ハドソン湾わん

ハドソン湾わん地図ちず

春はる5月がつ、湾わんの東ひがしの海岸かいがんでは流氷りゅうひょうが流ながれているが、湾わん中央ちゅうおうはまだ凍こおっている。

ハドソン湾わん（ハドソンわん、英語えいご: Hudson Bay、フランス語ふらんすご: baie d'Hudson）は、カナダ北東ほくとうにある面積めんせき123万まん平方へいほうkmにおよぶ大おおきな湾わん。その水深すいしんは比較的ひかくてき浅あさい。西経せいけい78度どから95度ど、北緯ほくい51度どから70度どまでの範囲はんいに広ひろがる。島しまが多おおく、多おお島とう海うみのひとつ。

湾内わんないにはオタワ諸島しょとう、ベルチャー諸島しょとう、アキミスキ島とうなどの島しまがあり、全すべてヌナブト準じゅん州しゅうに属ぞくしている。ハドソン湾わんの南部なんぶ、オンタリオ州しゅうとケベック州しゅうの境さかいに向むかってジェームズ湾わんが切きれ込こんでいる。また東ひがしはハドソン海峡かいきょうで大西おおにし洋ひろしに、北きたはフォックス海峡かいきょうとローズウェルカム海峡かいきょうからフォックス湾わんなどを経へて、北極ほっきょく海かいと繋つながっている。国際こくさい水路すいろ機関きかん（IHO）はハドソン湾わんを北極ほっきょく海かいの一部いちぶに分類ぶんるいしている。

ハドソン湾わんに注そそぐ河川かせんのうち大おおきなものは東ひがしのケベック州しゅうから注そそぐラ・グランド川かわおよび、ウィニペグ湖こから発はっしマニトバ州しゅうを流ながれる西にしのネルソン川かわ（支流しりゅう：ノースサスカチュワン川がわ、サウスサスカチュワン川がわ、サスカチュワン川がわ、ボウ川がわ、レッド川かわ）、およびチャーチル川かわである。また南みなみのオンタリオ州しゅうからはジェームズ湾わんにオールバニー川がわ、ムース川かわなどが流ながれ込こんでいる。ハドソン湾わんに流ながれる水系すいけいの流域りゅういきは北きたアメリカ大陸たいりくの中央ちゅうおう部ぶからハドソン湾わんを取とり囲かこむ島々しまじまに広ひろがり、面積めんせきは390万まん平方へいほうkmに及およぶ。カナダ国土こくどの半分はんぶんほど（ケベック州しゅうとオンタリオ州しゅうの北側きたがわの大だい部分ぶぶん、マニトバ州しゅうとサスカチュワン州しゅうのほとんど、アルバータ州しゅうの南みなみ半分はんぶん、ヌナブト準じゅん州しゅうの南東なんとう部ぶ）とアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの一部いちぶ（ノースダコタ州しゅう、ミネソタ州しゅう）も含ふくむ。

ハドソン湾わんという名前なまえは、1610年ねんに湾わんを探検たんけんしたヘンリー・ハドソン（Henry Hudson）にちなんでつけられた。先住民せんじゅうみんの東部とうぶクリー語ごではハドソン湾わんを「泥どろの水みず」という意味いみの「Wînipekw」（南部なんぶ方言ほうげん）または「Wînipâkw」（北部ほくぶ方言ほうげん）という。ウィニペグ湖こ（Lake Winnipeg）と語源ごげんは同様どうようである。

歴史れきし

ヘンリー・ハドソンは1610年ねん8月がつ、イギリス船せんディスカバリー号ごう（Discovery）でこの海域かいいきに達たっした。彼かれはイギリスやオランダの支援しえんを受うけながら三さん度どにわたり北米ほくべい大陸たいりくを迂回うかいするアジアへの最短さいたん航路こうろ（北西ほくせい航路こうろ）を見みつけようとしたが、四よん度目どめの航海こうかいでついにグリーンランドの西海岸にしかいがんに出でてハドソン湾わんまで達たっすることができた。彼かれは湾内わんないの地図ちず製作せいさくや測量そくりょうを行おこなったが、冬ふゆになると氷こおりに閉とじ込こめられ、ジェームズ湾わんで越冬えっとうした。春はるになって氷こおりが解とけ始はじめると彼かれは西にしへの航海こうかいを再開さいかいしようとしたが、厳きびしい航海こうかいと少すくない備蓄びちくに不満ふまんを募つのらせていた船員せんいんは1611年ねん6月がつ22日にちに反乱はんらんを起おこし、ハドソンとその部下ぶからは食料しょくりょうなしの小船こぶねで置おき去ざりにされそのまま行方ゆくえ知しれずとなった。

ルパート・ランド

60年ねん後ごの1668年ねんにイギリス船せんノンサッチ号ごう（Nonsuch）が湾内わんないに入はいり、沿岸えんがんのクリー系けい民族みんぞくらとビーバーの毛皮けがわを交易こうえきすることに成功せいこうした（それまでハドソン湾わん沿岸えんがんの良質りょうしつの毛皮けがわは、先住民せんじゅうみん同士どうしの交易こうえきで南みなみへ渡わたり、五大ごだい湖みずうみ周辺しゅうへんで活動かつどうするフランス商人しょうにんが独占どくせん的てきに扱あつかっていた）。これがきっかけで1670年ねんにハドソン湾わん会社かいしゃ（Hudson's Bay Company）が成立せいりつした。ハドソン湾わん会社かいしゃは、ハドソン湾わんおよび湾わんに流ながれ込こむ河川かせんの流域りゅういき全土ぜんど（ルパート・ランド Rupert's Land）における交易こうえきの独占どくせんを勅許ちょっきょされた。フランスはこれに対たいし何なん度ども軍隊ぐんたいを送おくり対抗たいこうしたが、1713年ねん4月がつのユトレヒト条約じょうやくでルパート・ランドに対たいする主張しゅちょうを放棄ほうきした。

ハドソン湾わん会社かいしゃは多おおくの砦とりでや交易こうえき所しょを、湾岸わんがんの大おおきな河川かせんの河口かこう付近ふきんに設もうけた（オンタリオ州しゅうのフォート・セヴァーン Fort Severn、マニトバ州しゅうのヨーク・ファクトリー York Factory やチャーチル Churchill など）。これらの戦略せんりゃく的てき要所ようしょに設もうけられた拠点きょてんはルパート・ランドの内陸ないりく探検たんけんの基地きちとなり、また河川かせんを伝つたって往来おうらいする先住民せんじゅうみんたちとの毛皮けがわ交易こうえきの場ばともなった。ハドソン湾わん会社かいしゃはこれら毛皮けがわを、モントリオールなどを経由けいゆせず最短さいたん距離きょりでヨーロッパへ直送ちょくそうし、巨利きょりを得えた。これらの交易こうえき所しょは20世紀せいき初頭しょとうまで使用しようされた。ハドソン湾わん会社かいしゃは Hudson's Bay Company と表記ひょうきされたが、ハドソン湾わん自体じたいは Hudson Bay が正式せいしき名称めいしょうとなっている。このため、湾わん名めいや会社かいしゃ名めいはしばしば混同こんどうされた上うえで誤記ごきされている。

ルパート・ランドはハドソン湾わん会社かいしゃと北西ほくせい会社かいしゃとの合併がっぺいによりさらに北極ほっきょく海かい方面ほうめんへ拡大かくだいしたが、1870年ねんにハドソン湾わん会社かいしゃの独占どくせん権けんは撤廃てっぱいされ、ルパート・ランドはカナダのノースウェスト準じゅん州しゅうの一部いちぶとなった。

地理ちり

気候きこう

年間ねんかんを通つうじ寒冷かんれいで、平均へいきん気温きおんはマイナス5℃である。水温すいおんは西岸せいがんで夏なつに最高さいこう9℃で、12月から6月がつに湾わんは結氷けっぴょうしているが、最近さいきん100年間ねんかんの気温きおん上昇じょうしょうにより、17世紀せいきに4か月げつしかなかった融とおる氷ごおり期間きかんが延のびてきた。

水域すいいき

ハドソン湾わんは南北なんぼく1,370km、東西とうざい1,050kmに広ひろがり、最大さいだい水深すいしん270mである。世界せかいの海洋かいように比くらべ、海水かいすいの塩しお分ぶん濃度のうどが低ひくい。これは、

1. 海水かいすいが余あまり蒸発じょうはつしない（年としのほとんどの期間きかん、海面かいめんが氷こおりで覆おおわれているため）
2. 地表ちひょうを通とおってきた大量たいりょうの水みずが湾わんに流ながれ込こむため（カナダの国土こくどの相当そうとう部分ぶぶんの雨水あまみずはハドソン湾わんに流ながれる）
3. さらに毎年まいとし流氷りゅうひょうが溶とけるたびに、河川かせんからの流入りゅうにゅう量りょうの三さん倍ばいの淡水たんすいが湾わんの表層ひょうそうに供給きょうきゅうされる
4. 塩分えんぶん濃度のうどの高たかい大西洋たいせいようとの出入でいり口ぐちや海水かいすいのやり取とりが少すくない

ことが理由りゆうに挙あげられる。 表面ひょうめんが凍こおるのは12月中旬ちゅうじゅんから6月がつ中旬ちゅうじゅんにかけて。

海岸かいがん

ハドソン湾わんは11月には凍結とうけつする。チャーチル川かわ付近ふきんで氷こおりを渡わたるホッキョクグマ

オンタリオ州しゅう北部ほくぶなど、湾わんの西部せいぶ沿岸えんがんは「ハドソン湾わん低地ていち（または、ジェームズ湾わん西方せいほうの低地ていちも含ふくめハドソン・ジェームズ低地ていち）」と呼よばれ、その面積めんせきは32万まん4,000平方へいほうkmにおよぶ。これら低地ていちは多おおくの川かわが流ながれる湿地しっちとなっており、低木ていぼくのほかトウヒやポプラが生はえるマスケグ（ムスケグ、muskeg）と呼よばれる特異とくいな泥炭でいたん地ちになっている。この泥炭でいたん地ちは、北きたのツンドラと南みなみのタイガ（針葉樹しんようじゅ林りん）との移行いこう地域ちいきである。湾わん周辺しゅうへんの土地とちは長年ながねんの氷河ひょうがによる侵食しんしょくや湾わんの縮小しゅくしょうにより削けずられた跡あとがある。内陸ないりく部ぶには、かつて湾わんが広ひろい時期じきの海岸かいがん線せんだった地形ちけいが多おおく残のこっている。こうした泥炭でいたん地ちは岩盤がんばんが地下ちか深ふかくにあり、地表ちひょうはぬかるむ湿地しっちや無数むすうの湖沼こしょうが主おもで夏なつは大量たいりょうの虫むしが舞まうため、家屋かおく・道路どうろの建設けんせつに適てきさず手てつかずの自然しぜんが残のこっている。

ハドソン湾わん低地ていちにはオンタリオ州しゅうのポーラー・ベア州立しゅうりつ公園こうえん、マニトバ州しゅうのワプスク国立こくりつ公園こうえん（wapusk とはクリー語ごで「ホッキョクグマ」の意味いみ）がある。この周辺しゅうへんの泥炭でいたん地ちは、ホッキョクグマが棲すむほか、ムース、カリブー、ホッキョクギツネ、フクロウ、ハヤブサなどの多様たような生物せいぶつが生いきる。海中かいちゅうにはワモンアザラシやセイウチ、ベルーガやイッカクやホッキョククジラなどがおり、とくにアザラシはホッキョクグマの貴重きちょうな食料しょくりょうとなる。近年きんねんは、温暖おんだん化かの影響えいきょうからか流氷りゅうひょうの量りょうと凍結とうけつ時間じかんが減へっており、たとえばザトウクジラやミンククジラ、シャチなどがより進出しんしゅつしてきている。

反対はんたいに、湾わんの東ひがしのケベック側がわ海岸かいがん（ラブラドル半島はんとう、およびその北部ほくぶのアンガヴァ半島はんとう）は、カナダ楯だて状じょう地ちの縁えんに当あたっており、岩いわが多おおく丘おかが連つらなっている。植生しょくせいはタイガとなっており、さらに北きたはツンドラになっている。

島しま

ハドソン湾わん、特とくに東側ひがしがわの海岸かいがん付近ふきんには多おおくの島しまが浮うかぶ。これらはすべてヌナブト準じゅん州しゅうの管轄かんかつに入はいっている。たとえば湾わんの南部なんぶ、ケベック寄よりにある比較的ひかくてき大おおきな群島ぐんとう、ベルチャー諸島しょとう（Belcher Islands）もその一ひとつである。

湾わんの入いり口くちは、世界せかい有数ゆうすうの面積めんせきの大おおきな島々しまじまでふさがれている。主おもな島しまは、西にしから順じゅんにサウサンプトン島とう（Southampton）、コーツ島とう（Coats）、マンセル島とう（Mancel）があり、フォックス湾わんとハドソン湾わんを分わけている。

地質ちしつ

氷こおり床ゆかの消失しょうしつによるリソスフェア上昇じょうしょうの割合わりあい（2007年ねんの調査ちょうさ）

20～18億おく年ねん前まえの原生代げんせいだいにこの地域ちいきでハドソン横断おうだん造山ぞうざん運動うんどう (Trans-Hudson orogeny)と呼よぶ大だい規模きぼな大陸たいりく衝突しょうとつが生しょうじた。その後ごカンブリア紀きは陸地りくちであったが、オルドビス紀きに海うみとなり、シルル紀きに再ふたたび隆起りゅうき運動うんどうが起おこり、デボン紀きには陸りく現物げんぶつを多おおく含ふくむ浅海せんかい堆積たいせき物ぶつが形成けいせいされた。

1960年代ねんだいに地球ちきゅうの重力じゅうりょく場じょうを地図ちず化かし始はじめた時とき、ハドソン湾わんに広大こうだいな低てい重力じゅうりょくが観測かんそくされた。最終さいしゅう氷ごおり期きのローレンタイド氷ごおり床ゆかによる地殻ちかくの圧縮あっしゅくが続つづいているためと当初とうしょ考かんがえられたが、GRACE人工じんこう衛星えいせいによる詳細しょうさいな観測かんそくで、それだけが重力じゅうりょく異常いじょうの原因げんいんでなく、マントル対流たいりゅうに起因きいんすることが分わかった。現在げんざいの観測かんそくでは、湾わんを中心ちゅうしんとした地域ちいきは年間ねんかんに17mmと、氷こおり床ゆか消失しょうしつによる地殻ちかくの上昇じょうしょうが世界せかいでも最もっとも大おおきい地域ちいきとなっている。

湾わんの南東なんとう部ぶには半円はんえん形がたの海岸かいがん線せん（ナスタポカ諸島しょとう弧こ）と、それに沿そうように湾内わんないにベルチャー諸島しょとうが並ならんでいる。クレーターを想起そうきさせるこの地形ちけいの成因せいいんについては、月面げつめんの危難きなんの海うみとの比較ひかくにより先カンブリア時代せんかんぶりあじだいに起おきた地球ちきゅう外がい天体てんたいの衝突しょうとつの衝撃しょうげきによってハドソン湾わんが形成けいせいされたと主張しゅちょうする地質ちしつ学者がくしゃもいたが、現在げんざいにおいてなお地磁気ちじきや重力じゅうりょく異常いじょうなど地質ちしつ学がく的てきに確実かくじつに衝突しょうとつ地形ちけいであるとされる証拠しょうこは発見はっけんされていない。

湾岸わんがんの自治体じちたい

ハドソン湾岸わんがんにはほとんど住民じゅうみんがいない。町村ちょうそんの数かずはわずか1ダースほどであり、そのいくつかは17世紀せいき末まつから18世紀せいきにハドソン湾わん会社かいしゃが設立せつりつした交易こうえき所しょが元もとになっている。ハドソン湾わん会社かいしゃの交易こうえき所しょや経営けいえいする店舗てんぽが20世紀せいき後半こうはんには閉鎖へいさされており、住民じゅうみんの多おおくはクリー諸しょ族ぞくやイヌイットである。

特とくに大おおきな町まちは以下いかの通とおり。

• ケベック州しゅうプヴィルニトゥク（Puvirnituq）：湾わんの北東ほくとう部ぶ、イヌイットの1,300人にん弱じゃくの集落しゅうらく
• ヌナブト準じゅん州しゅうランキン・インレット（Rankin Inlet）：湾わんの北西ほくせい部ぶ、キヴァリク地域ちいき（Kivalliq Region）の中心ちゅうしん
• ヌナヴト準じゅん州しゅうアルヴィアット（Arviat、旧名きゅうめいエスキモー・ポイント Eskimo Point）：湾わんの北西ほくせい部ぶ、キヴァリク地域ちいきの町まち、人口じんこう2,060人にん）
• マニトバ州しゅうチャーチル（Churchill）：湾わんの西部せいぶ、チャーチル川かわ河口かこう。名なはハドソン湾わん会社かいしゃで17世紀せいき末まつに総督そうとくを務つとめたマールバラ公こうジョン・チャーチルにちなむ。

軍事ぐんじ基地きち

東西とうざい冷戦れいせんが始はじまるまで、この地ちに軍事ぐんじ的てき重要じゅうよう性せいはなかった。1950年代ねんだい、北極ほっきょく海かいを越こえたソ連それんの攻撃こうげきに備そなえ、ミッド・カナダ・ラインと呼よばれる防空ぼうくうレーダー網もうを構築こうちくするためレーダーサイトが北米ほくべい大陸たいりくを横断おうだんするように設置せっちされ、この湾岸わんがんのいくつかの場所ばしょにもレーダーサイトがおかれた。

関連かんれん項目こうもく

• ハドソン湾わん会社かいしゃ