杖 つえ の歴史 れきし は古 ふる く文字 もじ で記録 きろく されるより前 まえ から存在 そんざい した道具 どうぐ である[2] 。古来 こらい 、足腰 あしこし が弱 よわ った人 ひと や巡礼 じゅんれい など長距離 ちょうきょり の歩行 ほこう に用 もち いられた[2] 。
古代 こだい エジプト、古代 こだい ギリシャ、古代 こだい ローマの神 かみ 々の絵 え には様々 さまざま な杖 つえ が描 えが かれている[2] 。また、杖 つえ は御 ご 神木 しんぼく から加工 かこう したり、神 かみ の装飾 そうしょく を施 ほどこ すなど神聖 しんせい 視 し されたほか、権威 けんい の象徴 しょうちょう でもあった[2] 。
1924年 ねん のイギリス
ヨーロッパでは杖 つえ の文化 ぶんか が発達 はったつ し、権威 けんい の象徴 しょうちょう として戴冠 たいかん 式 しき などの国家 こっか 的 てき 儀式 ぎしき に使用 しよう されるほか日常 にちじょう 生活 せいかつ にも定着 ていちゃく している[2] 。
なお、英語 えいご におけるワンド (英語 えいご 版 ばん ) (wand)は魔術 まじゅつ などとのかかわりで伝説 でんせつ や物語 ものがたり に登場 とうじょう することが多 おお いが、元来 がんらい は農具 のうぐ だったといわれる。
古 ふる いタロットカード の図柄 ずがら に、杯 はい 、硬貨 こうか 、剣 けん と並 なら んで杖 つえ がモチーフとして使 つか われているが、それぞれに聖職 せいしょく 者 しゃ 、商人 しょうにん 、騎士 きし 、農夫 のうふ を意味 いみ している。杖 つえ は、農夫 のうふ の道具 どうぐ で、これで畑 はたけ の土 ど を掘 ほ り起 お こしていた。この杖 つえ 、ワンド と呼 よ ぶものは、現在 げんざい のトランプ では「クラブ 」(クローバとも)に取 と って代 かわ られた。
日本 にっぽん では明治 めいじ から大正 たいしょう 時代 じだい にステッキが大 だい 流行 りゅうこう した[2] 。昭和 しょうわ 初期 しょき には若者 わかもの がステッキを携帯 けいたい することもあった[2] 。しかし、戦時 せんじ 期 き になりステッキを持 も つ人 ひと は激減 げきげん し、戦後 せんご の高度 こうど 経済 けいざい 成長 せいちょう 期 き には合理 ごうり 性 せい や利便 りべん 性 せい が重視 じゅうし されステッキは専 もっぱ ら実用 じつよう 目的 もくてき のものとみられるようになった[2] 。
国賓 こくひん や皇族 こうぞく などを外国 がいこく から招 まね いたときに、儀仗 ぎじょう 隊 たい の閲兵 えっぺい (栄誉 えいよ 礼 れい 受礼)などが行 おこな われるが、部隊 ぶたい を統率 とうそつ する士官 しかん が、象徴 しょうちょう 的 てき な杖 つえ を手 て にして、統率 とうそつ する。メイス(mace、元 もと は中世 ちゅうせい では敵 てき のかぶと を叩 はた き割 わ るのに用 もち いられた槌 づち のこと)といわれるが、これも短 みじか い象徴 しょうちょう 的 てき な装飾 そうしょく のある杖 つえ の一種 いっしゅ で、中世 ちゅうせい のヨーロッパ では、君主 くんしゅ や宗教 しゅうきょう 的 てき な指導 しどう 者 しゃ が、その権威 けんい の象徴 しょうちょう として手 て にしたこともある。また、古代 こだい ローマ以来 いらい の伝統 でんとう として軍 ぐん 司令 しれい 官 かん に授与 じゅよ される元帥 げんすい 杖 つえ も存在 そんざい するが、これは一般 いっぱん 的 てき な杖 つえ よりさらに短 みじか いバトン である。
この杖 つえ の現代 げんだい における後身 こうしん のひとつは、オーケストラ の指揮 しき 者 しゃ のタクト である。
修行 しゅぎょう 僧 そう や、修験 しゅげん 者 しゃ が持 も つ杖 つえ を錫杖 しゃくじょう (しゃくじょう)という。
また四国 しこく 八 はち 十 じゅう 八 はち カ所 かしょ などの巡礼 じゅんれい の遍路 へんろ が持 も つ杖 つえ を金剛杖 こんごうづえ (こんごうじょう、こんごうづえ)または遍路 へんろ 杖 つえ (へんろじょう)という。杖 つえ は卒塔婆 そとうば の意味 いみ に加 くわ え弘法大師 こうぼうだいし (空海 くうかい ) の身代 みがわ りとの意味 いみ も持 も つという。札所 ふだしょ には険 けわ しい山中 さんちゅう にある寺 てら もあるので実用 じつよう 的 てき な登山 とざん 用 よう としての杖 つえ の機能 きのう も果 は たす。
また、山岳 さんがく 信仰 しんこう のある地域 ちいき では八角 はっかく 柱 ばしら の杖 つえ が販売 はんばい されている。乗鞍岳 のりくらだけ などでは土産物 みやげもの などとしても販売 はんばい されている。
祭服 さいふく を完 かん 装 そう した状態 じょうたい のブルガリア正教会 せいきょうかい の主教 しゅきょう 。ミトラ を被 こうむ り、権 けん 杖 つえ を持 も っている。
キリスト教 きりすときょう においては、高位 こうい 聖職 せいしょく 者 しゃ がその位 い を象徴 しょうちょう する杖 つえ を用 もち いる。訳語 やくご の違 ちが いのみならず、形状 けいじょう もそれぞれ異 こと なる。
ハリーポッター の本 ほん とエルダーワンド(杖 つえ )のレプリカ
魔女 まじょ や魔法使 まほうつか い に特有 とくゆう の魔法 まほう の呪文 じゅもん に対 たい してより効力 こうりょく を持 も たせるための小道具 こどうぐ として「魔法 まほう の杖 つえ 」が登場 とうじょう することが多 おお い。ただし、その大半 たいはん はフィクション 的 てき な脚色 きゃくしょく が少 すく なくない。所謂 いわゆる 「杖 つえ 」より短 みじか い、指揮棒 しきぼう 程度 ていど の長 なが さのこともある。
各種 かくしゅ のファンタジー 作品 さくひん においては、魔法使 まほうつか いを象徴 しょうちょう する道具 どうぐ のひとつとして用 もち いられる事 こと が多 おお い。コンピュータゲーム やテーブルトークRPG などで複数 ふくすう の種類 しゅるい が登場 とうじょう する際 さい には、形状 けいじょう や大 おお きさによって「ワンド」「ロッド」「スタッフ」などに分類 ぶんるい される場合 ばあい もある。
また、魔法 まほう 少女 しょうじょ を題材 だいざい とする作品 さくひん においては、変身 へんしん する際 さい の魔法 まほう の道具 どうぐ の一種 いっしゅ として「マジカルステッキ 」が登場 とうじょう する。この場合 ばあい には、ステッキの用例 ようれい が比較的 ひかくてき 多 おお いが、前述 ぜんじゅつ のようにロッドなどの用例 ようれい も見 み られる。
モーニングコート や燕尾服 えんびふく を着用 ちゃくよう するときは、礼装 れいそう として帽子 ぼうし と杖 つえ をセットで用 もち いていた。
黒檀 こくたん 等 とう の黒 くろ 系統 けいとう の棒 ぼう に純銀 じゅんぎん や象牙 ぞうげ の握 にぎ りのついたものが正式 せいしき かつ主流 しゅりゅう 。装飾 そうしょく 品 ひん として望遠鏡 ぼうえんきょう の付 つ いた物 もの など手作 てづく りを生 い かした個性 こせい 的 てき な物 もの が数多 かずおお く存在 そんざい した。
より安定 あんてい 性 せい が増 ま す四 よん 点 てん 杖 つえ
老人 ろうじん などが持 も つ歩行 ほこう 杖 つえ のほか、視覚 しかく 障害 しょうがい 者 しゃ などが使用 しよう する白 しろ 杖 つえ 、医療 いりょう 用 よう の松葉杖 まつばづえ (ロフストランドクラッチ も)なども杖 つえ の一種 いっしゅ である。最近 さいきん は折 お りたためるものも出 で ている。なお、接地 せっち 点 てん の数 かず を複数 ふくすう にした三 さん 点 てん 杖 つえ (三 さん 点 てん 支持 しじ 杖 つえ )や四 よん 点 てん 杖 つえ (四 よん 点 てん 支持 しじ 杖 つえ )もある。杖 つえ に肘 ひじ 当 あ てがついた杖 つえ もある。
トクマと呼 よ ばれるT字 じ 型 がた の杖 つえ をドッコと呼 よ ばれる背負子 しょいこ の下 した に入 い れ、荷物 にもつ を運 はこ ぶポーターが休憩 きゅうけい している様子 ようす
近代 きんだい の登山 とざん ではピッケル を杖 つえ 代 か わりに使用 しよう する。現代 げんだい では主 おも に伸縮 しんしゅく 機能 きのう のあるストック(登山 とざん 用 よう )が使用 しよう されている。軽 けい 登山 とざん 用 よう のストックはトレッキング・ポールと呼 よ ばれる。荷 に 運 はこ びをする歩 ふ 荷 に 、ポーター (英語 えいご 版 ばん ) らは、T字 じ 型 がた の杖 つえ (ネパールではトクマ、Tokmaと呼 よ ばれる)を使用 しよう し、休憩 きゅうけい 時 じ に背負 せお った荷物 にもつ の重量 じゅうりょう を逃 のが すために背負子 しょいこ の下 した に置 お く[3] 。
山岳 さんがく 信仰 しんこう での杖 つえ は#仏教 ぶっきょう における杖 つえ を参照 さんしょう 。
スイングジャグリング の道具 どうぐ として、木製 もくせい ・金属 きんぞく 製 せい ・プラスチック製 せい の杖 つえ が用 もち いられる場合 ばあい がある。暗闇 くらやみ での演出 えんしゅつ 効果 こうか を高 たか めるため、杖 つえ に照明 しょうめい が施 ほどこ されることもある。この種 たね の技芸 ぎげい はスタッフトワリング(Staff twirling)と呼 よ ばれる。
杖 つえ はマジシャン が奇術 きじゅつ を演 えん じる際 さい において、カード (トランプ )やコイン 、ハンカチ と並 なら び、ポピュラーな道具 どうぐ として知 し られている。上記 じょうき 項目 こうもく 「魔女 まじょ ・魔術 まじゅつ 的 てき な使用 しよう 」にあるように、古来 こらい より魔法使 まほうつか いを表現 ひょうげん する際 さい には大抵 たいてい の場合 ばあい において杖 つえ が用 もち いられるため、奇術 きじゅつ の神秘 しんぴ 性 せい を演出 えんしゅつ するアイテムとして使用 しよう される事 こと もある。
また、この場合 ばあい 、杖 つえ は専門 せんもん 用語 ようご で「ケーン 」と呼称 こしょう される。なお、短 みじか いタイプになると「ウォンド (wand)」と呼称 こしょう される場合 ばあい も有 あ る。また「ステッキ 」でも間違 まちが いではないが、この場合 ばあい は奇術 きじゅつ に使用 しよう するもの以外 いがい の杖 つえ も含 ふく まれる ため、舞台 ぶたい 上 じょう において奇術 きじゅつ の観覧 かんらん 客 きゃく に対 たい してケーンやウォンドを指 さ す際 さい の呼称 こしょう としてしか使 つか われる事 こと は無 な い。
ばね 仕掛 しか けで突然 とつぜん 手 て のひらに現 あらわ れたように見 み せるアピーリングケーン Appearing Cane)などが発明 はつめい された。
マジシャンの魔力 まりょく の象徴 しょうちょう として、その葬儀 そうぎ の際 さい には、マジシャンが使用 しよう していた杖 つえ を折 お るブロークン・ワンド・セレモニー が行 おこな われることがある。
刃 は が飛 と び出 だ す杖 つえ
棒 ぼう は武術 ぶじゅつ において重要 じゅうよう なものであり、杖 つえ を用 もち いた護身 ごしん 術 じゅつ ・武術 ぶじゅつ も編 あ み出 だ されている。杖 つえ そのものに寸鉄 すんてつ を帯 お びることがなくとも、打撃 だげき と突 つ きが可能 かのう であることから、有効 ゆうこう な攻撃 こうげき 手段 しゅだん としてなりうることが立証 りっしょう されている。
古代 こだい (6世紀 せいき 頃 ころ から平安 へいあん 時代 じだい 前期 ぜんき の遣唐使 けんとうし 中止 ちゅうし の頃 ころ までと推定 すいてい )、杖 つえ 罪 ざい (大宝 たいほう 律令 りつりょう 以後 いご は単 たん に「杖 つえ 」)と呼 よ ばれる罪人 ざいにん を打 う つ刑罰 けいばつ や、拷問 ごうもん に用 もち いる棒 ぼう のことも、杖 つえ と称 しょう していた(刑罰 けいばつ に用 もち いる場合 ばあい は常行 つねゆき 杖 つえ 、拷問 ごうもん に用 もち いる場合 ばあい は訊杖(じんじょう)といった。律令 りつりょう の規定 きてい では、長 なが さは3尺 しゃく 5寸 すん =約 やく 1mと定 さだ められていた)。罪人 ざいにん を杖 つえ で打 う つ拷問 ごうもん は、刑部 おさかべ 省 しょう の役人 やくにん の立会 たちあ いのもと、背中 せなか 15回 かい ・尻 しり 部 ぶ 15回 かい を打 う つもので、罪 つみ を自白 じはく しない場合 ばあい は次 つぎ の拷問 ごうもん まで20日 はつか 以上 いじょう の間隔 かんかく をおき、合計 ごうけい 200回 かい 以下 いか とする条件 じょうけん で行 おこな っていた(ただし謀反 むほん など、国家 こっか にかかわる犯罪 はんざい に加担 かたん していた場合 ばあい は合計 ごうけい 回数 かいすう の制限 せいげん はなかったと推定 すいてい される)。奈良 なら 時代 じだい に橘奈良麻呂 たちばなのならまろ の乱 らん で、謀反 むほん に加担 かたん していた道祖 どうそ 王 おう 、黄 き 文 ぶん 王 おう 、大伴 おおとも 古 こ 麻呂 まろ 、小野 おの 東 ひがし 人 じん などが長時間 ちょうじかん の拷問 ごうもん の末 すえ 、絶命 ぜつめい したのは有名 ゆうめい だが、他 ほか にも承 うけたまわ 和 わ の変 へん (伴健岑 とものこわみね 、橘逸勢 たちばなのはやなり らが流罪 るざい )、応 おう 天 てん 門 もん の変 へん などの政変 せいへん でも容疑 ようぎ 者 しゃ を杖 つえ で打 う ち続 つづ ける拷問 ごうもん があったといわれる。
杖 つえ の機能 きのう 以外 いがい の機能 きのう を持 も った杖 つえ のことである。バイオリン 、望遠鏡 ぼうえんきょう 、ウィスキー のボトルとグラスなど様々 さまざま なものがある[2] 。英語 えいご ではシステム・ケーン、ガジェット・ケーンと呼 よ ばれる。
日本 にっぽん では、時代 じだい 劇映画 げきえいが 『座頭市 ざとういち 』の主人公 しゅじんこう ・市 し の得物 えもの である刀 かたな の仕込 しこ まれたものや、皇太子 こうたいし 時代 じだい の昭和 しょうわ 天皇 てんのう が杖 つえ に仕込 しこ まれた散弾 さんだん 銃 じゅう によって狙撃 そげき された虎ノ門 とらのもん 事件 じけん が有名 ゆうめい である[4] 。
細 ほそ いフラスコを仕込 しこ んだ杖 つえ や腰掛 こしかけ になる杖 つえ 、望遠鏡 ぼうえんきょう を仕込 しこ んだ杖 つえ 、傘 かさ を仕込 しこ んだ杖 つえ 、カメラ用 よう 一 いち 脚 きゃく や三脚 さんきゃく になるトレッキング・ポールは現在 げんざい も生産 せいさん されている。キャサリン・ダイクの著書 ちょしょ Cane Curiosa, from Gun To Gadget には、過去 かこ に生産 せいさん されていた、カメラを仕込 しこ んだ杖 つえ 、カメラ用 よう 三脚 さんきゃく を仕込 しこ んだ杖 つえ 、ハンガーになる杖 つえ 、化粧 けしょう 用 よう コンパクト・日除 ひよ け用 よう ファンなどを仕込 しこ んだ女性 じょせい 用 よう の杖 つえ 、ハーモニカ・リコーダーなどの楽器 がっき を仕込 しこ んだ杖 つえ 、サイコロ・水鉄砲 みずでっぽう など遊具 ゆうぐ を仕込 しこ んだ杖 つえ 、地図 ちず ・新聞 しんぶん を巻 ま き込 こ んだ杖 つえ など、様々 さまざま な機構 きこう の杖 つえ が掲載 けいさい されている。
高齢 こうれい 者 しゃ の夜間 やかん の安全 あんぜん を考 かんが えてLEDライトを内蔵 ないぞう した物 もの や、ハイキング等 とう で使 つか う事 こと を想定 そうてい して方位 ほうい 磁石 じしゃく を内蔵 ないぞう したトレッキングポールなど合理 ごうり 的 てき な組 く み合 あ わせもみられる。
「杖 つえ にすがる」、「転 ころ ばぬ先 さき の杖 つえ 」、頼 たよ りにするもの意味 いみ で「老後 ろうご の杖 つえ とする」 というような用 もち いられ方 かた をする。
ソースティン・ヴェブレン の『有閑 ゆうかん 階級 かいきゅう の理論 りろん 』では、必要 ひつよう もないのにこれ見 み よがしに手 て にする杖 つえ 、ステッキを顕示 けんじ 的 てき な消費 しょうひ として、無用 むよう なものに敢 あ えて消費 しょうひ する例 れい として引 ひ き合 あ いに出 だ された。
「杖 つえ とたのむ」というい回 いまわ しの場合 ばあい は頼 たよ りにするものの例 たと えとして杖 つえ という言葉 ことば を使 つか っている。
頬杖 ほおづえ は手 て を頬 ほお やあごに添 そ えて自分 じぶん の顔 かお をささえること。考 かんが え事 ごと をするときや、ときに居眠 いねむ りする場合 ばあい に人 ひと はこの姿勢 しせい をとることがある。