ゼニガタアザラシ

ゼニガタアザラシ
ゼニガタアザラシ P. vitulina stejnegeri
保全ほぜん状じょう況きょう評価ひょうか
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
ドメイン : 真ま核かく生物せいぶつ Eukaryota 界さかい : 動物界どうぶつかい Animalia 門もん : 脊索せきさく動物どうぶつ門もん Chordata 亜あ門もん : 脊椎動物せきついどうぶつ亜あ門もん Vertebrata 綱つな : 哺乳ほにゅう綱つな Mammalia 目め : 食肉しょくにく目め Carnivora 科か : アザラシ科か Phocidae 亜あ科か : アザラシ亜あ科か Phocinae 属ぞく : ゴマフアザラシ属ぞく Phoca 種たね : ゼニガタアザラシ P. vitulina
学名がくめい
Phoca vitulina Linnaeus, 1758
和名わみょう
ゼニガタアザラシ
英名えいめい
Harbor Seal Harbour Seal Common Seal

ゼニガタアザラシ（銭形ぜにがた海豹かいひょう、学名がくめい：Phoca vitulina）はゴマフアザラシ属ぞくに属ぞくするアザラシの一種いっしゅ。日本にっぽん沿岸えんがんに定住ていじゅうする唯一ゆいいつのアザラシである。

分布ぶんぷ

太平洋たいへいようから大西おおにし洋ひろしまで広ひろく分布ぶんぷする。日本にっぽんに定住ていじゅうする唯一ゆいいつのアザラシであり北海道ほっかいどう東部とうぶの襟裳岬えりもみさきや大黒島おおくろしま・歯舞はぼまい群島ぐんとう等ひとしに生息せいそくする。

ゼニガタアザラシの分布ぶんぷ
（注ちゅう:正確せいかくには日本にっぽんでは北海道ほっかいどう東部とうぶのみに分布ぶんぷしている）

分類ぶんるい

ゼニガタアザラシは生息せいそく地域ちいきに応おうじて次つぎの5亜種あしゅに分わけられている。

• P. v．concolor Western Atlantic Harbor Seal（西にし大西洋たいせいよう）
• P. v．richardii Eastern Pacific Harbor Seal（東ひがし太平洋たいへいよう）
• P. v．stejnegeri Western Pacific Harbor Seal（西太平洋にしたいへいよう）
• P. v．vitulina Eastern Atlantic Harbor Seal（東大とうだい西洋せいよう）
• P. v．mellonae Lac Des Loups Marins Seal（カナダのアンガヴァ半島はんとうのハドソン湾わん流域りゅういきの河川かせんや湖みずうみに生息せいそく）

うちP. v．mellonaeは陸封りくふう型がたで、淡水たんすいに生息せいそくする。日本にっぽんに定住ていじゅうする亜種あしゅ(P. v. stejnegeri）はアリューシャン列島れっとう・千島ちしま列島れっとう・北海道ほっかいどうに生息せいそくする亜種あしゅである。この亜種あしゅは他たの亜種あしゅに比くらべ体たいの表面ひょうめんに占しめる黒色こくしょく部分ぶぶんが多おおく、暗色あんしょく型がたの亜種あしゅである。なおP. vitulina stejnegeriをP. vitulinaとは別種べっしゅ（Phoca kurilensisまたはPhoca insularis) とする説せつもある。

形態けいたい

体長たいちょう・体重たいじゅうはメスの成獣せいじゅうで120-170cm・50-150kg　オスの成獣せいじゅうで150-200cm・70-170kgになる。黒地くろじに白しろい穴あなあき銭ぜにのような斑紋はんもんを持もつのでこの名前なまえが付つけられた。体からだの色いろには暗色あんしょく型がたと明色めいしょく型がたがあるが、日本にっぽんに生息せいそくしている個体こたいはほとんどが暗色あんしょく型がたである。新生児しんせいじの産毛うぶげは母ははの胎内たいないで白しろい産毛うぶげが抜ぬけてしまうので、大人おとなと同おなじ銭ぜに型がた模様もようで生うまれてくる。他たのゴマフアザラシ属ぞくのアザラシが氷上ひかみで出産しゅっさんするのに対たいし、ゼニガタアザラシは岩場いわばで出産しゅっさんするので大人おとなと同おなじ銭ぜに型がた模様もようであるほうが天敵てんてきに狙ねらわれにくいという利点りてんがある。

生態せいたい

日本にっぽんに生息せいそくする亜種あしゅは嫌いや氷ごおり性せいで海うみ氷ごおり、流氷りゅうひょうの来こない岩場いわばで定住ていじゅう生活せいかつをする。北海道ほっかいどうの太平洋たいへいよう側がわのいくつかの岩礁がんしょうに定住ていじゅうしている個体こたい群ぐんもある。

回遊かいゆう魚ぎょ、底そこ生魚なまざかな、外洋がいよう魚ぎょやタコやエビやイカなどを捕食ほしょくする。

性せい成熟せいじゅく年齢ねんれいはメスで4-6歳さい。一夫多妻いっぷたさいと考かんがえられている。岩場いわばで出産しゅっさんし子供こどもは大人おとなと同おなじ模様もようで産うまれてくる。出産しゅっさんは5－6月がつ。寿命じゅみょうはオスで約やく20年ねん、メスで約やく30年ねん。日本にっぽん国内こくないの水族館すいぞくかんで同おなじゴマフアザラシ属ぞくのゴマフアザラシと交雑こうざつした記録きろくがある。

保全ほぜん状態じょうたい評価ひょうか

個体こたい数すうは全ぜん世界せかいで40-50万まん頭とう。アラスカ海域かいいきに生息せいそくするゼニガタアザラシは約やく27万まん頭とうと推定すいていされている。2008年ねんに発表はっぴょうされた国際こくさい自然しぜん保護ほご連合れんごうのレッドリストでは、軽度けいど懸念けねん（Least Concern）と評価ひょうかされている。

• LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))
  

日本にっぽんでは当時とうじのゼニガタアザラシの捕獲ほかく数すうから1940年ねんの生息せいそく数すうは1500-4800頭とうと大おおまかに推定すいていされている。しかし、1960-1970年ねんには600-900頭とうまで減少げんしょうしたとされる。その原因げんいんは不明ふめいな点てんが多おおいが、乱獲らんかく、アザラシの上陸じょうりく場じょうの消滅しょうめつ、漁船ぎょせんや調査ちょうさ船せんによる上陸じょうりくの妨害ぼうがい、漁業ぎょぎょうの定置網ていちあみに迷まよい込こむことによる混こん獲え、コンブ漁場ぎょじょう確保かくほのための岩礁がんしょう爆破ばくは作業さぎょうなどが背景はいけいにあるという指摘してきがある。

1973年ねんにはゼニガタアザラシを国くにの天然記念物てんねんきねんぶつに指定していするための運動うんどうが研究けんきゅう者しゃを中心ちゅうしんに始はじまった。当初とうしょは消極しょうきょく的てきであった文化庁ぶんかちょうや北海道ほっかいどう教育庁きょういくちょうも賛成さんせいし、1974年ねんに文化財ぶんかざい保護ほご審議しんぎ会かいは天然記念物てんねんきねんぶつに指定していするように文部もんぶ大臣だいじんに答申とうしんした。それに対たいし、地元じもとの漁業ぎょぎょう関係かんけい団体だんたいからは、威嚇いかく射撃しゃげきの容認ようにん、間あいだ引びきの実施じっし、漁業ぎょぎょう被害ひがいの補償ほしょうなどが要求ようきゅうされた。結局けっきょく、折おり合あいがつくことはなく、天然記念物てんねんきねんぶつとなることはなかった。当時とうじは漁業ぎょぎょう関係かんけい者しゃを中心ちゅうしんにゼニガタアザラシを漁業ぎょぎょうの害がい獣じゅうとみなす風潮ふうちょうが強つよかった。1980年ねん代だい前半ぜんはんに日本獣医畜産大学にほんじゅういちくさんだいがく（現げん日本にっぽん獣医じゅうい生命せいめい科学かがく大学だいがく）の羽山はやま伸一しんいち助教授じょきょうじゅ（当時とうじ）が水産庁すいさんちょうに保護ほごの対策たいさくを講こうじてほしいと進言しんげんしたところ、担当たんとう官かんに「そんな害がい獣じゅうはむしろ征伐せいばつしなければならない」と言いわれたという逸話いつわがある。保護ほごは進すすむことなく、1970年代ねんだいから1980年代ねんだいにかけての生息せいそく数すうは約やく350頭とうと推定すいていされ、絶滅ぜつめつの危機ききに瀕ひんする状況じょうきょうが継続けいぞくしていた。

1980年代ねんだいになると文化財ぶんかざいに指定していするという目的もくてきから漁業ぎょぎょうとの共存きょうぞんへと変かわり始はじめた。1982年ねんには帯広畜産大学おびひろちくさんだいがくや北海道大学ほっかいどうだいがくが中心ちゅうしんとなって「ゼニガタアザラシ研究けんきゅうグループ」が結成けっせいされた。また、「ゼニガタアザラシの保護ほごと生態せいたいに関かかわるシンポジウム」が1985年ねんに開催かいさいされ、適正てきせいな保護ほご管理かんりと対策たいさくが必要ひつようとの意見いけんがまとめられた。1990年ねんには北海道ほっかいどうえりも町まちにて「えりもシール･クラブ」というアザラシとの共存きょうぞん共栄きょうえいを考かんがえる会かいが設立せつりつした。これは漁業ぎょぎょう被害ひがいを受うけている地元じもと漁師りょうしや旅館りょかんの主人しゅじんなどの市民しみんによって運営うんえいされており、その活動かつどうは広ひろく知しられ、朝日新聞あさひしんぶん･海うみの環境かんきょう賞しょうなどを受賞じゅしょうしている。ゼニガタアザラシに対たいする行政ぎょうせいの認識にんしきも変化へんかし、環境庁かんきょうちょう（当時とうじ）が1991年ねんに発行はっこうした『日本にっぽんの絶滅ぜつめつのおそれのある野生やせい生物せいぶつ』では危急ききゅう種しゅに指定していされ、1998年ねんのレッドリストでは絶滅ぜつめつ危惧きぐIB類るいに指定していされた。水産庁すいさんちょうでも独自どくじのレッドデータブックにて危急ききゅう種しゅに選定せんていしている。

その後ご、2000年代ねんだいになると1980年代ねんだいから上陸じょうりく場じょうの数かずは増ふえていないものの、個体こたい数すうは増加ぞうか傾向けいこうをみせ、ゼニガタアザラシ研究けんきゅうグループの調査ちょうさによれば2004年ねんには約やく900頭とうの生息せいそくが確認かくにんされるようになった。このように個体こたい群ぐんが安定あんていしてきたことから、2012年ねんの環境省かんきょうしょうのレッドリストでは絶滅ぜつめつ危惧きぐII類るいに引ひき下さげられた。そして、2015年ねんには準じゅん絶滅ぜつめつ危惧きぐにさらに引ひき下さげられた。

アザラシ猟りょうは1990年代ねんだい前半ぜんはん以降いこう行おこなわれておらず、岩礁がんしょう爆破ばくはも作業さぎょう自体じたいが危険きけんであるため実施じっしされなくなった。一方いっぽうで、混こん獲えは2000年代ねんだいになっても発生はっせいしており、日本にっぽんで報告ほうこくされるアザラシの混こん獲えの9割わり以上いじょうがゼニガタアザラシであり、特とくに若齢じゃくれい個体こたいが網あみにかかりやすい傾向けいこうが報告ほうこくされている。2005年ねんに道東どうとうで報告ほうこくされたゼニガタアザラシの混こん獲え数すうは合計ごうけい222頭とうとなっている。ただし、根室半島ねむろはんとう納沙布岬のさっぷみさきの事例じれいでは2000年代ねんだいの混こん獲え数すうはゼニガタアザラシが絶滅ぜつめつに瀕ひんしていた1980年代ねんだいと比くらべて大おおきく増減ぞうげんはしておらず、個体こたい数すうを減少げんしょうさせる主おもな要因よういんになるとは考かんがえにくいという指摘してきもある。

近年きんねん、アザラシは観光かんこう資源しげんとしても着目ちゃくもくされウォッチングツアーも行おこなわれるようになってきた。一方いっぽうで、漁業ぎょぎょう被害ひがいを発生はっせいさせている事実じじつは変かわらず、さらに生態せいたい系けいへの悪影響あくえいきょうも懸念けねんされている。また、個体こたい数すうの増加ぞうかに伴ともない、ゼニガタアザラシの個体こたいサイズが小型こがた化かしているとの報告ほうこくもある。そうした中なか、環境省かんきょうしょうはゼニガタアザラシの適正てきせいな個体こたい数すう管理かんりに乗のり出だし始はじめた。捕と殺ころせに関かんしては動物どうぶつ愛護あいごなどの観点かんてんから慎重しんちょうな対応たいおうを求もとめる意見いけんも出でている。また、ゼニガタアザラシは道東どうとう沿岸えんがんと千島ちしま列島れっとう南部なんぶを行いき来きしていることが示しめされているため、より広域こういき的てきな調査ちょうさを実施じっしし正確せいかくな個体こたい数すうを推定すいていすることが求もとめられている。

• 準じゅん絶滅ぜつめつ危惧きぐ（NT）（環境省かんきょうしょうレッドリスト）
  
• 北海道ほっかいどう版ばんレッドデータブック　-絶滅ぜつめつ危急ききゅう種しゅ

日本人にっぽんじんとの関係かんけい

• 2007年ねんに北海道ほっかいどう豊頃とよころ町まちに出没しゅつぼつするアザラシにコロちゃんの愛称あいしょうがつけられたが、3人にんの見物人けんぶつにんがコロちゃんに噛かまれる事故じこが起おきた。見物人けんぶつにんがペット感覚かんかくでゼニガタアザラシに接せっした為ためとみられる。アザラシは野生やせいの肉食にくしょく獣じゅうなので、むやみに近ちかづくのは危険きけんである。

ギャラリー

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  鴨川かもがわシーワールド
• 
  鴨川かもがわシーワールド
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  P. v．vitulina（海外かいがいの個体こたい）

参考さんこう文献ぶんけん

書籍しょせき

• Ronald M. Nowak " Walker's Mammals of the World (Walker's Mammals of the World)" Baltimore : Johns Hopkins University Press (1999). ISBN 0-8018-5789-9
• 和田わだ一雄かずお・伊藤いとう徹とおる魯　『鰭ひれ脚あし類るい : アシカ・アザラシの自然しぜん史し』東京とうきょう : 東京とうきょう大学だいがく出版しゅっぱん会かい 、1999年ねん、284頁ぺーじ。 ISBN 4-13-060173-3
• 和田わだ一雄かずお編著へんちょ 『海うみのけもの達たちの物語ものがたり : オットセイ・トド・アザラシ・ラッコ』東京とうきょう : 成山なりやま堂どう書店しょてん、2004年ねん　172頁ぺーじ。 ISBN 4-425-98131-6
• 斜里しゃり町立ちょうりつ知床しれとこ博物館はくぶつかん編へん 『知床しれとこのほ乳類にゅうるい』斜里しゃり町まち : 斜里しゃり町まち教育きょういく委員いいん会かい、 2000年ねん。　ISBN 4-89453-081-3
• 和田わだ一雄かずお・新妻にいづま昭夫あきお・鈴木すずき正嗣まさつぐ・伊藤いとう徹とおる魯・羽山はやま伸一しんいち 編へん『ゼニガタアザラシの生態せいたいと保護ほご』東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん会かい、1986年ねん。ISBN 978-4486009252。 
• 羽山はやま伸一しんいち『野生やせい動物どうぶつ問題もんだい』地ち人じん書しょ館かん、2001年ねん。ISBN 978-4805206898。 
• 北海道ほっかいどう『アザラシ類るい保護ほご管理かんり報告ほうこく書しょ』2006年ねん。 
• 阿部あべ永ひさし・石井いしい信夫しのぶ・伊藤いとう徹とおる魯・金子かねこ之これ史し・前田まえだ喜き四よん雄ゆう・三浦みうら慎悟しんご・米田よねだ政明まさあき『日本にっぽんの哺乳類ほにゅうるい 改訂かいてい版ばん』東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん会かい、2005年ねん。ISBN 4-486-01690-4。 
• 和田わだ一雄かずお『北きたの海獣かいじゅうたち-トド・アザラシ・オットセイと共存きょうぞんする未来みらいへ』彩いろどり流りゅう社しゃ、2010年ねん。ISBN 978-4779115295。 

論文ろんぶん

• 小林こばやし万里ばんり・石名坂いしなざか 豪ごう・角本かどもと千せん治おさむ・若田部わかたべ 久ひさ・小林こばやし由美ゆみ・清水しみず秋子あきこ「根室半島ねむろはんとう・納沙布岬のさっぷみさきにおけるサケ定置ていち網もうによるアザラシ類るいの 2002–2003年ねん混こん獲え数すう調査ちょうさ〜1982-1983年ねん調査ちょうさと比較ひかくして〜」『哺乳類ほにゅうるい科学かがく』第だい47巻かん第だい2号ごう、2007年ねん、207-214頁ぺーじ。 
• 朝倉あさくら由紀子ゆきこ・角本かどもと千せん治おさむ・楊 予よ禛・小林こばやし由美ゆみ・桜井さくらい泰憲やすのり「2006 年ねん根室半島ねむろはんとう納沙布のさっぷ地区ちくのサケ定置ていち網もうにおけるゼニガタアザラシPhoca vitulina stejnegeri 混こん獲え調査ちょうさ」『知床しれとこ博物館はくぶつかん研究けんきゅう報告ほうこく』第だい29巻かん、2008年ねん、23-30頁ぺーじ。 
• 小林こばやし由美ゆみ・和田わだ一雄かずお・廣こう吉よし勝治かつじ「海獣かいじゅう談話だんわ会かい　ゼニガタアザラシの被害ひがいをめぐって：地域ちいき社会しゃかい・水産すいさん経済けいざいの視点してんから」『哺乳類ほにゅうるい科学かがく』第だい51巻かん第だい1号ごう、2011年ねん、192-194頁ぺーじ。