剛体ごうたい架線かせん

剛体ごうたい架線かせん

剛体ごうたい架線かせん（ごうたいかせん）とは電気でんき鉄道てつどうの車両しゃりょうの給電きゅうでんに用もちいられる架空かくう電車でんしゃ線せん（架線かせん）の一種いっしゅで、剛体ごうたい（棒状ぼうじょう）のトロリー線せんをいう。

概要がいよう

電気でんき運転うんてんの地下鉄ちかてつ道どうで建設けんせつ費ひを抑おさえるためにトンネル断面だんめんを小ちいさくする方法ほうほうとしては、車両しゃりょうの屋根やね上じょうに広ひろい空間くうかんが必要ひつような架空かくう電車でんしゃ線せん方式ほうしきではなく、第だい三さん軌条きじょう方式ほうしきが古ふるくから用もちいられてきた。しかし、次第しだいに拡大かくだいする通勤つうきん圏けんと、それに伴ともなう旅客りょかくの増大ぞうだいに対応たいおうするため、地下鉄ちかてつと一般いっぱん的てきな架空かくう電車でんしゃ線せん方式ほうしきを採用さいようする地上ちじょうの郊外こうがい路線ろせんとを相互そうごに直通ちょくつう運転うんてんさせる必要ひつよう性せいが高たかまると、双方そうほうの車両しゃりょうの集しゅう電でん方式ほうしきの相違そういは大おおきな問題もんだいとなる。地下ちかトンネルを従来じゅうらい通どおりとし、地上ちじょう側がわを第だい三さん軌条きじょう方式ほうしきとすることも可能かのうではあるが、新規しんき建設けんせつではない場合ばあい、架空かくう電車でんしゃ線せんを全すべて第だい三さん軌条きじょうに転換てんかんする工事こうじが必要ひつようとなり、転換てんかんしたとしても離はなれ線せんや騒音そうおんの面めんで高速こうそく運転うんてんに適てきさず、踏切ふみきりの構造こうぞうが一気いっきに複雑ふくざつ化かし、全ぜん区間くかんで感電かんでん、短絡たんらく、踏切ふみきり障害しょうがい事故じこを防ふせぐ措置そちなどが必要ひつようとなるなど、デメリットが非常ひじょうに多おおくなる。 そこで、ワイヤーによってトロリー線せんを吊つり支ささえる「吊つるし架線かせん」とそのための空間くうかんが不要ふようで、断線だんせんによる落下らっかの危険きけんも物理ぶつり的てきに防止ぼうしできる剛体ごうたい架線かせんが採用さいようされることとなった。断線だんせんしない点てんは地下ちかトンネルだけではなく、作業さぎょう空間くうかんに限かぎりのある地上ちじょうのトンネルでも保守ほしゅ上じょうの利点りてんとなる。

構造こうぞうは、トンネルの天井てんじょうにアルミ合金ごうきん製せいのT形かたち材ざいを支持しじ碍子がいしに取とり付つけ、この下したでトロリー線せんをアルミ合金ごうきん製せいイーヤによって連結れんけつ固定こていするようになっている。また、車両しゃりょう側がわでは、集しゅう電でん装置そうちの最低さいてい作用さよう高たかさを低ひくめることが必要ひつようである。

断線だんせんの可能かのう性せいは低ひくくなるものの、トロリー線せんが剛性ごうせい支持しじとなることで、スライダー（パンタグラフの、架線かせんと接触せっしょくする部分ぶぶん）の摩耗まもう・離はなれ線せん率りつなどの点てんでは不利ふりとなる。剛体ごうたい架線かせん区間くかんで運転うんてんされる車両しゃりょうはこれを回避かいひするため、スライダー部分ぶぶんの構造こうぞうや材質ざいしつの変更へんこうで架線かせん追従ついしょう性せいを高たかめたり、パンタグラフ自体じたいの数かずを増ふやすなどの処置しょちで離はなれ線せんを抑おさえている。

架線かせんの柔軟じゅうなん性せいがないために高速こうそく運転うんてんには向むかず、一般いっぱん的てきな方式ほうしきでは90 km/hを超こえる速度そくどでの運転うんてんができないとされる 。そのため、近畿日本鉄道きんきにほんてつどうでは新しん青山あおやまトンネルなどのトンネル区間くかんにおいて、一般いっぱんの架線かせんと同おなじような構造こうぞうを持もちながらトロリー線せんの剛体ごうたい化かを行おこなった架線かせんを用もちいており、最高さいこう130 km/hの高速こうそく運転うんてんと断線だんせんの防止ぼうしの両立りょうりつを図はかっている（架線かせんの構造こうぞうとしては、シンプルカテナリ式しきおよびコンパウンドカテナリ式しきがある）。

一般いっぱん的てきな吊つるし架線かせん式しきに比くらべてトロリー線せんの断だん面積めんせきが大おおきく大だい電流でんりゅうに強つよいため、エアセクション内うちに停車ていしゃした際さいに発生はっせいする溶断ようだん事故じこは起おこりにくいともされる。

使用しよう範囲はんい

架空かくう電車でんしゃ線せん式しきの地下鉄ちかてつの多おおくで採用さいようされている。また、一般いっぱん鉄道てつどうの地下ちかターミナル駅えきなどでも、垂直すいちょく方向ほうこうの寸法すんぽうに余裕よゆうが取とれない場合ばあいなどでの使用しよう例れいがある。

日本にっぽん国内こくないで初はじめて剛体ごうたい架線かせん方式ほうしきを採用さいようしたのは、営団えいだん地下鉄ちかてつ（現げん・東京とうきょう地下鉄ちかてつ）日比谷線ひびやせん（地下ちか区間くかん）である。営団えいだん地下鉄ちかてつでは、丸ノ内線まるのうちせんまでは他た路線ろせんとの直通ちょくつう運転うんてんを行おこなわないことから第だい三さん軌条きじょうを採用さいようしていたが、日比谷線ひびやせんでは相互そうご直通ちょくつう運転うんてんの関係かんけいで、架空かくう電車でんしゃ線せん方式ほうしきを採用さいようすることが必要ひつようとなったためである。日比谷線ひびやせんでの採用さいようを前まえに、丸ノ内線まるのうちせん新大塚しんおおつか - 茗荷谷みょうがたに間あいだのトンネル部ぶに仮設かせつの剛体ごうたい架線かせん試験しけん設備せつびを設もうけ、貨物かもつ用ようモーターカーに試験しけん用ようパンタグラフを取とり付つけて走行そうこうさせ、実用じつよう化か試験しけんを行おこなっている。

中央ちゅうおう本線ほんせんなどのトンネル断面だんめんが狭小きょうしょうな区間くかん向むけに、高速こうそく運転うんてん可能かのうな物ものを開発かいはつする研究けんきゅうも進すすめられている。

仙山線せんざんせんの一部いちぶのトンネルは剛体ごうたい架線かせん方式ほうしきを採用さいようしている。

また、特殊とくしゅな例れいとして、蓄電池ちくでんち駆動くどう電車でんしゃの充電じゅうでん用よう架線かせんは離はなれ線せん・摩耗まもうの心配しんぱいがないため、大おおきな電流でんりゅうに対応たいおうして急速きゅうそく充電じゅうでんができる剛体ごうたい架線かせんが採用さいようされており、烏山線からすやません烏山からすやま駅えき、男鹿線おがせん男鹿おが駅えきに設置せっちされている。

日本にっぽんにおける剛体ごうたい架線かせんの採用さいよう例れい

都営地下鉄とえいちかてつ大江戸おおえど線せん

東京とうきょうメトロ日比谷線ひびやせん、秋葉原あきはばら駅えき構内こうないにあるエアセクション

半蔵門線はんぞうもんせん水天すいてん宮前みやまえ駅えき付近ふきんの複雑ふくざつに架設かせつされた剛体ごうたい架線かせん

近鉄難波きんてつなんば線せんで採用さいようされているシンプルカテナリー式しきの剛体ごうたい架線かせん（大阪おおさか上本うえほん町まち駅えき地下ちかホーム）

※は剛体ごうたいコンパウンドカテナリ架線かせん採用さいよう路線ろせん。

• JR
  • 西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう（JR東西線とうざいせん・関西本線かんさいほんせん（大和やまと路線ろせん）JR難波なんば駅えき構内こうないおよび付近ふきんの地下ちか線せん）
  • 東日本旅客鉄道ひがしにほんりょかくてつどう（仙山線せんざんせんの一部いちぶ矮小わいしょうトンネル）
• 地下鉄ちかてつ
  • 仙台せんだい市し地下鉄ちかてつ（南北線なんぼくせん・東西線とうざいせん）
  • 東京とうきょう地下鉄ちかてつ（日比谷線ひびやせん・東西線とうざいせん・千代田ちよだ線せん・有楽町線ゆうらくちょうせん・半蔵門線はんぞうもんせん・南北線なんぼくせん・副ふく都心としん線せん）
  • 都営地下鉄とえいちかてつ（大江戸おおえど線せん・三田みた線せん白金はっきん高輪たかなわ構内こうない及および南北線なんぼくせん共有きょうゆう区間くかんのみ）
  • 横浜よこはま市営しえい地下鉄ちかてつ（グリーンライン）
  • 名古屋なごや市営しえい地下鉄ちかてつ（鶴舞線つるまいせん・桜通線さくらどおりせん・上飯田かみいいだ線せん）
  • 大阪おおさか市し高速こうそく電気でんき軌道きどう（堺筋線さかいすじせん※・長堀ながほり鶴見緑地線つるみりょくちせん・今里いまさと筋すじ線せん）
  • 京都きょうと市営しえい地下鉄ちかてつ
  • 神戸こうべ市営しえい地下鉄ちかてつ（西にし神しん・山手やまて線せん※・北神線ほくしんせん北きた神しんトンネル・海岸かいがん線せん）
  • 札幌さっぽろ市営しえい地下鉄ちかてつ（東西線とうざいせん・東豊線とうほうせん）
  • 福岡ふくおか市し地下鉄ちかてつ
• 大手おおて私鉄してつ
  • 近畿日本鉄道きんきにほんてつどう（大阪おおさか線せん新しん青山あおやまトンネル※や地下ちか線せん等とう）
  • 京阪電気鉄道けいはんでんきてつどう（京阪本線けいはんほんせん、鴨東線おうとうせん、中之島なかのしま線せんおよび京津線けいしんせん地下ちか線せん）
  • 西武鉄道せいぶてつどう（西武せいぶ有楽町ゆうらくちょう線せんの練馬ねりま駅えき直前ちょくぜんまで）
  • 東急とうきゅう電鉄でんてつ（東横線とうよこせん渋谷しぶや - 代官山だいかんやま間あいだ地ち下線かせん及および東ひがし白楽ばくろ - 横浜よこはま間あいだ地下ちか線せん・目黒めぐろ線せん不動前ふどうまえ - 洗足せんそく間あいだ地下ちか線せん・東急とうきゅう新横浜しんよこはま線せん）
  • 小田急電鉄おだきゅうでんてつ（新宿しんじゅく駅えき地下ちかホーム構内こうない、代々木上原よよぎうえはら - 梅うめヶ丘おか間あいだの地下ちか化か区間くかん）
  • 名古屋鉄道なごやてつどう（名鉄めいてつ名古屋なごや駅えき地下ちかトンネル構内こうない）
  • 阪神電気鉄道はんしんでんきてつどう（神戸高速線こうべこうそくせん・高速こうそく神戸こうべ駅えき - 新開地しんかいち駅えきの一部いちぶ区間くかん、阪急はんきゅう神戸高速線こうべこうそくせんと重複じゅうふく）
• その他た
  • 東ひがし葉は高速こうそく鉄道てつどう（東ひがし葉は高速こうそく線せんの地下ちか区間くかん）
  • 首都圏新都市鉄道しゅとけんしんとしてつどう（つくばエクスプレス線せんの秋葉原あきはばら - 南千住みなみせんじゅ間あいだ）
  • 小田急おだきゅう箱根はこね（鉄道てつどう線せんの早川はやかわ橋梁きょうりょう上うえ）
  • 立山黒部貫光たてやまくろべかんこう（立山たてやまトンネルトロリーバスの一部いちぶ区間くかん※）
• 過去かこの使用しよう例れい
  • 静岡鉄道しずおかてつどう（静岡清水線しずおかしみずせん 新しん静岡しずおか駅えき3番線ばんせん）
  • 日本にっぽん国有こくゆう鉄道てつどう→西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう（桜島線さくらじません北港ほくこう運河うんが第だい一いち橋梁きょうりょう＜安治あわじ川口かわぐち駅えき - 桜島さくらじま駅えき間あいだ＞）

日本にっぽんで最初さいしょの事例じれいは当時とうじの営団えいだん地下鉄ちかてつ日比谷ひびや線せんであり、2番目ばんめの事例じれいは京阪本線けいはんほんせんの天満橋てんまばし駅えき - 淀屋橋よどやばし駅えき間あいだである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どう日比谷線ひびやせん建設けんせつ史し』帝都ていと高速度こうそくど交通こうつう営団えいだん、1969年ねん1月がつ31日にち。https://metroarchive.jp/content/ebook_hibiya.html/。 

関連かんれん項目こうもく

• 架空かくう電車でんしゃ線せん方式ほうしき