パンク・ジャズ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
パンク・ジャズ
様式ようしきてき起源きげん パンク・ロック
フリー・ジャズ
ジャズ
文化ぶんかてき起源きげん 1970年代ねんだいなかば、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
サブジャンル
ジャズコア
関連かんれん項目こうもく
アヴァン・パンクハードコア・パンクノー・ウェイヴポストパンクポスト・ハードコア
テンプレートを表示ひょうじ

パンク・ジャズえい: Punk jazz)は、フリー・ジャズなどのジャズ要素ようそと、パンク・ロック(1978ねんのアルバム『ノー・ニューヨーク』に代表だいひょうされるノー・ウェイヴや、ハードコア・パンクなど) を融合ゆうごうさせたジャンルをす。著名ちょめいなパンク・ジャズの演奏えんそうとしてはジョン・ゾーンひきいる音楽おんがくバンドであるネイキッド・シティジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズラウンジ・リザーズユニバーサル・コングレス・オブ英語えいごばん (Universal Congress Of)、ラフィング・クラウンズ英語えいごばん (Laughing Clowns)(ラフトレード)などがげられる。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1970年代ねんだいまつ[編集へんしゅう]

ジェームス・チャンス (1981ねん、ベルリン)

フリー・ジャズファンクパンク・ロック影響えいきょうけたジェームス・チャンスらによって1970年代ねんだいまつにパンク・ジャズが形成けいせいされた[1]

ニューヨークのノー・ウェイヴは、ファンク、フリー・ジャズ、パンク・ロックをわせたジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ(ジェームス・ホワイト)による作品さくひんなどを紹介しょうかいした。ジェームス・ホワイトの名前なまえは、ジェームス・ブラウン意識いしきしたものである。ロンドンでは、1979ねんポップ・グループが、フリー・ジャズとダブレゲエわせて独自どくじのアルバムを発表はっぴょうはじめた[2]。またデファンクトは、1980ねんにパンク・ジャズ、パンク・ファンクのアルバムをリリースした[3]最初さいしょみずからのことをパンク・ジャズとはじめたラウンジ・リザーズもアルバムを発表はっぴょうした[4]ロル・コックスヒルダムドとも収録しゅうろくおこなっていたサクソフォーン奏者そうしゃであり、演奏えんそうちゅうにパンク調ちょう演技えんぎをするジャズの音楽家おんがくかであった[5]

1970年代ねんだいまつのオーストラリアのパンク・バンド、セインツ英語えいごばんによる1978ねんの『プレヒストリックサウンド英語えいごばん』というアルバムのなかスウィングそろえたことと金管楽器きんかんがっきパートをれたことは、エド・クーパー英語えいごばん (Ed Kuepper) がのちげた音楽おんがくバンドであるラフィング・クラウンズ英語えいごばんがれた[6]サン・ラファラオ・サンダースジョン・コルトレーンのような、「Sheets of sound」の美学びがくもとづいたフリー・ジャズをクーパーはつくそうとした[7][8]オリー・オルセン英語えいごばんによって初期しょきおこなわれたパンクの企画きかくもまたオーネット・コールマンなどのフリー・ジャズから着想ちゃくそうたものであった[9]。1970年代ねんだいわりには、のちバースディ・パーティ英語えいごばんとしてられることになるボーイズ・ネクスト・ドアが登場とうじょうした。オーストラリアのこうしたパンク・バンドは「いずれも無名むめい」だったが、かれらによってもたらされた影響えいきょうは「desert jazz」として説明せつめいされた[10]

1980年代ねんだい[編集へんしゅう]

ジェイムス・ブラッド・ウルマー英語えいごばんは、1981ねんに『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ』(ラフトレード)を発表はっぴょうし、コールマンのハーモルディック英語えいごばんスタイルをギターに適用てきようしてノー・ウェイヴとのつながりを模索もさくした[11]。プラスティック・ベルトラン、LiLiPUT(ラフトレード)、スウェル・マップス、フリッパーらは1980年代ねんだいに、サックス奏者そうしゃ参加さんかさせたレコードを発表はっぴょうした。

ビル・ラズウェル自身じしん音楽おんがくバンドであるマテリアルではファンク、フリー・ジャズ、パンク・ロックがわせられた[12]のにたいして、べつ音楽おんがくバンドであるマサカーではロックに即興そっきょうでの演奏えんそうれた[13]。 バースディ・パーティはポップ・グループの「ウィー・アー・プロスティテューツ英語えいごばん」といううた影響えいきょうおおきくけたとニック・ケイヴべている[14]。ある記者きしゃはバースディ・パーティによる「ジャンクヤード英語えいごばん」 (1982ねん) というきょくおとを「ノー・ウェイヴのギター、フリー・ジャズのはげしさ、キャプテン・ビーフハートのとげとげしさ」をわせたものであると表現ひょうげんしている[15]

ビル・ラズウェルはアメリカのフリー・ジャズ・バンドであるラスト・イグジット[16]ペインキラー[17]のメンバーをつとめていた。

ハードコア・スタイルの基礎きそきずいたバッド・ブレインズは、ジャズ/クロスオーバーへの接近せっきんこころみによってスタートしたバンドである[18]アルバート・アイラー影響えいきょうされたグループであるユニバーサル・コングラス・オブ英語えいごばんうちでギター奏者そうしゃであるジョー・ベイザ英語えいごばんサッカリン・トラスト英語えいごばんとともにパンクとフリー・ジャズを自身じしんわせて演奏えんそうした[19]ブラック・フラッグのメンバーであるグレッグ・ギン英語えいごばんとくにブラック・フラッグによる1985ねん発表はっぴょうのEPばんによる器楽きがくきょくである「プロセス・オブ・ウィーディング・アウト英語えいごばんないでギターの演奏えんそうにフリー・ジャズの要素ようそれた[20]ヘンリー・ロリンズはフリー・ジャズのことを称賛しょうさんしており、自身じしんのレコードレーベルでマシュー・シップ英語えいごばんのアルバムを[21]チャールズ・ゲイル英語えいごばん協力きょうりょくするなどしている[22]ミニットメンはジャズ、フォーク、ファンクに影響えいきょうけた。そのグループのメンバーであるマイク・ワット英語えいごばんはジョン・コルトレーンの演奏えんそういて影響えいきょうけたとはなしている[23]

オランダの政府せいふ主義しゅぎパンク英語えいごばん音楽おんがくバンドであるEx英語えいごばんは、ハン・ベニンクインスタント・コンポーザーズ・プール英語えいごばんほかのメンバーといっしょになって、フリー・ジャズの要素ようそとくフリー・インプロヴィゼーション要素ようそれた[24]

ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズ英語えいごばんのベース奏者そうしゃであるバリー・アダムソン自身じしん収録しゅうろくした『モス・サイド・ストーリー英語えいごばん』というアルバムにおいて管楽器かんがっきによる伝統でんとうてきなジャズにもパンクやノイズロック観点かんてんんでおり、またそのアルバムちゅうにはディアマンダ・ギャラスがうたっているトラックが存在そんざいする[25]

1990年代ねんだい以降いこう[編集へんしゅう]

1990年代ねんだいのアメリカでは、スウィング・リバイバル/ネオ・スウィングが登場とうじょうした。代表だいひょうてきなバンドとしては、ブライアン・セッツァー・オーケストラ、ビッグ・バッド・ヴードゥー・ダディ、スクウィーレル・ナット・ジッパーズ、チェリー・ポッピン・ダディーズらがいた[26][27]。1997ねんにはスリーター・キニーがキル・ロック・スターズから、サックス奏者そうしゃふくんだCDをしている。 ネイション・オブ・ユリシーズ英語えいごばんではイアン・スヴェノニウスがボーカルとトランペットのやくえんじ、うた複雑ふくざつ構造こうぞう奇数きすう拍子ひょうし熱狂ねっきょうせいっていた。『プレイズ・プリティ・ベイビー英語えいごばん』というアルバムないでジョン・コルトレーンの「至上しじょうあい」の短時間たんじかん収録しゅうろくおこなっているが、題名だいめいは「ザ・サウンド・オブ・ジャズ・トゥー・カム」でありオーネット・コールマンの古典こてんてき名作めいさくアルバムである『ジャズきたるべきもの』 (The Shape of Jazz to Come) からられている。シカゴの音楽おんがくバンドであるキャップン・ジャズ英語えいごばんもまたフリー・ジャズにおける奇数きすう拍子ひょうしやギターの旋律せんりつれ、ハードコアでのさけびと、チューバの演奏えんそうわせている。

2004ねんにはヴァーナキュラーというバンドが、はっきり「パンク・ジャズ」と認定にんていされたアルバムを発表はっぴょうした。イタリアのバンド、エフェル・ドゥアス英語えいごばんは『ペインターズ・パレット英語えいごばん』 (2003ねん)、『ペイン・ネセサリー・トゥ・ノウ英語えいごばん』 (2005ねん) というアルバムのなか偶然ぐうぜんにもジャズコアを再現さいげんした功績こうせきがあるにもかかわらず、フランク・ザッパのような前衛ぜんえいロックのさらなる深遠しんえんもとめジャズコアからははなれた。

そののパンク・ジャズ・バンドとしては、La Part Maudite[28]オマー・ロドリゲス・ロペス、Talibam!、Youngblood Brass Band英語えいごばんガットバケット英語えいごばん[29]キングクルール (バンド)英語えいごばん[30]げられる。

ジャズコア[編集へんしゅう]

ジャズコア
様式ようしきてき起源きげん パンク・ジャズ
ハードコア・パンク
文化ぶんかてき起源きげん 1980年代ねんだい中頃なかごろアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくおよびみなみヨーロッパ
関連かんれん項目こうもく
テンプレートを表示ひょうじ

ジャズコア (えい: Jazzcore)」という表現ひょうげんハードコア・パンク影響えいきょうけたパンク・ジャズ・バンドにたいして使つかわれることがあり、そのような音楽おんがくバンドとしては英語えいごばん16-17英語えいごばんペインキラーエフェル・ドゥアス英語えいごばんなどがげられる。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ James Chance”. 2021ねん8がつ3にち閲覧えつらん
  2. ^ Lang, Dave (1999ねん2がつ). “Perfect Sound Forever”. 2008ねん11月15にち閲覧えつらん
  3. ^ Defunkt Biography & History”. AllMusic. 2021ねん8がつ6にち閲覧えつらん
  4. ^ Bangs, Lester (1979). “Free Jazz / Punk Rock”. Musician Magazine. http://www.notbored.org/bangs.html 2008ねん7がつ20日はつか閲覧えつらん. 
  5. ^ Smith, Stewart (2008ねん7がつ22にち). “Burt MacDonald with Lol Coxhill”. LIST.CO.UK. 2009ねん5がつ23にち閲覧えつらん
  6. ^ Laughing Clowns - All Tomorrow's Parties”. All Tomorrow's Parties. 2018ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  7. ^ The Laughing Clowns play at Brisbane's GoMA”. 2016ねん7がつ22にち閲覧えつらん[リンク]
  8. ^ McFarlane, lan (1999). The Encyclopedia of Australian Rock and Pop. Allen & Unwin. ISBN 978-1865080727. オリジナルの2001-08-16時点じてんにおけるアーカイブ。. http://www.whammo.com.au/encyclopedia.asp?articleid=1005 2018ねん9がつ19にち閲覧えつらん  (Laughing Clownsの項目こうもく)
  9. ^ Michael Hutchence – A tribute from his family, created by his father Kelland Hutchence.”. 2016ねん7がつ22にち閲覧えつらん
  10. ^ Clifford, Dave. “Australian Punk: The Birthday Party”. 2009ねん9がつ25にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2009ねん1がつ20日はつか閲覧えつらん
  11. ^ James Blood Ulmer Biography”. www.musicianguide.com. 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  12. ^ Material”. AllMusic. 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  13. ^ Killing Time”. AllMusic. 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  14. ^ jarvizcocker (2010ねん7がつ20日はつか). “Nick Cave on The Pop Group (1999)”. 2016ねん7がつ22にち閲覧えつらん
  15. ^ The Birthday Party: Junkyard [PA [Remaster] - Buddha Records - COLB 74465996942 - 744659969423]”. 2016ねん4がつ21にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2016ねん7がつ22にち閲覧えつらん
  16. ^ Last Exit”. AllMusic. 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  17. ^ Pain Killer”. AllMusic. 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  18. ^ Bad Brains”. Punknews.org (2010ねん7がつ13にち). 2012ねん8がつ15にち閲覧えつらん
  19. ^ Sharp, Charles Michael (2008). Improvisation, Identity and Tradition: Experimental Music Communities in Los Angeles. ProQuest. p. 224. ISBN 9781109123777 
  20. ^ www.citizine.net”. www.citizine.net. 2012ねん8がつ15にち閲覧えつらん
  21. ^ LOkennedyWEBdesignDOTcom. “Matthew Shipp”. Matthewshipp.com. 2012ねん8がつ15にち閲覧えつらん
  22. ^ Charles Gayle Biography”. Musicianguide.com. 2012ねん8がつ15にち閲覧えつらん
  23. ^ Sharp, Charles Michael (2008). Improvisation, Identity and Tradition: Experimental Music Communities in Los Angeles. ProQuest. p. 217. ISBN 9781109123777 
  24. ^ Misha Mengelberg and Han Bennink in Berlin” (英語えいご). All About Jazz (2006ねん5がつ11にち). 2018ねん8がつ17にち閲覧えつらん
  25. ^ Garden, Joe (1998ねん8がつ12にち). “Barry Adamson | Interview”. The A.V. Club. 2007ねん12月6にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2012ねん8がつ15にち閲覧えつらん
  26. ^ Yanow, Scott (2000). Swing. San Francisco: Miller Freeman. pp. 452–. ISBN 978-087930-600-7. https://archive.org/details/swing00yano/page/452 
  27. ^ That Swing Thing”. Los Angeles Times (1999ねん10がつ31にち). 2017ねん12月28にち閲覧えつらん
  28. ^ La Part maudite - actuellecd - The New & Avant-garde Music Store”. actuellecd. 2018ねん9がつ12にち閲覧えつらん
  29. ^ “Gutbucket Addresses Their Flock - PopMatters”. PopMatters英語えいごばん. (2011ねん6がつ30にち). http://www.popmatters.com/post/144183-gutbucket-addresses-their-flock/ 2014ねん1がつ23にち閲覧えつらん 
  30. ^ Brown, August (2013ねん12月19にち). “Review: King Krule's spooky, angry musings at the Fonda”. The Los Angeles Times. http://www.latimes.com/entertainment/music/posts/la-et-ms-review-king-krule-spooky-angry-musings-fonda-20131219,0,3310150.story#axzz2oL5a3xyQ 2013ねん12月23にち閲覧えつらん. "Sometimes, his debts to jammy jazz-fusion went on a little long, and some concision in the writing and playing would have sharpened the emotional fangs that these songs have at their core. But who knew the time was so right for a disaffected jazz-punk balladeer in a baggy suit?" 

文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Berrendt, Joachim E.. “The Styles of Jazz: From the Eighties to the Nineties”. The Jazz Book: From Ragtime to Fusion and Beyond. ブルックリン: Lawrence Hill Books. pp. 57-59. ISBN 1-55652-098-0 
  • Byrne, David; Sherman, Cindy; Branca, Glenn (2008). New York Noise: Art and Music from the New York Underground 1978–88. Soul Jazz Records. ISBN 0-9554817-0-8 .
  • Hegarty, Paul (2007). Noise/Music: A History. Continuum International. ISBN 0-8264-1727-2 
  • Heylin, Clinton (1993). From the Velvets to the Voidoids: The Birth of American Punk Rock. ISBN 1-55652-575-3 
  • McNeil, Legs; McCain, Gillian (1997). Please Kill Me: The Uncensored Oral History of Punk. Grove Press. ISBN 0-8021-4264-8 
  • Masters, Marc (2008). No Wave. Black Dog Publishing. ISBN 1-906155-02-X 
  • Mudrian, Albert (2000). Choosing Death: The Improbable History of Death Metal and Grindcore. Feral House. ISBN 1-932595-04-X 
  • Reynolds, Simon (2006). Rip It Up and Start Again: Postpunk 1978-1984. Penguin. ISBN 0-14-303672-6 
  • Sharpe-Young, Garry (2005). New Wave of American Heavy Metal. Zonda Books. ISBN 0-9582684-0-1 
  • Zorn, John, ed (2000). Arcana: Musicians on Music. Granary Books. ISBN 1-887123-27-X