徳川とくがわ忠長ただなが

凡例はんれい 徳川とくがわ 忠長ただなが
徳川とくがわ忠長ただなが像ぞう(大信たいしん寺てら蔵くら)
時代じだい	江戸えど時代じだい前期ぜんき
生誕せいたん	慶長けいちょう11年ねん（1606年ねん）
死没しぼつ	寛永かんえい10年ねん12月6日にち（1634年ねん1月がつ5日にち）
改名かいめい	国くに千せん代だい（幼名ようみょう、国松くにまつ・門かど松丸まつまる・北きた丸まる殿どの） → 忠長ただなが
別名べつめい	駿河するが大納言だいなごん、忠国ただくに
戒名かいみょう	峰みね巌いわお院いん殿どの前ぜん亜あ相しょう清せい徹とおる暁雲ぎょううん大だい居士こじ
墓所はかしょ	群馬ぐんま県けん高崎たかさき市し通とおり町まちの大信たいしん寺てら
官位かんい	従したがえ四よん位い下か・参議さんぎ兼けん左ひだり近衛このえ権けん中将ちゅうじょう、 従したがえ三さん位い・権けん中納言ちゅうなごん、従したがえ二に位い・権けん大納言だいなごん
幕府ばくふ	江戸えど幕府ばくふ
藩はん	甲斐かい甲府こうふ藩はん主おも → 駿河するが駿府すんぷ藩はん主あるじ
氏族しぞく	徳川とくがわ氏し（将軍家しょうぐんけ→駿河するが家か）
父母ちちはは	父ちち：徳川とくがわ秀忠ひでただ、母はは：豊臣とよとみ達子たつこ
兄弟きょうだい	千姫せんひめ、珠たま姫ひめ、勝かち姫ひめ、長ちょう丸まる、初はつ姫ひめ、家光いえみつ、 忠長ただなが、和子かずこ 異父いふ姉あね：豊臣とよとみ完かん子こ、異母弟いぼてい：保科ほしな正之まさゆき
妻つま	正室せいしつ：昌子しょうじ（織田おだ信良のぶよしの娘むすめ）

徳川とくがわ 忠長ただなが（とくがわ ただなが）は、江戸えど時代じだい前期ぜんきの大名だいみょう。極きょく位い極官きょっかんが従したがえ二に位い大納言だいなごんで、領地りょうちが主おもに駿河するが国こくだったことから、通称つうしょうは駿河するが大納言だいなごん（するがだいなごん）。徳川とくがわ家康いえやすの孫まごにあたる。

生涯しょうがい

幼少ようしょう期き

慶長けいちょう11年ねん（1606年ねん）、将軍しょうぐん徳川とくがわ秀忠ひでただの三男さんなんとして江戸城えどじょう西にしの丸まるにて生うまれる。母ははは太閤たいこう豊臣とよとみ秀吉ひでよしの養女ようじょ・達子たつこ（浅井あさい長政ながまさの三さん女じょ）幼名ようみょうは国くに千せん代だい（国松くにまつ）。誕生たんじょう日びは5月7日にち説せつ（『徳川とくがわ幕府ばくふ家か譜ふ』）、6月1日にち説せつ（『慶長けいちょう見聞けんぶん録ろく案あん紙し』）、12月3日にち説せつ（『幕府ばくふ祚胤伝でん』）など諸説しょせつがある。5月7日にちは異母弟いぼてい保科ほしな正之まさゆきの、12月3日にちは異母いぼ兄けい長ちょう丸まるの誕生たんじょう日びが誤伝ごでんしたと考かんがえられ、また曲直瀬まなせ玄朔げんさくの『医学いがく天正てんしょう記き』には6月がつ1日にち生うまれの「大樹たいき若わか君くん様さま」（将軍しょうぐんの若君わかぎみ）への診療しんりょう記録きろくがあることから6月がつ1日にち説せつが有力ゆうりょくと考かんがえられており、『大だい日本にっぽん史料しりょう』では諸説しょせつを紹介しょうかいしつつ6月がつ1日にち生うまれとして章あきら立だてしている。乳母うばとして朝倉あさくら局きょく（土井どい利勝としかつ妹いもうと、朝倉あさくら宣せん正ただし妻つま）が附つけられたという。

父ちち・秀忠ひでただや母はは・達子たつこは、病弱びょうじゃくで吃音きつおんがあった兄あに・竹たけ千せん代だい（家光いえみつ）よりも容姿ようし端麗たんれい・才気さいき煥発かんぱつな国くに千せん代だい（国松くにまつ）を寵愛ちょうあいしていたといい、大伯父おおおじである織田おだ信長のぶながに容姿ようしが似にていたのも理由りゆうの一ひとつとされている。その為ためか、国くに千せん代だいにも竹たけ千せん代だい同様どうように乳母うばがいながら、達子たつこは自分じぶんの手元てもとに置おこうとする等ひとし、贔屓ひいきしていた傾向けいこうがあったとされ、それらに起因きいんする竹たけ千せん代だい擁立ようりつ派はと国くに千せん代だい擁立ようりつ派はによる次期じき将軍しょうぐんの座ざを巡めぐる争あらそいに発展はってんしていた。しかし、この争あらそいは後のちに春日局かすがのつぼねによる家康いえやすへの直訴じきそにより、竹たけ千せん代だいの後継こうけい指名しめいで決着けっちゃくし、また家康いえやすは兼かねてより国くに千せん代だいに対たいし過度かどな愛情あいじょうを向むけていた達子たつこを問題もんだい視ししていた様ようで、彼女かのじょに対たいし国くに千せん代だいに関かんする訓戒くんかい状じょうを与あたえている。その内容ないようは「国くに千せん代だいは利発りはつに見みえるが、だからといって褒ほめそやしてばかりいれば我儘わがままに育そだってしまう。我儘わがままは身みを亡ほろぼす要因よういんになり得えるので、気きを付つけて教育きょういくせよ」という物もので、この事ことからも、達子たつこが日頃ひごろから国くに千せん代だいを甘あまやかし過すぎていたかが窺うかがわれる。

徳川とくがわ秀忠ひでただより松平まつだいら姓せい（庶子しょし扱あつかいされる）を与あたえられ、松平まつだいらを称しょうす。徳川とくがわ姓せいが許ゆるされていた叔父おじの徳川とくがわ義直よしなお・徳川とくがわ頼宣よりのぶには宗家そうけに後継こうけいが絶たえた際さいには将軍しょうぐん職しょくを継承けいしょうすることが定さだめられていたが、この時点じてんの忠長ただながにはまだそれがなかった。

元和がんわ2年ねん（1616年ねん）あるいは4年ねん（1618年ねん）の9月がつに甲府こうふ23万まん8000石せきを拝領はいりょうし、甲府こうふ藩はん主おもとなる（『甲斐かい国こく志こころざし』）。藩主はんしゅ就任しゅうにんに際さいし、朝倉あさくら宣せん正ただしや郡ぐん内ない地方ちほうを治おさめていた鳥居とりい成しげる次じら附ふ家老がろうを中心ちゅうしんとした家臣かしん団だんが編成へんせいされ（『武徳ぶとく編へん年ねん集成しゅうせい』）、後のちに武田たけだ遺臣いしんや大久保おおくぼ長安ながやす配下はいかの代官だいかん衆しゅうらがこれに加くわえられた。元服げんぷく前まえかつ幼少ようしょうの国くに千せん代だいが実際じっさいに入府にゅうふすることはなく、藩はんの運営うんえいはこれら家臣かしん団だんや代官だいかん衆しゅにより行おこなわれた。

元和がんわ4年ねん（1618年ねん）10月がつ9日にち、国くに千せん代だいは父ちちを喜よろこばせるべく、自みずからが撃うち取とった鴨かもで作つくられた汁物しるものを父ちち・秀忠ひでただの膳ぜんに供きょうして最初さいしょは喜よろこばせたものの、その鴨かもは兄あに・竹たけ千せん代だいが居住きょじゅうする西之にしの御ご丸まるの堀ほりで撃うち取とったものだということを知しらされると、「江戸城えどじょうは父ちち・家康いえやすが修築しゅうちくされ、後のちには竹たけ千せん代だいに渡わたさなければならない所ところである。国くに千せん代だいの身みで兄あにである竹たけ千代ちよの住すんでいる西にしの丸まるに鉄砲てっぽうを撃うち込こむ事ことは、天道てんとうに背そむき、父ちち・家康いえやすへの配慮はいりょも無ないことで、たとえ悪意あくい無なくとも将軍しょうぐんとなる竹たけ千せん代だいへの反逆はんぎゃくに等ひとしい。」と、逆ぎゃくに秀忠ひでただの怒いかりを買かってしまう。秀忠ひでただは箸はしを投なげ捨すててその場ばを退出たいしゅつするほどだった（新井あらい白石はくせき『藩はん翰譜』）。

元服げんぷく後ご

『江戸えど図ず屏風びょうぶ』にある忠長ただなが屋敷やしき

元和がんわ6年ねん（1620年ねん）9月がつに元服げんぷくし、金地院こんちいん崇伝すうでんの選定せんていにより諱いみなを忠長ただながとする。元和がんわ9年ねん（1623年ねん）7月がつ、家光いえみつの将軍しょうぐん宣下せんげに際さいし権けん中納言ちゅうなごんに任官にんかん。同年どうねん11月がつ7日にちに織田おだ信良のぶよしの娘むすめ・昌子しょうじと婚姻こんいん。

元和がんわ8年ねん（1622年ねん）1月がつ10日とおか、江戸城えどじょう本丸ほんまるを拡張かくちょうするため本丸ほんまる東北とうほく梅林ばいりん坂ざか辺あたりの二にノ丸まるにあった屋敷やしきが取とり壊こわされたため、北きたノ丸まるにある榊原さかきばら忠次ただつぐの屋敷やしきに移うつり、その後ご3月がつ18日にちに完成かんせいした同おなじく北きたノ丸まるの新築しんちくした屋敷やしきに移うつった。この屋敷やしきは『江戸えど図ず屏風びょうぶ』にも描えがかれており、御三家ごさんけの屋敷やしきに勝まさるとも劣おとらない豪壮ごうそうな構かまえが描えがかれている。同年どうねん8月がつ、仙石せんごく忠政ただまさ移うつり封ふう後ごの信濃しなの国こく佐久さく郡ぐん6万まん石せきと小県ちいさがた郡ぐんの一部いちぶを与あたえられた。小諸こもろ城じょう城代しろだいは屋代やしろ秀正ひでまさと三枝さえぐさ昌吉しょうきちが務つとめた。

寛永かんえい元年がんねん（1624年ねん）7月がつには駿河するが国こくと遠江とおとうみ国こくの一部いちぶ（掛川かけがわ藩はん領りょう）を加増かぞうされ、駿しゅん遠どお甲かぶとの計けい55万まん石せきを知行ちぎょうし、この頃ころより家康いえやすの故こ地ちを意識いしきした隣国りんごくの諸しょ大名だいみょう等とうからは「駿河するが大納言だいなごん」という名称めいしょうで呼よばれるようになる。しかし、忠長ただながは自分じぶんが将軍しょうぐんの弟おとうとであることを理由りゆうに満足まんぞくせず、大御所おおごしょである父ちち・秀忠ひでただに「100万まん石せきを賜たまわるか、自分じぶんを大だい坂城さかきの城主じょうしゅにして欲ほしい」という嘆願たんがん書しょを送おくるも、呆あきれた秀忠ひでただから要求ようきゅうを無視むしされ、この頃ころより忠長ただながは父ちちに愛想あいそを尽つかされ始はじめる。また、忠長ただながの要求ようきゅうを知しった家光いえみつからも、かつて祖父そふ・家康いえやすが敵対てきたいした豊臣とよとみ家かが所有しょゆうし、大坂おおさかの陣じんで落城らくじょうさせた大坂おおさか城しろを欲ほっしようとしている忠長ただながに、謀反むほんの意思いしがあるのではないかと疑うたがわれるようになり、幕臣ばくしん達たちも諸しょ大名だいみょうに持もて囃はやされる忠長ただながの姿すがたを「まるで将軍しょうぐんが二に人にんいるようだ」と評ひょうし、神経しんけいを尖とがらせていく。

寛永かんえい3年ねん（1626年ねん）に権けん大納言だいなごんとなり、後水尾天皇ごみずのおてんのうの二条城にじょうじょう行幸ぎょうこうの上洛じょうらくにも随行ずいこうする。これと前後ぜんごして忠長ただながは弟おとうとで後のちの会津あいづ松平まつへい家か開祖かいそとなる保科ほしな正之まさゆきに葵あおい紋もんの入はいった家康いえやすの遺品いひんを与あたえたり、正之まさゆきに松平まつだいらへの復姓ふくせいを薦すすめたりしたと『会津あいづ松平まつへい家か譜ふ』には記しるされている。しかし、最大さいだいの庇護ひご者しゃと言いえる存在そんざいであった母はは・江こうが死去しきょしたのを機きに、忠長ただながは深酒ふかざけに耽ふけるなどの問題もんだい行動こうどうが目立めだち始はじめ、自身じしんが気付きづかぬ内うちに家光いえみつとの確執かくしつを深ふかめていくことになる。

同年どうねん7月がつ、家光いえみつの上洛じょうらくが決きまった際さいに、大井川おおいがわに船橋ふなばしを掛かけるが、幕府ばくふの防衛ぼうえい線せんにおいて重要じゅうよう拠点きょてんの場所ばしょである大井おおい川がわに無む許可きょかで施工しこうしたことが問題もんだい視しされ、家光いえみつの不興ふきょうを買かってしまうこととなる。さらに駿府すんぷでは武家ぶけ屋敷やしき造成ぞうせいの為ために寺社じしゃを郊外こうがいに移うつそうとして反対はんたいされ、家光いえみつとの関係かんけいにさらに大おおきな摩擦まさつを生しょうじた。

寛永かんえい7年ねん（1630年ねん）11月、浅間あさま神社じんじゃ付近ふきんにある賎しず機き山やまで猿さる狩かりを行おこなうも、殺生せっしょうを禁止きんしされている神社じんじゃ付近ふきんで行おこなった上うえに、そもそも賎しず機き山やまでは野猿やえんが神かみ獣じゅうとして崇あがめられ、殺ころすこと自体じたいが禁止きんしされており、更さらにこの浅間あさま神社じんじゃは祖父そふ・家康いえやすが14歳さいの時ときに元服げんぷくした、徳川とくがわ将軍家しょうぐんけにとっても神聖しんせいな場所ばしょであった。そのような場所ばしょで猿さる狩かりを行おこなうのは将軍家しょうぐんけの血ちを引ひく者ものといえど許ゆるされないことであったが、止とめるよう懇願こんがんする神主かんぬしに対たいし、忠長ただながは自みずからが駿河するがの領主りょうしゅであることと、田畑たはたを荒あらす猿さるを駆除くじょするという理由りゆうで反対はんたいを押おし切きって狩かりを続つづけ、この一いち件けんで忠長ただながは1240匹ひきもの猿さるを殺ころしたとされている。更さらにその帰途きとの際さいに乗のっていた駕が籠かごの担かつぎ手しゅの尻しりを脇差わきざしで刺さし、驚おどろいて逃にげ出だしたところを殺害さつがいする乱行らんぎょうに及および、これらを聞きいた家光いえみつを激怒げきどさせた。

寛永かんえい8年ねん（1631年ねん）12月、鷹狩たかがりに出でかけた際さいに雪ゆきが降ふり、忠長ただながが寺てらで休息きゅうそくした際さいに、小姓こしょう・小しょう浜はま七之助しちのすけが雪ゆきで濡ぬれていた薪たきぎに火ひを付つけられなかった事ことに癇癪かんしゃくを起おこし手打てうちにしてしまう。事態じたいを知しって悲憤ひふんに駆かられた七之助しちのすけの父親ちちおやが幕府ばくふに訴うったえ出でた結果けっか、これまでの乱行らんぎょうの数々かずかずもあって遂ついに家光いえみつの堪忍袋かんにんぶくろの緒いとぐちが切きれてしまうこととなり、これを理由りゆうとして甲府こうふへの蟄居ちっきょを命めいじられる。その際さいに秀忠ひでただ側近そっきんの崇伝すうでんらを介かいして赦免しゃめんを乞こうが、許ゆるされなかった。

寛永かんえい9年ねん（1632年ねん）の秀忠ひでただの危篤きとくに際さいして江戸えど入いりを乞こうたがこれも許ゆるされなかった。一説いっせつでは秀忠ひでただ本人ほんにんからも面会めんかいを拒絶きょぜつされたとしている。

改易かいえき

秀忠ひでただ死し後ご、忠長ただながは改易かいえきとなり、領国りょうごく全すべてを没収ぼっしゅうされ、10月がつ20日はつかに安藤あんどう重しげる長ちょうに預あづけられる形かたちで上野うえの国こく高崎たかさきへ逼塞ひっそくの処分しょぶんが下くだされる。また、その際さいに御ご附ふ家老がろうの朝倉あさくら宣せん正ただし、鳥居とりい成しげる次じも連座れんざして改易かいえきされている。

将軍しょうぐんの実弟じっていが改易かいえきに至いたった理由りゆうとして、甲府こうふに台たい徳とく院いん殿どの（秀忠ひでただ）供養くようの寺院じいん建立こんりゅうや、加藤かとう忠広ただひろ改易かいえきの際さいに風説ふうせつを流布るふした（『藩はん翰譜』）、大坂おおさか城しろと畿内きない55万まん石せきの所領しょりょうを求もとめた（『寛永かんえい小説しょうせつ』）、等ひとしの話はなしは江戸えど中期ちゅうき頃ごろから既すでにあり、『徳川とくがわ実紀みき』に載のる家光いえみつとの後継こうけい者しゃ争あらそいの逸話いつわと併あわせて、家光いえみつによる計画けいかく的てきな排除はいじょとする説せつがある。

しかし、当時とうじの肥後ひご熊本くまもと藩主はんしゅ細川ほそかわ忠利ただとしや薩摩さつま島とう津家つげの江戸えど家老がろうなどの伝聞でんぶんや観察かんさつの記録きろくでは、改易かいえきはあくまで彼かれ個人こじんの素行そこう・乱行らんぎょうが原因げんいんとされている。上述じょうじゅつの猿さる狩かりなどの他ほかに、寛永かんえい8年ねん（1631年ねん）2月がつ2日にち、酒さけに酔よった忠長ただながは、家臣かしんの小しょう浜はま光隆みつたかの子こや御伽おとぎの坊主ぼうずを殺害さつがい、その上うえ翌日よくじつに殺害さつがいした者ものを呼よび出だす行動こうどうに出でたと記録きろくしている。その後ごも傅でん役やくの内藤ないとう政吉まさきちを甲冑かっちゅう姿すがたで追おい回まわす、殺害さつがいした禿かぶろを唐から犬いぬに食くわせる、腰元こしもとに酒さけを飲のませて責ぜめ殺ころすなどといった狼藉ろうぜきに及およんだとされる。3月末まつには、忠長ただながの乱行らんぎょうを恐おそれた側近そっきんは彼かれに近ちかづかなくなり、幼おさない2人ふたりの子供こどもが仕つかえるのみとなった。細川ほそかわ忠利ただとしは忠長ただながのこれらの行為こういは酒乱しゅらんではなく、発狂はっきょうによるものと記しるしている。現代げんだいにおいてはこれらの行動こうどうを、統合とうごう失調しっちょう症しょうによる幻覚げんかくや妄想もうそうのために凶行きょうこうに及およんだ可能かのう性せいがある、と指摘してきする研究けんきゅう家かがいる。

忠長ただながの一連いちれんの行動こうどうを知しった秀忠ひでただは即座そくざに忠長ただながを勘当かんどうし、処分しょぶんを家いえ光こうに一任いちにんした。家光いえみつは酒井さかい忠世ただよ・土井どい利勝としかつ等とうを再三さいさん遣つかわし、2人ふたりきりの兄弟きょうだいであると更生こうせいを促うながした。忠長ただながもこれに同意どういし、4月がつ後半こうはんには一時いちじ平静へいせいを取とり戻もどした。しかし結局けっきょくは行状ぎょうじょうは回復かいふくせず、前述ぜんじゅつのように5月18日にちに甲府こうふ蟄居ちっきょが命めいじられた。しかし家光いえみつはなおも蟄居ちっきょの状態じょうたいで駿府すんぷへの帰還きかんを認みとめており、忠長ただながも誓詞せいしを提出ていしゅつした一方いっぽうで行状ぎょうじょうは悪化あっかし、ついに寛永かんえい9年ねん（1632年ねん）10月がつ20日はつかに幕命ばくめいにより改易かいえきと高崎たかさきへの逼塞ひっそくが決定けっていした。

死罪しざい

寛永かんえい10年ねん（1633年ねん）12月6日にち、幕命ばくめいにより高崎たかさきの大信たいしん寺てらにおいて切腹せっぷくした。享年きょうねん28。

43回忌かいきにあたる延のべ宝たから3年ねん（1675年ねん）、忠長ただながの墓はかが大信たいしん寺てらに建立こんりゅうされた。1966年ねん（昭和しょうわ41年ねん）4月がつ20日はつか、高崎たかさき市し指定してい史跡しせきとなった。硯箱すずりばこ・切腹せっぷくに用もちいた短刀たんとう・自筆じひつの手紙てがみなどが位牌いはいとともに保存ほぞんされている。

家族かぞく関係かんけい

正室せいしつは織田おだ信良のぶよしの娘むすめ・昌子しょうじが定説ていせつとなっているが、高崎たかさき市し極楽寺ごくらくじには忠長ただながの墓碑ぼひと共ともに「承うけたまわ應おう三さん年ねん正月しょうがつ廿にじゅう一いち日にち 二世神女淸月彌勒院內儀松譽春貞大姉 德川とくがわ忠長ただなが正室せいしつ 俗名ぞくみょう 吉井よしい庚かのえ子こ 五ご十じゅう五ご才さい」と記しるされた墓碑ぼひがある。供養くよう塔とうが鎌倉かまくら市しの薬王寺やくおうじ、京都きょうと市し左京さきょう区くの金きむ戒光明寺あけてらにある。

側室そくしつは、大信たいしん寺てらの過去かこ帳ちょうに忠長ただなが側がわ妾わらわで院いん殿どのがついている人ひとが3人にんほどいることから、その存在そんざいが推測すいそくされるが、詳細しょうさいは不明ふめい。

子こには松平まつだいら長七ちょうしち郎ろう（長ちょう頼よりゆき）がいると伝つたえられているが、これは従兄弟いとこ松平まつだいら忠直ただなおが配流はいる先さきでもうけた永見ながみ長ちょう頼よりゆきのことではないかと考かんがえられ、実子じっしの存在そんざいは史料しりょうの上うえでは確認かくにんされていない。

年譜ねんぷ

鎌倉かまくら・薬王寺やくおうじにある徳川とくがわ忠長ただなが供養くよう塔とう

※ 日付ひづけ ＝ 旧暦きゅうれき

• 慶長けいちょう11年ねん：生誕せいたん
• 元和がんわ4年ねん（1618年ねん）- 1月がつ11日にち 甲斐がい国こく甲府こうふ藩はん20万まん石せき藩主はんしゅ
• 元和がんわ6年ねん（1620年ねん）- 8月がつ22日にち 従したがえ四よん位い下か参議さんぎ左ひだり近衛このえ中将ちゅうじょう
• 元和がんわ9年ねん（1623年ねん）- 7月がつ27日にち 従したがえ三さん位い中納言ちゅうなごん
• 寛永かんえい元年がんねん（1624年ねん）- 駿河するが・遠江とおとうみ・甲斐かい3国こくで知行ちぎょう55万まん石せき
• 寛永かんえい3年ねん（1626年ねん）- 8月がつ19日にち 従したがえ二に位い権けん大納言だいなごん
• 寛永かんえい8年ねん（1631年ねん）- 5月 甲府こうふへ蟄居ちっきょ仰おおせ付づけ
• 寛永かんえい9年ねん（1632年ねん）- 10月がつ20日はつか 改易かいえき
• 寛永かんえい10年ねん（1633年ねん）- 12月6日にち 幕命ばくめいにより配流はいる地ちの上野うえの国こく高崎たかさきで自害じがい、享年きょうねん28

主おもな家臣かしん

• 朝倉あさくら宣せん正ただし（附ふ家老がろう、朝倉あさくら宣せん親おやが継つぐ）
• 鳥居とりい成しげる次じ（附ふ家老がろう、鳥居とりい忠ただし房ぼうが継つぐ）
• 屋代やしろ秀正ひでまさ（附ふ家老がろう、屋代やしろ忠正ただまさが継つぐ）
• 稲葉いなば正利まさとし
• 松平まつだいら忠勝ただかつ - 大番おおばん士しの中なかから将軍しょうぐん秀忠ひでただによって朋輩ほうばい53名めいとともに選抜せんばつされ忠長ただながに仕つかえる。
• 三枝さえぐさ守まもる昌あきら
• 有馬ありま頼よりゆき次じ
• 内藤ないとう政吉まさきち
• 水野みずの勝信かつのぶ
• 松野まつの重元しげもと
• 浅井あさい道みち多た
• 木村きむら友重ともしげ
• 土岐とき頼よりゆき泰やすし（旗本はたもと土岐とき頼よりゆき次じ三男さんなん）
• 山名やまな豊ゆたか晴はれ - 初はつ名めい豊信とよしげ、兵庫ひょうご。忠長ただなが改易かいえき時じに息子むすこと共ともに内藤ないとう忠興ただおきに預あづけられる。息子むすこは忠興ただこうに仕つかえた。
• 山田やまだ重次しげつぐ
• 松平まつだいら正ただし朝あさ
• 原はら重久しげひさ - 原はら虎胤とらたねの四よん男なん重胤しげたねの子こ。忠長ただながに仕つかえて代官だいかんとなる。忠長ただなが改易かいえきに連座れんざして子この重じゅう国こくとともに追放ついほうされるが、寛永かんえい13年ねん（1636年ねん）12月がつ10日とおか赦免しゃめんされて御家人ごけにん格かくで大番おおばんに列れっする。寛永かんえい15年ねん（1638年ねん）12月1日にち、禄ろく二に百ひゃく俵ひょうを賜たまわって旗本はたもとに列れつした。
• 大久保おおくぼ忠ただし尚なお - 将監しょうげん。忠長ただなが改易かいえき後ご、息子むすこ長次郎ちょうじろうとともに他家たけに預あずかりとなった。
• 興津おきつ直正なおまさ
• 日向ひゅうが正久まさひさ
• 渡辺わたなべ忠ただし
• 森山もりやま盛治もりじ - 本多ほんだ正信まさのぶの麾下きかで大坂おおさか冬ふゆ・夏なつの陣じんに出陣しゅつじん。その後ご忠長ただながに付属ふぞくされた。忠長ただなが改易かいえき後ごは将軍家しょうぐんけ光こうに仕つかえた。
• 仙石せんごく久ひさ形がた - 右みぎ兵衛ひょうえ・主しゅ水みず。忠長ただながに仕つかえたが、朋輩ほうばいに殺害さつがいされ嗣子ししなく家いえは断絶だんぜつした。
• 堀ほり三さん政せい

演えんじた人物じんぶつ

映画えいが

• 二に代目だいめ尾上おがみ松之助まつのすけ（『駿河するが大納言だいなごんと馬丁ばてい次郎吉じろきち』、1917年ねん）
• 実川じつかわ延のべ松まつ（『宇都宮うつのみや釣天井つりてんじょう』、1921年ねん、帝みかどキネ）
• 二に代目だいめ片岡かたおか左衛門さえもん（『由利ゆり根元ねもと大だい殺ころせ記き』、1929年ねん）
• 楠くすのき武夫たけお（『名めい槍やり血ち陣じん譜ふ』、1930年ねん）
• 高田たかだ篤あつし（『松平まつだいら長七ちょうしち郎ろう』、1930年ねん）
• 頼よりゆき憲二郎けんじろう（『処女しょじょ爪つま占師うらないし』、1931年ねん）
• 椿つばき三四郎さんしろう（『義人ぎじん長ちょう七なな郎ろう』、1935年ねん）
• 水島みずしま道太郎みちたろう（『宇都宮うつのみや釣天井つりてんじょう』、1937年ねん、大だい都と）
• 市川いちかわ正二郎しょうじろう（『妖棋伝でん』、1937年ねん）
• 千代田ちよだ勝太郎かつたろう（『柳生やぎゅう旅たび日記にっき』、1938年ねん）
• 日高ひだか梅子うめこ（『烈女れつじょ競きおい艶つや録ろく』、1938年ねん）
• 津島つしま慶一郎けいいちろう（『旗本はたもと隠密おんみつ』、1941年ねん）
• 小高おだかたかし（『長谷川はせがわ・ロッパの家光いえみつと彦左』、1941年ねん、東宝とうほう）
• 江原えばら真二郎しんじろう（『長脇差ながわきざし奉行ぶぎょう』、1956年ねん）
• 津村つむら礼司れいじ（『雪ゆき姫ひめ七なな変化へんか』、1957年ねん）
• 南条なんじょう新太郎しんたろう（『流ながれ星ぼし十じゅう字じ打うち』、1958年ねん）
• 片岡かたおか彦三郎ひこさぶろう（『旗本はたもと愚連隊ぐれんたい』、1960年ねん）
• 中村なかむら賀が津つ雄ゆう（『家光いえみつと彦左と一心いっしん太助たすけ』、1961年ねん）
• 島田しまだ竜三りゅうぞう（『対決たいけつ』、1963年ねん）
• 山城やましろ新伍しんご（『忍しのびの卍まんじ』、1968年ねん）
• 西郷さいごう輝彦てるひこ（『柳生やぎゅう一族いちぞくの陰謀いんぼう』、1978年ねん）

テレビ作品さくひん

• 坂口さかぐち徹とおる（『柳生やぎゅう十兵衛じゅうべえ』、1970年ねん、CX）
• 沖田おきた駿一しゅんいち（『一心いっしん太助たすけ』、1971年ねん、CX）
• 舟木ふなき一夫かずお（『春はるの坂道さかみち』、1971年ねん、NHK大河たいがドラマ）
• 伊藤いとう高だか（『家光いえみつが行いく』、1972年ねん、NTV）
• 江守えもり徹とおる（『忍法にんぽうかげろう斬ぎり』、1972年ねん、KTV）
• 中村なかむら敦夫あつお（『江戸えどを斬きる 梓あずさ右近うこん隠密おんみつ帳ちょう』、1973年ねん、TBS）
• 田村たむら正和まさかず（『徳川とくがわ三国志さんごくし』、1975年ねん、NET）
• 西田にしだ健けん（『柳生やぎゅう一族いちぞくの陰謀いんぼう』、1978年ねん、KTV）、（『柳生やぎゅうあばれ旅たび』、1980年ねん、ANB）
• 角井かくい浄きよし→永井ながい秀和ひでかず（『徳川とくがわの女おんなたち（第だい一部いちぶ）』、1980年ねん、CX）
• 錦野にしきの旦だん（『柳生やぎゅう十兵衛じゅうべえあばれ旅たび』、1982年ねん、ANB）
• 前田まえだ満穂みつほ（『柳生やぎゅう新しん陰かげ流りゅう』、1982年ねん、TX）
• 中村なかむら錦司きんじ（『長ちょう七郎しちろう江戸えど日記にっき（第だい1部ぶ）』、1983年ねん、NTV）
• 飯村いいむら隆司たかし（『徳川とくがわ家康いえやす』、1983年ねん、NHK大河たいがドラマ）
• 伊勢いせ将人まさと→金田かねだ賢一けんいち（『大奥おおおく』、1983年ねん、KTV）
• 荻島おぎしま眞一しんいち（『風雲ふううん江戸城えどじょう 怒涛どとうの将軍しょうぐん徳川とくがわ家光いえみつ』、1987年ねん、TX）
• 岩下いわした謙けん人じん→橋本はしもと光成みつなり→雨笠あまがさ利幸としゆき→斉藤さいとう隆治りゅうじ（『春日局かすがのつぼね』、1989年ねん、NHK大河たいがドラマ）
• 倉田くらたてつを（『家光いえみつと彦左と一心いっしん太助たすけ』、1989年ねん、ANB）
• 渡辺わたなべ慎也しんや→金田かねだ賢一けんいち（『将軍家しょうぐんけ光こう忍しのび旅たび』、1990年ねん、ANB）
• 長谷川はせがわ哲夫てつお（『長ちょう七郎しちろう江戸えど日記にっき（第だい3部ぶ）』、1990年ねん、NTV）
• 宅麻たくま伸しん（『柳生やぎゅう十兵衛じゅうべえ』、TBS）
• 三さん代目だいめ中村なかむら橋之助はしのすけ（『遊ゆうの人ひと・天下てんかの御ご意見いけん番ばん大久保おおくぼ彦左衛門ひこざえもん』、1991年ねん、TBS）
• 風間かざま杜夫もりお（『寛永かんえい風雲ふううん録ろく 激突げきとつ!知恵ちえ伊豆いず対たい由比ゆひ正雪しょうせつ』、1991年ねん、NTV）
• 若山わかやま騏一郎きいちろう（『徳川とくがわ武芸ぶげい帳ちょう 柳生やぎゅう三さん代だいの剣けん』、1993年ねん、TX）
• 高川たかがわ裕也ゆうや（『家光いえみつ謀殺ぼうさつ 三さん代だい将軍しょうぐんに迫せまる謎なぞの暗殺あんさつ軍団ぐんだん!』、1995年ねん、ANB）
• 向江むかえ流りゅう架か→今村いまむら優太ゆうた→飯塚いいづか恭平きょうへい→高杉たかすぎ瑞穂みずほ（『葵あおい 徳川とくがわ三さん代だい』、2000年ねん、NHK大河たいがドラマ）
• 長島ながしま弘ひろし宜よろし→浜田はまだ学まなぶ（『大奥おおおく 第だい一いち章しょう』、2004年ねん、CX）
• 長島ながしま弘ひろし宜よろし（『大奥おおおく 第だい一いち章しょう スペシャル』、2005年ねん、CX）
• 若林わかばやし久弥ひさや（『柳生やぎゅう十兵衛じゅうべえ七なな番ばん勝負しょうぶ』、2005年ねん、NHK）
• 日比ひび涼すずか渡わたり→海うみ東あずま健けん（『天下てんか騒乱そうらん〜徳川とくがわ三さん代だいの陰謀いんぼう』、2006年ねん、TX）
• 松田まつだ佑たすく貴たか（声こえ）（『シグルイ』（アニメ、2007年ねん、WOWOW）
• 松島まつしま海かい斗と→石垣いしがき佑たすく磨すり（『柳生やぎゅう一族いちぞくの陰謀いんぼう』、2008年ねん、EX）
• 寺岡てらおか修太郎しゅうたろう→松島まつしま海かい斗と→今川いまがわ智将ちしょう（『江こう〜姫ひめたちの戦国せんごく〜』、2011年ねん、NHK大河たいがドラマ）

参考さんこう文献ぶんけん

• 南佐久みなみさく郡ぐん誌し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『南佐久みなみさく郡ぐん誌し』《近世きんせい編へん》南佐久みなみさく郡ぐん誌し刊行かんこう会かい、2002年ねん3月がつ25日にち。NDLJP:9541203。 (要よう登録とうろく)
• 塩川しおかわ友衛ともえ『小諸こもろ藩はん』現代書館げんだいしょかん〈シリーズ藩はん物語ものがたり〉、2007年ねん。 

• 平山ひらやま優ゆう「江戸えど幕府ばくふ確立かくりつ期きの甲斐かいとその支配しはい」『山梨やまなし県けん史し 通史つうし編へん3 近世きんせい1』山梨やまなし日にち日にち新聞しんぶん社しゃ、2006年ねん。 
• 飯沼いいぬま関せき弥わたる『会津あいづ松平まつへい家か譜ふ』1938年ねん。 

関連かんれん項目こうもく

• 徳川とくがわ御三家ごさんけ
• 島津しまつ忠ただし恒つね（島津しまつ家久いえひさ） - 慶長けいちょう末まつ年頃としごろ、まだ実子じっしがいなかったときに忠長ただながを養子ようしにしようと画策かくさくした。

外部がいぶリンク

• 『徳川とくがわ忠長ただなが』 - コトバンク
• 徳川とくがわ忠長ただながの墓はか　附ふ　忠長ただながの霊れい牌ぱいその他た - 高崎たかさき市し