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リーぐん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
複素数ふくそすう平面へいめんにおいて中心ちゅうしん 0、半径はんけい 1 の円周えんしゅう複素数ふくそすうせきかんしてリーぐんである。

リーぐん(リーぐん、英語えいご: Lie group)は、ぐん構造こうぞう微分びぶん多様たようたいで、そのぐん構造こうぞう微分びぶん構造こうぞうとが両立りょうりつするもののことである。ソフス・リー無限むげんしょう変換へんかん連続れんぞくぐん研究けんきゅうはしはっするためこのがある。

定義ていぎ

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Gたい集合しゅうごうとするじつリーぐんとは、G には実数じっすうからだじょう有限ゆうげん次元じげんかつ微分びぶん[注釈ちゅうしゃく 1]じつ多様たようたい構造こうぞうさだめられていて、G はまたぐん構造こうぞうち、さらにそのぐん演算えんざんである乗法じょうほうおよびぎゃくもと操作そうさ多様たようたいとしての G うえ写像しゃぞうとして微分びぶんであるもののことである[注釈ちゅうしゃく 2]。このような構造こうぞうはいっているという前提ぜんていもとで、通常つうじょうは「G はリーぐんである」というようにだいあらわ記号きごう使つかってリーぐんあらわす。また、実数じっすうじつ多様たようたい)を複素数ふくそすう複素ふくそ多様たようたい)にとりかえて複素ふくそリーぐん概念がいねんさだまる。

けんろん言葉ことば使つかうとリーぐん定義ていぎ簡潔かんけつになる:リーぐんとは微分びぶん多様たようたいけんぐん対象たいしょうのことである。このけんろんもとづく定義ていぎ重要じゅうようである。なぜなら、この定義ていぎ表現ひょうげんかいして、リーぐん概念がいねんSupergroup_(physics)へと一般いっぱんすることが可能かのうになるからである。けんろん視点してんもちいることで、リーぐんたいしてべつのタイプの一般いっぱんかんがえることができる。リーぐん(Lie groupoids)のことである。これは、条件じょうけん付加ふかした微分びぶん多様たようたいけんぐん対象たいしょうのことである。

複素数ふくそすうからだ C うえ特殊とくしゅ線型せんけいぐん SL(2, C) などは複素ふくそリーぐんれいである。また、直交ちょっこうぐんはす交群は、成分せいぶんぞくするからだ直積ちょくせき位相いそうからの相対そうたい位相いそうかんして多様たようたいとみるとリーぐんである。このような行列ぎょうれつからなるリーぐんそうじて(代数だいすうてき行列ぎょうれつぐんあるいは線型せんけい代数だいすうぐんばれる一類いちるいぞくする[注釈ちゅうしゃく 3]

一般いっぱんとして、たいとなる多様たようたい無限むげん次元じげんであることをゆるすことにより無限むげん次元じげんリーぐん同様どうよう方法ほうほう定義ていぎされる。また、類似るいじぶつとして係数けいすうぞくするからだ p-進数しんすうたいにとりかえて p-すすむリーぐん定義ていぎされる。あるいは係数けいすうたい有限ゆうげんたいえれば、リーぐん有限ゆうげん類似るいじぶつとしてリーがたぐん豊富ほうふられるが、これらは有限ゆうげん単純たんじゅんぐんおおくの部分ぶぶんめるものである。また、微分びぶん多様たようたいもちいるわりに解析かいせき多様たようたい位相いそう多様たようたいだいにすることもできるが、それによってあらたなものがられるというわけではない。事実じじつアンドリュー・グリーソンディーン・モントゴメリレオ・ジッピンらは1950年代ねんだいつぎのことを証明しょうめいしている。すなわち、G位相いそう多様たようたいであって、連続れんぞくぐん演算えんざんをもつぐんでもあるならば、G うえ解析かいせきてき構造こうぞうただひと存在そんざいして、G をリーぐんにすることができる(ヒルベルトのだい問題もんだいあるいはヒルベルト-スミス予想よそう)。

いくつかのれいと、それらに関連かんれんする数学すうがく物理ぶつりがく分野ぶんやについてれる。

  • ユークリッド空間くうかん Rn は、ベクトルの加法かほうぐん演算えんざんかわリーぐんである。
  • 可逆かぎゃくn つぎ正方まさかた行列ぎょうれつ全体ぜんたい GLn(R) は行列ぎょうれつせきによってぐんをなす(一般いっぱん線型せんけいぐんばれる)が、これを n2 次元じげんのユークリッド空間くうかん部分ぶぶん多様たようたいとみるとリーぐんである。この一般いっぱん線型せんけいぐんは、行列ぎょうれつしきが 1 となる行列ぎょうれつ全体ぜんたいのなすぐん特殊とくしゅ線型せんけいぐんばれる)を部分ぶぶんぐんとしてふくむが、これもやはりリーぐんれいとなる。
  • n 次元じげんベクトル空間くうかんにおける回転かいてんかがみうつ生成せいせいする変換へんかんぐん On(R) は直交ちょっこうぐんばれるリーぐんである。(回転かいてんだけから生成せいせいされる直交ちょっこうぐん部分ぶぶんぐんSOn(R)は特殊とくしゅ直交ちょっこうぐんばれるリーぐんである。)
  • スピノルぐん特殊とくしゅ直交ちょっこうぐんじゅう被覆ひふくであり、量子りょうしろんにおけるフェルミ粒子りゅうし研究けんきゅうもちいられる。
  • はす交群 Sp2n(R) は、シンプレクティック形式けいしきたも行列ぎょうれつ全体ぜんたいのなすリーぐんである。
  • 0 次元じげん球面きゅうめん S0, 1 次元じげん球面きゅうめん S1 および 3 次元じげん球面きゅうめん S3 は、これらをそれぞれ絶対ぜったいが 1 の実数じっすう全体ぜんたい複素数ふくそすう全体ぜんたいよんげんすう全体ぜんたい同一どういつすることでリーぐんにすることができる。次元じげん球面きゅうめんではこのようなことはできないし、リーぐんにはならない。リーぐんとしての S1 はしばしば円周えんしゅうぐんばれる。いくつかの円周えんしゅうぐん同士どうし直積ちょくせきリーぐんトーラスぐんばれる。
  • n つぎうえ三角さんかく行列ぎょうれつ全体ぜんたいからなるぐん Bn(n + 1)/2 次元じげんかいリーぐんである。しばしば標準ひょうじゅんボレル部分ぶぶんぐんばれる。
  • ローレンツぐんおよびポワンカレぐん特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろんにおいて時空じくうとうちょうせい記述きじゅつするリーぐんで、それぞれ 6 および 10 次元じげんである。
  • ハイゼンベルクぐんは 3 次元じげんリーぐん量子力学りょうしりきがく登場とうじょうする。
  • n つぎユニタリぐん U(n) はユニタリ行列ぎょうれつ全体ぜんたいのなす n2 次元じげんのコンパクトリーぐんである。行列ぎょうれつしきが 1 のユニタリ行列ぎょうれつ全体ぜんたいのなすリーぐん SU(n) を部分ぶぶんぐんとしてふくむ。
  • 直積ちょくせきリーぐん U(1) × SU(2) × SU(3) は 1 + 3 + 8 = 12 次元じげんのリーぐんである。これは標準ひょうじゅん模型もけいゲージぐんで、それぞれの次元じげんは 1 が光子こうし、3 がベクトルボソン、8 がグルーオン対応たいおうしている。
  • メタプレクティックぐん Mp は 3 次元じげんのリーぐんである。SL2(R) のじゅう被覆ひふくぐんで、モジュラー形式けいしき理論りろんもちいられる。これを有限ゆうげん行列ぎょうれつ表現ひょうげんすることはできない。
  • G2, F4, E6, E7, E8 かた例外れいがいがたリーぐんはそれぞれ 14, 52, 78, 133, 248 次元じげんである。 次元じげん 190 のリーぐん E7½ もある。

リーぐんからあらたなリーぐんつく標準ひょうじゅんてき方法ほうほうがいくつかげられる。たとえば、

  • ふたつのリーぐんから直積ちょくせきぐんをつくると、これは直積ちょくせき位相いそうかんしてリーぐんになる(直積ちょくせきリーぐん)。
  • リーぐんの閉部分ぶぶんぐんをとると、これは相対そうたい位相いそうでリーぐんをなす(リー部分ぶぶんぐん)。
  • リーぐんをその正規せいき部分ぶぶんぐんったしょうはリーぐんである(しょうリーぐん)。
  • 連結れんけつリーぐん普遍ふへん被覆ひふくもまたリーぐんである(普遍ふへん被覆ひふくリーぐん)。れいとして、円周えんしゅうぐん S1普遍ふへん被覆ひふく加法かほうかんするリーぐん R である。

リーぐんでないもののれいげる:

  • 無限むげん次元じげんじつベクトル空間くうかん加法かほうぐんたもののような無限むげん次元じげんぐん。これは有限ゆうげん次元じげん多様たようたいではないのでリーぐんではない(無限むげん次元じげんリーぐんではある)。
  • あるしゅ完全かんぜん連結れんけつぐん、たとえばからだ無限むげん拡大かくだいガロアぐんや、p-進数しんすう全体ぜんたいのなす加法かほうぐんなどがそうである。これらがリーぐんでないのはじつ多様たようたいだいとしないからである(後者こうしゃp-すすむリーぐんぞくする)。
  • 連結れんけつリーぐんのリーぐんじゅん同型どうけいぞうかならずしもリーぐんにはならない。典型てんけいてきれいとして、かわリーぐん R直積ちょくせきリーぐん S1 × S1 へ、写像しゃぞう x ↦ (x, 2 x) によってうつすことをかんがえる。このぞうS1 × S1稠密ちゅうみつ部分ぶぶんぐんで、したがってこれは多様たようたいにならないし、とくにリーぐんにはならない。これはまた、リーたまき部分ぶぶんリーたまきがリーぐん部分ぶぶんリーぐん対応たいおうしないことのれいともなっている。
  • 有理数ゆうりすうたい加法かほうぐん実数じっすうたいにおける位相いそう相対そうたい位相いそうれたものも、多様たようたいにならないのでやはりリーぐんではない。

リーぐんかた

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リーぐん分類ぶんるいほうひとつは、その代数だいすうてき性質せいしつによるものである。たとえば、単純たんじゅんリーぐんはん単純たんじゅんリーぐんかいリーぐんべきれいリーぐんかわリーぐんは、そのぐんとしての単純たんじゅんせいはん単純たんじゅんせいかいせいべきれいせいかわせいしたがった分類ぶんるいである。また、リーぐん多様たようたいとしての性質せいしつによる分類ぶんるいもある。連結れんけつせいコンパクトせい着目ちゃくもくして、連結れんけつリーぐんたん連結れんけつリーぐん、あるいはコンパクトリーぐんなどをかんがえることができる。

  • リーぐん単位たんいもとふく連結れんけつ成分せいぶん単位たんい成分せいぶん)は正規せいき部分ぶぶんぐんで、それによるしょう離散りさんぐんである。
  • リーぐん普遍ふへん被覆ひふくぐんたん連結れんけつリーぐんである。ぎゃくに、連結れんけつリーぐんはかならず、たん連結れんけつリーぐんの(その中心ちゅうしんふくまれる正規せいき離散りさん部分ぶぶんぐんによる)しょうとしてられる。
  • コンパクトリーぐん分類ぶんるいわっており、それは単純たんじゅんコンパクトリーぐんとトーラスぐん直積ちょくせきリーぐん有限ゆうげん中心ちゅうしん拡大かくだいであるか、さもなくば連結れんけつディンキン図形ずけい対応たいおうする単純たんじゅんコンパクトリーぐんであることがられている。
  • たん連結れんけつかいリーぐんは、ある階数かいすう可逆かぎゃくうえ三角さんかく行列ぎょうれつ全体ぜんたいのなすぐんの閉部分ぶぶんぐん同型どうけいであり、そのようなぐん有限ゆうげん次元じげんすんでやく表現ひょうげんは 1 次元じげん表現ひょうげんすんでやく指標しひょう)である。かいリーぐん分類ぶんるいは、ごくちいさい次元じげんでの場合ばあいのぞけば、非常ひじょう厄介やっかいなものである。
  • たん連結れんけつべきれいリーぐんは、ある階数かいすうたいかく成分せいぶんがすべて 1 の逆上ぎゃくじょう三角さんかく行列ぎょうれつのなすぐんの閉部分ぶぶんぐん同型どうけいである。よってその有限ゆうげん次元じげんすんでやく表現ひょうげんすべて 1 次元じげんである。べきれいリーぐん分類ぶんるいもやはりごくちいさい次元じげんでの場合ばあいのぞいて非常ひじょう困難こんなんである。
  • 単純たんじゅんリーぐんという概念がいねんは、たん抽象ちゅうしょうぐんとして単純たんじゅんであることを以ってその定義ていぎとする場合ばあいもあれば、単純たんじゅんリーたまき対応たいおうする連結れんけつリーぐんとして定義ていぎする場合ばあいもある。SL2(R) はだい定義ていぎであれば単純たんじゅんであるが、だいいち定義ていぎでは単純たんじゅんでない。いずれの定義ていぎしたがった場合ばあいも、単純たんじゅんリーぐんすべての分類ぶんるい完全かんぜん解決かいけつみである。
  • はん単純たんじゅんリーぐんは、その付随ふずいするリーたまきはん単純たんじゅん単純たんじゅんリーたまき直積ちょくせき)となる連結れんけつぐんのことである。これは単純たんじゅんリーぐん直積ちょくせき中心ちゅうしん拡大かくだいとしてられる。
  • 連結れんけつかわリーぐんはすべて、ユークリッド空間くうかん加法かほうかんするぐんたものとトーラスぐんとの直積ちょくせき同型どうけいである。

構造こうぞう

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リーぐん標準ひょうじゅんてきに、離散りさんリーぐん単純たんじゅんリーぐんかわリーぐん以下いかのように分解ぶんかいされる: ここでリーぐん Gたいして

G0G単位たんいもとふく連結れんけつ成分せいぶん
GsolG最大さいだい連結れんけつかい正規せいき部分ぶぶんぐん
GnilG最大さいだい連結れんけつ正規せいきべきれい部分ぶぶんぐん

とすると、つぎ正規せいきれつがえられる:

1 ⊂ GnilGsolG0G

そしてこのとき、

G/G0離散りさんてき
G0/Gsol連結れんけつ単純たんじゅんリーぐんせき中心ちゅうしん拡大かくだい
Gsol/Gnil かわリーぐん(これはユークリッド空間くうかんとトーラスのせきとしてける)、
Gnil/1 はべきれい、したがってとくにそののぼり中心ちゅうしんれつ組成そせい因子いんしかわぐん

これにより、リーぐんたいする問題もんだい一部いちぶ(たとえばリーぐんのユニタリ表現ひょうげんもとめる問題もんだいなど)は連結れんけつ単純たんじゅんリーぐん同種どうしゅ問題もんだい帰着きちゃくしてかんがえることができる。

付随ふずいするリーたまき

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リーぐんたいして、その単位たんいもとにおけるせっ空間くうかん(をだいとなるベクトル空間くうかんとしてそれにせき定義ていぎしたもの)としてリーたまき対応付たいおうづけることができる。このリーたまきは、もとのリーぐん局所きょくしょてき構造こうぞう完全かんぜん反映はんえいしており、リーぐん付随ふずいするリーたまきばれる。このリーたまきもとは、略式りゃくしきてきには(ユークリッド空間くうかんないにある曲面きょくめん古典こてんてきせっ平面へいめんたいするイメージをそのまま反映はんえいして)リーぐん単位たんいもと無限むげんちかいところにあるもとであるとることができるし、リーたまき括弧かっこせきはそのような無限むげんしょう交換こうかんさだめるものとかんがえることができる。厳密げんみつ定義ていぎ先立さきだってれいげる:

かわリーぐん Rn のリーたまきはちょうど Rn括弧かっこせきを、任意にんいA, Bたいして

[A, B] = 0.

とおくことによってあたえたものである。一般いっぱんに、付随ふずいするリーたまき括弧かっこせき恒等こうとうてきに 0 となることは対応たいおうするリーぐんかわぐんであることに同値どうちである。

一般いっぱん線型せんけいぐん GLn(R) のリーたまきぜん行列ぎょうれつたまき Mn(R) に

[A, B] = ABBA

なる括弧かっこせきれたものである。

GGLn(R) の閉部分ぶぶんぐんなら、G のリーたまき略式りゃくしきてきMn(R) にぞくする行列ぎょうれつ mであって 1 + εいぷしろんmGぞくすようなもの全体ぜんたいからなるものとることができる。ここで εいぷしろんせい無限むげんしょうで、εいぷしろん2 = 0 となるもの(もちろん実数じっすうではない)である。たとえば直交ちょっこうぐん On(R) (AAT = 1 となる行列ぎょうれつ A全体ぜんたい)に付随ふずいするリーたまき

(1 + εいぷしろんm)(1 + εいぷしろんm)T = 1

あるいは εいぷしろん2 = 0 とかんがえるとおなじことだが

m + mT = 0

となる行列ぎょうれつ m全体ぜんたいからなる。

うえあたえたそく物的ぶってき定義ていぎ安直あんちょく使つかやすいものであるが、いくつか問題もんだいがある。たとえば、この定義ていぎかんがえるまえにリーぐん行列ぎょうれつぐんとして表現ひょうげんできている必要ひつようがあるが、任意にんいのリーぐんかんがえるときにはそんなことはできないし、また表現ひょうげん仕方しかたによらず対応たいおうするリーたまきさだまるかどうかということはまったくあきらかなことではない。これらの問題もんだいはリーぐん付随ふずいするリーたまき一般いっぱんてき定義ていぎあたえることで回避かいひされる。定義ていぎ以下いかのような考察こうさつしたがってあたえられる:

  1. 微分びぶん多様たようたい M うえベクトルじょうは、M うえなめらかな関数かんすうのなすたまき微分びぶん Xかんがえることができる。 また、ふたつの微分びぶん X, Yたいして、そのリー括弧かっこせき [X, Y] = XYYXふたた微分びぶんとなるので、この括弧かっこせきのもとでベクトルじょう全体ぜんたいをリーたまきにすることができる。
  2. G微分びぶん多様たようたい Mなめらかに作用さようするリーぐんとすると、G作用さよう関数かんすうたまき移行いこうし、さらに微分びぶん移行いこうすることで G はベクトルじょうたいして作用さようさせることができる。この G作用さようによって不変ふへんなベクトルじょう全体ぜんたいのなすベクトル空間くうかんは、リー括弧かっこせきかんしてじているのでリーたまきとなる。
  3. この構成こうせいほうをリーぐん G に、そのだい多様たようたい構造こうぞう着目ちゃくもくして適用てきようする。つまり、GG = Mひだりからのせき作用さようしているとなすと、G うえひだり不変ふへんベクトルじょう全体ぜんたいはベクトルじょうのリー括弧かっこせきのもとでリーたまきとなる。
  4. リーぐん単位たんいもとにおけるせっベクトルはどれも(それをぐんひだり移動いどう作用さようかくてんうつえることにより)ひだり不変ふへんベクトルじょう拡張かくちょうすることができる。これにより、単位たんいもと e におけるせっ空間くうかん Teひだり不変ふへんベクトルじょう全体ぜんたいつくるベクトル空間くうかんとを同一どういつして、せっ空間くうかんをリーたまきにすることができる。これをリーぐん G のリーたまきG付随ふずいするリーたまきG対応たいおうするリーたまき)とんで、リーぐんあらわすのに使つかっている文字もじ対応たいおうする小文字こもじ慣習かんしゅうてきドイツ文字もじもちいることがおおい)をててあらわす。たとえばリーぐんGあらわしているのなら、そのリーたまきgあらわす。 また Lie(G) などとして付随ふずいするリーたまきあらわすこともある。

リーぐん付随ふずいするリーたまき有限ゆうげん次元じげんで、とくにもとのリーぐんおな次元じげんつ。リーぐん G付随ふずいするリーたまき g局所きょくしょ同型どうけいちがいをのぞいて一意いちいさだまる。ここで、ふたつのリーぐんが「局所きょくしょ同型どうけい」であるとは、単位たんいもと適当てきとう近傍きんぼうえらぶと、そのうえ同型どうけい対応たいおうがとれることをいう。リーぐんたいする問題もんだいは、対応たいおうするリーたまきたいする問題もんだいさき解決かいけつし、その結果けっかもちいることによって(通常つうじょう簡単かんたんに)解決かいけつされるということがよくある。たとえば、単純たんじゅんリーぐん分類ぶんるい問題もんだい対応たいおうするリーたまき分類ぶんるいをまずませることによって解決かいけつされる。

ひだり不変ふへんベクトルじょうもちいるわりにみぎ不変ふへんベクトルじょうもちいても、単位たんいもとにおけるせっ空間くうかん Te にリーたまき構造こうぞうれることができるが、この場合ばあいひだり不変ふへんベクトルじょうもちいたとおなじリーたまきさだまる。これは、リーぐん G うえぎゃくもとをとる写像しゃぞうかんがえると、それを移行いこうしてみぎ不変ふへんベクトルじょうひだり不変ふへんベクトルじょう対応付たいおうづけられ、とくせっ空間くうかん Te うえでは −1 をじょうじる操作そうさとして作用さようすることからしたがう。

せっ空間くうかん Te うえのリーたまき構造こうぞうつぎのように記述きじゅつすることもできる: 直積ちょくせきリーぐん G × G うえ交換こうかん作用素さようそ

(x, y) → xyx−1y−1

は (e, e) を eうつすので、その微分びぶんTe うえそう線型せんけい作用素さようそこす。このそう線型せんけい作用素さようそ実際じっさいにはれい写像しゃぞうなのだが、せっ空間くうかんとの厳密げんみつどういちもとで、かい微分びぶんはリー括弧かっこせき公理こうりたす作用素さようそこし、それはひだり不変ふへんベクトルじょうもちいて定義ていぎされる場合ばあいのちょうどばいひとしい。

じゅん同型どうけい同型どうけい

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G, H をリーぐんなら双方そうほうとも複素ふくそなら双方そうほうとも複素ふくそ)とする。写像しゃぞう f: GHリーぐんじゅん同型どうけいであるとは、f抽象ちゅうしょうぐんとしてのぐんじゅん同型どうけいであって、かつ f解析かいせきてきであるときにいう。ただし、f が「解析かいせきてき」であるという条件じょうけんを「連続れんぞく」であるという条件じょうけんよわめても定義ていぎとしては同値どうちになることがしめせる。文脈ぶんみゃくじょうリーぐんじゅん同型どうけいであるとあきらかなときはたんじゅん同型どうけいとよぶ。リーぐんじゅん同型どうけい合成ごうせいはまたリーぐんじゅん同型どうけいである。すべてのじつリーぐんのなするい、あるいはすべての複素ふくそリーぐんのなするいに、それぞれの意味いみでのリーぐんじゅん同型どうけいなしてリーぐんけんができる。ふたつのリーぐん同型どうけいであるとは、そのあいだぜんたんしゃなリーぐんじゅん同型どうけいで、そのぎゃく写像しゃぞうもまたリーぐんじゅん同型どうけいになるようなものが存在そんざいすることをいう。同型どうけいなリーぐん同士どうし区別くべつする必要ひつよう実用じつようじょうはなく、それらはたんもとあらわかたことなるだけだとかんがえられる。

リーぐんじゅん同型どうけい f: GH付随ふずいするリーたまきたちのあいだじゅん同型どうけい

こす。したがって、リーぐんをそれに付随ふずいするリーたまきうつ対応たいおう "Lie" はせきしゅである。

アドの定理ていりひとつのかたちは、有限ゆうげん次元じげんリーたまき行列ぎょうれつリーたまき同型どうけいであるとべられる。有限ゆうげん次元じげん行列ぎょうれつリーたまきたいしては、それを付随ふずいするリーたまきにもつような線型せんけい代数だいすうぐん行列ぎょうれつリーぐん)が存在そんざいするので、したがってどんな抽象ちゅうしょうリーたまきもある行列ぎょうれつのリーぐんのリーたまきとして記述きじゅつすることができる。

リーぐん大域たいいきてき構造こうぞうをそのリーたまきによって完全かんぜん記述きじゅつすることは一般いっぱんにはできない。たとえば ZG中心ちゅうしんぞくする任意にんい離散りさんぐんとしてやると、 GG/Zおなじリーたまきをもつ。しかしながら連結れんけつリーぐんかんしては、それが単純たんじゅんはん単純たんじゅんかいべきれいあるいはかわとなることが、付随ふずいするリーたまき対応たいおうする性質せいしつつことに同値どうちであるということができる。

リーぐんたん連結れんけつであることを仮定かていすると、その大域たいいきてき構造こうぞうはそのリーたまきによって完全かんぜん決定けっていされる。任意にんい有限ゆうげん次元じげんリーたまき gたいして、たん連結れんけつリーぐん G でそのリーたまきg であるものが同型どうけいのぞいてただひとさだまる。さらに、リーたまきじゅん同型どうけい対応たいおうするたん連結れんけつリーぐんあいだじゅん同型どうけい一意的いちいてきげられる。

指数しすう写像しゃぞう

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リーたまき Mn(R) からリーぐん GLn(R) への指数しすう写像しゃぞう通常つうじょうべき級数きゅうすうとして、行列ぎょうれつ Aたいして

exp(A) = 1 + A + A2/2! + A3/3! + ⋯

によってさだめられる。GGLn(R) の部分ぶぶんぐんならば、この指数しすう写像しゃぞうG のリーたまきG のなかへうつす。したがって、任意にんい行列ぎょうれつのリーぐんたいして指数しすう写像しゃぞうかんがえることができる。

この指数しすう写像しゃぞう定義ていぎあつかいやすいが、行列ぎょうれつぐんではないリーぐんたいしては定義ていぎされていないし、指数しすう写像しゃぞう行列ぎょうれつぐんとしてのあらわかたらないかどうかについては自明じめいなことではない。これは以下いかのように抽象ちゅうしょうてき指数しすう写像しゃぞう定義ていぎあたえることで解決かいけつすることができる。

リーたまき g任意にんいのベクトル v は、1 を v へとうつR から g への線型せんけい写像しゃぞう(これをリーたまきじゅん同型どうけいかんがえることができる)をさだめる。Rたん連結れんけつリーぐん R のリーたまきになっているので、これは対応たいおうするリーぐんあいだじゅん同型どうけい c: RGこす。これは s, tRたいして

c(s + t) = c(s) c(t)

たす(右辺うへんG における乗法じょうほうである)。このしき指数しすう関数かんすうたす公式こうしきとの類似るいじせいから、

exp(v) = c(1)

とおくと、行列ぎょうれつぐんたいしてはいま定義ていぎさき定義ていぎおなじものをさだめることがたしかめられる。これを指数しすう写像しゃぞうぶ。つくかたからこれはリーたまき g対応たいおうするリーぐん G のなかへうつすことがわかる。指数しすう写像しゃぞうは、リーたまき gれいげん 0 の近傍きんぼうからリーぐん G単位たんいもと e近傍きんぼうへの微分びぶん同相どうしょう写像しゃぞうである。実数じっすう全体ぜんたいかわリーたまき Rせい実数じっすう全体ぜんたい乗法じょうほうかんしてすリーぐん R+×付随ふずいするリーたまきになっているので、指数しすう写像しゃぞう実数じっすうたいする指数しすう関数かんすう一般いっぱんになっていることがわかる。同様どうよう複素数ふくそすう全体ぜんたいかわリーたまき Cれい複素数ふくそすう全体ぜんたい乗法じょうほうかんしてすリーぐん C× のリーたまきであることから、指数しすう写像しゃぞう複素数ふくそすうたいする指数しすう関数かんすう一般いっぱんにもなっている。もちろん、正方まさかた行列ぎょうれつ全体ぜんたい Mn(R) が通常つうじょう交換こうかんをリー括弧かっこせきとしてすリーたまきが、リーぐん GLn(R) のリーたまきであることから指数しすう写像しゃぞう行列ぎょうれつ指数しすう関数かんすう一般いっぱんでもある。

指数しすう写像しゃぞうがリーぐん G単位たんいもと e適当てきとう近傍きんぼう Nうえへの写像しゃぞうであるので、付随ふずいするリーたまきもとG うえ無限むげんしょう生成せいせい作用素さようそ (infinitesimal generator) とばれる。N生成せいせいする G部分ぶぶんぐんG単位たんい成分せいぶんである。

指数しすう写像しゃぞうとリーたまき連結れんけつリーぐん局所きょくしょぐん構造こうぞう決定けっていする。実際じっさい、リーたまき gれいげん適当てきとう近傍きんぼう U で、u, vUもとならば

exp(u) exp(v) = exp(u + v + (1/2) [u, v] + (1/12) [[u, v], v] − (1/12) [[u, v], u] − ⋯)

つ(ベイカー・キャンベル・ハウスドルフの公式こうしき英語えいごばん)。ここで、省略しょうりゃくしたこうわかっていて、4 つ以上いじょうもとのリー括弧かっこせき関係かんけいするものである。uvかわなときはこれは簡約かんやくされて、見慣みなれた指数しすう法則ほうそくしき exp(u) exp(v) = exp(u + v) となる。

リーたまきからリーぐんへの指数しすう写像しゃぞうかならずしもぜんしゃとはならない。ぐん連結れんけつであってもそれはおなじである(連結れんけつぐんがさらにコンパクトかかいであるならばぜんしゃになる)。 たとえば、SL2(R) の指数しすう写像しゃぞうぜんしゃにはならない。

無限むげん次元じげんリーぐん

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リーぐん定義ていぎから有限ゆうげん次元じげんである。しかし、有限ゆうげん次元じげんせいのぞけばリーぐん酷似こくじしたぐんというものがたくさん存在そんざいする。これらのぐんたいする一般いっぱんろんすくないが、いくつかのれいでは研究けんきゅうがなされ結果けっかられている。

  • 多様たようたいじょう微分びぶん同相どうしょう写像しゃぞう全体ぜんたいぐん円周えんしゅうじょう定義ていぎされる微分びぶん同相どうしょう写像しゃぞう全体ぜんたいぐんはきわめてよくられているれいである。そのリーたまきというのは実質じっしつてきヴィットたまき (Witt algebra) で、その中心ちゅうしん拡大かくだいヴィラソロ代数だいすうばれ、つる理論りろんきょうかたちじょう理論りろんなどでもちいられている。よりおおきな次元じげん多様たようたいじょう微分びぶん同相どうしょう写像しゃぞうぐんについてはあまりられていない。時空じくう微分びぶん同相どうしょう写像しゃぞうぐんは、重力じゅうりょく量子りょうしさいしてしばしばあらわれる。
  • 多様たようたいから有限ゆうげん次元じげんぐんへのなめらかな写像しゃぞう全体ぜんたいぐんゲージぐんばれ、量子りょうしろんドナルドソン理論りろんもちいられている。多様たようたいとして円周えんしゅうをとるときは、ループぐんばれ、付随ふずいするリーたまき実質じっしつてきカッツ・ムーディ代数だいすうであるような中心ちゅうしん拡大かくだいつ。
  • 一般いっぱん線型せんけいぐん直交ちょっこうぐんなどにたいする無限むげん次元じげん類似るいじぶつ重要じゅうよう側面そくめんのひとつは、これらが「簡素かんそな」位相いそうてき性質せいしつっているだろうということである。たとえば、クーパーの定理ていり英語えいごばん参照さんしょう

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ おおくの場合ばあい無限むげんかい微分びぶん可能かのう含意がんいする。
  2. ^ ぐん演算えんざん微分びぶん写像しゃぞうとなっていることを「ぐん演算えんざん微分びぶん多様たようたい構造こうぞう両立りょうりつする(かわである、あるいはうまくいっている)」といいあらわす。
  3. ^ 正確せいかくには、ある代数だいすう閉体うえ一般いっぱん線型せんけいぐん部分ぶぶんぐんであって、成分せいぶん代数だいすう方程式ほうていしきによってあたえられる。

参考さんこう文献ぶんけん

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和書わしょ

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  • 小林こばやし俊行としゆき大島おおしま利雄としおリーぐん表現ひょうげんろん岩波書店いわなみしょてん、2005ねん4がつ6にちISBN 4-00-006142-9http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/9/0061420.html 
  • 松本まつもと敏彦としひこ. (2005). にちひょう数学すうがく選書せんしょ リーぐん入門にゅうもん. 日本にっぽん評論ひょうろんしゃ.
  • リー群論ぐんろん, 杉浦すぎうら光夫みつおしる, ISBN 978-4-320-01637-8, 共立きょうりつ出版しゅっぱん.
  • はじめてまなぶリーぐん-線型せんけい代数だいすうからはじめよう-, 井ノ口いのぐち順一じゅんいち ちょ, ISBN 978-4-7687-0470-7, 現代げんだい数学すうがくしゃ.
  • リーぐんのユニタリ表現ひょうげんろん平井ひらいたけしISBN 978-4-320112087共立きょうりつ出版しゅっぱん(2022).
  • Claude Chevalley, 齋藤さいとう正彦まさひこ (わけ):「シュヴァレー リー群論ぐんろん」、筑摩書房ちくましょぼうISBN 978-4480094513(2012ねん6がつ6にち)。

洋書ようしょ

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  • Adams, J. Frank (December 1, 1996). Lectures on Exceptional Lie Groups. Chicago Lectures in Mathematics. University Of Chicago Press. ISBN 0-226-00527-5 
  • Fulton, William; Harris, Joe (July 30, 1999). Representation Theory : A First Course. Graduate Texts in Mathematics / Readings in Mathematics (1st ed.). Springer Verlag. ISBN 0-387-97495-4 
  • Knapp, Anthony W. (2002). Lie Groups Beyond an Introduction. Birkhäuser. ISBN 0-8176-4259-5 
  • Rossmann, Wulf (August 24, 2006). Lie Groups: An Introduction Through Linear Groups. Oxford Graduate Texts in Mathematics. Oxford University Press. ISBN 0-19-920251-6  - 注意ちゅうい:2003年刊ねんかん再版さいはん初版しょはん誤植ごしょく訂正ていせいされている。線型せんけいぐん(すなわち有限ゆうげん次元じげん行列ぎょうれつ定義ていぎされる連続れんぞくぐん)のトリビアルでない実例じつれいつうじたリーぐんとリー代数だいすう入門にゅうもんしょ
  • Serre, Jean-Pierre (1992). Lie Algebras and Lie Groups: 1964 Lectures given at Harvard University. Lecture Notes in Mathematics (2nd sub ed.). Springer. ISBN 3-540-55008-9 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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