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アメミット

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
アメミット。

アメミット[1]アメミト(Ammit)[2]、またはアンムト(Ammut)は[3][ちゅう 1]古代こだいエジプトつたわるまぼろしじゅう一種いっしゅ。そのは「死者ししゃらう(む)もの」を意味いみする。

冥界めいかいアアル転生てんせい事前じぜん裁判さいばんにて、ばかりにかけられた真理しんり象徴しょうちょうマアト羽根はね真実しんじつ羽根はね)よりもおもかった死者ししゃ心臓しんぞう (Ib) をむさぼらう。われたたましい転生てんせいできず、永遠えいえん破滅はめつ意味いみした。

あたまわにたてがみ上半身じょうはんしん獅子しし下半身かはんしん河馬かば合成ごうせいじゅうえがかれるのが、当初とうしょエジプトしん王国おうこく時代じだい)では通常つうじょうだったが、のちにはすこことなる作風さくふうがみられた。

語釈ごしゃく

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アメミット(古代こだいエジプトꜥm-mwt;[4] Ʒmt mwtw[5])は、直訳ちょくやくすると「死者ししゃらうもの」[8][4]、あるいは「死者ししゃみこむもの」を意味いみする[9]

接頭せっとうꜥmは「む」を意味いみ[10]接尾せつびmwt (ムウト)は、直訳ちょくやくせば「んだもの死者ししゃ」だが、この死者ししゃ審判しんぱん場面ばめんにおいては、 akhu(アク)という「祝福しゅくふくされた死者ししゃ」になれなかった(真実しんじつマアトのみちまっとうできなかった)破滅はめつ運命うんめい死者ししゃしている[6]

一部いちぶ資料しりょうではたんに「むさぼうもの」のだとも解説かいせつされている[11][12]

心臓しんぞう計量けいりょう審判しんぱん

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死者ししゃしょ《フネフェルのパピルス》の一部いちぶ
パピルスえがかれたアメミット。

心臓しんぞうとマアトの羽根はね天秤てんびんにかけて計量けいりょうをおこない、おもりがわなかった場合ばあい死者ししゃたましい永遠えいえん消滅しょうめつするという審判しんぱんは、エジプトの葬礼そうれいにともなう定番ていばん場面ばめんで、アメミットがその心臓しんぞうらうものとしてえがかれる場合ばあいもしばしばあるが[13]簡潔かんけつ絵画かいがではこの場面ばめんでホルスしんやアヌビスしんしか天秤てんびんにかかわっていないものもある[14][15]

死者ししゃしょだい125しょうではかねてよりこの場面ばめん付帯ふたいするのが一般いっぱんてき[14][5]エジプトしん王国おうこく時代じだいだい18王朝おうちょうだい20王朝おうちょう)においては葬送そうそう文書ぶんしょパピルスのほかはか壁画へきがえがかれたが[14]時代じだいにはかん内側うちがわだい21王朝おうちょう)や、外側そとがわにもえがかれるようになった[14]

死者ししゃしょだい125しょうにおいては、心臓しんぞうが、ジャッカルあたまをもつアヌビスによってマアト天秤てんびん真実しんじつ羽根はね (en) とおもさをくらべられる様子ようすあらわしている。かみ書記官しょきかん英語えいごばんである、朱鷺ときあたまをもつトートがその結果けっか記録きろくする。もし死者ししゃ心臓しんぞう羽根はねよりかるければ、死者ししゃ死後しご生活せいかつすすむことをゆるされる。もしそうでなければ、死者ししゃ心臓しんぞうは、待機たいきしているアメミットによってわれ、たましい滅亡めつぼうする[16][17]われたたましい二度にど転生てんせいできず霊魂れいこん不滅ふめつしんじられていた古代こだいエジプトでは、それは永遠えいえん破滅はめつ意味いみした[18][7]

死者ししゃしょ』にアメミットをえがいたれいとしては《アニのパピルス》英語えいごばん紀元前きげんぜん1250ねんごろ制作せいさく)や[16][19]、《フネフェルパピルス》(紀元前きげんぜん1275ねんごろ制作せいさく。いずれもだい19王朝おうちょう)がげられる[20][21][7]

死者ししゃしょ』は死者ししゃにとってのしるべ引書(手引てびしょ)のみでなく、保証ほしょう役目やくめもあるため、これが副葬ふくそうされていれば審判しんぱんなんなく通過つうかでき、アメミットの空腹くうふくたされぬままである[5]死者ししゃは126しょうみずうみ英語えいごばんわたらず、素通すどおりしてオシリスしんへの謁見えっけんがかなう[5]

死者ししゃしょ』は、ちゅう王国おうこく時代じだいかんしるされた呪文じゅもんしゅう、いわゆるコフィン・テキストから発展はってんしたことはあきらかであり、たとえばある呪文じゅもん(CT335)によれば、「すうひゃくまんむもの」(アム=ヘフ英語えいごばんꜥm-ḥḥ[7])が死者ししゃ審判しんぱん判決はんけつおこなった[5]

図像ずぞうがく

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アメミット。《アニのパピルス》

アメミットは女性じょせいめす)とされており[22]一般いっぱんてきには、頭部とうぶがワニ(ナイルワニ)、前足まえあし上半身じょうはんしんライオン(またはヒョウ[7][22][24])、下半身かはんしんカバ合成ごうせいじゅうえがかれる[17][12][22]。よってからだみきめすライオンとみなす解説かいせつがあるが[25]、ライオンに特定とくていする特徴とくちょうとしてたてがみたてがみがあしらわれてえがかれることがあるので[17][26][ちゅう 2][27] からだみきライオンであるという解説かいせつもみられる[17]。《アニのパピルス》のアメミットのは、(たてがみではなく)さんしょくネメス (頭巾ずきん)をかぶっているものとされる(みぎ画像がぞう参照さんしょう[28]

ただし、アメミットがワニ=獅子しし=カバの合成ごうせいじゅうとしてえがかれたのは、エジプトしん王国おうこく時代じだいころまでの慣習かんしゅうであり[14]時代じだいにはカバのようなあたまをし、ちちがったいぬのような胴体どうたいをしたししとしてえがかれるようになった[14][29]たとえば貴族きぞくアンクホル英語えいごばんだい22王朝おうちょう)のかんぶたえがかれたアメミットがこの画風がふうである[14][ちゅう 3][ちゅう 4]

ワニ=獅子しし=カバの合成ごうせいじゅうとしてえがかれたのは、しきたましいがアメミットに滅亡めつぼうさせられることはまぬかれないことを意味いみしていた[7]

注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ アミマッド、アムムト、アーマーンとも[よう出典しゅってん]マ字まじではAmmit、Ahemaitともつづる。
  2. ^ ロイヤルオンタリオ博物館はくぶつかん遺骸いがいぬのえがかれたアメミットは"さん一体いったいかつらのようにがったたてがみ mane that hangs down like a tripartite wig"をゆうする[27]
  3. ^ だい21王朝おうちょう以降いこうかん外側そとがわにも心臓しんぞう計量けいりょう審判しんぱん場面ばめんえがかれるようになったことはすでにれた
  4. ^ しん王国おうこく時代じだいの《アニのパピルス》だい30Bしょうのアメミットについてはすでにふれたが、どう148しょうだい11プレート)のだいピュロン(とうもん英語えいごばん守護神しゅごじん[30]は、ヘネト英語えいごばん(Hentet-Arqiu)であるが、その様相ようそう具現ぐげんしてそこにるのはじつはアメミットだとする解説かいせつがあり、その守護神しゅごじんは"カバのあたま胴体どうたいがる乳房ちぶさ、ライオンのあし、クロコダイルのはなづらをもち、前足まえあしおおきな刃物はものつ(後略こうりゃく怪異かいいおんな悪魔あくま monstrous female demon with hippopotamus body and head, pendulous breasts, lion legs and crocodile snout, squatting, with open jaws and tongue extended, forepaws, holding huge knife,.."としてえがかれる[31]

出典しゅってん

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脚注きゃくちゅう
  1. ^ 小川おがわ (1997), p. 167とう確認かくにんできる表記ひょうき
  2. ^ 近藤こんどう (2009)古代こだいエジプトの霊魂れいこんかん」で確認かくにんできる表記ひょうき
  3. ^ イオンズ (1991)『エジプト神話しんわ』p. 288で確認かくにんできる表記ひょうき
  4. ^ a b Erman, Adolf [in 英語えいご]; Grapow, Hermann [in 英語えいご], eds. (1926). "ꜥm". Wörterbuch der ägyptischen Sprache (PDF). Vol. 1. Berlin: Akademie-Verlag. p. 104.9. ꜥm-mwt Totenfressen (Name des Tiers beim Totengericht) [死者ししゃらい/かばねくえ〔トーテンフレッセン〕(死者ししゃ審判しんぱんにおけるしし)]
  5. ^ a b c d e f Snape, Steven (2011). “Rekhmire and the Tomb of the Well-Known Soldier”. Ancient Egyptian Tombs: The Culture of Life and Death. John Wiley & Sons. p. 198. ISBN 9781405120890. https://books.google.com/books?id=3lcAEAAAQBAJ&pg=PA198 
  6. ^ a b Taylor, John H. (2001). “Death and Resurrection in Ancient Egyptian Society”. Death and the Afterlife in Ancient Egypt. University of Chicago Press. pp. 36–38. ISBN 9780226791647. https://books.google.com/books?id=f4eRywSWJzAC&pg=PA38 
  7. ^ a b c d e f g Hart, George (April 8, 1986). A Dictionary of Egyptian Gods and Goddesses (1st ed.). Taylor & Francis Group. pp. 3–4. ISBN 9780203136447. https://books.google.com/books?id=KpGADio-_NkC&lpg=PR1 ;    (2005). “Introduction; Ammut”. The Routledge Dictionary of Egyptian Gods and Goddesses. pp. 7, 12–13. ISBN 9780415344951. https://books.google.com/books?id=0L83uBijeZwC&pg=PA12 
  8. ^ 'devourer of the dead';[6] 'Devoureress of the Dead'[7]
  9. ^ 'Swallower of the Dead'.[5]
  10. ^ Erman & Grapow (1926), p. 103. ꜥm 'verschlucken [swallow]'
  11. ^ 近藤こんどう (2009), pp. 19–20.
  12. ^ a b ヴェロニカ・イオンズ『エジプト神話しんわ酒井さかい傳六でんろくわけ新装しんそうばん)、青土おうづちしゃ、1991ねん、288ぺーじISBN 978-4-7917-5145-7 
  13. ^ 吉村よしむら (2005)古代こだいエジプトを事典じてん』p. 90。
  14. ^ a b c d e f g Taylor, John H. (2019). “The Mummies and Coffins of Ankh-hor and Heribrer”. In Kalloniatis, Faye. The Egyptian Collection at Norwich Castle Museum: Catalogue and Essays. Oxbow Books. p. 23. ISBN 9781789251999. https://books.google.com/books?id=jl3JDwAAQBAJ&pg=PA23 
  15. ^ Bunson, Margaret (2012). “Judgment Halls of Osiris” (English). Encyclopedia of Ancient Egypt (3rd ed.). Facts On File 
  16. ^ a b 小川おがわ (1997), pp. 166–167.
  17. ^ a b c d 近藤こんどう (2009), p. 19.
  18. ^ 吉村よしむら作治さくじ古代こだいエジプトを事典じてん』(新装しんそうばん東京とうきょうどう出版しゅっぱん、2005ねん、90ぺーじISBN 978-4-490-10662-6 
  19. ^ Von Dassow (2008).
  20. ^ Page from the Book of the Dead of Hunefer”. だいえい博物館はくぶつかん (British Museum). 2012ねん3がつ20日はつか時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2013ねん2がつ2にち閲覧えつらん
  21. ^ 近藤こんどう (2009), p. 20.
  22. ^ a b c Wilkinson, Richard H. (2003). The complete gods and goddesses of ancient Egypt. Internet Archive. Thames & Hudson. pp. 218. ISBN 978-0-500-05120-7. https://archive.org/details/completegodsgodd00wilk_0/page/218/mode/2up 
  23. ^ Von Dassow (2008), Pl. 3.
  24. ^ アニのパピルスの『死者ししゃしょだい30Bあきらだい3プレート)では、アメミットの胴体どうたい斑点はんてんがみえる(みぎ画像がぞう参照さんしょう[23]
  25. ^ Venit, Marjorie Susan (2016). “Tradition and Innovation in the Tombs of the Egyptian Chora”. Visualizing the Afterlife in the Tombs of Graeco-Roman Egypt. Cambridge University Press. p. 142. ISBN 9781107048089. https://books.google.com/books?id=SsvZCgAAQBAJ&pg=PA142 
  26. ^ だいえい博物館はくぶつかんぞう『フネフェルのパピルス』(みぎ)にもたてがみがえがかれる。同書どうしょのアメミットの模写もしゃ線画せんが)がハートの事典じてんの「アメミット」のこうにみえる[7]
  27. ^ a b Gibson, Gayle (2021). “The Place of Silence: Musings on a Partial Ptolemaic Burial Shroud Recently Rediscovered in the Royal Ontario Museum”. In Geisen, Christina; Li, Jean; Shubert, Steven B. et al.. His Good Name: Essays on Identity and Self-Presentation in Ancient Egypt in Honor of Ronald J. Leprohon. ISD LLC. p. 180. ISBN 9781948488389. https://books.google.com/books?id=6ZosEAAAQBAJ&pg=PA180 
  28. ^ Von Dassow (2008), p. 155.
  29. ^ Venit, Marjorie Susan (2009). “Avaleuses et dévoreuses: des déesses aux démones en Égypte ancienne”. Chronique d'Égypte 84: 13. https://books.google.com/books?id=2McNKx4uPYkC&q=Ammit+mamelles. 
  30. ^ Von Dassow (2008), Pl. 11.
  31. ^ “Papyrus of Ani, sheet 11 (vignette)”, The Archive for Research in Archetypal Symbolism (ARAS), JSTOR community.11652438, https://jstor.org/stable/community.11652438 
参照さんしょう文献ぶんけん
  • Von Dassow, Eva, ed (2008). The Egyptian Book of the Dead: The Book of Going Forth by Day - The Complete Papyrus of Ani Featuring Integrated Text and Full-Color Images. Chronicle Books. ISBN 9780811864893 

関連かんれん項目こうもく

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