平均へいきん

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平均へいきん(へいきん、えい: mean, average, どく: Mittelwert, ふつ: moyenne)または平均へいきん(へいきんち、えい: mean value, average value)とは、数学すうがく統計とうけいがくにおいて、かず集合しゅうごうデータなかあいだてきす。欧米おうべい原意げんい中間ちゅうかん)などと和訳わやくすることはすくない。

せま意味いみでのなかあいだにとどまらず、算術さんじゅつ平均へいきん相加平均そうかへいきん)・幾何きか平均へいきん相乗そうじょう平均へいきん)・調和ちょうわ平均へいきん対数たいすう平均へいきんなど様々さまざま種類しゅるいもちいられる。一般いっぱんてきにはとく算術さんじゅつ平均へいきんし、集合しゅうごう要素ようそ総和そうわ要素ようそすうったものである[1][2]

算術さんじゅつ平均へいきんもちいるさい注意ちゅうい[編集へんしゅう]

科学かがく観測かんそく社会しゃかい調査ちょうさからられるデータでは、算術さんじゅつ平均へいきん代表だいひょうひとつとしてもちいる。算術さんじゅつ平均へいきん中央ちゅうおうさいしき中点ちゅうてんくらべてデータの特徴とくちょうをよくあらわすものかどうかを検討けんとうする必要ひつようがある。正規せいき分布ぶんぷちか場合ばあい算術さんじゅつ平均へいきん標準ひょうじゅん偏差へんさもちいることは適切てきせつだが、そうでない分布ぶんぷ場合ばあいは、算術さんじゅつ平均へいきん度数どすうおおしめすとはいえない。

たとえば、国民こくみんたとえば日本人にっぽんじん)の所得しょとくについてかんがえる。このデータでは、一部いちぶこう所得しょとくしゃ算術さんじゅつ平均へいきんげてしまい、算術さんじゅつ平均へいきんをとる世帯せたい実際じっさいにはほとんどいないということになる。よってこの場合ばあい正規せいき分布ぶんぷにはしたがわない。日本にっぽん国税庁こくぜいちょう民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさによると、平成へいせい29年度ねんど場合ばあい給与きゅうよ所得しょとく算術さんじゅつ平均へいきんは423まんえんだが、さいしきは300まんえん~400まんえん区分くぶんであり、ずれている[3]したがって、一般いっぱんてき世帯せたい所得しょとくをとらえるには中央ちゅうおうさいしき有効ゆうこうであるが、所得しょとくは97%~99%は所得しょとく対数たいすう正規せいき分布ぶんぷ対数たいすう正規せいき分布ぶんぷ)にしたがっているため[4]所得しょとくたい数値すうち算術さんじゅつ平均へいきん、つまり幾何きか平均へいきんもちいるのが適切てきせつ所得しょとく代表だいひょうであるともいえる。

分布ぶんぷ左右さゆう対称たいしょうでないとき中央ちゅうおうさいしきもちいると場合ばあいもある。また、けたはず)がごく少数しょうすう場合ばあいには、最大さいだい最小さいしょう除外じょがいしたかりこみ平均へいきんトリム平均へいきん英語えいごばん)をもちいることもある。平均へいきん中央ちゅうおうさいしき中点ちゅうてん乖離かいりしている場合ばあいかりこみ平均へいきんふくめた平均へいきん以外いがい使用しようかんがえるとよい[5]

統計とうけいがく[編集へんしゅう]

統計とうけいがくでは、平均へいきんとは普通ふつう算術さんじゅつ平均へいきん相加平均そうかへいきん)のことをす。これはデータのから算術さんじゅつてき計算けいさんしてられる統計とうけい指標しひょうひとつである。

はは平均へいきん標本ひょうほん平均へいきん[編集へんしゅう]

統計とうけいがくでは平均へいきんにははは平均へいきん標本ひょうほん平均へいきんがある。はは平均へいきんは、母集団ぼしゅうだん相加平均そうかへいきんのこと。標本ひょうほん平均へいきんは、抽出ちゅうしゅつした標本ひょうほん母集団ぼしゅうだん部分ぶぶん集合しゅうごう)の相加平均そうかへいきんのこと。はは平均へいきんμみゅー標本ひょうほん平均へいきんmいて区別くべつする場合ばあいがある[6][7]

相加平均そうかへいきん[編集へんしゅう]

算術さんじゅつ平均へいきん(さんじゅつへいきん、えい: arithmetic mean, どく: arithmetisches Mittel, ふつ: moyenne arithmétique)ともぶ。

相加平均そうかへいきん

定義ていぎされる。しき変形へんけいして

あらわすこともできる。

相加平均そうかへいきん ともあらわす。

相加平均そうかへいきんは、加法かほうとスカラーばい定義ていぎされたかず実数じっすう複素数ふくそすう、ベクトルとう)にたいして定義ていぎできる。

一般いっぱん平均へいきん[編集へんしゅう]

相乗そうじょう平均へいきん[編集へんしゅう]

相乗そうじょう平均へいきん(そうじょうへいきん)または幾何きか平均へいきん(きかへいきん、えい: geometric mean, どく: geometrisches Mittel, ふつ: moyenne géométrique)は

定義ていぎされる。幾何きか平均へいきん相乗そうじょう平均へいきん同義どうぎ用語ようごである。

しき変形へんけいして

ともあらわせる。

対数たいすうると

となり、相乗そうじょう平均へいきんは、対数たいすう算術さんじゅつ平均へいきん指数しすう関数かんすうである。あるいは、相乗そうじょう平均へいきん対数たいすう対数たいすう算術さんじゅつ平均へいきんである。

データに1つ以上いじょうの 0 があるときは、相乗そうじょう平均へいきんは 0 となる。すべてが実数じっすうであっても、せきまけ場合ばあいは、相乗そうじょう平均へいきん実数じっすう範囲はんいないでは存在そんざいしない。また複素数ふくそすう範囲はんいないでは、すべてが実数じっすうであってせき正負せいふいずれであっても、相乗そうじょう平均へいきん一意いちいさだまらない可能かのうせいがある。

相乗そうじょう平均へいきんは、せき累乗るいじょう定義ていぎされたかず実数じっすう複素数ふくそすう)について定義ていぎできる。

調和ちょうわ平均へいきん[編集へんしゅう]

調和ちょうわ平均へいきん(ちょうわへいきん、えい: harmonic mean)は

定義ていぎされる。あるいは

ともあらわせる。

調和ちょうわ平均へいきんは、逆数ぎゃくすう算術さんじゅつ平均へいきん逆数ぎゃくすうである。あるいは、逆数ぎゃくすう算術さんじゅつ平均へいきん調和ちょうわ平均へいきん逆数ぎゃくすうである。

しかし、データに1つ以上いじょうの 0 があるとき、調和ちょうわ平均へいきんはもとの定義ていぎしきからは定義ていぎできないが、0 への極限きょくげんると、調和ちょうわ平均へいきんは 0 となる( のとき )。データに負数ふすうがあっても調和ちょうわ平均へいきん計算けいさんすることができる。ただし、正負せいふ混在こんざいしている場合ばあい逆数ぎゃくすうが 0 になることがあり、その場合ばあい極限きょくげん発散はっさんする。

一般いっぱん平均へいきん[編集へんしゅう]

算術さんじゅつ平均へいきん相乗そうじょう平均へいきん調和ちょうわ平均へいきんおなしき

あるいは

あらわせる。この実数じっすう pたいして定義ていぎしたしきp一般いっぱん平均へいきんぶ。

p = 1算術さんじゅつ平均へいきんp = −1調和ちょうわ平均へいきんとなり、p → 0 への極限きょくげん相乗そうじょう平均へいきんである。また、p = 2場合ばあい二乗にじょう平均へいきん平方根へいほうこん (RMS) とび、物理ぶつりがく工学こうがく様々さまざま応用おうようをもつ。p → ∞ への極限きょくげん最大さいだいp → −∞ への極限きょくげん最小さいしょうである。

一般いっぱん平均へいきんは、ベクトル pノルムった結果けっか一致いっちする。

データの pじょう平均へいきん、つまり、一般いっぱん平均へいきんp

p平均へいきんぶ。

p平均へいきん一般いっぱん平均へいきん応用おうようとして、たとえば統計とうけいがくでは分散ぶんさん標準ひょうじゅん偏差へんさがある。偏差へんさから相加平均そうかへいきんいた)のそれぞれ 2平均へいきん2一般いっぱん平均へいきんとして定義ていぎされている。

一般いっぱん平均へいきんはさらに一般いっぱん可能かのうで、ぜんたんしゃ関数かんすう f により

という平均へいきん定義ていぎできる。恒等こうとう関数かんすう f(x) = x により相加平均そうかへいきんが、逆数ぎゃくすう f(x) = 1/x により調和ちょうわ平均へいきんが、対数たいすう関数かんすう f(x) = log x により相乗そうじょう平均へいきんがそれぞれあらわされている。

相加平均そうかへいきん 相乗そうじょう平均へいきん 調和ちょうわ平均へいきん

定義ていぎいき[編集へんしゅう]

実数じっすう pたいする p一般いっぱん平均へいきんは、データのすべ非負ひふ実数じっすうであるときに定義ていぎされる。これは、一般いっぱん平均へいきんしきあらわれる pべき函数かんすう)が負数ふすうたい定義ていぎできないためである。例外れいがいは、べき関数かんすう使つかわずに計算けいさんできる算術さんじゅつ平均へいきん調和ちょうわ平均へいきん (p = ±1) である。それ以外いがいp ≠ ±1場合ばあい負数ふすうが1つでもふくまれるデータにたいしては、一般いっぱん平均へいきん定義ていぎしき実数じっすうかえさないか、実数じっすうかえしたとしても結果けっか解釈かいしゃくむずかしい。

p < 0場合ばあい、0 をふくむデータにたいしては一般いっぱん平均へいきん定義ていぎしき使つかえないが、調和ちょうわ平均へいきん同様どうよう、0 への極限きょくげんると一般いっぱん平均へいきんは 0 となる。幾何きか平均へいきん0一般いっぱん平均へいきん)も 0 となるので、p ≤ 0場合ばあい一般いっぱん平均へいきんは 0 とかんがえることができる。

具体ぐたいれい[編集へんしゅう]

  • 相乗そうじょう平均へいきん
    • 78ねん経済けいざい成長せいちょうりつ20%、79ねん経済けいざい成長せいちょうりつ80%の場合ばあい、この2年間ねんかん平均へいきん成長せいちょうりつより、やく47%
  • 調和ちょうわ平均へいきん
    • 往は時速じそく60 km、ふく時速じそく90 kmの場合ばあい往復おうふく平均へいきん速度そくど である。
    • 並列へいれつ接続せつぞくされた電気でんき抵抗ていこう抵抗ていこうなどをかんがえる場合ばあいもちいる(直列ちょくれつ回路かいろ並列へいれつ回路かいろ)。

関係かんけいしき[編集へんしゅう]

相加平均そうかへいきん相乗そうじょう平均へいきん調和ちょうわ平均へいきん[編集へんしゅう]

n実数じっすうすべせいときつぎ大小だいしょう関係かんけいつ。

相加平均そうかへいきん相乗そうじょう平均へいきん調和ちょうわ平均へいきん

等号とうごう成立せいりつ条件じょうけん

である。

左側ひだりがわ不等式ふとうしきは、両辺りょうへん対数たいすうをとりlogのとつせいイェンセンの不等式ふとうしき)を適用てきようすれば証明しょうめいできる(数学すうがくてき帰納きのうほう使つかったべつ証明しょうめいられている)。右側みぎがわ不等式ふとうしきは、調和ちょうわ平均へいきん逆数ぎゃくすう相加平均そうかへいきん逆数ぎゃくすうという事実じじつ左側ひだりがわ不等式ふとうしき適用てきようすれば証明しょうめいできる。

さらに拡張かくちょうした p一般いっぱん平均へいきん p実数じっすう)について、一般いっぱんには p広義こうぎ増加ぞうか関数かんすうとなる。p = 1 のとき相加平均そうかへいきんp = −1 のとき調和ちょうわ平均へいきんp → 0 のとき極限きょくげんとして幾何きか平均へいきんになる(#一般いっぱん平均へいきん参照さんしょう)。

相加平均そうかへいきん調和ちょうわ平均へいきん相乗そうじょう平均へいきん[編集へんしゅう]

データのおおきさ n が 2 のときの相加平均そうかへいきん相乗そうじょう平均へいきん調和ちょうわ平均へいきんをそれぞれ A, G, H とすると、

なので、

成立せいりつする。すなわち、データの相乗そうじょう平均へいきん相加平均そうかへいきん調和ちょうわ平均へいきん相乗そうじょう平均へいきんひとしくなる。

様々さまざま平均へいきん[編集へんしゅう]

加重かじゅう平均へいきん[編集へんしゅう]

データのそれぞれに均等きんとうおもみがある場合ばあいは、たん相加平均そうかへいきんをとるのでなくおもみを考慮こうりょした平均へいきんをとるべきである。かく xi に、おもwi がついているときの加重かじゅう平均へいきんおも平均へいきん

定義ていぎされる。とくすべてのおもみがひとしければ、これは通常つうじょう相加平均そうかへいきんである。

たとえば、おも最小さいしょう乗法じょうほうでは、誤差ごさちいさなデータにおおきなおもみをあたえたざん加重かじゅう平均へいきん最小さいしょう[ちゅう 1]することで、ゆう最大さいだいはかる。重点じゅうてんサンプリング英語えいごばんによって期待きたいモンテカルロ推定すいていするときは、もとめたい期待きたいかんするかくりつ密度みつどとサンプルのかくりつ密度みつどおもみとした加重かじゅう平均へいきん推定すいていりょうとする。

相乗そうじょう平均へいきんについてのおも平均へいきん

定義ていぎされる。ただし とする。

連続れんぞく分布ぶんぷ相加平均そうかへいきん[編集へんしゅう]

データ x(t)区間くかん [a, b]連続れんぞくてき分布ぶんぷしているとき、その相加平均そうかへいきん積分せきぶん

定義ていぎされる。これは離散りさん分布ぶんぷ相加平均そうかへいきんたいして、無限むげん平均へいきん算出さんしゅつする操作そうさ極限きょくげんによりあらわしたものである。

対数たいすう平均へいきん[編集へんしゅう]

とくx(t)指数しすう関数かんすうである場合ばあい、その相加平均そうかへいきんはしてんでの関数かんすう x(a), x(b) のみで計算けいさんでき、

となる。これは対数たいすう平均へいきんばれ、対数たいすう平均へいきん温度おんどなどのおう用例ようれいがある。

ベクトルの平均へいきん[編集へんしゅう]

相加平均そうかへいきん加重かじゅう平均へいきんはベクトルの場合ばあい定義ていぎ拡張かくちょうすることができる。ベクトルの平均へいきん物理ぶつりがくにおける質点しつてん重心じゅうしん関係かんけいがある。相乗そうじょう平均へいきん調和ちょうわ平均へいきん定義ていぎできない。

相加平均そうかへいきん[編集へんしゅう]

ベクトル x1, …, xnたいし、それらの(あい平均へいきん

定義ていぎする。

n = 3場合ばあいx1, x2, x3平均へいきんかくてんつく三角形さんかっけい重心じゅうしんである。これはベクトルのかずn場合ばあいにも一般いっぱんでき、x1, …, xn平均へいきんかくてんつくn単体たんたい重心じゅうしんである。

加重かじゅう平均へいきん[編集へんしゅう]

加重かじゅう平均へいきん同様どうようにベクトルに拡張かくちょうでき、

定義ていぎされる。

m平均へいきん一般いっぱん平均へいきんスカラー

として定義ていぎされる。ただしここで ‖ ・ ‖ は、ベクトルのノルムである。m = 2場合ばあい‖ x ‖2内積ないせき 一致いっちするので、m = 2場合ばあいm平均へいきん一般いっぱん平均へいきんとく重要じゅうようである。たとえば物理ぶつりがくでははやさの平均へいきんじょう平均へいきん速度そくど)として、m = 2場合ばあい一般いっぱん平均へいきん使つかうことがある。

ベクトルの加重かじゅう平均へいきん概念がいねんには、物理ぶつりてき解釈かいしゃくあたえることができる。質点しつてん P1, …, Pn がそれぞれ位置いち x1, …, xn にあり、それぞれの質量しつりょうm1, …, mn であるとき、加重かじゅう平均へいきん

けい重心じゅうしんである。

算術さんじゅつ幾何きか平均へいきん[編集へんしゅう]

a0, b0 を、a0 > b0たす2つの非負ひふ実数じっすうとする。a1, a2, …; b1, b2, …

により定義ていぎする。このとき、

a0b0算術さんじゅつ幾何きか平均へいきんという。

移動いどう平均へいきん[編集へんしゅう]

系列けいれつデータ を平滑へいかつする手法しゅほうである。画像がぞう音声おんせいとう、デジタル信号しんごう処理しょりまらず、テクニカル分析ぶんせきなどの金融きんゆう分野ぶんや気象きしょうみずぞうふく計測けいそく分野ぶんやとうひろ技術ぎじゅつ分野ぶんや使つかわれている。

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 最小さいしょう乗法じょうほうにおいて、加重かじゅう最小さいしょう加重かじゅう平均へいきん最小さいしょうおなじことである。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ JIS Z 8101-1 : 1999, 2.13 平均へいきん.
  2. ^ たとえば A, B, C という3にん体重たいじゅうがそれぞれ 55 kg, 60 kg, 80 kg であったとすると、3にん体重たいじゅう平均へいきんは (55 kg + 60 kg + 80 kg) ÷ 3 = 65 kg である。
  3. ^ 民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさ結果けっか - 標本ひょうほん調査ちょうさ結果けっか国税庁こくぜいちょう
  4. ^ Clementi, Fabio; Gallegati, Mauro (2005) "Pareto's law of income distribution: Evidence for Germany, the United Kingdom, and the United States", EconWPA
  5. ^ 西岡にしおか, かりこみ平均へいきん p.7.
  6. ^ 西岡にしおか, p.5.
  7. ^ 伏見ふしみ, だいIIあきら 確率かくりつろん 10せつ 偶然ぐうぜんりょう平均へいきん p.70.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]