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クズネッツ曲線きょくせん

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クズネッツ曲線きょくせん(クズネッツきょくせん、クズネッツ・カーブ、えい: Kuznets curve)は、アメリカ経済けいざい学者がくしゃサイモン・クズネッツ提唱ていしょうした曲線きょくせん[1]。この仮説かせつしたでは、経済けいざい発展はってん初期しょき段階だんかいでは経済けいざい成長せいちょうによって所得しょとく不平等ふびょうどう拡大かくだいするが、経済けいざい発展はってん後期こうきでは成長せいちょうによって格差かくさ縮小しゅくしょうする。よこじく経済けいざい発展はってん水準すいじゅんたてじく社会しゃかい不平等ふびょうどうはか指数しすうをとったときに、ぎゃくUがた曲線きょくせんとなる。

クズネッツ曲線きょくせんのイメージ
所得しょとく不平等ふびょうどう指標しひょう: 1910-2010 ねん米国べいこく国民こくみん所得しょとくにおける上位じょうい 10 ふん割合わりあい[2]トマ・ピケティは、クズネッツが1930-1950 ねん所得しょとく格差かくさ減少げんしょうをその発展はってん終点しゅうてんあやまって解釈かいしゃくしていると主張しゅちょうしている。 1950ねん以降いこう格差かくさふたただい世界せかい大戦たいせんまえ水準すいじゅんもどっており、同様どうよう傾向けいこうはヨーロッパ諸国しょこくでもられる[3]

概要がいよう

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クズネッツ曲線きょくせんでは、おおくの場合ばあいたてじくジニ係数けいすうなどの不平等ふびょうどう指数しすうが、よこじく時間じかん一人ひとりあたり所得しょとくなどの経済けいざい発展はってんレベルをしめ指標しひょうをとる[4]クズネッツ比率ひりつは、もっと所得しょとくたか世帯せたい通常つうじょう上位じょうい 20%)の所得しょとくもっと所得しょとくひく世帯せたい通常つうじょう下位かい 20%)の所得しょとく比率ひりつ測定そくていのことをす。クズネッツ比率ひりつが1のとき、所得しょとく格差かくさがない状態じょうたいえる[5]

クズネッツ曲線きょくせんは、くに工業こうぎょう農業のうぎょう機械きかいすすめるにつれて、くに経済けいざい中心ちゅうしん都市としうつることからしょうじる。

経済けいざい発展はってん初期しょき

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経済けいざい発展はってん初期しょきでは、富裕ふゆうそう投資とうし機会きかい所得しょとく増大ぞうだいする一方いっぽう中間なかまそう以下いか所得しょとくなやむ。地方ちほうから都市とし熟練じゅくれん労働ろうどうしゃ流入りゅうにゅうは、中間なかまそう以下いか労働ろうどうしゃ所得しょとくげ、所得しょとく格差かくさ拡大かくだいする。

経済けいざい発展はってん後期こうき

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経済けいざい発展はってん後期こうきでは、人的じんてき資本しほん物的ぶってき資本しほんにかわって成長せいちょうおも源泉げんせんとなる。中間なかまそう以下いか労働ろうどうしゃ所得しょとく水準すいじゅん上昇じょうしょうし、格差かくさ縮小しゅくしょうする。発展はってん段階だんかい後期こうき工業こうぎょう所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうさせるように機能きのうする。労働ろうどうしゃ農業のうぎょう部門ぶもんから工業こうぎょう部門ぶもんへの移動いどうと、農村のうそんから都市としへの移動いどうのいずれも、所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうさせるように機能きのうする[5][6]

実証じっしょう

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1965-1990ねん日本にっぽん韓国かんこく台湾たいわんシンガポール香港ほんこんインドネシアタイマレーシアの8つの経済けいざい急速きゅうそく経済けいざい成長せいちょうは「ひがしアジアの奇跡きせき」とばれ、クズネッツ曲線きょくせん妥当だとうせい批判ひはんするじょういにされることがある[6][7]。これらの経済けいざいでは、経済けいざい成長せいちょうとも平均へいきん余命よめい継続けいぞくてきび、貧困ひんこんりつ単調たんちょう減少げんしょうした。急速きゅうそく経済けいざい成長せいちょう恩恵おんけい国民こくみんあいだひろ分配ぶんぱいされたメカニズムの解明かいめいんだ論文ろんぶんおおかれた[7]ジョゼフ・スティグリッツひがしアジアの奇跡きせきにおける所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうを、土地とち改革かいかく農村のうそんにおける生産せいさんせい収入しゅうにゅう貯蓄ちょちく増加ぞうか)と教育きょういく機会きかい知的ちてきインフラ)の拡充かくじゅう賃金ちんぎん上昇じょうしょうさせインフレーション抑制よくせいする産業さんぎょう政策せいさくによって説明せつめいしている[7]。これらの政策せいさくにより、消費しょうひ投資とうし促進そくしんされ、経済けいざい成長せいちょう寄与きよした。経済けいざい成長せいちょう所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうさせ、所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうがさらにたか成長せいちょうりつ実現じつげんさせるというせいのループがあったとべている[7]

トマ・ピケティは『21世紀せいき資本しほん』のなかで、クズネッツ曲線きょくせん有効ゆうこうせい否定ひていしている。一部いちぶ先進せんしんこくでは、21世紀せいき所得しょとく格差かくさ水準すいじゅんが20世紀せいき後半こうはん水準すいじゅんえているとし、資本しほん収益しゅうえきりつ長期ちょうきにわたって経済けいざい成長せいちょうりつ上回うわまわった場合ばあいにこの現象げんしょう説明せつめいできるとしている[8]。さらに、20世紀せいき前半ぜんはん所得しょとく格差かくさ縮小しゅくしょうは、戦争せんそう経済けいざい恐慌きょうこうによるだい規模きぼとみ集中しゅうちゅう破壊はかいによる一時いちじてき効果こうかであったと主張しゅちょうしている。1960年代ねんだい以降いこう、ほとんどの先進せんしんこく所得しょとく格差かくさ拡大かくだいしたため、時間じかん経過けいかともな所得しょとく格差かくさのグラフはクズネッツ曲線きょくせんしめさなくなった。

クズネッツ自身じしんによる批判ひはん

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ロバート・フォーゲルは、クズネッツの仮説かせつ根拠こんきょとなったデータの脆弱ぜいじゃくせいについてクズネッツ自身じしん指摘してきしていることを言及げんきゅうしている[9]。フォーゲルは、クズネッツの論文ろんぶんのほとんどは、矛盾むじゅんする要因よういん解明かいめいついやされていたと指摘してきし、「たとえデータがとうなものであることが判明はんめいしたとしても、それらはきわめて限定げんていされた期間きかん例外れいがいてきなものである」というクズネッツの記述きじゅつ強調きょうちょうしている[9]。フォーゲルは、これらの留保りゅうほ無視むしされ、クズネッツ曲線きょくせん経済けいざい学者がくしゃによって信頼しんらいできる事実じじつ誤認ごにんされるようになったと指摘してきしている[9]

環境かんきょうクズネッツ曲線きょくせん

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環境かんきょうクズネッツ曲線きょくせんえい: Environmental Kuznets Curve)は、経済けいざい発展はってん環境かんきょう水準すいじゅんあいだ仮説かせつじょう関係かんけいのことを[10]経済けいざい発展はってん初期しょき段階だんかいでは、経済けいざい成長せいちょうによって環境かんきょう水準すいじゅん悪化あっかするが、経済けいざい発展はってん後期こうきでは成長せいちょうによって汚染おせん解消かいしょうされ環境かんきょう水準すいじゅん改善かいぜんする[11][12]汚染おせん解決かいけつさく経済けいざい成長せいちょうであることが示唆しさされる。

森林しんりん破壊はかいはクズネッツ曲線きょくせんしたが可能かのうせいがある。一人ひとりたりGDPが4,600ドル以上いじょうくにでは、じゅん森林しんりん破壊はかいこっていない[13]。しかし、先進せんしんこく森林しんりん破壊はかいを「輸出ゆしゅつ」することで森林しんりん維持いじしながらこう消費しょうひ実現じつげんしており、世界せかい規模きぼ森林しんりん破壊はかいつづいているという主張しゅちょうもある[14]

外部がいぶリンク

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出典しゅってん

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  1. ^ Kuznets profileArchived 18 September 2009 at the Wayback Machine.at New School for Social Research: "...his discovery of the inverted U-shaped relation between income inequality and economic growth..."
  2. ^ Based on Table TI.1 of the supplement Archived 8 May 2014 at the Wayback Machine. to Thomas Piketty's Capital in the Twenty-First Century.
  3. ^ Piketty, Thomas (2013). Capital in the Twenty-First Century. Belknap. pp. 24 
  4. ^ Vuong, Q.-H.; Ho, M.-T.; Nguyen, T. H.-K.; Nguyen, M.-H. (2019). “The trilemma of sustainable industrial growth: evidence from a piloting OECD's Green city”. Palgrave Communications 5: 156. doi:10.1057/s41599-019-0369-8. 
  5. ^ a b Kuznets, Simon. 1955. Economic Growth and Income Inequality. American Economic Review 45 (March): 1–28.
  6. ^ a b Galbraith, James (2007). “Global inequality and global macroeconomics”. Journal of Policy Modeling 29 (4): 587–607. doi:10.1016/j.jpolmod.2007.05.008. 
  7. ^ a b c d Stiglitz, Joseph E. (August 1996). “Some Lessons From The East Asian Miracle”. The World Bank Research Observer 11 (2): 151–177. doi:10.1093/wbro/11.2.151. 
  8. ^ Thomas Piketty (2014). Capital in the Twenty-First Century. Belknap Press. ISBN 978-0674430006 
  9. ^ a b c Fogel, Robert W. (December 1987). Some Notes on the Scientific Methods of Simon Kuznets. National Bureau of Economic Research. pp. 26–7. doi:10.3386/w2461 
  10. ^ Yasin, Iftikhar; Ahmad, Nawaz; Chaudhary, Muhammad Aslam (2020-07-22). “The impact of financial development, political institutions, and urbanization on environmental degradation: evidence from 59 less-developed economies” (英語えいご). Environment, Development and Sustainability 23 (5): 6698–6721. doi:10.1007/s10668-020-00885-w. ISSN 1573-2975. 
  11. ^ Shafik, Nemat. 1994. Economic development and environmental quality: an econometric analysis. Oxford Economic Papers 46 (October): 757–773
  12. ^ Grossman, G. M.; Krueger, A. B. (1991). “Environmental impacts of a North American Free Trade Agreement”. National Bureau of Economic Research Working Paper 3914, NBER. doi:10.3386/w3914. 
  13. ^ Returning forests analyzed with the forest identity, 2006, by Pekka E. Kauppi (Department of Biological and Environmental Sciences, University of Helsinki), Jesse H. Ausubel (Program for the Human Environment, The Rockefeller University), Jingyun Fang (Department of Ecology, Peking University), Alexander S. Mather (Department of Geography and Environment, University of Aberdeen), Roger A. Sedjo (Resources for the Future), and Paul E. Waggoner (Connecticut Agricultural Experiment Station)
  14. ^ Developing countries often outsource deforestation, study finds”. Stanford News (24 November 2010). 18 June 2015閲覧えつらん