にごりえ

にごりえ
作者さくしゃ	樋口ひぐち一葉かずは
国くに	日本にっぽん
言語げんご	日本語にほんご
ジャンル	短編たんぺん小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい	雑誌ざっし掲載けいさい
初出しょしゅつ情報じょうほう
初出しょしゅつ	『文芸ぶんげい倶楽部くらぶ』1895年ねん9月がつ号ごう（第だい1巻かん9編へん）
刊本かんぽん情報じょうほう
収録しゅうろく	『一葉いちよう全集ぜんしゅう』
出版しゅっぱん元もと	博文ひろぶみ館かん
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ	1897年ねん1月がつ
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『にごりえ』は、樋口ひぐち一葉かずはの短編たんぺん小説しょうせつ。1895年ねん（明治めいじ28年ねん）9月がつ、博文ひろぶみ館かん『文芸ぶんげい倶楽部くらぶ』に発表はっぴょうされた。

銘酒めいしゅ屋やの私娼ししょうお力ちからが、落おちぶれて妻子さいしとも別わかれた源みなもと七ななと情死じょうしするまでを描えがいた作品さくひんで、一葉いちようの小説しょうせつの中なかで最もっとも写実しゃじつ性せいの高たかいものとなっている。「にごりえ」という題名だいめいは『伊勢いせ集しゅう』の和歌わかに因ちなんだものとみられている。

作品さくひん背景はいけい

下谷しもたに龍泉寺りゅうせんじ町まち（現げん・台東たいとう区く竜泉りゅうせん）から1894年ねん（明治めいじ27年ねん）5月がつに転居てんきょした本郷ほんごう区く丸山まるやま福山ふくやま町まち（現げん・文京ぶんきょう区く西片にしかた）には、銘酒めいしゅ屋やが立たち並ならび、夜よごと不ふ特定とくてい多数たすうの男おとこたちに身みを売うって生活せいかつしている女おんなたち（私娼ししょう）が多おおくいた。一葉いちようは彼女かのじょたちによく頼たのまれて恋文こいぶみの代筆だいひつをしたという。

一葉いちようの家いえの隣となりにあった銘酒めいしゅ屋やは「鈴木すずき亭ちん」という店みせで、主人公しゅじんこうの「お力ちから」は、その店みせの酌婦しゃくふ「お留とめ」をモデルにしたものともいわれている。また、結城ゆうき朝之助あさのすけの造型ぞうけいには、一葉いちようがその恋こいを諦あきらめざるを得えなかった半井なからい桃水とうすいがあるとみられている。『にごりえ』執筆しっぴつ直前ちょくぜんの1895年ねん（明治めいじ28年ねん）1月がつには、『文學ぶんがく界かい』同人どうじんの戸川とがわ安宅あたかから借かりたドストエフスキーの『罪つみと罰ばっ』を読よんでいたという。

『にごりえ』が発表はっぴょうされた1895年ねん（明治めいじ28年ねん）は、1889年ねん（明治めいじ22年ねん）7月がつ12日にちに死去しきょした一葉いちようの父ちち・則のり義よしの七なな回忌かいきにあたる。一葉いちようは法要ほうようのため博文ひろぶみ館かんに原稿げんこう料りょうの前借まえがりを申もうし出でており、『にごりえ』の原稿げんこうはその引ひき換かえとして執筆しっぴつされた。山梨やまなし県立けんりつ文学ぶんがく館かん所蔵しょぞうの未定稿みていこうによれば、当初とうしょの草稿そうこうでは「ものぐるひ」「親おやゆずり」の仮題かだいが付つけられている。

あらすじ

丸山まるやま福山ふくやま町まちの銘酒めいしゅ屋や「菊きくの井い」の看板かんばん酌婦しゃくふ（私娼ししょう）のお力ちからは、何なにかとお力ちからの話はなしを聞ききたがる上客じょうきゃくの結城ゆうき朝之助あさのすけに淡あわい恋心こいごころを抱いだくようになるが、それ以前いぜんに馴染なじみになった客きゃくに源みなもと七なながいた。源みなもと七ななは蒲団ふとん屋やを営いとなんでいたが、お力ちからに入いれ込こんだことで没落ぼつらくし、今いまは妻子さいしともども長屋ながやでの苦くるしい生活せいかつをおくっている。しかし、それでもお力ちからへの未練みれんを断たち切きれずにいた。

盆ぼんの7月がつ16日にちの夜よる、お力ちからはお客きゃくの酒さけの相手あいてをしている最中さいちゅうに発作ほっさ的てきに席せきを立たって外そとに出でていく。厭世えんせい的てきな気分きぶんになりながら「此ままに唐から天竺てんじくの果はてまでも行くだりつて仕舞じまいたい、あゝ嫌いやだ嫌いやだ嫌いやだ」と人ひとの声こえも物ものの音おともしない静しずかな処しょへ行いきたいと物思ものおもいにふけり、気きが狂くるいそうな心地ここちでさまよい歩あるいていると、「お力ちから何処どこへ行いく」と誰だれかに肩かたを叩たたかれ、見みると朝之助あさのすけだった。

朝之助あさのすけと一緒いっしょに店みせに戻もどったお力ちからは酒さけに酔よって初はじめて朝之助あさのすけに不遇ふぐうな身みの上うえ話ばなしを語かたるが、それを一いち通とおり聞きいた朝之助あさのすけは突然とつぜん「お前まえは出世しゅっせを望のぞむな」と言いう。お力ちからは驚おどろき、望のぞんだところで貧乏びんぼう暮くらしが落おちで、玉たまの輿こしまでは思おもいませんと言いい、朝之助あさのすけの「始はじめから何なにも見知みしつてゐるに隠かくすは野暮やぼの沙汰さたではないか」という申もうし出でをはぐらかし、「どうせこんな身みでござんする」と自身じしんの因果いんがを思おもい打うちしおれて黙だまってしまう。そして夜よるが更ふけて帰かえろうとする朝之助あさのすけをお力ちからは引ひき止とめ泊とまらせる。

一方いっぽう、源みなもと七ななは仕事しごともままならなくなり、家計かけいは妻つまのお初はつの内職ないしょくに頼たよるばかりになっていた。そんななか、お力ちからの店みせの近ちかくにたまたま行いった子この太吉たきちがお力ちからから高価こうかな菓子かし（カステラ）を貰もらったことをきっかけに、それを嘆なげく妻つまと諍いさかいになり、ついに源みなもと七ななは妻子さいしとも別わかれてしまう。その後ご、お力ちからは源みなもと七ななの刃はによって、無理むりとも合意ごういとも分わからない心中しんちゅうのの片割かたわれとなって死しぬ。

映像えいぞう化か作品さくひん

• 1953年ねん：映画えいが『にごりえ』 - 『十三夜じゅうさんや』『大おおつごもり』『にごりえ』を原作げんさくとするオムニバス映画えいが。監督かんとく：今井いまい正ただし。

「にごりえ (映画えいが)」を参照さんしょう

• 1960年ねん：百ひゃく万まん人にんの劇場げきじょう（フジテレビ） - 出演しゅつえん：高松たかまつ英郎ひでお、日高ひだか澄子すみこ、穂高ほだかのり子こ
• 1961年ねん：NECサンデー劇場げきじょう（NET） - 脚本きゃくほん：水木みずき洋子ようこ、演出えんしゅつ：山本やまもと隆則たかのり、出演しゅつえん：山田やまだ五十鈴いすず、北村きたむら和夫かずお、織田おだ政雄まさお、赤木あかぎ蘭子らんこ、藤田ふじた安男やすお、鈴木すずき光枝みつえ、内田うちだ礼子あやこ
• 1964年ねん：シオノギテレビ劇場げきじょう（フジテレビ） - 演出えんしゅつ：森川もりかわ時じ久ひさし、出演しゅつえん：山本やまもと富士子ふじこ、田村たむら高廣たかひろ、山内やまうち明あきら、山岡やまおか久乃ひさの、菅井すがいきん、佐々木ささき愛あい、大塚おおつか道子みちこ
• 1973年ねん：女おんな・その愛あいのシリーズ（NET） - 脚本きゃくほん：野上のかみ龍雄たつお、監督かんとく：佐々木ささき康やすし、出演しゅつえん：真木まき洋子ようこ、緒形おがた拳けん、山本やまもと学まなぶ、悠ゆう木き千帆ちほ、横山よこやま道代みちよ、原はら知佐子ちさこ、小しょう塙はなわ謙けん士し、鮎川あいかわ浩ひろし、田中たなか美津子みつこ
• 1993年ねん：テレビドラマ『にごりえ』（テレビ東京てれびとうきょう） - 演出えんしゅつ：久世くぜ光彦みつひこ、出演しゅつえん：田中たなか裕子ゆうこ、根岸ねぎし季衣としえ、柄本えもと明あきら、洞口ほらぐち依子よりこ、川越かわごえ美和みわ、三浦みうら理恵子りえこ
• 2009年ねん（平成へいせい21年ねん）サタデーTVラボ『妄想もうそう姉妹しまい Paranoid Sisters 文學ぶんがくという名なのもとに（第だい9話わ『にごりえ』）（NTV）

  脚本きゃくほん：三浦みうら有為ゆうい子こ。監督かんとく：三島みしま有紀子ゆきこ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 樋口ひぐち一葉かずは『にごりえ・たけくらべ』（改版かいはん）新潮社しんちょうしゃ〈新潮しんちょう文庫ぶんこ〉、2003年ねん1月がつ。ISBN 978-4101016016。  - 初版しょはんは1949年ねん6月がつ
• 小野おの芙紗子こ 著しる、福田ふくだ清人きよひと 編へん『樋口ひぐち一葉かずは』（新装しんそう版ばん）清水しみず書院しょいん〈Century Books 人じんと作品さくひん9〉、2016年ねん8月がつ。ISBN 9784389401054。  初版しょはんは1966年ねん5月がつ ISBN 978-4389400095
• 北川きたがわ秋雄あきお『一いち葉ようという現象げんしょう――明治めいじと樋口ひぐち一葉かずは』双そう文ぶん社しゃ出版しゅっぱん、1998年ねん11月。ISBN 978-4881645246。 
• 前田まえだ愛あい 編へん『新潮しんちょう日本にっぽん文学ぶんがくアルバム3 樋口ひぐち一葉かずは』新潮社しんちょうしゃ、1985年ねん5月がつ。ISBN 978-4106206030。 
• 前田まえだ愛あい『前田まえだ愛あい著作ちょさく集しゅう 第だい3巻かん――樋口ひぐち一葉かずはの世界せかい』筑摩書房ちくましょぼう、1989年ねん9月がつ。ISBN 978-4480360038。 
• ドナルド・キーン 著しる、徳岡とくおか孝夫たかお 訳わけ『日本にっぽん文学ぶんがく史し――近代きんだい・現代げんだい篇へん 一いち』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ〈中公ちゅうこう文庫ぶんこ〉、2011年ねん7月がつ。ISBN 978-4122055162。 

関連かんれん項目こうもく

• 鏑木かぶらき清方きよかた　にごりえを題材だいざいに連作れんさくを手掛てがけた

外部がいぶリンク

• 『にごりえ』：旧きゅう字じ旧きゅう仮名かめい - 青空あおぞら文庫ぶんこ
• 『にごりえ』：旧きゅう字じ旧きゅう仮名かめい - 青空あおぞら文庫ぶんこ
• 『にごりえ』：新字しんじ旧きゅう仮名かめい - 青空あおぞら文庫ぶんこ
• 『にごりえ』現代げんだい語ご訳やく　まちこの文机ふづくえ
• にごりえ（1960） - テレビドラマデータベース
• にごりえ（1961） - テレビドラマデータベース
• にごりえ（1964） - テレビドラマデータベース
• にごりえ（1973） - テレビドラマデータベース
• にごりえ（1993） - テレビドラマデータベース

フジテレビ 百ひゃく万まん人にんの劇場げきじょう（1960年ねん5月1日にち）
前ぜん番組ばんぐみ	番組ばんぐみ名めい	次じ番組ばんぐみ
ヴィヨンの妻つま	にごりえ	花環はなわ
NET NECサンデー劇場げきじょう（1961年ねん5月21日にち）
新あたらしき明日あしたの来くるを	にごりえ	生いきて愛あいして死しんで
フジテレビ シオノギテレビ劇場げきじょう（1964年ねん1月がつ24日にち - 2月がつ14日にち）
（なし）	山本やまもと富士子ふじこアワー・にごりえ	篠しのの女おんな
フジテレビ 金曜きんよう21:00 - 21:30枠わく（1966年ねん1月がつ24日にち - 2月がつ14日にち）
シオノギ ザ・ビッグショウ	山本やまもと富士子ふじこアワー・にごりえ 【当とう番組ばんぐみよりドラマ枠わく】	篠しのの女おんな
NET 女おんな・その愛あいのシリーズ
鶴づる八はち鶴次郎つるじろう	にごりえ	祇園ぎおんの姉妹しまい
テレビ東京てれびとうきょう 日本にっぽん名作めいさくドラマ（1993年ねん10月25日にち）
真実しんじつ一路いちろ	にごりえ	浮雲うきぐも