キビ (黍 きび 、稷 きび 、学名 がくめい :Panicum miliaceum )は、イネ科 か の一 いち 年 ねん 草 くさ で、穀物 こくもつ の一種 いっしゅ 。五穀 ごこく の一 ひと つとされる。
キビの語源 ごげん については、一般 いっぱん 的 てき には『和訓 わくん 栞 しおり 』などが説 と く黄色 きいろ い実 み の黄 き 実 み (キミ)が転 てん じたものという[ 2] 。しかし、『日本語 にほんご 源 げん 学 がく 』では真 ま 黄 き 実 み (マキミ)の略 りゃく 、『日本 にっぽん 古語 こご 大 だい 辞典 じてん 』では食 しょく 実 み (ケミ)の意味 いみ 、『日本語 にほんご 源 げん 考 こう 』では黄 き 米 まい の別 べつ 音 おん (Ki-Mi)に由来 ゆらい するとしており諸説 しょせつ ある[ 2] 。
中国 ちゅうごく 語 ご の「黍 きび 」は『説 せつ 文 ぶん 解 かい 字 じ 』によると「黏(ねばり)あるもの」の意味 いみ があり、本来 ほんらい はもちきび(モチ種 しゅ )を意味 いみ した[ 2] 。「稷 きび 」は本来 ほんらい はうるちきび(ウルチ種 しゅ )を意味 いみ したが、コウリャン (高梁 たかはし )を意味 いみ したとする説 せつ もある[ 2] 。
名称 めいしょう に関 かん しては、モロコシ (タカキビ)を「キビ」と呼 よ ぶ地方 ちほう では、本 ほん 種 たね を「コキビ」と呼 よ ぶ。サトウキビ を「キビ」と呼 よ ぶ地方 ちほう もある。
原産地 げんさんち
(最 もっと も古 ふる い栽培 さいばい 植物 しょくぶつ の一種 いっしゅ ではあるが)植物 しょくぶつ 学 がく 的 てき な起源 きげん (祖先 そせん 野生 やせい 種 しゅ )は明 あき らかでない[ 3] 。東 ひがし アジアから中央 ちゅうおう アジア にかけての大陸 たいりく 性 せい 気候 きこう の温帯 おんたい 地域 ちいき が原産地 げんさんち と考 かんが えられている[ 4] 。起源 きげん に関 かん する説 せつ は、ユーラシア大陸 たいりく 起源 きげん 説 せつ 、東 ひがし アジア起源 きげん 説 せつ があるがはっきりしていない。
栽培 さいばい
栽培 さいばい 化 か の地理 ちり 学 がく 的 てき 起源 きげん についても諸説 しょせつ ある[ 3] 。
ヨーロッパ 、中央 ちゅうおう アジア、インド 、中国 ちゅうごく など有史 ゆうし 以前 いぜん から広 ひろ く栽培 さいばい されていた[ 4] 。考古学 こうこがく 的 てき な証拠 しょうこ (エビデンス)としては、紀元前 きげんぜん 1万 まん 年 ねん ころには中国 ちゅうごく 北部 ほくぶ で栽培 さいばい が行 おこな われていたという証拠 しょうこ がある(Lu et al., 2009)[ 6] 。新 しん 石器 せっき 時代 じだい 以来 いらい の人類 じんるい の食用 しょくよう 穀物 こくもつ で、中国 ちゅうごく の華北 かほく 地方 ちほう では、アワ とともに古代 こだい の主要 しゅよう 穀物 こくもつ であった[ 7] 。
中国 ちゅうごく では稷 きび (うるちきび)は「百 ひゃく 穀 こく の長 ちょう 」あるいは「五穀 ごこく の長 ちょう 」とされ神格 しんかく 化 か されていた(米 べい (イネ)は殷 いん ・周 しゅう の時代 じだい には華北 かほく では栽培 さいばい されなかったためといわれている)[ 2] 。漢語 かんご の「社稷 しゃしょく 」には国家 こっか や朝廷 ちょうてい の意味 いみ がある[ 2] 。
日本 にっぽん へは、アワ 、ヒエ 、イネ などよりも遅 おそ く渡来 とらい したと考 かんが えられている[ 4] 。『万葉集 まんようしゅう 』にキビの記述 きじゅつ があるとおり日本 にっぽん では古 ふる くから親 した しまれており、童話 どうわ 『桃太郎 ももたろう 』の作中 さくちゅう に登場 とうじょう するキビダンゴ は有名 ゆうめい である。なお、北海道 ほっかいどう に導入 どうにゅう されたのは明治 めいじ になってからである[ 4] 。
なお、イネ科 か キビ属 ぞく は約 やく 470種 しゅ が分布 ぶんぷ しており、これらの中 なか で栽培 さいばい 化 か されたのは3種 しゅ で、本 ほん 項 こう のキビ(Panicum miliaceum L., )のほか、インド起源 きげん のサマイ(P. sumatrense Roth. )およびメキシコ 起源 きげん のサウイ(P. sonorum Beal. )がある[ 3] 。
一方 いっぽう 、亜種 あしゅ も含 ふく め、世界 せかい 的 てき に広 ひろ く分布 ぶんぷ する雑草 ざっそう でもあり、雑草 ざっそう 的 てき 系統 けいとう から野生 やせい 系統 けいとう を区別 くべつ することは容易 ようい でない[ 3] 。
一 いち 年生 ねんせい 草本 そうほん [ 3] 。夏 なつ から秋 あき にかけて茎 くき の先 さき に穂 ほ ができて垂 た れ下 さ がる。穂 ほ 姿 すがた がイネに似 に ていることからイナキビともいう[ 2] 。大型 おおがた の円錐 えんすい 花序 かじょ で[ 2] 、小 しょう 穂 ほ は不 ふ 稔 みのり 花 はな と稔 みのる 実 じつ 花 はな からなる[ 3] 。穎果(実 み )の色 いろ は白 しろ 、黄 き 、橙 だいだい 、赤 あか 、黒 くろ 、褐色 かっしょく などがある[ 2] 。
栽培 さいばい 種 しゅ は形態 けいたい 的 てき 変異 へんい が大 おお きいが、草丈 くさたけ 1メートル から2メートル程度 ていど になり、一般 いっぱん 的 てき に初夏 しょか に播種 はしゅ して秋 あき に収穫 しゅうかく される[ 3] 。分 ぶん げつはあまりしない[ 3] 。アワと同様 どうよう にウルチ種 しゅ (ウルチ、ウル、粳 うるち )とモチ種 しゅ (モチ、糯 もち )がある[ 4] 。
雑草 ざっそう 性 せい で脱 だつ 粒 つぶ 性 せい が強 つよ く、北 きた アメリカのミシシッピー上 じょう 流域 りゅういき では強 つよ 害 がい 雑草 ざっそう になっている[ 3] 。また、ヨーロッパ、ロシアから東部 とうぶ シベリアにかけ雑草 ざっそう 的 てき に帰化 きか している[ 3] 。
栽培 さいばい 期間 きかん が45日間 にちかん と短 みじか く、痩 や せた土地 とち や少 すく ない水量 すいりょう にも適応 てきおう 可能 かのう なため、完全 かんぜん に定住 ていじゅう しているわけではない半 はん 遊牧民 ゆうぼくみん でも栽培 さいばい が可能 かのう である[ 8] 。
野生 やせい 種 しゅ は主 おも にサバンナ地帯 ちたい で利用 りよう されており、野生 やせい 種 しゅ は食糧 しょくりょう 、飼料 しりょう 、薬用 やくよう などに利用 りよう されている[ 3] 。また、栽培 さいばい 種 しゅ としては、ユーラシア大陸 たいりく のほか、アフリカ、北米 ほくべい 、オーストラリア でも栽培 さいばい されている[ 3] 。特 とく にユーラシア大陸 たいりく 全域 ぜんいき で新 しん 石器 せっき 時代 じだい から文明 ぶんめい を支 ささ えてきた重要 じゅうよう な穀物 こくもつ である[ 3] 。
伝統 でんとう 的 てき な穀物 こくもつ の調理 ちょうり 法 ほう は、粒食 りゅうしょく 、粗 そ 挽粉食 ふんしょく 、粉食 ふんしょく および飲物 のみもの に分 わ けられる[ 3] 。
粒食 りゅうしょく (めしや粒 つぶ 粥 かゆ )は主 おも に東 ひがし アジアから南 みなみ アジアにみられる[ 3] 。キビは米 べい と一緒 いっしょ に1、2割 わり の割合 わりあい で混 ま ぜて炊飯 すいはん すると、米飯 べいはん よりも甘 あま みと少 すこ しのほろ苦 にが みが加 くわ わる。古代 こだい 中国 ちゅうごく の草 くさ 本書 ほんしょ 『食物 しょくもつ 本草 ほんぞう 』によれば、「味 あじ は甘 あま く性質 せいしつ は温 ゆたか で毒 どく はない。気 き を益 えき し、脾臓 ひぞう や胃 い の働 はたら きを助 たす ける作用 さよう がある。」とある。キビの独特 どくとく の甘 あま みは、人 ひと によって「しつこい味 あじ 」と評 ひょう される場合 ばあい があるが、豆類 まめるい と一緒 いっしょ に炊 た き込 こ むと豆 まめ の旨味 うまみ を引 ひ き出 だ して「おいしい」に評価 ひょうか が変 か わるともいわれており、相性 あいしょう の良 よ い食材 しょくざい と一緒 いっしょ に調理 ちょうり されることでおいしく食 た べられる。
キビの粗 そ 挽粥やパンは中央 ちゅうおう アジアやヨーロッパで調理 ちょうり されている[ 3] 。
また、穀物 こくもつ のモチ性 せい 品種 ひんしゅ を用 もち いたもち やおこわ などは東 ひがし アジアに特徴 とくちょう 的 てき な食 た べ物 もの となっている[ 3] 。炊 た きたてのモチ黍 きび をすり鉢 ばち に入 い れてついたものは黄色 きいろ い餅 もち になり、それを丸 まる めると黍 きび 団子 だんご となる。岡山 おかやま 県 けん の吉備 きび 団子 だんご も、元々 もともと は黍 きび 団子 だんご の一種 いっしゅ で、その名 な の通 とお り黍 きび 粉 こ を原料 げんりょう としていた。吉備 きび と黍 きび (キビ)の語呂合 ごろあ わせから吉備 きび 団子 だんご と書 か かれるようになった。現在 げんざい では、黍 きび 粉 こ を使 つか わずに白玉粉 しらたまこ などで作 つく られることも多 おお い。桃太郎 ももたろう 伝説 でんせつ に登場 とうじょう するキビダンゴは黍 きび で作 つく られた団子 だんご であり、江戸 えど 時代 じだい 末期 まっき になって登場 とうじょう した吉備 きび 団子 だんご ではない。
キビは極東 きょくとう ではアルコール飲料 いんりょう (焼酎 しょうちゅう など)の原料 げんりょう にするが、ヨーロッパでは非 ひ アルコール飲料 いんりょう のみに利用 りよう される[ 3] [ 2] 。
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