連合軍軍政期には、南朝鮮で統一政府樹立に向けた左右合作運動が展開された他、南朝鮮単独政府(大韓民国)の樹立直前に北朝鮮で南北連席会議が催された。だが、いずれの試みも統一に向けた具体的な成果を出せず、朝鮮の分断国家化を止めることができず、朝鮮戦争が勃発した。韓国、北朝鮮は両政府共に未だに平和条約を締結していない。
分断直後、南北朝鮮はいずれも単一国家の樹立による統一を目指していた。後述の金正恩の路線変更までは、南北とも連邦国家の樹立が統一の基本方針となっていた。
韓国は、建国以来、李承晩が構想していた「北進統一」論が存在し、北朝鮮に対して「北派工作員」が派遣されていた。民主化後は議会や大統領選での左右対立が激しく、そのたびに融和か敵対か大きく路線が変わってきた。
北朝鮮は、1950年6月25日に朝鮮戦争を開始して軍事的に統一を目指した過去があるため、その指向性は完全には捨てていないと考えられるが、1980年代からの長期経済衰退により、それを可能とする国力は乏しくなった。独裁国家のため情報も乏しく、具体的な動きは定かではない。これまでに幾度となく北朝鮮から韓国に対して「対南工作」が行われ、また、「南侵トンネル」が韓国国内で発見されている。
38度線の南側にある韓国と北側にある北朝鮮は、国家の正統性を巡って建国以来敵対関係にあるものの、同一の民族(朝鮮人)が居住している朝鮮半島が分断されている現状を「非正常な状況」と認識し、朝鮮半島を一つの国家(主権)の施政下に統一することを最終目標としている点は長年一致していた。そのため、南北ともに建国直後は戦争による吸収統一を、1972年の南北共同声明発表以降は自主的、平和的かつ単一民族としての団結に基づく統一方法を模索してきた。
だが北朝鮮は2024年1月から「南北統一」の目標を放棄しており[2]、韓国人を同一民族だとみなさず[3][4][5][1]、かつ戦争を経ない統一法案(いわゆる平和統一)を放棄する方針を採用し始めたため[5][1]、問題は従来と別の方向に進み始めていると一部識者は指摘している[2](詳細は後述 )。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政府は、大韓民国政府を『南朝鮮』(ナムジョソン、南北会談では南側)と呼んでおり、報道や公式文書で大韓民国という名称が使われることはなかった。これは北朝鮮が大韓民国を同じ民族であり、統一の対象と見做してきたためである[6]。蔑称として用いる場合は『南朝鮮傀儡』(傀儡の後に『徒党』『一味』『反民族集団』が入ることがある)との呼称が、「米帝」の傀儡国家だと、北朝鮮が看做している韓国を指す言葉として用いられることがある。ただし、2023年7月には金正恩総書記の妹である金与正が大韓民国という呼称を用いつつ非難する談話を出したほか、同年8月には金正恩自身も海軍増強の演説の中で大韓民国という正式名称を用いており、北朝鮮が次第に『大韓民国傀儡』を統一ではなく、敵対的な相手と見做す方向へ転換しつつある[6][7]。
大韓民国側は、朝鮮民主主義人民共和国を『北韓』(プッカン)もっと省略して『北』(プク、南北会談では北側)と呼んでいる。1972年の南北共同声明以前は朝鮮民主主義人民共和国を「朝鮮の北にあるソビエト連邦や中共政権[注 1]の傀儡政権」という意味の『北傀』と呼んでいた。
北朝鮮・金正恩による韓国敵視政策への移行
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朝鮮半島の分断には様々な要因があるが、1948年8月13日の李承晩による大韓民国(以下韓国)の建国宣言と、それに伴う同年9月9日の金日成による朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)の建国宣言が、その中でも最も大きな要因と考えられている。しかし、韓国の『中央日報』が2005年9月に伝えた報道によると、「朝鮮半島分断の責任はどこの国にあるか」というアンケートにおいて、アメリカ53%、日本15.8%、ロシア(ソ連)13.7%、中国8.8%という結果になっている[29]。このように、統一に要する負担をアメリカ・日本・ロシア・中国に求める意見も少なくない。北朝鮮の世界的な孤立状況と南北の経済格差、韓国の資本主義と北朝鮮の共産主義が全く正反対にあることから、現実的に統一は無理なのではないかとする声もある。
また、韓国では一部の人が「統一新羅時代から朝鮮(韓)民族は言語や伝統、歴史を共有してきたが、朝鮮戦争後の社会体制の違いから南北の人間はもう既に別民族」とする考えもおこってきている。韓国のニューライト(新右派)などは、統一問題には冷淡であり、北朝鮮が崩壊したら、周辺諸国が共同管理すればよいと主張する。
韓国で大学修学能力試験(日本の大学入学共通テストに相当)を終えた高校生を対象に、統一問題や安全保障問題について講義や講演を行った脱北者によると、受講生は講義中の私語(大声で笑う、騒ぐ)やスマホいじりが多く、時には大声で通話することもあるなど学級崩壊・授業崩壊が酷く、教師も全く注意しないほか、中には「北朝鮮の悪い点をあまり強調しないでほしい」と求める教師もいるという[30]。そして、生徒に「私はこの韓国が嫌いです。北朝鮮に行くことはできませんか?」「統一が実現すれば、北朝鮮の核兵器も韓国のものになるのだから、なぜこれをなくそうとするのか」などと質問されたことがあるといい、「韓国の学校では北朝鮮について一体どのように教えているのか。韓国の高校生は北朝鮮の実情についてあまりにも無知で、また安全保障という概念さえ持ち合わせていない」と韓国の教育現場を批判している[31]。
北朝鮮については、言論の自由がない情報統制国家ゆえに、国民の統一に関する意識がどの程度なのかは定かではない。
元仁荷大学教授のシェファード・アイバーソンは、朝鮮半島の対立を外交的に解決するために、北朝鮮内部での体制転換を実施するためとして、北朝鮮の上層部のエリートたちに賄賂を送る目的で、1750億ドルの統一投資ファンドを創設することを提案した。この提案では、平壌で権力を振るうエリート幹部の家族に総額233億ドルを上納し、上位10家族にはそれぞれ3000万ドル、上位1000家族には500万ドルを上納すると指摘している。また、1218億ドルは、統一後の生活を再び始めるために、国の一般住民に行くことになり、基金の収益は、民間団体やビジネスの大物から調達されることが想定されている[32][33][34]。
統一に要する費用については、アメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたところ、世界銀行などの試算によると、約2兆ドル~3兆ドル(日本円にして約204兆円~306兆円)とも言われており、これは韓国のGDPの約1.5倍にも相当する。現在、韓国と北朝鮮との経済格差はおおよそ30:1と換算されており、統一が実現した場合には国力に勝る韓国がその大部分を負担し、北朝鮮へのインフラ整備や食糧支援を始めとした総合的な援助を長期的に行う必要があるとされる。そのような巨大な負担を韓国が担うことが出来るかという点については、大いに疑問視されており、負担の一部を国際社会からの援助で賄うことができたとしても、韓国がその負担に耐え切れず、朝鮮半島の経済が崩壊してしまうのではないかとも危惧されている。
GDPランキング177位の北朝鮮と10位の韓国とは経済力に差がありすぎるため、韓国国民が反対している。
なお、過去に日本が朝鮮半島を併合した時も同様で、日本は巨額の税金を朝鮮半島のインフラストラクチュア整備などに投入し続け、半島経営についての収支は常に赤字であったとされている。また、1990年の東西ドイツ統一の場合も、経済格差は西ドイツ3:東ドイツ1であったと言われており、統一後のドイツ連邦共和国に於ける長期に渡る不況や、現在も存在する旧東ドイツ領域との経済格差による問題などが大きな国内問題となった。
しかし、一方で、1989年のベルリンの壁崩壊によって、人民民主主義体制であった東ヨーロッパの諸社会主義国の自由民主主義化が進み、それが1991年12月のソビエト連邦の崩壊に結びつき、ヨーロッパおよび世界に「平和の配当」をもたらしたことも事実である。北朝鮮の民主化と韓国による統一が、この地域の軍事緊張を低下させるのであれば、それは周辺諸国にとっても経済的にも安全保障的にもプラスとなる。このように、長期的には東アジアの民主化の進行はこの地域に恩恵をもたらすことは否定できない。その意味で、慎重かつ着実な統一の前進を求める声も根強い。
韓国は1987年の「民主化宣言」以後、資本主義体制の自由民主主義国家であり、北朝鮮は共産主義(マルクス=レーニン主義)から「主体思想」に移行し共産主義と王朝が混在したような独裁国家であるが、統一した場合の国家体制については全く不透明な状態となっている。このような全く正反対とも言える体制の分断国家同士が統一した例としては、南北ベトナムの統一(1975年 - 1976年)、南北イエメンの統一(1990年5月22日)、東西ドイツの再統一(1990年10月3日)があげられる。共産主義国家に吸収されたベトナムでは華僑・地主層・資本家などを含む大量の難民が発生し(ベトナム難民)、資本主義国家に吸収されたドイツでは難民は発生しなかったものの統一後の社会インフラストラクチュアの整備などで巨額のコストと失業などが発生し、北イエメン主導で統一が達成されたイエメンでは旧南イエメン勢力が分離独立を求め、1994年にイエメン内戦が勃発している。
朝鮮半島、周辺諸国および世界にも混乱をもたらす大量の難民を出さないために現実的に考えられるのは韓国による北朝鮮の緩やかな併合と思われるが、その過程において、北朝鮮の国民が資本主義や民主主義を理解し受け入れることができるか、またその為の教育や努力を韓国が為しうるかについても相当の困難が予想され、実現にはかなりの長期間が必要であると考えられる。
また、資本主義体制の香港及びマカオが社会主義市場経済体制の中国に返還された際には一国二制度が採用されたが、同じように朝鮮半島も一国二制度のような形式をとる方向性もあり、北朝鮮は連邦制、韓国は緩やかな連合制を主張している。
統一後、共通の通貨が用いられることが予想されている。大韓民国ウォン(韓国ウォン)と朝鮮民主主義人民共和国ウォン(北朝鮮ウォン)の為替レートは2018年6月時点でおよそ1:8の比率である[35]。1990年の東西ドイツ統一により発行された新マルクを比較対象とした場合、西ドイツマルクと東ドイツマルクのレートは統一直前時点でおよそ1:10である[35]。東西ドイツは南北朝鮮より経済格差が小さかったにもかかわらず「差が大きいため、いきなり統一するのは難しい」と言われていた[36]。朝鮮が統合通貨を用いた場合、統合比率如何によって北朝鮮ウォンの貿易競争力を失い[注 2]、生産力も落ちる[36]。これを避けるため大幅なレートの差を残して統一した場合、北側(現・北朝鮮)の住民が南側(現・韓国)になだれ込み、社会問題化する懸念がある[36]。想定される新通貨は、韓国ウォンに一本化する方法(ドイツ型)、もしくは全く新しい統一ウォンであり、前者よりも後者の方法が朝鮮民族は納得するだろうと考え得る[37]。しかしながら、国家の統一なくとも通貨同盟を実施して、それぞれ独立国家体制を維持したまま共通通貨を使用することもできる。
統一後は、元韓国領地域へ大量に流入すると思われる北朝鮮地域からの住民の移動により、治安の悪化や都市のスラム化が進むと考えられている。また、このような問題に端を発する差別や排斥運動なども懸念される。また、現在も存在する北朝鮮の情報工作員や過激な民族主義者が統一後の韓国を混乱させるのではないかという事も危惧される。この混乱が半島内に収まらず、日本や中国などの近隣諸国へも悪影響を及ぼす可能性も懸念される。一方で、このまま北朝鮮が存続しても、不安定な軍事独裁国家として周辺諸国の脅威となり、また、「脱北者」と呼ばれる難民を生み出し続けることとなる。特に陸続きの中国では、今でも大量の脱北者が存在するとされている。従って、一時的な負担は大きくても、統一による「平和の配当」が期待できるという見方もある。
中国は、北東アジア最大の鉄鉱石埋蔵量を誇る北朝鮮の茂山鉱山の50年間の採掘権を獲得し、また羅津港の50年間の使用権を獲得するなど北朝鮮の経済的利権を囲い込んでいる。そのため、南北統一が実現すれば、中国の巨大な北朝鮮の経済権益を喪失しかねない。また、北朝鮮が崩壊すれば、大量の難民が中国に流入し、中国の社会秩序さえ不安定化するため、重村智計[38]や礒﨑敦仁[39]の2人も北朝鮮が崩壊、内戦、クーデター等の混乱状態に陥れば中国が北朝鮮に軍事介入する可能性を指摘している。また、韓国主導で南北統一が実現すれば、中国は在韓米軍と国境を接することになる。従って中国は、安全保障の観点から北朝鮮の存続を望んでいると考えられている。
また、2024年6月にロシア大統領のウラジミール・プーチンが金正恩と会談していることから、ロシアも北朝鮮の存続を望んでいると推測される[40]。
朝鮮民主主義人民共和国