(Translated by https://www.hiragana.jp/)
核力 - Wikipedia コンテンツにスキップ

かくりょく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
原子核げんしかく物理ぶつりがく


放射ほうしゃせい崩壊ほうかい
核分裂かくぶんれつ反応はんのう
原子核げんしかく融合ゆうごう
Reidポテンシャル(1968)から計算けいさんした、2つのかくあいだはたらちから(単位たんいは10,000 N)と距離きょりのグラフ[1]中性子ちゅうせいし陽子ようしのスピンは整列せいれつしており、かく運動うんどうりょうS状態じょうたいにある。引力いんりょく(まけちから)はやく1fmの距離きょりにおいて最大さいだいやく25,000Nのちからとなり、粒子りゅうしが0.8fmよりちかづくとおおきな反発はんぱつりょく(せいちから)がはたらく。粒子りゅうしは1fm以上いじょうはなれてもう(湯川ゆかわポテンシャル)が、そのちから距離きょりたい指数しすう関数かんすうてき減少げんしょうする。
Reidポテンシャルから計算けいさんされた、2つのかく対応たいおうするポテンシャルエネルギー(単位たんいはMeV)。ポテンシャルはやく0.8fmの距離きょり最小さいしょうとなり、このポテンシャルではかくまけの「結合けつごうエネルギー」で結合けつごうすることができる。

かくりょく(かくりょく、えい: Nuclear force)は、原子核げんしかくうちかくかく(陽子ようし中性子ちゅうせいし)同士どうし結合けつごうしているちからである。 陽子ようし中性子ちゅうせいしはともにかくであり、かくりょく影響えいきょうをほぼ同様どうようける。陽子ようしは+1 e電荷でんかつため、陽子ようしどうしをはなそうとする静電気せいでんきりょくはたらくが、近距離きんきょりでは引力いんりょくであるかくりょく静電気せいでんきりょくつほどつよい。かくりょくかく原子核げんしかく結合けつごうさせめておくちからがある。

かくりょくは、やく0.8フェムトメートル(fm、0.8×10−15メートル)の距離きょりではかくあいだ強力きょうりょくうが、やく2.5fmをえると急速きゅうそく減少げんしょうし、無視むしできるほどちいさくなる。0.7フェムトメートル以下いか距離きょりでは、かくりょくかく同士どうしはな斥力せきりょくとなる。この斥力せきりょく原子核げんしかくおおきさの要因よういんとなる。かく同士どうしはこのちからえてちかづくことはできないからである。原子げんしおおきさはオングストローム(Å、10−10メートル)の単位たんいであり、フェムトメートルより5けたおおきい。しかしかくりょく単純たんじゅんではない。かくのスピンに依存いぞんし、テンソル成分せいぶんち、かく相対そうたい運動うんどうりょう依存いぞんする可能かのうせいがあるからである[2]

かくりょくは、原子力げんしりょく発電はつでん核兵器かくへいき使つかわれるエネルギーをたくわえるために重要じゅうよう役割やくわりになっている。荷電かでんした陽子ようし同士どうし電気でんきてき反発はんぱつりょくさからって結合けつごうさせるには仕事しごと(エネルギー)必要ひつようである。このエネルギーは、陽子ようし中性子ちゅうせいしかくりょくによって結合けつごうして原子核げんしかく形成けいせいするときにたくわえられる。原子核げんしかく質量しつりょうは、陽子ようし中性子ちゅうせいし個々ここ質量しつりょう合計ごうけいよりもちいさい。この質量しつりょう質量しつりょう欠損けっそんとしてられ、質量しつりょうとエネルギーの等価とうかせいとしてあらわすことができる。おも原子核げんしかくが2つ以上いじょうかる原子核げんしかく分裂ぶんれつするとき、エネルギーが放出ほうしゅつされる。このエネルギーは、帯電たいでんした原子核げんしかく同士どうしにおいて、かくりょくによる結合けつごうがなくなるときに解放かいほうされるポテンシャルエネルギーである[3][4]

かくりょく定量ていりょうてき説明せつめいは、一部いちぶ経験けいけんてき方程式ほうていしき依存いぞんしている。これらの方程式ほうていしきかくあいだのポテンシャルエネルギーをモデルしたものである。一般いっぱんに、粒子りゅうし存在そんざいするけいないちからは、けいのポテンシャルエネルギーで記述きじゅつされることによってより簡潔かんけつにモデルされ、ポテンシャルまけ勾配こうばいはベクトルにひとしい。方程式ほうていしき定数ていすう現象げんしょうろんてき、つまり方程式ほうていしきがわ実験じっけんデータにわせることによって決定けっていされる。かくあいだポテンシャルは、かくかく相互そうご作用さよう特性とくせい記述きじゅつしようとするものである。定数ていすうがいったんまれば、任意にんいのポテンシャルはたとえばシュレーディンガー方程式ほうていしきなどで、かくけい量子力学りょうしりきがくてき性質せいしつ決定けっていするためにもちいることができる。

1932ねん中性子ちゅうせいし発見はっけんにより、原子核げんしかく陽子ようし中性子ちゅうせいしからり、引力いんりょくによって結合けつごうしていることがあきらかになった。1935ねんまでに、中間子ちゅうかんしばれる粒子りゅうしによってかくりょく伝達でんたつされるとかんがえられるようになった。この理論りろんてき発展はってんには、かくポテンシャルの初期しょきれいである湯川ゆかわポテンシャル記述きじゅつふくまれていた。1947ねんに、この予言よげんたすパイ中間子ちゅうかんし実験じっけん発見はっけんされた。1970年代ねんだいまでに、中間子ちゅうかんしかくはクォークとグルーオンから構成こうせいされているとなすクォークモデル開発かいはつされた。 このあたらしいモデルによると、かくりょくは、隣接りんせつするかくあいだでの中間子ちゅうかんし交換こうかんからしょうじるものである。またかくりょく粒子りゅうし相互そうご作用さようであり、かく基礎きそ構造こうぞうたいするつよ相互そうご作用さよう集合しゅうごうてき効果こうかである。

パイ中間子ちゅうかんしかくりょく媒介ばいかいするが、パイ中間子ちゅうかんし素粒子そりゅうしではないため、かくりょく基本きほん相互そうご作用さようではない。

概要がいよう

[編集へんしゅう]
かくりょくとクーロンりょく比較ひかく。a: つよ残留ざんりゅうりょく(かくりょく)。やく2.5fmをえると急速きゅうそく減少げんしょうし、無視むしできる程度ていどになる。b: かく中心ちゅうしんあいだ距離きょりやく0.7fm未満みまんにおいて、かくりょく斥力せきりょくとなる。c: 2つの陽子ようしあいだのクーロン斥力せきりょく。3fmをえると主要しゅようちからとなる。d: 陽子ようこ-陽子ようしあいだ平衡へいこう位置いち。r: かく(3つのクォークからなるくも)の半径はんけいちゅう: 1fm = 10−15 m

通常つうじょうかくりょくかく関連かんれんしているが、より一般いっぱんてきには、このちからハドロン、すなわちクォーク構成こうせいされる粒子りゅうしあいだつたわる。かくあいだ距離きょりちいさい場合ばあい(スピンの状態じょうたいにもよるが、中心ちゅうしんあいだ距離きょりが0.7fm以下いか)、このちから反発はんぱつし、かくをある平均へいきんてき距離きょりたもつ。同一どういつかく(2中性子ちゅうせいしや2陽子ようしなど)の場合ばあい、この斥力せきりょくパウリの排他はいた原理げんりからしょうじる。この斥力せきりょくは、ことなるかく(陽子ようし中性子ちゅうせいし)のおなフレーバーのクォークあいだでもしょうじる。

つよ

[編集へんしゅう]

0.7fm以上いじょう距離きょりでは、スピンがそろったかくあいだちから引力いんりょくとなり、中心ちゅうしんあいだ距離きょりやく0.9fmで最大さいだいになる。この距離きょりえるとちから指数しすう関数かんすうてき減少げんしょうし、やく2.0fmの距離きょりえるとちから無視むしできるほどちいさくなる。かく半径はんけいやく0.8fmである[5]

みじか距離きょり(1.7fm以下いか)においてかくりょくによる引力いんりょくは、陽子ようしあいだ反発はんぱつするクーロンりょくよりもつよく、かくない陽子ようし斥力せきりょくつ。しかし、陽子ようしあいだのクーロンりょくはよりおおきな範囲はんいっており、距離きょりぎゃく二乗にじょうとして変化へんかするため、クーロンりょく陽子ようしあいだ距離きょりやく2~2.5fmをえると唯一ゆいいつ主要しゅようちからとなる。

かくりょくにはスピンに依存いぞんする成分せいぶんがある。スピンがそろっている粒子りゅうし同士どうしほうが、スピンがそろっていない粒子りゅうしよりもかくりょくつよい。もし2つの粒子りゅうしおなじもの、たとえば2つの中性子ちゅうせいしや2つの陽子ようし場合ばあいちから粒子りゅうし結合けつごうさせるのに十分じゅうぶんではない。なぜなら、おな種類しゅるいの2つの粒子りゅうしが(スピンをのぞいて)おな量子りょうし状態じょうたいたがいにちかづく場合ばあい、スピンベクトルは反対はんたい方向ほうこうかなければならないからである。このフェルミ粒子りゅうし要件ようけんは、パウリの排他はいた原理げんり由来ゆらいする。陽子ようし中性子ちゅうせいしといったことなるタイプのフェルミ粒子りゅうし場合ばあい、パウリの排他はいたりつ違反いはんすることなく、粒子りゅうしたがいにちかづきスピンをそろえることができる。かくりょくはスピンがそろった粒子りゅうしほうがはるかにつよいので、かくりょく粒子りゅうしを(この場合ばあいじゅう陽子ようしとして)結合けつごうさせることができる。しかし、たとえ粒子りゅうし種類しゅるいことなっていても、粒子りゅうしのスピンがたがいに反対はんたい方向ほうこうではかくりょくよわすぎて結合けつごうさせることはできない。

かくりょくはまた、かくのスピンとかく運動うんどうりょう相互そうご作用さよう依存いぞんするテンソル成分せいぶんっており、単純たんじゅん球形きゅうけいからの変形へんけいをもたらす。

かく結合けつごう

[編集へんしゅう]

原子核げんしかくを、結合けつごうしていない陽子ようし中性子ちゅうせいし分解ぶんかいするには、かくりょくさからう仕事しごと必要ひつようである。ぎゃく原子核げんしかくが、結合けつごうしていないかく原子核げんしかくからつくられるときには、かく結合けつごうエネルギー(en:Nuclear binding energy)というエネルギーが放出ほうしゅつされる。質量しつりょうとエネルギーの等価とうかせい(すなわちアインシュタインのしきE = mc2)のため、このエネルギーを放出ほうしゅつすると、原子核げんしかく質量しつりょう個々ここかく質量しつりょう合計ごうけいよりもちいさくなり、いわゆる「質量しつりょう欠損けっそん」がしょうじる[6]

かくりょくは、かく中性子ちゅうせいしであるか陽子ようしであるかにほとんど依存いぞんしない。この性質せいしつ荷電かでん独立どくりつせいばれる。かくりょくかくスピン平行へいこうであるかはん平行へいこうであるかに依存いぞんし、中心ちゅうしん成分せいぶんまたはテンソル成分せいぶんつ。軌道きどうかく運動うんどうりょう中心ちゅうしんりょく作用さようでは保存ほぞんされるが、前述ぜんじゅつ成分せいぶん軌道きどうかく運動うんどうりょう保存ほぞんしない。

ヴェルナー・ハイゼンベルクによって提唱ていしょうされたつよちから対称たいしょうせいとは、陽子ようし中性子ちゅうせいし電荷でんか以外いがいのすべてのてん同一どういつであるというものである。中性子ちゅうせいしほうがほんのすこおもいのでこれは完全かんぜんにはただしくないが、ほぼ対称たいしょうである。したがって陽子ようし中性子ちゅうせいしおな粒子りゅうしとみなされるが、アイソスピン量子りょうしすうことなる。慣習かんしゅうとして、陽子ようしはアイソスピン・アップ、中性子ちゅうせいしはアイソスピン・ダウンである。粒子りゅうしあいだほか相互そうご作用さようがスピンのSU(2)変換へんかん不変ふへんであるように、つよちからもSU(2)アイソスピン変換へんかん不変ふへんである。いいかえれば、アイソスピン変換へんかんとスピン変換へんかん両方りょうほうがSU(2)対称たいしょうぐんぐん同型どうけいである(en:Representation theory of SU(2))。相互そうご作用さようしている粒子りゅうしのアイソスピンの合計ごうけいが0であるときのみつよ引力いんりょく存在そんざいし、これは実験じっけんによって確認かくにんされている[7]

中性ちゅうせい仮想かそう粒子りゅうしのパイ中間子ちゅうかんし媒介ばいかいとする、陽子ようこ-中性子ちゅうせいしあいだつよ相互そうご作用さよう簡略かんりゃくされたファインマン・ダイアグラム時間じかんひだりからみぎすすむ。

かくりょく知見ちけんは、粒子りゅうし散乱さんらん実験じっけんかる原子核げんしかく結合けつごうエネルギーからられている。

かくりょくは、仮想かそうパイ中間子ちゅうかんしや、ロー中間子ちゅうかんしオメガ中間子ちゅうかんしといったスピンをつ2種類しゅるい仮想かそう中間子ちゅうかんし(ベクトル中間子ちゅうかんしen:Vector meson)など、仮想かそうかる中間子ちゅうかんし交換こうかんによってしょうじる。ベクトル中間子ちゅうかんしは、この「仮想かそう中間子ちゅうかんし」描像におけるかくりょくのスピン依存いぞんせい説明せつめいする。

かくりょくは、歴史れきしてきよわかくりょくとしてられていたものとはことなる。よわ相互そうご作用さようは4つの基本きほん相互そうご作用さようの1つで、ベータ崩壊ほうかいのようなプロセスで役割やくわりたす。よわちからかく相互そうご作用さようには関与かんよしないが、中性子ちゅうせいしから陽子ようしへの崩壊ほうかいやそのぎゃくには関与かんよする。

歴史れきし

[編集へんしゅう]

かくりょくは、1932ねんジェームズ・チャドウィックによる中性子ちゅうせいし発見はっけんによって原子核げんしかく物理ぶつりがく誕生たんじょうして以来いらいかく物理ぶつりがく中核ちゅうかくになってきた。かく物理ぶつりがく伝統でんとうてき目標もくひょうは、原子核げんしかく性質せいしつを、かくあいだの「はだかの」相互そうご作用さよう、すなわちかく-かくりょく(NNりょく)の観点かんてんから理解りかいすることである。

中性子ちゅうせいし発見はっけんからすうヶ月かげつ以内いないに、ヴェルナー・ハイゼンベルク[8][9][10]ドミトリー・イワネンコ[11]原子核げんしかく陽子ようし-中性子ちゅうせいしモデルを提案ていあんしていた[12]量子力学りょうしりきがく当時とうじまったあきらかではなかったが、ハイゼンベルクは原子核げんしかくない陽子ようし中性子ちゅうせいし記述きじゅつに、量子力学りょうしりきがくとおしてアプローチした。ハイゼンベルクの原子核げんしかくにおける陽子ようし中性子ちゅうせいし理論りろんは、「原子核げんしかく量子力学りょうしりきがくてきなシステムとして理解りかいするためのおおきないち」であった[13]。ハイゼンベルクは、かく結合けつごうする交換こうかんりょく理論りろんはじめて導入どうにゅうした。かれ陽子ようし中性子ちゅうせいしおな粒子りゅうしことなる量子りょうし状態じょうたい、すなわちかくかくアイソスピン量子りょうしすうによって区別くべつされるとかんがえた。

原子核げんしかくもっと初期しょきのモデルの 1 つは、1930 年代ねんだい開発かいはつされたえきしずく模型もけいである。原子核げんしかく性質せいしつとして、かく1個いっこあたりの平均へいきん結合けつごうエネルギーが、安定あんてい原子核げんしかくではすべてほぼおなじであるというものがあり、これは液体えきたいしずくている。えきしずく模型もけいでは、原子核げんしかく圧縮あっしゅくせい流体りゅうたいえきしずくとしてあつかい、かく液体えきたいちゅう分子ぶんしのようにう。このモデルはジョージ・ガモフによって最初さいしょ提案ていあんされ、そのニールス・ボーアヴェルナー・ハイゼンベルクカール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカーによって発展はってんした。このあらいモデルは、原子核げんしかくのすべての性質せいしつ説明せつめいすることはできなかったが、ほとんどの原子核げんしかく球形きゅうけいであることを説明せつめいできた。このモデルは、原子核げんしかく結合けつごうエネルギーについても予測よそくあたえた。

1934ねん湯川ゆかわ秀樹ひできかくりょく性質せいしつ説明せつめいするもっと初期しょきこころみをおこなった。かれ理論りろんによれば、質量しつりょうのあるボース粒子りゅうし(中間子ちゅうかんし)が2つのかくあいだ相互そうご作用さよう媒介ばいかいする。量子りょうししょく力学りきがく(QCD)、ひいては標準ひょうじゅん模型もけいらしわせると、中間子ちゅうかんし理論りろんはもはや基本きほんてきなものとは認識にんしきされていない。しかし、中間子ちゅうかんし交換こうかん概念がいねん(ハドロン素粒子そりゅうしとしてあつかわれる)は、定量ていりょうてきなNNポテンシャルのための最良さいりょう実用じつようモデルでありつづけている。湯川ゆかわポテンシャル(遮蔽しゃへいクーロンポテンシャルともばれる)はつぎのようなポテンシャルである。

ここで、gはスケーリング定数ていすう、すなわちポテンシャルの振幅しんぷくμみゅー湯川ゆかわ粒子りゅうし質量しつりょう、rは粒子りゅうしまでの半径はんけい方向ほうこう距離きょりである。ポテンシャルは単調たんちょう増加ぞうかする、 つまりりょくつね引力いんりょくであることを意味いみする。定数ていすう経験けいけんてき決定けっていされる。湯川ゆかわポテンシャルは粒子りゅうしあいだ距離きょりrにのみ依存いぞんするため、中心ちゅうしんりょくをモデルしている。

イジドール・イザーク・ラービひきいるコロンビア大学ころんびあだいがくのグループは、1930年代ねんだいつうじて原子核げんしかく磁気じきモーメントを測定そくていする磁気じき共鳴きょうめい技術ぎじゅつ開発かいはつした。これらの測定そくていにより、1939ねんじゅう陽子ようしにも電気でんきよんきょくモーメントがあることを発見はっけんするにいたった[14][15]じゅう陽子ようしのこの電気でんきてき性質せいしつは、ラービのグループによる測定そくてい妨害ぼうがいしていた。陽子ようし中性子ちゅうせいしからなるじゅう陽子ようしもっと単純たんじゅん原子核げんしかくけいひとつである。この発見はっけんは、じゅう陽子ようし物理ぶつりてき形状けいじょう対称たいしょうてきでないことを意味いみし、かく結合けつごうするかくりょく性質せいしつについて貴重きちょう洞察どうさつをもたらした。とくにこの結果けっかは、かくりょく中心ちゅうしんりょくではなく、テンソルてき性質せいしつつことをしめした[1]ハンス・ベーテは、じゅう陽子ようし四極よんきょくモーメントの発見はっけんを、初期しょきかく物理ぶつりがくにおける重要じゅうよう出来事できごとのひとつと位置いちづけた[14]

歴史れきしてきても、かくりょく現象げんしょうろんてき記述きじゅつする作業さぎょうごわいものであった。最初さいしょはん経験けいけんてき定量ていりょうモデルは、1950年代ねんだいなかばに登場とうじょうした[1]、Woods-Saxonポテンシャル(1954ねんen:Woods–Saxon potential)などである。1960年代ねんだいと1970年代ねんだいには、かくりょく関連かんれんする実験じっけん理論りろんおおきな進展しんてんがみられた。影響えいきょうりょくのあるモデルの1つが、Reidポテンシャル(1968ねん)である[1]

ここで、、ポテンシャルの単位たんいMeVである。

また、かくりょく詳細しょうさいあつか実験じっけんテーマとして、たとえば以下いかげられる。

かくりょく電荷でんか依存いぞんせいπぱいNN結合けつごう定数ていすう正確せいかく改良かいりょうされた位相いそうシフト解析かいせきこう精度せいどNNデータこう精度せいどNNポテンシャル、なかこうエネルギーでのNN散乱さんらん、QCDからかくりょく導出どうしゅつするこころみなど。

つよ残留ざんりゅうりょくとしてのかくりょく

[編集へんしゅう]
相互そうご作用さようのアニメーション。いろのついた2まるはグルーオン。補色ほしょくこののように、はんあかはシアン、はんみどりはマゼンタ、はんあお黄色おうしょくしめされる(アニメーションの拡大かくだいばん)。
基本きほんてきつよ相互そうご作用さようがどのようにかくりょくすかを説明せつめいするために、うえおな個々ここクォーク構成こうせい要素ようそしめしたもの。直線ちょくせんはクォークで、多色たしょくのループはグルーオン(基本きほんてきちからつたえる粒子りゅうし)である。陽子ようし中性子ちゅうせいし結合けつごうさせるそののグルーオンや、「飛行ひこうちゅう」のパイ中間子ちゅうかんし図示ずしされていない。

かくりょくは、より基本きほんてきつよちからによる、つよ相互そうご作用さよう残留ざんりゅう効果こうかである。つよ相互そうご作用さようとは、クォークばれる素粒子そりゅうしむすびつけてかく(陽子ようし中性子ちゅうせいし)そのものを形成けいせいする引力いんりょくである。自然しぜんかい基本きほん相互そうご作用さようのひとつである、より強力きょうりょくなこのちからは、グルーオンばれる粒子りゅうし媒介ばいかいとしている。グルーオンは、電荷でんか(チャージ)にカラーチャージによってクォーク同士どうしむすびつけているが、そのちからははるかにつよい。クォーク、グルーオン、およびそれらの相互そうご作用さようは、そのほとんどがかくないめられているが、残留ざんりゅうてき影響えいきょうかく境界きょうかいをわずかにえてひろがり、かくりょくしている。

かくあいだ発生はっせいするかくりょくは、化学かがく分野ぶんやではロンドン分散ぶんさんりょくばれる、中性ちゅうせい原子げんし分子ぶんしあいだちから類似るいじしている。ロンドン分散ぶんさんりょくのような原子げんしあいだちからは、原子げんしそのものをつなぎとめる電気でんきてき引力いんりょく(すなわち、電子でんし原子核げんしかく結合けつごうさせる引力いんりょく)よりもはるかによわい。また、中性ちゅうせい原子げんしない電荷でんかちいさな分離ぶんりからしょうじるちからであるため、原子げんしあいだでそれらのちから有効ゆうこう距離きょりみじかい。 同様どうように、かくがほとんどのグルーオンりょくわせのクォークでできている(それらは「いろ中性ちゅうせい」である)にもかかわらず、クォークとグルーオンのわせの一部いちぶは、あるかくからちかくのべつかくへとびる短距離たんきょりかくちからじょうというかたちで、かくからている。これらのかくりょくは、かく内部ないぶ直接的ちょくせつてきなグルーオンによるちから(「いろりょく」またはつよちから)にくらべると非常ひじょうよわい。かくりょくかく直径ちょっけいすうぶんにしかおよばず、距離きょりとおくなるにつれて指数しすう関数かんすうてき減少げんしょうする。それにもかかわらず、かくりょくみじか距離きょり中性子ちゅうせいし陽子ようし結合けつごうさせ、原子核げんしかくない陽子ようしあいだ電気でんきてき反発はんぱつつのに十分じゅうぶんつよい。

QCDからしょうじるつよ相互そうご作用さようたいして、かくりょくつよ残留ざんりゅうりょくばれることがある。この呼称こしょうは、QCDが確立かくりつされつつあった1970年代ねんだいまれた。それ以前いぜんは、つよかくりょくかくあいだポテンシャルをしていた。クォーク模型もけい検証けんしょうつよ相互そうご作用さようはQCDを意味いみするようになった。

かく-かくポテンシャル

[編集へんしゅう]

重水素じゅうすいそ原子げんし原子核げんしかくであるじゅう陽子ようしや、陽子ようこ-陽子ようし散乱さんらん中性子ちゅうせいし-陽子ようし散乱さんらんのような2かくけいは、NNりょく研究けんきゅう理想りそうてきである。このようなけいは、かくにポテンシャル(湯川ゆかわポテンシャルなど)をあてて、そのポテンシャルをシュレーディンガー方程式ほうていしきもちいることで記述きじゅつできる。ポテンシャルのかたち現象げんしょうろんてきに(測定そくていによって)みちびかれるが、長距離ちょうきょり相互そうご作用さようについては中間子ちゅうかんし交換こうかん理論りろんがポテンシャルの構築こうちく役立やくだつ。ポテンシャルのパラメータは、じゅう陽子ようし結合けつごうエネルギーやNN弾性だんせい散乱さんらんだん面積めんせき(この文脈ぶんみゃくでは、いわゆるNN位相いそうシフト)のような実験じっけんデータわせることによって決定けっていされる。

もっとひろ使つかわれているNNポテンシャルは、Parisポテンシャル、Argonne AV18ポテンシャル[16]、CD-Bonnポテンシャル、Nijmegenポテンシャルである。

より最近さいきんのアプローチは、かく-かくおよび、3たいかくりょく矛盾むじゅんなく記述きじゅつするための有効ゆうこうじょう理論りろん開発かいはつすることである。量子りょうしハドロン力学りきがく英語えいごばんかくりょく有効ゆうこうじょう理論りろんであり、いろ相互そうご作用さようのQCDや電磁でんじ相互そうご作用さようQED相当そうとうする。さらに、カイラル対称たいしょうせいやぶ英語えいごばん有効ゆうこうじょう理論りろん(カイラル摂動せつどうろん英語えいごばんばれる)の観点かんてんから解析かいせきすることができ、交換こうかん粒子りゅうしとしてのパイ中間子ちゅうかんしかくあいだ相互そうご作用さよう摂動せつどう計算けいさん可能かのうである。

かくから原子核げんしかく

[編集へんしゅう]

原子核げんしかく物理ぶつりがく究極きゅうきょく目標もくひょうは、かくあいだ基本きほんてき相互そうご作用さようからすべての原子核げんしかく反応はんのう記述きじゅつすることである。これはかく物理ぶつりがく微視的びしてきあるいはだいいち原理げんりてき手法しゅほうばれる。実現じつげんには克服こくふくすべき2つのおおきな障害しょうがいがある。

  • からだ問題もんだい計算けいさんは(粒子りゅうし相互そうご作用さようのために)むずかしく、高度こうど計算けいさん技術ぎじゅつ必要ひつようとする。
  • さん体力たいりょく(そしておそらくより高次こうじ粒子りゅうし相互そうご作用さよう)が重要じゅうよう役割やくわりたしているという証拠しょうこがある。つまり、3たいかくポテンシャルをモデルにふくめる必要ひつようがある。

この分野ぶんやは、かくにおけるから構造こうぞうだいいち原理げんりてき手法しゅほうをよりくするための計算けいさん技術ぎじゅつ進歩しんぽともない、活発かっぱつ研究けんきゅう分野ぶんやとなっている。A=12までの核種かくしゅについて、2かくおよび3かくのポテンシャルが実装じっそうされている。

かくポテンシャル

[編集へんしゅう]

原子核げんしかく相互そうご作用さよう記述きじゅつする効果こうかてき方法ほうほうは、かく構成こうせいするすべての要素ようそ考慮こうりょするわりに、原子核げんしかく全体ぜんたいたいして1つのポテンシャルを構築こうちくすることである。これは巨視的きょしてきアプローチとばれる。たとえば、原子核げんしかくからの中性子ちゅうせいし散乱さんらんは、きょからなる原子核げんしかくのポテンシャルない平面へいめんかんがえることによって記述きじゅつできる。このモデルは、不透明ふとうめいなガラスだまによって散乱さんらんされるひかり場合ばあいているため、しばしば光学こうがくモデルとばれる。

かくポテンシャルには局所きょくしょてき(ローカル)ポテンシャルと大域たいいきてき(グローバル)ポテンシャルがある。局所きょくしょてきポテンシャルは、あつかうエネルギーや原子核げんしかく質量しつりょうせま範囲はんい限定げんていされる。大域たいいきてきポテンシャルは、通常つうじょう精度せいどおとるが、よりおおくのパラメータをち、エネルギーと原子核げんしかく質量しつりょう関数かんすうであるため、より幅広はばひろ用途ようと使用しようできる。

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ a b c d Reid, R. V. (1968). “Local phenomenological nucleon–nucleon potentials”. Annals of Physics 50 (3): 411–448. Bibcode1968AnPhy..50..411R. doi:10.1016/0003-4916(68)90126-7. 
  2. ^ Kenneth S. Krane (1988). Introductory Nuclear Physics. Wiley & Sons. ISBN 0-471-80553-X 
  3. ^ Binding Energy, Mass Defect, Furry Elephant physics educational site, retrieved 2012-07-01.
  4. ^ Chapter 4. NUCLEAR PROCESSES, THE STRONG FORCE, M. Ragheb, 1/30/2013, University of Illinois.
  5. ^ Povh, B.; Rith, K.; Scholz, C.; Zetsche, F. (2002). Particles and Nuclei: An Introduction to the Physical Concepts. Berlin: Springer-Verlag. pp. 73. ISBN 978-3-540-43823-6 
  6. ^ Stern, Dr. Swapnil Nikam (2009ねん2がつ11にち). “Nuclear Binding Energy”. From Stargazers to Starships. NASA website. 2016ねん4がつ9にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2010ねん12月30にち閲覧えつらん
  7. ^ Griffiths, David, Introduction to Elementary Particles
  8. ^ Heisenberg, W. (1932). “Über den Bau der Atomkerne. I” (ドイツ). Z. Phys. 77 (1–2): 1–11. Bibcode1932ZPhy...77....1H. doi:10.1007/BF01342433. 
  9. ^ Heisenberg, W. (1932). “Über den Bau der Atomkerne. II” (ドイツ). Z. Phys. 78 (3–4): 156–164. Bibcode1932ZPhy...78..156H. doi:10.1007/BF01337585. 
  10. ^ Heisenberg, W. (1933). “Über den Bau der Atomkerne. III” (ドイツ). Z. Phys. 80 (9–10): 587–596. Bibcode1933ZPhy...80..587H. doi:10.1007/BF01335696. 
  11. ^ Iwanenko, D. D., The neutron hypothesis, Nature 129 (1932) 798.
  12. ^ Miller A. I. Early Quantum Electrodynamics: A Sourcebook, Cambridge University Press, Cambridge, 1995, ISBN 0521568919, pp. 84–88.
  13. ^ Brown, L. M.; Rechenberg, H. (1996). The Origin of the Concept of Nuclear Forces. Bristol and Philadelphia: Institute of Physics Publishing. ISBN 0750303735. オリジナルの2023-12-30時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20231230135136/https://books.google.com/books?id=IJPTgDTOmgMC&q=heisenberg+proton+neutron+model&pg=PA33#v=snippet&q=heisenberg%20proton%20neutron%20model&f=false 2020ねん10がつ19にち閲覧えつらん 
  14. ^ a b John S. Rigden (1987). Rabi, Scientist and Citizen. New York: Basic Books, Inc.. pp. 99–114. ISBN 9780674004351. オリジナルのDecember 30, 2023時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20231230135203/https://books.google.com/books?id=Qgv9Xjv8_LYC&q=rabi+kellogg+zacharias+magnetic+moment+neutron&pg=PA106#v=snippet&q=rabi%20kellogg%20zacharias%20magnetic%20moment%20neutron&f=false 2015ねん5がつ9にち閲覧えつらん 
  15. ^ Kellogg, J. M.; Rabi, I. I.; Ramsey, N. F.; Zacharias, J. R. (1939). “An electrical quadrupole moment of the deuteron”. Physical Review 55 (3): 318–319. Bibcode1939PhRv...55..318K. doi:10.1103/physrev.55.318. オリジナルのMay 12, 2017時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170512174358/https://journals.aps.org/pr/abstract/10.1103/PhysRev.55.318 2015ねん5がつ9にち閲覧えつらん. 
  16. ^ Wiringa, R. B.; Stoks, V. G. J.; Schiavilla, R. (1995). “Accurate nucleon–nucleon potential with charge-independence breaking”. Physical Review C 51 (1): 38–51. arXiv:nucl-th/9408016. Bibcode1995PhRvC..51...38W. doi:10.1103/PhysRevC.51.38. PMID 9970037. 

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]