層ちゅうそう肉質にくしつ内層ないそうくろ[32]おもとりによって種子しゅし散布さんぷされるが、テンによる散布さんぷ報告ほうこくされている[30][17]染色せんしょくたいかずは 2n = 38(2ばいたい[22]

分布ぶんぷ生育せいいく[編集へんしゅう]

2. コブシの巨木きょぼく茨城いばらきけん猿島さしまぐん五霞ごかまち

日本にっぽん北海道ほっかいどう本州ほんしゅう東海とうかい地方ちほうのぞく)、九州きゅうしゅう一部いちぶのみ)、および韓国かんこく済州さいしゅうとう温帯おんたいから暖帯だんたい上部じょうぶ分布ぶんぷする[30][20]丘陵きゅうりょうたいから山地さんちたいのやや湿しめった場所ばしょ生育せいいくする[20][13][25][9][34]

自然しぜん分布ぶんぷしていない地域ちいきふくめ、北海道ほっかいどうから九州きゅうしゅうまでにわ公園こうえんひろうえ栽され、また街路がいろじゅとされる[20][27]ヨーロッパ北米ほくべいなど海外かいがいでも観賞かんしょうよううえ栽されている[9]

人間にんげんとのかかわり[編集へんしゅう]

栽培さいばい[編集へんしゅう]

3a. うえ栽されたコブシ(カッセルドイツ

早春そうしゅんはなうつくしく、またがたととのっていることから、公園こうえん庭木にわき街路がいろじゅとしてうえ栽されることもある[22][30][17][9][8][14]おおきくなるため庭木にわきとするにはひろ空間くうかん必要ひつようとなるが、おおきなしろはなサクラよりはやはじめ、はるおとずれをたのしめるにわとなる[35]。コブシは1879ねんヨーロッパ導入どうにゅうされ、また北米ほくべいでもさかんにうえ栽されている[9]みぎ3)。

なたから半日はんにちかげこのみ、成長せいちょう速度そくどはやく、土壌どじょうしつ全般ぜんぱんふか[15]ぞううえは、実生みしょうによる[19]実生みしょうあきおこなわれ、あき採取さいしゅしたたねゆか蒔し、2 - 3ねん定植ていしょくする[19]は3がつ中旬ちゅうじゅんから下旬げじゅんごろおこない、はつまえ前年ぜんねんえだを15 cmほどのながさにり、地面じめん[19][17]定植ていしょくは、日当ひあたりのよい場所ばしょえらんでおこなわれる[19]。ただし支持しじりょくよわ移植いしょくむずかしいため、移植いしょくする場合ばあい前年ぜんねん根回ねまわしをする必要ひつようがある[17]剪定せんていこのまないので、1 - 2がつか5がつに、不要ふようえだ程度ていどにする[15]施肥せひ必要ひつようがない[15]丈夫じょうふ病虫害びょうちゅうがいすくなく、がかからず栽培さいばい容易よういである[36]病虫害びょうちゅうがいはほとんどない[9]。また台木だいぎにされることがある[20]

薬用やくよう[編集へんしゅう]

生薬きぐすり辛夷こぶし[編集へんしゅう]

コブシやタムシバシモクレンハクモクレンはなつぼみ風通かぜとおしのよい場所ばしょまたは天日てんじつかわかしたものは、辛夷こぶししんいとよばれる生薬きぐすりとなり、鼻炎びえん蓄膿症ちくのうしょう頭痛ずつうめまい効能こうのうがあるとされる[19][13][8][19]漢方かんぽう処方しょほうでは葛根かずらね加川かがわ辛夷こぶしかっこんとうかせんきゅうしんい辛夷こぶしきよしはいしんいせいはいとう配合はいごうされる[37][38][39]民間みんかんでは、1にちりょう2 - 10グラム辛夷こぶしを300 - 400ミリリットルみず半量はんりょうになるまでせんじ、1にち3かいけて服用ふくようする用法ようほうられている[19][13]蓄膿症ちくのうしょう花粉かふんしょうはなづまりに、よくくともされる[13]。また、乾燥かんそうした辛夷こぶし粉末ふんまつにし、1かい0.1 - 0.2グラムを白湯さゆ服用ふくようしてもよいともいわれている[13]身体しんたいあたためる薬草やくそうのため、多量たりょうむとめまいや充血じゅうけつこすこともある[13]。コブシの辛夷こぶしは、アルカロイドのコクラウリン、モノテルペンリモネンシネオールフェニルプロパノイドエストラゴールなどをふく[38][39][40]。タムシバの辛夷こぶしことなり、サフロールメチルオイゲノールなどの芳香ほうこうぞく化合かごうぶつふくまない[40]東北とうほく東部とうぶから関東かんとう北部ほくぶのものはカンフルまったふくまないが、東北とうほく日本海にほんかいがわから西日本にしにほんのものはカンフルをおおふく[40]

その薬用やくよう[編集へんしゅう]

コブシのつぼみは、芳香ほうこうりょうにも利用りようされる[19]

かつてアイヌは、樹皮じゅひえだせんじて風邪かぜやくなどとしていた[17][14]。ただし、樹皮じゅひ有毒ゆうどくなので注意ちゅういようする[19]

食用しょくよう飲用いんよう[編集へんしゅう]

はな砂糖さとうにしたり、うすころもをつけててんぷら調理ちょうりされたりもする[14]あか種子しゅしあつめて焼酎しょうちゅうなどにけておくと、一風いっぷうわったかおりの果実かじつしゅつくることができる[14]

ざい[編集へんしゅう]

ざい家具かぐ器具きぐ細工ざいくぶつもちいられる[22][17]建材けんざいとして、樹皮じゅひけたまま茶室ちゃしつはしらもちいられることがある[よう出典しゅってん]。またすみ金属きんぞく研磨けんまよう使つかわれることがある[17]

文化ぶんか文学ぶんがく[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは古来こらいより農民のうみんとのえんふかく、北海道ほっかいどう東北とうほく地方ちほう信越しんえつ地方ちほうなどではコブシの開花かいか仕事しごとはじめる目安めやすとすることがあり[17]、そのため前述ぜんじゅつの「田打たうさくら」「マンサク」などの異名いみょうばれた[41][21][42][17]。また佐渡さわたりでは、コブシのはなころイワシれるとされた[17]

アイヌ文化ぶんかにおいても、はなきで豊作ほうさく豊漁ほうりょううらな文化ぶんかがあったほか、よけのためにやしたり、まど戸口とぐちみずおけえだ文化ぶんかがあった[43]

コブシ(辛夷こぶし)は仲春ちゅうしゅう季語きごである[44]はるおとずれを象徴しょうちょうするはなとして、せん昌夫まさおのヒットきょく北国きたぐにはる」にもうたわれている[42][9]。コブシの花言葉はなことばは「あいらしさ」、「友情ゆうじょう」、「信頼しんらい」である[7][45]

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

学名がくめい[編集へんしゅう]

コブシの学名がくめいとしては、一般いっぱんてきMagnolia kobus DC.1817もちいられる[1][5][4]。ただし、この学名がくめいはタイプ指定してい問題もんだいがあり、Magnolia praecocissima Koidz.1929もちいるべきとする意見いけんもある[46]

モクレンぞく複数ふくすうぞく細分さいぶんする場合ばあいは、コブシは Yulania分類ぶんるいされることがある(Yulania kobus (DC.) Spach1839[5][1]。しかし2022ねん現在げんざい、コブシはふつうモクレンぞくふくめられ、モクレンぞくのハクモクレンぶし[2](section Yulania)に分類ぶんるいされる[3]

キタコブシ[編集へんしゅう]

4a. キタコブシの

コブシのうち、北海道ほっかいどうから東日本ひがしにっぽん日本海にほんかいがわ分布ぶんぷするものはが 10–20 × 6–10 cm とややおおきくうすく、はなもややおおきく、変種へんしゅキタコブシMagnolia kobus var. borealis Sarg.1908)としてけられることがある[24][22][30][47]みぎ4a)。形態けいたい注目ちゅうもくすると、コブシの分布ぶんぷいきなか北緯ほくい36付近ふきん境界きょうかいがあることがしめされている[30]。ただしキタコブシともと変種へんしゅのコブシの差異さいはそれほど明瞭めいりょうではなく、分類ぶんるいがくてきけないこともおお[30][47]

かくマイクロサテライト研究けんきゅうから、コブシは北緯ほくい39付近ふきんさかい遺伝いでんてきけられることが示唆しさされている[30]。また北方ほっぽう系統けいとう単一たんいつみどりたいDNAハプロタイプから構成こうせいされるのにたいし、南方みなかた系統けいとうでは3種類しゅるいのハプロタイプが検出けんしゅつされている[30]。ただし形態けいたいてき差異さい(キタコブシともと変種へんしゅのコブシ)とこの2つの遺伝いでんがた完全かんぜんには対応たいおうしておらず、北方ほっぽう系統けいとう形態けいたいてきにキタコブシであるものだけで構成こうせいされているが、南方みなかた系統けいとうにはキタコブシとコブシの両者りょうしゃふくむことが報告ほうこくされている[30]

コブシモドキ[編集へんしゅう]

4b. コブシモドキ
4c. コブシモドキのはな

コブシのきんえんしゅとして、コブシモドキ学名がくめいMagnolia pseudokobus S.Abe & Akasawa1954)が記載きさいされている[30][21]記載きさいのもととなったコブシモドキの個体こたいたかさ 1 m ほどの低木ていぼくかぶからえだ地面じめんってせっした部分ぶぶんからており(そのため「ハイコブシ」の別名べつめいもある)、がコブシより若干じゃっかんおおきめでながさ20 cm、はば8 - 10 cm以上いじょう開花かいかが4がつ中旬ちゅうじゅんとコブシよりややおそはなおおきい(直径ちょっけい12 - 15 cm)[30][10]みぎ4c)。また3ばいたいであり、種子しゅしつくらない[30]。コブシは四国しこくには分布ぶんぷしていないが、この個体こたいは1948ねん阿部あべきんいち赤澤あかざわによって徳島とくしまけん相生あいおいまち発見はっけんされ、この1個いっこからだのみがられていたが、現在げんざいではこの個体こたい存在そんざいせず、徳島とくしまけん相生あいおい森林しんりん美術館びじゅつかんをはじめとした数箇所すうかしょ当時とうじかぶからでクローン栽培さいばいしたものが現地げんちがい保存ほぞんされている[30]みぎ4b)。このように栽培さいばいされたものは、たかさ 15 m、むねだか直径ちょっけい 15 cm の直立ちょくりつ高木たかぎとなる[30]環境省かんきょうしょうレッドデータブックでは、コブシモドキは野生やせい絶滅ぜつめつ(EW)、徳島とくしまけんのレッドデータブックでは絶滅ぜつめつ評価ひょうかされている[48]

かくみどりたいDNA解析かいせきからは、コブシモドキはごく最近さいきんになってコブシからしょうじた3ばいたいであることがしめされ、うえ栽個たいからの逸出いっしゅつ由来ゆらいする可能かのうせいたかいとされている[30]。そのため、コブシモドキを独立どくりつしゅとはせず、コブシの品種ひんしゅMagnolia kobus f. pseudokobus)とすることが提唱ていしょうされている[30]

類似るいじしゅ[編集へんしゅう]

4d. シデコブシとコブシの交雑こうざつ品種ひんしゅ ‘Leonard Messel’
4e. タムシバとコブシの交雑こうざつ品種ひんしゅ ’Wada’s Memory’

コブシの類似るいじしゅとしてはシデコブシタムシバがあり、系統的けいとうてきにもきんえんである[24][22][3]

シデコブシ小型こがたいちねんえだみつにあり、先端せんたん突出つきだせず、葉柄ようへいみじかく(2–5 mm)、花弁はなびらかずがふつう12–24まいおおてんでコブシとはことなる[24][22]生育せいいく環境かんきょう類似るいじするが、シデコブシが分布ぶんぷする東海とうかい地方ちほうにコブシは自然しぜん分布ぶんぷしていない[30]。しかしコブシはひろうえ栽されているため、シデコブシとのたねあいだ交雑こうざつこることがあり、そのような雑種ざっしゅMagnolia × loebneri Kache, 1920 とよばれる[9][49]。また園芸えんげいにおいても、コブシとシデコブシの交雑こうざつ由来ゆらいするさまざまな園芸えんげい品種ひんしゅ(’Leonard Messel‘、’Ballerina‘、’Spring Snow‘、’Merrill’ などの園芸えんげい品種ひんしゅ)が作出さくしゅつされている[50]みぎ4d)。

タムシバ細長ほそながうら白色はくしょくびるてん鱗片りんぺんであるてんはな基部きぶがつかないてんがくへん比較的ひかくてきおおきく(花弁はなびらちょうの1/3から1/2)であるてんなどでコブシとはことなる[24][22][30]。また生態せいたいてきにもより乾燥かんそうした斜面しゃめん尾根おね生育せいいくする[34]。コブシと生育せいいく環境かんきょうことなるが分布ぶんぷいきかさなっており、ときに自然しぜんしゅあいだ交雑こうざつこる[30]。コブシとタムシバの雑種ざっしゅはシバコブシ(Magnolia × kewensis Pearce, 1952)とよばれ、これに由来ゆらいする園芸えんげい品種ひんしゅもある(’Wada’s Memory’)[9]みぎ4e)。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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  • コブシ”. みんなの趣味しゅみ園芸えんげい. NHK出版しゅっぱん. 2022ねん3がつ12にち閲覧えつらん
  • コブシ”. 植物しょくぶつデータベース. 熊本大学くまもとだいがく薬学部やくがくぶ 薬草やくそうえん. 2022ねん3がつ10日とおか閲覧えつらん
  • コブシ (モクレンMagnolia kobus”. 重井しげい薬用やくよう植物しょくぶつえん. 2022ねん3がつ13にち閲覧えつらん
  • Magnolia kobus”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022ねん3がつ6にち閲覧えつらん
  • GBIF Secretariat (2022ねん). “Magnolia kobus DC.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022ねん3がつ6にち閲覧えつらん