核かく燃料ねんりょう

核かく燃料ねんりょう（かくねんりょう、英えい: nuclear fuel）^{[注ちゅう 1]}とは、核分裂かくぶんれつ連鎖れんさ反応はんのうを起おこし、エネルギーを発生はっせいさせるために相当そうとう期間きかん原子げんし炉ろに入いれて使つかうものを言いう^{[注ちゅう 2]}。ウラン233 (²³³U)、ウラン235 (²³⁵U)、プルトニウム239 (²³⁹Pu) などを指さす^{[注ちゅう 3]}。

概要がいよう

ウランやプルトニウムなど、核分裂かくぶんれつ連鎖れんさ反応はんのうを起おこし、エネルギーを発生はっせいさせるために相当そうとう期間きかん原子げんし炉ろに入いれて使つかうものを核かく燃料ねんりょう(nuclear fuel)と呼よぶ。純じゅん金属きんぞく・合金ごうきん・酸化さんか物ぶつ等ひとしの固体こたいとして利用りようするのが一般いっぱん的てきであるが、水溶液すいようえき・溶融ようゆう合金ごうきん・フッ化物ばけもの等ひとしの液体えきたいの状態じょうたいで利用りようする場合ばあいもある。

日本にっぽんにおいては原子力げんしりょく基本きほん法ほう第だい三さん条じょうで「ウラン、トリウム等とう原子げんし核分裂かくぶんれつの過程かていにおいて高こうエネルギーを放出ほうしゅつする物質ぶっしつ」として核かく燃料ねんりょう物質ぶっしつ(nuclear fuel material)という語かたりが定義ていぎされており、天然てんねんウラン、濃縮のうしゅくウラン、劣化れっかウラン^{[注ちゅう 4]}、プルトニウム及およびこれらの化合かごう物ぶつならびにこれらを含ふくむ物質ぶっしつで原子げんし炉ろにおいて燃料ねんりょうとして使用しようできるものを言いう^{[注ちゅう 5]}。ウラン238及およびトリウムは中性子ちゅうせいし照射しょうしゃによってそれぞれ核分裂かくぶんれつ性せいの ²³⁹Pu と ²³³U に変化へんかするので燃料ねんりょう親おや物質ぶっしつと呼よばれるが、広義こうぎには核かく燃料ねんりょう物質ぶっしつに含ふくまれる^[1]。

低てい濃縮のうしゅくウラン核かく燃料ねんりょうの製造せいぞう過程かてい

F1 ウラン鉱石こうせき

F2 ウラン精せい鉱こう（イエローケーキ）

F3 UF₆六ろくフッ化かウラン

F4 燃料ねんりょうペレット

F5 検査けんさ中ちゅうの燃料ねんりょう集合しゅうごう体たい

詳細しょうさいは「天然てんねんウラン」および「ウラン濃縮のうしゅく」を参照さんしょう

ウランは地球ちきゅう上じょうの地殻ちかくや海水かいすい中ちゅうに広ひろく分布ぶんぷしており土壌どじょうには平均へいきん2-4ppm（おもな分布ぶんぷ範囲はんいは0.7-11ppmで、農地のうちではリン酸さん系けい化学かがく肥料ひりょうの使用しようにより最大さいだい15ppm）、海水かいすい中ちゅうには0.003ppm含ふくまれると推定すいていされており、その総量そうりょうは銀ぎんの40倍ばい、スズと同どう量りょうにおよぶ。その内うち、確かく認可にんか採と埋蔵まいぞう量りょうは547万まんトンで可か採と年数ねんすうは60-80年ねんと推定すいていされている（資源エネルギしげんえねるぎー庁ちょうが2007年ねん時点じてんでキロあたり130USドルの採掘さいくつコストを想定そうていして行いった試算しさんによる。2007年度ねんどのウランの世界せかい需要じゅようは約やく7万まんトン、2010年度ねんどのウランの平均へいきんスポット価格かかくは44ドルであった）。鉱床こうしょうのある主おもな資源しげん国こくはオーストラリア、カザフスタン、ロシア、南みなみアフリカ、カナダ、アメリカ、ナミビア、ブラジルなどで、石油せきゆのように極端きょくたんな資源しげんの偏在へんざい性せいはない^[2]。

採鉱さいこう (Mining)

ウラン鉱床こうしょうは露天ろてんおよび地中ちちゅうにあり他ほかの鉱物こうぶつと同様どうように採掘さいくつされる。インシチュリーチング（ISL: In-situ leaching、その場ば浸出しんしゅつ)という、鉱石こうせきを採掘さいくつすることなく、鉱床こうしょう中ちゅうに酸さん又またはアルカリ溶液ようえきを直接ちょくせつ注入ちゅうにゅうしてウランなどを溶液ようえき中ちゅうに溶とかし出だすことにより回収かいしゅうする方法ほうほう^[3]も実用じつよう化かされている。

精錬せいれん (Milling)

採掘さいくつされたウラン鉱石こうせきは粗製そせい錬ね工場こうじょうで粉砕ふんさい・選鉱せんこうされウラン含有がんゆう率りつを60-75%ぐらいまで高たかめられる。この粉こな体たいをウラン精せい鉱こう（イエローケーキ）と呼よび八はち酸化さんか三さんウラン (U₃O₈) の含有がんゆう量りょうで値ね決ぎめされる。イエローケーキはドラム缶どらむかんに詰つめられて転換てんかん工場こうじょうへ出荷しゅっかされる。

転換てんかん (Uranium conversion)

イエローケーキは転換てんかん工場こうじょうで処理しょりされ六ろくフッ化かウラン (UF₆) に転換てんかんされる。これは48Yシリンダー（直径ちょっけい約やく1.4m、長ながさ約やく3.8mの鋼はがね製せい円筒えんとう容器ようき）と呼よばれる輸送ゆそう容器ようきに封入ふうにゅうされて濃縮のうしゅく工場こうじょうに出荷しゅっかされる。

濃縮のうしゅく (Enrichment)

六ろくフッ化かウラン (UF₆) は濃縮のうしゅく工場こうじょうに送おくられ、ウラン235の比率ひりつ（濃縮のうしゅく度ど）を0.7%から3-4%に高たかめる濃縮のうしゅくが行おこなわれる。濃縮のうしゅく工程こうていでは大半たいはん (96%) は副産物ふくさんぶつの劣化れっかウランとなる。アメリカには47万まんトンの劣化れっかウランがある^[4]。

燃料ねんりょう集合しゅうごう体たいへの加工かこう (Fabrication)

六ろくフッ化かウラン (UF₆) は燃料ねんりょう加工かこう工場こうじょうにて二酸化にさんかウラン (UO₂) の燃料ねんりょうペレットに加工かこうされ、燃料ねんりょう被覆ひふく管かんに納おさめられて燃料ねんりょう棒ぼうとなる。これを多数たすう束たばねたものが燃料ねんりょう集合しゅうごう体たいである。

核かく燃料ねんりょうをめぐる事件じけん

1979年ねん、アメリカテネシー州しゅうアーウィンにある核かく燃料ねんりょうサービス社しゃの核かく燃料ねんりょう工場こうじょうにて、核兵器かくへいきに転用てんよう可能かのうなウラン9kgが紛失ふんしつしていることが発覚はっかく。さらにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく原子力げんしりょく規制きせい委員いいん会かいが調査ちょうさに入はいったところ、1968年ねん以来いらい110kgの高こう濃縮のうしゅくウランが紛失ふんしつしていることも判明はんめいした。最終さいしゅう的てきに紛失ふんしつしたウランの多おおくは工場こうじょう内ないで気化きかして大気たいき中ちゅうに拡散かくさんしたと判断はんだんされた^[5]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 原子げんし燃料ねんりょうとも呼よばれる。
^ 核分裂かくぶんれつ性せい物質ぶっしつと同義語どうぎごに使つかわれることもある。
用語ようご辞典じてん(1974) p.50 『核かく燃料ねんりょう』
^ 現在げんざいの技術ぎじゅつではまだ実用じつよう化かされてはいないが、軽かるい核種かくしゅを高速こうそくで衝突しょうとつさせることにより融合ゆうごうさせることでその質量しつりょうエネルギーを利用りようする核かく融合ゆうごうも未来みらいのエネルギー源げんとして期待きたいされており、その燃料ねんりょうである二に重水素じゅうすいそ及および三さん重水素じゅうすいそも広義こうぎの核かく燃料ねんりょうと言いえる。
^ 天然てんねんウランよりもウラン235の含有がんゆう率りつが低ひくいものを指さす。英語えいごではdepleted uraniumと言いうが、日本語にほんごでは使用しよう済ずみ核かく燃料ねんりょうなど核分裂かくぶんれつによってウラン235が消費しょうひされた結果けっかとして生しょうずるものを「減損げんそんウラン」、核かく燃料ねんりょう製造せいぞう時じの濃縮のうしゅくの副産物ふくさんぶつとして生しょうずるものを「劣化れっかウラン」と呼よび、用語ようご・訳語やくごを区別くべつしている。発電はつでん工学こうがく(2003) p.301、用語ようご辞典じてん(1974) p.117 『減損げんそんウラン』、p.354 『劣化れっかウラン』
^
詳くわしくは核かく燃料ねんりょう物質ぶっしつ、核かく原料げんりょう物質ぶっしつ、原子げんし炉ろ及および放射線ほうしゃせんの定義ていぎに関かんする政令せいれい第だい1条じょうにおいて、次つぎに掲かかげる物質ぶっしつが核かく燃料ねんりょう物質ぶっしつとされている。
1. ウラン235のウラン238に対たいする比率ひりつが天然てんねんの混合こんごう率りつであるウラン及およびその化合かごう物ぶつ( = 天然てんねんウラン)
2. ウラン235のウラン238に対たいする比率ひりつが天然てんねんの混合こんごう率りつに達たっしないウラン及およびその化合かごう物ぶつ (= 劣化れっかウラン)
3. トリウム及およびその化合かごう物ぶつ
4. 前ぜん三さん号ごうの物質ぶっしつの一いち又または2以上いじょうを含ふくむ物質ぶっしつで原子げんし炉ろにおいて燃料ねんりょうとして使用しようできるもの
5. ウラン235のウラン238に対たいする比率ひりつが天然てんねんの混合こんごう率りつをこえるウラン及およびその化合かごう物ぶつ (= 濃縮のうしゅくウラン)
6. プルトニウム及およびその化合かごう物ぶつ
7. ウラン233及およびその化合かごう物ぶつ
8. 前ぜん三さん号ごうの物質ぶっしつの1又または2以上いじょうを含ふくむ物質ぶっしつ

出典しゅってん

^ 用語ようご辞典じてん(1974) p.51 『核かく燃料ねんりょう物質ぶっしつ』
^ “ウラン資源しげんとその需給じゅきゅうについて” (PDF). 独どく⽴⾏政せい法ほう⼈⽯油ゆ天然てんねんガス・⾦属鉱物こうぶつ資源しげん機構きこう. 2020年ねん1月がつ23日にち閲覧えつらん。
^ JIS Z 4001:1999 原子力げんしりょく用語ようご 60012
^ “How much depleted uranium hexafluoride is stored in the United States?”. 米国べいこくエネルギえねるぎー庁ちょう. 2011年ねん8月がつ22日にち閲覧えつらん。
^ “ヒロシマの記録きろく１９７９　９月くがつ”. 広島ひろしま平和へいわメディアセンター (2008年ねん). 2021年ねん10月がつ18日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん

吉川よしかわ榮和えいわ、垣本かきもと直人なおと、八尾やお健けん『発電はつでん工学こうがく』(社しゃ)電気でんき学会がっかい〈電気でんき学会がっかい大学だいがく講座こうざ〉、2003年ねん。
原子力げんしりょく用語ようご研究けんきゅう会かい編へん編へん『図解ずかい原子力げんしりょく用語ようご辞典じてん』（新版しんぱん）日刊工業新聞社にっかんこうぎょうしんぶんしゃ、1974年ねん。

典拠てんきょ管理かんりデータベース
国立こくりつ図書館としょかん	ドイツイスラエルアメリカ日本にっぽんチェコ
その他た	公文書こうぶんしょ館かん（アメリカ）