分子ぶんし対称たいしょうせい

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ホルムアルデヒド対称たいしょう要素ようそ。C2は2かい回転かいてんじくである。σしぐまvおよびσしぐまv' は2つの等価とうかでないかがみうつめんである。

化学かがくにおける分子ぶんし対称たいしょうせい(ぶんしのたいしょうせい、えい: molecular symmetry)は、分子ぶんし存在そんざいする対称たいしょうせいおよびその対称たいしょうせいおうじた分子ぶんし分類ぶんるいべる。分子ぶんし対称たいしょうせい化学かがくにおける基本きほん概念がいねんであり、双極そうきょくモーメント許容きょよう分光ぶんこう遷移せんいラポルテの規則きそくといった選択せんたくそくもとづく)といった分子ぶんし化学かがくてき性質せいしつおおくを予測よそくあるいは説明せつめいすることができる。おおくの大学だいがくレベルの物理ぶつり化学かがく量子りょうし化学かがく無機むき化学かがく教科書きょうかしょは、対称たいしょうせいのために一章いっしょういている[1][2][3][4][5]

分子ぶんし対称たいしょうせい研究けんきゅうには様々さまざま枠組わくぐみが存在そんざいするが、群論ぐんろん主要しゅよう枠組わくぐみである。この枠組わくぐみは、ヒュッケルほうはいじょう理論りろんウッドワード・ホフマンのりといった応用おうようともなって分子ぶんし軌道きどう対称たいしょうせい研究けんきゅうにも有用ゆうようである。だい規模きぼけいでは、固体こたい材料ざいりょう結晶けっしょうがくてき対称たいしょうせい説明せつめいするために結晶けっしょうけい枠組わくぐみとして使用しようされている。

分子ぶんし対称たいしょうせい実質じっしつてき評価ひょうかするためには、Xせん結晶けっしょう構造こうぞう解析かいせき様々さまざま分光ぶんこうがくてき手法しゅほうたとえば金属きんぞくカルボニルあかがい分光ぶんこうほう)などおおくの技術ぎじゅつ存在そんざいする。

概念がいねん[編集へんしゅう]

分子ぶんし対称たいしょうせい研究けんきゅうは、数学すうがく使つかわれる群論ぐんろん適応てきおうである。

キラリティー対称たいしょうせいとのあいだ関係かんけいれい
回転かいてんじく (Cn) かいうつ要素ようそ (Sn)
  キラル
Snなし
アキラル
鏡面きょうめん
S1 = σしぐま
アキラル
反転はんてん中心ちゅうしん
S2 = i
C1
C2

要素ようそ[編集へんしゅう]

分子ぶんし対称たいしょうせいは5種類しゅるい対称たいしょう要素ようそ英語えいごばんによってあらわすことができる。

  • 対称たいしょうじく: まわりを回転かいてんさせるともと分子ぶんし区別くべつかない分子ぶんししょうじるじくn-かい回転かいてんじくともばれ、Cnりゃくされる。たとえば、みずはC2アンモニアはC3である。分子ぶんしひと以上いじょう対称たいしょうじくつことができる、もっとたかnじく主軸しゅじくばれ、慣習かんしゅうてき直交ちょっこう座標ざひょうけいにおけるzじくてられる。
  • 対称たいしょうめん: かがみうつあたえられるかがみぞうもと分子ぶんし同一どういつとなるめん鏡面きょうめんともばれ、σしぐまりゃくされる。みずには対称たいしょうめんが2つある。1つは分子ぶんし平面へいめんそれ自身じしんであり、もうひとつは分子ぶんし平面へいめんたいして垂直すいちょくめんである。主軸しゅじくたいして平行へいこうな(主軸しゅじくふくむ)対称たいしょうめんverticalσしぐまv)、主軸しゅじくたいして垂直すいちょく対称たいしょうめんhorizonalσしぐまh)とばれる。対称たいしょうめんにはもういち種類しゅるい存在そんざいする。もし、vertical対称たいしょうめん主軸しゅじくたいして垂直すいちょくな2ほんの2かい回転かいてんじくあいだでさらにかく等分とうぶんする場合ばあい、このめんdihedralσしぐまd)とばれる。対称たいしょうめん直交ちょっこう座標ざひょうけいにおける方向ほうこうたとえば (xz) あるいは (yz) など)でも分類ぶんるいすることができる。
  • 対称たいしょう中心ちゅうしんあるいは反転はんてん中心ちゅうしん: iりゃくされる。ある中心ちゅうしんからせい反対はんたいひとしい距離きょり同一どういつ原子げんし存在そんざいするとき分子ぶんし対称たいしょう中心ちゅうしんつ。中心ちゅうしん原子げんし場合ばあいもあるしそうでない場合ばあいもある。たとえばよんフッキセノンXe原子げんし反転はんてん中心ちゅうしんであり、ベンゼン (C6H6) はたまき中心ちゅうしん反転はんてん中心ちゅうしんである。
  • かいうつじく: まわりを回転かいてんさせたのちじくたいして垂直すいちょくめんでのかがみうつによって分子ぶんし変化へんかしないじくnかいかいうつじくともばれ、Snりゃくされる。たとえば、せいよん面体めんていがたよんフッケイ素けいそは3つのS4じくち、エタンねじれがたはいは1つのS6じくつ。
  • 恒等こうとう: 単一たんいつせい意味いみするドイツEinheitからEとりゃくされる。この対称たいしょう要素ようそたん変化へんかからなり、すべての分子ぶんしがこの要素ようそつ。この要素ようそ物理ぶつりてきるにりないものにえるが、その考慮こうりょ群論ぐんろん機構きこう適切てきせつはたらくために必須ひっすである。

操作そうさ[編集へんしゅう]

平面へいめん四角形しかっけい構造こうぞうXeF4は1つのC4じくとC4直交ちょっこうした4つのC2じくつ。これらの5つのじくとC4平行へいこう鏡面きょうめん分子ぶんしのD4h対称たいしょうぐん定義ていぎする。

5つの対称たいしょう要素ようそは5種類しゅるい対称たいしょう操作そうさ関連かんれんしている。これらはしばしば(つねにではないが)かく要素ようそキャレットによって区別くべつされる。ゆえに、Ĉnじく中心ちゅうしんとした分子ぶんし回転かいてんであり、Êは恒等こうとう操作そうさである。対称たいしょう要素ようそは、2つ以上いじょう関連かんれんした対称たいしょう操作そうさつことができる。たとえば四角形しかっけい分子ぶんしであるよんフッキセノン(XeF4)は、ぎゃくきの2つのĈ4回転かいてん(90°)および1つのĈ2回転かいてん(180°)と関連かんれんしている。C1(1かい回転かいてん対称たいしょう)はE(恒等こうとう)と、S1(1かいかいうつ)はσしぐまかがみうつ)と、S2(2かいかいうつ)はi反転はんてん中心ちゅうしん)と等価とうかであるため、すべての対称たいしょう操作そうさ回転かいてん操作そうさあるいはかいうつ操作そうさとして分類ぶんるいすることができる。

てんぐん[編集へんしゅう]

てんぐん数学すうがくてきな「ぐん」を形成けいせいする一連いちれん対称たいしょう操作そうさである。てんぐんではすくなくともひとつの「てん」がぐんすべての操作そうさした固定こていされている。結晶けっしょうてんぐんさん次元じげんにおける並進へいしん対称たいしょう英語えいごばん互換ごかんせいがあるてんぐんである。わせて32の結晶けっしょうてんぐんがあり、そのうち30は化学かがく関連かんれんしている。これらの分類ぶんるいシェーンフリース記号きごうもとづいている。

群論ぐんろん[編集へんしゅう]

以下いか場合ばあい一連いちれん対称たいしょう操作そうさ操作そうさ適用てきようである作用素さようそぐん形成けいせいする。

  • 2つの操作そうさ連続れんぞくした適用てきよう合成ごうせいcomposition)の結果けっかもまたおなぐんぞくする(閉包性へいほうせい)。
  • 操作そうさ適用てきよう結合けつごうてきである: A(BC) = (AB)C。
  • ぐんが、ぐんすべての操作そうさAについてAE = EA = Aとなる恒等こうとう操作そうさふくんでいる。
  • ぐんにおけるすべての操作そうさAについて、ぐんないぎゃくもとA−1存在そんざいする: AA−1 = A−1A = E。

ぐんすうは、ぐん対称たいしょう操作そうさかずである。

たとえば、みず分子ぶんしてんぐんはC2vであり、対称たいしょう操作そうさのE、C2σしぐまvσしぐまv'からなる。ゆえにすうは4である。それぞれの操作そうさ自身じしんぎゃくもとである。閉包性へいほうせいれいとしては、C2回転かいてんとそれにつづσしぐまvかがみうつσしぐまv'のようにえる:σしぐまv*C2 = σしぐまv'(操作そうさAとそれにつづくBによってCがつくられることをBA = Cとく)。

アンモニア分子ぶんしはピラミッドがたであり、3かい回転かいてんじくおよびたがいに120°の角度かくどにある3つの鏡面きょうめんふくんでいる。それぞれの鏡面きょうめんはN-H結合けつごうふくんでおり、この結合けつごう反対はんたいがわのH-N-H結合けつごう角度かくど等分とうぶんする。ゆえに、アンモニア分子ぶんしくらいすう6のC3vてんぐんぞくする: 単位たんいもとE、2つの回転かいてん操作そうさC3およびC32、3つのかがみうつ操作そうさσしぐまvσしぐまv'、σしぐまv"。

一般いっぱんてきてんぐん[編集へんしゅう]

以下いかひょう代表だいひょうてき分子ぶんしてんぐんのリストをふくんでいる。構造こうぞう説明せつめい原子げんしから電子でんしたい反発はんぱつそく(VSEPRそく)にもとづいた分子ぶんし一般いっぱんてき形状けいじょうである。

てんぐん 対称たいしょう操作そうさ 典型てんけいてき構造こうぞう れい1 れい2 れい3
C1 E 非対称ひたいしょうキラル
ブロモクロロフルオロメタン

リゼルグさん
Cs E σしぐまh 鏡面きょうめん、その対称たいしょうせいはない
塩化えんかチオニル

つぎ塩素えんそさん

クロロヨードメタン
Ci E i 反転はんてん中心ちゅうしん anti英語えいごばん-1,2-dichloro-1,2-dibromoethane
C∞v E 2C σしぐまv 直線ちょくせんじょう
フッ水素すいそ

一酸化いっさんか炭素たんそ
D∞h E 2Cσしぐまi i 2S ∞C2 反転はんてん中心ちゅうしん直線ちょくせんじょう
酸素さんそ

二酸化炭素にさんかたんそ
C2 E C2 ひらいたほん形状けいじょう」、キラル
過酸化水素かさんかすいそ
C3 E C3 プロペラ、キラル
トリフェニルホスフィン
C2h E C2 i σしぐまh 反転はんてん中心ちゅうしん平面へいめんじょう
trans-1,2-ジクロロエチレン
C3h E C3 C32 σしぐまh S3 S35 プロペラ
ホウさん
C2v E C2 σしぐまv(xz) σしぐまv'(yz) 屈曲くっきょくがた (H2O) あるいはシーソーがた (SF4)
みず

よんフッ硫黄いおう

フッスルフリル
C3v E 2C3 3σしぐまv さん角錐かくすい
アンモニア

塩化えんかホスホリル
C4v E 2C4 C2 2σしぐまv 2σしぐまd よん角錐かくすい
よんフッ酸化さんかキセノン
C5v E 2C5 2C52 5σしぐまv 「スツール」がた錯体さくたい
Ni(C5H5)(NO)

コランニュレン
D2 E C2(x) C2(y) C2(z) ねじれ、キラル シクロヘキサンのねじれ舟形ふながたはい ビフェニル
D3 E C3(z) 3C2 三重みえらせん、キラル
トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)カチオン英語えいごばん

アセチルアセトンマンガン (III)
D2h E C2(z) C2(y) C2(x) i σしぐま(xy) σしぐま(xz) σしぐま(yz) 反転はんてん中心ちゅうしん平面へいめんじょう
エチレン

よん酸化さんか窒素ちっそ

ジボラン
D3h E 2C3 3C2 σしぐまh 2S3 3σしぐまv 平面へいめん三角形さんかっけいあるいは三角さんかくりょうきり
さんフッホウ素ほうそ

塩化えんかリン
D4h E 2C4 C2 2C2' 2C2 i 2S4 σしぐまh 2σしぐまv 2σしぐまd 平面へいめん四角形しかっけい
よんフッキセノン

オクタクロロモリブデン(II)さんアニオン
D5h E 2C5 2C52 5C2 σしぐまh 2S5 2S53 5σしぐまv 五角形ごかっけい
ルテノセン

C70
D6h E 2C6 2C3 C2 3C2' 3C2‘’ i 2S3 2S6 σしぐまh 3σしぐまd 3σしぐまv 六角形ろっかっけい
ベンゼン

ビス(ベンゼン)クロム
D7h E C7 S7 7C2 σしぐまh 7σしぐまv なな角形かくがた
トロピリウム (C7H7+) カチオン
D8h E C8 C4 C2 S8 i 8C2 σしぐまh 4σしぐまv 4σしぐまd 八角はっかくがた
シクロオクタテトラエニド (C8H82−) アニオン

ウラノセン
D2d E 2S4 C2 2C2' 2σしぐまd 90°ねじれ
アレン

よん硫化りゅうかよん窒素ちっそ
D3d E C3 3C2 i 2S6 3σしぐまd 60° ねじれ
エタン(ねじれがた回転かいてん異性いせいたい

シクロヘキサンのいすがたはい
D4d E 2S8 2C4 2S83 C2 4C2' 4σしぐまd 45°ねじれ
デカカルボニルマンガン(ねじれがた回転かいてん異性いせいたい
D5d E 2C5 2C52 5C2 i 3S103 2S10 5σしぐまd 36°ねじれ
フェロセン(ねじれがた回転かいてん異性いせいたい
S4 E 2S4 C2
テトラフェニルホウさん英語えいごばんアニオン
Td E 8C3 3C2 6S4 6σしぐまd せいよん面体めんてい
メタン

酸化さんかリン

アダマンタン
Oh E 8C3 6C2 6C4 3C2 i 6S4 8S6 3σしぐまh 6σしぐまd せいはち面体めんていあるいは立方体りっぽうたい
キュバン

ろくフッ硫黄いおう
Ih E 12C5 12C52 20C3 15C2 i 12S10 12S103 20S6 15σしぐま せいじゅう面体めんてい
バックミンスターフラーレン

B12H122−英語えいごばん

ドデカヘドラン

表現ひょうげん[編集へんしゅう]

対称たいしょう操作そうさ様々さまざま方法ほうほう表現ひょうげんできる。便利べんり表現ひょうげん行列ぎょうれつによるものである。直交ちょっこう座標ざひょうけいにおけるてん表現ひょうげんするいずれのベクトルにおいても、ひだりからかけると対称たいしょう操作そうさによって変換へんかんされたてんあたらしい位置いちあたえる。操作そうさ構成こうせい行列ぎょうれつ乗算じょうざん対応たいおうする。たとえば、C2vでは以下いかのようになる。

無数むすうのこういった表現ひょうげん存在そんざいするが、ぐんすんでやく表現ひょうげん一般いっぱんてき使用しようされ、そのすべてのぐん表現ひょうげんすんでやく表現ひょうげん線形せんけい結合けつごうあらわすことができる。

 

指標しひょうひょう[編集へんしゅう]

それぞれのてんぐんについて、指標しひょうひょうはその対称たいしょう操作そうさおよびすんでやく表現ひょうげん情報じょうほう要約ようやくする。すんでやく表現ひょうげん個数こすう対称たいしょう操作そうさ共役きょうやくるい個数こすうつねひとしいので、ひょう正方形せいほうけいである。

おもて自身じしんは、特定とくてい対称たいしょう操作そうさ適用てきようしたときどのように特定とくていすんでやく表現ひょうげん変換へんかんされるかを表現ひょうげんした指標しひょう構成こうせいされている。分子ぶんし自身じしん作用さようする分子ぶんしてんぐんにおけるどの対称たいしょう操作そうさ分子ぶんし変化へんかさせない。しかし、ベクトルあるいは軌道きどうといった一般いっぱん実体じったいにはこれはあてはまらない。ベクトルは符号ふごうあるいは方向ほうこうせい変化へんかし、軌道きどう種類しゅるい変化へんかする。単純たんじゅんてんぐんでは、は1あるいは−1である。1は(ベクトルあるいは軌道きどうの)符号ふごうあるいは位相いそう対称たいしょう操作そうさによって変化へんかしないことを意味いみし(対称たいしょう)、−1は符号ふごう変化へんかすることをしめす(非対称ひたいしょう)。

表現ひょうげん一連いちれん慣習かんしゅうによって名前なまえけられる。

  • A: 主軸しゅじくまわりの回転かいてん対称たいしょう
  • B: 主軸しゅじくまわりの回転かいてん非対称ひたいしょう
  • EおよびTはそれぞれじゅうおよびさんじゅう縮退しゅくたいした表現ひょうげんである。
  • てんぐん反転はんてん中心ちゅうしんとき添字そえじgは符号ふごう反転はんてんかんして変化へんかしないこと、添字そえじuは符号ふごう変化へんかすることをしめす。
  • C∞vおよびD∞hについては、記号きごうかく運動うんどうりょう記述きじゅつから借用しゃくようされている(ΣしぐまΠぱいΔでるた)。

ひょうにはまた、デカルト座標ざひょうけい基底きていベクトル、それらやそれらの関数かんすうかんする回転かいてんが、ぐん対称たいしょう操作そうさによってどのように変換へんかんされるかという情報じょうほう記録きろくされている。これらの表示ひょうじ慣例かんれいてきひょう右側みぎがわ記載きさいされる。化学かがくてき重要じゅうよう軌道きどうとくにpおよびd軌道きどう)はこれらの実体じったいおな対称たいしょうせいゆうするため、この情報じょうほう有用ゆうようである。

C2v対称たいしょうてんぐん指標しひょうひょう以下いかとおりである。

C2v E C2 σしぐまv(xz) σしぐまv'(yz)
A1 1 1 1 1 z x2, y2, z2
A2 1 1 −1 −1 Rz xy
B1 1 −1 1 −1 x, Ry xz
B2 1 −1 −1 1 y, Rx yz

C2v対称たいしょうせいゆうするみず (H2O) のれいかんがえる。酸素さんその2px軌道きどう分子ぶんし平面へいめんたいして垂直すいちょくいており、C2およびσしぐまv'(yz) 操作そうさ符号ふごう変化へんかするが、その2つの操作そうさでは変化へんかしない。ゆえに、この軌道きどう指標しひょう集合しゅうごうは {1, −1, 1, −1} であり、B1すんでやく表現ひょうげん対応たいおうする。同様どうように、2pz軌道きどうはA1すんでやく表現ひょうげん対称たいしょうせいを、 2py軌道きどうはB2、3dxy軌道きどうはA2ゆうする。

歴史れきしてき背景はいけい[編集へんしゅう]

ハンス・ベーテは1929ねんはいじょう理論りろん研究けんきゅうにおいててんぐん操作そうさ指標しひょう使用しようし、ユージン・ウィグナー原子げんし分光ぶんこうがく選択せんたくそく説明せつめいするためにぐん理論りろん使用しようした[6]はつ指標しひょうひょうティサ・ラースローによって振動しんどうスペクトルとむすけて編纂へんさんされた(1933ねん)。ロバート・マリケン英語えいごはじめて指標しひょうひょう発表はっぴょうし(1933ねん)、E・ブライト・ウィルソン固有こゆう振動しんどう対称たいしょうせい予測よそくするために1934ねんにそれらを使用しようした[7]。32種類しゅるい結晶けっしょうてんぐん一式いっしきはRosenthalとMurphyによって1936ねん発表はっぴょうされた[8]

剛体ごうたい分子ぶんし[編集へんしゅう]

うえ解説かいせつした対称たいしょうぐんは、単一たんいつ平行へいこう構造こうぞうかんしてちいさなれしか経験けいけんせず、すべての対称たいしょう操作そうさ単純たんじゅん幾何きか操作そうさ対応たいおうしている「剛体ごうたい分子ぶんし記述きじゅつするために有用ゆうようである。しかしながら、ロンゲ=ヒギンズ複数ふくすう等価とうか構造こうぞう剛体ごうたい分子ぶんしについててきしたより一般いっぱんてき種類しゅるい対称たいしょうぐん提唱ていしょうしている[9][10]。これらのぐんは「置換ちかん-反転はんてんぐんばれる。これは、対称たいしょう操作そうさ等価とうかかくのエネルギーてき許容きょよう置換ちかんあるいは重心じゅうしんかんする反転はんてん、あるいはそれら2つのわせでありるためである。

たとえば、エタン(C2H6)は3つの等価とうかねじれがたはいつ。あるはいのもうひとつのはいへの変換へんかんは、1つのメチルもとのもう一方いっぽうのメチルもと相対そうたいてきな「内部ないぶ回転かいてん」によって常温じょうおんこる。これはC3じくかんするぜん分子ぶんし回転かいてんではないが、1つのメチルもとの3つの同一どういつ水素すいそ原子げんし置換ちかんとして記述きじゅつすることができる。上記じょうきひょうしめされているようにそれぞれのはいはD3d対称たいしょうせいつものの、内部ないぶ回転かいてん関連かんれんした量子りょうし状態じょうたいおよびエネルギーじゅん記述きじゅつはより完全かんぜん置換ちかん-反転はんてんぐん必要ひつようとする。

同様どうように、アンモニア(NH3)は2つの等価とうかさん角錐かくすい(C3vはいち、これらのはい窒素ちっそ反転はんてんとしてられる過程かていによって相互そうご変換へんかんする。NH3反転はんてん中心ちゅうしんたないため、これは剛体ごうたい分子ぶんし対称たいしょう操作そうさたいしてもちいられている意味いみでの反転はんてんではない。むしろ、この分子ぶんしについてエネルギーてき許容きょようされる(窒素ちっそちかい)重心じゅうしんかんするぜん原子げんしかがみうつである。ふたたび、置換ちかん-反転はんてんぐんが2つの構造こうぞう相互そうご作用さよう記述きじゅつするためにもちいられる。

剛体ごうたい分子ぶんし対称たいしょうせいへの2つ手法しゅほうはAltmannによるものである[11][12]。この手法しゅほうでは、対称たいしょうぐんは「シュレーディンガーちょうぐん」とばれ、(1) 剛体ごうたい分子ぶんし幾何きか対称たいしょう操作そうさ回転かいてんかがみうつ反転はんてん)、(2) 「ひとしりょく (isodynamic) 操作そうさ」という2種類しゅるい操作そうさ(とそれらの組合くみあわせ)からなる。後者こうしゃは、たん結合けつごうかんする回転かいてん(エタン)あるいは分子ぶんし反転はんてん(アンモニア)といった物理ぶつりがくてき合理ごうりてき過程かていによって剛体ごうたい分子ぶんしをエネルギーてき等価とうかかたちへとれる[12]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Quantum Chemistry, Third Edition John P. Lowe, Kirk Peterson ISBN 0-12-457551-X NCID BA73748998
  2. ^ Physical Chemistry: A Molecular Approach by Donald A. McQuarrie, John D. Simon ISBN 0-935702-99-7
  3. ^ The chemical bond 2nd Ed. J.N. Murrell, S.F.A. Kettle, J.M. Tedder ISBN 0-471-99577-0 NCID BA12971474
  4. ^ Physical Chemistry P. W. Atkins ISBN 0-7167-2871-0
  5. ^ G. L. Miessler and D. A. Tarr “Inorganic Chemistry” 3rd Ed, Pearson/Prentice Hall publisher, ISBN 0-13-035471-6.
  6. ^ Group Theory and its application to the quantum mechanics of atomic spectra, E. P. Wigner, Academic Press Inc. (1959)
  7. ^ Correcting Two Long-Standing Errors in Point Group Symmetry Character Tables Randall B. Shirts J. Chem. Educ. 2007, 84, 1882. Abstract
  8. ^ Group Theory and the Vibrations of Polyatomic Molecules Jenny E. Rosenthal and G. M. Murphy Rev. Mod. Phys. 8, 317 - 346 (1936) doi:10.1103/RevModPhys.8.317
  9. ^ Longuet-Higgins, H.C. (1963). “The symmetry groups of non-rigid molecules”. Molecular Physics 6 (5): 445–460. doi:10.1080/00268976300100501. 
  10. ^ Fundamentals of Molecular Symmetry by Philip R. Bunker and Per Jensen (Institute of Physics Publishing 2005) ISBN 0-7503-0941-5
  11. ^ Altmann S.L. (1977) Induced Representations in Crystals and Molecules, Academic Press
  12. ^ a b Flurry, R.L. (1980) Symmetry Groups, Prentice-Hall, ISBN 0-13-880013-8, pp.115-127

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]